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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
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04 謁見2

 

「「「「「はあ?」」」」」


 フェルトのその意見にヘイヴンのみ、フレンドらしいと鼻で笑い、他の面々はあまりの発言に呆気に取られている。


「な、何を言い出すだ! 貴様!」


 さすがに大臣がキレた。

 確かに国王陛下に対し、礼は金でなんて言えば、無礼にもほどがあるだろう。


 だがそれをオルディバルやフェルマが止める。


「まあまあ大臣。彼には彼なりの理由があるさ」


「その通りだとも。落ち着きなさい」


「……」


「しかしフレンド。君だってわかっているだろう? いくらなんでもそんな礼は直接的過ぎる」


「そうだぞ、リーウェン君! 君はバカか!」


 そんな非難も浴びる中、フェルトは更に大臣を逆撫でするような理由を口にする。


「いや、だって考えるのが面倒くさい」


「き、貴様……!」


 更にオルディバルとフェルマは、まあまあまあと抑えると、理由を尋ねられる。


「な、何か理由があるのだろ?」


「ええ、まあ。陛下もご存知だと思いますが、ファバルス王国を助けた時に、向こうの国王陛下からも礼をさせて欲しいと言われたんです。その時でも相当悩んだのに、その数日後に自国の国王に同じことを聞かれれば、答えを出すのが面倒くさくなりませんか?」


「……た、確かに」


 本来、礼を面倒くさがるということ自体がおかしい話なのだが、それは一般的なものならばである。

 国のトップから連日、礼をさせて欲しいは、一般的な平民であるフェルトからすれば、中々萎縮するようなお話だったりする。


 ならばとオルディバルが納得する金額を提示してもらったほうが楽だと、フェルトは考えたのだ。


「さすがに申し出までは断りません。そちらにもメンツがありますでしょうし。でも貴族になったり、変に気を遣った礼をされても困るので、バサッと解決できそうな……金で!」


 そうキリッとフェルトが言い放つと、オルディバルは少し呆れたため息を吐くが、


「あい、わかった。向こうでもひと揉めあったようだし、あまり煩わせるのもこちらの本意ではない。こちらから謝礼に見合う金額を――」


 フェルトの意図を汲んだ発言をしてくれたのだが、


「あっ……」


 フェルトはお金の話をした時、ふと頭に過った。


「あー……すみません、陛下。やっぱりひとついいですか?」


「!」


 申し訳なさそうに手を上げるフェルトに、大臣は図々しいと怒るが、


「何だ? 言ってみなさい」


 オルディバルは気にすることなく、フェルトの意見を聞く姿勢を取ってくれた。


「俺の出身地はわかってますよね?」


 オルディバルはエメローラの安全のため、学園の生徒の情報はあらまし知っているはず。


「うむ。ヴァース村であろう。……人喰いの件ではすまなかったね」


 こちらも反省するよう、謝罪の言葉を口にするが、フェルト自身、そこはしなくても良いと思っているのでスルーする。


「そこで破壊された教会を覚えていますか?」


「ああ。以前、人喰いの犠牲者を追悼しに現地へ行った時、驚いた。あれほど立派な教会が簡易的なものに変わっていたからな」


 この発言から、以前の教会の姿も知っているようだ。


「だからこそ、更に驚いた。人喰いの脅威が知れるというもの……」


 巨大な教会が一日で破壊されたと、おそらくディアンから報告されているのだろう。


「その教会を修繕……というより、元の教会を立て直せますか?」


「!」


 ヴァース村に簡易的な教会を建てられた理由は、単純に聖女の巡礼を行なうということが大前提ではあったのだが、前のような立派な教会にできなかった理由もまた、至極単純な理由だったりする。


