03 謁見1
フェルト達はギルヴァートの案内の元、学園長室へと呼ばれた。
――キュリア・マーディガン学園長先生。
入学式の際にフェルト達はご尊顔ではあるが、実際に会うのは初めてだ。
普通に学校に通ってたら、校長先生とかに会っても挨拶くらいだろう。
「し、失礼しまーす」
学園長室に入ると、真っ直ぐ目の前の机にニコニコした顔でキュリアは待機していた。
入学式の際に受けた第一印象でも思ったが、やはり若い。
そんな糸目の若い男性キュリアは、
「さあ、僕の前までおいで」
と言われたので、フェルトは言われるがまま、キュリアの前に。
ギルヴァートはキュリアの後ろへと移動した。
「さてさて……」
キュリアは何やら書類に軽く目を通した。
フェルト達の入学の際に提出した書類か何かだろうか。
「グエル・キーエンス君に、ユーザ・カルケット君。そして……フェルト・リーウェン君か……」
「は、はい」
「うん! 良く無事に戻ってきたな。色々言いたいことはあるが、とりあえず良くやってくれた。生徒達を救ってくれて、そして姫殿下を救ってくれてありがとう。君達のおかげで僕の首もどうやら繋がっていられるよ」
攫われた責任として、確かにこの学校のトップが責任を取るかは当然のことだろう。
いくら救われたとはいえ、責任ゼロというわけにはいかないだろうが、王宮側も非がある以上、あまり強くは出てこないだろう。
この学園長、運がいい。
「とはいえ、あまり褒められないところもある。君ら、僕らが言いたいことは分かるかな?」
後ろで物凄いオーラで睨んでくるギルヴァートを見れば納得もする。
もうひとりの隣りにいる女先生は苦笑いだ。
「そ、それはもう十分に……」
学園での待機命令を無視したこと、勝手に助けに行ったこと、大人の誰かにとりあえずでも話さなかったことなど、上げれば結構出てくる。
フェルト達が後ろのギルヴァートに怯えながら、しゅんと答えると、ひと息吐かれた。
「だったらいいさ。あとギルヴァート君。怒るのは無しって話だよ。顔が怖いよ。顔が」
「それは申し訳ありません。しかし生まれつきこんな顔でして……」
眉間にめっちゃシワを寄せてこちらを鋭く睨む眼光が生まれつきなら、この人の人生、結構損することの方が多い気がする。
「はは! それは大変!」
キュリアはかなり軽ーい感じで返した。
そんなやり取りはフェルト達からすれば、普通に怖い。
「君らのおかげで今回の事件の解決は勿論、今まで情報が少なかったブラックギルド、笑顔の娯楽提供者の情報まで引き出せる捕虜の確保には、王宮側も高い評価をしているよ」
「そうなんですか……」
ヘイヴンは結構情報を持ってる感じだったが、やはりブラックギルドってだけあって、情報はかなり少ないようだ。
それを考えると本当にヘイヴンは胡散臭い。
「そうさ。ま、君らが寄越した三人のうち、ふたりは自害したがね」
「!?」
フェルト達が驚いたことを不思議に思った様子で、キュリアは語る。
「……そんなに不思議な話でもないだろ? 笑顔の娯楽提供者をはじめとするブラックギルドの情報は中々入手が難しいのは、これらの部下の教育が行き届いていることに他ならない。特に笑顔の娯楽提供者はその情報管理のコントロールが上手いようでね。敢えて幹部の情報を出すことで、組織の全容を隠したりしてる」
どおりで表に中々情報が出てこなかったと納得した。
ただ自害も教育のうちというのは、いい気はしなかった。
「幹部の情報は出てるんです?」
「一部はね。まあ、君達が気にすることではないよ」
世界中で厄介視されているブラックギルドの情報を、そんな簡単に生徒に教えられるはずもなく、この話はここで打ち切られた。
「君達も陛下から直接言われたと思うが、状況が落ち着き次第、呼び出しがあるそうだから、楽しみにしているといいよ」
港町での国王陛下の発言のことを言っているのだろう。
報酬が出るのだろうが、それを楽しみと捉えるのは如何程だろう。
「さて、今後はこのようなことが起きないよう、先生達で色々話し合った。とはいえ、あまり窮屈過ぎても
アレなものだが、君らが安心して学業に努められるよう、僕らは務めるだけさ。まあ未然に防げなかった僕らが言うことではないかもしれないが、どうか今一度、僕らを信じて欲しいね」
今回の誘拐はキュリアの言う通り、生徒の親は勿論、生徒自身の信用を失うような話だった。
