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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
43/177

20 奴隷商飛空艇脱出 救出組サイド

 

 クレアとエメローラは瀕死状態のユーザに肩を貸しながら、向かう予定だった通路へとゆっくり歩いていく。


 行かせるかとアーディルの鞭がたまに飛んでくるものの、いつもなら女性に優しいヘイヴンが中々怖い顔をして、クレア達を守っている。


 相変わらず底知れない何かを持っているヘイヴンだが、やはり頼れる男の子だなと感心する。

 それはフェルトにも言えることで、クレア達が身動きひとつ取れなかったシギィに対し、あれだけの戦闘をし、守ってくれているとなると、中々勇ましいなと感心してしまう。


 だからこそ、クレアにも何かできるはずだ。

 とりあえず今はユーザを救出組と合流させ、治療を急がせることだった。


「カルケット君。すぐに助けてあげるからね」


「頑張って下さい」


「……うぅ」


 ユーザはかなり衰弱している。

 鞭での攻撃だから致命傷ではないだろうが、危険な状態であることには変わりない。


 そんな焦っているクレア達の目の前に複数人の豚マスク達が追いかけてくる。


「おい! 王女と魔眼の娘を逃すな!」


「くっ……!」


 クレア達は魔封石の手錠をされたままだ。

 今襲われたら抵抗できない。


 少しでも距離を置くためにクレアとエメローラは歩く速度を早めながらも合わせていく。


 独りよがりで早めてしまうとかえって足を引っ張ってしまうからね。


 だがそれでもやはり向こうの方が早い。


「行かせませんよ」


「「「ぐあっ!?」」」


「ケルベルト君!」


 アーディルを相手にしながら豚マスク達も蹴散らしてくれた。


「エスコートは任せて。さあっ! 早く」


「うん!」


 一旦無視されたアーディルはかなり怒っている。


「このマセガキぃ……!!」


 そんなヘイヴンとアーディルの激しい戦闘を過ぎ、クレア達は何とか逃げ込む予定だった通路へ入るが、


「ローラ……」


「わかっています……」


 前方からとヘイヴンが倒しそびれた豚マスク達が後方からも迫ってくる。


「挟み討ちか。どうしよう……」


 クレアもエメローラも抵抗できる術がなかったが、


「――邪魔だあっ!!」


 前方の豚マスク達をガルマが斬り倒していく。


「ガルマ!」


「殿下! ご無事で……」


 ガルマがこちらへ駆けつけてくる後方から、グエルと女子寮の貴族達とメイド達が一緒に現れた。


「わたくしのことは構いません! それより彼を……」


「わかっております。キーエンス! カルケットの治療を頼む。急いでくれ!」


「わかりました!」


 グエルはすぐに駆けつけ、治癒魔法を発動させ、ガルマは用意してきたであろう回復薬を飲ませている。


「カルケット君! しっかりするんだ!」


「本来なら俺がやらなければならない役目を……。ここまで姫殿下を守ってくれたこと、感謝するぞ、カルケット」


 ユーザは回復薬と治癒魔法の相乗効果が出たのか、顔色が良くなるとニコッと笑って返事をした。


「貴女方も無事で何よりです」


「い、いえ! そんなことよりどうしますか? この通路で籠城(ろうじょう)するわけでもないですよね?」


「当たり前です!」


 戦闘できる救出組と合流できたからといって好転したわけではない。

 今現在もフェルトとヘイヴンが奴隷商の幹部(アーディル)用心棒(シギィ)と渡り合っている。


 しかもクレア達は、何を思ったのかチェンナの目立つ応援をしたことで窮地に立たされている。

 少なくとも場所さえ把握されなければ、こんな乱戦騒ぎになることもなかったはずはなかった。


 実際、エメローラの護衛を務めているエルマがその腕前を披露し、上級生のナルヴィアを中心に魔法で応戦、こちらへ攻める豚マスクをあしらっていくが、多勢に無勢過ぎる。

 消耗戦になってしまえば、確実に向こうの物量で押されてしまう。


「姫殿下、アルクベート。手錠の鍵です」


「!」

「助かります!」


 どうしてヘイヴンが持っていないのか疑問だったが、安全に外せるようにするため、ガルマが持っていたようだ。


 クレア達は早速鍵を外すと、豚マスクをある程度あしらい終わる。


「それで? これからどうしますか?」


「そちらでは何か考えがありますか?」


 エメローラは何もユーザを助けるためだけに飛び出したとは考えなかった。

 何かしらの思惑はあったのかと尋ねるが、


「いや、カルケットがもうかなり危険な状態だったこと、姫殿下とアルクベートが危険だったことを考えての行動でした。ケルベルトの話によれば、フェルト・リーウェンが相手にしている男はかなり危険だと話していたので……」


