34 ファバルス王国流行病事件 解明編2
「な、なるほどのぉ。だから流行病の占術を聞いた者らを集めよと言うたのか。外で見張りをしていた衛兵も含めて……」
フェルトは『集めよ』なんて偉そうには言わなかったが、確かに頼みはした。
「ああ、この犯行は流行病の未来予知を聞いた、この部屋にいるファバルス王国民だけだからな」
「ふ、ふふふ……」
すると何やら不敵な笑みが聞こえてきた。
「――ふははははーーっ!!!!」
何がおかしいのか、ルドラーが大笑いした。
勿論、それにはこんな陰謀が巡っていたと知らされたタルターニャの癇癪に触った。
「何を笑っておる、大臣! このような卑劣なことが行われたのだぞ!? よく笑ってなどいられるな!?」
するとルドラーは、これは失礼と頭を下げる。
「……確かに、異国の少年……フェルト・リーウェンだったかな?」
「ああ」
「確かに陛下より毒が見つかった事実がある以上、誰かしらの手によって、そのような陰謀があったかもしれません」
「かもだと?」
「ええ。異国の少年よ、貴方は少しばかり考え過ぎではありませんかな? ……よくお考え下さい、殿下。彼は毒を飲ませ続けたなどと言っておりますが、その時期を見計らって、ちゃんと効果のある毒を飲ませたという可能性だってありますよ。それにいくら陛下を殺すつもりであっても、毒を飲ませ続けるというのは、その犯人にとっても精神的苦痛になるのではありませんか?」
「つまり長期で続けることは難しいと?」
「左様。それにひとつ、彼の推理には大きな見落としがありますよ。それは――」
「「陛下と同じ症状が出た国民が――」」
「!?」
「いることにはどう説明するのです? 陛下と同じ症状が出ていたとするならば、同様の毒をわざわざ飲ませに行ったのですかぁ? ……だろ? 大臣」
フェルトはルドラーが言いそうなことを予想し、煽るように喋ってみせた。
するとエコーでもかかったように、一部重なった。
「う、うむ」
ルドラーはまさか、それもわかっているのかと疑いの眼差しを向ける中、ヘイヴンは鼻で笑い、
「そう言い張れるということは、フレンドはもうそのトリックには気付いてるってことだよね?」
「ああ。つーか、お前だって俺の推理を聞いた時点で気付いたろ?」
「まあね」
フェルト同様に、ヘイヴンもそのトリックは見破ったと断言した。
「た、確かに陛下のあの症状が毒である以上、同様の症状が出た国民達も同じように毒を飲まされた可能性がありますが、これだけの人数をどうやって……?」
へーデルは発症者リストを手に持ちながら尋ねてくるが、フェルトとヘイヴンは少し呆れた表情を浮かべた。
「いや、宰相さん。あんたも少し考えればわかることだぜ?」
「そうですよ、宰相殿。よく思い出して下さい」
「わ、わたくしがわかる、ですか?」
「ああ。何だったら、コビトさんもわかるはずだ」
「ぼ、僕もですか?」
ふたりは何か心当たりがないかと、悩んでいる。
話が進みそうにないので、
「……井戸で発見されたのは?」
「「ダイオ・オルチン……」」
ほぼ答えを教え、それを知るふたりは声を合わせて答えた。
すると、
「!!」
「ま、まさか……!!」
ふたりはフェルトに確認を取るように、視線を素早く向けた。
「ああ。あの井戸の毒は、敵国の陰謀でも奴隷商の奴らの不法投棄でもない。陛下の暗殺を企てた奴が流行病に見せるための工作だったんだよ」
「そ、そんな……」
何の話かとわからない人も一部いたので説明。
「ついさっきのことだが、この発症者が多い箇所の近くの井戸からダイオ・オルチンが見つかった。だよな?」
「え、ええ。リーウェン様が見つけ、僕が調べたところ、ダイオ・オルチンであることが確認されました」
「犯人はそのダイオ・オルチンをぶち撒け、ここの井戸の使用者を陛下と同じ症状を出すようにしたのさ。井戸の水はかなり深くなっており、元々桶で下まで降ろして使う物だ、わざわざ中を覗き込んで確認する奴もいないだろう」
「で、でもその毒で侵された水は、色とか違うんじゃ……」
「それはないよ、エルマ嬢。ダイオ・オルチンはそもそも混入したことをわかりにくくするために、人工的に作られた毒だ。色は透明。混じっていてもわからないさ」
ヘイヴンはそう言いながらフェルトを見た。
フェルトは、確か誤魔化すために『水の色かな?』って言った気がすると青ざめる。
