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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
55/177

32 ファバルス王国流行病事件 調査編

 

「こちらで全部です」


「サンキューな、宰相さん」


 フェルト達は早速問題に取り組むため、流行病の発生地やかかった人物のリスト、その病気の症状など、あらゆる資料と話し合いの場として会議室を用意してもらった。

 そんな資料を流し読みする傍らで、タルターニャとエメローラがひそひそと話をしている。


「彼奴、本当に賢いのだのぉ。こんな資料をすぐに欲しがるなど……」


「そうですね。わたくしも驚かされるばかりで……」


「?」


 フェルト以外の皆にもコピーした資料が渡されると、コビトというこの国の医術師の代表がぺこりとご挨拶。


「皆さま、先ずはご協力頂き感謝致します。占術師様の未来予知の通りならば、きっと解決への糸口が見つかると信じております」


 かなり若い人物。

 フェルト達より年上だが、そう離れていない白衣服の色白眼鏡男性。


 へーデルもそうだが、たまに色白の人もこの国にはいる。


「それではお手元の資料をご覧下さい」


 コビトは資料の説明をしてくれようとするが、


「あ、いや、コビトさん」


「は、はい。何でしょう? リーウェン様」


「説明はいい。俺達はどうせ医学に関しては専門外なんだ、説明されるだけ時間の無駄だ」


 フェルトがコビトに求めていることは別にある。


「アンタは俺達が疑問に思ったこと、あと俺達がわかる範囲での病気の症状とかを答えてくれればいい」


 医術師に肯定、否定される意見というのは信頼性がある。


「それだけでよろしいのですか?」


「俺達が出来るのは病気の発生源の発見くらいで、治療法や病気の解明などは専門のアンタが適任だ。管轄外のことを考え始めるとキリがない。専門的な部分はもう丸投げするしかないからな」


 仰る通りだとコビトは少し黙ったかと思うと、


「わ、わかりました……」


 少しおどおどした様子で返答した。


「だからお前達も気になることがあったら、何でも言ってくれ」


「「「「「はーい」」」」」


 返事はするものの、やはり資料を急に渡されて何か答えを出すことは難しい。


「うーん……俺もフェルトみたいに何かに気付ければ……」


「カルケット君、あまり無茶しなくてもいいよ」


 他の貴族嬢やメイド達も首を傾げるだけで、何も出ては来ない。


「なあ、コビトさん?」


「は、はい」


「魔力磁場による流行病の症状と治らない病の症状って、この資料を見るとあんまり変わらないんだな」


「そ、そうですね。ただ、治らない方は悪化したり、かなり持続している傾向がありますね」


 治ってないわけだからそうだろう。

 資料を見る限り、食事などを適切に摂っての自然治癒も難しいだろう。

 風邪ではないので。


 だが症状は極めて一般的な、頭痛、目眩、吐き気、嘔吐、熱などの体調不良。


「そっちの見解としてはどんな解釈なんです?」


「は、はい。簡単に申し上げますと、流行病の悪化によるものだと推定しております。魔力磁場による魔力の乱れからくる体調不良、神経病というのは、かなり個人差が分かれるものであり、変異したものと考えております。昔、似たような事例もあったこともありまして……」


「ほう……。昔の記録にそんな事例があったと?」


「はい。ですが、今回のように他国の皆様が関連していたという記録は無く、そういう意味では事例がありません」


「なるほどな……」


 つまりはその時は、他国の人間の介入がなくても解決した事案であったが、今回の事案の解決には、フェルト達が関係してくるという、予想外が発生しているわけだ。


 それはつまり、魔力磁場による神経病でない可能性はあるが、昔の記録に単に他国の人間について書かなかった可能性も否定できない。


 そのあたりの答えは結局、曖昧になりそうだから、とりあえずはパスと考える。


 フェルトは次の資料に目を通す。

 それは流行病を発症した人物の住んでいる場所をマッピングしたものだ。


 気になったのは、やはり井戸付近の住民宅から発症者が出ているということ。

 しかし、ここに来るまでにアガル騎士団長から井戸の点検は行っていたと説明されている。

 それに井戸が複数あるにも関わらず、その一か所付近が少し多めに発症されているというだけで、他の区域で生活している者達も発症していることから、この箇所の井戸だけで感染していったと考えるのは、早計だろう。


