22 砂漠の地へ1
――転移魔法陣での移動が済み、フッと降り立つと何やら、もわっとした空気が全身を襲った。
「うわっ!? あちー……」
日本特有のまとわりつくような熱気というよりは、ジリジリと焼き尽くしていくような熱気を感じる。
「無事に転移できたみたいだね、フェルト君」
「ああ、まあな」
少し広いテントみたいなところに二十人ほどの人間が敷き詰まってる。
それは暑い。
だが、暑い理由はそれだけではなかった。
「ヘヴン、ここはどこだ?」
「ちょっと覗いてみるといいよ」
「?」
ヘイヴンはテントから外を覗いてみろと指示するので、フェルトは覗いてみると、
「!」
そこには褐色系の男女が砂漠の町を歩いている姿が見えた。
「おい、ここって……」
「ああ、おそらくユクシリア大陸だろうな」
「……てことは、ここ外国か!?」
――フェルト達が転移してきたのはユクシリア大陸のどこかの小さな村。
その片隅にある放られたボロボロのテントの中に今現在、フェルト達が居る。
「フレンドの言っていたことは当たっていたようだね。あの蝶々さんも褐色系の麗しの美女だ、彼女が放つ妖艶なオーラは消せずとも、この中に紛れこみつつ、体制を整えるというのは悪い手ではない」
人攫いだろうと女であれば、褒めるところは褒めるヘイヴン。
「というよりは元々ユクシリア大陸出身だったのかもな。近くの大きな町かどっかに、理解ある知人でもいるって考える方がいいかもな」
「まあ何はともあれ、皆無事ですね」
「はい」と返事はするものの、メイドの一部は少し狼狽えていた。
「あ、あの……」
「?」
「ふたりほど新人を見かけないのですが……」
そう尋ねてきたのは、メイドの中でも年の功を感じるおばさん。
貴族の女子寮のメイド長だろう。
「そのふたりはおそらく先程の奴隷商の部下でしょう」
「なっ!?」
「思うところはあるでしょうが、今は呑み込んでもらえると助かる」
説明してもいいが、世話を焼いていた人物が奴隷商だったというのは、精神的に辛いものがあるだろう。
ましてや今は異国の地に降り立っている状況。
精神状態は平常に近い方がいい。
話すにしても落ち着いた頃合いを見計らうべきだ。
――そのその数名を除いた全員はいるようで、確認ついでに自己紹介も済ませたフェルト達はこれからのことについて話し合う。
「さて、これからどうしましょうか?」
「とりあえずは情報収集だな。俺達は急に異国に飛ばされた。幸い、ここはあまり人が近付かないボロテントみたいだから、この村にいる間はここにいよう」
すると、
「はあっ!? こんな小汚いところに居なくちゃいけないんですの!? ふざけるんじゃありませんわ!」
チェンナが我儘を口にし始める。
「あ、あのお嬢様。今はこんな状況ですし――」
「うるさいですわね! 嫌なものは嫌ですわあ!」
「ひっ!」
チェンナの担当メイドだろうか。
説得しようにも聞く耳持たないチェンナの様子に困っている。
「我慢してくださいな、バーチェナさん。先程の飛空艇内よりマシとはいえ、異国の地にいるのです。ちゃんと考えて発言なさい」
「う……」
このチェンナは明らかに感情でしか発言できないような考えなしだろう。
実際、自分より目上の人間の話しか聞かないようだ。
エメローラにひと声かけられて言い澱むくらいだから、そこらの小物貴族なんだろう。
「……話を戻すが、とりあえず情報収集だ。戻るにしても辺りの情報がないと移動もままならない」
「ましてやオルドケイア大陸では無い、砂漠の地だからね。僕らはその知識には乏しい」
「おう。つってもヘヴンは多少ノウハウはあるんだろ?」
「多少だがね。現地の人間には劣るさ」
情報に強い人間ってのは本当に心強いところがある。
胡散臭いのは相変わらずだが、こういう時には積極的に頼っていこう。
「じゃあ、情報収集は俺とヘヴンで探してくるか」
「だね。蝶々ちゃん達は飛空艇のこともあり、疲れているだろうからね」
そう言ってフェルト達がテントから出ていこうとすると、
