03 女神からのお願い3
「いや、ちょっと待て。何でお前がそれを持ってる!?」
正直、ツッコミたいことがいっぱいだ。
イミエルが大罪の神器を持ってることは勿論だが、そもそも神器というくらいだから、てっきり武器だと思ってたが、そうでもないらしい。
するとその反応が想定内だったようで、イミエルは順を追って説明していく。
「これを持ってる理由としては、先ほど八十年ほど前にあった革命家について話しましたよね?」
「あ、ああ。まさか……!?」
「はい。その革命家が使用していたのがこれで、倒したのは、貴方の前にここへ来た異世界人です」
「はあっ!? マ、マジか!?」
「というか、そうじゃないと私がこれを持っている理由にはならないでしょう? それに貴方以外の全員に話さず、送り出したわけではありません」
確かに話したような、話さなかったようなって曖昧な返答をしてたが、話してた奴もいたようだ。
イミエルとしても、途中から話した方がいいと良心が痛んだのかもしれない。
「ただ、ほぼ相討ちというかたちになってしまい、祭壇にこれを置いて、その方も亡くなりました」
「祭壇……」
「はい。どこの教会でも構いませんが、できれば祭壇に置いて頂けると干渉しやすいです」
教会は神に祈りを捧げる場だから、神様側からしても下界への干渉がしやすいのだろう。
「つまりそれを持ってる理由は、その前任者がそれを入手し、祭壇に捧げたことでお前は干渉が可能となり、お前が保管しておくことが可能になったってことか」
「はい。それにこれも神格化し、神として扱われていますから、この空間にあってもおかしくないですし、元々は下界にあった物ですから、貴方に渡すことも問題ありません」
そう説明されると辻褄は合う。
大罪の神器が規格外の能力を持っていたとしても、元々、下界にあったものだから、今更、神の力の干渉ということがないってことだろう。
「これで貴方の疑問は解けましたか?」
「あ、ああ。だがもうひとつ……」
「武器じゃない理由ですか?」
「ああ」
「さあ? 私は当時の人間じゃありませんし、まだ生まれてもいなかった私に知るよしはありません。ただ何かしらの意味はあると思いますよ。他の神器も義手や義足などですから……」
義眼、義手、義足、どれも身体の一部。
だが七つの大罪と数が合うかと思ったので、
「あっ。『大罪の神器』って七つだよな?」
大事な回収する数を尋ねた。
人間の大罪って七つではなく、八つだったという説もあったから、一応。
「はい。傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰の七つになります。ちなみに数は合ってますよ。右腕、左腕とか……」
片腕ずつということなら、数を合わせることは可能だろう。
武器にしなかった理由は、もしかしたらそこにあるかもしれない。
大昔の人間、生きた人間を素材にする連中らのことだ、手に握って装備する武器より、腕や足を引き千切って離れないようにする方が、効率的と考えても不思議じゃない。
「では、そろそろ『強欲の義眼』の話をしますか?」
イミエルは白いテーブルの上にコロッと転がしてみせる。
見た目だけなら本物の眼球だ。不気味なほど精巧に作られている。
他の大罪の神器もこんな感じなんだろうか。
しかし、話に聞いているほど、恐ろしい雰囲気は感じない。
怨霊が宿ってたって話だ、オーラくらい纏っててもおかしくないと思ったので、
「待て、質問」
「はい?」
「それ、怨霊とかはどうした?」
「……ここをどこかお忘れで?」
「あっ」
ここが死んだ魂が巡る輪廻の間だと気付くと納得できた。
「ここにその義眼が来て、魂がこの輪の中に入っていった……?」
「はい。ただ、この義眼自体の能力が取り除かれるわけではないので、『大罪の神器』としての力は健在です。ご安心を」
それは正直、安心できない。
この神器達が能力上、ヤバいから回収してほしいのだろう。
それは怨霊がヤバいってだけじゃないはずだ。
「……俺がそれを悪用するとは考えないのか?」
「生きた人間が素材となっていると知った貴方に、そんな胆力は無いと考えてますが、どうですか?」
確かにイミエルの世界の連中は、あくまでそこは知らないはず。
だが、彼は知ってしまった。
回収のためには使うかもしれないが、悪用となると精神力が問題になりそうだ。
だからイミエルは引き止めたのだろう。
「はあ……続けてくれ」
納得していただけたようで何よりと、ニコリと笑うと、『大罪の神器』のひとつ、『強欲の義眼』について語り始めた。
