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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
48/177

25 ユースクリア砂漠横断開始

 

「うう……あづい〜っ! あづいですわぁ〜」


 ジリジリと照りつける太陽の真下、フェルト達は終わりの見えない砂の大地をゆっくりと歩いている。


 ――昨日、フェルト達が買い出しに行ってる間にまさかこんなにも早くフードマントや簡易テントなど砂漠を行くための準備ができているとは思っていなかった。


 正直、女子貴族寮の使用人メイドを舐めていた。

 彼女達が手際良く用意してくれていたおかげで、こうして翌日には余裕を持ってナジンを出発したわけだが……、


「あづいですわぁ〜。あづいですわぁ〜……」


 日が高くなってきてから、体力をじわじわと奪われていく。

 挙句、暑いことなんて言わなくてもわかっているのに、文句でもあるかのようにチェンナが暑い暑いと連呼し続けていたりする。


「わかったから、ちょっとは黙って歩け!」


「うるさいですわね、平民! 文句のひとつやふたつでも言ってないとやってられないんですわ! ああーっ!! どうしてこうなったんですのぉ!!」


「じゃああの沈んでいくとわかってる船の上にいたかったか?」


「それとは別問題ですわ!! そもそも、もっとスマートな助け方があったでしょ!?」


「そんな都合の良い話があるか!!」


 チェンナとグエルの喧嘩がまだまだ続きそうなので、


「やめろやめろ! やっとでさえ暑くて気が滅入るのに、そんなデカい声で喧嘩するな! そんな元気があるなら足動かせ!」


「す、すまない」


「何で貴方に指図されなくてはいけませんの! 平民!」


 チェンナはやはり反省などしていない。

 エメローラにあれだけ言われたのにも関わらずだ。


「まあまあ蝶々ちゃん。僕の顔を立てると思って、今は許しておくれよ。君が頑張っているのは……僕が一番わかってるからさ」


「ケ、ケルベルト様ぁ〜!」


「「……」」


 ヘイヴンもみんなの士気を落とさないようにするためか、騒がしいチェンナを沈める役に徹してくれた。

 チェンナの扱いは全部、あのナルシスト野郎(ヘイヴン)に任せた方が良さそうだ。


「お前もいちいちあの女に突っかかるな」


「わ、わかってるんだが、協調性を持って行動しなければならないのに、その輪を乱すような真似をしているのが見過ごせなくて……」


「それで輪を乱してりゃあ、世話ねえよ」


「! ……す、すまない」


「あの女が、わー! きゃー! 言うのは暗黙の了解みたいなとこあるだろ……」


 人の話は聞かないくせに、自分の意見は通らないと怒る。

 自分は優遇されないといけない、自分に都合の悪いことは他人に頼ると他力本願。


 そんな我儘娘をこの砂漠の中、歩けと言われれば文句が出るなんて誰でも想像がつくことであった。

 本来なら、フェルト達だって文句を口にしたいほどだ。


「それに下手に騒いだって体力と気力の無駄だ。水だって限られてる、下手な言い合いは自殺行為だぞ」


 すると、やはりというべきか、チェンナが上から目線で物を言う。


「平民! 喉が渇きましたわ!」


「……ちゃんと必要分渡したろ?」


 出発前にひとり分の必要な水を各自に持たせてあり、調整して飲むよう、指示したはずだが……、


「もうありませんわ!」


 そんなことをチェンナが守るはずもなく、一時間もしないうちに飲み干したと口にする。

 まだ暑くない朝早くにナジンを出立し、体力が落ちづらい状況を作りつつ、最初のうちは水を飲まずとも大丈夫なように行動したはずだが、そんなことお構いなしらしい。


「じゃあ昼休憩まで我慢しろ」


「はあ!? ふざけたこと言ってるんじゃありませんわ、平民! こんな暑い中、歩いてやってるのに、わたくしに水ひとつ渡さないんですの?」


 やってるとか、水を渡してないとか、この女は本当に何を言ってるんだろうとフェルトは呆れる。

 どっちがふざけているか、指摘してやりたいところだが、この暑さでそんな気力もない。

 とはいえ、チェンナの要望にも応えるわけにはいかない。

 食料は勿論だが、水はかなり貴重だ。

 二十人もいる以上、その管理はシビアに行わなければならない。

 非常時のこともある、下手に裂くわけにもいかない。


「……それだけデカい声で喚く元気があるなら大丈夫だよ。俺よりもお偉いお貴族様」


「貴方達のような体力馬鹿と一緒にしないでくださいます? わたくしはとても繊細なのですよ」


 そんなデカい声で文句を垂れ流し、とにかく自分の望み通りにしろと図々しいセリフが出てくるチェンナを、とてもじゃないが繊細とは思えなかった。


「あー……はいはい」


 もう相手にしてられないと適当に返事。

 するとヘイヴンが再びチェンナを説得する。


「ごめんよ、蝶々ちゃん。水は今のこの状況、とても貴重な物なんだ。彼はその管理をしている立場上、贔屓ができないんだ」


「ケルベルト様……お優しい」


 チェンナは本当に都合の良い女だ。

 人を選んでちゃんと猫を被ってくる。


「だから今は僕の水をお飲み。僕は大丈――」


「それはダメだ、ヘヴン」


「「!」」


 水筒を普通に手渡そうとしたヘイヴンに、少し厳しめにフェルトは注意した。


「はあ? ケルベルト様がくれるって言っているのに、何で平民の貴方が口出ししますの?」


「それはヘヴンの分の飲み水だ。誰かに渡して良い分は渡してない」


「大丈夫さ、フレンド。僕のことは心配いらない」


「そういう問題じゃない。これだけの暑さなんだ、体力、気力もそうだが、水分もごっそり持っていかれている。それを補うためのものだ。それはお前の命のためのものであって、人の話も聞かず、飲み干した奴に渡すものではない」


 全員で無事に帰るためには、そのあたりは厳しくしないとダメだ。

 ヘイヴンは本当に女に甘すぎる。


「なっ!? ま、まるでわたくしが悪いみたいでは――」


「もういい加減になさい」


「!」


「確かにリーウェンさんは言いましたよ。これから暑くなるから、水は少量で、まめに飲むようにと。それを守らず、飲み干してしまった貴女が悪いのです。リーウェンさんは皆で無事に帰るために水を管理してくれているです、守るべきことは守りなさい」


