36 砂漠の旅路の果てに1
「そこの痴れ者を捕らえよ!」
「「は!」」
話に呼ばれていた衛兵ふたりは、テーブルの上で崩れるルドラーを連れて行った。
「ふう……」
こんな推理ショーを披露するハメになるとは思わなかったフェルトは、ひと段落ついたと疲れた様子をみせる。
「――さすがですわぁ!! リーウェン様ぁ!!」
「ぐえっ!?」
感激したのか、その表現方法として、チェンナは思いっきり腹パンタックルをしてきた。
横に座っていたへーデルもビックリ。
そのまま椅子ごと倒れ込み、フェルトが苦痛に悶えていることなどつゆ知らず、チェンナはカッコ良かったと褒めちぎる。
「あのような見事な推理と話術であの如何にも悪そうな大臣を追い詰めるなんて……とっても素敵でしたわぁ……」
「わかった……。わかったから先ずは上から降りようか?」
フェルトは立ち上がると、みんなが集まってきて称賛を送る。
「いや、本当に見事でしたよ、リーウェンさん。一時はどうなるかと思いましたが、さすがです」
「うん! ボク達びっくりだよ!」
「そりゃどうも」
そしてこうなった元凶も称賛を送る。
「いやぁ、さすがはフレンド! 僕はキミならやれると信じ――っ!?」
フェルトはぎゅーっとヘイヴンの足を踏みつける。
「何が信じてただ! てめえ、適当言ってこんなこと押し付けやがって……!! 忘れてねえからな! てめえが俺を推薦したこと!」
「や、やだなぁ。だから、協力したじゃないか――だだだだだっ!?」
「あ・た・り・ま・え・だ!!」
そんな風にヘイヴンに制裁を加えていると、タルターニャ達が来て、
「フェルト・リーウェン……」
「おっ? なに?」
バッと深く頭を下げた。
「主のお陰で父上は助かり、国も救われた。本当に感謝しておる。このとおりだ」
へーデルやコビト、占術師の婆さんに見習い占術師さんも一緒に頭を下げた。
「……まあ良かったじゃねか。陛下……いや、父さんが無事でさ」
「……! うむ!」
いい笑顔で顔を上げてくれた。
辛気臭い顔で居られるより、よほど良かった。
解決してやった甲斐があるというものだ。
推理漫画の主人公の気持ちってこんな感じだろうか?
途中で謎がわかっていく感覚もまた、中々面白かった気がする。
被害者がいるのに、不謹慎かなと思う。
「宰相さんも悪かったな。脅かすような真似してよ」
「……やはりアレはルドラー大臣の様子を窺うために、敢えて泳がしていたのですよね? ……中々心臓に堪えるので、今度このようなことがある場合はお控え下さい」
その脅かし役になったタルターニャも謝る。
「す、すまぬな、へーデル。妾は主を信じきれず、疑ってしもうた……」
「いえいえ、殿下。あの状況であれば、致し方ありません。驚きこそしましたが、もう大丈夫ですよ」
「そ、そうか」
ひとしきり謝り終えると、毒を盛っていた男に振り向いた。
「主も脅されていたとはいえ、重大な罪を犯したこと、自覚はあろうな?」
「は、はい……」
「ならば良い。然るべき罰を受け、反省するがよい。連れて行け」
「「は!」」
こうして毒を盛っていた男も連れて行かれた。
あの男に関しては、脅されてとのこと。
さすがに国王に毒を盛ったということだから、タダでは済まないだろうが、せめて少しでも刑が軽くなることを願うばかりだ。
「しかしこれで、やることが山積みだな」
ルドラーが長きに渡って計画していた国王陛下暗殺計画。
ルドラーから事件と計画のあらましを聞き出すことは勿論のこと、色んなところへの事情聴取、奴隷商との繋がりの調査、井戸の清浄化など、かなりの調査量になりそうだ。
「うむ。それはそうだが必要なことよ、じっくり調べていくさ。のぉ?」
「はい、殿下」
「ま! とりあえずこれで一件落着だよな? フェルト?」
「じゃねえか?」
ユーザが肩組み、そう尋ねてきたが、
「それがそうもいかん」
「「へ?」」
何故かまだ解決していないと、タルターニャの表情が曇った。
まだ何かあるのかと思っていると、申し訳なさそうに焦った表情で、髪をくしゃくしゃしながら、その解決していないことを語る。
