33 ファバルス王国流行病事件 解明編1
「失礼します!」
ふたりの衛兵が会議室へと入ってきた。
「うむ」
するとふたりの衛兵は会議室に集まった面々を見て、場違い感が漂っていることを悟る。
「あ、あの殿下。我々はどうして呼ばれたのでしょう?」
当然の反応だった。
タルターニャ王女殿下、へーデル宰相、アガル騎士団長とフェルト達オルドケイア人達に加え、
「それは我々も同じくであります、王女殿下。あたくしを呼んだ理由は何で御座いましょう」
黒いローブを頭から被り、如何にも占術師と言わんばかりの老婆がゆったりと語る。
その両隣には同じような黒ローブを身につけた見習い占術師がいる。
更には、
「わたくしからも同じことをお聞きしたい、王女殿下。こう見えても忙しいのですがね」
ルドラー大臣にもお越し願っている。
「まあ皆の言いたいことはわかる。しかし妾にもわからんのだ」
タルターニャは、ちらっとフェルトに視線を寄越した。
「フェルト・リーウェンが、『流行病の未来予知』を知った者達と、その警備を行なっていた人物を全員集めろと言うのでな」
するとルドラーは不服そうな視線をこちらに向けて、ハンっと鼻で笑った。
「王女殿下、言いましたよね? 今は異国の人間になど構っている余裕は無いと! ……失礼致します」
ルドラーは席を離れようとするが、
「まあ待てよ、大臣さん。これから陛下達が侵されていた病気について語ろうってんだ、この国のため、陛下を治すためってんなら、ここにいる理由にはなるだろ?」
「!?」
「や、やはり、わかったのだな? 父上の病気の正体が!?」
「ああ、もうバッチリよ!」
フェルトはグッドポーズにウインクまで決めて、大船に乗ったつもりでいろと、タルターニャにアピールするが、その横でエメローラが袖を引っ張ってくる。
「何だよ?」
「大丈夫なんですか? そんな大見得きっても……」
「大丈夫、大丈夫。任せなって」
役者も揃ったところで、フェルトは早速説明を開始する。
「みんな、わざわざ集まってくれてありがとう。これから、この国で起きていることについて説明を始める」
「ちょっと待ってくれるかのぉ?」
「何です? 王女殿下?」
「病気の原因の話をするならば、コビトの奴も呼ばねばなるまい。呼んで来なくて良いのか?」
医術師であるコビトを呼ばねばならないというのは、本来であればその通りなのだが、
「いや、あの人はどうせすぐに来るさ。それにあの人がここにいてもあんまり関係ないしね」
「は? それはどういうことじゃ?」
「単刀直入に言うぜ。ファバルス国王陛下は流行病にかかったわけでも、何かしらの病原菌があったわけでもない。ただ――毒に侵されていただけなんだ」
「「「「「!?」」」」」
一同、当然の反応。
衝撃の真実に困惑した表情を隠さずにいる。
「俺が今から説明するのは――国王陛下暗殺未遂事件についてだ」
「こ、国王陛下……」
「暗殺未遂事件……!?」
するとルドラーが強く机を叩き、その場で立ち上がった。
「馬鹿を抜かすなっ! 小僧っ!」
「ひっ!?」
何故かチェンナが悲鳴を上げた。
「陛下に毒が盛られていただと……! 馬鹿も休み休み言え! 貴様の国も王族によって成り立っておるからわかるじゃろう! 国にとって王族の身は命ぞ! それを管理する我々に落ち度があったと抜かすか! 無礼にもほどがある!」
「控えよ! 大臣!」
「しかし、殿下!」
「妾がこの者に調べるよう、依頼したのじゃ。文句を言うのもわからんではないが、抑えよ」
納得がいかないと言った表情のまま、ストッと座り直すと、へーデルからも一言もらった。
「リーウェン殿。ルドラー大臣ほど怒鳴るつもりはありませんが、わたくしからも心外だとお伝えさせてもらいたい」
「へーデル……」
