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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
46/177

23 砂漠の地へ2

 

「――ただいま戻りました」


 数時間後、情報収集へ行っていたエメローラ達がちゃんと戻ってきた。

 とりあえず安堵する一同。


「お、おかえり」


「……ちゃんと休んでたの? ちょっと顔色悪そうだけど……」


「はは。そうだな……」


 あの後、やはり不安で不安で仕方がなく、悶々としていたとは言いづらい。


「まあそんなことより、情報は得られた?」


「え、ええ。まあ……」


 何だか三人共、苦笑いを浮かべている。


「……何かあったのか?」


「ああっ!? いえ! 何も……」


 怪しい。


「俺達の事態はわかってるよな? どんな些細なトラブルでも、問題になる可能性があるんだ。……何があった?」


「「「……」」」


 三人は少し顔を見合わせると、苦笑いの表情を崩すことなく説明した。


「い、いえ。とても親切に情報を教えてくれた方だったのですが……」


「うーん……たまに呂律が回らない感じで……」


「でゅふでゅふ言いながら息が荒く、落ち着きがない様子で……正直、生理的に無理な人種でした」


「エ、エルマさん……。それは言い過ぎだよ」


 おそらく情報を得た人物の第一印象を話しているのだろう。

 それは言い過ぎだと思いつつも、納得した顔をしながらクレアもツッコんでいる。


「そうですよ。丁寧に情報を提供してくださったのですから。何も買わなかったのに……」


「! ちょっと待て。何も買わなかったって、商人から情報をもらったのか?」


「え、ええ。商人であれば情報量があるかと思いまして……」


 間違ってはいないんだが、やはりちょっと配慮が足りない気がする。


 フェルトとヘイヴンが少し微妙な表情を浮かべていると、申し訳なさそうに三人は困った様子で尋ねてくる。


「す、すみません。何かマズかったですか?」


「いや、情報を得る手段としては間違ってないんだけど、その商人がどんな人脈を持っているかで、そういう質問はリスキーになる」


「フレンドの言う通りです。この場所や国のことについて尋ねたというならば、他国の人間であると公表しているようなもの。仮にその商人が奴隷商と通じている、もしくはその商人自身が奴隷商の場合、僕らはかなり危険なことになる」


「!? そ、それは配慮していませんでした……。申し訳ありません」


 迅速な情報収集という意味では、確かに商人に尋ねるのが一番早い。

 だが色々と引っかかる部分のある商人だとも思う。


「なあ? その商人は何も買わずともお前達三人に情報を渡したのか?」


「え、ええ。何やらかなり息が荒く、時折動悸が激しいような様子を窺いましたが……」


「……でゅふでゅふ言ってたんだよな?」


「は、はい。ちょっと気持ち悪かったです……」


 エルマのこの反応。

 まるで――女子に対して免疫力の欠片もないキモオタデブ男とでも話したかのような反応。


「その商人の体格と一応性別を訊こう……」


「えっと、(ふく)よかな体格で、性別は男の人だったよ」


 この美少女三人に情報を求められた女子免疫力ゼロ男商人であれば、フェルト達の考えは杞憂かもしれない。


「フレンド。一度その商人を見てこよう。蝶々ちゃん達を品定めしていた可能性が高い」


 だが女子に対し、めちゃくちゃ耐性のあるヘイヴンは、あくまでその息の荒い怪しげな商人を奴隷商と通じている、もしくはその本人ではないかと少し真剣見がかった声で提案する。


「いや、多分その商人は大丈夫だ」


「何故そんなことが言い切れるんだい?」


 ヘイヴンに言ったところで説得できるかわからないが、一応言ってみる。


「その商人、多分女子に対する免疫力が無いだけだ。この辺境の地に店を構えていれば、店を訪ねてくるのはほとんど男性だろう」


 砂漠の町へ物資の調達をしてくれるなんて奴は、どう考えても男性になる。


「そして辺鄙(へんぴ)な町であることから、若い女性は少なく、店構えがどんな感じかは知らないが、砂漠道を歩かせることを踏まえると、女性客はほとんど無いだろう」


「……そうだね。店構えは野外テントで、品揃えは水や食料、あとはマントとか小物が多かったかな?」


「とすれば旅人専門の店。女性客なんて入らない。そしてその店主が太ってるとなると、女性は寄り付かんだろうな」


「つまりフェルト君は、そんな免疫力の無いあの男性商人が急にボクらみたいな女の子三人に言い寄られちゃって緊張して混乱し、あんな怪しい態度になったって言いたいのかな?」


