24 ユースクリア砂漠横断準備
――翌朝、フェルト達は早速、物資調達のため、例の商人のところへ出掛けた。
「店主さんっ!」
「おっ! おっ! き、昨日のお嬢さん……!」
女の子らしい仕草で、ぴょんと例の商人の前に出るクレア。
このあざとさよ。
「邪魔するぜ、店主」
その後ろからフェルトとガルマ、そしてエメローラもついてきた。
「お、男……!?」
商人は何をショックを受けているんだろうか。
所謂推しに男でもいたかのような反応。
「昨日はありがとうね。おかげで色々と目処が立てられたよ」
「そ、そうなんだ……」
「ええ。ですから今日はそのための買い出しということで、改めて参りました」
ニッコリと話を進めるクレアとエメローラだが、商人の視線は泳いでいる。
クレアとエメローラに視線をやると、後ろで護衛しているガルマがギロリと睨んでいるのだ。
そんなガルマにフェルトはこづいた。
「顔怖えーよ。もうちょっと愛想良くしろよ」
「馬鹿を言うな、リーウェン。この男の挙動は明らかにおかしい」
美少女ふたりに話しかけられながら、後ろでガルマが睨んでいれば、挙動もおかしくなるだろう。
これだけガルマが警戒してくれていれば、とりあえず物理的なことは起きないだろう。
後は……――【識別】
「……なあ店主。これから俺達はファバルス王国に行きたいんだが、やっぱりユースクリア砂漠を行かなきゃダメだよな?」
「! リーウェン!?」
何の警戒もなく、フェルト達のこれからの行動を口にしたことにかなり驚いた様子のガルマ。
無理もないが【識別】で判断したところ、この商人はシロだった。
真っ当な商人であることが判断できた。
同時に女の影も今まで一切無かったのも判断できてしまった。
プライベート情報すら筒抜けにできる『強欲の義眼』はさすがである。
「そ、そうなんだな。ファバルス王国へ行く、というより、その方面に向かうならどうしたってユースクリア砂漠を抜けないといけないんだな」
「そっか。向かう方法は?」
「……」
何やら黙り込み始めた。
シロとはいえ商人。
情報をタダ出しするを躊躇っているようだ。
するとクレアが自身の口元に人差し指を立てて、あざとく尋ねる。
「ここから向かうには、やはり徒歩なのかなぁ?」
「……!! そ、そうなんだな! こ、ここからユースクリア王朝跡地まではサンド・ワームの群生地にもなってるから、下手に召喚魔を使ったり、魔法での高速移動などすると、サンド・ワームの餌食になるんだな」
「へ、へえー……」
中々の酷な情報に訊いたクレアも引き気味。
「サンド・ワームの危険性を考慮しても、ここから向こうの国に行く人達もいるんだよな? 対策とかあるのか?」
「……」
この商人、現金だ。
「申し訳ありません、店主様。今日のお買い物は、その砂漠を越えるためのもの。しっかり物資の調達のため買い物致しますので、どうか彼の質問に答えて頂けませんか?」
次は懇切丁寧にエメローラが、少し困ったように語ると、デブ商人は少し興奮した様子で話す。
「そ、そもそもサンド・ワームの特性を理解していれば、ユースクリア砂漠を抜けることは難しくないんだな」
するとエメローラが何か思い出した。
「そういえば王宮の書庫で読んだ覚えが……」
「王宮?」
フェルトはエメローラをこづく。
「あっ! え、えっとぉ……わ、わたくし、ちょっと王宮の方と知り合いでして、見せて頂いたことがあるんですの」
「そ、そうなんだな。ど、道理で綺麗なお嬢さんだと思ったんだなぁ」
「は、ははは……」
王族であることはバレてないようだが、ちょっと気をつけてほしい。
「それで? その書庫の書物の中にサンド・ワームのことについて書かれてたのか?」
「は、はい。ユクシリア大陸の歴史を学んでいた際に読んだ書物に書かれていました。何でもユースクリア砂漠には生息している魔物は極めて少ないということ。その理由として挙げられるのは、やはりこの環境によるものともうひとつ、魔力の乱れによるものとされています」
「乱れ?」
「はい。我が国では聖女の恩恵により、地脈の魔力を管理し、魔物の抑止、魔力による病気などを防いでいますよね?」
「お、おう」
「ですが、このユクシリア大陸はかの神話戦争により、天災が発生。砂漠地帯を作っただけに限らず、地脈や空気中に舞う魔力にも多大な影響を与えたとされています」