「殿下。我々は厳重な体制の元、食事等を管理させてもらっております。決して毒物が含まれているものを殿下や、ましてや病床に伏せられておられる陛下にお出しするなど、言語道断でございます。ですからリーウェン殿、陛下が毒に侵されていたなどと、ご冗談は……」
「冗談? ハッ! 違うね。俺は本当のことを言ってるだけさ。そして、その報告はそろそろ……」
するとフェルトの予想通り、激しく扉を叩く音が聞こえる。
「あ、あの……よろしいでしょうか?」
「コビトか? うむ、入れ」
「し、失礼します」
おどおどと入ってきたコビトに苛立ちを見せるルドラーが噛み付く。
「貴様、何をしに来た? 陛下の治療もロクに出来ず……」
そのコビトが自信が無さそうに報告する。
「そ、それなんですが……」
「?」
「リ、リーウェン様の仰る通りの薬を飲ませたところ、へ、陛下の症状がみるみる治ってきており、現在、身体を【鑑定】したところ、もう命に関わるようなことはありません」
「な、なにぃっ!?」
タルターニャは椅子が倒れるほどに素早く立ち上がるとコビトに詰め寄った。
「そ、それは本当か!? ち、父上が……」
「は、はい。勿論、身体は大分弱っており、体力、気力共にまだ回復してはおりませんが、命に関わることはありません」
「……! そ、そうかぁ。良かったぁ……」
へたっと身体の力が抜けたタルターニャは、その場で座り込み、ローラが激励する。
「ご無事で良かったですね」
「う、うむ……!!」
「し、しかしコビト殿。何を陛下に飲ませたのだ?」
「えっと……げ、解毒薬です。リーウェン様が仰る毒に効く解毒薬を飲ませたら、すぐに回復なさいました」
「ま、待ってくれ。ということは……」
「ああ。これで陛下が毒を盛られていたって証拠になったろ? 解毒薬が効いた挙句、この国の医術師が保証もしてる。だろ?」
「は、はい。陛下は間違いなく、毒に侵されておりました」
「ば、馬鹿な……!」
フェルトは陛下の謁見の際、敢えてへーデルは中に入れず、コビトとフェルトと入り口にふたりの衛兵の監視の元、ほんの数分だけ、陛下のご尊顔に預かった。
その時に【識別】した結果、フェルトの読み通りの毒に侵されており、コビトにも【鑑定】をさせてその治療薬、つまりは解毒薬を飲ませ、体力の回復をさせ次第、報告にきてくれと指示しておいたのだ。
「これでホラ話じゃないってわかってもらえた? 大臣?」
「ぐっ! むう……」
陛下が解毒薬で治ったと、医術師に言われてしまえば、ぐうの音も出ないだろう。
「まさか我々の毒味に穴があったなど……。リーウェン殿! その犯人はどうやって毒を飲ませたというのです。一部はお話した通り、毒味係は王宮に働く者限定ではありますが、交代制で行われており、勿論、厨房にもそんな怪しい人物などおらず、毒味を行なう部屋や料理自体も調べております。決して毒など入っていなかったはずですが……」
「でも、陛下が毒に侵されてたってことは、入ってたんだろ? 食事に毒が……」
「……っ」
自分の管理体制は甘くなかったはずだと、自信を持っていたへーデルは渋った表情をした。
「まあ実際、犯人がやったことは単純。普通に食事に毒入れただけだ」
「だ、だからそれがおかしいと……」
「そんなこと言われたって、そうなもんはそうだ」
「リーウェンさん。もう少しわかるように説明してもらえませんか?」
「わかるようにって……。要するには毒味係にも【鑑定】にも引っかからないように毒を盛ったって言ってんだろ?」
「で、ですからそれがわからないと……」
「そんなもん簡単だろ? 毒の量を調整したんだよ」
「……は?」
何を言い出すんだと、馬鹿を見るような目で見られた。
不愉快だ。
「別に難しいこったねえだろ? 毒味係にも影響が出ない、【鑑定】にも引っかからない微量の毒を飲ませたんだ」