「まあそんなところだな」


 するとやはりと言うべきか、ヘイヴンは不思議そうに尋ねてくる。


「蝶々ちゃん達と話すのに、何故緊張するんだい?」


「……逆に尋ねるけど、お前に対し、その蝶々ちゃん達とやらは、全員そこの我儘お嬢さんみたいな反応だったか?」


「んなっ!?」


 我儘お嬢さんに反応したチェンナだが、そこは無視。


「いや。恥ずかしがり屋な蝶々ちゃん達もいるからね」


「だったら男も一緒だろ」


「ん? んん……」


 納得できるようなできないようなみたいな、微妙な反応をしている。


「まあヘヴンの言い分もわかるよ。奴隷商と通じている可能性もあるから、明日にでも会いにいくさ。どうせこの町から出る準備は必要だから、どうしたって商人には会わないといけないからな。見極めるのはそこでいいだろ」


「わかったよ。そうしよう」


 商人の是非は後回しに、三人が得てきた情報を聞く。


 ――フェルト達がいるこの場所はやはりユクシリア大陸であった。

 そしてこの村はナジンという小さな村だが、中立区と呼ばれるところにあるようで、


「――地図を頂きました」


 そう言って、エメローラはユクシリア大陸の地図を広げてみせた。

 その商人、本当にエメローラ達三人の色香に落とされたのではなかろうか。


 エメローラはその広げた地図の一箇所を指差し、ここが現在地であると示してくれた。


「ここは中立区とされてはいますが、このユースクリア砂漠を囲む各国で、この中立区の暗黙の管理が行われているようです」


「暗黙?」


「はい。ユースクリア砂漠は、かの有名な神話戦争の神の天災によってできたとされています」


 フェルトは、イミエルが言ってた『大罪の神器』の元凶となった話だったと思い出す。

 その錬金大国を中心に砂漠ができたわけだと理解できる。


「この砂漠にはユースクリア王朝跡地があり、そこの管理はファバルス王国がされているそうですが、かつての王朝の遺産がこの砂漠の地下に広大にあるのではないかと囁かれ続け、各国が睨み合いを続けているそうです」