「な、なるほど……」
「その影響により、作物等は育ちづらく、魔物等の生物もとても厳しい環境化に当てられています。その中でサンド・ワームは丁度、地脈と空気中の魔力に感染しない砂の中に生息しているため、最も環境に適応した魔物とされております」
最も影響の受けづらい砂漠の中で生息し、おそらくその過程で変異、進化したかたちがサンド・ワームってわけだ。
「ワーム系の魔物は基本的に目は無く、その代わり顔の周りには髭のような触角があり、そこから気配を辿るとされています。サンド・ワームは触角に当たる感覚によって、砂の中からでもその気配を探り出せ、魔力にもかなり敏感だとか……」
「す、凄いんだな。その通りなんだな。サンド・ワームはお、お嬢さんの言った通り、その触角で気配を探るんだな」
魔力が通りづらい砂の中でも感知できるってのは、確かに厄介な気がするが、
「で、でもそこまで警戒するほどでもないんだな。砂の中に潜っているサンド・ワームは余程のことがない限り出てこないんだな。砂の中から地上の生物を感知することはほぼ無いんだな」
「でも無いことは無いんだろ?」
「そうなんだな。だから魔力を帯びる移動方法や召喚魔を使うことは避けられるんだな」
つまりは、歩行して進む分には問題ないが、下手に魔力を垂れ流しにすると、サンド・ワーム達の警戒網に引っかかって襲われるって寸法らしい。
「なあ、店主? ここからユースクリア王朝跡地まではって、その先は大丈夫なのか?」
「……」
男の質問にはとことん答えないデブ商人。
フェルトは少しイラっとする。
「……お願いします」
「向こうの砂漠側には、サンド・ワームが嫌う気配があるみたいで、基本、こちら側が根城みたいなんだな」
これ以上、詳しいことは知らないとでも言いたげ。
確かにサンド・ワームの選り好みはわからん。
「じゃあユースクリア王朝跡地の先では召喚魔とか使えるってことだよね?」
「そ、そうなんだな。確か、定期的にサラマンダー乗りがユースクリア王朝跡地付近を巡回しているはずだから、間違いないんだな」
「!」
サラマンダー乗り?
フェルトはエメローラを再びこづいて、もう少し情報を引き出せと指示。
どうせ男が尋ねても答えないので。
「サラマンダー乗りというのは?」
「あの辺りを商売区域にしている観光案内ガイドのことなんだな。ユースクリア王朝跡地は観光地でもあり、文明遺産ともされているから、観光客や考古学者などを乗せて商売してる連中なんだな」
それはフェルト達からすれば、願ったり叶ったりだ。
正直、ここからファバルス王国まで徒歩というのは、さすがに絶望的だったし、そこまでの物資調達となると、金が無くなる。
だがユースクリア王朝跡地まで行ければ、そのサラマンダー乗り達に遭遇できれば、近場の町までは送ってくれるかもしれない。
「よし! 店主、ここからユースクリア王朝跡地までの水と食料を売ってくれ」
「……わかった。四人分……いや、昨日来ていたお嬢さんを加えると五人分なんだな?」
エルマのことをカウントしてくれたようだが、勿論足りん。
この商人は危険性は極めて低いとわかっているし、物資調達は砂漠越えでは必須だ、正直に答えよう。
「いや、二十人分だ」
「に、二十人なんだなっ!?」
かなり驚かれたが、まあ当然の反応だろう。
「すみません。わたくし達、ちょっと特殊な事情がありまして……。それだけ分の水と食料はありますか?」
「な、無いことはないんだな……」
そう言って一応あるかを確認しに奥へ向かった。
「リーウェン、大丈夫なのか? あの商人」
「ああ、問題ない。あるとすれば、露骨に女の子と会話したがることくらいか。女性客が珍しいんだろ」
「じゃあ、ボクらが話を進めればいいのかな?」
「とりあえず俺に合わせてくれればいいよ」
フェルト以外は全員貴族だ、商人と駆け引きなんて無理だろう。
かく言うフェルトもそんなことはしたことはないが、この三人よりはマシだろう。
「お待たせなんだな」
「あります?」
「それは問題ないんだな。ついでに見積もってきたんだな」
そう言って商人は合計金額を提示する。
「げっ!」
予想していたとはいえ、やはり高かった。
「おい、これは高すぎるないか?」
「そんなことはないんだな。砂漠地帯であるこの地では水も食料も貴重なんだな。それに調達費なども踏まえれば、これだけ貰わないと利に合わないんだな」