……じ、自爆だったかぁ。
「ん、んんっ! と、とにかく今までの説明を聞けばわかるが、犯人は流行病の偽装工作に余念がなかった。流行病時に陛下が発症するだけでは信憑性が足りないと判断した犯人は、この方法を取り、国民達にも同じ症状が出れば、より流行病だと強く誤認させられると踏んだ」
「症状の出た時期がバラバラだったりしたのは、水と混じっていたり、毒味係の方々同様、個人差が出た、というところですか……」
「あ、ああ。その通りだ、ローラ。そうすれば占術を信じるこの国の国民達やアンタ達全員、流行病だということしか判断できなくなり、犯人とっても副産物である【鑑定】に引っかからないって現象も起きたってわけだ」
「では、我々が調べた時にはそんなものは出ませんでした。それについてはどう説明されるおつもりか!? さすがに井戸水を調べるのに対し、流行病だという思い込みはありませんぞ」
それは確かにへーデルの言う通りだが、あまりのことに冷静な判断ができていないようで、簡単な見落としをしている。
「宰相さん、もっと柔らかくいこうぜ。浄水したんだよ」
「浄水?」
「水を綺麗にしたってこと? フェルト君」
「ああ」
むしろそれ以外であれば、井戸は正常だったと言い張ったへーデル、アガル、コビトが犯人ということになる。
「ですがそんな都合の良く……」
「言ってたよな? 定期的に調べてたって……」
「!」
「定期的に井戸を調べてたんなら、その前日までに浄水しとけばいい。幸い、優秀な水魔法使いなら毒の汚染を簡単に取り除けるんだろ?」
フェルトは先程、王宮魔術師に指示をしていたへーデルに尋ねると、「え、ええ」と返事をもらった。
「ここにいる国の人間ならわかるはずだ。井戸を調べるつもりなら事前に連絡もするだろうし、流行病の他原因を探すということだって、ある程度想定しておけば浄水は可能だ」
「つまり王宮が正式に調べる前に浄水してしまい、王宮の調査が終えた後に、再びダイオ・オルチンを入れた……」
「ああ」
「つまり犯行はこの中の水魔法が使える人物……」
「いや、浄水したのは別の人間だ」
犯人ではないのかと驚く一同だが、ここまで聞いたヘイヴンは、フェルトの事前の行動が浮かんだようだ。
「……なるほど。冒険者の方かな?」
「おう。その通りだ」
「冒険者?」
「ああ。犯人がやるのは目立ち過ぎるから、代役を立てたんだよ。おそらくは使いの人間でも使って、仕事ができそうで、この町を拠点にしている冒険者にこう言ったのさ――『私は王宮の使いの者だが、ここの井戸に異変がありそうなんだ、調べてくれないか? もし何かしら異変があれば、迅速に解消してほしい。あとその報告は私が直接連絡をするから、このことは内密に。誰かの耳に触れれば、町がパニックになりかねない』と、相応の金額を握らせて言ったんじゃないか?」
「なるほど。フレンドの言う通りであれば、その冒険者は浄水を行いつつ、黙るしかない」
「どういうことですか?」
「この地に馴染みのある冒険者が、そう依頼されれば、生活水である井戸を調べて解決するだろうし、巨額の金額を渡されたこと、混乱を招きたくないこと、王宮と下手な関わりを持たないこと、これからもこの地を拠点にするつもりならば、冒険者は下手に口を開くようなことはしないだろうね」
「何せ依頼主は、王宮の使いの者と言ってる。王宮にはそいつが連絡すると思うだろうし、怪しかったら、深追いをさけるため、向こうの依頼のみ関わるだろうからな」
冒険者は色々あるが『小さな冒険』、つまりは一般の冒険者はあくまで正規の騎士とかではない。
自分の自由や自分の身を守ることを考えれば、下手な関わりは持たないだろう。
「でもフェルト君。随分と具体的な言い回しだったね」
「具体的も何も俺、本人に聞いたし」
「「「「「!?」」」」」
「……やはりね。フレンド、ギルドに向かった時点でわかってたんだろ?」
「ああ。ギルドに行って、真っ先に受付のねーちゃんにこの国を拠点として働いてる水魔法が得意な冒険者はいないかって聞いたよ。そしたら、そう話してくれたぜ」
フェルトは、とあるメモをタルターニャに手渡す。
「ほら。これがその冒険者の名前と活動区域だ。基本的にこの国に居るようだが、たまに別のところに仕事に行く機会もあるそうだから……。俺の話が本当かどうか、聞いてみるといい」
「う、うむ」
