26 ユースクリア王朝跡地1
――更にその翌日。
「着きましたわあーっ!! 人里ですのぉおおーっ!!」
そう言って閑散とした荒れた王朝跡地を叫ぶチェンナ。
「じゃねえよ。王朝跡地な」
「へ?」
チェンナは周りを見渡すが、見るところ見るところ全て瓦礫や古風な石柱が倒れているなど、何かしらの石造りの建物があったような惨状が広がる。
「人が居ませんわ!?」
「当たり前だろ。ここは跡地。しかもここに町があったのは、本当に大昔の話だぞ」
「せっかくここまで来ましたのにぃ〜!! というか王朝って何ですの!?」
「確か歴史の系列のことだったかな? ここを治めてた帝王がこんなことしてましたよって歴史がある場所を指してる。跡地だからな」
その帝王がおそらく『大罪の神器』ならぬ『大罪の宝具』を作れって指示したんだろう。
というか貴族の娘なら、王朝の意味くらい知ってろよと思ったフェルト。
「ですが一応、ここが目的地のひとつですわよね?」
「ああ。ここにサラマンダー乗りの人が定期的に見回りしてるって話だ」
「じゃあ早速探そうぜ!」
「いや、定期的ってことだから、今日来るとは限らない。だから分担しよう。ここで野営する」
「ま、そうなるよね。お料理や身の回りのことは使用人メイド達に任せればいいが、寝床はどうするんだい? フレンド」
ここは観光地だとも聞いているが、これだけ人の気配がしないなら、しばらくは大丈夫だろ。
「日が避けられる岩場近くにテントを設営したいな。……! あそこなんてどうだ?」
指差したのは、四角の石部屋。
屋根もしっかりついているため、悪くはないと思うがここは跡地、崩れてくるかも調べる。
「……問題ないようだね。よし、ここに拠点を置いてサラマンダー乗りの巡回を待とう」
「とはいえ早めに接触したいのも事実だし、ここは観光地であり歴史的場所でもある。人がいるかもしれないから探索も同時に進めようか」
正直、その歴史的場所で野営を構えるのはどうかと思うが、砂漠を歩き続けて三日以上。
大目に見てほしい。
メイド達やいつもテント用意をしてくれる面々は、そのあたりの準備を進めてもらい、何か起きても対処できそうなフェルトとヘイヴンが辺りの探索兼サラマンダー乗り探しになったのだが……、
「――何でお前がついてくるんだよ」
「いいじゃないか。ひとりよりふたりいた方が良いに決まってる」
何故かクレアがひょっこりついてきた。
ヘイヴン側にエメローラがついていくと言っていたが、さすがにそこは止めた。
エメローラの身に何かあるのが一番マズイ。
でもその時にクレアも突っぱねたはずなんだが、こっそりついてきていた。
「お前、変に頑固なとこないか?」
「そう? 気のせいじゃないかな?」
助け出してからも妙に距離が近い気がするが、出会ってからも近かった気がするので、そのあたりは深く考えるのはやめよう。
勘違いして、茶化されたり引かれても気まずくなるだけだ。
「それより人いないね。一応、観光地でもあるんだよね?」
「観光地っつっても、歴史的遺物のあるとこだしな。一般人は中々来ないだろ。こんな砂漠の真っ只中だしな」
この世界に秘境ツアーみたいなのがあるか知らないが、あんな砂漠を越えてまで来たところが、こんな廃墟とわかっていれば、来る人間もほとんどいないだろう。
「でも、ここを管理しているのはファバルス王国なんだよね? その衛兵の姿もないみたいだね」
歴史的遺跡を守る衛兵がいないことには、確かに違和感があるところだが、
「まあ景観を守るためだとか、あとは人をやるにしてもその費用がかかるんだろう。それに他の国も睨みを効かしてるなら、下手に所有物だと示すような行動もできないんじゃないか?」
「あー……そう言われればそうかも……」
そういう行動ひとつで国境感に亀裂が入ったりする。
慎重な行動をするに越したことはないだろう。
とはいえ、考古学者みたいなのがひとりやふたりくらい居てくれてもいいと思う。
そう思いながら、サラマンダー乗りが走ってないか、ユースクリア砂漠を見渡しながら、遺跡地帯を探索していると、
「……! フェルト君! あそこ!」
「ん?」
王朝跡地を見てくれていたクレアが、見てくれと袖をくいくいと引っ張る。
その指差す方向を見ると、白いフードローブを羽織った大柄な人物がいた。
フードを被っていて顔は見えないが、白髪混じりの整った顎髭がひょっこりと覗いている。