そのような謝罪、釈明をするのは当然のことだろう。
だがフェルト達からすれば、別にキュリア達にそのような感情はあまり無い。
「いえ、学園長。悪いのはあのブラックギルドでしょう?」
「まあ最終的にはそうだろうが、それらから守ることも教師である僕らの勤めさ」
そう言われてしまうと、こちらも黙るしかなく、
「……わかりました。俺達もあんまり勝手な行動はしないようにします」
フェルトとしては、そこを守り切れるかは不安が残った。
何せ『大罪の神器』の件があるからである。
「うん! ありがとう! 僕らも君達が素敵な学校生活を送れるよう、頑張るさ!」
キュリアはそう言うと、話はここまでなのか、パァンと手を叩いた。
「さて僕の話はここまでさ。ここからはギルヴァートが、話があるそうだ」
「はい」
フェルト達はギクリと身体が固まる。
キュリアの話によれば、お叱りはないとのことだが、ギルヴァートの話と聞くと嫌な予感しかしない。
「学園長からもあったが、改めて……本来、生徒である彼女らを守らなければならない身である我々だが、その代わりをしてくれたこと、感謝する」
ギルヴァートから先ずは素直に褒められる。
フェルト達はそれはそれで恐ろしいと思った。
「ど、どうも……」
「そんな偉業を成し遂げた君らは、本当に優秀だと思っているよ……本当さぁ」
「は、はぁ……」
だが今度は少し威圧的なわざとらしい褒め方をしてきた。
それには、隣にいるキュリアもニコニコである。
まるでギルヴァートが好きそうだなぁと思いながら見ているようだった。
そしてギルヴァートはフェルト達を褒めちぎりながら、近付いてくる。
「君らの将来はきっと明るい。ひとりの先生として、とても誇らしいよぉ……」
威圧的な笑顔にフェルトは思わずこう尋ねた。
「あ、あの……それ本音で言ってませんよね?」
フェルト達からはまるで、怒るなと止められた手前、何か別の方法でフェルト達に言うことを聞かなかった罰を与えようとしているようにしか見えなかった。
「おいおい、何を言い出すんだ。本音に決まっているだろう?」
フェルトは思った。
いや! 今の言い方は本音ではないって言ってる!
そんな明らかに何かを企んでいるギルヴァートが、その陰謀を語る。
「だからこそ優秀な君らを送り出すために、しっかりとした教養を身につけなければならない。俺は教師だからな」
「は、はい……」
ギルヴァートがフェルトの肩にポンと手を置いたが、その後、逃がしてなるものかと言わんばかりに、ぎゅーっと握ってくる。
――ひ、ひええええーーっ!!!!
「……お前らが旅していた間、勉学が疎かになっていたのではないか?」
「「「!?」」」
フェルト達は、確かにと表情が青ざめる。
フェルトは前世の記憶もあり、元々勉強もそこまで不得意ではなく、更にはマルコ神父より教育も受けてきた。
なので学校での勉学は確かに問題ないが、それでもこちらの世界の魔法学や戦術学などの現代世界では培われなかったことに関しては、まだまだであったりする。
グエルもその点に関しては問題はあまり無いが、ユーザに関しては問題だらけだったりする。
「正直、嬉しかったぞ。お前達が生きていると連絡が来た時。最初は飛空艇が沈んだと聞いていたから、どうなることかと思ったが……」
「は、ははは。その節はすみません……」
「こうして生きて戻ってくるなら、しっかりと俺自身も教師として、お前らに教えてやらんといかんからなぁ……」
「は、ははは……」
もうフェルト達は笑うしかなかった。
ギルヴァートはおそらく、無事であったことは勿論、素直に喜んだ面もあっただろうが、その反面、やはりひとりの教師として、生徒にしっかりと教育せねばと、言いつけを守らなかったフェルト達に対し、怒りを含めた教育をしようと考えたのだろう。
その威圧感たっぷりのオーラが三人を襲っており、フェルト達三人は身を寄せ合うように震えている。
「だから俺が徹夜でみっちり作った補習授業を、これから正規の授業終わりに受けてもらう」
「「「!?」」」
「今までの分をしっっっっかり、取り戻そうな?」
今までで見たことのないギルヴァートの満々の笑顔に、フェルト達は震え上がることしかできなかった。
みっちり徹夜で作ったというのは、どれだけの思念がこもった内容なのか、考えたくもなかった。
そしてギルヴァートは最後に恐怖のひとことを添える。