「しかし、フレンド。よく聞き出せたね。先程の考察通りなら、他言しないと思うが……」
「あん? 俺も似たような奴に似たような依頼をされてな、どうしたものか悩んでるって、フード取って別大陸の人間だと強調しながらホラ吹いたら話してくれたぜ」
別大陸の人間にまで依頼してたのかと、油断させてやれば、その冒険者も語ってくれるだろうと踏んだ結果だったりする。
すると一同は、よくやるよと複雑な表情でジトッと見てくる。
「……? なに?」
「いや、フレンド。見事な騙し打ちだよ」
確かに嘘はついたが、それは調査のためだ、そんな顔をされるのは心外だ。
「とにかくこれで陛下と同じ症状が出た国民達の答え、納得できましたかな? ルドラー大臣?」
「う、うむ……」
王宮の使いと名乗る人物がいたという冒険者もいると語られれば、納得せざるを得ないと文句を言っていたルドラーも黙った。
「……許せぬ」
「ターニャ?」
「許せぬぞ! 父上を殺そうとした挙句、その父上の死を偽装するために我が国が誇る魔法を汚し、更には国民にまで手をかけるとは……!!」
ガタンと今度はタルターニャがテーブルを叩き、その場で立ち上がる。
「言え! フェルト・リーウェン! そこまで見抜いた主のことじゃ、もう犯人もわかっておるのであろう? 言うのじゃ!!」
「……それじゃあ犯人について考察しますか?」
「そ、そんな悠長な……! 直ぐにでも――」
「まあまあ王女殿下。陛下は先程言った通り、もう命に別状はありませんし、犯人も流行病の未来予知を見た、ここにいる者達で間違いありません。焦らずとも問題ありませんから……」
フェルトは興奮するタルターニャを宥めながら、そう語るが、不安そうな顔は拭いされないようだ。
「そ、そうは言うがなぁ……」
「まあまあいいじゃないですか、王女殿下。折角なら犯人にも味わってもらいましょうよ」
「な、何をじゃ?」
「陛下が毒で苦しめられ続けたようにですよ。犯人にとってこの状況は非常に嫌な状態。精神的にかなり負担になっており、これだけの監視もいるのです、下手な行動は犯人だと名乗るようなもの。じっくり追い詰めてやりましょうよ。ね?」
「な、なるほど。だからわたくし達もこの場に居合わせているのですね」
ナルヴィアは、フェルトが説得してここに居てもらっている。
その理由がわかったと、少し動揺しながら語ってくれた。
「と、言うわけで、犯人候補を絞っていこう」
フェルトはくるりと振り返り、ファバルス王国の容疑者達を見る。
その一同は、ごくりと息を呑んだ。
「よし、リベンジといこう! ヴォルノーチェ兄妹」
「えっ?」
「なに?」
さっきの【鑑定】の盲点では不正解だったから、そのリベンジにと質問する。
「この犯行を行うために必要なものってなーんだ?」
「えっとぉ……」
「ふむ……」
ふたりで相談を始めると、すぐに答えが出てきた。
「お金! お金じゃないかな? リーウェンさん」
エルマが自信満々に答え、同意見だと言うかのように、横でガルマが頷いた。
「正解! 陛下や実験用の奴隷に対する長期に渡るダイオ・オルチンの接種、冒険者に支払う口止め量込みの依頼金など、この犯行にはかなりの金額が必要になる。つまりは財力の無い人間は容疑者から外れる。つまり……」
フェルトは先ず、見張りをしていた衛兵に視線を向けた。
「この中でもっとも所得金額の低そうな衛兵さんふたりと、見習いの占術師であるふたりも除外される」
それに該当する一同は、ほっと表情が和らいだ。
犯人でなくとも、疑われるのは心地良いものではないだろう。
「占術師はこの国では重宝されているとはいえ、見習いにそんなに金額は支払われないだろう」
「え、ええ」
とは言え、給料低いだろと言われるのは複雑だろう。
「ハイハーイ!」
「ん?」
次は誰に質問しようかと思っていたら、ボクが答えたいとクレアが手を上げた。
「んじゃあ、クレア。他に何が必要?」
「人材!」
「ほう? その心は?」
自信満々に手を上げたくらいだ、理由もわかるはずだと尋ねてみる。
「これだけの計画的な犯行をひとりでやれるとは思えない。実際、冒険者には王宮の使いと名乗る人物がいたわけだしね。それにこの部屋の人達、つまりは流行病の未来予知を対策を含めて聞く人達だよ? ほとんどがこの国の権力者の人達だから、色んな人材、人脈を利用するかなって」