ガルマの文句に対しては、嫌味ったらしく弱いところをちゃんと突いてくる。
女に振り回されるだけの商人ではやはりなかったらしい。
「なあ、店主? 値引き交渉をしよう」
「まあ特殊な事情と聞いてはいるんだな。話くらいは訊くんだな」
「――七割引いてくんない?」
すると店主は、その巨漢からはとても想像できないくらい素早く立ち上がった。
「バッ!? 馬鹿言うんじゃないんだな!! 商人を舐めてるんだな!?」
「いやいやいや。舐めてなんかねーよ。こっちもそれだけ必死ってことさ」
ぶっちゃけ提示された金額は出せるが、サラマンダー乗りも観光客を捕まえて商売をしていると考えると、金は残しておきたい。
それにファバルス王国まで、小さな村もポツポツとあることから、旅の資金はできる限り節約したいのが本音。
「いいのか? 仮に俺達がこの金額で商品を購入しても、俺達がファバルス王国にたどり着かなかったら、今、あんたに話してくれている俺のローラとクレア達が干からびたミイラになるかもしれないんだぜ? お前さんは、女の子がミイラになる姿が見たいのか?」
「そ、それは困るんだな。で、でもそれは同行する君達が守る仕事なんだな。で、でも二割くらいならいいんだな」
二割でも困る。
「なあ頼むよ〜。七割は言い過ぎた! 六割は?」
「だから! 馬鹿言うんじゃないんだな! 六割でも値引きとしてはおかしいんだな!」
本音を言えば、フェルトも本来は商人と同意見だ。
これだけの金額を六割引きとか、本気でふざけている。
だがわかった上でもこっちは命がかかってる。
フェルトはなんとか交渉材料がないか、辺りを見る。
「ボクからもお願い。ダメかな?」
「無茶を言っていることは承知しております! でもどうか……!」
エメローラとクレアも必死のお願い。
たじろぐ商人は、
「うむむむ……ぼ、僕だって商人の端くれ。そう簡単には折れてはあげられないんだな」
商魂を見せつけていた。
こんな時に漢を見せなくてもいいんだってと内心思っていると、
「なあ、店主。アレは何だ?」
そう言ってフェルトが指差したのは、肌の露出が多めの踊り子服が店の端に下がっていた。
「あー……アレは、その……なんだな、あの……」
ずばり熱帯地帯の踊り子衣装って感じの物がぶら下がっていれば、邪なことを考えてると受け止められる可能性はあるだろうか。
特にエメローラとクレアがいるわけだからな。
「そ、そう! こ、この辺りまで来る観光客用のお、お土産みたいなものなんだな! ほ、本当なんだな!」
「ほー」
焦った様子で話すもんだから、本当のことだとしても後ろめたいことを考えているように聞こえる。
だがフェルトからすれば、願ってもないチャンスだったりする。
「……わかった、わかった。オッケー、オッケー。あんたも男だもんなぁ〜」
「だ、だから――」
「その衣装をこっちのどっちかに着せて目に焼き付かせてやる。六割引き、考えてくんねーかな?」
「「「「!?」」」」
「ちょっ!? ちょっと待て!!」
一番先に食い付いたのはガルマ。
「あ、あんな破廉恥な衣装をか、仮に姫――むぐっ!?」
それはダメだろとフェルトはガルマの口を塞ぎ、少し冷静になったのを見計らうと、手を離してもう一度訊く。
「ロ、ローラ様があ、あんな物を着るなんてお、俺は許さないぞ!!」
「わ、わたくしもさすがにあれだけ露出のある服を着るのは、ゆ、勇気が入りますね……」
エメローラはやんごとなきお立場のお方だから、異性の前で際どく肌を晒すのは、婚約を約束した男くらいだろう。
「ほら、店主。ローラは勇気がいるほどのことなんだ。六割引きで考えてくれないかな?」
「お、おい! リーウェン!」
「リーウェンさん!?」
「フェルト君、ボクは?」
「おっ? お前は着てくれるのか?」
「うん! こんな機会、中々ないだろうし、可愛いじゃないか。ボクは着てもいいよ」
「!?」
商人が良い反応をしてくれている。
「店主。クレアは了承してくれてるぜ? なあ、どうだ?」
「…………っ」
かなり頭を抱えた上で出た結論が、
「……さ、三割。さ、三割までなら……! これ以上は譲歩できないんだな!」
三割まで引き出せたが、乗り気のクレアでは説得力が薄いようだ。
それとも好みはエメローラの方だったか。
「なあ、それ何着あるんだ?」