「……も、申し訳ありません」


 目上の人間の言うことなら、素直に聞くチェンナ。だが、それでもフェルト達の言うことをちょっとは聞いてほしいものだ。


「というわけだ、ヘヴンはこっそりとでも飲ませようとするだろうから、俺の前を歩け」


「え゛っ!?」


 図星だったなとフェルトとエメローラが睨む。


「そ、そんな顔をしないでおくれよ。ぼ、僕は枯れ果ててしまいそうな蝶々ちゃんが見ていられなくて……」


「安心しろ。こん中で一番元気なのは、その枯れ果てそうと心配しているその女だ」


「わたくしも同意見です」


「ええっ!?」


 そんなデカい声で喚き散らす元気のある女が枯れ果てそうに見えるなら、フェルト達は既に水の抜かれたミイラと考えていいだろう。


 そう指摘し、フェルトは前を歩けと首を振って指示すると、ヘイヴンは渋々前へ行き、チェンナの側にはチェンナのメイドがついた。


 そしてそのメイドにもエメローラは念押しする。


「貴女。バーチェナさんが限界に見えましたら、わたくし達に相談を。そうではない限りは基本、貴女自身の水分補給を優先なさい」


「は、はい!」


 このメイドにも、チェンナよりエメローラの方の言うことの方が聞くだろう。


 権力って恐ろしい。


 さすがにエメローラの目が光っているうちは、チェンナも何も言えず、昼休憩まで小声で「あづい、あづい」言いながらも歩いていた――。




「――水っ! 水ですわあ!!」


 昼休憩。

 食事はメイド達が用意してくれ、昼休憩飲む分の水を配布。


 早速飲み干そうとするチェンナだったが、


「チェンナさん。貴重なお水なんですから、少しずつ飲まなければダメですよ」


 ナルヴィアの怖くない言い方の指摘ぐらいでは止まりそうになかったので、


「バーチェナさん」


「ひっ!?」


 ニッコリ笑顔のエメローラが圧をかける。


「水のおかわりはありませんよ。ね? リーウェンさん?」


「お、おう」


 こちらにまでその圧のこもった笑顔を向けないでほしいと思ったフェルト。


 すると先程のような注意はされたくないようで、チェンナはちびっと水を飲んだ。


 みんな雑談を少し交えながら食事を進めているが、やはり目に見えて疲労感があるように見える。


 やはりこの砂漠という足を取られる地面と照りつける太陽、砂も熱を帯びての上下両サイドからの熱攻撃は、オルドケイア人にはやはり堪える。


 元気が取り柄のはずのユーザも口数が少ないし、最初の方はチェンナと揉めていたグエルも口を閉ざしている。


 ガルマやエルマに関してはエメローラの護衛騎士ということもあり、神経もかなり使っているようだ。

 正直、この砂漠で警戒すべきはサンド・ワームくらいだろうが、商人から聞くに、そうそう襲ってくることはないそうだ。


 そのエメローラもクレアとお喋りを軽く交えながら、疲れを誤魔化し誤魔化しで歩いていた節がある。


 他貴族嬢やメイド達も明るく振る舞ってはいるが、疲労感がやはり目立つ。


 元気なのは、暑いだの、水が欲しいだの、疲れただの、文句をぶちぶちぶちぶち口にしていたチェンナと、女の子さえいればという謎エネルギーで動くヘイヴンくらいだ。


 チェンナはストレス発散してる部分からだろうが、ヘイヴンは本当に謎過ぎた。