 エメローラがそれについてへーデルに尋ねているようだが、返答はアガルと同じく、異常は確認されていないとのことだった。


「フレンド……」


「ん? どした?」


「ちょっとこれを見て欲しい」


「どれ……」


 ヘイヴンが見せてくれたのは、発症者リスト。

 すると、特定の共通点のある人物を複数人指差して教えてくれた。


「この人物達の経歴を見てほしい」


「ん……?」


 発症者リストには、感染源を特定しやすくするためか、職業が記されていた。


「おい! これって……」


 フェルトはヘイヴンが教えてくれたことをへーデルに問う。


「へーデル宰相!」


 エメローラと話し込んでいたへーデルは、エメローラと共にこちらへ振り向いた。


「何でしょう?」


「この病気を発症したリストに、毒味係が三人も発症してるじゃないか。これはどういうことだ?」


 それを聞いたエメローラはかなり驚いた様子でへーデルを見た。


 当然の反応だろう。

 王族の体調管理は勿論、毒なんて服用させるわけにはいかないからこその毒味係。

 それが三人も出ており、陛下もその発症者となれば、何かあると疑うものだが、このリストを作ってる時点で気付いていてもおかしくないはずだ。


「リーウェン殿は陛下に食事を通すための役目を果たすべき毒味係に異常があることをおかしいと考えておられるのですね?」


「当たり前だろ。毒味係に異常があったら、それはもう原因そのものじゃないか」


 するとへーデルは少し黙り込んでしまった。

 何故黙ってしまったのか、フェルトが疑心の眼差しを向けていると、心当たりがあるのか、エメローラが弁明する。


「話したくても話せないのでは?」


「なに?」


「我々王族の体調管理等は、国家機密の部類に入ります。万が一知られれば、そこから暗殺計画などが立てられてしまいますからね」


「な、なるほど……」


 言われてみればその通りだった。


「でもこうしてリスト化し、我々にそれを説明しないということは、陛下と毒味係が異常を訴えたのは時期外れだったのではありませんか?」


 そのくらいは答えてほしいと、エメローラは視線をへーデルに向けた。


「……ええ。陛下が病床に倒れられたのは、流行病の中間期あたりであり、毒味係が発症したとわかったのは、流行病が過ぎ去った後です。しかもその時は、その毒味係達は役割を終えておりまして……」