ピシャァァっと閃光が走ったように、商人、エメローラ、ガルマの表情が固まった。
「リ、リーウェン! 貴様っ!」
「まあまあまあ。試しに訊いてるだけだって」
そんなフェルト達が揉めていると、ゆらりと声が聞こえてくる。
「……あるんだな」
「「ん?」」
「も、もう一着、あるんだな」
「なっ!?」
「ほほう!」
フェルトとクレアの視線はエメローラに向けられた。
「あ、あの……」
「ローラ! これも人生経験だよぉ!」
「そ、そうかもしれませんがクレア。わ、わたくしは貴女のような覚悟は――」
「ローラ」
「!」
「俺達がどういう状況かわかってるよな?」
「うっ!」
フェルトはエメローラの立場を利用し、追い詰めていくことにする。
「アンタの言い分もわかるし、男性の前で肌を晒すのは立場上、思うところがあるのもわかってる。だけどな、それは命に変えられるものなのか?」
「そ、そうですね……」
「だろ? 俺達が今すべきことは、みんなで無事に帰ることだ。そのための準備と保険のための資金は持っておくべきだ。値切れるなら値切らないと!」
「そ、そうですね! わ、わかりました! お、女は根性! ですよね?」
「やったあ!! ボクとお揃いだね?」
エメローラとクレアがこのクソ暑い中、キャッキャとくっつきあっているのを指しながら、
「あのふたりの踊り子衣装、目に焼き付けさせてやるから、考えてくんねーかな?」
「リ、リーウェン……」
商人はぶるぶると感銘を受けている。
手応えはある。
「……そ、それでも五……いや、四・五割! こ、これ以上は無理なんだな!」
五割切れないようだ。
伊達にこんなところで商人はやっていない。
ちゃんと後先の商売のことを考えている。
「き、貴様! ひ……じゃなかった、ローラ様があのような恰好をなさると言ってるんだぞ! それに見合った割引きをすべきだろう!」
「こ、これでもかなり勉強した方なんだな! こ、これ以上は無理なんだな!」
するとクレアが提案する。
「じゃあボクらがその恰好でお茶するって言ったら、どうかな?」
ピシャァァっと再び閃光が走る。
「お、おおおおおお……」
興奮のあまり、商人が気持ち悪くなってくる。
「お、お茶ですか?」
「そうそう。商人さんのところには良いお茶とかあるだろうし、それにボク達、もーっとこの大陸のお話がしたいなぁー」
値切りプラス、更なる情報収集を踊り子衣装というハニートラップで聞き出そうという、隙のない手段を取ろうということらしい。
フェルトは思わずクレアにグッドポーズ。
偉いぞ! クレア!
それに気付いたクレアもグッドポーズ。
「中々こんな機会は無いだろうなぁ。俺達でさえ、そんな恰好をしたふたりとお話なんてしたことないなぁ。羨ましいなぁ……」
「ぐうっ! ぐぐぐ……」
「いいのか? こんなチャンス、滅多にないぞぉ〜。モテ期到来かもよぉ〜」
「ぐぐぐぐぐぐ……っ!」
もう一声欲しいようだ。
欲張りな奴め。
「クレア、ダンスはできるか?」
「へ? ダ、ダンス?」
「!?」
「リ、リーウェン! な、何をさせるつもりだ!」
「いや、そりゃあ踊り子の衣装を着てもらうわけだから、ひと踊りしてやるって言えば、店主の踏ん切りもつくかなって……」
「ちょっ!?」
さすがにそれは嫌なのか、クレアはちょっと困った様子を見せる。
「で、できなくはないけど、ボクらができるダンスは社交会用のもので、こんな踊り子のダンスは知らないよ」
「まあこの店主に見せるだけのものなんだから、ダンスはなんだっていいよ。店主のために踊ってやるってことが重要なわけだし……」
「そ、そうかもしれないけど……」
何やらモジモジと、クレアにしては珍しく艶っぽい反応。
どことも知らない男の前で、肌を結構晒した姿で踊るのは確かに恥ずかしいだろう。
さすがにフェルトもすまないとは思ってる。
だが、商人のごくりと息を呑む姿には手応えを感じる。
だが、
「そ、それはさすがに許さんぞ! リーウェン!」
「俺だってさすがにそこまではやらせたくなかったが、人命がかかってるんだ、ギリギリまで交渉するさ」
そんな風に再び揉めていると、
「わ、わかりました」
「「「「へ?」」」」
「店主様、わたくしとお茶をしたのち、一曲、踊って差し上げます」
「「「「!?」」」」
「あ、あのー、ローラさん? 俺から言っといて難ですが、さ、さすがにそこまでは……」