「主らの要件じゃよ! 要件! 客人の要件を応えねばならぬところを、我が国の要件に無理矢理付き合わせてしまって……本当に申し訳ないっ!!」
先程の礼よりも深々と謝罪したが、フェルト達は同じことを思っただろう――今更? っと。
「わたくしからも本当に申し訳ありません。しかも我が国の問題まで解決して下さり、こちらとしては返す言葉も御座いません」
「外交じゃろ? 主ら、外交で訪れたのであろう? 本来であれば、父上が応対しておるのだが、知っての通り、病に伏せておるでな。えっとぉ……そのだなぁ……」
完全に申し訳ない気持ちでいっぱいのタルターニャ。
テンパり過ぎて、護衛騎士がひとりもいないにも関わらず、外交だと勘違いする始末。
やれやれと思うフェルト達は、この人達になら事情を話しても大丈夫だろうと、
「いえ、実は違うのですよ」
「「!」」
「実は――」
エメローラの口から、ブラックギルドに攫われ、ここまでたどり着いたことを語った――。
「――な、なんと……」
「そのようなご事情が……?」
「ええ。ですから、ここのギルドに同郷の者がいないか、確認しに来ただけなのです」
「そ。異国のお姫様を無事にご帰還させるためにはできる限り、信用性が高い方がいいからな」
まあこの人達も大分信用できる、というより信用を勝ち取ったからこそ、真実を語ったわけだが。
するとそれを聞いたタルターニャは顔を伏せて、何やらふるふると震えているかと思いきや、
「――そういう事なら尚更、早く語らぬかあ!! この馬鹿者共ぉお!!」
「うおっ!?」
「ブラックギルドから逃げおおせ、命からがら砂漠を越えてきたなど、言ってくれればちゃんと助けもするわい!!」
フェルト達の謙虚さに、申し訳なさより怒りが勝ってしまったようだ。
「えっと、何と言いますか。とても言い出せる雰囲気でもありませんでしたし……」
「開幕一番に『国を救って欲しい』だったからな」
「うぐっ!?」
フェルトが的確にツッコんでやると救われた立場上、言い返せないと言い淀んだ。
「そ、それはすまなんだ……」
怒ったり、落ち込んだり、大変だ。
そうさせてるのはフェルト達であるが。
「そういえばフェルト君? ギルドに行ったんだよね? 浄水の証言者を確認しに……」
「おう……」
フェルトは言いたいことはわかってると、聞かないでくれと表情が歪む。
ヘイヴンにも同じこと言われた。
「確認したの? 同郷者」
「し、してねーよ」
そんなこと、あの時点では頭に無かったフェルト。
事件解決の糸口を見つけたことへの高揚感の方が勝っていたからである。
「フェルト君ってたまにどこか抜けてるよね」
「まったくだね!」
「ぐっ……! う、うるさい!」
ヘイヴンに言われると、ぐうの音も出ない。
ヘイヴンにはもう、フェルトの【識別】は完全に見破られているためである。
フェルト自身の自爆発言のせいで。
「では今日はこちらで一晩休んでも良いとのことですし、明日にでも確認しに行きましょうか?」
「むっ?」
「「「「「えっ?」」」」」
エメローラの発言にフェルト以外は難色を示した。
「だな。ファバルス王国の連中は、これからあの小悪党のことを調べるので忙しくなるだろうしな」
「ええ。かなり計画的で関わった人達も多いでしょう。わたくし達がここに居てはかえってお邪魔でしょうし、我々の問題は我々で解決しましょう」
「だなぁ〜。また、砂漠越えか……。ん? どした?」
何だかクレア達の表情がおかしい。
何を言ってるんだと文句でも言いたそう。
「もしかして王女殿下達に期待してたのか? そりゃあ、俺達だって頼りたいけどよぉ……」
「このような事件が明るみになってしまった以上、あまりご迷惑はかけられません。皆さん、わかってください」
「「「「「ええええーーっ!!」」」」」
フェルトも恩を着せたんだから、見返りを求めていなかったと言えば嘘になる。
でも、語れば語るほどに事が大きかったんだから、仕方ないだろう。