「役割を終えた?」


 しまったとへーデルは口を塞いだ。

 どうやら管理の話と関係した内容のようだ。

 するとへーデルは、滑らせてしまったのならと、語ってくれた。


「……我が国の毒味係は交代制で行われており、王宮に勤めている健康な者に声をかけ、行われているのです」


「それってつまり、誰が毒味係だとわからせないためか」


「はい」


 なるほどの答え。

 どおりで毒味係ともうひとつ、役職がついてると思った。

 毒味係が誰かわからなければ、暗殺を企てようとしている奴が仮に居たとしても、見抜かれる可能性が高いということになる。


「しかし、中には嫌がる者もいるのでは?」


「それは勿論。国のためとはいえ、命を張って頂くのです。無理矢理はさせませんよ。それにそれだけ見合う報酬もちゃんと用意しております」


「その毒味係って、どの頻度で交代してんの?」


「……」


 それは答えられないようで、へーデルが再び黙ってしまった。


「とにかくひとつ言えることは、そこに書かれている毒味係達は、陛下への毒味係の期間を終え、数週間後に発症していることから、陛下の病気との感染の疑いは低いかと……」


「なるほど……」


 確かに数週間も空いた後なら、さすがに違うと断言でき、陛下に毒を盛った、毒味係から感染したということにはならないか。


「だとすれば……」


 ヘイヴンが各地の魔力の乱れの座標みたいなものをコビトに尋ねているが、そこも微妙な反応をしている。


 つまりは原因は、まだ発見されていない魔力磁場がある可能性ということだが、何だか上手く誘導されている気がしてならない。


【識別】でこのリストを見たところで、詳しい情報など出てくるわけでもない。

 出てくるのは、あくまでこの紙の情報とこの執筆者くらいだ。


【識別】もそうだが、【鑑定】もこのあたりは欠点だ。

 するとフェルトは、そういえばこのあたりの鑑定系の魔法には盲点もあると、以前マルコ神父(先生)が言っていたことを思い出す。


「フレンド」


「ん?」


「少し危険かもしれないが、強力な魔力磁場がないか、探りを入れてこようと思う」


「こっちの王宮魔術師が調べたんじゃないのか?」


「調べているが、出てこないとのことだが、見落としがあるかもしれないからね」


 フェルト達みたいな異国の人間の方が、こっちの人間が行きそうにないところに目をつける可能性がある。

 それなら、エメローラと陛下が談笑している未来、つまりはフェルト達が解決に導いた結果と見ることもできるという結論になるか。


「そうだな。なら行く人間は絞ろう。俺とヘヴンだけでいいだろう」


「わたくし達はついて行ってはダメ、ですよね?」


 クレアとエメローラが上目遣いで尋ねてくるが、


「勿論、ダメ! ここに残って何かあったら、連絡をくれればいい。王女殿下、コイツら置いてくけど、大丈夫だよな?」


「勿論じゃ! 頼み事をしておいて、もてなさないなどという非常識な真似はせん!」


「ならしばらくしてもダメなら、休ませてやってくれ。頼むよ」


「うむ! 了解した。見送りくらいしようかの」


 そう言ってフェルト達はクレア達を置いて、廊下に出た。

 すると豪華な刺繍がされているマントを羽織る、へーデルくらいの年齢の人が目の前を歩いてきた。


「おや? 王女殿下」


 その男はぺこっと頭を下げた。


「うむ。大臣はどうしてここに?」


 大臣か。

 確かに装飾や風貌からそう見えるな。


「視察から帰ってきましてな。そのご報告にと……」


 するとタルターニャは、ふとへーデルを見た。

 おそらくその対処は今、へーデルが行っているのだろう。


「その報告、後でも大丈夫ですか? 今は客人を相手にせねばならないので……」


「客人?」


 そう言ってフェルト達をギョロっと見た。


「ほお? これは珍しい。異国の方ですかな?」


「まあ……」


 すると大臣と呼ばれている男は、ため息をつく。


「今、このような客人を招いている余裕などないはずですぞ。状況を考えてくださいな」


「何を言うか! この者らは占術により出た、我が国の救世主かもしれぬのだぞ!」


 そう自信満々にいうタルターニャだが、大臣はふと考え込むとひとつの結論に辿り着いたようで、