「それはアレか? 滅んだ国の技術が砂漠の底に沈んでいるんじゃないかってこと?」


「らしいです」


 情報が少ないとはいえ、こちらの大陸の人間からすれば、大昔から技術が進んでいた国だとわかっている。

 その技術を独占できれば、国力アップにも繋がるのは事実だろう。


「ファバルス王国って?」


「ここですね」


 そう指差さされたのは、この村からユースクリア砂漠を横断し、更に先にある大きな王国だった。


「こっから管理してると?」


「辺りの村などもファバルス王国の領地なのでしょう」


「ふーん」


「ファバルス王国はとある魔法の技術で有名な国さ」


「ほう。それは何だよ? ヘヴン」


「ま、今は関係ない話だから、伏せておくよ」


 勿体ぶらなくてもいいのにと、フェルトは少し不貞腐れた。

 フェルト個人としては『大罪の神器』の発祥の地を管理している国というのは、興味があるからだ。


 イミエルは情報は少ないと言っていたが、さすがに管理している国であるならば、有力な情報があると期待したい。


「殿下。僕、気になったことが……」


 グエルが質問するが、エメローラは何か言いたげにジトーっと睨んでいる。


「え、えっとローラ……様」


「様?」


「う、うう……」


 生真面目なグエルにとっては、やはりフランクに呼ぶのはキツイだろう。

 助け舟を出そうと考えたフェルトは、グエルに尋ねて意見を促す。


「グエル。聞きたいことって?」


「! あ、ああ。王朝の遺産が広大な砂漠に広がっているというのが気になって……」


「それは確かに……」


 砂の地下にそんなものが広がっているって魔力感知か何かで見つけることができたのだろうか。

 だが、砂漠の地下を調べるとなると、相当大変だと思うのだが、


「それはサンド・ワームの影響によるものだとか」


「サンド・ワーム?」


「はい。ユースクリア砂漠に生息する巨大な蛆虫型の魔物だそうで、岩石などを好んで食すとか」


「それと何か関係が?」


「いくら技術が進んでいたとしても、大昔の建物は石造りです。サンド・ワームの生息区域には王朝の遺産(そういうもの)が残っている証拠となるそうです」


「なるほど」


 砂漠という環境から生まれたサンド・ワームがそのような特性を持つと知り、住み着いたその環境化からそのような遺物が眠っていると踏んだようだ。


 環境について調べるなら、確かにそこに住む生物の特性を調べることは重要なことだろう。


「そしてユースクリア王朝跡地が残っているように、サンド・ワームの影響を受けないものもあります」


「奴らの選り好みに合わなかったものは、技術的に優れているものがあるって証拠となり、各国はそれで国力の強化を得ようってわけだ」


「はい。わかるとは思いますが、このユクシリア大陸は砂漠と灼熱の地です。作物等はほとんど実らず、資源にも乏しいことから、そのような状態になっているのです」


「ということは、今はそのファバルス王国ってとこが、一番強いのか?」


 ユーザがとりあえずこれだけはわかると、話に割って入るが、


「いや。ファバルス王国は確かにユクシリア大陸内ではとても治安が良く、他の国と交流が少ないにも関わらず活気のある国ではあるが、一番力を持っているとされているのは……」


 そう言ってヘイヴンが指差したのは、砂漠地帯となっていない一国を指した。


「ここ、パパピニアという国だね。港町も近いことから、他大陸国とも盛んに交流がある国だ」


 やはり港町がある国ってのは強い。

 物資の流通や人の行き来など、様々なところから利益を得ることが可能だ。


「ちなみに違法奴隷の取引等も盛んになっていると噂されている国だ」


「!?」


 一同の空気がガラッと変わる。

 さっきまで違法奴隷組織に捕まっていたから、その手の情報には敏感になってしまう。


「どういうことだよ、ヘヴン?」


「さっきほどローラ様も……」


 エメローラ、ジトー……。


「こほん。ローラ嬢も仰っていた通り……」


 エメローラ、ニッコー!


『嬢』は良いんだ。


「ユースクリア王朝跡地はファバルス王国が管理している。でも、パパピニアはそれを許せず、敵視しており、更には自分の領土内のユースクリア砂漠では奴隷達に強制労働させているそうで、過労死する奴隷が絶えず、色んなところから奴隷を買い付けていると噂だ……」


 そんな話をされると、ちょっと嫌な予感が過った。


「……なあ、ヘヴン? 俺達がさっきまで乗ってた飛空艇はさ、確かユクシリア大陸に向かってたよな?」


「そうだね。その空域を飛んで追いかけていたからね」


 そしてその飛空艇の持ち主であるアーディルがこの小さな村ナジンに、転移魔法陣を用意していたことを考えると、


「……アーディルの奴、パパピニアの奴隷商と繋がっている可能性があるのか……?」


「「「「「!?」」」」」


「……真実まではさすがに知らないが、否定はしないよ」


 否定も肯定も無しが、一番ヘイヴンからの情報では怖い。

 だが可能性としては十分過ぎる。


 アーディルは万が一のことが起き、この転移魔法陣を使用し、すぐさま体制を立て直すことを考えると、パパピニアに近いこのナジンという小さな村のひっそりと隠れたテントに、転移魔法陣を用意するのは説明がつく。


「なるほど。確かに広大な砂漠で遺物を採掘させるのは時間と労力、兵力さえも失う可能性が高い。だが奴隷ともなれば、安く雇え、簡単に切り捨てることも可能であり、過労死した人間も埋め放題ってわけだ」