 それはお金がなかったのだ。


「それは勿論、可能だ。確かアレの設計図もあるはずだろう。……どうだ?」


 オルディバルは大臣にそうを尋ねると、大臣は調べてみますと一礼すると、部屋を後にした。

 最初はいい顔をしなかった大臣だったが、そういうことならと、少し納得した表情をしていた。


「しかし良いのか? 下手に元に戻し、村の者達が人喰いのことを思い出すのではないか?」


「勿論、俺の独断で決められることじゃないんで、村長にも聞いた上でですが……」


 確かにあの事件で沢山の犠牲者が出た。

 家族を失った人も少なからずおり、心の傷(トラウマ)を抱えた者もいるだろう。

 フェルトも、マルコ神父のことを思えば、そこに該当もするのだが、


「……あの慰霊碑に書かれた人達は、ヴァース村を守るため、そしてそこに生きる人達のために戦ってくれました。未来のために戦って、死んでいった人達のためにも俺は、俺達が……俯き、立ち止まっている場合じゃないと思うんです」


「うむ」


「俺達が未来を見て生きてるんだという象徴に、もう一度、あの教会を建ててほしいんです。天国(そら)から見てもわかるように……」


 自分達が前を向くための都合の良い解釈と捉えられるかもしれない。

 けれど、人はそんなに強い生き物ではない。

 何かに縋り、頼って、助け合い生きていく生き物であると、フェルトは思う。


 だからこそ、そのための象徴として、きっとあの教会は聖女の巡礼を行なうため以上の役割を果たす。


 絶望の象徴から希望の象徴にきっと変わる。


「うむ、わかった。村長は勿論、村人達の意見も介したのち、建て直し等を検討しよう」


「ありがとうございます」


 そう一礼し、俺への報酬の件は終わったかのように思えたが、


「ならばあとの残りを君に報酬金として渡すこととしよう。ご両親に預けた方が良いかな?」


「えっ? えっ、えっとぉー……は、はい」


 フェルトは教会建てるだけでも、かなりの金額がかかると思っていただけに、その返答に困惑しつつも返事をした。


 一体、いくらくらい支払うつもりだったんだろうと、フェルトは少しヒヤッとした。


「さて、他のふたりにも何かせねばな」


 この言い方から、やはりこの年齢の平民出身者、特に個人に対する報酬となると、国王陛下側からしても検討がつかないようだ。


 だがそんなひとりであるユーザが疑問を口にする。


「あれ? ケルベルトさんは?」


 その疑問はヘイヴン本人が答えた。


「僕は国王陛下に尽くす貴族の一族さ。栄誉のお言葉だけでも誉れというものさ」


「は、はあ……」


「要するには国王陛下に恩を作ったってことだ」


「フ、フレンド。その言い方には悪意を感じるよ」


 そんなことはフェルトも承知だった。

 要するには、国王陛下に仕える貴族として当然の行動をしたまでであり、信頼を勝ち得、最終的には一族の繁栄に繋がるということだろう。


 だからフェルトの言っていることもあながち間違いではないが、ヘイヴンの言い方ではあくまで忠義を尽くしたということだろう。


 ユーザはヘイヴンに対することに、まあ納得といった表情を浮かべると、もうひとりについても尋ねる。


「ガルマはどうなんだ?」


「お、おい!」


「「「「「……」」」」」


 グエルのみがユーザを制止し、他の面々は無言になった。


 フェルトやヘイヴンは、分かり切っていることだろうと、少し呆れ気味の表情を浮かべ、オルディバル達は少し俯いてみせた。

 特に、その親であるフェルマはかなり落ち込んだ表情をしている。


 するとオルディバルがその質問に答える。


「君らも事情はわかっているだろう。たとえ、彼らが助けに行き、無事連れ戻した事実があったとしても、今回、娘が攫われてしまったことも事実。その責任は取らねばならない」


「責任……」


「ユーザ。救出に行く前から言ってたろ? 姫殿下を攫われてしまった責任は取らなくちゃならないって……」


「で、でも助けに行っただろ? ガルマ無しじゃ、助けられなかっただろ?」


「それもそうだが……」


 ユーザはどうしても、そのあたりの話を認めたくないようだ。

 一緒に助けに行き、ちゃんと護衛騎士の役割も果たしただろうと、納得がいかないようだ。


「ユーザ・カルケット……」


「!」


「君の言いたいことも理解はできる。ガルマ・ヴォルノーチェは我が娘が攫われてしまったからこそ、護衛騎士としての役割を果たすため、死力を尽くしたからこそ、厳罰は無くてもよいのではないかということくらいな……」