「そう、ですか……」


 確かにヘイヴンもこちらで何とかしてほしいと言っていた。

 あの賢いヘイヴンですら、この状況の打開策を考えられずにいるようだが、その要因はやはり捕らわれていたクレア達に責任があるのだろう。


 何とかしないとフェルトが殺されてしまうと焦る。


「姫殿下! かなり危険な賭けにはなるかと思いますが、やはりあのふたりを制圧してしまった方が良いのでは?」


「ケルベルトさんに止められませんでしたか?」


「……止められました。俺達ではとても相手にできる奴ではないと。フェルト・リーウェンが相手にできていることを本気で驚いてもいました」


 ヘイヴンがそこまで絶賛するのも珍しい。

 そして、改めてあのシギィがフェルトでしか相手できないのも理解した。


「ねえ、ローラ。ケルベルト君はアーディルなら何とかできるって言ってた。気乗りはしないけど、彼女を人質にとればどうかな?」


「……無理でしょうね。あのふたりはかなり険悪な仲のようですし、ビジネスパートナーという区切りがハッキリしています。シギィが彼女のためを思って行動するというところが想像できません。不確かな作戦は自滅します……」


 クレアはそんな提案をするが、内心やっぱりそう思うよねと、人質案があり得ないと考える。

 平気でナイフを投げつける相手だから、人質にとられたところでって話だと考えたからだ。


 そんな打開策も浮かばない中、クレア達は唸り続けるしかなかった。


 みんな真剣に考えてくれているが、やはり緊迫したこの状況からそんな簡単に案など思い浮かぶはずもなく、ただただ焦燥感に駆られていく。


「くそっ! フェルト・リーウェンなら、何か方法を思い付いただろうに……」


「あのシギィと戦っておられる平民の方ですよね? あの人が確か、わたくし達の居場所を突き止めたとか……」


「ええ」


「でもそのフェルト君はあのシギィってのに捕まってる。ボクらで何とかしないと……」


「わかっている! わかっているのだが……」


 ガルマが髪をくしゃくしゃとする理由が手に取るようにわかるクレア。

 本来、こんな考えている時間もない。

 こうしている間にもフェルトが限界を迎える。


 仮にヘイヴンがアーディルを制圧していたとしても、ヘイヴンがあれだけ警戒しているシギィに策もなく戦うことは考えにくいし、対応もできないだろう。


「――だああああーーーーっ!!!!」


「「「「「!」」」」」


「もうどうしてこうなったんですの! わたくしがこんな目に遭うなんてっ! もういっそこんな船、爆発すればよろしいんですわ!」


 何やらチェンナが、まるで自分はただの被害者だと言わんばかりに文句を垂れ流すが、チェンナが叫んだせいでややこしいことになっていることを理解してほしい。


「よくそんなことが言えたな! お前のせいでこうなってるんだぞ!」


「はあっ!? 何言ってますの、平民! わたくしの応援は必須でしたわ! それに浅ましく気付いて、襲おうとするこの豚共が悪いんですわ!」


「言いがかりも大概にしろ!」


 グエルとチェンナの言い合いがデットヒートし、周りが(いさ)める中、


「……それです」


「は? 何か言った? ローラ」


「バーチェナさんの意見を採用しましょう」


 チェンナが何か言ったっけと、一同、首を傾げる。


「ど、どういうことですか、殿下? バーチェナは特に何も……」


「いいえ、ガルマ。彼女は爆発すればいいと言いました。それを採用します」


「「「「「!?」」」」」


 クレアを含めた一同が驚愕の表情で、エメローラを見る。

 この危機的状況に苛まれて、考えまでおかしくなってしまったのかなと疑うほどに。

 爆発なんかしたら、クレア達も無事では済まない。


「な……。お、お言葉ですが、姫殿下。その……我々がいるこの船を爆破などすれば……」


 さすがのガルマも言葉を選んだ。

 恐る恐る意見を述べるガルマをクレア達も見守るが、


「わかっていますよ。ただ、状況の打開策はこれしかありません」


「……詳しく訊かせてくれない? ローラ」


「……基本、飛空艇を飛ばすためには動力が必要になり、そのためのエネルギーの貯蔵庫が必ずあるものです」


 それはさすがに常識的観点からわかることだ。

 魔法を使い、人が単体で空を飛ぶのとは訳が違い、これだけの物量の船を飛ばすことを考えれば、動力源は必ずあるだろう。


「そこを爆破し、この船を飛行できない状態にできるはずです」


「そ、それはそうだけど……」


 そこまではみんなわかることだ。

 エンジンが破壊されれば航行は不可能になるだろう。

 けど、クレア達が懸念しているのはそこじゃない。


「そうなれば、あの幹部達もさすがに避難せざるを得ない状態に追い込むことが可能となります」


「!」


 確かにいくら腕の立つ幹部であっても、ここは空の上。

 飛行不可能になり、死ぬ可能性が高くなった船の上に長居することはないということに気付いた。


「で、ですが殿下。わたくし達の避難は……」


「それはリーウェンさんが言っておられました。脱出方法はあると」


 確かにそう言ってたけど、クレア達はその内容まで聞いてない。


「ローラ! 確かにフェルト君は脱出方法はあるって言ってたけど、船を爆破した時にそれを閉ざされてしまう可能性があるんじゃ……」


「フェルト・リーウェンのことを信用していないわけではありませんが、あまりに危険過ぎる賭けです」


 するとエメローラは落ち着いた口ぶりで説得を始めた。


「……皆の危惧することは理解しています。ですが、よく考えてほしい。今、我々が無事で居られるのは、リーウェンさんとケルベルトさんが幹部を抑えているからであり、その拮抗が崩れれば、確実にその刃は我々に向けられるでしょう。しかもその時は近い……」