「――どれだけでも付き合ってやるからなぁ」
「「「ひ、ひいぃぃぃぃっ!!!!」」」
フェルト達はギルヴァートと距離を取るように、学園長室の壁まで後退りする。
「な、なあ。ど、どんな補習がされるんだ?」
「わ、わからん。だ、だが、あのギルヴァート先生が作った補習プランということだ、生半可なものじゃないぞ」
「そんなの無理!! 俺、やっとでさえ、勉強ギリギリなのにぃ!!」
するとギルヴァートがフェルト達ににじり寄りながら、そのフェルト達の言い分に返答する。
「そんなに心配することはない、ユーザ・カルケット。以前より、お前が勉強が苦手なことは知っている。……良い機会だ、徹底的に教えてやるからなぁ」
「い、いやぁ……」
アーディルと立ち向かった勇敢なユーザはどこへやら。
ギルヴァートの圧にたじたじである。
「お前達ふたりもとっても優秀なんだ、たかだか一ヶ月くらいの授業内容など、朝飯前だろう?」
「は、はは。先生、か、買い被りですよー……」
「だからお前らふたりには、ついでにより優秀になってもらえるよう、専用の問題も作っておいた。いやぁ……お前達のことを考えに考えて、徹夜した甲斐があるというほどの素晴らしいものが出来たよ」
「「!?」」
「是非とも、頑張ってくれたまえ」
「は、ははは……」
そんな恐れ慄いているフェルト達に、キュリアは衝撃のひとことを加える。
「ちなみになんだけど、同行していたケルベルト君とヴォルノーチェ君、姫殿下は補習免除。攫われた貴族嬢達は別の先生が補習授業を行なうよ」
「「「ええっ!?」」」
フェルトはそういえば、フェルトとヴォルノーチェが呼び出されていないことに気付く。
ヴォルノーチェは、きっとエメローラの護衛のこともあり、いないのも納得できたが、ヘイヴンに関しては納得いかない。
「はあっ!? 何で?」
「何でも何もないだろ。ケルベルトやヴォルノーチェ、姫殿下はそもそも英才教育を受けている。学業だけならば、特に問題点はない」
少なくとも、ここ一ヶ月で習うことなど、常識的に学んでいるそうだ。
「他の田舎貴族嬢達はさすがにそうはいかないが、アイツらの場合は、ブラックギルドに攫われたということだから、やむ無しだ」
「だ、だから譲歩したわけと……?」
「ああ」
フェルトも確かにと思う反面、いくら勝手とはいえ、助けに行った勇敢な生徒に対する差が凄いのではないかとたじろぐ。
「お前達は助けに行けるほど勇敢かつ、戻ってきたことで、戦闘面は優秀だということがわかったが、勉学を疎かにするでは本末転倒だろう。だからこうやって、俺直々に教鞭を振るってやろうというわけだ……」
「は、ははは……。そ、それは頼もしい限りで……」
フェルトは、自分の言うことを聞かなかった腹いせだと思った。
その教鞭とやらも酷く痛そうな気がする。
「では、明日から頑張ろうな? 先生もちゃーんと付き合ってやるからな」
本当に付きっきりで補習授業をやる気なのだろうと、フェルト達三人は観念したようで、
「「「は、はい……」」」
これならば、帰る時に恐れていたカミナリが落ちた方がよっぽどマシだったと思うのだった。
***
――それから数日経った頃。
「し、失礼致します!」
グエルがまるで石にでもなったかのように、カチンと固まって挨拶。
そんなグエルほどではないが、フェルトも恐る恐る王宮の応接室へと入る。
「そんなに固くならずとも良い。ここは公の場でもないのだ、楽にせよ」
そう言われてもさすがのフェルトも緊張する。
国王陛下の言われた通り、フェルト達と話す場を作ってくれたのだ。
フェルト達は座るよう促されたソファに腰掛けると、早速と話を始めようとするのだが、
「……君ら、大丈夫かね?」
「え? あ、はい……」
フェルト達、補習組は少しやつれた様子を見せる。
本当にギルヴァートの補習授業の内容が手厳しくなっており、特にユーザに関しては、帰ってくるなり、時に虚な目をしては窓の外を見上げるようになったりしている。
「旅の間、遅れていた分を取り返さないといけなくて……」
「そうか、そうか。君達は学生だからな。確かに、彼女らを助けてくれたのはとても嬉しいことではあるが、本分を真っ当せねばならないのも事実だからな。せいぜい励みなさい」
「はい」
そう言った国王陛下は、こほんと咳き込む。
