28 ビストアンカ1
「おっ? 意外と早く着いたな」
そう言ったサラマンダー乗りの後ろにしがみつくメイド長は、今にも死にそうな顔をしているが、久しぶりの町に着いたことを喜ぼう。
――フェルト達はサラマンダー乗りの宣言通り、一日でビストアンカに到着。
エメローラ達を置いてきたということもあり、気を遣ってくれたのか、休憩少なめでサラマンダー達を割と酷使するかたちでの到着となった。
でもさすがに環境慣れしているせいか、サラマンダー乗りは魔物の現れる場所や魔力磁場などを把握しているようで、あの岩場がどうとか、あのサボテンがどうとか、フェルト達であれば絶対迷い、一悶着ふた悶着あるであろう一面砂だらけの大地をあっさり案内してみせた。
「や、やっと着きましたのね」
「お疲れ、蝶々ちゃん達」
後ろの方が揺れが激しく、下手したら乗ってる方が大変だったまである。
本当にご苦労様だ。
「じゃあ早速、親方のとこに行くか?」
「おう。頼む」
フェルト達は夜の砂漠の町を見下ろしながら、サラマンダー乗りの案内の元、先ずはエメローラ達を迎えに行ってもらうための交渉のため、親方との接触に向かう――。
――ビストアンカはファバルス王国の町のひとつで、ユースクリア砂漠の玄関口のひとつとなっている町。
そのこともあり、サラマンダー乗りのような観光事業、宿、ギルドの支部もあるようで、割と充実した町並みをしている。
そしてその観光事業を行なっているサラマンダー乗りの働き口にたどり着いた。
「親方ぁ〜! 客だぜぇー!」
フェルト達はサラマンダーから降り、その彼の後に続いて店の中に入ると、屈強な男達がこちらをギロリと睨んできた。
「ああん? こんな時間に客だぁ?」
「ひっ!?」
屈強かつ強面の男達にビビる女性陣は、フェルトとヘイヴンの背後に隠れ、
「大丈夫さ、蝶々ちゃん達。僕がついてるよ」
ヘイヴンは平常運転の口説きセリフが飛んだので、
「あー……はいはい。ツイテマスネー」
フェルトも平常運転のツッコミを入れてみた。
「てめぇらが客か?」
「あー、はい。俺の名前はフェルト・リーウェンって言います。実は少し事情がありまして――」
フェルトは遭遇したサラマンダー乗りの兄ちゃん同様、正直に事を語った。
「――ということで、今、ユースクリア王朝跡地で仲間が……」
「……ズビッ!」
「……?」
何か鼻を啜る音が聞こえたので、ちらりと顔を窺ってみると、
「うおっ!?」
そこには涙と鼻水まみれのむきむき強面達がいた。
「そ、そんな苦労をしてここまで来たのか!?」
「奴隷商に攫われたお嬢さん達を助け出したその根性、くう〜っ!! 感動したぜ!!」
そして親方はフェルトの両肩をがっしりと掴んだ。
腕も手もデカッ!?