「「「「「……」」」」」


 みんなもわかっている。

 フェルトがシギィを押さえ込んでいられるのも時間の問題だと。


「仮に我々が何もせず、あのふたりがやられてしまえば、我々も後を追うことになるでしょう。いえ、アーディル(彼女)が生きていれば、死よりも酷い目に遭う可能性が高い」


 自分の船でこれだけ暴れられた挙句、クレア達は脱走している。

 タダでは済まないのは間違いなかった。


「それでもよろしいのですか?」


 そう尋ねられた時、皆は顔を伏せるだけだった。

 勿論、そんなことは嫌だと。


「ならば危険ではありますが、あの幹部達を退けられる方法として、この船を爆破するというのは悪い手ではないと考えます」


 そう説明されると、確かに良い提案だと思った。

 フェルト達が何とかしてくれるなんて都合の良いことを考えるより、自分達でやれる行動をとった方がいい。


「我々は助けられました。今度はわたくし達が彼らを救う番です!」


 その時、チェンナを除く、攫われた女子寮生らはやっと体力が回復しつつあるユーザを見た。

 こんなボロボロになってまで助けに来てくれた。


 治癒魔法などのサポートをして助けてくれたグエル。

 豚マスク達を蹴散らしてくれたガルマ。


 そして今、幹部ふたりを抑えてくれているフェルトとヘイヴン。


 クレア達は今こそ助けられた恩義を返す時だと、意識する。


「そうですね、殿下の仰る通りです。わたくし達を助けてくださっている殿方達にしっかりとお返ししなければ……!」


 そのナルヴィアの言葉に、一同も賛同する。

 そして、ガルマはエメローラに跪いた。


「姫殿下のその作戦、お供させて頂きます」


「ありがとう、皆さん」


 そうと決まれば、


「ローラ。ならその動力炉を探さないとね」


「ええ。これだけの規模の船の動力炉となると……」


 するとガルマが考える時間はありませんと、近くで転がっている豚マスクのひとりの胸ぐらを掴み起こす。


「おい! この飛空艇の動力炉はどこだ!」


「……ば、馬鹿言うな。そんなことを聞いた後で、そんなこと――」


 どうやら気を失っていたわけではなかったらしい。

 豚マスクをつけてるものだから、わかりづらい。


 だがそんなことなどお構いなしのガルマは鬼気迫る表情でその豚マスクに語る。


「貴様が吐かないなら別の奴に吐かせるだけだ! ここで死ねっ!」


 スラっと素早く抜いた剣で、勢いよくその豚マスクの喉を貫こうとする。


「ひっ!?」


「ま、待って――」


 いくらこちらに余裕がないとはいえ、その思いっきりの良さには思うことがある。

 見ていたナルヴィア達も思わずその光景を見ないよう顔を隠す。


「わかった! 吐く! 吐くから待て!」


 ピタッと喉元で剣先が止まった。

 クレア達はホッと安堵する。


「最初からそうしていれば良かったんだ。案内してもらうぞ!」


 かなり強引ではあったが、確かに乗組員に聞いた方が早い。

 しかもガルマはこちらに余裕がないことを敢えて逆手に取り、この脅されている豚マスクが裏切らないようにもした。


 意外と冷静で助かった。


 そしてクレア達はその豚マスクを人質に取りながら、彼の案内の元、動力炉へ向かった――。


 ***


「ここが動力炉……」


 飛空艇の後部の方へ案内されたクレア達が見たのは、巨大な動力炉。

 大きな逆さフラスコの中には、エネルギーである魔力溜まりがある。

 確かにあれだけの魔力に刺激を与えれば、爆破するだろうし、そのフラスコに繋がっている装置も破壊され、飛行不可能になるだろう。


 ガルマは案内ご苦労と、その豚マスクを通路へと突き飛ばし、


「今からこれを破壊する。死にたくなければ、早々に避難するんだな!」


 そう注意勧告をすると、一緒についてきた豚マスク共々、悲鳴を上げながら立ち去った。

 そう言ってしまえば、さすがに豚マスク達もクレア達を襲う暇は無くなるはず。


