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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
53/177

30 ビストアンカ2

 

 チェンナは自己紹介しながらビストアンカを転々としているようで、情報にはこと欠かさなかったが、足跡を辿った先に本人がいないでは意味がなく……、


「――だああああっ!! あの馬鹿女はどこだぁっ!!」


「まあまあ、グエルさんや。落ち着いて……」


「リーウェン君! そんな呑気にしている場合か! もし奴隷商なんかに捕まったら……」


「まあ言いたいことはわかるよ。これだけ宣伝して回れば、逆に捕まってないって考えるのが不自然かもな」


 最初こそ焦ったフェルトだったが、探しているうちに冷静さを取り戻せている。

 ぶっちゃけ、マジで捕まってることを仮定して探した方が早いのでは、と考えるくらい。


 すると一度分かれたヘイヴンが真っ青な顔で合流した。


「こちらにもいなかった。君達の方は?」


 いなかったと首を軽く横に振った。


「……どこに行ったんだ、蝶々ちゃん。君は気まぐれにどこへだって飛んで行ってしまうんだね……」


 心配し過ぎて、元々おかしな頭のヘイヴンが余計おかしくなってきてる。


「おーい。現実逃避はやめろ。変なポエムを語るな」


「し、しかし……先程まで噂されていた情報も少なくなってきている。これでは……」


 周りで噂された情報が無くなってきた。

 これは色んな可能性を連想させるものだが、


「……もう声をかけるところが無くなったか、宿屋に戻った可能性も考えられるな」


「!」

「それはあり得るか……」


 攫われた(もうひとつ)の可能性もあるが、とりあえず色んな可能性に手を出してみることにする。


「ならヘヴンとグエルは一度、宿屋へ戻ってくれ。いたらそれでよし。戻ってないようなら、悪いがサラマンダー乗りのおっさん達に事情を話して協力してもらってくれ」


 あのサラマンダー乗りの人達なら、チェンナの顔も知ってるし、協力してくれそうな顔見知りはここではあの人達しかいない。

 申し訳ないが協力してもらおう。


「リーウェン君は?」


「もう一回りしてから、合流する」


「わかった」


 ふたりを見送ると、フェルトは最後あたりの目撃情報の方へ向かう――。




 ――チェンナはやはりというべきか、支離滅裂なことを口にし、追い出されるか相手にされないかの対応をとられていた。


 ここは異国の地であり、強盗団も最近騒がしいと噂されている以上、やはりその方面を考えた方がいいかもしれない。


 この店の店主の証言が最後ではないかと思われる。

 店主曰く、馬鹿なことを口にするものだから、怒鳴りつけて追い返したらしいが、後になって大人気なかったと思い、追い返した先を見ると、裏路地あたりにひっそりと入っていったらしい。


「そしてここがその路地か……」


 明らかに人目がつかない暗がりの路地。

 その路地を抜けた先は、少し建物があるものの外にまで繋がっている。


 仮に奴隷商に捕まった場合、このまま外にトンズラされている可能性もあることを考えると、ここでなら攫われても、誰も気付かないか。


 そしてチェンナは町中で名前と貴族宣言している。


「……あんまり考えたくないが、最悪は想定しておくべきか」


 世間知らずの我儘お嬢様とはいえ、放っておくのは寝覚めが悪い。


「痕跡、残っててくれよ……」


 ――【識別】


 フェルトはその路地全体を見渡すように【識別】を使用。

 すると地面の靴跡からふたりの人物が接触していたことが出た。

 そして、その内のひとつがチェンナの靴跡だと【識別】できた。


「やっぱ、誰かと接触があったか……」


 もう少し強めに発動すると、靴跡がどの方向に向かっていったのか、鮮明にわかる。


「……外か」


 どうやらチェンナともうひとり、靴跡の大きさから察するに男だろう。

 これは最悪が的中したと見るべき。


 このことをヘイヴン達と合流して向かうか、フェルトひとりでとりあえず様子を見に行くべきか悩む。


 チェンナは口車に簡単に乗ってついていった可能性が高いこと、そしてここにその姿がないことを考えると、今すぐにでも向かわないと純潔を奪われている可能性が極めて高い。

 国に戻った後に、チェンナの親から難癖をつけられても困ることを考えると、


「行くか……」


 シギィや人喰いみたいな修羅場と比べれば、奴隷商、または噂されている神出鬼没の強盗団が相手でも大丈夫だろう。


 フェルトはその微かな靴跡を追って、外へと向かった。


 ***


「――えっと、無事……だよな?」


「フェ、フェルト・リーウェン……」


 下半身が丸出しのおっさんらがいるが、チェンナが剥かれているだけだと見ると、ギリギリセーフだったようだ。


 ビストアンカにフェルト達が入ったところとは別の入り口のところに、こんな祠みたいな場所があるとは思わず、【識別】で調べてみれば、入り口に長い布を祠の石と同じ色の迷彩柄にして隠されていた。