「で、でしたら――」


「だがな、それを許してしまうと、また同じ過ちを繰り返すかもしれぬ。一度は免れた、二度目も大丈夫だろうと過信が生まれるかもしれぬ。それにこの国において、我が娘エメローラはただの娘ではない。この国において重要な人物であるからこそ、それを守る役目を成せなかったことに対し、その責任を負わせることは、他の者に対しても示さねばならぬことなのだ」


 一度は攫われたが、救ったから問題ないだろうで片付く話ではないということだ。

 そんな言い訳が許されてしまうと、多方面から非難を浴びることになるだろう。


「そ、そんな……」


 報酬を渡そうという相談の席にガルマがいないのは、そういうことなのだろう。


「では付かぬことをお伺いするのですが、ガルマにはどんな罰を?」


 話題に上がっているうちに聞いておこうと思ったフェルトは、思い切って聞いてみることにした。


「……護衛騎士の解任だ」


「「!」」


「へ?」


 ユーザは意外だと拍子抜けした声をあげると、ホッとした様子を見せる。


「な、何だ。びっくりした。そ、それくらいなら大したことじゃないな」


「「「……」」」


 そう言うユーザだが、フェルト達の反応は違うものだった。


「あ、あれ?」


 結構、重い罰だったのかと彷彿とさせる沈黙が広がった。


「ユーザ。国王陛下の前で言うことじゃないだろうが、一応言っておくぞ。俺達平民と違って、貴族ってのは国のために尽くす役割を持つがために、周りの評価ってのは結構重要視されるもんだ」


「お、おう」


「当初、ガルマ達が姫殿下の護衛騎士に任命された際も、周りの評価や反応は様々なもんだろう。ヴォルノーチェ家を高く評価した者、妬んだ者、そして当人達自身も自分達が評価されたことに対し、俺達でいう、もっと頑張ろうって気持ちになったと思う。わかるな?」


「おう。わかる」


「だがそれを裏切るようなかたちになった。いくら笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテインメント)が全面的に悪いとはいえ、攫われたという『結果』がある以上、ヴォルノーチェ家の信頼はそこで失われたってことになる。そして、その結果と責任を負わせるため、それを明るみにするかたちとして解任としたわけ」


「そ、それで何でそんな深刻な顔すんだよ?」


「まだわからないのかい? カルケット君。リーウェン君が言いたいのは、国王陛下自らがヴォルノーチェ家を……」


 その先を言うべきかどうかをグエルは、その当人達の前で踏みとどまった。

 何せ、国王陛下オルディバルとガルマの父であり、ヴォルノーチェ家の当主が目の前にいるのだから。


 ただ、フェルトの話を無言で聞いているところを見ると、大丈夫な気がしたフェルトは、


「見限ったってことだ。それが周りの貴族達の評価にも繋がり、実質的にヴォルノーチェ家の貴族としての立場が弱くなったってことだ」


「リ、リーウェン君!?」


「ここまで話して何も言ってこないなら、大丈夫だろ? そうですよね?」


 フェルトがそう尋ねると、オルディバルは無言で頷いた。


「つ、つまり国王陛下や他の貴族からの信頼を失ったってことか? それを公にされたってことか?」


「まあ、そうなる」


「ひ、酷い! ガルマは別にそんなつもりで……」


 ユーザがガルマを庇い立てするようだが、それをオルディバルは制止する。


「ユーザ・カルケット。皆まで言わずともわかる。私だって人の子だ。その感情はわかる」


「だったら――」


「だが私はこの国の王であり、エメローラはその娘。その身を預かるならば、それを守る者はそれだけの責任を負う代わりに、我々からの信頼の象徴ともなる。それを攫われるという『結果』が我らから見れば裏切られると捉えられても仕方のないことなのだ。感情の問題ではない」