「改めて……。これは『大罪の神器』のひとつ、『強欲の義眼』です。『大罪の神器』にはいくつか特性がありますが、先ずはこれの能力から説明しましょう」
強欲って付くからには、相手から奪う系の能力だろう。
しかも義眼ってこともあり、視覚に入ればなんて簡単な使用方法なのかなって想像もつく。
「それぞれの『大罪の神器』には二つの能力があります」
二つだけとは意外だ。
「この『強欲の義眼』のひとつめは【識別】。視界に入ったものの情報を直感的に理解する能力です」
「……」
鑑定と変わんなくね、と思わず呆気にとられた。
「あまりピンときていないご様子」
「そりゃな。それってよくあるチートの鑑定と変わんなくねえかって思ったんだよ」
「全然違いますよ」
全然ときました。
だが識別と鑑定は言葉が違うとおり、意味も多少、異なるのかもしれないと思うが、いまいちピンとこない。
「ではそもそもの話をしましょうか? 識別と鑑定の違いはどちらも見分けることに変わりありませんが、識別の場合は直感で理解するという意味で、鑑定は見分ける方法のことを意味します」
「……つまり識別の場合は、もうその情報が正しく理解されてるってことか?」
「はい。貴方のいうチート能力の鑑定を使う主人公達も、視認してから良し悪しを確認してませんか?」
言われてみれば確かに。
「鑑定士や鑑定書はありますが、識別士や識別書なんて聞いたことありますか?」
言われてみれば確かに。
「例えるなら、識別がパソコンの検索機能なら、鑑定は辞書を引いているもんですよ」
パソコン内の情報ネットワークと辞書では、情報量、検索速度の差は歴然だ。
「そして『強欲の義眼』の【識別】は長い年月の間、この世に存在し、負の感情を取り込むことで情報も獲得しています」
「つまりわからない情報はほとんどない」
「はい。貴方に渡せば、現代知識も身につけることでしょう」
伊達に呪具と言われ、神器にまで進化しただけあるようだ。
成長する道具の象徴とも言えるだろう。
「ちなみにさ。【鑑定】はあるのか?」
一応、向こうの作品ではチート扱いの能力。
聞いた感じ【識別】は【鑑定】の上位版だろう。
下位版にあたりそうな【鑑定】があっても不思議ではない。
「ありますよ」
割とあっさりと答えられた。
「というか、ないと文明が発達しないと思いませんか?」
「えっ?」
「よく考えて下さいよ。文明が発達するには、開発が必要ですよね? ということはその開発する環境、物質などを調べる必要があります。そして魔法が使えるんですよ? そういう魔法を開発してない方がおかしいですよ!」
そう言われてみると納得だ。
「そりゃあ当初くらいは、原始的な調べ方が必須でしょうが、人間、知性があるんですよ。出来立ての世界じゃあるまいし、【鑑定】みたいな能力が開発されてない方がおかしいんですよ! なかったらただの馬鹿の集まりですよ? 魔法があるのにその想像力が無いっておかしいでしょ?」
それも言われてみると納得。
「だからそのへん考えずに、テキトーに【鑑定】ってチートでしょ? って設定つけてる作品は、そのあたりテキトーなんですよねっ! 仮に二つの素材が一緒だとして、価値ってどう見極めるんですぅ? いちいち比較するんですか?」
それも言われてしまうと納得してしまうが、聞いててどんどん耳が痛くなってきた。
光球だから耳無いけど。
「まあですが、貴方の世界にも鑑定士が少ないように、こちらの世界でも【鑑定】が使える人は少ないですよ。……と言っても現代世界とは比較になりませんが……」
あくまでこっちの鑑定士は、昔の遺物等の価値を調べる、警察官がパソコンや記録から鑑定するってことで、職業柄って感じだが、イミエルの世界ではそもそも魔法として使えるんだ、下手したら一般人でも使えるってことだ。
「というか、【鑑定】を使う人間はやはり、その職業柄となりますがね。王宮魔術師とか学者とか……」
結局そうなのねと内心、苦笑い。
「話がだいぶ脱線しましたが……」
誰のせいだと、聞いてる彼はヒヤヒヤしている。
「『強欲の義眼』の【識別】は使用した時、視界にさえ入っていれば、瞬時にその情報を理解できます。意識すれば過去の情報の取得も可能です」
【鑑定】の場合は情報を視認化、それを確認した後に自己判断で動かなければならないが、【識別】の場合はもうその情報が脳内に入り、状況などを理解している状態になれるってわけだ。
しかも【鑑定】の場合は、その魔法によって調べる時間も必要だが、【識別】はそれも無し。
「つまり何でも見透せる眼か……」
「ただし、デメリットもあります」
まあ聞いただけでもかなり強力な能力だ、多少のデメリットは覚悟している。
「使うと死にます」
――最上級デメリットキターっ!!