 いくら女好きでも、体力の限界くらいはあるだろうにと。


「それにしても……」


「ん?」


「どこ見ても砂漠だな」


「……カルケット君。それは言わないでくれ」


 それを言われると確かに歩く気力をごっそり削がれていく。

 フェルト達だけに聞こえていて良かった。


「まあ仕方ないだろ。王朝跡地までも距離があるからな。二、三日……下手したらそこまで一週間くらいはこの砂漠生活だ」


「うへー」


「……一応、持つんだよな?」


「一応な」


 フェルトも砂漠を歩いたことなんてないから一概にも絶対とは断言できないが、あの商人を信じるなら、これだけあれば十分なはず。

 誰かが下手に食料や水を漁らないよう、フェルトのマジックボックスで管理もされている。


 母オリーヴが心配性で本当に良かったと思った瞬間ではあったが、同時に砂漠横断(これ)についてバレてしまったら、どれだけ心配してくるかが不安だったりする。


「しかし、本当に砂漠越えをする羽目になるとはな」


 そう言ってガルマは横に座ってきた。

 さすがに目を光らせ過ぎて疲れたのか、それともエメローラの体力等を考えて、ペース配分を聞きに来たのか。


「仕方ねーだろ。成り行き上、仕方ない。でもまあ、一名を除いてよく文句ひとつなくついてきてくれるよ」


 正直、転移魔法陣で逃げようと言ったのはフェルトだったため、多少は批難されるものと思っていたが、どうもそうでもないらしい。


「まあこれだけの環境だ、文句はあるだろうが、それ以上にお前への感謝と、そして生きて帰るという目標が彼女達に……俺達にはある。だから大丈夫だ」


「あの時と逆だな」


「?」


「お前が死人みたいに落ち込んでた時は、俺が説得してたが、今は俺が励まされてるな」


「そんな大したことじゃない。それに俺は本当に酷かったからな」


「はは」


 あの時のガルマは本当に死にそうだったからな。


「改めてお前の凄さを感じている」


「ん?」


「あの時の値切り交渉もそうだが、水や食料の確保や管理、人の指揮の取り方まで……お前は何でもできるんだな」


「はあ? んなことねえよ。俺だってできないことは沢山あるし、ちゃんと後悔してることだってある」


 実際、値切り交渉とかはあんな小さな村の隙だらけの商人相手だったからできただけだ。

 水や食料の管理は貴族嬢達は勿論、攫われ、未開の地に降り立ち、精神的に不安定な状態のメイド達より、男であるフェルトの方が冷静に判断できただけだと思う。


 やらなきゃって思ったらできただけだと思うフェルト。

 それなりにエメローラやヘイヴンにも相談しているからこそ成り立っている部分もある。

 それにフェルトには『強欲の義眼(チート)』がある。


「そうなのか?」


「当たり前だろ? 実際、あのシギィとかいうあのイカれ野郎にはやられそうだったし、それに……」


 マルコ神父(先生)のこともまだ引きずってもいる。


「それに……?」


「何でもねえよ。とにかく、人には出来ることと出来ないことがあるってこと。俺はやれることをしてるだけ。俺は周りを見なくちゃいけねえから、ローラを守るのはお前の出来ること、だろ? ちゃんと任せるぜ」