「おしっ! わかったぜ、坊主! 今すぐにでも迎えに行ってやるからな! 野郎共っ! 支度を整えやがれぇ!!」
「「「「「――おおおおっ!!!!」」」」」
さっきまでの威圧的な態度はどこへやら。
人情に熱い集団のようで、親方の音頭と共に意気揚々と準備に励もうとするが、
「いやいやいや! ここから魔物が活発化するんだろ? 明日早くに向かってくれればいいからさ! 安全第一!」
このサラマンダー乗り達に何かあられては、エメローラ達と無事に合流することも叶わなくなる。
ちゃんと冷静にさせるべきだろう。
「むむっ。それもそうだな。坊主の漢気に興奮してしまって、ついな……」
漢気って……。
そんな褒められ方をすると、当然のことをしたまでなのにと、少し謙虚な気持ちになる。
「とはいえ、早朝出るための準備はしとかないとな」
「「「「「うっす!」」」」」
これだけ暑苦しく感情的な集団なら、エメローラ達と無事に合流させてくれるだろう。
「それで? 料金はいくらくらいになる?」
何せ残り十五人ほどの回収を依頼するわけだから、支払わないわけにもいかない。
正直、ファバルスまではもう少しあるから、ここでも値段交渉はしたいところだが、こんな素直な性格集団には、あの商人みたいな足下を見た交渉はできないだろう。
だから素直に提示された金額を払うつもりだ。
エメローラ達の人命を預かってもらうわけだから、そこはケチらないつもりだったのだが、
「――馬鹿野郎ぉおおおおっ!!!!」
ドゴォーンっと店内に怒号の叫び声が響き渡る。
「――おおっ!?」
「――おやおや」
「「「――ひぃっ!?」」」
フェルト達五人はその声に当てられる中、再び肩を掴まれる。
「奴隷商から命賭けたその心意気に報いる必要があるだろ? ここまで来るのにも苦労したはずだ……。見知らぬ土地で心身共に疲労したはずだ……」
確かに砂漠での野宿が続いたこともあって、ちゃんと疲労が抜けているかと問われれば微妙なところ。
「こんな時くらいそんなこと気にするな! 先ずは自分のことを考えな! ゆっくり休むといい! おい!」
「うっす!」
「贔屓の宿屋に案内してやりな。宿泊費は俺が持つ」
「いや、それくらい払うよ。何か申し訳ない……」
確かに多少の同情心から安くはならないかなぁっと、やましい考えはあったが、ここまで親切にしてもらうと良心が痛む。
「――馬鹿野郎ぉおおおおっ!!!!」
「……」
「おやおや」
「「「ひぃっ!?」」」
さすがに二回目となると冷静で居られる。
「お前達はまだ子供だ。こういう好意は受け取るべきだ」
「でもなぁ、慈善事業でもないだろ?」
サラマンダーを使うということは維持費は勿論、エメローラ達を迎えに行く場合、自分達の食料などの必要経費もあるはずだ、お金はいるだろう。
「なに、大丈夫だ。ちゃんと貰うとこから貰ってる!」
マナーの悪い奴からしっかりカツアゲしてると、キメ顔で言われた。
この厳つい強面むきむき筋肉で迫られ、助けられたことやマナー違反をした後ろめたさもあって、そういう客は支払いを拒まなかっただろう。
アコギな商売してんなぁ。
これ以上は話が平行線になりそうだったので、その好意を有り難く頂戴し、まさかの無料でエメローラ達を迎えに行ってもらうだけではなく、宿泊費まで持ってくれた。
そしてフェルト達をここまで連れて来てくれたサラマンダー乗りは親方に言われた通り、贔屓にしている宿屋へ案内してくれた。
「旦那! 居るかい? 客だよ」
「親方さんところの……。いっらっしゃい」
その親方さんとは正反対そうなヒョロっとした宿屋の店主がカウンターから挨拶。
「今日は五人かい?」
その店主は手慣れた様子で、帳簿を取り出した。
どうやら拾ってきた客の対処を常連的に行なってきたらしい。
贔屓のって言ってたしな。
「いや、コイツら含めて二十人だそうだ」
「に、二十……。今回は大所帯だねぇ……」
「まあ、事情があってな。支払いの方は親方が持つってさ」
するとそのサラマンダー乗りは親方から預かった小袋をカウンター上に置いた。
ジャラって音から、おそらく金だ。