「正解だ。実際、ここにいる犯人は計画を立てただけで、ほとんどは部下がやっていたり、先程の冒険者のように知らず知らずに協力していた連中らだろうからね。なので、そんな人脈の少なそうな人物も除外される」
衛兵や見習い占術師もここに該当するが、
「婆さん、アンタはこの国でも優秀な占術師なんだろ?」
「え、ええ」
「だがそんな婆さんでも、宰相や大臣といった方々に比べれば、そんな人脈があるとは考えにくい。だから婆さんも容疑者から外れる」
「あ、ありがとうございます」
緊張感に耐えられなかったと言わんばかりに、ゆっくりと頭を下げながら、礼を言わせてしまった。
ごめんな、婆さん。
「そして王女殿下……」
「むむっ!?」
「王女殿下は人脈はあるだろうが、ダイオ・オルチンを買い付けるための奴隷商みたいな後ろ暗い連中らと人脈を取れるとは考えにくいし、そもそも色んな人達から守られて、実質的に監視されてる王女殿下も容疑者から外れる」
「当たり前じゃ! 馬鹿者! 自分の父を殺そうとする娘がいてたまるか!」
現代社会でも、残念なことに家族だけど殺害するなんて事件は、よくテレビ等で見かけるなと、探せば割といると思うフェルトだった。
「と、なってくると容疑者は……」
「この国で、陛下の次に権力のあるへーデル宰相か……」
「……」
「外部との接触の機会も多く、こちらも権力のあるルドラー大臣か……」
「……」
「騎士団長という国の戦力であり、その功績などから人脈があるアガル騎士団長か……」
「なっ!? わ、わたくしでありますか!?」
「……この三人の誰かってわけだ」
「な、なんと……」
タルターニャは頼りにしていた三人の中に犯人がいると言われ、さすがに動じずにはいられなかった。
そして、アガルが真っ先に弁明する。
「で、殿下! 誓ってわたくしが犯人ではありません! 陛下には多大な恩義があります。手にかけようなどとは……」
「ハン! アガル。そんなこと、我々とて同じことよ。なあ? へーデル宰相?」
「ええ」
いくら追い詰められた状況とはいえ、そりゃ、簡単に犯人ですよとは名乗らないだろう。
この犯行を行なった犯人はかなり計画性のある人物。
こんな状況になっても、自分が犯人ではないと思わせる抜け道を用意しているだろう。
だが――ま、逃す気がないから、全員集めたわけだけど。
「まあでも安心しなよ。どうせすぐに犯人はわかる」
「なに?」
「なあ? お三方。最初に戻るが、陛下に毒を飲ませるなんてこと、アンタ達三人にできると思うか?」
「「「……」」」
三人はお互いの立場と認知度を考えると、答えは即決だった。
「できませんなぁ。料理に混じっていたということですから、わたくし達の誰かが陛下の食事に近づいた時点で、かなり怪しまれますな」
「ルドラー大臣の言う通りですね。わたくし達がわざわざ陛下の食事に近付く理由もありませんし……」
「な、ならば! 我々も容疑者から外れるのでは……!」
容疑者から外れると意気揚々のアガルをフェルトは落胆させる。
「いや、容疑者からは外れねえよ。さっきクレアが言ったろ? この犯行はひとりでできるものではないし、俺はさっきこの犯人はほとんど計画を立てただけだとも言った。それらを考えると、毒を飲ませ続けた人物は別にいる」
「「「「「!?」」」」」
「な、なんじゃと!?」
「そんなに驚くことでもないだろ、王女殿下。ルドラー大臣の言った通り、ここにいる三人が厨房に行ったり、配膳している使用人に近付くような真似は犯人だと名乗っている自殺行為だ、そんなことはしない。とすれば……」
「厨房にいる人物か配膳を行なっている使用人の中に協力者がいる。……で、合ってるかな? フレンド」
「ああ、その通りだ」
フェルトはそう答えると、
「おい! 聞こえてるな?」
この会議室には入り口が二箇所あり、フェルト達が話し合っている場所より、遠い入り口に向かって叫んだ。
「「は! 聞こえております」」
するとふたりの衛兵が返事をした。
「フェルト・リーウェン……、何を……?」
「あん? 決まってんでしょ、王女殿下。その毒を飲ませ続けてた張本人がいるんですよ」
「「「「「!?」」」」」
元々この話をするつもりだったから、色々用意してたんだよね。
「話をする前からあそこの扉前に衛兵つけて待機させてましたよ」
「そ、そうだったのか……」
「てことはフレンド。その毒を飲ませ続けた人物は厨房にいたのかな?」
