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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
42/177

19 対アーディル&シギィ2

 

「くそっ!!」


 フェルト達が逃げようとしていた通路をアーディルが占拠してしまっている。

 しかも、ユーザがタコ殴り状態だ。


 あの赤く熱した鞭は正直、この状況ではかなりタチが悪い。

 体力、気力共に削ぎ落とされていくだろう。


 何とか助けに行かねえとっとフェルトは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「アッハハッ!!」


 このイカれ野郎(シギィ)が通してくれない。


 ――こうなったら奥の手を使う。


 フェルトは複数回バク転をし下がった瞬間――着地と同時に【識別】から【記憶の強奪】の発動を切り替えることにした。


 今戦えているのは【識別】の恩恵が大きい。

 やはり筋肉の動きや風圧などからの先読みができる観点は優秀だ。

 特訓した甲斐があるというものだが、【識別】と【記憶の強奪】を併用できない点に関しては残念でもある。


 何せ『強欲の義眼』の能力は『暴食の仮面』の能力と違い、どちらも起動能力だからだ。

【識別】や【記憶の強奪】は意識して発動しないと機能しない。

【暴食】は意識的だろうが、【リミッター解除】に関しては、神器持ちに常に影響を与える、永続的効果能力のため併用が可能と思われる。


 だからシギィからある程度離れないと、危なっかしくて切り替えができない。

 しかも距離を取ることをシギィの粘着性の高い戦い方から許してくれるはずもない。


 だからこの離れた一瞬で、【記憶の強奪】を発動し、シギィの運動能力の記憶を奪い取る。

 そうすればシギィが今まで通りの動きができないどころか、混乱して動きが止まることだろう。


 正直、【記憶の強奪】の発動にはデメリットがある。

 それは明らかにフェルトが何かしらの能力を持っているということがバレるということ。

 そしてその能力は記憶に関する能力であるということがバレるということ。


 人の性格や動きなどは基本、その人の積み上げてきた経験、つまりは記憶によるところがある。

 それを奪えば、第三者から見ても異常と捉えることは難しくない。


 さっきアーディルに向かって使った、メモリー記憶とも呼ばれる陳述的記憶を奪うのであれば、その人間と話をしないと異常が起きているとはわかりづらいが、身体的に影響が出るというのは、目に見えてわかること。


 これだけ周りに豚マスク(目撃者)がいれば、情報が出回る可能性が高く、フェルトとしては極めてデメリットになり得る。


 そしてもうひとつ、【記憶の強奪】を使うことを下縁している理由は、やはり人の人生をほぼ奪うかたちができてしまうこと。

 正直、躊躇(ためら)いはあるし、自責の念に苛まれもするだろう。

 それが素直に怖いし、一度そういう使い方をしてしまうと、人間ってのは慣れる生き物だ、次も使ってしまうだろう。

 それが恐ろしい。


 だがユーザがあれだけやられており、打開策が見つからない挙句、相手(シギィ)は【識別】で見たところ、かなりの殺人歴がある。

 だからそのデメリットは呑み込むことにした。


 命には変えられない!


 そしてフェルトはシギィの姿を捕らえた。


【記憶の――】


 だが、


 ヒュッ!


「!」


 捕らえたと思ったシギィだったが感づいたのか、フェルトの視界から消えた。


「しまっ――」


 向こうもフェルトの着地の瞬間を狙ったのか、視線をすぐ下へ向けると、


「アッハアッ!!」


 既に斬りかかりつつあった。


「――くっ!」


 何とか【識別】を使わずとも反射的に回避する。


 くそっ!