お金を用意してあるとはいえ、そこまで大きくない宿屋。
ちょっと困った表情をして、
「……わかったよ。ちょっと確認をしてみるよ」
「あいよ」
割と早い判断、まるでいつも通りの対応と言ったところ。
店主は帳簿を確認し始めた。
「何か悪いな」
「別に。お前達はちょっと事情が特別だからな。っつってもまさか親方が金貰わないとは思わなかったぜ」
「はは……。随分情熱的な親方だったな」
このサラマンダー乗りはこっちの心境も考えて、一応貰うつもりで話していただけに、苦笑いしていた。
「悪いね、やっぱりそんな大人数を休ませるほどの部屋はないよ」
急な大人数の対応は困るだろう。
「今日のところは五人なんだ。大所帯になった時に一晩だけ休めればいい。最悪、俺達男は迷惑にならない程度に、廊下とかで雑魚寝させてくれればいい」
「うーん……」
フェルト達の目的は、あくまで冒険者ギルドにて同郷の者を探し出し、信用たる人物と共にオルドケイアへ帰ることだ。
幸いここには支部があり、大きな町であるファバルス王国の方がいる確率は高いが、ここで見つけられれば長居することもない。
最悪、屋根付きで休ませてもらえ、食事さえ食べられれば何でも良かったりする。
「まあお前さんらがそれでいいなら構わんが……」
「ああ。アンタには悪いが長居するつもりもないんでね」
「まあその方がいいさね。最近、このあたりで神出鬼没の強盗団が出てるらしいから、この辺りを知らないアンタ達みたいなのは狙われるかもしれないからね」
「ふーん」
ファバルス王国は流行病、ビストアンカでは神出鬼没の強盗団。
中々物騒な話だ。
――フェルト達はとりあえず男女別に一室ずつ借り、今日のところは休むことにしたが、チェンナが文句を垂れていたのは言わずもがなだったりする。
***
「――よく眠れたか?」
「ええ」
「はい」
「……」
チェンナは不機嫌そうにぶすーっとしており、返事は無しだ。
チェンナに限っては、好意的な感想はこないと思っていたから予想通りだ。
無視して話を始める。
「今日は二手に行動を分けよう。俺は先ずギルドに行ってみる」
「それがいいだろう。ここには支部があるからね。もしかしたら同郷の冒険者がいるかもしれない」
「ああ。だがまあ結果次第では買い出しも必要になるから、そのまま買い出しもしてくる」
「わかりました。ではわたくしもお供致します」
メイド長が立候補してくれるが、
「いや、アンタ達はサラマンダー乗り達の見送りをしたら、休んでてくれ」
「し、しかし……」
「あんな過酷な環境の旅路だったんだ、しっかり休んでてほしい。それに昨日、店主が言ってたが強盗団もいるらしい。さすがに昼間に出るとは思えないが一応な」
「ではフレンド、君ひとりでギルドの確認と買い出しをするのかい?」
「別に難しいことじゃないんだ、俺達はどちらにしたってクレア達が合流しないと動けない。それに今日一日中かかるってもんでもないしな」
するとチェンナはフンっとそっぽを向いた。
「ハッ! 早くわたくしを国に帰らせるためにせいぜい頑張ってくださいな。こんな下々の飯を食べさせられるのもウンザリですわ」
屋根の下で一晩休んだせいか早速、贅沢癖が出始めたようで、優しくしてくれた店主にまで聞こえるくらい大きな声で悪態を吐いた。
「バーチェナ様。ご厚意で泊めてくださっているのですよ。そんなことは……」
「うるっさいですわね!! わたくしが何でアンタ達みたいな奴と寝なくてはなりませんの!! 何であんな砂だらけの場所で寝なくてはならなかったんですの!! もう我慢の限界ですのぉおおおおっ!!」
地団駄を踏むように、テーブルをガンガンと叩くマナー知らずの貴族嬢。
フラストレーションが溜まるのはわかるが、発散の仕方が害悪過ぎる。
「まあお前にはもっと重要なことも任せたいし……な? ヘヴン?」
「……わかったよ」
するとヘイヴンはチェンナの手を取り、
「ごめんよ、チェンナ嬢。君にそんな不満を持たせてしまった僕を許してほしい」
「へえっ!? そ、そんな……! ケルベルト様は何も悪くありませんわ」