「あ、あのな、リーウェン君」
「んだよ、グエル」
「た、確かに量を減らせば、料理と混じって毒の効果も薄れ、【鑑定】にも毒味係からも引っかからないかもしれない。けど、それじゃあ毒を盛る意味がないだろう。それにそんな風に毒を飲ませたら抗体ができるんじゃないか? 陛下は床に伏せるほどの重症だったのだろう? おかしいじゃないか」
「それにさ、フェルト君。それじゃあ効果が出ないかも。それに仮に猛毒を微量に入れた場合、もう陛下は亡くなってるんじゃないの?」
確かにグエルやクレアの言う通りだ。
グエルの言うことは、抗体や毒に対する耐性を作る方法として用いられるし、クレアの言う猛毒を使用した場合、陛下はもう亡くなっているだろう。
そうすれば、そもそも毒味係や【鑑定】を躱す意味も無くなってくるが、
「飲ませた毒が特殊な物だったんだよ」
「特殊?」
「ああ。陛下が飲ませられた毒は――ダイオ・オルチンって種類の毒だ」
この毒の名前を知っているヘイヴン以外の一同は驚愕の表情を、分からない者達は首を傾げている。
「ダイオ・オルチンって何だ?」
ユーザの問いにエメローラが答えた。
「ダイオ・オルチンとは犯罪者などから情報を聞き出したりするために使われる自白剤の一種で、人工的に作られている毒です」
「その通り。俺もヘヴンから聞いたんだが、この毒は人工毒って言うだけあって、かなり特徴的な特性を持ってる」
「特徴的な特性?」
「ああ。毒のくせに極めて殺傷性が低く、生物に体調不良を与えることに特化した毒物なんだよ」
勿論、飲み過ぎると死ぬがと補足はつけた。
「その症状はこの発症者リストに載った人物達とほぼ同じ症状が出るとのことだ」
「つまり殺傷性が乏しい分、身体に不調を与え続けることが前提の毒ってことかい?」
「ああ。だから専用の解毒薬がないと解毒が難しかったりする。一応、上級治癒魔法等でも回復できるみたいだが、この国にはそんな魔法を使える人間はいない。だろ?」
「え、ええ……」
「そして不調を与え続けるなんて陰湿で粘着質な特性を持っていることからもうひとつ、それを証明するような特性がある。それは――抗体を作らないことだ」
「「「「「!?」」」」」
「つまりはこういうこと。陛下には毒味係にも【鑑定】にも引っかからない微量の毒を飲ませられ続けた。最初のうちは効果が出ないだろうが、抗体を作らない毒は陛下の身体の中で、料理を口にするたびに蓄積されていく。するとどうなるか……」
「そのうち毒が効力を発揮する状態になるってこと?」
「その通り! そして効果が出た結果、陛下は病床に伏せるハメになったってことさ」
するとここで疑問だと、エメローラが質問。
「しかし、リーウェンさん。それは【鑑定】で判断できるものではありませんか? こちらでもそれは行われたはず……」
エメローラはそう言いながら、その【鑑定】を行なったであろうコビトや監督をしていたであろうへーデルに視線を向け、確認。
ふたりはこくりと頷いたが、コビトの表情は暗い。
「【鑑定】系の魔法には欠点というか、盲点がある」
「盲点?」
「ああ。【鑑定】ってのはあくまで『意識的に行なっている』ってことだ」
一同は何を言っているのか、まったくわかっていないようだが、先に説明していたコビトは真っ青だ。
「コビト殿。どうされた?」
「い、いえ。正直、リーウェン様から事前にその話をされたのですが、本当に盲点だったと……」
フェルトはどうしてコビトがそんなにもショックを受けているのか、実演を交えて説明する。
「例えば、テーブルの上にポーションがあったとする」
コトっとポーションをテーブルの上に置いた。
「【鑑定】をした場合、何が【鑑定】される? ハイ! エルマ!」
「ええっ!? わ、私!? え、えっとぉ……」
魔法は使えるが、【鑑定】の使えないエルマ。