男のようだ。
「観光……者にしては風格があるね」
「おう……」
その白ローブの男の時間だけが止まっているかのように、偉人の雰囲気が漂っていた。
「まあ学者さんに見えなくもないか。話しかけてみる?」
少し悪寒を感じる異質な雰囲気を放った男だが、ナジン以降、この地の情報に明るい人物との接触がない。
それにここにいるならば、サラマンダー乗りを見かけたことやいつ来たのかなどを尋ねることができれば、フェルト達のモチベーションにも繋がる。
「……ああ。そうだな」
とはいえ接触は慎重に行うべきだろう。
考古学者にしては荷物が少な過ぎるし、ひとりでいるところも引っかかる。
――【識別】
「!?」
「あのー……」
クレアが気付いてもらおうと遠くから叫ぼうとした時、フェルトはバッと手を広げ、クレアを止めた。
「待て!」
「な、なに?」
フェルトは静かに、しかし鬼気迫る言い方でクレアを止めると、さすがのクレアもちょっと怖がったように止まった。
フェルト達は岩陰に隠れ、音を殺して身を顰めた。
クレアが「ねえ、どうしたの?」としつこく聞いてくる中、フェルトはひとり葛藤していた。
「………………」
何でこんなところで遭遇するんだ!?
フェルトは運命の女神様とやらがいるのなら、呪いたくなってくると、苛立ちと焦燥感に駆られている。
フェルト達が遭遇したのは神器持ち、つまりはフェルトや人喰いとは別の『大罪の神器』の所有者が目の前にいるのだ。
フェルトの【識別】で判断がされなかったという事例が起きる場合、『大罪の神器』であると判断できる。
『大罪の神器』は他の『大罪の神器』の影響を受けない。
つまりは【識別】にかかることはなく、フェルトが情報を得られない。
逆に言えば、情報が得られない人物は神器持ちという判断ができる。
そして目の前にいる白ローブの異質な雰囲気を放つ男はその情報が入ることがなかった。
つまりは神器持ちである可能性が高い。
高いというのは、あくまで【識別】の判断ができないのは、神器持ちだけに限らないからである。
この『大罪の神器』の能力を受けないという能力は、そもそも神格化した『大罪の神器』が神域にたどり着いた神物である影響がある。
つまりは同格には通じないという説があり、フェルトはその確認をイミエルにしたことがなかった。
何故しなかったのかと言えば、【識別】を使い、目の前にいる神器持ちが見た目的に『大罪の神器』を所有していると判断ができる可能性が高く、ダメ押しで判断する方法として【識別】を使う傾向があると思ったからだ。
人喰いが神器持ちであることも、あの仮面がそうなのかと簡単に判断がつき、一応の確認で【識別】を使用している。
いくら精巧に作られているとはいえ義眼や義足といった物、判断は難しくないと考えていた。
だがあの白ローブの男は全身を隠すように、頭の上から足元まで『大罪の神器』の片鱗を見せることがなかったのだ。
手足首先からはひょっこりと顔を出してはいるものの、『大罪の神器』は人の身体そっくりに作られているため、この遠巻きからの確認は難しく、義眼である可能性もここからでは判断ができない。
だが限りなく神器持ちの可能性が極めて高いため、フェルトとしては接触は全力で控えたい。
あの白ローブの男が所有する『大罪の神器』の能力が一切不明の状態で隣のクレアをはじめ、エメローラ達もいる中、フェルトの所有する『強欲の義眼』や人喰いが所有する『暴食の仮面』のようなデタラメな強さを持ち、戦うことになろうものなら必ず死人が出る。
しかもあの男が神器持ちである可能性を底上げしているのはここ、ユースクリア王朝跡地が『大罪の神器』を作った聖地であるとされているからだ。
この世界では『大罪の神器』の情報は乏しいが、無いことではない。
勘のいい奴ならば、このユクシリア大陸で起きた神話戦争、錬金術の衰退などを疑問に持ち、たどり着く可能性は高い。
しかも神器持ちであるならば、尚更それに気付く可能性は高いと考えれば、あの白ローブの男はほぼ神器持ちであると判断できる。
「ねえ、大丈夫? 顔色悪いみたいだけど……」
深刻な表情をして汗を滴らせるフェルトに、そっと声をかけてくるクレア。
「ああ、大丈夫だ。とりあえずこの場を離れよう」
「えっ!? せ、せっかく人がいたのに……」