 その先の分厚そうな扉を蹴り破ってみれば、この光景だったわけだ。


「あぁん? 誰だてめぇ?」


 人相の悪いガラの悪そうなおっさんがガンつけてくるので、


「ああっ? てめぇらみてぇなロリコンに語る名前は持っちゃねえよ」


 やり返してみた。

 すると勿論というべきか、癇に障ったようでズカズカとひとりの男が近寄って来る。


「身の程ってのを教え――」


 掴みかかってきたので、


「ハッ!」


 フェルトは鼻で侮蔑するように軽く笑いながら、男の腕を強く引っ張り、バランスを崩したところに足を引っ掛け、その場で回転させて地面に倒した。


 ズダンっという音が響き、倒された男を含め、一同ポカンとする。


「て、てめ――」


 フェルトはその男の腰に刺さったナイフを素早く取ると、


「ひっ!?」


 襟首をナイフで固定し、動けないようにした。

 顔の真横にナイフを刺されたためか、男は真っ青な表情をしている。


「で? 次はどのロリコンが相手だ?」


「野郎……っ」


 下半身剥き出しだったおっさんらはズボンを履き、周りの荒くれ者達は武器を手にする。

 そんな一触即発の中、パンパンパンと手を叩く音が響く。


「いやはや、実に勇ましいことだ」


「あん?」


「ひとりの少女を救いに来た英雄とは正にこのことかな?」


 何だかひとり妙な奴がいる。

 荒くれ者の中年くらいのおっさんらの中に、違和感のある紳士口調の若い男。

 周りの連中が何も言わない、むしろ喋っていることを邪魔しないところを見ると、頭目と判断できる。


「そんな大層なもんじゃねえよ。その半裸にされてる馬鹿女は俺の連れでね。迷子になってたのを探してたんだわ。いやー、保護してくれてたなんて有り難い。じゃ、返してもらいますね」


 心にもないことを口にし、チェンナの方まで向かおうとするが、男達は通す気がないようで、フェルトを囲み始める。


「君、まさか本当に我々が保護していたとでもお思いで?」


 んなわけねえだろ。


「違うのか?」


「まあ半分当たってますよ。僕達は彼女に教育を施そうとしただけですから」


「教育?」


「ええ。世間知らずのお嬢様が悪ーいおじさんに捕まるとどうなるか……身をもって教えてあげようかと」


 チェンナには知らないおじさんについていくと、強姦(こう)なりますよって身をもって刻み込み、自分らは女の身体を弄び、発散できるっていう一石二鳥教育ってところのようだ。

 随分と悪趣味な教育だ。


「てことは、その女が馬鹿だってことも知ってるだろ? そんなガキにこんな教育方法は早過ぎるな。もう少し健全な教育を頼むよ。先生」


 この男達は、やはりチェンナが馬鹿みたいに自己紹介しながら歩いていたのをあの発言から、捕まえたことが容易に想像できる。


「それは申し訳ない。しかしね、馬鹿だからこそ頭で考える教育より身をもって知る教育の方が大いに学べるというものさ」


「なるほど。一理ある」


 そこはまあ認めよう。

 実際、チェンナはエメローラがどれだけ言っても貴族の在り方を学ぼうとはしなかったことから、そのことについては同意だった。


「だろ? それは君にも言えることだ」


 周りはフェルトの出方を窺っている。


「ほう? それは何でか訊いてもいいか? 先生」


「いいとも。君はどうやら彼女を助け出せる気でいるようだが、これは君達のようなガキが大好きな英雄譚とは違うよ。確かに物語ではこの状況、助けに来た英雄がカッコ良く助け出すのが鉄板だろうけど、現実は違う。僕らは確かに荒くれ者の強盗団だが、君みたいなガキにやられるほど馬鹿じゃない……」


