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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
60/177

37 砂漠の旅路の果てに2

 

 ――砂漠の国の夜は意外と冷える。


 フェルト達が寝室として過ごしたこの豪華な部屋も、月明かりと共に、ひんやりとした空気も流れ込む。

 でも、そんな夜だから目が冴えたわけでも、ユーザのいびきがうるさかったわけでもない。


 明日はいよいよオルドケイア、王都バルデルセンへと帰る。

 思えば中々長い旅路だったと、その終わりの夜は嫌に目が冴えてしまった。


「おや? フレンド、眠れないのかい?」


「ヘヴンか。悪い、起こしたか?」


 大きなベランダに頬杖をついているフェルトの隣にスッと入ってきた。


「いや、僕もいざ帰るとなると名残惜しくてね。中々楽しいひとときを過ごしたものだからさ!」


「お前は結局この一週間、貴族嬢や使用人達をはべらかして遊んでたもんな」


「そんな人聞きの悪いことを言わないでおくれよ、フレンド」


 何が人聞きが悪いだ。

 事実だろうが。


 気付けば、女と一緒に食事だの、観光に行くだの、お茶を嗜むだの、常に誰かしらついて回っていた印象が強い。


「そういうフレンドは、途中から国王陛下の許可を得た図書館に入り浸っていたじゃないか。チェンナ嬢が寂しがっていたよ」


「へいへい……」


 結局、目ぼしい情報は何ひとつなかったが、フェルト達が通ってきた地下遺跡にも何かしら情報はあるようで、もし何か発見したら教えてくれるそうだ。


「しかしま、こんな旅をするハメになるとは、あの時は思ってもみなかったな」


「そうだね。でも良かったと思ってるよ」


 そう言って、同室者であるガルマ、グエル、ユーザが寝ている姿を見たヘイヴン。


「蝶々ちゃん達が攫われてしまったことは嘆かわしいことではあったが、無事に戻れるようだし、この旅で僕らは強い信頼関係を得ることができたんじゃないかな?」


「……そんなことはわかってても口にしないもんだ」


「そうかい?」


「そういうもん」


 そんなこと言われなくたって、みんなわかっていることだ。

 フェルトひとりでは何もできなかったし、誰か欠けていてもなし得なかったことだろう。


「ま、お前は相変わらず胡散臭いけどな」


「それをキミに言われたくないね。キミだって色々胡散臭いだろ?」


「……やっぱ、お前。左目の義眼、気付いたのか?」


「そりゃあね。ハッキリとはわからないが、とりあえず【鑑定】とほぼ同じ能力があるんじゃないかくらいはね」


 まあ自爆してたしねと、フェルトは苦笑い。


「さすがは神眼と呼ばれてただけはあるってことかな?」


「まあそんなもんだ」


 さすがに『大罪の神器』とも言えないし、【記憶の強奪】なんて能力があることも言えない。


「それで納得がいったよ。フレンドは魔法が使えないはずなのに、井戸水のことを見破ったからね。魔法が使えない常人ではできない芸当だろ?」


「仰る通りで。……ったく、墓穴掘ったぜ」


「だが視えるだけで、答えまでは知らなかったんだろ?」


「……まあな」


 正確には善悪を理解すること自体は可能だったりする。


「それならやはりキミは凄いね。神眼である程度の情報が視えているとはいえ、それをまとめられる能力は凄かったよ」


 そこまで視えれば確かに便利なもんだが、融通が効かないのは、どんな道具にも言えることだろう。

『大罪の神器』も例外じゃない。


「ま、あの推理に関してはお前から毒の情報がなければできなかったことだ、一応、感謝はしてるぜ」


「もっと感謝してくれても構わないよ」


「調子に乗るな。お前が俺を消しかけたんだからな」


「意外と根に持つタイプなんだね」


「おめーみたいなはぐらかすタイプにだけな!」


 すると部屋の中から、ヒタヒタと誰か歩いてきた。


「……どうした?」


「おっ? 悪い。起こしたか、ガルマ」


「まあ、フレンドが少しうるさかったからね」


「あん?」


 眠い目を少し擦りながら、ガルマもベランダに来た。


「そんなことはない。……夜風が気持ちいいな」