「ああ。わかっている」


 ――昼休憩が終わり、方角を確認、午後からの水を配給後、再び歩き出す。


「なあ、リーウェン君?」


「何だ?」


「サンド・ワームは本当に襲ってこないのか?」


「あー……一応な」


「だ、大丈夫なのか?」


 するとクレアが話を聞いていたようで、割って入る。


「キーエンス君、そんなに心配しなくて大丈夫。店主さんの話によれば、サンド・ワームはかなり臆病な性格で、基本的には砂の中に沈んでいる岩や砂を食べて生活してるらしいから、ボク達がデカい魔法でも使わない限り、襲ってくることはないよ」


 クレアは踊り子服を着ながら聞いた話をした。


 ちなみにサンド・ワームは夜行性だそうだ。


「ま、稀に野営してたところに顔を出されて丸呑みされたって旅人もいるとか、いないとか」


「リーウェン君! そんな怖いことを言わないでくれ!」


 フェルトもそれをあの商人から聞いた時、フラグじゃないことを祈った。


「まあとにかくそれは低い確率らしいから、そんな心配すんな。というより、そんな風に心配してると本当に起こるかもだぞ」


「だから! リーウェン君!」


 でも実際、そんな巨大生物がいる上を歩いていると考えると、中々背筋に悪寒が走るというもの。

 しかし、それでこの暑さを誤魔化せるはずもなく、フェルト達はひたすら歩き続け――、


「――そろそろ休むとしよう」


「早くないか? もう少し進んだ方が……」


 日が沈むにはまだ少しかかるからと、もう少し先に進むべきと提案されるも、


「いや、みんなを見てみな」


 グエルが振り向くと、かなり疲労感が溜まっている様子が伺える。

 あのチェンナですら、疲れ果てており、文句も口にできないほどだ。


「今日は砂漠を歩いた初日ってこともあって、かなり消耗も激しいはずだ。それに砂漠はすぐに暗くなって、一気に気温も落ちるって聞いてる。体温が一気に下がってしまうと、休むこともままならなくなる。できる限り夜休める場を作り、しっかり休んで、明日の朝、日が出る前に出発すれば、暑くないうちに少しでも進めるってもんだ」


「そ、そうか……」


 こういう時は現代世界(向こう)でのテレビやインターネット知識ってのが役に立つものだ。


「フレンド、テントを出してくれ。用意するよ」


 ヘイヴンはわかっていたのか、あっさりと野営の準備に入る。


「おう」


 フェルトはマジックボックス内にしまっているテントをにゅっと取り出すと、ヘイヴンに渡した。


「じゃあ、各自準備に当たってくれ。使用人さん達は食事準備。俺達男性陣はテント用意だ」


 するとナルヴィア達、貴族嬢達がフェルトの元へ。


「あのわたくし達も何か……」


「いや、あんた達は休んでな。こんなに長時間歩くこともなかっただろ? 無理するな」


 何か役に立ちたいと言いたげな目をしているが、一番疲れているのは、やはり普段から可愛い可愛いと愛でられて育った貴族嬢達だろう。


 それに倒れられても困るので、普通に休んでほしいのが本音。


「し、しかし……」


 それを聞いていたチェンナは、当然ですわと言いながら、その場にある座るのに適した石の上に腰掛ける。


「さっさと準備なさいな」


 そんな堂々不敵な態度を取るチェンナに、嫌悪の視線を向けるナルヴィア達。

 助けられている立場でありながらと言いたげな視線をフェルトから見てもわかる。


「だったらあのお嬢さんの面倒みてくれないかな? ヘヴンはテント準備にかかってるし、色んな意味でアレの相手が一番大変そうだからさ」


「わかりました! 少し厳しく注意しておきましょう!」


「いや、そんなことしなくていいから。アレがそんな言うこと聞く人間なら、ローラが言った時点であの態度は直ってるはずだろ?」


「そ、そうですね……」


「適当に雑談して、俺達から気を逸らしてくれるだけで、俺達は作業に集中できるから……頼みますよ、先輩」


 チェンナがぴーちくぱーちく鳴かないだけで、こっちも負担なく作業に当たれるというもの。

 特にヘイヴンの作業効率はこのあたりにかかってたりする。


「……わかりました。リーウェン様がそう仰られるなら……」


「あと先輩」


「はい?」


「……そのリーウェン『様』はやめて」


「……何故です?」


 今まで様付けされたことがないフェルトからすれば、中々むず痒いこと。

 それに立場的に言えばナルヴィアの方が位は上である。

 貴族という立場や先輩という立場から考えて。


「わたくし達は貴方様方に助けられました。こなご恩を忘れるような薄情者ではありません。特にリーウェン様はわたくし達の居場所を突き止めて下さったとヴォルノーチェ様より伺っております」