 紳士口調の男は、ちらっと倒れている仲間を見たが、


「ま、多少腕は立つようだが……」


 すぐに視線をフェルトに戻した。


「それが愚かだということさ。彼は油断しただけ、自分の実力に驕るガキに負けるようなことはないさ。二度目はないよ、英雄気取りのクソガキさん?」


 はっ! 中々正論ぶち込んできやがる。


 フェルトは、自分がそんじょそこらのガキなら、それでリンチされて終わりだろうが、こちとらシギィみたいな化け物とやってきたんだ、負けるわけがないと自信満々。


【識別】で判断したところ、大した実力者はいない。

 ただの有象無象だ。


「そっかそっか。じゃあ先生方は俺に現実を教えてくれるわけだ」


「ああ、そうさ。君はこれより後悔するほど叩きのめされた挙句、救おうとした女は犯され、身も心も絶望し、身の程を弁えることだろう……」


「あっ、そうかい。じゃ、是非ともご教授願いたいもんだな」


 紳士口調の男は一歩後方へ下がり、


「やれ」


 周りの荒くれ者達が、「へへへ……」と笑いながらにじり寄って来る。


「じゃあ教育してやるぜ!! クソガキ!!」


 ***


「――あー、なるほどな」


「ば、馬鹿なぁ……」


 フェルトは叩きのめしたロリコンおじさん達からナイフ等の武器を取り上げ、動けないよう両手足を一人ひとり縛り上げている。


「身をもって知ったよ。おじさん達みたいなならず者になると、こんな馬鹿みたいな英雄気取りのクソガキですら相手にできないってことが、ね!」


「ぐっ! く、くそぉっ! このガキぃ! お前、何者だ!?」


「はあ? さっき言ったろ? ロリコンのおっさんに名乗る名前なんかねえって。アンタが言ってた通り、英雄気取りのクソガキでいいよ」


 ま、別に気取っちゃないけどな。


 フェルトは予想以上の手応えの無さに呆れる。

 武器を持って、大勢でかかれば倒せると考えてるどこにでもいるような雑魚チンピラ集団だった。

【識別】を使って戦うまでもなく、単調な攻撃を躱してカウンターを繰り返せば、あっさり制圧できた。


「ま、ここからは俺が教育してやるよ。これからアンタ達は強盗した罪や人攫いをした罪を、然るべきところで裁かれる。これが人が円滑な社会をつくるために定めたルール。オッケー?」