「そ、それを違法奴隷取引を行い、買い付けた人間を起用しているのであれば、とんでもない国だな」


「砂漠地帯の人間なら労力として欲しがって、そういうことをする気持ちもわからないではないが、パパピニアは明らかに、そこまで貧困してないだろ。……欲深な国だ」


「奴隷達を買い叩いているのはそれだけではなくてね。パパピニアのユースクリア砂漠に与えられた暗黙の領地のほとんどがサンド・ワームに食われていることも起因しているんじゃないかとされている」


 要するにはユクシリア大陸、特にパパピニアで奴隷にされた場合、砂漠での強制労働をさせられる挙句、巨大蛆虫に喰われる可能性もあるわけだ。


 中々鬼畜なブラック企業話を聞かされた。

 フェルト達も危うく、砂漠の労力にされかかったってわけだ。


「ん? そういえば俺達はパパピニア方面から飛んで来てたってことになるんだよな?」


「そうだね。だから僕らが国へ帰る場合、パパピニアから出ている船で帰るのが一番早い」


「なら! このパパピニアという所を目指せば良いのですね? ケルベルト様!」


 都合の良いところだけ耳に入っていたのか、フェルト達の今までの話を頭に入っていない呆然とした表情で見ていたチェンナが、キラキラした目で口を挟む。


「人の話を聞いてないだろ? このパパピニアはお前達を捕まえたアーディルの知り合いがいるかもしれないと、今言ったとこだろ? 僕達はアーディルに顔が割れている。仮に連絡を入れられていたら、また捕まるぞ」


 アーディルから転移魔法陣の記憶自体を奪ったため、連絡をするという可能性は極めて低いが、無い話ではない。


「黙りなさい、平民! ケルベルト様がそちらのほうが早いと仰っているのだから、正しいのです! 口を挟まないでくれるかしら」


 まるで自分は良き理解者であるとでも言いたげなドヤ顔だが、理解しているつもりなら、そんな発言はそもそも出ない。


「チェンナ嬢? 早いとは言いましたが、ここから帰るとは一言も申しておりませんよ」


「へ?」


「だな。パパピニアは確かにオルドケイアに帰るには良いかもしれんが、アーディルの息がかかっていることもそうだが、そもそも俺達は不法入国者だ。パパピニアが管理する港町に検問が無いということはないだろう……」


「そこで捕まって、裏で取引等されれば、再び奴隷商の賞品列に陳列させられてしまうね」


 仮にアーディルがパパピニアへ向かって飛空艇を飛ばしていたのだとすれば、絶対協力者がいると考えていいだろう。

 その発想は間違ってない。


「……ではパパピニアを目指し、国へ帰る方法は無しですか?」


「そうだな。なあ、ローラ達? このあたりにギルドはあるって聞いたか?」


 情報を集めに行った三人は揃って首を横に振った。


「そっか……」


「フェルト? ギルドって?」


「ん? 俺達が無事に帰る方法はこの国に同郷のギルド員、つまりは冒険者がいれば、同行してもらい、帰ることができるだろう」


「! そっか! 同郷の人なら姫殿下……じゃなかった。ローラ、さん? とかの顔も知ってるし、少なくともこの国の人間より事情を話せる!」


「おっ? その通りだよ、ユーザ」


 ユーザは勢いで生きてる印象があるが、ちゃんと聞いてる。


「となると、パパピニアのギルドへ向かうか?」


「いや、ヴォルノーチェ殿。ギルドに内通者がいないということも否定できない」


「だな」


 冒険者は金さえあれば動かし、そもそもアーディルの組織がブラックギルドだ、息がかかってないと証明できない以上、そもそもパパピニアに行くこと自体無しだ。


「でも同郷の冒険者を探すとなると、やっぱり大きな町の方がいる可能性が高いよね?」


「そうなりますね。そしてパパピニアのような砂漠地帯ではない箇所は省き、砂漠の向こう側の国を目指す方向になるでしょうか……?」


「何故省くんです? ローラ嬢」


「パパピニアと条件が似ている国を警戒してのことだよ。緑という自然があり、砂漠地帯より資源確保ざできているにも関わらず、パパピニアは奴隷を酷使してまで財源を得ようとしてんだろ? 周りの諸国も似たような動きをするって考えられないか? グエル」