 ガルマがしなくてもいい報告をしていたようだ。


「わたくし達があのまま誰にも気付かれずにいれば、あのアーディルという奴隷商になすがままだったでしょう。本当に感謝しております」


「……礼を正式に言うのは、国に帰ってからにしてほしいもんだね。俺はこの砂漠横断(選択)を迫ってしまったからな。礼を言われる立場じゃねえよ」


「そんなことはありません! わたくし達だけでは右も左も分からず、また奴隷商に捕まっていた可能性もあります。こうして帰れる道を示してくれたこと、一同、本当に感謝しているんです」


 若干、一名は違うようですけどと一部の貴族嬢はチェンナに視線を向けた。


「わかった、わかった。感謝されてやるし、ちゃんと無事に帰すためにも励まされておくよ」


「はい! そうしてくださいな」


 そう言って、ナルヴィア達はチェンナの座っている場所へ向かい、休憩に入った。


「どうだい? 彼女達、蝶々ちゃん達から元気をもらったろ?」


「あーはいはい。頑張りますよー」


「おやおや」


 フェルトはヘイヴンを押しながら、テント設営組と合流し、組み立てを開始し、食事の準備も着々と進み、ユースクリア砂漠横断初日は、こんな感じで終わっていった――。


 ***


 ――ユースクリア砂漠を歩き始めて二日後。


「――ああああああっ!! 喉が渇きましたわあ!! 疲れましたわあ!! いつになったら着くんですのお!!」


 日に日にチェンナの文句が激しさを増していき、不穏な空気がフェルト達に灼熱の暑さとともにのしかかる。


「ああっ!! 煩いな!! 僕達だって疲れてるんだぞ!! お前だけだと思うな!! この我儘娘!!」


「何ですって!! この平民!! 元はと言えば――」


 最近、グエルとチェンナの喧嘩を止めるのも億劫(おっくう)になってきており、最近は放置気味。


 というのも、


「「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ……」」


 この二日間の砂漠横断のせいか、互いに言い合うだけ無駄だと急に悟るタイミングがあり、割とぴたりと収まったりする。


 その読み通り、ふたりは言い合いをやめると、再びその重い足を踏み出し始めた。


「フレンド……」


「何だ?」


「皆、体力は勿論だが気力の方が保たないかもしれない」


「かと言って戻るわけにもいかんだろ。進むしかない」


「……そうだね」


 砂漠のど真ん中で対策もクソもない。

 フェルト達はただひたすら歩くしかない。


 幸い、水と食料は予定通りの消費量。

 何とかユースクリア王朝跡地まで辿り着ければ、サラマンダー乗りと接触し、人里までいける可能性がある。


 そんな時――、


「あ、あの……」


 か細く、申し訳なさそうな声が聞こえた。


「どうしました? メイド長さん」


 この中で一番最年長のメイド長が、少し顔を青ざめた様子で顔の横あたりに手を挙げている。


 そしてその横には、虚な目をしたもうひとりのメイドがいた。


「か、彼女の様子がおかしいのですが……」


「!」


 フェルトはすぐに【識別】を使用した。

 すると、彼女の身体に異変が生じていたことに気付いた。


「おい! アンタ!」


 フェルトはすぐにそのメイドに駆け寄ると、意識確認をする。


「大丈夫か!?」


 その彼女はニコリと笑うが、顔は真っ青である。


「は、はい……。問題ありません。それどころか……暑いのがわからないくらいで……」


 ――マズイ!