確かにクレアから見れば、ただの白ローブの男にしか見えず、フェルト達の状況を考えれば、多少のリスクを犯してでも話したい相手であることはわかるが、神器持ちの可能性がある場合は論外だ。
「アイツはダメだ。絶対だ」
「で、でも……」
「いいから! 頼むからアイツは諦めてくれ」
するとクレアから当然の質問が投げかけられる。
「何で? 確かにちょっと雰囲気はある人かもしれないけど、そんなに危険な感じはしないよ。それにここからじゃ、その判断も早すぎるんじゃない?」
【識別】を使ってるとは言えないわけで、
「砂漠を俺達みたいに横断したにしては軽装過ぎる」
「それはボクらみたいにマジックボックスを使用してるからじゃないかい?」
「頭の先から全て隠れるようにしてるじゃないか」
「そ、それもボクら同様、日除けのためだろう? さっきから説得力がないよ? フェルト君……」
あの男と話しかけてはいけない、クレアを納得させる理由が全然思い浮かばない。
できる限り早くこの場を離れなければならないという焦燥感が邪魔をしているようだ。
「――そこの方。どうかされましたか?」
「「!?」」
落ち着いた、しかしどこかドッシリとした貫禄のある低い声で話しかけられた。
岩陰でひそひそとはいえ揉めあっていたのだ、気付かれてしまったようだ。
だが一応、フェルトはクレアの口元を押さえ、身を顰める。
「……」
「……そんなに警戒なさらないで下さい。何もあなた方を煮て焼こうなどとは考えておりませんよ」
「……」
確かにその声や態度からは敵意がある雰囲を感じない。
だがそこが逆に不気味さを感じたりする。
するとクレアがフェルトの手から離れ、
「ほら、気付かれてしまったみたいだから、話だけでもしてみようよ。悪い人でもなさそうだし……」
「いや、待――」
フェルトの反対を押し切り、クレアはひょっこりと顔を出す。
「いやぁ、申し訳ありません。こんな廃墟に人がいるのはおかしいって彼が言うものですから……」
「なるほど。まあ、確かにわたくしは見た目もこうですから、変に警戒されるのも仕方ありませんかな?」
そう言った白ローブの男は全身が隠れた姿であるとわかるように、両腕を軽く広げ、ローブの大きさを示した。
クレアが出てしまった以上、下手に出ない方がフェルト自身を神器持ちと判断する材料になりかねないと、フェルトも渋々顔を見せる。
「……どーも」
警戒心丸出しの俺の顔を少し呆然と見た白ローブの男は、すぐにクスッと微笑んだ。
「フフ。随分と心配されているのですね。大丈夫ですよ、彼氏さん。わたくしがその彼女に手を上げるような真似は致しません」
「や……か、彼氏だなんて、そんな……」
「いや、コイツは彼女じゃないんで」
すると、
「……痛い。今何で踏んだ?」
前に踏まれたより、思いっきり踏まれた。
だがこの男に強い警戒をしていた影響か、あまり痛みは感じなかった。
「そうだけど……もう少しデリカシーを持てよって思っただけ……」
魅力の無い女だと思われたくないということなのだろうか。
まあそれは悪かったと思うフェルトだが、今はそんな場合ではない。
「アンタはここで何を……?」
白ローブの男は、軽く鼻息を吐くと遺跡の方へ視線を身体ごと向けた。
「わたくしはこう見えても考古学者でね、ここを調べていたのですよ」
やはりか。
考古学者であるかは置いておいて、『大罪の神器』もといこの男調べでは『大罪の宝具』もしくは『大罪の呪具』というかたちで調べに来た可能性がやはり高い。
「へえー、学者さんですか」
「ええ、この国の生い立ちは色々とまだ判明してないことも多く、その大半の証拠をサンド・ワームの餌にされてしまったこともあり、中々ここの歴史文学を明るみにすることがないのだよ」
「へえー、それがわかると中々ロマンのあるお話ですよね? 神話戦争が起きたきっかけやこの国が滅びた要因、当時の技術とか……」
「ほほう。中々話のわかるお嬢さんだ」
話が弾む中で、クレアが無警戒に白ローブの男に近付こうとするところを、
「!」
ぐいっと引っ張り、フェルトの側に寄せた。
「フェ、フェルト君……?」
「……」
少しの油断だって許されない。
この男は人喰いと違い、フェルトのようにしっかりと理性を保ったまま『大罪の神器』を使用できる可能性がある。
ほんの少しの油断がクレアを殺す可能性がある以上は、下手に近付かせるわけにはいかない。