「お待ち下さいな」
「……どうした?」
フェルトとヘイヴンが声の主であるエメローラに向かって、不思議そうな表情で振り向くと、ため息をつかれた。
「……有能過ぎるのも考えものですね」
「は? 褒めてんの?」
「半分はね。半分は呆れているのですよ。少しはご自分達の身を考えてくださいな」
するとフェルトとヘイヴンは互いの視線を合わせて、エメローラの言っていることを確認するが、
「ちゃんと考えていますよ、殿下。僕にとって蝶々ちゃん達のために働くことは当然のことさ!」
「まあ知らない地で情報を集めるなら、男の方がいいだろ? ましてや姫殿下達は身綺麗なもんだから、一発で良いとこのお嬢様ってバレバレだからな。また攫われても困るし……」
「……片方はともかく、フェルト君の言い分もわかるけどさ、幹部とやり合ってた君らにこれ以上の酷使はさせられないよ」
「「!」」
あー……、そういう心配をされてたのね。
でもフェルトの場合は『強欲の義眼』を持ってることもあって、情報収集が早いという背景もあったりすると、その心配を有り難く思う反面、安全性を考慮した考えも汲み取ってほしいと考える。
「確かに。フレンドはあのシギィとやり合ってたんだ、日も傾いてきてるし、今日は休むといい」
「いや、でもなぁ……」
「貴方も休んでいて下さい、ケルベルトさん。貴方も幹部であるアーディルとやり合っており、体力は勿論、怪我もされているでしょう」
「大丈夫ですよ、姫殿下。かすり傷程度で――」
「いいからお休みなさいと言っています」
「「!」」
エメローラのピシャっと言い張ったことにより、空気が少しピリッとした。
「はあ……気を遣って下さるのは感謝しておりますが、ご自分の身を考えなさい。この中で一番消耗されているのはあなた方なんですよ。それにこれから先のことを考えると、あなた方にまた大いに頼らなければなりません。ここで倒れられても困ります」
エメローラの言うことも尤もだ。
確かに砂漠の地では、男手というのはひとつでも多いに越したことはないだろう。
女子寮の生徒らは貴族嬢、世間知らずばかりだろうから、フェルト達が倒れてしまった場合の対処は難しいと考えられる。
「まあそういうことだ。ここは俺達に任せてもらおう!」
「だな」
「姫殿下、私達が彼らの代わりに情報収集を……」
なのでガルマ達、残りの男衆が情報収集に名乗り出るが、
「……あなた方も同様の理由からダメです」
「「「えっ!?」」」
「あなた方も救出の際にはかなり活躍なされました。それは共に体力、気力ともに消耗されたはずです。ましてやわたくし達の盾となってくれたカルケットさんには安静にしていてほしいくらいです」
「いやいや、殿下。俺、こんなに元気だし!」
むんむんと身体を上下に揺らすが、
「それは回復薬と治癒魔法を強引にかけたからに過ぎません。完全な回復を考えるなら、やはり安静にしてもらうのが一番です」
「そ、そうですか」
「これからのことを考え、男性陣にはとりあえず明日まではゆっくり休んでいただきます。よろしいですね?」
「「「「「……」」」」」
フェルト達こそ気を遣ってもらうのは有難いことだが、やはり先行きのことを考えると、少しでも行動は早い方がいいと思ったりする。
「……じゃあ情報収集はとりあえず明日からで――」
「いえ、事を早めた方が良いのも事実。情報収集はこれから我々が行います」
「!?」
「俺さっき言ったよな? それは危険だって……」
「それは承知していますが、わたくし達が今、どんな状況になっているかの把握はやはりすべきです。なので時間もありませんが、これから行きましょう」
「ちょっ!?」
エメローラはどうやら、飛空艇を爆破してから思い切りが良くなってきた気がする。
「まあ、情報を早く得ようと動いた俺達が言うのもアレだが、やっぱり姫殿下達だけじゃ危険だって……」
「その通りです、殿下。せめてわたくしを同行させて下さい」
すると少し不満そうにむくれるエメローラ。