 阻止しようとされればそれまでだが、その時は防衛すればよい。


「それで? どう破壊しますか?」


「そうですね……」


 するとグエルが動力炉に何かしらないのか、サーチを始めた。


「サーチ」


 そして出た答えは、


「姫殿下! 魔法による防衛がかけられています。それを解除しないと……」


「解除可能ですか?」


「僕の魔法からは干渉できないかと……。おそらくそこの装置で管理されているものかと……」


 外側からの解除は不可能。

 内側から設定されているところからでなければ解除不可能と判断した。


 クレア達はその装置を調べようとするが、


「ど、どうすればよろしいのでしょう?」


 クレア達みたいな良いところのお嬢様方に、こんな装置の知識などあるはずもなく、途方にくれるしかない。


 すると、


「それを聞いたなら、阻止するのが当たり前だろ!」

「ボスが聞いたら殺されるぞ!」


「なっ!?」


 さっき逃げていった豚マスク達が帰ってきた。


「くそっ!」


 するとエルマ、ナルヴィア達が入り口の前に立つ。


「私達がここを死守します! 何とか破壊する方法を……」


「わ、わたくし達だって捕まっていた借りをお返しいたします!」


 入り口を死守する戦いが繰り広げられる中、クレア達は装置の前で唸るばかりである。


「ど、どうしよう〜っ!! このままじゃあ……」


「わかっていますよ! 落ち着いて下さい、クレア」


「わ、わかってるけどさぁ……」


 すると体力、顔色ともに戻ってきたユーザが、槍を抜いた。


「ええい! しゃらくせえっ!!」


「えっ!? おい、待――」


 悩んでる時間がねえんだよと言わんばかりの思い切った振りかぶりに、クレア達誰一人、止めることが間に合わなかった。


 装置には槍が突き刺さり、火花が散り始めた。


「おい! カルケット! そんなことしてもし魔法防壁が解除できなくなったらどうする!?」


「でも、時間もねえんだ! こうしてる間にもフェルトもケルベルトさんもやられちまうかもしれねえだろ!」


 するとすぐに調べに入っていたグエルから朗報が入る。


「……! 防壁が解除された!」


「ほ、本当か!?」


「ほらぁ!」


 ほらではない。

 一同の内心はヒヤヒヤであった。


 そしてエメローラはクレア達に指示を出す。


「先ず前衛の皆さん、あのフラスコにヒビを入れて下さい」


「ヒビでいいのか?」


「はい。下手に穴を開けてしまい、爆発が起きると皆さんが無事で済みません。完全な破壊は魔法攻撃により行います」


 そう言ってクレアを見た。


「わかったよ、ローラ。今はボクらも魔法が使えるからね」


「ヒビを入れたら前衛部隊は我々のところまで後退。魔力障壁を展開し、わたくし達の身を防御したのち、攻撃魔法を放ち、破壊します」


 バッと入り口の防衛してる部隊に振り向く。


「そちらも聞こえましたね? わたくしが合図したら、そちらも魔力障壁を!」


「わかりました、殿下!」


「それでは……」


 作戦を実行しようとした時、恐る恐る手を挙げる人がいた。


「どうしました、バーチェナさん?」


「わ、わたくしその……」


「何だ! 時間が無いんだ、さっさと言え!」


「黙りなさい、平民! ……そ、そのわたくし魔法はからっきしでして……」


 騒ぎ立てるだけの馬鹿だとは思ってたけど、まさかここまで役立たずとはさすがに思わなかった。


「お前……! 役に立たないどころか、足しか引っ張ってないじゃないか!?」


 グエルは一同の言いたいことをド直球にぶつける。


 だが、


「はあ!? 貴方よりは役に立ってますわ、平民! わたくしの可憐な応援でケルベルト様も――」


「その馬鹿みたいな応援のせいで、こうなってんだろがあっ!!!!」


 そのチェンナがわかるはずもなかった。


「――いい加減になさい!」


「「!!」」