そんな艶っぽい声はどこから出るんだろう。
さっきまでの罵声はどこへ行ったのだろう。
「久しぶりの町だ、どうかな? 僕とデートと行こうじゃないか」
「ほ、本当ですの!? キャアアアアッ!!」
本当に近所迷惑。
「……というわけだから、アンタ達は大人しくこの宿屋にいてくれ」
「「は、はい……」」
こうしてフェルトはギルドの確認と買い出し、ヘイヴン達はサラマンダー乗りの見送りを済ませ、メイドふたりは宿屋で休み、ヘイヴンとチェンナは町を散策がてらデートと馳せ参じることとなった――。
――フェルトはこの町のギルド支部を探す。
「さてさて……」
宿屋の店主の情報を頼りに、道を進んでいくと、
「おっ。ここか……」
支部というだけあって、王都バルデルセンほどの規模のものではなかった。
中々小ぢんまりした施設で、正直、拠点にしているとは期待できない。
そんな中、建物の中へ入っていくと、案の定というべきか、褐色系の方々しか見受けられなかった。
「あの、すみません」
「はい。冒険者ギルドへようこそ」
褐色系の受付美女が営業スマイル。
どこでも第一印象って大切だ。
気軽に相談できそうと思えるのが良い。
「御用向きは何でしょうか? ご依頼ですか? それとも冒険者登録ですか?」
「あー……どちらかと言えばご依頼の方になるんですがね」
フードで隠れているフェルトの素顔がちらりと見えたのか、なるほどと軽く微笑んだ。
「ボディガードのご依頼ですか?」
色白なのがわかり、他国の人間だとわかっての判断。
プロのサービスとはこのことだろう。
「まあそうなんですが、ちょっと事情がありまして……」
「はあ……」
「俺達、できれば同郷の人間にボディガードをしてほしいんです」
「同郷、ですか。……こう言ってはなんですが、ちゃんとした人選をこちらで行えますよ。他国の方が砂漠を越えられずにいて泣きつかれるケースは、この町では良くあることです。そのあたりはお任せ下さい」
フェルトも別にここの国の人間を全員信用してないわけじゃない。
サラマンダー乗りの親方やその仲間達、宿屋の店主みたいに人柄の良い人達がいるのはわかってる。
だが他国の姫を連れてる以上は、そこは譲歩できない。
「いや、本当に特殊な事情がありまして、どうしても同郷の冒険者がいいんです。決して貴女達を信用してないわけじゃないんです」
「……わかりました。そこまで仰るのでしたら、まあ深くは尋ねません」
「悪いな」
すると受付嬢は、嫌な顔することなく冒険者登録をしているリストを確認し、
「えっと……」
どこの人間か訊くことなく、リストを確認しているところを見ると、やはりここでの活動を拠点としている人間はほとんどがこの国の人間なのだろう。
ユースクリア砂漠の後半は、確かにオルドケイアでは確認されないような特殊な魔物も存在していた。
サラマンダー乗りは、迂回の仕方なども的確だったが、それはやはりこの地で生まれ育ったが故に身についたことなのだろう。
そして、この受付嬢はボディガードの仕事は任せろと言ってきた。
つまりはここ、ビストアンカで活動している人種はこの国の人間がほとんどってことになる。
「すみません。こちらでは他国の冒険者の活動履歴がありませんし、依頼を受ける方も貴方様のような顔立ち、肌合いの方はおりませんね」
「そ、そっか。やっぱりファバルス王国くらい大きなとこに行かないとダメか……」
「そうですね。ファバルス王国であれば、他国の冒険者もいるかもしれませんね。しかし、今はあまり行くことをお勧めしませんけど……」
「確か、流行病がどうとか……」
「ええ。ご存知だったんですね」
不本意だが、神器持ちの可能性のある白フードの男から聞いた話だ。
「まあ大分落ち着いたとは聞いてますが……」
「なあ? そのあたり詳しい話、訊けます?」
少し考え込んだ受付嬢だったが、他の受付嬢に席を外すと伝えると、別のテーブルに移るよう案内された。
「この大陸の人間でないのなら、あまり詳しくは知らないのでしょう。お話しますね」
「いいのか? タダで」