「さて、では改めて……。フェルト・リーウェン、ユーザ・カルケット、グエル・キーエンス、ヘイヴン・ケルベルト。此度は本当に感謝する。我が国の国王であるオルディバル・オルドケイアとして、そして……ひとりの父として、娘エメローラを含めた貴族嬢達の救出、感謝する。このとおりだ」
オルディバルはそう言うと、頭を深く下げ、両隣にいる大臣みたいな人と騎士団長っぽい人が頭を下げた。
フェルト達は勿論、困惑する。
「ちょっ!? あ、頭を上げてください!」
「本来であれば、我々が行わなければならなかったこと、そして君らに危険な目に遭わせてしまったこと。これらの責任は我らにある。本当に申し訳なかった」
「い、いや。こちらこそ勝手な行動をしてしまって、申し訳ありません。先生や先輩達から色々聞いてます……」
飛空艇が海に沈み、そこからの安否について不安を煽ったり、連絡が遅れたことなど、事情があったとはいえ、反省すべき点はフェルト達にもある。
「うむ」
オルディバル達はスクっと下げた頭を上げた。
「そのあたりのお叱りは先生方からされたのであろう? ならば我々から何か言うことはない。とにかく、感謝しておるし、申し訳ないとも思っている」
すると隣の騎士団長っぽい人が頭をかいて、困ったように微笑んだ。
「本当にそうだとも。俺のところの息子と娘が本当に世話になったな」
「そりゃあ……ん?」
フェルトはその騎士団長っぽい人をジッと見た。
見た目はかなり若い印象だが、騎士団長っぽく見えたのは、立派な銀の鎧を身につけ、尚且つ国王陛下の隣にいるから、そう推察したのだが、
「も、もしかして……ガルマとエルマの父ちゃん?」
「ああ、そうだ。フェルト・リーウェン」
フェルトは通りでどこかで見た顔だと思った。
顔立ちが確かにガルマに似ていたのだ。
「俺の名前はフェルマ・ヴォルノーチェ。この国の騎士団長を務めてるもんだが、お前さん達には情けないところを見せてしまったな」
「まったくだな。今回は我々の不甲斐なさが目に見えたところだな。しっかり反省せねば……」
「はい、陛下」
アルスが笑顔の娯楽提供者の豚マスクを連れて行ったことで発覚し、聴取を受けたことで、今回の件が明るみになったわけだ。
その間、フェルマは召喚魔を追いかけ、オルディバルも冷静な対応はできなかったようだ。
反省点は上げれば、沢山出てきたのだろう。
「し、仕方ないのではありませんか? 陛下は娘であられるエメローラ姫殿下を攫われておりました。気が気でなかったお気持ち、僭越ながらわかるように思います」
「グエル・キーエンス。君の気持ちには感謝するが、私はこの国を担う国王だ。そのような状況だからこそ、もっと冷静に判断すべきだったのだよ。まったく不甲斐ない……」
「し、失礼致しました!」
無礼な発言だったとグエルは、即座に謝ったが、オルディバルは気にするなと諭していた。
「さて、我々の自責の念を聞かせるために君らを呼んだわけではない。……大臣」
「は!」
オルディバルの側近の大臣だろうか、何やら書類をめくりながら、何か話すようだ。
「貴殿らには今回の件について、いくらか聴取を受けてもらいたい。貴殿らが捕虜にした笑顔の娯楽提供者の残党から情報の取得が難しく、今後のためにも是非とも話を聞かせてもらいたい」
事件のほぼ全容を知るフェルト達への聴取は当然だろう。
「わかりました」
「とはいえ、娘やそこのケルベルトからある程度、大まかなことは聞いている。簡単な質問に答える程度だと思ってもらって構わない」
確かにアレから数日は経っている。
娘エメローラや護衛騎士を務めているガルマやエルマから聞いてないという方が不自然だろう。
「結界や警備については強化していくつもりだ。だからと言って不自由なかたちを取るつもりはないから、安心したまえ」
「はい」
「そしてフェルト・リーウェン」
「は、はい」
大臣が真剣な表情でフェルトへ向きながら、呼びかけたので、思わずビックリ。
「ファバルス王国との件についても聞いている。タルターニャ王女殿下からも高い評価を賜っている」
「は、はあ……」
フェルトは何やら、大袈裟に語られてるのではないかと不安になる。
「そのことについても色々と聞いておきたい」
「わ、わかりました」
「えっと、俺達が呼ばれたのってお礼と謝罪、あとそういう聴取がありますよってことですか?」
ユーザがそう尋ねると、それもあるがとオルディバル言いながらも、優しく微笑んだ。