しかし、それでも【鑑定】の魔法は有名なので、どういう効力が発揮されるかは、ある程度把握しているため、答えることはできるだろう。
「も、勿論! ポーションについて【鑑定】されます!」
「では何故――ポーションが【鑑定】されるんだ?」
「えっ……?」
一同もその答えが正解と思っていただけに、フェルトの更なる問いにシンとした空気になった。
「い、いや、だって、『ポーションを【鑑定】した』んだからポーションが【鑑定】されるんじゃない……?」
「だから何で?」
「へえっ!? いや、だ、だからぁ……」
すると見ていていたたまれなくなった兄ガルマがフォローに入る。
「リ、リーウェン。あんまり妹を虐めないでやってくれ。こんなの『ポーションを【鑑定】した』以外の答えがないだろ?」
「何故だ? 俺はポーションをテーブルに置いて、【鑑定】を行なった場合、どうなるかって言ったよな? どうしてその答えが『ポーションを【鑑定】した』だけになるんだ? 【鑑定】を行なった場合、そのテーブルがどうして【鑑定】されない?」
「「「「「!?」」」」」
「テーブルだけじゃない。空間にある魔力は? ポーション自体のビンは? 蓋のコルクは? 何故それも答えに出なかった? どれも【鑑定】すれば情報は出るよな?」
「た、確かに言われてみればそうですね……。【鑑定】を仮にポーションのみに絞った場合でも、ビンやコルクの情報があっても不思議じゃない」
「じゃあ何故エルマやガルマが言った答えになるか。それは単純だ……。ただの思い込みだ」
「は?」
「つまりはさっきの問いは、まるでポーションを【鑑定】するように仕向けたように聞こえるが、現に【鑑定】を使用した場合、ほとんどの術者が『ポーションを【鑑定】する』だろう。何せその術者は『ポーションを【鑑定】してほしい』と誤認、思い込みをし、ポーションのみを『意識的』に【鑑定】したんだから……」
「そ、そうか! フェルト君は別に『ポーションを【鑑定】してくれ』なんて言ってない。テーブルの上にポーションが置かれた状況で【鑑定】をした場合、どうなるかが問いだ。な、何でそんなことに……」
ちょっと話がややこしくなってきたので、ユーザとチェンナが呆然とし始めている。
「つまりはテーブル等の情報は必要ないと無意識的に除外したのさ。あくまで『正確に知りたいものに意識が集中した』というわけ」
「だから思い込み……」
「そ、それを総合して、どうして陛下の原因がわからなかったのです?」
「それはな、コビトさん達は『陛下の状態』と『陛下は流行病の変異体』ではないかと意識して【鑑定】した結果、ダイオ・オルチンもしくは毒性のもので侵されているという情報が必要ないと無意識的に除外されたんだよ」
「そ、そんな馬鹿な……!?」
「いや、俺の説明を聞いていれば、それが馬鹿な話だとは思えないはずだぜ」
かく言うフェルトも『強欲の義眼』の【識別】とマルコ神父から教えてもらわなければわからなかったことだ。
フェルトは【識別】を使った際の当初は、周りの景色に映る全ての情報が入ってきていた。
それは本来、意識せずに使用した場合の【鑑定】と同じ効果のはず。
勿論、【識別】と【鑑定】に違いはあれど、何を【鑑定】すると意識しなければ、全ての情報が簡易的だが視えるはずなのだ。
だが、人はその中で必要な情報しかやはり要らないため、いつしか無意識的に一部の情報を除外する癖が身に付いてしまった。
これが【鑑定】の盲点であり、欠点だ。
ちなみに【識別】はそれの逆だったからこそ、マルコ神父と一緒に気付けたことだった。
「ですがリーウェンさん。そうだとしても、病気の原因を追求しようと【鑑定】を行なった場合、ちゃんとその原因であるダイオ・オルチンの情報が出てきてもおかしくないはずなのでは?」