何だか簡単に話してくれるので、ちょっと不安をぶつけてみるが、
「構いませんよ。この流行病はこの大陸に住んでいれば、誰でも聞くことがありますから……」
どうやら流行病はユクシリア大陸では、オルドケイア大陸での聖女の巡礼のように当たり前の話のようだ。
どうせ人も来ないからと教えてくれた。
「ファバルス王国で発生している流行病は、魔力磁場による神経病です」
わーお。
神経病とは恐ろしい単語が出てきたと驚く。
「魔力磁場って、神話戦争の天災で発生したとされるアレ?」
「さすがに他国の方でもそれくらいは知ってましたか。その通りです。このユクシリア大陸は他大陸よりも魔力の流れが不安定で、それを魔力磁場と呼び、それが酷くなると人体だけでなく、他の生物にも害を及ぼすのです」
それに敏感だったのがサンド・ワームって話だったと思い返す。
「へえー。つまりは魔力の乱れにより、俺達の魔力の流れも乱れ、身体の不調を訴えるってとこ?」
「ええ。ですから、ユクシリア大陸のどこででも発生する可能性があり、今年はファバルス王国が発生時期だったということです」
魔力、魔素は空気中に必ずあるものであり、魔法がそれによって使えるように、様々な影響を与えるものだ。
それこそ環境や健康面なども関係してくるものだろう。
オルドケイア大陸も、聖女の巡礼の魔力管理により、魔物の被害や魔力関連の病気にかかりづらいと言っていた。
「ですがファバルス王国ではそれを事前に把握し、特効薬や制御魔法などでほぼ治療されており、大方治ったと聞いてます」
「だけど万全ではないから、他国の人間が行くのは勧めないってことか」
「はい」
この受付嬢も下手に勧め、フェルト達が病気で倒れられても寝覚めが悪いだろう。
最悪、責任問題にもなりかないという心境なのだろう。
それでも行くしかないのがフェルト達の現状だったりする。
「わかったよ。行く時はくれぐれも気を付けるよ」
「まあ魔力磁場は落ち着いたと情報がありますし、大丈夫だと思いますが、気を付けるに越したことはありませんね」
「気を付けるついでに訊きたいことがもうひとつ」
「はい。何でしょう?」
「この辺りに神出鬼没の強盗団が出てるとか……?」
それにはどうやら冒険者ギルドの受付嬢も困っているようで、眉を顰めた。
「そうなんですよ……。各地に転々と現れては、煙のように姿を消す強盗団がおりまして……。ファバルス王国は流行病のこともあり、あまり兵士達が起用されることもなく、冒険者では彼らを見つけることも出来ずで……」
「なるほどな。どこにでも出るのか?」
「そうですね……、基本はこちらの区域に出没するみたいで、アジトもこちら辺りにあるのかと……」
「ふーん」
ここはフェルト達みたいな困り果てた他国の人間も訪れやすい場所。
強盗団が狙うにはうってつけだろう。
こちらも警戒しとくに越したことはない。
「まあ無いとは思いますけど、強盗団の情報があったらご連絡を……」
「そりゃ勿論。お話もさせてもらいましたし、見つけることがあれば、直ぐにでも……」
フェルトの場合は【識別】を使えば、わからないでもないだろうが、過去を遡れば遡るほどに頭痛が酷くなるから、仮に見つけるにしても、出来れば日付が近いと頭痛が少なくて助かる。
とはいえ、下手に突っ込む気はないからご期待には添えられないが、恩義がある以上、見つけることがあれば直ぐに連絡しよう。
***
――フェルトが冒険者ギルドでそんな情報を聞いた二日後、エメローラ達が無事合流。
サラマンダー乗りの親方達に改めて感謝をし、これからのことを話し合おうと、宿屋に戻ると、
「――貴女!! もういい加減にしない!!」
「煩いですわね!! 不味いものを不味いと言って何が悪いんですの!!」
夜も更けてきて、疲れているだろう貴族嬢達を先に戻して休ませるはずが、食事スペースで大喧嘩をしていた。
幸いというべきか、客は少ないが完全に営業妨害状態だ。
「おい、ヘヴン。お前がついておきながら、何してんだ!」
「ご、ごめんよ、フレンド。ぼ、僕も止めたんだが……ちょ、蝶々ちゃん達のストレスが爆発しちゃったようでね。ふ、不甲斐ない……」