 やっぱり瞬動術を使えるか。


 フェルトは再び【識別】へと切り替え、今度は【識別】で読み切った先の隙を狙って【記憶の強奪】を使ってみることにした。


【識別】だったら、辺りの風の流れとかを【識別】する際に、シギィの動きもある程度読み切れるが、【記憶の強奪】に関しては、どうしてもシギィが視界に止まる必要がある。

 どこかしらの剣を交えているタイミングで、【記憶の強奪】を使えば当たるかもしれない。


 これだけ密接して戦ってるんだ、狙えないことはない。


 フェルトはシギィの止むことのない二丁の小型ナイフでの猛攻を捌き続ける。


「お前、本当に凄いなぁ。目が見えていても身体が追いつかないなんてことは珍しくもない。だが、ちゃんと身体もついて来れてるんだなあ!」


「日頃の努力の積み重ねってヤツだよ!」


 シギィの言う通り、目で追いついていても身体が思うようについて来ない時期はあった。

 マルコ神父(先生)にも特訓時の課題とされていた。


 フェルトの『強欲の義眼』はどうしても視覚能力が強過ぎる。

 その影響もあってどうしても視覚に頼りがちになると指摘を受けていた。

 だからこそ、マルコ神父(先生)にそこを重点的に矯正してくれたのだ。


 戦いの場で得られる情報は視覚だけでなく、肌で感じる風や魔力の感覚、地を蹴って擦れる靴跡や風の音など、情報は色々転がっている。


 その感性を磨くのに、故郷の森の魔物達は最適だった。


「お陰で――」


 ヒュンとフェルトも剣を振り下ろし攻撃するも、軽くバク転されて回避されたが、


「こうしててめえとやり合えてるからな」


 これも計算のうち。

 シギィが後退した隙を捕らえる。


【記憶の強――】


「なっ!?」


 フェルトの視界から直ぐに消えた。


「嘘だろ……?」


 確かにシギィは後退しており、空中に飛んだところを視界に捕らえたはずなのだが、どこにも姿がない。


 すると、


「――!?」


 横から攻撃されそうになった気配を感じ、間一髪で剣で防いだ。


「て、てめえ……」


 どうやらシギィは、空中で瞬動術を使い、回避したようだ。

 確かにかなり実力の高い人は空中を蹴って移動できる人もいるらしいが、シギィもそれができる人だったようだ。


 互いに刃を交えている中で、シギィはずいっとわざとらしくフェルトの顔に近付き、こう語った。


「お前、さっきから嫌な感じがするなぁ。それをしようとする度に隙ができるなぁ」


「!?」


 まさか、【識別】と【記憶の強奪】を切り換えているのに気付いたのか!?


「その『目』に捕らえられるのはマズイよなぁ。そうなんだよなあ!!」


 そうだとフェルトは思い立つ。


 コイツ……! そういえば一目見ただけで、生まれた時から片目が無かったことを見抜いたイカれ野郎だった。

 洞察力は勿論だが、危機感知能力まで高いとか、マジでふざけてやがる……!

 だからコイツ、これだけ粘着質な戦い方をして、【識別】を使わせ続ける行動を()()()に行なってたんだ。


「……お前、本当にイカれてやがるなっ!!」


 キィンっと鋼を弾く音が響き、互いに距離を取る。


「アッハハッ!! それは褒めてるんだろぉ? そうだろお!?」


「褒めてねえよ!! クソッ!」


 デメリット覚悟で決めるつもりだったが、どうもシギィはそれを許さないようだ。


「アッハハッ!」


 ――【識別】


 フェルトはシギィと再び激しい接近戦を交えながら、どうすればいいかを考える。


 どうする! どうする!

 コイツのずば抜けた洞察力と危機感知能力に加えて、反射速度も攻撃速度も速い。

 近接戦でこんなに強い奴とやり合ったのは初めてだ。

 光明が見えない……!