「大丈夫ですよ。何もわたくしひとりで行くとは言ってません」
それはそうだろう。
何故か、チェンナ以外の女性陣はやる気満々だ。
「任せて下さい、お兄様。姫殿下の護衛は私がちゃんと果たします」
「そうそう。ボクらも行くから大丈夫だよ!」
「皆さんにはご苦労をかけました。わたくし達も少しはお役に立てるよう、頑張ります!」
何だかやる気が空回りしそうで、心労で更に疲れそうな気がするフェルト。
そう思いながらもエメローラの言う通り、身体が疲労しているのも事実で、休みたい気持ちもある。
「わ、わかった、わかった。姫殿下の心遣いに感謝して、俺達は少しばかり休むとして、情報収集を任せるよ」
「ええ。そうしてくださいな」
「ただし! いくつか条件がある!」
「条件?」
条件というよりは、エメローラ達が情報収集するに当たって、守ってほしいこと、注意点について、フェルトから指摘する。
「これは当然のことだが、日が暮れる前に戻ってくること」
時間的に、あと一時間もすれば日没を迎える。
女だけが外に出るのは危険なのは言わずもがなだろう。
奴隷商に捕まったばかりってのもあって、不安しかない。
「それくらいわかってます!」
「それでも言っとかないとな。次に人数は制限する」
「!」
「そうだね。下手に大人数で移動するのは目立つね。ましてや蝶々ちゃん達は煌びやかなオーラを放って――」
「はいはい。まあヘヴンの言ってることもあながち間違っちゃいない。姫殿下をはじめ、アンタ達は目立ち過ぎる。人数はどうしたって制限しないとな」
「……そうですね」
この外を歩いていた村人達はほとんどが褐色系だし、たまに肌の白い村人も見かけるが、エメローラ達ほどではない。
明らかに異国の人間が歩いていると丸わかりだ。
奴隷商や人攫いなんかからすれば、格好の餌だろう。
「わかりました。ではわたくしとクレア、護衛にエルマを連れて、三人でどうでしょう?」
「それで良いと思う」
ちゃんとそのあたりの分析はできているようで、人数制限にはあっさり同意。
「あとこれを羽織ってもらう」
「!」
そう言ってフェルトは、テント内にあった少し埃を被った大きめの布を見せると、関係ないはずのチェンナが文句をつける。
「ふざけているの、平民! 姫殿下になんて物を着せるつもり!?」
「チェンナ嬢。フレンドは必要な提案しているだけですよ。日が暮れ始めそうとはいえ、まだまだ日差しが強い。殿下達のか弱い肌を焼き尽くそうとする――」
「はいはい。日差し防止と極力肌と顔を隠すことを目的としてるってわけ」
ヘイヴンもわかってはいるようだが、いちいち説明が長くなりそうなので、フェルトが切断。
「でもさ、余計暑くならない?」
「あれだけの日差しを直接浴びる方が体力と気力をごっそり持っていかれるぞ。この環境に慣れてないなら尚更だ」
オルドケイア大陸でも真夏日みたいな時はあるが、それでも三十度を超えることは稀だ。
それも魔力管理が、聖女によって行われていることが起因しているとのこと。
正直、三十六度以上を体感した経験のある元日本人のフェルトとしては有難いことではあったが、こっちでの生活に慣れてしまった身としては三十度でもキツい印象があった。
記憶という経験があっても暑さには勝てないってことを思い知った。
「それにヘヴンも言ったが、赤外線をこれだけ浴びると肌に悪いし、そもそも異国の人間だとバレないよう配慮するつもりなら、顔や肌を晒しづらいこういうフードマントは必要になる」
「な、なるほど……」
そう言ってフェルトは時間がないため、その布の埃を払い、簡易的なフードマントを三人分作った。
「そのフードはできる限り、深く被っとけよ。決して人前でそのマントは取るな」
「わかりました」
この砂漠の町だ、マントを深く被っていても砂避けのためにやっているのだと思われるだろう。
「あとこれが一番重要なことだ」
「何でしょう?」
「姫殿下のことを『姫殿下』や『殿下』と呼ぶのは、この国にいるまでは無しだ」