「それはつまり、我が国が抱えている問題をこの者らに答えたと?」


「そうしなければ協力してもらえまい」


 それを聞いた大臣は勿論というべきか、ため息を再び吐いた。


「陛下のことについて、外に漏らしてどうするのです。しかも宰相殿もついていながら、何という……」


 フェルト達が喋る気がなくとも、それを聞いただけでは。確かに国の危機を招く可能性はあると判断できるだろう。


「貴方の懸念も理解しているつもりですよ、ルドラー大臣。しかし占術により出た未来は、きっと何かしらの意味があるはずです」


 ルドラーはもう聞いちゃいられないと、呆れながらその場を去る。


「はあ……。占術を信じるも信じないも自由ですが、あまり過信しすぎるものではありませんよ」


 このルドラーって人は、他の人達に比べて占術をあまり固執していないようだ。


「なあ、王女殿下?」


「なんじゃ?」


「あの大臣、誰?」


「ルドラー大臣じゃな。外交をしてくれておる」


 視察とか言っていたことを踏まえると納得した。

 この砂漠の地では他国との共和性を強くしておく必要があるのだろう。


「どれ……」


 フェルトは一応、【識別】をしておくことにした。


 すると、


「!」


「? どうしたんだい? フレンド」


「いや、面白いもん見つけたなぁーってさ」


 ヘイヴンは首を傾げて、フェルトの視線の先のルドラーを見た。


「あの人がどうかしたのかい?」


「いやさ、どんな外交をしてきたのかなぁ〜って、ちょっと思っただけだよ」


 ***


 フェルト達はへーデルとコビト、複数人の衛兵達と共に、町を散策することとなった。

 基本的には、魔力磁場があるかどうかの探索。


 フェルト達は感知魔法が使えるコビトに、怪しそうなところをとにかく感知してもらっている。

 フェルトも魔法は(から)っきしとはいえ、【識別】が使えるので、辺りを確認しながら、町の散策を行なっている。


 しかし、何か不審な点があることもなく、魔力の流れも正常だ。

 オルドケイア(向こう)での魔力の流れとそう変わりはない。

 勿論、魔力磁場と呼ばれるほどの乱れを見たことがないので判断に難しいが、人体に影響を与えるほどとなると、【識別】で見てもわかるくらいの変化はあるだろう。


「宰相さん達が言ってるとおり、魔力磁場もほぼ解消されてんだな」


「ええ。王宮魔術師を総動員して、調べましたから、やはり今更何か出てくるとは思えません」


「だとしたら原因は結局何だって話に戻っちまうんだけどなぁ……」


 強い魔力磁場に当てられて、たまたま体調の回復が著しくズレたと考えることも不自然な気がする。

 実際、発症者の時期はバラバラであり、人によって耐性はバラバラだとしても、それは考えにくい。

 それともゲリラ的に魔力磁場が一瞬だけ訪れたと考えられもするが、それはちょっと都合の良い解釈な気がする。


 そう悩んでいると、


「ん? ここって……」


 フェルトは井戸に視線を向けた。

 王宮に案内されている途中で見かけた時と同じ光景が広がる。

 やはりかなり利用頻度は高いようだ。


「はい。このあたりですね。発症者が多いのは……」


「だよな」


 フェルトは確認のため、発症者の分布図を広げる。

 確かに、このあたりに発症者が多い。


「コビト殿。一応、このあたりの魔力の乱れがないか、確認してみませんか?」


「そ、そうですね。わかりました」


 そう提案するヘイヴンだが、【識別】で瞬時に確認できたフェルトとしては、異常は無い。


 とすれば、


「へーデル宰相。全部の井戸を確認したんですよね?」


「え、ええ。勿論ですとも。何も異常はありませんでしたよ」


 どうもあの井戸には何かある気がしてならない。

 それに、妙にマルコ神父(先生)が言ってた【識別】【鑑定】の盲点が嫌に引っかかる。


「ちょっと確認しても?」


「ええ、どうぞ」


 フェルトはへーデルと共に井戸に向かう。


「こんにちは」


 するとひとりの少年に挨拶された。

 勿論、フェルトは愛想良く返事する。


「こんにちは」


 ちゃんと挨拶できる! 偉い!