「……」


 納得のいかないユーザに、フェルトがフォローに入る。


「だけどユーザ。俺達と共に来なかったら、ガルマはおそらくもっと酷い罰を受けてたはずだ。それこそ、お前が想像してたみたいな、な」


 おそらくユーザは、死罪みたいなことを想定したはずだ。

 実際、攫われて戻ってこなかったことを考えると、それはごく自然に想像できるものだった。


「だけど陛下はちゃんと助けに行き、無事取り戻してくれたことを評価し、あくまで解任だけってかたちを取ったんだろ?」


「そ、そうなんですか?」


 オルディバルはこれも無言で頷いた。

 感情だけの問題ではないと言っただけで、別に感情を評価しないとは言っていない。


「それにガルマの父ちゃんがここにいるのもおかしいって話になるだろ?」


「へ?」


「……さすがはファバルス王国を救った知略の持ち主。そこまで頭が回るとは……。どうりでウチの息子が手玉に取られるわけだ」


「いやいや。ヘヴンの奴だって気付いてますよ。な?」


「まあね」


 どういうことだとユーザだけでなく、グエルも不思議そうにフェルトとヘイヴンを見る。


「ガルマ達にのみ責任を取らせるって変だと思わないか? その父ちゃんにだって責任を取らせるなら、騎士団長なんて辞めさせられてる。だろ?」


「「あっ」」


「そ。ちゃんと陛下はガルマのことを評価してるよ。命懸けでエメローラ姫殿下を助けたことに。だからその名誉挽回にガルマの父であるフェルマさんは、騎士団長としてまだまだコキ使ってやるぞってことなんでしょ? 信頼を取り戻せってな」


「ま、そういうこった」


「そしてガルマ達自身にも敢えて、解任というかたちで追いやり、しっかり反省させたのちに成長を促そうとしたってのが、陛下の考えではありませんかね?」


 するとオルディバルは、やれやれと深いため息を吐いた。


「そこまで考えを見抜かれると、少し気持ちが悪いな。だがその通りだ」


 気持ち悪いとは中々酷い評価だと、それには納得いかないフェルト。


「ユーザ・カルケット。何事にも責任というものはついてくるものだ。君とて大人になれば、自身の行動に責任がついてくる。そのような枷をつけるのは、その行動ひとつで沢山の人達が関係してしまうからだ。……君達とて、それはわかっているだろう」


「えっとぉ……」


 悩むユーザに、フェルトがこずく。


「俺達が大人に何も言わず、飛び出したことが迷惑になったろ?」


「あっ!」


 オルディバルはくすっと笑った。


「そういうことだ。人は誰かしらに迷惑をかけ、生きていく生き物だ。もうそれ自体はどうしようもない。人はひとりでは生きていけないからね。だが、立場を与えられるならば、それに見合った働きと責任を持たねばならない。今回のことはそういうことだよ」


「で、それを無責任な使い方、または立場を勘違いしてる奴が、俺達のことを平民と吐き捨てたチェンナみたいな奴ってことだよ」


「な、なるほど」


「ああ、ならないよう、罰は与えられるべきだってこと。だから陛下に置かれましても、そう言った貴族達を少しは何とかして欲しいものです。立場を振われる平民としては、ね」