「いや、ちょっ、おい! 待てよ!」
「はい?」
「死ぬってどういうことだ!? お前、他の大罪の神器と戦わせるためにそれを持たせるんじゃなかったのか!?」
するとイミエルは、まあまあ話は最後までと説明を始める。
「記憶のサイクルってご存知ですか?」
「ああ? えーっと……記憶する、保管する、忘却するっだけ?」
「まあ難しい理屈は私もわからないんですが……」
「おい」
聞いておいてそれはないだろう。
「まあ記憶のサイクルに関してはそんな感じで理解していれば良いですが、つまり【識別】を使った場合、急に記憶と保管が同時に行われるんですよ」
情報を取得し、理解するってことだから保管されるってことだからと納得した。
「そうか……! 忘却が間に合わないのか」
「はい。人間の記憶領域に限界はないとされてますが、脳の処理能力には限界があります。この【識別】は瞬時に理解、つまりは情報が直接脳に入り込むので、いきなりパンパンに詰められると処理が追いつかなくなり、脳が焼き切られ、死にます」
容量は問題ないが、それを処理する方が問題らしい。
確かに脳みそを鍛えるのは不可能だからな。
「だがその八十年ほど前の奴は使ってたんだろ? そのデメリットはどうやって回避した?」
「要するには脳の処理能力を上げればいいんですよね?」
そんなことが出来れば苦労はしないと諦めていたが、彼は異世界モノによくある、とある魔法について閃いた。
すると、それを読み取ったイミエルは、その通りだと微笑んだ。
「思考速度の向上をすればいいんですよ。ついでに言えば【鑑定】と併用して使えば、情報量を抑えることも可能ですからね」
情報量を抑えれば、処理する負担も減る。
必要な情報を精査するために、【鑑定】を使用したと説明。
「じゃあ俺もそうすればいいのか……」
「それは無理です」
「おい!」
「思考速度の向上なんて魔法、天才魔術師くらいしか使えませんよ。さっきまで言ってたチート能力を持ってれば話は違いますが、そこはあげられませんので……」
どうやら八十年前のそのチート野郎は、天才魔術師だったってことらしい。
【鑑定】と併用してたという話だ、相当頭も良かったんだろう。
「じゃあどうすんだよ?」
「うーん。運良く魔法の才能に恵まれるか、別の方法を考えて下さい!」
「――運任せな挙句、丸投げかい!」
行き当たりばったりな計画過ぎることに、回収する気があるのかと疑ったが、最悪できなくてもいいと言っていたことに気付くと、ちょっと気持ちが軽くなった。
「ま、まあまあ。この『強欲の義眼』は私がある程度干渉しましたから、デメリットも一応抑えてあります。なので無茶な使い方さえしなければ、死ぬことはありません」
「本当かぁ?」
「まあでも……神器というくらい神格化してしまいましたし、酷い頭痛くらいは覚悟して下さいね」
「全然使えねぇじゃねえか!!」
普段使いならまだしも、戦闘中に使う場合、その場で蹲る未来しか見えない。
これだったら、まだ【鑑定】をチートって言って渡してもらった方がマシだと思った。
ふたつめの能力についても不安になってきた。
「ではふたつめの能力の説明、よろしいですか?」
「……ああ」
不安が残る中、何とか使える能力をと祈る。
「ふたつめの能力は【記憶の強奪】です。文字通り、相手の記憶を奪います」
やっぱりあったか、奪う系の能力。
こっちは名前聞いただけでも強過ぎる印象。
「こちらが得たい情報の取得しつつ、強奪ってことだから相手は記憶が消えるわけだろ? 相手に気取られることなく情報を取得できるわけだ。しかも記憶の消去も可能……」
「わかってるじゃありませんか! さすがというべきですか?」
だがここで疑問。
「【識別】で相手の記憶を見ることができないってことなのか?」
【識別】を生き物に使った場合、過去も見られると言ったことから、記憶も見れると思ったが、それだと【記憶の強奪】と能力が一部被る気がした。
「はい。記憶見ることができるのは後者の能力です。【識別】で見られる過去というのは、わかるように言えば前科があるかどうか……みたいな?」
要するには【識別】はあくまで記録されていることを読み取ることができるってことね。
人を見た場合は、その肉体がどんなことを行なってきたのかがわかるみたいな。
「それを考えると、【識別】では入手不可能な情報を取得できるのか……」