「だな。砂漠で野宿してた時は、そんなこと感じもしなかったがな」


「フッ……フレンドに同意だね」


 するとガルマが少し俯いた。


「どした?」


「いや……」


 そしてガルマは部屋の中にいるグエルとユーザを静かに起こし始めた。


「おいおい、ガルマ。何やってんだ?」


「寝かしておいてあげればいいのに……」


「ちょっとな。すまないがふたりとも起きてくれ」


 軽く揺さぶられて、グエルもユーザも目を覚ます。


「何です……? 朝ですか?」


「ふぇ……」


「ちょっと話があってな。起こしてしまってすまない」


 そう思うなら、明日でもいいんじゃないかと思ったが、ガルマの物静かで真剣な目を見ると、どうも女子達(向こう)には聞かれたくない話のようだ。


「何かと落ち着いたタイミングがなかったからな」


 そう言うと深々と頭を下げた。


「みんな、本当に感謝している。ありがとう」


「「「「!」」」」


「みんながいなければ、殿下や妹を救い出すことはできなかったはずだ。特にフェルト・リーウェン、お前には感謝しかない」


「馬鹿言うな。俺は当然のことをしただけだし、攫ったのはあの奴隷商だろうが」


「それはそうだが、俺達の浅はかな判断で殿下を危険な目に遭わせてしまったのも事実。その汚名を返上する機会を、救い出す機会を、俺の証言を信じてくれたリーウェンには感謝しかない」


 するとみんなもフェルトを称賛し始める。


「その通りだね。フレンドがヴォルノーチェ殿の証言を信じていなければ、救い出す機会はなかっただろうからね」


「ああ。あんなヤバそうな奴とも戦ってくれたしな」


「むしろ自分の力不足を感じた。リーウェン君は本当に凄いよ」


 そこまで褒められるとさすがに照れるし、『大罪の神器』使ってる背景もあって、多少の罪悪感もある。


「別に俺の力だけじゃねえよ。ガルマの言う通り、みんなのおかげさ。自分の言ってることは間違ってないってガルマが言い続けてたから、信じてやろうと思ったし、魔法使いであるグエルがいなきゃ、助けられなかった場面もあったろ? ユーザだってあんなボロボロになっても姫殿下達を守ってくれたしな。ヘヴンはついでだけどな」


「……相変わらず僕の扱いだけ、酷くないかい?」


「そうか? お前が役に立ってたのは、チェンナのご機嫌取りくらいだろ? 最終的には役に立たなくなってたし……」


「フレンドぉ? さっき、僕のおかげで上手く推理できたと言ってなかったかい?」


「はあ? 忘れた」


 ヘイヴンのおかげで色々助かったのは事実だが、頑なに認めたくない。

 だがそれは決して信頼していないからというわけでもないのだがと思うフェルト。


「それに俺自身もまだまだだって思い知った良い機会になった。あのシギィとかいうクソイカレ野郎みたいな化け物がいるってこともわかったしな」


「確かになぁ……アイツは強かったなぁ。俺、ケルベルトさんが相手にしてた、あの奴隷商の女幹部ですら相手にならなかったからなぁ」


「いや、カルケット君。彼女は彼女で相当な腕の持ち主だ、アレが普通だと思うよ」


「でもよぉ! フェルトやケルベルトさんはちゃんと戦えてたじゃんか! 俺、もっと強くなりてえよ」


「そうだな。俺も……強くなりたい」


 各自得るものも多かったが、反省する点も多かった。

 でも、こうして反省を口にできるというのは、良いことだろう。


「だが何にしてもそのきっかけをくれたのはリーウェン、お前だ。本当に感謝している」


「……もうわかったよ。俺、最近感謝されることが多くて、耳にタコができそうだ」


「おやおや。そんな罰当たりなことを言ってると、天罰が下るよ」


「バーカ。ちゃんと受け止めてるから、いっぱいいっぱいだっつってんだろ」


 現代世界(向こう)では、こんな感謝されることなんてなかったからか、ただただ恥ずかしいだけだったりする。

 フェルトとしては『強欲の義眼』を試す良い機会だったと思ったところがあった手前、罪悪感も多少あるのだから。


「まあそれにさ、困ってる奴がいたら助けるのは当たり前だろ? ま、さすがに国救ってほしいは困ったけどな」


「だな!」


 するとガルマはスッと手を差し出した。


「今度は俺がお前を助けられるよう、強くなる。だからこれからもよろしくな、()()()()