ファバルス王国側からすれば、事件の調査や大臣の代わりを探すこと、それに毒が抜けたとはいえ、陛下も万全でもない。
抱える問題は山積みとなれば、フェルト達が見返りを求めるのは、酷というもの。
「お、お主ら……」
「「ん?」」
タルターニャはふるふると震え始める。
この震え方には覚えがあった。
「――貴様らあ!! どこまでお人好しなのじゃあぁああああ!! それとも恩を返させる気もない薄情者なのか!? 優しいのか酷いのか、ハッキリせい!!」
もう言ってることがめちゃくちゃだが、これ、フェルト達のせいなのよね。
「い、いやだって、忙しいだろ? これから……」
「それはそうだが、貴様らに構えぬほど余裕が無いわけでもないわ!! というか国を救ってもらった恩人に恩を返せないでは、こちらの面子も立たん!! それどころか罪悪感が酷いわ!!」
「よろしいのですか?」
「構わんと言うとろうがあ!! ええい! へーデル!」
「はい」
「確か、王族専用の飛空艇があったな? それで此奴らを祖国に安全に帰してやろうではないか」
「「「「「!!」」」」」
わーお、マジか。
しかし、飛空艇かぁ……。
しかし、フェルトの前世の死や飛空艇爆破を考えると、乗り物に対し、あまりいい思い出はない。
「すぐに確認して参ります」
「うむ!」
「よろしいのですか?」
そう尋ねたエメローラに、ぶすっと不機嫌そうな顔で圧をかけるタルターニャ。
「だから! 恩を返させぬ気か? 良いから受け取れというのじゃ!」
「わ、わかりました。ではご好意に甘えさせていただきます……」
「わかれば良い! フェルト・リーウェンもそれで良いな?」
「おう。砂漠越えはもうごめんだからな」
「じゃろうな。土地勘のある我々でも辛い時がある。異国の者からすればキツかろうて……。しかし! 飛空艇を使えば、砂漠などひとっ飛びじゃ! たとえサンド・ワームが出てこようとも問題はない!」
すると仕事の早いへーデルはサッと戻ってきた。
「どうじゃった?」
「それがですね、しばらく使っていなかったこともあり、メンテナンスが必要でして、旅路の準備等含めまして、一週間ほどお時間を頂きたく……」
「一週間じゃと!? 馬鹿を言うでない。話を聞けば、此奴らはもう攫われて大分経っておる。祖国の家族もさぞ心配しておるはずじゃ。もっと急げぬのか?」
「かしこまりました。ではそのようにお伝え――」
「いや。待て待て待て」
「「!」」
飛空艇を爆破させたフェルト達が思うのもアレだが、早急な準備とやらには嫌な予感がする。
「俺達、飛空艇ではえらい目に遭っててな。もし、飛空艇で帰らせてもらえるなら、万全を期してもらいたい」
「あー……そうじゃったのぉ。確か、爆破したとか?」
「ん! んんっ!」
その爆破を思いついたエメローラが咳払いをした。
「ああ。だから一週間くらいで、万全な状態までもっていけるんだよな?」
「え、ええ」
「なら待つよ」
「良いのか? 家族や友人らもさぞ心配しておるだろう」
「ここまで来れば今更だよ。それに俺達、外国にきたってわりに、まともに観光ひとつしちゃいない。一週間も時間くれりゃあ、ファバルス王国の観光くらいできるだろ」
「「「「「!」」」」」
フェルトのその提案に、クレア達の表情も変わる。
「それ! ナイス提案だよ! フェルト君!」
「確かに、どう帰るかで必死でしたから、そんな余裕はありませんでした……」
「安全に帰れる手段があるなら……」
「「「「「安心して観光ができるっ!!」」」」」
やっほーっと一同が喜ぶ中、それは名案だとタルターニャも一押し。
「ならば、お主らの滞在中の衣食住は我らに任せよ。観光案内もつけさせようではないか」
「良いのですか?」
「構わん! 構わん! むしろこれでも恩を返し切ったとは思うておらん。今まで苦労した分、存分に甘えるが良いぞ! な? へーデル」
「ええ。そうと決まれば、そちらの用意も平行して行います。では……」
そう言ってへーデルは去っていき、フェルト達もやっと腰を据えて安心できるかたちとなった。
やっとひと段落かな?