 挨拶は人として基本中の基本。


「坊やはこの井戸は良く利用するのかな?」


「うん! お水が冷たくて気持ちいーよ」


「そっか!」


 地下に水脈があるのは本当のようだ。

 冷えた水ということは、そういうことなのだろう。


 そしてその少年に井戸の使い方を教えてくれた。


「あのね、この桶をこう、降ろして……使うんだよ!」


「そっか!」


 子供でも簡単に使えるようだ。

 だがその少年は少し身を乗り出して作業しているため、少し危なっかしい。


「気をつけろよ」


「うん!」


「……宰相さん。ちょっと危なそうだから、子供の使用を少し考えた方がいいんじゃねえか?」


「そうですね。直接このような場を見ていなかったから、わかりませんでした。確かにハラハラする光景……検討しましょう」


 フェルト達は一生懸命、水を汲み上げようとしている少年を後ろからハラハラしながらそう会話をしていた。

 そして、その少年は桶を上げ終えた。


「ほら! こんな感じ」


「おおっ」


 ちゃんと桶の中にたっぷりの水が入っている。


「そしてね、こうして手で水を(すく)って――」


 フェルトは確認のため、桶の中の水を【識別】した。


 すると、


「――!?」


「飲むとね……」


「飲むなっ!!」


 フェルトは水を口に運びそうな少年の手を強引に引っ張り、掬った水が地面に全部零れた。


「な、何するの、お兄さん!?」


「どうされました?」


「どうもこうもねえ!! この水、毒で汚染されてるじゃねえか!!」


「!?」


 そして辺りにいる使用者達に警告する。


「今すぐこの井戸の水の使用をやめろ!!」


「な、何を言い出すんだ。ここの井戸が使えないと生活が――」


「ダメだって言ってんだろ!! 死にてえのか!?」


 フェルトのその忠告に周りの人達は、ビクッと怯む。

 困惑する住民の異常を感じて、辺りを調べていたヘイヴンとコビトが井戸に来た。


「こ、これは何事ですか?」


 フェルトは井戸の中を覗き込み、【識別】を行なう。


「やっぱりな……」


 井戸の水からは毒の成分が見受けられた。

 正直、どんな毒性があるかまではわからないが、とにかく有害であることは判断できた。


「あのリーウェン様、今事情を聞きましたが、毒が発見されたと?」


 フェルトは覗き込んでいた井戸から起き上がり、呼びかけられたコビトに向く。


「よっと! ……ああ、そうだよ。すぐこの井戸を調べてくれ。すぐにわかるよ」


 コビトは半信半疑でわかったと返事をすると、井戸の中を調べ始めた。


「!? ば、馬鹿な……」


「どうですか? コビト殿」


「へーデル様。リーウェン様の仰る通りです。ここの井戸は毒に侵されています」


「なっ!? ば、馬鹿な……! 以前調べた時は異常なんて……」


「とにかくここの井戸の使用は禁止。他んとこも調べた方がいいな」


「わ、わかりました」


 するとへーデルは護衛に付いてきていた衛兵達に指示し、調査を行なう準備に入る――。


 フェルト達はそんな忙しくしているへーデルやコビトさん達の邪魔にならないよう、木陰で様子を眺めて待つことにする。


「しかし、良く気付いたね、フレンド。君は確か、魔法は使えないんじゃなかったかい?」


「ん? あー……水の色、とか? そんな感じでわかったんだよ」


 フェルトはしどろもどろで答えた。


 あの少年を守るため、咄嗟のことだった。

 確かに魔法が使えないフェルトにしては、反応が早すぎる。

 ヘイヴンみたいな賢い奴相手なら、もしかしたら義眼に能力があることを見抜いたかもしれない。


 するとヘイヴンはフッと鼻で笑った。


「ま、そういうことにしておいてあげるよ」


 あ、これは気付いてるな。


 正体や能力の詳細まではわからないだろうが、少なくとも【鑑定】みたいな能力があるということはわかったって顔をされた。

 ならば、訊かれるまでは余計なことは言わないが、見えているものは答えようと思う。


「なあ、『ダイオ・オルチン』って何かわかるか?」


「ダイオ・オルチンだって……?」


 フェルトは【識別】で見た際に、入ってきた情報だった。

 フェルトの現代世界(向こう)では聞いたこともない毒だが、その毒の名前だと思うのだが、それを聞いたヘイヴンの表情が変わった。


「それはおかしいね。本当にそれが()()()のかい?」


 ()()()ね。

 やはり勘づいてる。


「ああ」


「だとしたら、何かしらの陰謀があるかもね」


「どういうこったよ?」


「ダイオ・オルチンは人工毒だ」


「!?」


「要するには人為的に作られた毒で、自然毒ではない」


「なるほど……」


 自然発生した毒であれば、それこそ魔力磁場による作用で起きた環境変化ってことで処理もできそうだが、人工毒であれば話は違ってくる。

 井戸にそれが発見されたということは、人為的に誰かが毒を混ぜたって話になる。


「つまり何者かが何かしらの狙いがあって、あの井戸に毒を混ぜたと……」


「考えられる説は、管理体制を疑わせるための偽装工作。あるいは愉快犯による無差別攻撃……」


「? 殺人じゃなくてか?」


「ん? ああ、フレンドはこの毒の特性を知らないんだったね。ダイオ・オルチンは――」


 フェルトはヘイヴンからダイオ・オルチンの症状と特性を教えてもらった。


「――なるほどな。だとすれば、ファバルス王国を攻撃した工作のような気がするな」