「「「「「!?」」」」」
一同はかなり驚いた反応をする反面、そう言われたエメローラは心なしか嬉しそうだ。
「ま、待ってくれ、フェルト・リーウェン! そ、それは無礼だろ!?」
「まあ護衛騎士の言いたいこともわかるが、やんごとなき御身分の方だと他国の人間に知られれば、厄介なトラブルに巻き込まれ兼ねない。ましてや奴隷商や人攫いなんて論外だ」
アーディル達もエメローラは特別扱いしていたんだ、奴ら以下の稚拙な奴隷商や人攫いであれば、どんなことをしでかすかわからない。
「だから姫殿下の身分は隠す。ここにいる貴族嬢達も、あくまで『身分の低い貴族の娘』として通してもらう」
メイド服を着ている人間が同行し、貴族嬢達もそのような育ちをしたと言わんばかりの健康的な姿をしている。
平民と名乗るには子綺麗過ぎる。
するとまたチェンナが文句を言う。
「何故、貴方にそんな指図されなければなりませんの、平民! ふざけるんじゃありませんわ!」
どうやらチェンナは自分の置かれてる状況がわかってないようだ。
我儘にもほどがある。
「じゃあまたあの奴隷商に捕まりたいのか?」
「そんなわけありませんわ!」
「だったら言う通りにしてくれないか? ここは他国、ユクシリア大陸だ。どんな治安なのかもわからないんだから、極力身分は隠した方が――」
「平民である貴方達がわたくし達、貴族を守るのは義務ですわ! そんなことをせずとも守りなさい!」
ダメだ。
我儘放題のやり放題状態だ。
置かれてる状況を少しでも把握していれば、そんな我儘を口にすることはないだろう。
「そのような考えはおやめなさい」
スッと凍りつくような声がテント内を通った。
「で、殿下?」
「いい加減になさい。貴族とは平民を守るものであり、奴隷ではないのですよ。それに先程の飛空艇のところに居続け、奴隷として売られていれば、貴女は貴族どころか、人間扱いすらされなかったのかもしれませんよ」
「そ、そんなことは……」
「なかったと? アーディルというあの人はそう言っていましたよ? 男性に媚びを売る奴隷にすると……」
そんなこと言われてたのかとちょっと引き気味に驚いた。。
年頃の娘さん達にアーディルは何言ってんだろうと。
「それを救って下さったリーウェンさんをはじめ、皆さんに感謝の言葉を口にするならまだしも、助けることが義務とは何事です。むしろこちらが平民である彼らを無事に祖国に帰す義務があるのですよ。貴族を名乗るのであれば、それくらいわかりなさい!」
「うぅ……」
ド正論パンチが我儘娘にどこまで効くかわからないが、子供みたいに泣きそうな顔をしているあたり、わかってないだろう。
「まあまあ殿下。チェンナ嬢もまだ状況が混乱しているだけですよ。ここはわたくしの顔を立てまして、そのあたりにしませんか?」
「……貴方は甘いですよ、ケルベルトさん」
そこは同意。
「ケルベルト様ぁ〜!!」
チェンナは自分の味方になってくれるヘイヴンにあざとく抱きつくと、ヘイヴンは予想通りの口説き文句と共に甘やかす。
「大丈夫だよ、僕の蝶々ちゃん。必ず僕が家まで送り届けてみせるよ……」
「ケルベルト様……」
とにかくわかったことは、チェンナに貴族の在り方の説得は無理ということが、ヘイヴンに甘えている段階で理解できた。
「はあ……。とにかく身分は隠してもらう。他の貴族嬢様方は問題ありませんか?」
「勿論ありませんわ、リーウェン様。わたくし達はちゃんと状況を理解しておりますよ」
そう様付けしてニコッと笑うナルヴィア。
貴族で先輩なんだから、様付けはやめてほしいとフェルトは思う。
「では! わたくしの呼び方を決めねばなりませんね!」
先程のチェンナを叱咤した凛々しいお姫様はどこへいったのか、姫殿下などという堅苦しい呼び方をされなくなると思い、気分が高揚しているようだ。
「まあ、エメローラ様でいいんじゃないですか?」
「嫌です」
「……一応、『身分の低い貴族の娘』って設定ですから、様付けでも――」
「嫌です。あと敬語も嫌です」