「それは犯人の策略さ。ちなみに犯人にとって今の【鑑定】のくだりは、想定してなかった副産物だったはずさ」
何せ、犯人も同じように驚いていると確認したフェルト。
「犯人はそもそも【鑑定】云々は関係なく、最初から流行病によって亡くなったことを偽装するつもりだったんだよ」
「流行病に偽装……? そんな上手くいくものか?」
「おいおい、いくだろ? ダイオ・オルチンの話に戻ろうか。ダイオ・オルチンを微量に飲まされた陛下はどうなったんだっけ?」
「少しずつ毒が蓄積されて……飲まされてから時間が……!! 経ってから効果が出る!!」
「その通り。その証明に毒味係に同じ症状が『陛下の毒味の仕事の数週間後』に出たはずだ。それは毒味係も同じ微量のダイオ・オルチンを身体の中に蓄積していたからだ」
「なるほど。だから妙に毒味係が複数人、同じ症状が出たわけだ」
そしてそれがバラバラに出るのは、個人差によって効果の出方がバラバラだったってだけだ。
「そして陛下が発症したのは、流行病の真っ只中じゃなかったか? 宰相さん」
「そ、その通りだ……。ま、まさか!?」
「おっ? 気付いた? 陛下が流行病がまだ解消されてない状態で発症した場合、周りがどう思うかは言わなくてもわかるよな?」
「流行病によって陛下が体調を崩されたと意識する。犯人の狙いはこれだった……?」
「その通り。それを意識した状態で【鑑定】を行えばぁ?」
「ダイオ・オルチンなどの他、原因の可能性は省かれる……」
「その通り」
一同はなんて深層心理をついた計画だったのかと、少し疲れた様子を見せる中、一部は理解していたユーザからツッコミが入る。
「なあ、フェルト?」
「何だ?」
「そんな都合良くいくか? だって流行病なんていつ発生するかなんて、わかんねーだろ?」
「いや、わかるだろ?」
「いやいや、わかんねーって」
「いやいやいや、わかるだろ?」
「いやいやいやいや! わかんねーって!! そんなもん『未来予知』でもできねーと、わかんねーだろうがっ!!」
すると一同の視線がユーザに集まった。
「何だ、わかってんじゃねえか」
「は?」
答えを言ったはずなのに、ユーザはフェルトの言葉の意図も視線の理由もわかっていない。
「何で答えを口にしたお前がわかってねえんだよ」
「は? 俺、答えなんて言った?」
すると悟ったエメローラが顔を覆いながら、何故気付かなかったのかと落ち込みながら答えを言う。
「……カルケットさん、未来予知ですよ」
「未来予知……?」
ユーザはその言葉を呑み込むように、少し考えにふけていると、何か思い立ったようで、
「――あぁああああーーっ!!!!」
「……気付けた?」
「そ、そうだよ! この国は占術を使った未来予知が出来るんだった……」
「そう。俺達は事前に聞いてたはずだ。占術師による未来予知で流行病の来る時期は想定しており、その対策はあらかじめ講じていたと。それは犯人にとって、流行病に見せかける偽装工作が出来るってことにもならないか?」
「そ、そうですね……」
「未来予知は正確ではないということではあるが、元々二、三年周期でくるという明確な情報がある。そうすれば、ある程度の予想は立てられる。それに合わせて毒を微量飲ませ続けられれば、早めに症状が出た場合は流行病の始まり。中頃に出れば流行病の流行に乗ってしまった。終わり頃に出れば流行病の変異体と誤認できるってわけだ」
「ま、待ってください、リーウェン殿。仮にそうだとしても個人差によって毒の出るタイミングは違うのではありませんか?」
フェルトは言ってなかった情報を口にする。
「知ってる奴もいるかもしれないが、ダイオ・オルチンって毒は奴隷商も扱うものなんだそうだ。な? ヘヴン」
「「「「「!?」」」」」
「ああ、そうさ」