「ああ。あと、これは可能性が低いけど、不法投棄の可能性もあるかな?」


「不法投棄? そんな簡単に手に入るものなのか?」


「いや、そんなことはないけど、そもそもこの人工毒の使い道としては、尋問官などが使うんだ」


「へえー、犯罪者に情報を吐かせるためか? 嫌な吐かせ方をする」


「まあそんなあたりだ。あとは……奴隷商も使ったりする」


「!」


「調教用に使用したりするんだ」


 毒を使って体調不良を起こさせ、弱ったところで情報を吐かせたり、調教したりなんて悪趣味が過ぎる。


「しかし、これを撒く理由にはなるのか? 使い方違ってないか?」


「だからファバルス王国自体を攻撃したものではないかと言うことさ。可能性だけどね」


「なるほどな……。ちなみにさ、この汚染された井戸を解消する手段ってあるのか?」


 するとヘイヴンは再び鼻で笑った。


「おやおや、随分簡単な質問だ」


「んだよ」


「浄水すればいい」


「まあそれはわかるけど、方法は?」


 こっちの世界の場合、現代世界(向こう)みたいな浄水場なんてものはないはずだ。


「……そんなの水魔法使いに頼むか専用の魔道具を使えばいい」


「なるほど。じゃあ問題はなさそうだな」


「おそらくね。ほら……」


 ヘイヴンが井戸の方を指さす。

 そこには複数人の王宮魔術師が、水魔法を使っている。


「ほー。やっぱ魔法が使えるって便利だなぁ」


 あれ? ちょっと待てよ。


 フェルトは井戸を見て、何やらあの発症者のマッピングがふと浮かんだ。


「フレンド?」


 フェルトは手元に持っているそのマップを開き、確認する。


 待てよ。

 ヘヴンから聞いたダイオ・オルチンの症状と特性。

 井戸から発見されたダイオ・オルチン。

 そして……浄水手段。


「……!」


 待て待て待て。

 陛下の症状は詳しく見てないが、流行病と原因不明の発症者達の症状はほぼ一致しており、複数人の毒味係も発症。

 そして未来予知……。


「……! おい! ヘヴン!」


「な、何だい? フレンド?」


「あの浄水作業、冒険者でも可能か?」


「あ、ああ。水魔法使いなら誰でも出来ると思うが、それなりに優秀な魔法使いじゃないと、浄水を行える魔法なんて使えないからね」


「要するには、優秀な水魔法使いならひとりでも出来るんだな?」


「あ、ああ。それがどうしたんだい?」


 フェルトは、自分の考えが正しければ、これら全ては繋がっていると判断した。


「おい、ヘヴン。俺、これからギルドに行ってくる」


「は? 何故だい?」


「確認したいことがある。あとへーデル宰相に陛下の謁見と調理室を案内してほしいって伝えてくれ」


「は? へ、陛下の謁見はまあ、わからないでもないが、調理室って……?」


「いいから頼むぜ!」


 フェルトは町の調査をしながら、場所もある程度教えてもらっていたため、ある事を確認するため、ギルドへと走った――。


 ***


「うー……遅いですわね」


 フェルト達がこのファバルス王国に来て、そろそろ日が暮れる。

 ヘイヴンは戻ってきたが、フェルトはまだ戻ってきていない。


「リーウェンさんは待っていろと言ったんですよね?」


「ええ」


「それ以上は?」


「いえ、何も」


 クレア達は昼食を貰ったが、途中から抜けて行ったフェルトは食事していないんじゃないかと心配になる。

 今度はフェルトも一緒にと思って待っているのだが、一向に戻ってこない。


「ああ! リーウェン様は何処へ!」


「まあまあ、フレンドの気が済むまで、捜査させましょう。僕らは食事を頂きますか?」


「そうだぞ。無理は良くない。主らの分も、勿論、フェルト・リーウェンの分も用意してある。どうじゃ?」


 結局、あのまま残ったクレア達は、あの資料を見ただけでは何もわからず、完全に足手まといになってる挙句、先に夕食を摂るのもと、うーんと唸っていると、


「お待たせ」


「フェルト君!」


 ガチャっとさらっと、同行していたへーデルと共にフェルトが戻る。


「やっと戻ったか、フェルト・リーウェン」


「ああ」


 意気揚々と戻ってきたフェルトだが、一緒に付いて行っていたへーデルの様子はおかしい。

 そのへーデルは尋ねる。


「リーウェン殿、どうしてコビト殿があんな血相を変えて、陛下の寝室から出て行ったのか、教えてほしい」


「まだ教えらんねーよ。でも、俺は陛下に何もしてないのは確認したろ?」


「そ、それは……まあ……」


「なら心配すんなよ。どうせすぐに助かるからさ」


「「「「「!?」」」」」


 するとタルターニャが、フェルトに詰め寄る。


「ち、父上が助かるのか!?」


「助かるも何も、コビトさんが治療に必要なもんを取りに戻って、今頃は治療してるだろうよ」


「「「「「!?」」」」」


「で、では……!」


「ああ、助かるよ」


 クレア達は驚く。

 フェルトが、まさかファバルス王国に入って半日ほどで原因と治療法を見つけたなんてと。


「そ、それはどういう……」


「今から説明してやるからさ、王女殿下」


「な、何じゃ?」


「ちょっと大至急、お願いしたいことがある」


 フェルトは、何かを企んだようなニッコリとした笑みを浮かべた。

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