「リーウェンさんの仰る通りです。わたくし達のこの交渉に二十人の人命がかかっているのです。なりふり構ってなどいられません!」
こういう時の決断力は頼もしいというか、危なかっしいというか。
さすがにフェルトも虚をつかれた。
するとさすがに烏滸がましいと思ったのか、商人は慌てふためきながら、
「わ、わかったんだな! ダ、ダンスまでしなくてもいいんだな! お茶! あの衣装を着てお茶してくれたら、六割引きで取引していいんだな!」
確かにエメローラの言い方だと、商人も踊ることになる。
さすがに女に対し、免疫力のなさそうな商人が手を握る勇気、ましてやダンスとなるとかなり接近する。
童貞丸出しの商人にはハードルが高い。
「おしっ! じゃあ取引成立ってことで、商品を用意してくれ。こっちは金と例の約束の準備をさせるから、その衣装を貸してくれ」
「わ、わかったんだな」
そう言って踊り子の衣装を受け取り、ふたりに手渡した。
「じゃ、とりあえず着替えてきてくれ」
「わかったよ」
「わかりましたわ」
そう言ってふたりは商人の店の中のしきりの先で着替えを始めた。
勿論、フェルト達は商人が覗きをしたりしないよう、見張っている。
「リーウェン。本当に良いのか?」
「ああ。むしろかなり譲歩してもらった。これ以上はな」
すると商人が用意できたと商品をフェルト達の前に置いた。
「これだけなんだな」
「おおっ! サンキュー。一応商品の確認をするな?」
詐欺られても困るので、念入りに商品の確認を行おうとすると、
「おっまたせ!」
ふたりの着替えが終わったようだ。
「お、おおおおおお……っ!!」
「なあっ!?」
「ほー」
お腹のおへそがしっかり出た、中々キュートで妖艶なご衣装のおふたりの御登場に、フェルト達は感心する。
しっかりと身体のラインも出ており、セクシーさもバッチリである。
男を悩殺するには十分な代物だろう。
薄い布地というのは、何とも官能的な言葉だ。
「か、かかか、可愛いんだな!!」
「あ、ありがとうございます」
「ねえねえねえ。どうかな?」
フェルト達にもご感想を求められたので、
「おう。よく似合ってるよ」
「と、ととと、とても良くお似合いですよ!」
ちょっと声が裏返っているガルマに、気色悪いと考えながらも、フェルトは【識別】で商品の状態確認を続ける。
ホント便利。
「よし、じゃあ店主。約束どおり、その可愛い踊り子ふたりはべらかしてのお茶会を楽しんできな。ただし、見張りはありでな」
「なあっ!?」
聞いていないぞと驚きの反応をされた。
「当然だろ? アンタがそのふたりの色香に耐えられず、襲われても困るしな。ガルマが見張りにつくよ」
「な、なるほど。最初からそのつもりだったな」
「当たり前だろ」
「うううっ! そんなの聞いてないんだなぁ!」
「言わなくてもわかるだろ。そんなもん。その間、俺は商品の確認と金、用意しておくから」
商人は少し残念そうだったが、それでもお喋りができると顔はやはり緩んでおり、店の奥に向かう。
せいぜい接待してくれると助かる。
そしてガルマもしっかり見張ると、気を引き締めてキリッとした表情で、フェルトに報告。
「じゃあ行ってくる」
「おう。あっ……!」
「ま、まだ何かあるんだな? こ、これ以上譲歩もお邪魔虫も入ってほしくないんだな」
「――その衣装、ちゃんと洗えよ」
三度ピシャァァっと閃光が走る。
「と、当然なんだなぁ……」
「……? これだけ暑いのです、汗臭くなっても困りますから、ちゃんと洗って返すのが礼儀では?」
洗わず残り香を楽しむような真似はさすがにさせるわけにはいかない。
この反応を見るに、そうするつもりだったな。
エメローラは不思議そうにしているが、クレアはさすがに気付いたようだ。
そのかなり顔を赤らめているクレアは、ぼそっとエメローラに耳打ち。
「だ、だからだよ! ボ、ボクらの汗の匂い、女の子の匂いを嗅いで楽しむかもしれないってこと!」
「!?」
ちゃんと意味を理解したエメローラは思わず、身体を庇うように隠した。
「言っておくが洗わなかった場合、この店の店主は変態と言いふらした挙句、賠償金を払わせるからな」
「は、はい……」
――こうしてフェルト達はまんまと値切り交渉を行い、しかも更なる情報収集も行ない、そして踊り子の衣装も、商人が悲しそうな顔をしながら、ちゃんと洗ったのを確認した。