「ユーザ! グエル! すぐにテントを建てろ! 早く木陰を作れ」


「え、えっと……」


「早く!!」


「お、おう!」

「わかった!」


 フェルトはフードマントで影を作り、とりあえず彼女に日が当たらないようにすると、


「メイド長! 彼女の水は?」


「午後の分の水はすべて飲んだはずです。追加の水を要求するのはマズイかと……」


 確かに昼休憩を終えてから、まだ一時間くらいしか経っておらず、頼みづらいのもわかる。


 だがチェンナを下手に注意したのが仇となった。

 本当に危険な状態の奴になら、そんな出し惜しみをするつもりはない。


 とはいえ、マジックボックスから出して飲ませるにしては時間がかかると、フェルトは自分の水筒を取り出して飲ませる。


「ゆっくりでいい。飲むんだ」


「で、ですが……」


「いいから飲め」


 フェルトが手厚く看病していると、


「ああああーーーーっ!!!! わたくしには水を与えないくせに、そんな平民には与えるんですのお?」


 全く空気の読めない駄々っ子娘(チェンナ)が文句をつけ始めた。


「チェンナさん! 貴女、状況をわかって……」


「辛いのはみんな同じなのでしょう? さっきそこの平民も言ってましたわあ〜。なーのーにー? そこの平民だけエコ贔屓なんてズルではありませんのぉ〜? それとも平民同士の慰め合いですのぉ〜?」


 人の神経を逆撫でするような小馬鹿にするような言い方をするチェンナ。


 ……このクソガキぃ!!


「――っざけたこと抜かしてんじゃねえぞ!! クソガキ!! てめえの我儘と人命を一緒にすんじゃねえ!!」


「ひっ!?」


 いくらなんでもチェンナ(この馬鹿)は物事がわからなさ過ぎる。

 親の顔を拝んだ後にぶん殴ってやりたいと、さすがにフェルトも怒りを露わにした。


「おい! ヘヴン! そこの馬鹿女、とっととどっかやっとけ!」


「……わかったよ、フレンド。彼女は任せても?」


「当たり前だ。行け」


 ヘイヴンはチェンナを連れて、フェルト達の視界に映らないよう、離れた。


「それでどうなの? フェルト君」


「熱に身体がやられてる。……おそらく熱中症だろう」


「熱中症?」


「ああ。簡単に言えば、身体が熱の管理ができなくなった状態ってことだ」


「治るの?」


「ああ。水分を十分補給し、身体の温度をゆっくりと下げながら、日の当たらない場所でゆっくり休ませてやれば落ち着くはずだ」


「リーウェン君! テントできたぞ!」


 ガルマとエルマにも手伝ってもらってテントが完成したようだ。

 すぐに彼女をテント内に運び、氷系の魔法が得意なクレアならば、テント内の気温を下げることは可能だろうと踏んだフェルトは、


「クレア。悪いがこのテント内の気温を下げてくれ」


「わかった!」


 ひんやりとした空気がテント内に広がっていく。


「よし。メイド長、とりあえず俺の水筒の水、全部飲ませていいから、ゆっくり飲ませてやってくれ。少しずつ、ゆっくりな」


「は、はい」


「クレアはあんまり冷やし過ぎないでくれよ。冷え過ぎてもダメだからな」


「わかったよ。ほどほどに、だね?」


「おう」


 そう言うとフェルトは一旦テントを出て、心配そうにテント前にいたエメローラ達に報告。


「とりあえずはもう大丈夫だ。安静にさせていれば問題ないだろう」


 良かったと安堵する一同。


「さすがですね、リーウェンさん。あのような処置までできるとは……」


「いや……」


 熱中症に関しては現代世界(向こう)でも散々、口酸っぱく言われてた影響があった。

 テレビで毎年そんな時期になると対策だの、応急処置など言っていたことが、救いになった。


「今日は早いがここまでにしよう」


「ですね。彼女に無理をさせるわけにもいきませんから……」


「ああ。それにしたって、あの馬鹿女はどうしてこう、ああなんだ?」


 フェルトのその文句に同意するように貴族嬢達からも文句が出る。


「アレはいくらなんでも非常識過ぎます!」


「彼女のあんな青ざめた顔を見れば、異常事態だということくらいわかるでしょうに……」


 溜まっていたフラストレーションを発散するように、ぶちぶちと文句が垂れ流れてくる。


 やっぱ、溜まってたんだなぁ。


「皆さん、落ち着いて。彼女に関してはもうこれ以上、不快にさせないよう、わたくしが側におりましょう。彼女はわたくしの目があれば、文句も口にしないでしょう」


「ローラが疲れそうだけど?」


「他の方々に心労を与えないためです。彼女にはどう言っても言うことを聞かないようなので、わたくしという権力を横におきましょう」


 容赦ないが、その方がフェルト達も助かる。


「けど、ヘヴンは置くなよ」


「ええ、わかってます。彼は彼女に限った話しではありませんが、かなり甘やかすので……」


 こうして怒涛の二日目も終了を迎えたが、思ったことがある。


 ――あのチェンナ(馬鹿女)だけでも転移石で逃しておくべきだったのではないかと。

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