 そう皮肉を交えて語ると、オルディバルは都合が悪いのか、「ん、んんっ!」と咳き込んだ。


「な、中々手痛い指摘だ」


「わかってますよ。貴族ってひとことに言っても、人数もいますし、色々しがらみもあるんでしょ?」


「……ほ、本当に君は物分かりが良くて助かるな」


 そう言ってオルディバルは、掠れた笑みを零す。


「まあとにかく、ガルマにはまだ挽回のチャンスを与えられてるってことだ。しばらくは風当たりも悪いだろうが、そこは友達である俺達が支えてやろうぜ」


「……! お、おう!」


 するとフェルマが頭を下げた。


「そう言ってもらえると嬉しい。あんな未熟者だが、どうか仲良くしてやってほしい」


「わ、わかりましたから、頭は上げて……」


 ガルマの話はここまでに、オルディバルは再び尋ねる。


「話が逸れたな。では改めて……ユーザ・カルケット、グエル・キーエンス。君らの望む報酬は何だ?」


 悩むユーザだが、グエルの様子が少しおかしい。

 だが、そんなことは気にしないユーザが、バッと手を上げた瞬間、フェルトは、


「ガルマのことはダメだぞ」


 ユーザに釘を刺した。


「わ、わかってるよ。俺もさすがにそこまで馬鹿じゃない」


 そう言うユーザだったが、


「えっと俺もフェルトと同じ、お金で――」


 どうやら馬鹿だったとフェルトが呆れた瞬間、


「やっぱり馬鹿じゃないか! 君は!」


「ぶげっ!?」


 ツッコミの達人、グエルからの鋭いツッコミが入る。

 そんな馬鹿な発言ができないようにするためか、頭を掴み、そのまま地面に叩き伏せた。


「その要求が許されてたのは、フェルトが一番活躍したからだ! 僕らがそんなもの、通用するわけないだろ! というか本当に失礼だ!」


 周りがその様子に苦笑いを浮かべる中、グエルはユーザを伏せたまま報酬について語る。


「陛下。誠に有難いお話ではありますが、その報酬の件については、わたくしはご辞退申し上げます」


「「!?」」


「ほう。私にその責を真っ当させぬと?」


「そのようなつもりはありません。ケルベルト殿同様、礼のお言葉だけで十分だったということであります」


 フェルトは、随分と謙虚だなと思った。

 平民出であるグエルからすれば、オルディバルからの報酬次第では、将来も確約できるのではないかと思ったからだ。


「……そんなことはないと、私は思うがな。君らも娘のために命を尽くしてくれた。それに報いさせて欲しいのだがな」


「……」


 するとグエルは本心を語り出す。


「僕……い、いえ、わたくしは今回の件で知りました。わたくしはまだまだ未熟なのだと……」


「!」


「飛空艇の時も、砂漠の国を行く際も、常に最前に居たのは、ここにいるリーウェン君とケルベルトさんです。わたくしは彼らの指示の元に動いたに過ぎません」


 フェルトはかなり過小評価するものだと、フォローに入る。


「そんなことないだろ? 魔法使いであるお前がいなかったら、姫殿下達を助かることはできなかったと思うぜ」


「フレンドの言う通りさ。現に僕は君が目覚ましい活躍をしていたのを見ているよ」


 確かにヘイヴンは救出組として一緒に行動していたため、その活躍は見ていただろう。


 フェルト達のフォローに対し、ふるふると首を横に振った。


「でもその作戦とか指示をしていたのは君達だ。それにふたりがあの幹部達を抑えていた時、僕は安心したんだ……」


「「……?」」


 それは別に普通じゃないかと、フェルトとヘイヴンがお互いに見合った。

 ふたりにとっては、それは適材適所だと思ったからだ。


「君達ふたりならやれるという安心感と、自分がその役割を担わなくていいという安心感があったんだ」


「! あー……」


 フェルトは察した。


「カルケット君がアーディルという幹部にやられていた時、怖かった。助けねばならないと頭ではわかっていても、かなりすくんでいた。だからこそ、彼を助けに行ったケルベルトさんを見た時、安心してしまったんだ。それがとても情けない……」