「だから犯人は暗殺計画を想定した上で、準備したはずだぜ。毒の回り方を実験したはずだ」
「ま、まさか!? 奴隷にダイオ・オルチンを飲ませて実験した!?」
「おそらくな。そうでなきゃ、さすがに流行病の発生時期がわかっていたとしても、分量を間違える可能性があるからな。だから犯人は極力陛下の体格などに近い奴隷を使い、どう毒の効果が出るのか試したはずだ」
「でもそれじゃあ時間がかかり過ぎるんじゃ……」
「だからこの犯人の犯行は突発的なものじゃない。計画的犯行だったってことさ。それも何年前からも計画されてたものだったんだろうぜ」
陛下を確実に殺しつつ、流行病に偽装し、自分に疑いがかからないために、念入りな奴隷への実験を行なったことを考えると、数年前から計画されていたと考えるのは自然なこと。
ここからどんな奴が犯人なのかも連想されてくる。
「つまり犯人は何年もかけて、奴隷商から奴隷とダイオ・オルチンを購入し、陛下を流行病に偽装し、殺す計画だったってわけであり、占術、つまりは未来予知を信じがちなファバルス王国の国民であるアンタ達は、まんまと犯人の術中通り、陛下が流行病に倒れたと強く意識したってわけだ」
全てがかっちりと当てはまり過ぎて、最早一同、驚愕を通り越してしまい、呆然と聞いている。
「そして俺がこの答えにたどり着いた理由は、俺がこの国の人間じゃないからだ」
「はあ!? な、何で?」
フェルトのその答えに納得いかないエメローラ達だが、ヘイヴンは気付けた。
「なるほど。フレンドは確か、占術すら知らなかったからね。だから流行病以外の可能性にも目を向けることができた。それは占術によって栄えてきた歴史のあるこの国の人間にはできないことだ」
「その通り。陛下とローラが談笑していたって未来予知を見たって言ったよな? 将軍」
「あ、ああ……」
「あれはおそらく『別の国の人間なら、占術に惑わされることなく、事の解決に導いてくれる』って未来予知だったんだよ」
「な、なるほど……」
フェルトはあの未来予知にも意味があったと、利用されるだけのものではなかったと、フォローを入れると、
「さてさて、ここまでの話を整理しようか。……犯人がとった行動はこうだ」
話の整理と犯人を炙り出すため、犯人と思しきファバルス王国側の人間の席の背後をゆっくり歩きながら説明する。
「先ず、占術により流行病の発生情報を知った犯人は、元から計画していた流行病に偽装させるため、食事に微量の毒を盛った。そして、周りの人間や陛下ご自身の判断能力が鈍ってきた頃に、今度は殺傷性の高い毒を盛り、あたかも陛下の病気が悪化したように見せかけ、殺害する計画だったってことさ」
フェルトは占術師を見て、尋ねる。
「なあ、婆さん」
「な、何ですかな?」
「この国で占術を使えるのはアンタ達だけか?」
「そ、そんなことはありませんが、占術は人を惑わすこともあります故、使うためには資格が必要となります」
要するには車の免許みたいなものが必要らしい。
下手に知識や責任感の無い人間が混乱を招かないようにするためだろう。
「ですから、この国ではあたくし達、王宮に仕える占術師しか使用ができません」
「つまりは外部の人間はこの犯行は不可能であり、流行病の未来予知を見たのは?」
フェルトの問いに、占術師の婆さんの左隣の見習いが手を挙げた。
「わ、私です」
「そして流行病の未来予知なんて、国民に教えると混乱を招くため、対策等を講じるためにも、ここにいる国の代表者にのみ知らされる……。そうだよな?」
「は、はい。わ、私がその未来予知をした際、お師匠様に報告し、他の方には言っておりません」
「リーウェンさん……! ということは……!」
「ああ、そういうことだぜ、ローラ」
フェルトはキメ顔で、こういう時の決まり文句を口にする。
「――犯人はこの中にいる!」