【記憶の強奪】は確実に回避される状況。

【識別】が無いとシギィについていくのがやっとだ。

 明らかな実力差がシギィとフェルトにはあった。

 このままジリ貧になれば、フェルトは確実にシギィの言う、芸術とやらの餌食にされてしまう。


 それだけでもピンチなのに――、


「――はっ、はっ、はっ……」


「どうした? どうした!? このクソガキィ!!」


 ユーザはもう限界だ。

 エメローラもクレアも助け出せる状況でもない。

 そして周りにはフェルト達が逃げ出せないよう、豚マスク達が囲っている。


「余所見してんじゃねえ!!」


「ぐあっ!?」


 ちょっと目を離した隙に左手を斬りつけられた。


「ぐぅ……!」


「安心しろぉ。毒は塗ってねえ。お前は丁寧に刻んでやるよぉ」


 ナイフの歯を舌舐めずりしてるから、そうなのだろう。


「そりゃどうも……!」


 個体差を『大罪の神器』で埋めることができない以上、勝機は望まない。

 漫画みたいにピンチになってこそみたいな都合良く強くなったりすることもない。


 勝つための方法じゃない、切り抜けるだけでいい。

 そんな方法を思い付かないと、全滅する。


「アッハハッ! 楽しいなぁ! 楽しいなぁ!! アッハハハハッ!!」


「俺は楽しくねえよ! このクソ野郎!」


 そんなシギィを凌ぎながらもユーザの方を見ると、


「……ユーザ?」


 その場で前倒れしているユーザの姿と、鞭を振り下ろそうとするアーディルの姿があった。


「ユーザぁ!! ぐっ……!」


「なあ? 余所見すんなって言ったよなぁ!?」


 シギィはフェルトを切り付けると同時に、ユーザに向かってナイフを投げた。


「――アイツが死ねばオレに集中できるか?」


「てめえっ!!」


 すると振り下ろす鞭とシギィのナイフがユーザに迫る。


「くそぉっ!!」


 フェルトはシギィが離してくれず、それを横目に見ているしかなかった。

 エメローラは助けに駆け出そうとするも、クレアがそれを止めている。


 エメローラの御身が一番なのはわかるが、ユーザが死んでいいはずがない。


 その時だった――。


「「「「!?」」」」


 ぶわあっと鞭とナイフを吹き飛ばすような突風が起きる。


「何!?」


 確かにここは空の上で甲板だが、そんな狙いすました突風が都合良く起こるはずがない。

 そんな風に思っていると、


「申し訳ない淑女(レディ)、ダンスの邪魔をしてしまって……」


「あっ!」


 先程アーディルがいた甲板から舞い降りてくるキザな男は、ふわっとユーザ達を庇うようにアーディルの前に立ち塞がる。


「しかし、彼はもう貴女とダンスができるような状態ではない。もう腰が立たないようですよ、蝶々さん」


「ヘヴン!」

「ケルベルト君!」

「ケルベルトさん!」


「チッ! 何か変なのが出てきたな」


 それについてはフェルトも同意見だった。


「姫殿下、クレア嬢。ご無事で何より」


「わたくし達のことは構いません! 彼を……」


「わかっておりますよ」


「!」


 ヘイヴンは剣を抜き、ヒュンと軽やかに振って剣先をアーディルに向けた。


淑女(レディ)、ここからのダンスのお相手は僕が務めましょう。よろしいかな?」


「仲間の仇討ちってヤツかい? ハッ! また英雄譚に酔った馬鹿なクソガ――」


 ヘイヴンはビュッと素早く剣を振ると、


「!?」


 かまいたちがアーディルの顔の真横を通った。

 かなりの速さだった。


「申し訳ない淑女(レディ)。僕は基本的に女性に敬意と尊重を持って優しく接するのですが……」


 ヘイヴンが今まで女に対して見せたことのない冷たい視線を送る。


「僕は蝶々さんを正しく導くことも役目と考えている。姫殿下やクレア嬢をはじめとする蝶々ちゃん達を怯えさせ、人生をも狂わせようと策謀し、友人とエルマ嬢をここまで痛めつけた報いは受けるべきでしょう……」