「別にそんなことは……」


 女心はわかる割に、男心は何故か読めないヘイヴンにフェルトは止める。


「要するには同世代の男として情けなかったって言いたいんだろ?」


 フェルトも同じ立場なら、確かに情けなくなるかもしれないと思った。

 同じ歳の同じ男が、勇敢に立ち向かっていく反面、自分はすくんでいたという自覚は確かにそう感じるかもしれない。


「だがね、キーエンス君。それは適材適所というやつさ。フレンドはともかく、僕は貴族であるが故に特別な教育も受けている。そこまで悲観することじゃないさ」


 その意見には王族であるオルディバルも諭す。


「その通りだともグエル・キーエンス。むしろ君ほどの歳でブラックギルドに立ち向かったというだけでも十分だ」


「陛下、お言葉ですが、僕はこの救出の話、一番最後まで渋っておりました。とてもじゃありませんが、同じ評価を受ける立場にはありません」


 確かにグエルは、ユーザに急かされるかたちで決断していた。

 そういう意味でも後ろ暗いのだろう。


 そして、顔を伏せられているユーザにまで、その卑屈さが移ったようで、


「そ、そうだよな。俺だって、フェルト達がいたから無茶できてたんだよな。実際はあのアーディルって奴に手も足も出なかった……」


「お、おいおい……」


 ユーザまで悲観的になってしまった。


「陛下! 俺、本当に馬鹿でした! 俺もそんな報酬を頂く権利なんてありません!」


「おーい、君らぁー。陛下の好意を無下にするなって」


 フェルトがそう呼びかけるが、ふたりは昂っているせいもあって、かなり否定的な意見が飛ぶ。


「だって! 砂漠の時だって、フェルトがスゲー気を遣ってくれたからだし、俺達だけじゃ、水の管理とかできねーって!」


「そうだ。リーウェン君達は、僕達も居てくれたおかげと言ってくれたが、実際は本当にそうなのだろうかと考えさせられる時がある。少なくともあの旅の間は、少しでも足を引っ張らないよう、必死だったと思う」


 もう少し自信を持つべきだろうと思うフェルト。

 フェルトにおいては努力もしているとはいえ、『強欲の義眼』を使っており、更には前世の記憶もある。

 どうしても、そう言われると過剰評価されているように聞こえる。


「まあ確かに、フレンドは些か出来過ぎる気もしますが……」


「うるせー。お前の胡散臭さに比べればマシだ」


 ヘイヴンは多少なりとも『強欲の義眼』の真実に近付いているだけに皮肉を口にする。


「陛下。わたくしは思い知りました。ブラックギルドと遭遇し、他国へと赴き、その世界の広さを……。そして自分がどれだけ未熟なのかと……」


「うむ」


「それを知る良い機会を得たと考えれば、報酬など必要ありません。今回の件でそれを与えられるは、やはりリーウェン君やケルベルトさんでしょう」


「だな。俺も馬鹿だったぜ」


 ここまで言い切られてしまうとオルディバルも、納得するしかないようで、


「……わかった。そこまで言うならこちらも無理強いはしない。だが、君らに恩義があることも事実。ユーザ・カルケット、グエル・キーエンス。君らの名、確かに覚えておこう」


「「……! あ、ありがとうございます!!」」


 だが平民でありながら、国王陛下に名を覚えてもらえるというのは、それはそれで良い報酬になったのではないかと、フェルトは微笑んだ。


「さて、こちらから言えたことではないが、もし、今回のようなことがあれば、相談してほしい。そのあたりの頭がキレそうなふたりは特にな」


 やはりそこの注意はされてしまった。


「はい、陛下」

「は、はい」


「では話はここまでとしたいところだが、折角の機会だ、フェルト・リーウェン、ユーザ・カルケット、グエル・キーエンス。……何か話したいことでもあれば聞こう」


 確かにヘイヴンはともかく、平民出のフェルト達が国王陛下と密談するような機会は、そう訪れることはないだろう。

 オルディバルも折角なら、民の話を直接聞きたいのだろう。


「え、えっとぉ……」


 だが急に言われてもユーザもグエルも出てくるはずはなかったのだが、


「なら、俺からいいですか?」


「君からか。君は中々手厳しいからな。お手柔らかに頼むよ」


 フェルトは騎士達を出し抜き、助け出しにいった手間、中々過剰な評価を受けているようだ。


「そんな無礼なことは言いませんよ。少しお願いがあるだけです」


「貴様、まだ何かあるのか? 最初は金だのと無礼を働いたくせに……」


 大臣の言うことは尤もだ。

 最初こそ面倒だからと、金で解決しようとした割に、後でほいほいと要求するのは、無礼かつ図々しいだろう。

 だがオルディバルが言ってみよと言っているのだから、お構いはしない。


 それをわかっていてか、オルディバルは大臣をまたまた宥めながらも、フェルトに申してみよと尋ねる。


「……あの、聖女の件、どうにかなりませんか?」


「「「!」」」


 フェルトがそれを口にした途端、オルディバル達は少し困った表情を見せた。

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