すると白ローブの男は、やれやれとでも言いたげな呆れたため息を吐いた。
「そのお嬢さんが大切なのはわかるが、少し警戒し過ぎではないかな? あまりそのように殺気立たれると、こちらも少々不快になるのだが……」
確かに感じ悪いのは否定しないし、勘違いであれば申し訳ないのだが、
「悪いな。こっちにも事情があるんだ、必要以上の警戒をすることを許してほしい」
『大罪の神器』のこともそうだが、フェルトはエメローラ達の人命も握っている。
危険と判断できる人物への警戒を強めるのは至極当然のことだ。
「事情とは……?」
「そ、それは……」
クレアは穏やかな喋り口をしているこの男に少しだが気を許しがちなようで、助けを求めるように事情を話そうとしたが、
「実は俺達、遭難者でな。命からがらここまでたどり着いて、やっとの思いでたどり着いた先で出会ったのが全身白ローブの怪しい人物となれば、警戒もするだろ?」
さも『大罪の神器』を警戒しているのではなく、あくまで命懸けでここまで来て、変な人物と関わりたくないというような言い方で吐き捨てた。
するとフェルトの言い分がまかり通っていると、不快と言って少し険しくしていた表情が和らいだ。
「なるほど。確かにその肌や顔立ちはこの地の人間ではありませんね。そんな他国の人間がこの砂漠を越えて来て、わたくしのような正体不明の人物を見れば、強い警戒心も向けますか……」
すると白ローブの男はフェルトの顔をジッと見た。
「……貴方、その左目は義眼ですかな?」
「! ……だったら何だよ?」
フェルトが『大罪の神器』を持っていると判断するための質問だろうか。
余計なことを言うと、余計に神器持ちであると判断されそうなので、これ以上を答えないよう表情を変えることなく警戒していると、
「いや、何でもないさ。気に障ったのなら謝罪しよう」
フェルトの元々の左目が無くなったことを思い出させてしまったのかと、謝罪するようなことを言われた。
そこまで気を使えるのなら、本当に敵意はないのかもしれない。
「いや、こっちもこれだけ失礼な態度を取ってるんだ、謝らなくていい」
とはいえ警戒を緩める理由にはならない。
だが神器持ちだと気付かれないようにするためにも、あくまで左目の代用である言い方を貫き通す。
「遭難と言いましたか。確かにここまでたどり着いた者で、そのような救難を求める者も少なからずおりましたね」
「そうなんです?」
「ええ。わたくしはここから東の町を拠点とし、ここでの調査活動を行なっていて、たまにそちらの町まで一緒に行くこともあります」
「!」
「どうでしょう? そこまで警戒している貴方達に勧めるのもどうかと思うのですが、何分、遭難を聞いて放っておけるほど、心臓に毛は生えておりません。わたくしが拠点としている町までご一緒しますか? 丁度帰ろうと思っていた頃合いでして……」
「ほ、本当ですか!?」
願ってもないことだとクレアはとても嬉しそうに俺の肩を揺さぶる。
「ねえ、ねえ!? これはチャンスなのでは? ねえ? フェルト君!」
「……」
改めて【識別】をしてみるも、やはり情報が一切出てこない。
神器持ちの可能性が否定できない以上、この男の提案に乗るわけにはいかない。
「悪いが、アンタの世話にはならないよ」
「ええっ!?」
「……やはり信用なりませんか?」
「ああ、ならないね。そうやって俺達を奴隷商なんかに売りつける可能性もあるからな」
異国の人間だからこそという警戒心を強める発言をしてみる。
こうしてカモフラージュすれば、神器持ちだから警戒しているとは思われないだろう。
「……その思い込みは心外ですが、まあ確かに異国での遭難とあれば、それほど警戒した方が良いでしょう。ただ、正直にそれを口にするのは控えた方がいい。相手を不快にさせるだけです」
「ああ。次から気をつけるよ」
フェルトもそこまで感じの悪い警戒の仕方を相手に見せるわけがない。
だけど今は状況が状況だ。
少しでも早くこの男から離れたい。
『大罪の神器』は回収しなくてはならないが、時期が違うだろう。
「ではどうやって帰るつもりで?」
本当に親切心があるようで、そこを聞かせてくれないとこの場を離れなさそうな雰囲気で心配してくる。
「ここは一応、観光地なんだろ?」
「ええ」
「サラマンダー乗りが定期的に訪れるって聞いてる。その人達に助けてもらうつもりで、ここまで歩いて来たんだ」