「……」
困った。
いくら危険回避のためとはいえ、最低限くらいの敬称はさせてほしいところだが、本人が頑なに嫌がっている。
するとクレアがクスクス笑いながら提案してくる。
「じゃあボクが呼んでるみたいに『ローラ』でいいんじゃない? その方がローラも慣れているだろうし……」
「で、でもなぁ……」
「それがよろしいです! そうしましょう!」
本人はもうそう呼ばれないと納得しないようで、
「……わかったよ、『ローラ』」
「……!! は、はい!!」
慣れるまで気苦労しそうなのと、向こうに戻った時、咄嗟に出ないように注意しないといけない。
だがひとり納得できない人もいるようで、
「ひ、姫殿下!」
バッと跪いたのはガルマ。
「ど、どうかもう一度ご検討下さい。お……わ、わたくしがそのような呼び方を軽々しく出来ません」
「出来なければわたくしはまた攫われてしまう可能性がありますが?」
「ぜ、全力でお守り致します!」
「貴方も人です。ずっとは無理ですし、他の方々を危険な目に遭わせないためにも、必要なことです」
エメローラはめっちゃ楽しそうにしている。
言ってることは、フェルト達を気遣ってのことに聞こえるのだが、それを利用されている気がする。
「し、しかし……」
「しかし?」
微笑みながら圧をかけていくエメローラに、もうたじたじのガルマ。
完全に論破させられている。
「わ、わかりました……」
「はい! わかってくださって嬉しいです」
「で、ですが!」
「ん?」
「せ、せめて様付けはさせて下さい」
少し考える素振りを見せたエメローラは、
「……わかりました。貴方はそうして構いませんよ」
これ以上はガルマを困らせ、話し合いが平行線になると思ったのか、そこは折れた。
だが、
「……貴方はって。俺達はダメなのね」
「はい! リーウェンさん達はガルマと違って、護衛騎士ではないでしょう?」
「まあ、そうだけど……」
「でしたら『ローラ』とお呼びください」
声がかなり上機嫌だ。
まあでも少しでも気が明るくなるであれば、良しとしよう。
「そして最後に……無茶はしないことと、何かあればすぐに戻ってくること。オッケー?」
「わかっております。これ以上、ご迷惑を掛けるようなことは致しません。それよりもわたくし達の留守中、しっかりと休まれて下さいね」
「へーい」
するとナルヴィアが、任せろと少しドヤる。
「ご安心を殿下。わたくし達ができる限りの治療を行いますので……」
「お任せしますね。あとローラですよ」
「す、すみません……。で、ではローラ……様で……」
エメローラはむすっとした顔をする。
許してあげてほしい。
「ロ、ローラ?」
「はい!」
こんなに楽しそうなエメローラは初めて見た。
もうニッコニコである。
立場上、同じ立ち位置で話してくれる相手なんて、ほとんどいなかっただろうから、よっぽど嬉しいのだろう。
是非、チェンナにも見習ってほしいところだ。
その上機嫌状態のエメローラと共にクレアとエルマもフードマントを羽織り、顔を隠すよう、フードを被った。
「では行ってきます」
「本当に気をつけろよ」
「「「はい!」」」
そう言って三人は、村人から情報を得るため去っていく。
エルマはともかく、エメローラとクレアはしっかりしてるため、大丈夫だろう。
「じゃ、俺達は少し休むか」
「はい。先ずは傷を見せてくださいね」
「お、おう」
治癒魔法が使える貴族嬢、メイド達はフェルトとヘイヴンを中心に傷の治療を行ってくれる中、
「大丈夫だろうか? 大丈夫だろうか? 大丈夫だろうか? 大丈夫――」
ガルマが念仏でも唱えるように、ぶつぶつと心配している。
「なあ、ヘヴン」
「……なんだい、フレンド?」
「ガルマ、持つかな?」
「さあ? ただ、心労が行き過ぎて休息はできなさそうだね」
「はは。だよな……」
フェルトも何だかんだ、胃がキリキリしてるような気がしてきた。
できる限り早く戻ってきてほしいと、ガルマ同様、切実に心の中で思った。