 正直フェルトの第一印象は軽口を叩き、女性をたぶらかすだけの男だと思っていたが、


「――覚悟はよろしいですか?」


 決して甘いだけの男ではないことを、アーディルとの対峙で見せつけられた。

 頼もしい限りだ。


「生意気なマセガキがぁ……!」


 すると何やらヘイヴンはアーディルを警戒しつつ、小声でエメローラと話を始めた。


「今、上の甲板にヴォルノーチェ殿達が潜んでおります。そこまで彼を連れて行けますか?」


「……! う、うん!」


「ですがケルベルトさん。彼女はかなりの実力者で――」


「わかっておりますよ、殿下。しかし、フレンドが相手をしているシギィという殺人鬼よりはマシですとも」


 手錠をされているにも関わらず、クレアが意識が朦朧としているユーザに肩を貸している。

 どうやら他の救出組と合流させるつもりのようだ。


「あの男について知っているのですか。さすがですね」


「なのでここはフレンドと僕が足止めしましょう。何とか彼らと合流し、脱出の手段を押さえてください」


「そ、それなのですが……」


「?」


「アイツが脱出の手段が無いって言ったんだよ。敵の言葉を信じたくはないが、フェルト君が奴らの脱出手段を言い当てたから間違いない……」


 するとヘイヴンがこちらに声が届くように叫ぶ。


「フレンド! 脱出手段は見つかったかい?」


「ああっ! 見つかったぞ!」


「「「!?」」」


 それを聞いたアーディルが、馬鹿にするように笑って否定する。


「馬鹿かお前! さっきの話を聞いてなかったのか? 脱出手段はねえ! アタシの部下からもワイバーンを奪わせたりもしない!」


 アーディルは()()()()だろう。

 その脱出手段はアーディルから手に入れている。


「俺を信じろ! この船が無事なら、いくらでも脱出できる!」


 するとシギィが苛立った様子で切りかかってくる。


「おいおいおいおい!! オレを無視するんじゃねえ!!」


「無視させねえくせに、よく言うぜ!」


 ヘイヴンとの話も早々に、フェルトはシギィとの斬り合いを続ける。


「今はフレンドを信じましょう。何とかこの状況を打開する術をお考え下さい、殿下」


「……やはり貴方でも彼女の相手は難しいですか?」


「彼女は問題ありません。聞いた情報通りなら、僕でも対応は可能ですが、フレンドが相手をしているシギィはさすがに僕でもご期待には添えられません。……正直、フレンドが互角にやり合っていることさえ、僕としては信じられない……」


「そんなにですか……」


「ええ。彼はブラックギルドの中でも最強ギルド――死の芸術家(デス・アーティスト)のメンバーのひとりです。人間の身体をキャンパスのように扱い、身体を裂いたり、切り落としたりするなどした、奇抜で狂気に狂った思想家でありながら、戦闘能力は最強ギルド集団の『英雄の盃』に匹敵するとまで言われている実力者です」


「「!?」」


「……ああいうのを天才と呼ぶのでしょうね。実力があるぶん、思想があまりにも常識から逸脱している」


 三人ともフェルト達の方を驚愕した表情で見ているが、作戦会議もほどほどにしてほしい。


「とにかく殿下。先ずは合流を。彼女を仕留め次第、僕はフレンドと共にシギィを相手しつつ、脱出方法を語れる状況でないフレンドから聞き出し、何とか脱出しましょう」


「わ、わかりました!」


 するとエメローラもユーザに肩を貸した。


「参りますよ、クレア」


「行こう、ローラ!」


 明らかにエメローラ達が通路に向かおうとするのが見え見えなので、アーディルはふたりに向かって鞭を放つ。


「何行こうとしてんだ、ごらあっ!?」


 だが、それはヘイヴンが対処する。


「なっ!?」


「おや? 言いませんでしたか? 報いは受けてもらうと……」


「マセガキがぁ……!! 邪魔すんじゃねえ!!」


 やはりヘイヴンはエメローラ達を救出組と合流させるつもりで、アーディルの足止めを買って出たようだ。

 だとするなら、フェルトにやれることはひとつだった。


「シギィ」


「!」


「そんなに相手してほしいなら、全力で相手してやる」


 ユーザはエメローラ達に任せればいい。

 アーディルはヘイヴンが抑えてくれる。

 まだ勝機は消えていない。


【記憶の強奪】が効かないなら、【識別】を使って全力で見切り、行動を予測して、対処する。

 倒せればよし。

 倒せなくとも、エメローラ達なら何かしらの好転を作ってくれるはずだ。


 今は仲間を信じるのみと、フェルトは自身がやれることに死力を尽くす。


「かかってきなっ!」


「アッハハッ! やっとわかったか? いくぞぉ!!」


 だがここで予想外の出来事が起きる。


「――ケルベルト様ぁ!! 頑張ってぇ!!」


「「「「「!?」」」」」


「……おやぁ?」


 全員の視線が上の甲板に向いた。

 そこにはチェンナを押さえ込むグエルの姿があった。


「お、お前馬鹿か!! ぼ、僕達は潜んでるんだぞ!!」


「馬鹿とは何ですの! わたくしは勇敢に戦われるケルベルト様を応援し、勝利の女神となって――」


「応援なんて心の中でしろぉ!!!!」


 おいおいおい……、冗談じゃねえぞ。


 フェルト達はもう呆れて物も言えなくなっていた。

 女に優しいさすがのヘイヴンも苦笑いだった。


 そんな中、楽しそうに笑う声が響く。


「アッハハハハハハハハッ!! あー……あの馬鹿がいて本当に良かったよ、まったく……。おいっ! あそこに脱走した連中らとこのマセガキ共の仲間がいるはずだ! とっ捕まえてこい!」