***
――フェルト達はファバルス王国の王宮でお世話になることとなり、先の提案どおり、観光したり、今までの旅の疲れを癒すこととなった。
そして数日後――。
「国王陛下がお会いしたい?」
「うむ。是非会いたいとのことじゃ」
タルターニャの父、もとい国王陛下の体調が戻ったらしく、まだ安静にしている必要性はあるようだが、話がしたいとのこと。
他国の姫であるエメローラを呼び出すのには納得だ。
他国との交流の場を逃す手はないだろう。
だが、
「王女殿下……。俺もです?」
「当たり前じゃ! 主は父上の命の恩人。直接礼を言いたいとのことじゃ」
一度、病に倒れ、真っ青な陛下を先にご尊顔してしまった手前、ちょっと会いにくいのだが、指名を断るのも悪いだろう。
フェルトはエメローラの顔に泥を塗らないためにも、ついていくことにした――。
「よく来てくれたな! 挨拶が遅れてしまってすまない」
「いえ。こちらこそ突然の訪問、お許し頂いたこと、感謝しております」
ベットの上にいる陛下は、かなり見た目が若く、ガッシリとした細マッチョの褐色男性。
暑い国というのもあり、毒でまだ弱っているとはいえ、前が開いた寝巻きであり、美しく割れた筋肉が見えている。
やはりこの国の人達は基本、肌の露出が激しい。
へーデルのスラッとした白ローブが大分落ち着いた印象に見える。
「我が名はグレス・ファバルスだ。よろしくな、異国の姫よ!」
かなり気さくで人当たりの良さそうな国王陛下のようだ。
スッと握手の手が出るあたり、余裕が感じとれる。
「オルドケイア大陸に位置する、王都バルデルセンより参りました、第一王女エメローラ・オルドケイアと申します。こちらこそ、よろしくお願い致します」
ふたりがグッと握手をして交わすと、今度はフェルトに握手と挨拶を求められる。
「えっと、フェルト・リーウェンと申します。どうぞ、よろしく……」
さすがに国王陛下とのご挨拶となると緊張してしまう。
するとグレスは、はっはっはと豪快に笑い、
「そう固くなるな、恩人! よろしくな!」
グッと引き寄せられ、バンバンと背中を叩かれた。
体力が戻ったようで何よりと思う反面、結構力が強いと少し痛がった。
「さて、改めて……」
フェルトを離すと、タルターニャと共に頭を下げた。
「我が国を救ってもらい、感謝する」
「ちょっ!? あ、頭を上げて下さい!」
王族ふたりからのお辞儀はさすがに荷が重い。
「リーウェンさんの仰る通りです。どうか頭をお上げください」
「いや、ちゃんと礼を示さねばならぬと思ってな。まさかルドラーの奴がこんなことを画策していたなど、微塵たりとも気付かなかった。それを見抜き、我が国の危機を未然に防いでくれたのだ、頭を下げぬわけにもいくまい」
「本当に感謝しておるぞ。フェルト・リーウェン」
「……ど、どうも」
フェルトが気恥ずかしそうに返事をすると、スッと頭を上げてくれた。
「本当に貴殿らには感謝しない。それにフェルト・リーウェン、貴殿の推理も見事に的中していた」
そう言って、一緒に来ていたへーデルに目配せすると、へーデルはぺこっと頭を下げ、捜査途中のルドラーが起こした事件について説明し始める。