「な、なるほど」


 そしてエメローラの意見にちょっと嫌な予感を漂っていると、クレアが恐る恐る尋ねる。


「砂漠の向こうって……この暑い中、こんな長い距離を歩くつもりかい?」


「……そんな嫌そうな顔しないで下さい。わたくしだって本当はそんなことを口にしたくはありませんが、パパピニア方面は先の件のことを考えると、あまり近寄らない方が賢明です」


「でも砂漠越えの方が大変じゃない? 砂漠の向こうで大きな町となると、ファバルス王国くらいだよ?」


「そうなんだよなぁ……」


 パパピニアで不法入国者として指名手配やアーディルの息がかかっている奴隷商などの危険と砂漠越えという、この国の人間ではないフェルト達としてはかなり過酷な道が用意されている状況。

 砂漠越えは下手すれば、命に関わる問題だ。

 だからといって不確定要素の多いパパピニアに、半分博打で飛び込むのはかなりリスキーだ。


 何せ、フェルト達を含め、二十人の移動ともなれば、かなり目立つ。

 パパピニアに入った時点で、連絡を取られる可能性も否定できない。


「……ヘヴン。お前ならどっちだ?」


「……そうだね。とりあえず僕らだけでパパピニアへ行き、情報を確保しつつ、慎重に事を進めるのはどうだろう?」


「時間がかなり掛からないか? アーディルの息がかかってるってことは、かなり情報も隠されてるだろ? 簡単に尻尾を出してくれるとは考えられない」


 伊達にアーディルは今まで奴隷をさばいてきたとは口にしていない。

 賢いヘイヴンなら、それくらいわかってそうだが、


「……お前、女子達の肌とか気にしてないよな?」


 図星を突かれたと、ヘイヴンの表情が一瞬固まったが、


「当たり前だろ!? フレンド! 蝶々ちゃん達の柔肌がこの灼熱の太陽に焼かれてしまうのかと思うと、気が狂いそうだ!」


「ちゃんとフードを被ってもらって、肌も晒さないように言う――」


「それでも! この灼熱の中に蝶々ちゃん達を向かわせるわけにはいかない! 倒れたりしたらどうするんだい!? しかもサンド・ワームもどこに現れるかもわからないんだ! 可憐な蝶々ちゃん達に誘われて、現れでもしたら……」


 冷静さを欠くほど訴えてくる気持ちはとても理解できる。


 フェルト達はともかく、女子達がこの砂漠を越えるための体力と気力が続くかは問題だ。

 さっきまで奴隷商に捕まっており、精神的にもかなり疲労がある状態だ、数日かけて砂漠を横断すると考えるだけでも滅入りそうだろう。


 正直フェルトもツライと考えている。


「まあ正直どっちもどっちなんだよな。パパピニアに関しては最悪、俺達の見当違いの可能性もあるしな。そこを考えればパパピニアだが……」


「その疑いを解消するためにはかなりの時間を有し、その間、わたくし達の身を隠す場所や食料、水などの確保が問題ですね。しかも見当違いでなければ、わたくし達は再び奴隷商と対峙することとなります。二度も出し抜けるか……」


「ああ。砂漠越えをするつもりなら、向こうで物資調達ができるから、ここである程度買い揃えられるというメリットがあり、砂漠を越えた先の国、ファバルス王国が治安の良い国だとすれば、奴隷商の心配は極めて低いし、向こうまで行ける同郷者の冒険者であれば、帰る同行者として、これほど心強い存在もいないだろうが……」