「ほう、なるほど。確かに怪しい人物の親切心よりサラマンダー乗りという金で取引を行う方が、色んな意味で信頼できますからな」
「ま、そういうことだ」
怪しげな商売をしているならまだしも、わざわざここまでサラマンダーに乗り巡回するような観光業なら、信用するに値するだろう。
「だからアンタに訊きたいことがあるとすれば、ここで調査を行なってたんだろ? サラマンダー乗りが一番最後に訪れたのはいつだ? 周期性があるなら教えてほしい」
すると白ローブの男は、虫の良い話ではないかなどと文句ひとつ言うことなく教えてくれた。
「最後に挨拶したのは、二日前ほどか。周期性はあるにはあるが、不特定でな。しかし、今日明日には来るのではないかな?」
「それは本当ですか?」
「ええ。それに彼らはとても気さくな人柄故、事情を話せば応えてくれることでしょう」
それは朗報だ。
ここでその嘘をこの男がつくメリットがないので、おそらくこれは本当だろう。
「感謝するよ。ありがと」
「おや? 感謝の言葉を口にするのですね」
「あのな。あんたのことは信用しちゃないが、有力な情報を得て感謝できねーほど、礼儀知らずじゃねえよ」
「それは安心しました」
すると白ローブの男は立ち去ろうとする。
「ではわたくしはここから離れるとしましょう。今の話を信用するつもりのようですから、わたくしがこの地に留まっているのは、不安でしょう」
「悪いな。気を使わせて……」
「いえ。貴方が警戒される気持ちもわからないではないですから。では……」
すると白ローブの男は召喚魔を呼び出した。
呼び出されたのは、大型のドラゴン種。
それに跨り、その場を後にしようとした白ローブの男は何かを思い出したようで、
「ああ、そうそう。サラマンダー乗りを利用するつもりなのであれば、行き先はファバルス王国領土になるでしょうか?」
「一応、そのつもりだ」
サラマンダー乗りを知っているなら、そこで嘘をつく必要はない。
挨拶をするほどの仲らしいしな。
「わたくしに対してそれだけ警戒する貴方には余計なお世話かもしれませんが、最近、ファバルス王国で定期的に訪れる流行病が起きていました」
定期的に訪れる流行病……?
妙な言い方に引っかかる。
「今は落ち着いているようですが、一応お気を付けを……。では……」
そう言って大型の白龍に乗った白ローブの男はその場を去って行き、フェルトは姿が見えなくなるまで見送った。
するとクレアはさすがに不機嫌なようで、
「何であんな態度取ったの? フェルト君らしくもない! あんなに優しくて良い人そうだったよ?」
確かに余裕はなかった。
事実、あの男が『大罪の神器』の力を振るわれれば、ただでは済まなかったのだ、あんな不快感を覚えさせる態度を取ったことに後悔はしていない。
それでもクレアにとっては帰るチャンスを潰されたのも事実。
そこは反省するとしよう。
「悪かったよ。俺もここまでの砂漠横断のせいもあって余裕も無かったし、ちょっと疲れが出たのかもしれねえな」
フェルトの言い訳も一理あると、クレアはホッとため息。
「……まあそういうことなら、仕方ないか。でも本当に怖かったよ。フェルト君のそんな顔、初めて見た」
フェルトも神器持ちとの遭遇は、人喰い以来無かったことだ、変に力が入り過ぎて、警戒し過ぎた気もしている。
とはいえ、神器持ちであることも否定はやはりできないため、
「なあ、クレア」
「なに?」
「あの男と会ったことは内緒にしてくれないか?」
クレアは一瞬何故と不思議そうな表情をしたが、
「わかったよ。でも、今日明日サラマンダー乗りが来るかもって情報はどう聞いたってことにするの?」
フェルトが強い警戒心を持っていたのを察して、隠すことに協力してくれるようだ。
「俺達がそれをわかってればいいさ。言う言わない、どちらにしたってサラマンダー乗りを見つけるための監視を怠るつもりはないからな」
「そっか。わかったよ」
その情報を得たフェルト達は一度、皆と合流することに決め、戻る道中の間、クレアはずっと黙ったままだった。
それはおそらくフェルトの顔色を窺ってのことだったんだろう。
その時のフェルトは、あの男は何を調べていたのか。
どんな『大罪の神器』を所有していたのだろうか。
奴の狙いは何なんだろうなど、あの白ローブの男のことで頭がいっぱいだったのだから。
きっと怖い険しい表情をしていたのだろう。