「!」


 ガルマと初めて対面した時より一変、友人として接してほしいと言わんばかりに、名前で呼ばれた。

 あの頃の憎悪を含んだ表情から考えれば、大きな進歩だな。


 フェルトはその手をガシッと掴んだ。


「おう! その時は頼むぜ、ガルマ!」


 するとガルマは少し気恥ずかしそうに、グエルやユーザの方へ向いた。


「そのフェルトについてはどさくさに紛れて名前で呼んだが、お前達もいいか?」


 ガルマはシャイなのだろうか。

 男同士なんだから、聞かなくてもいいだろうと思う。

 ヘイヴン以外。


「当たり前だろ? むしろ俺達の方が呼んでいいのか、不安だったぜ。な?」


「というか彼は貴族なんだ、僕らがそのように呼んでいいわけないだろ」


「そうか? 俺は最初から『ガルマ』呼びだったが?」


 それを言われると確かにと、グエルから呆れた視線を頂いた。


「そういえば何でだい?」


「えっ? ヴォルノーチェってふたりいるだろ? 名前の方がいいかなって……」


 双子で苗字が一緒なんだ、わかりやすくするためにもその方がいい。


 すると、ガルマはくすっと笑った。


「ははっ! 随分と単純な理由だ」


「女ならともかく、男であるお前の名前くらい呼んだって問題ないだろ?」


「あれ? でもフレンドもキーエンス君もチェンナ嬢に関しては名前呼びだったような……? 僕みたいに親しいわけでもないだろ?」


 フェルト達はヘイヴンみたいに、女を口説き落とすために名前を呼んだりはしない。


 ヘイヴンのその質問にフェルトとグエルの意見は一致した。


「いや、ガキ臭いからいいかなって……」

「いや、ガキだからいいかなと……」


「おやおや、それはチェンナ嬢に失礼だよ」


「そうか?」

「そんなことはない」


 バーチェナ領出身のグエルは断言した。

 さすがと言うべきか。


「とにかくさ! 俺達、やり遂げたんだ! 帰ったらパーティでもしようぜ!」


「おっ? いいな」


「カルケット君。まだ帰ってもいないんですよ、気が早い」


 フェルト達はこのファバルス王国での最後の夜、帰ったら何をするのかを語り合った。


 ガルマに関しては帰ったら、色々とありそうではあるが、それでも今はフェルト達との時間を楽しむように笑顔を浮かべていた――。


 ***


「お世話になりました」


「いやいや、世話になったのはこちらの方だ」


 フェルト達は王族専用の飛空艇を眺めている。

 奴隷商が所有していた飛空艇のように商業目的ではないせいか、多少小さいように見えるが、十分な大きさの飛空艇のようだ。

 装飾品も王族専用ということもあり、中々派手である。


「では! 父上、行ってくるのだ!」


「ああ、気をつけてな」


 フェルト達を故郷に帰すとのことだが、外交のためにタルターニャとその護衛数名が同行することとなった。

 外交は勿論だが、タルターニャに見識を広めてもらうことが主だった目的のようで、


「楽しみじゃのぉ! お主らの国は! 砂漠がないのであろう? 緑が豊かなのだろう? 楽しみなのじゃ!」


 そんな当たり前のことを楽しみにされると、草花達もきっと誇らしいだろう。


「エメローラ王女殿下、娘がご迷惑をお掛けするかもしれないが、どうかよろしく頼む」


「はい」


 そしてグレスはフェルトにも挨拶。


「改めてフェルト・リーウェン。この国を救ってくれたこと、心から感謝する。君から受けたこの恩は必ず忘れない」


「はい。こちらこそ、良くしてくださったこと、感謝しています。無事に帰れるのも陛下の温情あってのこと。こちらこそ、この御恩は忘れませんとも」


 するとグレスは手を差し出した。


「また会おう!」


「はい!」


 信頼の握手というのは、とても心地が良い。

 こうして誰かのためになっているのかと思うと、『強欲の義眼』を手にしたことも悪くないと思えてくる。