「「「「「ハッ!」」」」」


 すると豚マスク達は上の甲板へと続く道をドタドタと走っていく。


「あ、あんなに敵がこちらへ向かっていますわ!?」


「当たり前だろ! お前が場所を教えたんじゃないか!」


「喧嘩している場合か! ケルベルトの立てた計画通り、姫殿下達と合流するぞ!」


 もうめちゃくちゃだ。

 せっかく光明が見えてきたかと思ったら、また一難である。

 フェルトは心から勘弁してほしいと思った。


「おっと!」


 キィン!


「おい! 全力で相手してくれるんじゃなかったのか?」


 シギィは本当にフェルト以外には目もくれないようだ。

 それは色んな意味で有難いし、それはフェルトのやることが変わらないことを示す。


「悪かったな」


 どちらにしても信じるしかない。


「改めて……全力で相手してやるよ!」


 ――【識別】


 フェルトは全ての思考を戦闘に注力する。


 周りの状況は無視しろ。

 今はシギィを何とかするために、その辺りの情報だけをかき集めろ。


 フェルトは剣速を上げてシギィを攻撃するが、シギィもまた、それに合わせて攻撃を繰り出してくる。


「ハッ! ハハハハ……」


 激しくぶつかり合う鋼の音がどんどん速くなっていく。

 不思議とその音が心地良く聞こえてくる。

 拳で語り合うならぬ、剣で語り合うってのはこのことなんだろう。

 その音は、フェルトをどう仕留めたいのか伝えてくるようで、心地良い殺気を肌で感じる。


「おおおおっ!!」


 激しさが増す戦闘の中、思考も加速する。


 入ってくる情報を精査しろ。

 頭をフル回転させて、奴の攻撃を予知しろ。

 得た情報だけで対処しようとするな。

 肌で感じるもの、音で捕らえたもの、今までの経験から成せるすべてを引き出せ。


「――ハハハハハハハハーーーーッ!!!!」

「――オオオオオオオオーーーーッ!!!!」


 フェルトもシギィも一歩も譲らない剣撃が、フェルト達ふたりの周りを支配する。


 それをヘイヴンとアーディルが息を呑んだ様子で見ている。


「……あのガキ。まさかあそこまでとは……」


「……フレンド」


 するとヘイヴンはフッと鼻で笑うと、


「これは僕も負けてはいられないな」


 フッと姿を消した。


「チッ! 瞬動術――かっ!?」


 再びアーディルの顔の横を今度は刃が通る。


「姫殿下達のエスコートがあります故、貴女を足止めさせてもらいますよ」


「上等だ! やれるもんならやってみろ!」


 ユーザを苦しめた激しくも素早く無数にも見える鞭が、ヘイヴンに襲いかかる。


 だがヘイヴンは薄ら笑いを浮かべながら、飄々と躱しきる。


「なっ!? このガキ……!?」


 そしてヘイヴンはアーディルの左腕を突く。


「がああっ!?」


 腕を貫通すると、すぐさま抜き、連続で突く攻撃を繰り出す。


「チィッ!! このクソガキ……!」


 ユーザの時とは一転、ヘイヴンが優位に立つ状況ができあがった。


「僕、こうも言いましたよね? 貴女を正しい道へと導くと……」


 ヘイヴンは再び剣先を向ける。


「然るべき裁きを受け、清らかな蝶々となり、美しく飛ぼうではありませんか」


「意味わかんねえこと言ってんじゃねえ!!」


 背中を預けられる仲間ってのはいいものだ。

 フェルトは微かに意識をヘイヴンの方に向けながら、安心して集中できると考えた。


 『大罪の神器』を集める際に、仲間が必要だと感じたのは間違いではなかったようだ。


 だが今はフェルトが本当に思うことは――全員で生きて、無事に帰ることであった。

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