「うるさい! この生意気なクソガキがあっ!!」


「あー……はいはい、せいぜいきゃんきゃん喚いててくださいな、負け犬さん」


 フェルトは半裸で身を丸めているチェンナに近付き、


「助けに来たのがヘヴンでなくて悪かったな」


 そう言って、フェルトは羽織っていたフードマントを羽織らせた。


 チェンナの場合、この状況であっても憎まれ口を叩く気がしてならない。


 だがそんな予想は外される。


「!」


 なんとチェンナがひしっと抱きついてきたのだ。


「お、おい……」


「うっ、うう……わぁああああっ!!!! (ごわ)かった!! 怖かったですのよお!! わああああーーん!!!!」


 本当に怖かったようで、大号泣された。


 色んな意味であの紳士口調の言った教育通り、身をもって知った学びではあったのかもしれない。

 というか、ここまでされて学ばないなら、もう救いようもないだろう。


 泣き叫ぶチェンナの頭を撫でて諭しながら、フェルトはちょっとこの強盗団について考える。


 このアジトと思しきこの場所には多少の物資はあるものの、これだけの人数が生活できるスペースではない。

 あくまで一時的な溜まり場のようだ。


 しかも外観は入り口を隠してあるとはいえ、祠のような少し大きめな岩の下にある地下施設と、随分と不思議な場所である。

 まるでどこかに繋がっている地下遺跡の入り口ではないかと思うほどだ。


 しかし、やはりそういう点を考えれば、妙な点がやはりいくつかあるようで、この強盗団についてもそうだ。

 実力は大したこともない強盗団だったが、これだけの人数がそんなことを繰り返していれば、足もつくはず。

 フェルトひとりでもこれだけの人数を相手できるほど弱いなら、衛兵でも捕まえられそうな気がする。


「待てよ」


 そう言うと、フェルトは辺りを【識別】し始める。

 すると、


「! ……なるほどな」


 フェルトはあることを見つけたので、紳士口調の男に尋ねる。


「アンタ達だったんだな? 神出鬼没の強盗団ってのは……」


「な、何のことだ?」


「とぼけなくたっていい。そこに隠し扉があることは気付いてる」


 フェルトはそう言って、とある石壁に指差すと、紳士口調の男が血相を変えた。


「…………」


「アンタ、教師も向いてなければ、ギャンブラーにも向いてないな。ポーカーフェイスが下手くそだね」


「だ、黙れ!」


 そしてフェルトはその紳士口調の男の懐を(まさぐ)る。


「な、何を……!?」


「んー……」


 フェルトはこの紳士口調の男を【識別】した際に持っていたものが気になっていた。


「あっ……!?」


「これか。鍵ってのは……」


 そう言ってフェルトが取ったのは、ひとつの魔石。


「なあ? これ、なぁに?」


「き、貴様にそんなことを話す必要は――」


 ――【識別】


「なるほど。墓守の鍵ねぇ」


 フェルトは魔石に【識別】すると、そう分析できた。

 そしてそれを見抜いたフェルトに、反射的に紳士口調の男は尋ねた。


「なっ!? 何故それを……あっ!」


「ふーん……」


 フェルトはボロが出た紳士口調の男に、悪戯混じりのジト目を送ると、


「なあ、先生。これ、何なのか教えてくれよ」


 煽るように先生とわざと言い、座って縛られている紳士口調の男と目線を合わせるよう、フェルトも座った。


「だ、誰が教えるものか!」


 正直、【記憶の強奪】を使えば一発だが、極力は避けたい。


「喋ってくれれば、ギルドか衛兵に突き出した際、チェンナのことは黙っててやるよ」


「!」


「罪は少しでも軽い方がいいだろ?」


 フェルトの誘いに息を呑む紳士口調の男。

 ナイフは取られ、動けないよう両手足を縛られており、フェルトやチェンナがギルドや衛兵に言えば、一発で捕まるこの状況。

 確実に捕まるとわかっているなら、罪は軽くなる方がいいだろう。


「俺はどっちでもいいぜ? さっ、どうするよ」


「ぐっ……!」


 少し歯を食いしばり、悔しそうな表情を浮かべたが、断念したようで、がっくりと頭を下げた。


「わ、わかった。話すよ。その代わり……」


「ああ。チェンナの件は黙っててやるよ」


 ――フェルトはこうしてまんまと神出鬼没の原因を知り、強盗団をギルドに突き出し、チェンナを連れて宿屋へと戻った。




「――ただいまー」


 フェルト達の合流に一同が迎え入れる。


「フレンド!! 彼女は無事だったんだね!?」


「一応な」


 フェルトはそう言って、フードマントを羽織り、後ろに隠れるチェンナに視線を向けた。

 チェンナのその姿に一同は察した。


「ま、まさか……」


「まあ、そのまさかだよ。見つけたのは例の強盗団のアジトだ」


「「「「「!?」」」」」


 するとチェンナを攻めていた貴族嬢達が申し訳なさそうに謝る。


「ご、ごめんなさい。まさかこんなことになるなんて……」


 そしてエメローラも、


「わたくしも申し訳ありません。もう少し発言を考えるべきでした」


 この貴族嬢達もエメローラも正論しか口にしていなかったのだが、我儘娘の扱いとしては不正解だっただろう。


 だがそのチェンナもどうやら反省したらしく、


「わ、わたくしこそ、我儘ばっかりでごめんなさい、ですの」