 ――『大罪の神器』のひとつ『強欲の義眼』


 初めてイミエルから話をもらった時は、その性能や出来た経緯からゾッとするような思いだったし、マルコ神父をはじめとする被害者も出たものだった。

 だけど、こうして人のために役立つこともあるのだと、少し自信を持てた気がする。

『大罪の神器』と言えど、所詮は道具。

 使う人間が正しければ、こうして人を救うことができるのだと知った。


 ――そしてフェルト達の長かった旅路も帰路を迎えるのであった。

 フェルト達を乗せた王族専用の飛空艇は、ファバルス王国の国王をはじめとする皆から見送られ、旅立つ。


「やっと帰れるね」


「そうですね。お父様達もきっと心配していることでしょう」


 何だかんだ、約一ヶ月ほどいなかった。

 愛娘がどうなったかなど、父親からすれば発狂するレベルで心配してるだろう。


「でも先んじて手紙は送ったのでしょう?」


「ええ。ギルドの方へ依頼し、無事だと報告してあります」


 とはいえ結局心配はしているだろう。


「まあ、僕らは帰ってからの方が心配だけどね」


「は?」


 フェルト達はヘイヴンのひとことにキョトンとしていると、衝撃のひとことが告げられる。


「いやいや、君ら黙って救出に向かったこと、覚えてないのかい?」


「そ、そりゃあ、飛空艇で逃げられてるって思ったから、報告なんてしてる暇なかったろ」


「ええ。ですが、それでも張り紙があったのではなかったですか? 無断外出は控えろと。確か、ギルヴァート先生に……」


「「「あっ」」」


 寮生であるフェルト達は、一気に青ざめる。


「あ、あのギルヴァート先生の注意を無視してきたってことは……」


「き、きっとお怒りですよね……?」


「だ、だよなぁ……」


 帰ったらどれだけの説教と罰が与えられるのか、これほど背筋に悪寒が走ったことがない。

 まだ暑いはずのこの砂漠の地にいるのに、全身に寒気が走った。


「そ、それに俺達は護衛としての任を疎かにした罰が残っている。戻ったところでといったところか……」


「そ、そうだったね……」


「いや、エルマ。お前は一緒に攫われてしまったんだ、大丈夫だろ」


「だ、大丈夫、かなぁ?」


 エメローラを護衛する騎士ふたりが、フェルト達同様、青ざめた表情で落ち込んでいる。


「だ、大丈夫ですよ! わたくしが弁明いたしますから……」


「ローラもこっ酷く怒られるんじゃない? 原因を考えると。陛下も言ってローラに溺愛してるしさ、護衛を強化されるんじゃない?」


「ぐうっ!? そ、それは困ります……」


 何だかフェルト達は、実は帰らない方がいいまであるんじゃないかと(よぎ)る。


「何じゃ、主ら。折角帰るのじゃから、もっと楽しくすれば良いものを……」


「タルターニャ王女殿下……まあ、何と言いますか、各々事情があるんです。憂鬱ゆううつになる、各々の理由が……」


 するとここにきて最上級の煽りをしてみせる男が、キザりながらこう語った。


「まあ、僕には関係ないことさ。寮生でもなかったから、入れ違いでわからなかったで通りそうだけどね」


「てめっ……! やっぱお前、ムカつくわぁああああーっ!!」


 帰った先の未来に怖がりながらも、一同を乗せた飛空艇は淡々とオルドケイア大陸を目指し、フェルト達の長ーい旅路は終えたのだった。

 ここまでのご愛読ありがとうございます。


 消えた貴族嬢編はここまでとなり、次章は双子の聖女編をお届けいたします。

 ついに『大罪の神器』にも動きがある章となりますので、お楽しみに。


 ブックマーク、感想、評価、誤字脱字等は随時受け付けております。モチベーションにも繋がりますので、書いていただけると幸いです。

(高評価だと尚嬉しいです)


 これからもご愛読くだされば幸いです。それでは。

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