ヘイヴンはフェルトが調理室を調べたいと言っていたことを思い出しての発言だろう。
「ああ。その出す料理に合わせて毒の量を調整する必要があることを考えれば、厨房に立つ料理人が一番適任だからな」
「なるほど……」
「待って下さい、リーウェンさん。わたくしが言うのもアレですが、王宮で王族に料理を作るというのは、料理人にとって名誉なことのはず。たとえやらなければ殺すと脅されても、そんなことをするとは……」
確かにエメローラの言うことは尤もだが、
「その殺すと脅す対象が自分であれば、拒否もするんだろうがな……」
「ま、まさか……」
「ああ。俺は事前に聞いたが、家族を殺すと脅されたそうだ」
「……!」
「自分の命ならともかく、大切な家族を天秤にかけられたら、さすがにな……」
しかも家族を人質に取られているならば、たとえ精神的に毒を飲ませ続けることが酷なことでも、皮肉だがやり遂げることができるだろう。
「な、なんと卑劣な……!」
タルターニャの言う、そんな卑劣な奴にも引導を渡せるというものだ。
「とはいえ、浄水を行なった冒険者の時のように、使いの人間はさすがに回さなかったろうぜ」
「というのは?」
「犯人にとって、陛下を流行病に見せかけて殺害することは重要視される。つまりはこの毒を飲ませ続けるという行為は最も重要だ。本来であれば、自分がしたいだろうが、立場上それは難しい」
容疑者の三人を見ながらそう語る。
「とすれば、どういう行動に出るか。答えはシンプル。絶対に裏切らないようにすればいい」
「そのための脅し……。ですがそれは使いの者にやらせなかったと言いましたよね?」
「ああ。その毒を飲ませ続ける奴が脅しの内容を強く連想させるにはどうすればいい?」
「わかったよ、フレンド。権力のある人物が直接脅せばいい」
「「「「「!!」」」」」
「その通ーり……」
「なるほど。ということは脅された人間もある程度、想像できるなぁ。気弱で考え込むような若手の料理人であれば、この中の犯人に直接脅されれば、言うことを聞きそうだね」
「ああ……」
そしてユーザをはじめ、皆が気付いた。
「つまりさ、フェルト。その毒を飲ませてた奴は黒幕の顔を見たってことか!?」
「顔を見たどころか、声も知ってるだろうぜ」
すると全員の視線が、その毒を飲ませた人物が待機している扉に向かう。
「では、入ってきてもらおうか」
一同、息を呑んだ。
「衛兵さーん! その犯人さんと一緒に入ってきてくれ」
「「は!」」
ガチャっと扉が開き、その返事をした衛兵と共に犯人も入ってきた。
「ぬ、主……」
その男に見覚えのあるタルターニャ達は絶句する。
ヘイヴンの読み通り、気弱で若い料理人だった。
するとその彼は崩れ落ち、頭を地面に擦りながら、跪いた。
「ほ、本当に……申し訳ありませんでしたぁ……!! ぼ、僕だって、本当は……本当は、この国を大切になされている陛下に……そんな物を飲ませたくはありませんでしたが、でもぉ!! でもぉ……家族の命を奪うと言われてしまうと……」
彼は涙ながらに謝罪の言葉を口にした。
「しかし、フレンド。よく彼だと気付いたね。そんな脅しをされているなら、自白させることも難しかったんじゃ……」
「ん? まあ厨房の中で、一番よそよそしい態度をとってからな。そのあと説得したんだよ」
本当は【識別】を使って毒を飲ませてた犯人だと判断し、それとなく察しているような発言で説得、自白させたんだがな。
そしてフェルトはその男に近付き、
「それだけ涙を流して後悔できるなら、アンタを脅した真犯人が誰か、教えられるな?」
「は、はい。ですが……」
「大丈夫だ。その犯人がこの中にいるのはわかってるから、何かしようものなら、すぐにでも止めに入るさ」
そう語ると、フェルトはタルターニャに向かって振り向いた。
フェルトが振り向いた理由を察したタルターニャは、彼を説得する。
「信じよ。主がここにおる犯人を名乗ろうとも、主の家族には一切、手出しをさせぬとこの――タルターニャ・ファバルスが誓おう!! だから話せ! 父上を手にかけようとし、主の家族を殺すと脅した真犯人を!」
フェルトはその男の前から退き、容疑者の三人を指差しやすいようにした。
「ぼ、僕に陛下に毒を飲ませよと指示した犯人は……」
男は恐る恐る、ゆっくりと手を上げていく。
そして、ひとりの人物に指が差された。
「――へーデル宰相……。貴方です」