 クレアは聞いたことのないエメローラの声に驚くが、それは護衛騎士をやっていたガルマ達も同じなようで、毛が逆立つような驚き方をしている。


 そしてエメローラは、ニッコリ微笑んだ。


「……今がどんな状況か、ご理解できていますよね?」


「「は、はい」」


 圧が凄い。

 顔は笑顔だけど笑ってない。


「そのような喧嘩は無事に帰還してからにして下さい。よろしいですね?」


「「は、はい……」」


「とにかくバーチェナさんはわたくしの側から離れないようにして、これ以上、余計なことはせぬように」


「はい……」


 改めて、


「では作戦開始!」


「おおっ!」


 一番で駆け出していくユーザ。

 一番怪我をしているはずが、復活して一番元気だったりする。


「おい! あまり無茶をするなよ、カルケット」


 続くガルマが心配そうに並走している。


「わかってるけど……俺、悔しいんだ。何もできなかったことに……」


「……」


「俺、弱かったよ。人を奴隷にしようなんて奴に、何にもできなかった。悔しいぜ……」


「その気持ちは俺にもわかる!」


 ふたりは何か話ながら、フラスコを攻撃する。


「俺は驕っていた! 護衛騎士に選ばれ、貴族であることを誇りとしていただけで、いざ姫殿下の危機となった時、助けてくれたのは……今、一番危険な役割を果たしてくれているあのふたりだ!」


 どうやら男の子の劣等感の話をしているようだ。

 その悔しさをそのフラスコにぶつけるように、互いに攻撃する。


「だよな! 悔しいけど、あのふたりは凄え!」


「ああ。そしてお前にも感謝している」


「姫殿下をお守りしてたアレか?」


「ああ!」


「馬鹿言え! アレは肉壁になってただけだ! それを悔しいって……」


 ユーザは思いっきり槍を突き出し、フラスコの一点に集中攻撃。


「言ってんだろがあ!!!!」


「それでもだっ!!」


 負け時とガルマもその一点を攻撃。


「お前はそれでも守り抜いた! その側にさえ行けなかった自分が不甲斐ない!」


「ハハッ! そうかよっ!!」


 小さく亀裂が入った。


「お二人共!」


 呼びかけるが、


「「まだだ!!」」


 ガルマがその亀裂を広げていく。


「だから力不足な俺達はこうするしかないということか?」


「だなっ!」


 十分な亀裂が入ったとこちらからも確認ができる。


「なあ! もっと強く――」


 ユーザがその亀裂目掛けて、槍を突き刺す。

 作戦では前衛が穴を開けすぎ、刺激を与え過ぎれば、爆発に巻き込まれる危険性が生まれるって説明したはずだった。


「なろうぜえ!!!!」


「駄目――」


 亀裂を見事に貫通すると、


「アレ?」


 刺したままこちらへ走ってきて、


「姫殿下ぁ!! 目印ぃ!!」


 亀裂が入ったところにユーザの槍が突き刺さったまま放置したのだ。


「なるほど!」


 あれなら魔法を放つ目印になるし、避雷針のようなかたちで魔法があの槍から浸透しやすくもなる。


 ふたりは手早くクレア達と合流すると、エメローラが言い放つ。


「――各位! 魔法防壁展開!」


 クレア達の守りはグエルと入り口へ向かわなかった女子生徒達が展開。

 向こうのエルマ達も魔法障壁を展開した。


 そして――、


「行きます! クレア!」


「うん! 貫けぇええええっ!!!!」


 クレアは巨大な氷柱をフラスコ目掛けて放ち、エメローラは火の魔法を放つ。


「――フリーズ・ランス!!」

「――エクス・プロード!!」


 クレアの氷柱の槍がフラスコを貫通し破壊され、エクス・プロードの爆発で魔力に引火。


 ――ボゴオオオオオオーーーーッ!!!!


「「「「「――きゃああああーーっ!!」」」」」


 辺りはクレア達の思惑通り、一気に崩壊した。

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