「此度の活躍に対する報酬を君らに渡さねばならない。一国の国王として、そして娘を救ってもらったひとりの親として礼を尽くしたい」
それはそうだと思ったフェルト。
一国の国王が礼のひとつも出来ないでは、示しがつかないだろう。
だがフェルト自身は礼に関しては、あまりと思っていたりする。
「特にフェルト・リーウェン。君の活躍はタルターニャ王女殿下をはじめ、色々聞いているよ。今回の攫われた件に関しても、ほぼ君が見破り、行動を起こしたと聞く。故に港町での発言ではすまなかったと思っている」
「いえ。どうしてヘヴンの功績として口に出したのかは、重々承知してますから……」
「さすがと言うべきかな?」
そう言うと、何やらオルディバルは大臣より何か書類を手渡され、それをフェルトへ見せた。
「フェルト・リーウェン。我が国では貴族制度というのがあるのは知っているかな?」
「一応……」
貴族制度とは、簡単に説明してしまうと、平民が貴族になれますよというお話。
「どうだろう? 貴族になる気はあるかね?」
「「「!?」」」
「えっ!?」
「そんな驚くことはあるまい。我が国の貴族嬢達並びに我が娘エメローラを救っただけに飽き足らず、ファバルス王国の危機まで救った君だ。この先の未来を見越すならば、我々としては君に貴族の位を与えておきたいと思うのは自然な流れであろう」
フェルトは驚きながらも、机の上に出された書類を見る。
その書類は確かに、申請書のようなもののようで、国王陛下のサインまで書かれていた。
「サインを書いておいてアレだが、勿論、強制ではない。だがこちらとしては受けて欲しい話だ。どうだろう?」
要するにはオルディバルは、優秀な人材であるフェルトを側に置いておきたいということなのだろう。
バルデルセンの貴族にしてしまい、領地でも与えれば、フェルトはこの国のために尽くすことになる。
この地で根付いた生き方をするならば、それもありなのかもしれないが、フェルトにとってはあまりに不都合な話。
フェルトには『大罪の神器』を集めるという目的がある。
だからフェルトは即答する。
「申し訳ありませんが、ご辞退申し上げます」
「ふむ」
「「ええっ!?」」
「いいのかい、フレンド? この貴族制度、受けられる平民は少ないよ? 貴族になれば色んな面でも融通が効くし、何より国王陛下より直接打診がある。これは元々貴族である者達に対しても強く出られることだと思うが?」
確かに国王陛下からの直接の推薦の元、貴族になれれば、多少なりとも他貴族達の圧力も少ないだろう。
「それでもお断りだね。貴族社会がどれだけ面倒くさいのかは、お前達を見てれば嫌でもわかるよ。それにそもそも俺は山育ちの田舎っ子だ。堅苦しいのはごめんだね」
その理由を聞いたオルディバルは、少し残念そうな顔をしたが、
「……そうか。まあ無理強いするつもりはないから、それでも良いだろう」
オルディバルは、フェルトの意見を汲んでくれるようだ。
大臣はまるで、話を蹴るなんてという不服といった表情を浮かべているが、オルディバルが納得している手前、反論もできなかったようだ。
「では何を礼とすれば良いかな?」
「えっ? うーん……」
オルディバルはどうやら貴族にすることを礼とするようだった。
確かに地位、権力を与え、これだけの活躍ならやはり領土も与えるつもりだったのだろう。
そうなれば、確かに平民であるフェルトに対し、かなりの謝礼にはなる。
だがそれを断ってしまった以上、オルディバル側からすれば他の礼を用意せねばならない。
国王陛下が礼のひとつも返せないでは、面目が立たないからである。
そしてオルディバルはこれ以上の礼を用意できなかった、というよりは平民であるフェルトに対し、貴族地位を与える以外の礼を用意していなかったのだろう。
ましてやフェルトは十五。
そんな年齢のフェルトに対し、あれだけの功績を叩き出されてしまった手前、何を礼にすればいいのかわからなかったのだろう。
だからフェルトに尋ねているのだろう。
そんな悩むフェルト自身もかなり困っている。
何せ、この前にはファバルス国王陛下より、礼をしたいとせがまれていた過去がある。
その時でもかなり悩んだのに、今回は自国の王よりである。
そんなデジャヴの中、フェルトが出した結論は、
「じゃあ――金で」
もう面倒くさいと、呆れた表情でさらりと答えた。