「砂漠を越えること自体が問題なんだよね……?」


「おう……」


 どちらも別方向の危険性を孕んでいることは明確だが、どちらかの選択をしなければならないのも事実。


 とは言えど多数決で決める議題でもない。


 このような危機的な状況から、国へ帰るためには協調性を持った行動が求められる。

 だから団結力が乱されるようなことがあると、これから帰るための心身が持たなくなる可能性も高い。


 ここは男らしく、どちらかに決めてビシッと説得して見せたいところ。


 そんなみんなが悩んでいるところ、


「わかりました。砂漠を越えましょう!」


「「「「「!!」」」」」


 エメローラがビシッと決めてくれた。


「緊急時とはいえ、不法入国をしており、わたくしが他国の王族であるということも隠すには限界もあるでしょう。それにもう一度、奴隷商にでも捕まれば、かなりの心の傷(トラウマ)を背負うことにもなるでしょう。それにこの村からパパピニアの位置、飛空艇の向かった先、検問など、リーウェンさん達の推察も当たっている可能性は極めて高いと考えるべきでしょう。それらを諸々考えると、砂漠越えをする方が良いでしょう」


 エメローラの意見だからか、文句を言いそうなチェンナは嫌そうな顔をしている。


 だがフェルトとしてはそっちの方が賢明だと判断している。

 またシギィのような用心棒を抱えていないとも限らない。

 さすがにアーディルやシギィほど危険な奴隷商がいるとは言わないが、それでも一度捕まったことがある貴族嬢達からすれば、恐怖の再現に他ならない。


 こちらの二択であるならば、砂漠の方がメンタル的に優しいだろう。


「一応、反対意見があるなら訊こう」


 フェルトがそう尋ねるが、一同は沈黙の肯定。


「じゃあ砂漠越えで決定だな」


 正直、エメローラが決めてくれたことにホッとしている。

 こういう時は王族の先導力は頼りになるものだ。


 そのつもりだったようで、エメローラはフェルトにウインクしてきた。

 これで良かったですか、と。


「はは。ありがとさん、ローラ」


「うう……。ローラ嬢が決められたなら仕方ない。フレンド、では砂漠越えの準備はどうするつもりだい?」


「ローラ達が情報をもらったっていう商人を確認がてら、物資を調達するが……お前達、持ち金はあるか?」


 貴族嬢達はおそらく持っていないだろう。

 良いところの坊ちゃん嬢ちゃんは、財布を持つ癖はないはずだ。


 その予想は当たっていたようで、貴族嬢達は首を振り、無いと答え、ヘイヴンとガルマもほぼ持ってないときた。


「ボクも無いかな?」


「わたくしも……」


 クレアもエメローラも無し。

 とすればと、平民陣を見る。


「俺は無いぞ」


「……最低限の待ち合わせはあるが、これだけの人数の物資確保のお金は持ってないな」


 金を持っているのは実質、フェルトとグエルだけ。


「俺は一応、心配症の母が大分多めに仕送りしてくれたからな。あとマジックボックスで管理してるから、かなりある。当面は俺が持とう」


「助かります。国へ帰ったら、お返ししますので……」


「助かるよ、ローラ」


 さすがにこれだけの人数の物資金額を自己負担はキツイ。

 返金してくれると言ってくれるだけでも有り難い。


「では買い物兼商人の調査はフレンド。残りは……」


「いや、買い物には三人の誰かはついてきてもらいたい」


「「「!」」」


「何でだい?」


「決まってんだろ? 値切り交渉するためさ!」


 話を訊くにあたって、その商人は女の耐性が無く、色香による値切り交渉が可能と考えられる。

 財政難であることは事実なので、値切れそうなら値切りたい。


 それには少し不本意そうなヘイヴンだが、さすがに状況がわかっているようなので、


「わかった。そのかわり、ちゃんと守るんだよ?」


「当たり前だろ? それとここに残る連中らは、ここのテント内にあるもので、砂漠を越えるための装備などを整えてほしい」


 するとヘイヴンはテント内の物を見渡し、


「なるほど」


 アーディルが転移魔法陣をセットしたというだけあり、割と物がごちゃごちゃしており、更には商品を隠すためか、大きめで丈夫そうな布がいくつかかけられている。


「この布でフードマントや持ち運び用の簡易テントを用意しろってことか」


「ああ。商人ところで買うのはできれば、水と食料を中心としたい。抑えるところは抑えるぞ」


「わかった」


 ――こうして明日以降の行動も決まり、話し合いがひと段落つくと、転移魔法陣のあるひっそりとしたテントに二十人、身を寄せ合って休むこととなった。

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