本気で落ち込むヘイヴンと怯えている店主に事を尋ねると、どうやらチェンナの奴がまた食事や宿屋のサービスに文句をつけていたらしい。
こっちに来てから、安全な屋根の下にいたせいか、向こうでの贅沢な環境と比べてしまい、文句を垂れ流しているのだ。
「わたくしはずっと、ずっと、ずーーーーっと我慢してたんですのよ!! 文句のひとつやふたつくらいで何でそんなに怒られなきゃいけませんの!!」
「貴女、この旅に出てから文句と迷惑しかかけてないでしょ!! 我慢くらいするのが普通でしょうが!!」
「はあ!? わたくしは貴族ですわよ!! 貴族なのだから、その品位に見合う贅沢をするのは当然であり、着飾ることや美味しいものを食すのは貴族の義務ですわ!!」
「だから何なの!? 貴女、この旅で貴族であったことが一度でも役に立った? むしろ奴隷商に捕まった理由が貴族だからじゃない!! 役に立つどころか迷惑をかけてきたのよ!!」
「それは貴女達にも言えることですわ!!」
「ええ!! そうですよ!! ですから、わたくし達は少しでもお役に立てるよう、使用人さん達の支度を手伝ったり、テントの張り方を学んだり、足を引っ張らないよう、知識のあるリーウェン様やケルベルト様、姫殿下の言うことを聞いてきたのですよ」
興奮してるせいか、姫殿下と言ってしまっている。
周りはこの身震いするほどに怖い女の口喧嘩を前に、内容が入ってないようだから大丈夫だろうと信じたい。
エルマやナルヴィアも止めに入るが、ヒートアップする口喧嘩に聞く耳を持たないようで、フェルト達と共にサラマンダー乗りに礼を言って戻ってきたローラが、
「――おやめなさい!!」
「「「「「!?」」」」」
貴族嬢達全員、エメローラのところへ振り向いた。
「……皆様が思うバーチェナさんの酷い素行も理解できますが、ここの店主様や他のお客様のご迷惑になります」
「「「「「す、すみません……」」」」」
貴族嬢達は謝るが、チェンナはやはり反省の色などないようで、フンッとそっぽを向いた。
「まったくですわ! わたくしは当然のことを言っただけですのに……」
「……バーチェナさん」
「ひっ!?」
怒られるとわかっているのに、どうしてこうその場しのぎでもいいから、反省できないのかねえと呆れるフェルト。
するとエメローラは圧をかける怒り方でもなく、素直に怒号を浴びせることもなく、まるで子供でもあやすかのように、物事を考えるよう説く。
「彼女らの仰る通りです。貴女は確かに貴族の生まれではありますが、この旅路でそれが役に立ちましたか?」
「そ、それは……」
チェンナはしばらく考えたようだが、何も出てこなかったようで、言葉が詰まった。
「役に立たなかったでしょう? むしろその育ちのせいで、迷惑をかける機会の方が多かった。わたくし達が今こうして居られるのは、あの奴隷商や砂漠の大地からわたくし達を助けてくださった彼らがいたからであり、決してわたくし達が貴族だからではありません」
「で、でも……」
「以前も言ったはずです。平民の彼らは我々貴族の奴隷ではありません。むしろ守るべき存在なのだと。立場上、本来であればわたくし達が助けなければならない立場なのだと……。ですが、このような場では知識のある方々のお知恵を借りる他なく、貴族の無力を知る良い機会だったと思いませんか?」
「う、うう……」
「彼女達はそれをあの奴隷商の飛空艇で、そしてこの砂漠横断で十分に学びました。貴女だけなのですよ。貴族という、この場では何の意味もない肩書きに縋り付いているのは……」
他の貴族嬢達もエメローラの意見に同意するように頷いた。
「もっと良く周りを見て、良く考えて下さい。そうすれば――」
「うっ、ううう〜〜っ!!」
エメローラと周りの正論連打パンチが効いたのか、ヤケクソでも起こしたように泣き出した。
「うわぁああああーーーーっ!!!! わたくしだって……わたくしだって頑張ってますのにぃ〜……。姫様まで……姫様までそんなこと言うなんてぇ〜……」
「バ、バーチェナさん、落ち着いて――」