「はい。ほとんどリーウェン殿の仰っていた通りの計画だったようです。浄水を行なっていた冒険者や証拠隠滅のために潜んでいたルドラーの部下からも聴取し、裏が取れて参りました」
浄水を依頼された冒険者は、フェルトの言った通りだと改めて確認が取れたとのこと。
あとルドラーの部下が数人ほど動いていたそうで、井戸に含まれたダイオ・オルチンや奴隷商との密会、それこそ冒険者への依頼等も行なっていたらしい。
そして毒を盛っていた厨房の男性も、フェルトの言った通り、脅されていたということが明確化した。
そして奴隷を使った薬物実験もやはり行われていたようで、複数人の奴隷が見つかった。
所有者はやはりルドラーとなっており、その実験を行なっていたのも、ルドラーの部下のようだ。
繋がっていた奴隷商は、さすがにブラックギルドである笑顔の娯楽提供者のような大物ギルドではなかったようで、パパピニアを拠点とする犯罪ギルドだったようだ。
「……どうやらルドラーはパパピニアの者と繋がっていたらしく、今、事を慎重に調査しているところだ」
「そうですか……」
何だか大変そうだ。
やはりちょっとは遠慮するべきだっただろうか。
「パパピニアも悪い国ではないのだが、どうにもきな臭い連中もいるでな、そのあたりを慎重に炙り出したいところだ」
「大変ですね」
「それはそうだが、知らぬ間に国が侵略されていたかも知れぬことを考えると、これで良かったのだ。ここからは我々が何とかするさ。このように対策が取れるのも、ルドラーの策略を見破った貴殿のおかげだ。フェルト・リーウェン。改めて感謝するぞ」
「はい……」
「よし! こんな辛気臭い話はここまでとしよう! 今日呼び出したのは他でもない、礼をさせて欲しい! フェルト・リーウェン!」
「えっ!?」
目をキラキラさせながら言うのはやめてほしい。
「礼ならちゃんと受け取ってますよ。滞在中の衣食住に、安全な帰り道まで用意してもらってますから……」
「何を言うか! そんなもの、礼をした内に入らん!」
「えっ?」
「異国の客人を迎えただけのこと。命の恩人でありながら、国の恩人たる貴殿らに、まだまだ返しきれぬ恩がある」
「そ、そう言われましても……」
逃げ道ありませんかね、エメローラ姫殿下ぁ〜!
ちらりと視線を促すと、エメローラはひと息。
「彼は当然のことをしたまでのことですし、わたくし達も十分なもてなしを受けました。お気持ちだけでも十分です。それにこうして友好的な関係にもなりました。これからも仲良くして頂ければ幸いというものです」
国がらみでこれからもご贔屓に、みたいな濁し方をすれば、向こうも引き下がる大作戦。
良いと思います! さすがローラ様!
「いやいやいや、それはむしろこちらからお願いしたいこと。我が国には見た通り、砂漠に囲まれ、中々外交が難しく、このような機会を頂いたこと、こちらこそ感謝でしかない。だからこそ、ちゃんと礼がしたいのだ」
ダメでしたと微笑むエメローラ。
「フェルト・リーウェン! 望むものを言ってみよ!」
「きゅ、急に言われましても……」
「何でも良いぞ。何だったら婿に来るか?」
「「「「!?」」」」
何を言い出すんだ!? この国王!