【識別】は人間の能力などを把握できても、その人間の考えまで視れるわけではない。
【記憶の強奪】はその脳内の記憶、つまりは考えなどを把握、消去できるのはちょっと強過ぎるだろう。
「【記憶の強奪】に限った話ではありませんが、ふたつの能力はどちらも戦闘中に併用することが可能です。【識別】で相手の身体能力、性質、付与されている魔法から攻撃の際の筋肉運動などを見切り、予測行動が可能。【記憶の強奪】は相手の予測行動を把握、奪うことができ、攻め手を封殺することが可能です」
八十年前の革命家がどれだけ強かったのか、ハッキリわかる説明だった。
情報は武器だというが、正にそれを体現したような能力に、最初は強欲って割には大人しい能力だと思ったが、どうもそうではないようだと考えを改めさせられる。
しかも【識別】を使って戦い、その運動能力を瞬時に把握できるわけだ、戦えば戦うほど、戦闘の感性は磨かれる。
例をあげれば、剣道素人が達人に対し、足の踏み込み、竹刀を振るう筋肉量、視線から来る攻撃の位置などを瞬時に把握。
脳は瞬発的に身体に命令を送ることが可能だから、慣れさせれば、近接戦ではほぼ無敵の能力。
更に【記憶の強奪】は『こう行動しよう』の『こう』を奪うことができれば、その相手は動きが止まるし、困惑もするだろう。
自分は何をしようとしたんだっけと。
挙句、その能力を相手が知る由はない。
「更に言えば【記憶の強奪】により、仮に達人剣士の技の記憶を奪えば、それを使用することも可能です」
ついでにその剣士は技の全てを忘れるわけだから、実質戦闘不能に貶められるわけだ。
だがイミエルはこの能力の恐ろしい真価を語る。
「それだけではありませんよ。……貴方は記憶の種類についてはご存知ですか?」
「聞いたことくらいはあるけど……」
しっかりとは把握してない。
何せ高校生までの勉強にそんなものは無いと思う。
もはや雑学の領域だろう。
曖昧な返事をしたので、イミエルが説明してくれた。
「記憶には基本的に二種類の記憶があり、頭で覚える陳述的記憶と、体で覚える手続き記憶があります」
「ほう……」
「頭で覚えるものは勉強などのもの。体で覚えるものは自転車の走らせ方や水泳の仕方など、感覚的に覚えるもののことを指します」
そう説明してもらえるとよりわかりやすい。
「陳述的記憶はわかると思いますが、勉学などの自然と忘れるものがほとんどです。しかし、手続き記憶はほとんど忘れることはありません。貴方も今、光球ではありますが、人間的な身体の動かし方を忘れたわけではないでしょう?」
「まあ、確かに……」
今、身体を与えられれば歩くこと、走ること、用意さえされれば自転車だって漕げる自信はある。
「ですがこの【記憶の強奪】を使えば、それすら奪えます」
「!?」
「簡単に言ってしまえば、目の前の生物に『歩くことを忘れさせる』ことが可能です」
「……」
俺はこの強欲の義眼の能力に絶句した。
本来、生物であれば動くという当たり前過ぎる、運動能力の記憶さえも奪うことが可能になる。
それはもうその生物の命を奪うことと同義であり、命以上に凄惨な末路を送らせることも可能だ。
「しかもその運動能力を忘れさせるわけですから、思い出すことはありません」
「だろうな……」
その人間の歩き方に癖とかがあるように、一度忘れてしまえば、今まで通りになることがないってこと。
それは、その人間を別人にできると言っても過言じゃない。
一応、再び学ぶことが出来れば、覚え直すことも可能だろうが、戦闘中に奪われれば、そんな時間など無いに等しい。
失うのは命だ。
つまり【記憶の強奪】は、記憶の取得、消去を可能にし、奪うものによっては一方的な展開を約束させることが可能になるということ。
正に慈悲も無く、強欲の名に、そして神器と呼ばれるだけの相応の代物だったようだ。
「勿論、こちらもデメリットがあります」
「人間、生物の記憶の情報が瞬時に大量に入ってくるからか?」
「それは違います。確かに【記憶の強奪】は脳内の情報を見ますが、【識別】とは違い、見るのでそこまでの負荷がかかりません」
【識別】は脳内に情報が入る能力。
【記憶の強奪】は【鑑定】みたいに見て判断する能力だから、脳みそへの負担が破格的に違うとのこと。
【記憶の強奪】の方が能力的に強力なのに、デメリットは【識別】の方が大きいことに疑問に思う。
「あれ? ってことは、【記憶の強奪】は【識別】より、発動条件は厳しいのか?」