「「「「「!?」」」」」


 チェンナが素直に謝るなど、一同あまりの衝撃に固まってしまった。

 かくいうフェルトもチェンナの置かれていた状況を知っていても驚いている。


「ま、強盗団に囲まれて襲われれば、反省のひとつやふたつくらいするってことさ。幸い、多少殴られた程度で、治療も済ませてきたしな」


 ギルドに引き渡した際、チェンナはそこで治療を行った。

 その際も違和感を感じるくらい静かに治療を受けていた。

 いつものアレを知ってるフェルトからしても衝撃だった。


「それはとても辛かったね。ごめんよ、助けに行かなくて。でも、もう安心だよ。僕が側にいてあげるからね」


 ヘイヴンが手を広げ、ハグの構えを取る。


「ほれ。お前の王子様が待っててくれてるぞ」


 そう言って行くように促すが、一向にフェルトの後ろから離れる気配がない。


「どうしたんだい? も、もしかして怒ってるのかい?」


「おい。行かないのか?」


「……ですの」


「は?」


 よく聞こえなかったので聞き返すと、キラキラした視線をフェルトに向けた。


「わたくしの運命の王子様はケルベルト様ではなく、貴方様だったんですわ! リーウェン様ぁ!!」


「「「「「はああ!?」」」」」


 フェルトがそう言うのはわかるが、一部の貴族嬢からも何を言ってるんだと、若干苛立ちを混じえてツッコんだ。


「並いるならず者達をなぎ倒し、颯爽とわたくしを助けて下さったあのお姿……。はあっ!! 素敵でしたわぁ〜……」


 何やら余韻に浸っているようだが、フェルト自身だって選ぶ権利はあり、こんな面倒くさい女なんか、まっぴらごめんだと思う。


「そんな馬鹿なこと言ってないで、ヘヴンのとこ行け!」


「そんなイケズなこと言わないで下さいまし、リーウェン様。わたくし、ちゃんと添い遂げますのよ」


 背筋に悪寒が走るほど嫌気が指すので、


「おい! お前からも何か言ってやれ、ヘヴン!」


 するとヘイヴンは、フッとキメ顔でこう語った。


「チェンナ嬢……運命と出逢ったんだね。少し寂しい気はするが、嬉しいよ」


「おいっ!!」


「はい! ケルベルト様!」


 ついにはフェルトに腕組みまでし始めた。


「おいおい、俺はお前の嫌いな平民だぞ、平民。山育ちの田舎臭い平民だぞ」


「そんなこと関係ありませんわ。リーウェン様はリーウェン様ですもの!」


 どうやら聞く耳持たないようだ。

 すると何やらドス黒いオーラを感じる。


「フェルト君〜。何だか楽しそうだねぇ〜」


「はあ!? これのどこが楽しそうに見えるんだ!? 解釈違いにもほどがあるだろう!」


 何だか知らないが、クレアがめちゃくちゃ怖い。

 だが更にその後ろからも似たようなオーラが放たれる。


「チェンナさん! リーウェン様は貴女のものじゃありませんよ!」


「なぁに言ってますの! リーウェン様はわたくしのことを思って、助けに来てくださったのですよ!」


「はあ!? 勘違いもよして下さいな!!」


 何やら女性陣がぎゃいぎゃいと揉め始めた。

 フェルトのことを取り合っているように聞こえる。

 だがこんなモテ期は嫌だと、少し引いた。


 今度は別の意味で宿屋に迷惑をかけたが、無事に休ませてもらえることとなった――。


 ***


 そして翌日、フェルト達は強盗団がアジトにしていた祠へ到着する。


「あのリーウェンさん。ここに何があるのですか?」


「エルマ! わたくしのリーウェン様に気安く話しかけないで下さる?」


「あー……俺は誰の物でもないから。後、ちょっと危ないから離れててくれるか?」


 今日も変わらずフェルトにぴったりくっついてくるチェンナ。

 また攫われないために必要なことですの〜とか言って、スキンシップしてくる。

 そしてその光景を嫉妬と嫌悪の視線が後ろから刺さって来る。


「はい! リーウェン様」


 チェンナはすっかりフェルトにご執心になってしまった。

 こんなことならヘイヴンを連れてくるべきだったと後悔する。


 そんな呆れながらも、フェルトは【識別】で見つけていた隠し扉の前に立ち、紳士口調の男から奪った魔石を近付ける。

 すると、


「おおっ」


 見事に隠し扉がご開帳。


「これは……隠し扉ですか?」


「ああ」


 フェルト達はその隠し扉の先の遺跡らしき通路を歩きながら、事情を説明する。


「昨日ギルドに突き出した強盗団が神出鬼没とされていた理由がこれだ。何でもあの強盗団のリーダーは墓守の一族って奴みたいで、この遺跡を守る役目を担っていたそうだが、時代が進むに連れて風化し、あのリーダーは犯罪手段として起用していたみたいだ」


「ということは、何かあるんだね? この遺跡」


「まあな。リーダーの話によると転移魔法陣がいくつもあるみたいで、どこの転移先も今入ってきた祠みたいなところにつくらしい」


「その行き先は?」


「言ったろ、クレア。神出鬼没の理由がこれだって……」


「……あっ! まさかユースクリア砂漠全域に移動できるってこと?」


「ああ。ユクシリア大陸は大昔、魔法に特化した大国だったろ? その技術のひとつとしてこの遺跡があるそうだ。所謂ここはユクシリア大陸全域を移動できるターミナルみたいな施設だったってこと」