「煩い!! 煩い!! ですわあ!! わたくし役に立ってますもの!! ちゃんと奴隷商の奴らの時にケルベルト様を応援しましたもの!!」
応援のせいで、かなりピンチになったんだと、応援は役に立ったのではなく、迷惑をかけただけなんだと振り返る。
と、誰もが思っていたが口にするわけにもいかないと黙っていたのだが、
「いや、アレのせいで大ピンチだっただろ? 俺、意識は朦朧としてたが、お陰で豚マスク達と余計な戦闘を――」
「ば、馬鹿っ!!」
こんな状態のチェンナに何を的確ツッコミするつもりだと、フェルトとグエルは焦ってユーザの口を塞ぐ。
ユーザは確かにあの時は治癒魔法をかけてもらったばかりで、意識がハッキリしていなかった。
それでも豚マスク達が大群で襲ってきてたのは、わかっていたらしい。
「うっ! ううう……」
唯一役に立っていたと思っていたことを否定されて、更に子供みたいに涙をいっぱいにするチェンナは、フォローを入れてくれるであろう、ヘイヴンに視線が向いた。
「ち、違いますわよね? ケルベルト様、わたくしの応援で元気、出ましたわよね?」
女には滅法弱いヘイヴンは息をするが如く、
「と、当然さ! 君の応援で僕は……」
チェンナをフォローしようとするが、周りの貴族嬢達の視線が痛いほど向けられた。
「え、えっとぉ……」
「ケ、ケルベルト様……?」
「ぼ、僕が元気が出たのは本当さ! だ、だけどね、その……」
さすがのヘイヴンも擁護できないと、言葉に詰まってしまった。
すると味方が誰もいないとわかると、
「もう……もういいですわ!! なら、証明してあげますわ!! 貴族であることが役に立つのだと!!」
涙目の涙声で宿屋から勢いよく飛び出して行った。
「お、おい!」
フェルト達が呼び戻そうとした時には、既に姿はなかった。
ああいうヤケを起こした時の走りは、後先を考えないため速いのが相場だが、それにしたって見えなくなるのが早すぎる。
「す、すみません。説得するつもりが、余計なことを……」
「まあ精神がガキンチョのあの女に、あんな正論パンチを腹パンすれば、ああもなるでしょ」
もう少しチェンナに合う諭し方ってもんがあると思うのだが、どうにもエメローラは真面目だから仕方ない。
すると貴族嬢達からは反省すればいいと意見される。
「ローラ様、大丈夫ですわよ。あんな何もできない娘が戻ってくるのなんか、時間の問題です」
「反省する良い機会です」
言いたいことはわかるが、これはマズイ。
「そんなわけにも参りません。こんな夜遅くに飛び出していくなど……」
「ああ。それに強盗団も出没してるって話だ。下手に遭遇されたら、また攫われるぞ」
「「「「「!」」」」」
「それもそうだな。彼女は貴族であることが正しいと証明するとも言った。とすれば……」
ガルマのその意見に、フェルト達の想像は一致しただろう。
全員の表情が真っ青になった。
貴族であるわたくしの言うことを聞きなさいと、強盗団が潜んでいるかもしれない町で叫ぼうものなら、攫って下さいと歩いて宣伝しているようなものだ。
神出鬼没の強盗団だけでなく、小物の犯罪者にまで知れ渡る可能性がある。
「フェルト君! 探しに行った方が……」
「当たり前だ! だが貴族嬢はここで大人しくしてろよ。行くのは俺とグエルと……」
ヘイヴンは愕然と落ち込んだままだった。
「そこでヘタレてるお前だ!」
げしっとヘイヴンのケツを蹴って起こした。
「フ、フレンド……」
「全員で探した方がいいんじゃ……」
「さっきも言ったろ? 強盗団がいるかもしれないし、そもそも夜道を女に歩かせるな! それに大喧嘩した相手に探されたくもないだろ?」
「そ、そうかもしれませんね……」
「ユーザとガルマはここの女連中のボディガード! いいな?」
「おう!」
「わ、わかった。気を付けてな」
フェルト達は宿屋を飛び出し、三人分かれて探すことにする。
「俺は向こうで、ヘヴンはあっち。グエルは感知魔法を使って探し出せ」
「わかった!」
「りょ、了解さ。フレンド……」
「――お前もいつまでも凹んでんじゃねえ!!」