「へ、陛下!」
真っ先に声を上げたのは、勿論へーデル。
「何だ? これほど知恵が回り、聞けば奴隷商のボディガードと互角に渡り合うほどの剣の腕も持つという。娘の婿にもってこいだろ!」
「いや、しかしですね……」
「俺、平民だし。それに結婚なんて……」
それ以前に荷が重過ぎて潰れそうだ。
あまりのことに逆に冷静になれるフェルト。
「そうか? 妾は別に構わんぞ」
「「「!?」」」
「おおっ!」
本来、反対しなければならないはずのタルターニャが、何故か乗り気だ。
陛下も「おおっ!」じゃない。
「主の推理も見事だったが、それを大胆不敵に怯むことなく、ルドラーに仕掛けていた様は、確かに連れておった女子達の羨望を集める理由も納得というもの。妾もひとりの女子として中々頼もしく見えたぞ。確かに婿に迎えるならば、頼もしく強い男が良いしな」
評価が高いのは有難いことだが、王族の婿なんてまっぴらごめんだと叫びたいフェルトだが、
「あの……さすがにそれはちょっと……」
さすがにエメローラもちゃんと止めてくれるようだ。
「ならぬか?」
「あ、当たり前ですよ。他国の平民を婿に取るというのはさすがに……」
へーデルも強く頷いている。
「主はどうじゃ?」
「お気持ちは有難いですが、さすがに荷が重過ぎて、それこそ倒れてしまいそうです」
「そうか? 残念じゃ」
了承したら、本気で結婚させられるところだった。
この親子、大丈夫だろうかと不安になる。
「では他にどのような礼が良いのだ?」
「そうじゃ! そうじゃ! 妾達も納得の礼をさせてくれ」
「う、うーん……」
そうせがまれても、中々出てくるもんじゃない。
急に王族から礼をさせてくれと言われても、自国の王様ならともかく、他国の王様に何かしらを強請るというのは気が引ける。
フェルトはファバルス王国に何かあったかを巡らせていると、
「おっ? そうだ」
フェルトはマジックボックスからある物をへーデルに手渡す。
「これは?」
「何だか墓守の一族の鍵だってさ」
フェルトが手渡したのは、チェンナに教育という名の強姦を行おうとした強盗団から取り上げた魔石。
「ああ、ギルドの方から神出鬼没の強盗団について聞いていました。確か、そのリーダーが墓守の一族だったとか……」
「そ。そいつをとっちめた時に、ちょっと拝借したもんなんだけど、地下遺跡みたいなところで、もしかしたらユースクリア王朝の何かしらの発見に繋がるんじゃないかと思って……」
「はあ……」
取引して取ったということは黙っておこう。
「それで何だけど、ユースクリア王朝跡地の情報が欲しいんだ」
「!」
ファバルス王国側の人らは随分と珍しいことをと拍子抜けした表情を見せる中、エメローラは何やら思うことがある表情を浮かべている。
「何でもいいんだ。昔、何があったのかとか、どんな文化が栄えてたとか、その地下遺跡で見つかったこととか、優先して教えてほしい」
「……そんなことで構わんのか?」
「いや、そんなことって……。ユースクリア王朝跡地の情報とかって、国家機密レベルのもんじゃないんです?」
「まあ確かに、大昔の魔術の記録等があるかもしれないと、物によっては価値のある情報もあるかもしれないが、今までそんなものは中々出てこないからな」
やはり『大罪の神器』の情報は少ないようだ。
「とはいえ、記録がないでもない。へーデル、確か王宮の書庫に詳しく調べたものがあったな」
「はい」
「それを彼に見せてあげるといい。確か、当時の魔法技術について書かれていたものがあったはずだ」
「!」
当時のってことは、『大罪の神器』を作ったとされる錬金術についても載っている可能性は高い。
少しでも役に立つ情報になるといいが。
「でもそんな魔法技術についてのもの、見せてもらっても良いのですか?」
「構わないさ。正直、今の魔法の元祖のようなものであり、こう言っては先人達に失礼だが、古臭い魔法ばかりで、活かせるようなものではないよ」
「そうですか……」
エメローラの言う心配の種もわかる。
フェルト自身としては、『大罪の神器』を作り上げた技術の一端なのだから、その警戒は正しい。
だが王宮魔術師達が調べても、その結果しかわからなかったあたりを考えると、その心配もなさそうだ。
「しかし、主は物珍しいのぉ。そんな若いのに、あんな遺跡に興味があるのか?」
「そ、それは王女殿下が言うセリフですかねぇ……」
喋り方が老人臭い挙句、この国の王女ならユースクリア王朝跡地について、その評価はマズイ気がする。
「まあ人の趣味はそれぞれだ。だが礼というにしては、やはりと言う気が……」
「ま、まあまあ! 一気に返そうとされても困りますし、少しずつ……ね? これから関係を深めていくつもりなんでしょ?」
フェルトがそう言うと、グレスとエメローラはお互いに友好的な笑みを浮かべた。
「その通りだとも」
「はい。折角の機会ですもの、これから互いに友好的な関係を築きたいものです」
ふたりは改めてよろしくと、関係を強固なものにするように、固く握手をするのであった。