「ほえー」


「なるほど。その強盗団は盗みを働いた後で、この遺跡の転移魔法陣を使い、追ってを巻いていたと……。しかし、それは追っていた側も使えるのでは?」


 祠の入り口は強盗団がバレないようにしてあったとはいえ、確かにその可能性もある。

 だが、


「それは使えない」


「え?」


「あくまでこの施設にある転移魔法陣は大昔に開発されたもので、今の転移魔法陣とは違うんだよ」


 時代と共に技術が発展していくのは、どっちの世界でも変わらないようで、この転移魔法陣には欠点があった。


「入り口専用の魔法陣と出口専用の魔法陣って感じで、一方通行なんだとよ」


 今の時代の転移魔法陣はその移動先にさえ設置されていれば出入り自由だが、昔の転移魔法陣は一方通行で、出口から入ることは出来ない仕様となっていると説明された。


「なるほど。確かにそれなら……ってアレ? それなら強盗団が逃げられないのでは?」


「それで、これが必要なわけ」


 フェルトはそう言って奪った魔石を見せた。


「これはここの遺跡を管理してたリーダーの先祖のものらしくてな。これを使えばこの遺跡の出入りは勿論、出口専用の魔法陣であっても入り口専用の転移魔法陣まで移動できるそうだ」


「つまり……それさえあれば炎天下をわざわざ歩かなくていいのか?」


「ああ。さすがに一部はサンド・ワームに食われて使えないものもあるみたいだが、俺達が向かおうとしてたファバルス王国近くまではこれでいける」


「「「「「おおっ!」」」」」


 砂漠横断はやはり辛かったようで、一同歓喜の声が上がる。


「しかもこの遺跡に入って、十五分ほどの場所にその転移魔法陣があるみたいだから、本来かかる時間より、圧倒的に短縮できる」


「「「「「おおっ!!」」」」」


 本来、ビストアンカからファバルス王国までは、もう少し砂漠を歩かなければいけないのと、いくつかの町を転々としなければいけなかったため、どんなに早くても二日以上はかかったところを十五分ほどに短縮できるのはデカ過ぎる。


「正にいたせりつくせりだな! よく見つけたぜ」


「はは。そうだな」


 するとチェンナが踏ん反りドヤ顔。


「ま、これもわたくしが捕まったおかげですわね。感謝なさい、平民」


 ちなみにフェルト以外のグエルやユーザに関してはまだ平民呼びである。


「捕まったことを自慢してんじゃねえよ。次はないからな」


「そ、そんなこと言わないで下さい! リーウェン様ぁ〜」


 こんな風にチェンナが甘えてくるたびに、空気が重くなっていく。


「……」


 女性陣の重苦しいオーラにヘイヴンが物申したいようで、


「フレンド。君は女心ってのがわかってないね」


「お前に言われたくない」


 どんな女であっても、減らず口を叩ける男にそんなことは言われたくない。


 そんな雑談を交えながら数分後――、


「ここか」


 ファバルス王国近くに転移する魔法陣に到着。

 ちなみに何で知っているかというと、ある程度の事情を聞いた後で、こっそり【記憶の強奪】を紳士口調の男にしておいたのだ。


 いくら転移できるとはいえ、いくつも魔法陣があるのだ、迷子になるわけにはいかない。


「これでファバルス王国にあるギルドに行き、同郷の人がいれば……」


「ようやく帰れるのですね」


 喜ぶ一同だが、同郷の人がいなければ、いくらこの転移魔法陣遺跡を使用できるとはいえ、精神的に厳しいものとなるだろう。

 だがここまで来たのだから、もう向かうしかないのも事実。

 その時はその時ということで対処するしかない。


「よし! じゃあ行くか!」


「「「「「おおーーっ!!」」」」」


 フェルト達は意気揚々と転移魔法陣に乗り込み、移動した先は、ビストアンカ(向こう)と似たような祠の中に移動してきた。


「着いたの?」


「おそらくな。多少、向こうとは違うみたいだし……」


 そう言いながらフェルト達は外へ出るとそこには、


「「「「「!?」」」」」


 その祠を囲むように、兵士が陳列していた。


「なっ!? こ、これは一体……」


 ここがファバルス王国の近くであることは事情なようで、ここから宮殿が見えている。


 ということはこの兵士達はファバルス王国軍ってことになる。


 フェルト達が状況に困惑していると、ひとりの男が近付いてくる。

 立派な髭を生やした騎士団長みたいな風貌の男性。


 下手な抵抗もできず、フェルト達は何を言われるのか、されるのか、わからないまま固まっていると、


「――お願い致します! 異国の方よ! 我が国をお救い下さい!」


 ピシッと頭を下げてそう言い放つ騎士団長っぽい男に合わせて、囲んでいる兵士達も頭を下げた。


「「「「「お願い致します!!」」」」」


 そんな状況もわからないフェルト達の反応なんてたかが知れていた。


「……は?」

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