「はい。【識別】は視覚範囲を軽く見ただけでも発動可能ですが、【記憶の強奪】の場合はその対象を視認する必要があります」
【識別】は相手を対象にとるものの、影響は俺自身にのみ発動する能力だから見るだけでいい。
だが【記憶の強奪】に関しては相手にも影響を与える能力だから、その対象を目で捕らえる必要があるってことらしい。
「それと奪った記憶が先程の手続き記憶だった場合、自分の運動能力とごちゃ混ぜになる可能性があります」
陳述的記憶なら、忘れることが前提の記憶だから、古い記憶から無くなっていくだけだが、手続き記憶となると、歩き方などは人によって違うということ、つまりは自分の運動記憶と混ざり合って、エラーみたいなものが発生する可能性があるとのこと。
「ですが【記憶の強欲】により取得した記憶は、脳内で管理可能です。その際に手早く破棄できれば問題はありません」
「となると、【識別】ほど情報の範囲が狭い【記憶の強奪】は実質的にデメリットは、効果対象が絞られることくらいなのか?」
イミエルの話を聞くと、【記憶の強奪】は奪う記憶の選別ができるようだが、戦闘中などにも使えることを考慮すると、おそらく感覚的に必要な情報を奪えるということだ。
例えば、相手のとある情報を奪いたいなーって考えながら発動すれば、それを奪えるってことだ。
つまり、奪いたい記憶を頭に浮かべながら発動すれば、記憶を覗かずとも、相手がその情報を持っていれば自動で奪えるってことになる。
「はい」
本当に【識別】ほど脳に負担が無いようで、あっさり返事された。
明らかに【記憶の強奪】の方にデメリットをつけるべきだろ、とツッコミを入れさせて欲しい。
だが確かにこれらの能力を使えば、ほぼチート能力者だ。
全てを把握し、相手の記憶を強引に奪い、自分のものとし、制限を与える。
ただ問題は使い熟せるかと、そんな圧倒的能力を使う精神力だろうな。
「以上が『強奪の義眼』の能力の詳細です。何か質問あります?」
「質問。【記憶の強奪】を使った場合、その生物の記憶を奪わずに見るだけは可能なのか?」
「可能ですが、おすすめはしません。【識別】と同様のデメリットが生じる可能性がある挙句、深層意識まで潜ってしまうと、自分自身が把握できなくなる可能があります」
【記憶の強奪】は感覚的に相手から欲しい記憶を奪うことができるのは、自分自身が他者の記憶に呑まれないための処置なんだろう。
「なるほどな」
「ちなみに単に記憶を覗くだけなら、魔法や魔眼にそういうものがあります。わざわざ【記憶の強奪】を使用しなくてもよいと思いますよ」
それを言われると下手に【記憶の強奪】を使うより、そっちを使った方が利口だと思う。
それに魔眼や魔法の方が融通も効きそうだ。
奪うつもりがないなら、デメリットが無い方を使用するのが得策だろう。
「これも確認しておきたいんだが、【識別】みたいに視界に映った連中を視認できれば、全員の記憶を瞬時に奪うことは可能か?」
視認しなければいけないということだから、単体にしか発動ができず、おそらく無理だろうが、一応の確認。
「一応、可能ですが、それはほぼ無理ですよ。同じ記憶を持ち、同じ記憶を奪いたい状況でなければなりませんから……」
つまり発動条件がかなり厳しいわけだが、集会などで集まった連中になら効くかも知れんが、そんな低確率の話にはまったく意味がない。
「あと仮になんだが、俺が魔法の才能が無く、才能のある人間から魔法を使う感覚的記憶を奪うとする。魔法って使えるのか?」
「んー、そうですね……。多分才能が開花されるのではないですか?」
あくまでそれは憶測を抜けないようだ。
いくら女神様でも、全知全能ってわけでもないのだろう。
テンプレチートはやれんって話だったわけだから。
「なるほどな……わかった」
どちらも使い方を考えなければならないものの、かなり危険な能力だった。
特に【記憶の強奪】に関しては、正に神の領域。
下手すれば相手に何もさせずに完封勝利することができる。
「これが俺が得られる能力、『強欲の義眼』の全貌なわけね」
「どうですか? 中々頼もしいでしょう?」
「頼もしいをとっくに通り越して、不気味さしかねえよ」
本来ならめちゃくちゃ関わりたくないが、これと同格の力が暴れ回ると考えるとこの情報があって、イミエルの世界に転生した方が利口だろう。
いい感じに丸め込まれた感じだった。