18 対アーディル&シギィ1
シギィという男が現れた瞬間、豚マスク達はピタリと動きを止め、アーディルは今までフェルト達に吐き捨てていた怒号をシギィに向けた。
「――シギィっ!! てめぇ!! 今までどこで油売ってやがったあ!?」
「ああっ? 萎えたっつったよなぁ? 萎えさせたのはどこのどいつだぁ? この無能が!」
「んだとぉ……!!」
【識別】で確認したが、アーディルが笑顔の娯楽提供者。
シギィが死の芸術家という組織名の人間だとわかった。
会話の内容を聞くに、どうやらボディガードのような関係みたいだ。
「「……」」
「ふたりともどうした?」
クレアとエメローラ、このふたりが青ざめた表情をするのはかなり珍しい。
フェルトみたいに【識別】してかなり危ない奴だとわからない限りは、そこまでの反応はしないはずだろう。
「そ、それが……かなり危ない男でして……」
「そうなんだよ。ボクらが最初にいたタコ部屋に突然現れたと思ったら、チェンナって彼女の口を急に裂こうとしたり、自分の邪魔をしようものならローラですら簡単に手を出すほどの危ない男だよ」
一度、接触したことがあったようだ。
護衛を引き受けている以上は、商品になる彼女達を傷つけるような真似はご法度だとわかるだろうが、そんなことお構いなしという奴なら、確かにかなり危険だろう。
それにさっきまで躍起になって襲って来てた豚マスク達が、急に襲ってこなくなった。
ふたりが説明するほど恐ろしい男なのだろう。
そして一通り言い合いをし終えたシギィは、フェルトを嬉しそうに見る。
「だがまあ、今は最高の気分だぁ……。そこの片目の男はオレがやる」
「……?」
多分フェルトのことを言っているのだろう。
フェルトのもう片目は『強欲の義眼』だ。
片目しかないのは事実だが、もっと特徴的な部分はあったはずだ。
アーディルが言った赤髪のような。
そんな妙な言い回しをするシギィは、二丁の小型ナイフを手にして構え、刃の部分をゆっくりと舐めている。
「疼く……疼くなぁ……!! お前を見てると、オレの芸術がぁっ!! オレの芸術が疼きやがるっ!! アッハハハハハハッ!!!!」
「チッ! また始まった……」
そう舌打ちしたアーディルは、下にいる部下達に下がるよう、手で指示を送った。
どうやらシギィとの喧嘩で、ある程度発散したせいか、冷静さを取り戻したようだ。
だが下がらせるということは、クレアの話にもあったように、下手に被害を出さないためだろうか。
「……芸術って何の話だよ?」
死の芸術家なんて物騒な組織に属しているらしいから、良い話は聞けなさそうだが、シギィの感性は知っておいて損はないだろう。
【識別】で判断できるのは、シギィの経歴や能力などであり、考え方等は判断できない。
「はあっ!? 芸術は芸術だろうがっ!」
「そうじゃなくて。俺の何が芸術なんだ?」
ハッキリ言って、意味わからなかった。
「……お前、一目惚れってしたことないか?」
「……ないな」
ゲシッ!
「痛っ!?」
左足に痛みが走ったので、その原因と思われる人物に振り向きがてら尋ねる。
「クレア。今何で踏んだ?」
「……別に」
少し理不尽に思いながらも、シギィが話を始めたので、そちらへ集中する。
「オレがお前に感じたのはそれさ。アッハハハハハハッ!!」
背筋がゾッとした。
フェルトに一目惚れってことは、同性愛者だと思ったからだ。
「いや、悪いが俺にそんな趣味は無い!」
顔を引き攣らせながら、そう語るとシギィも察したようで、
「安心しな。オレにもそんな趣味は無い」
あまりにあっさり否定するので、同性愛者ではないらしい。
怖かったぁ。別の意味で。
「じゃあどういう意味だよ?」
同性愛者でない一目惚れということは、尊敬的な意味合いくらいしか思いつかなかった。
だがシギィとは初対面な挙句、出会って五分も経ってない。
遠くから豚マスクを蹴散らす姿が……ということでもないだろう。
「いいか? お前は『芸術作品』なんだよ」
「は?」
「いや、お前に限った話ではない。大地、海、空ぁ、草木から生き物、この世界のすべては……神が創り上げた芸術なんだよぉ!!」
「……なるほど」
言わんとしていることはわかる気がしてきた。
「どうして世界には色がある? 匂いは? 風景は? 多種多様な生き物がいるのは何故だ? 個体によって違いがあるのは何故だ? 考えれば考えるほどに人間が叶えられるはずもない壮大な芸術だぁ!! 最高だぜぇ!! 神様よぉ!! アッハハハハハハッ!!!!」
それだけ聞けば、ちょっと浮世絵離れした芸術家と考えられなくもないが、いかんせんシギィが両手に持っているのは、人を殺傷できるナイフだ。
それにクレアからチェンナっていう貴族嬢の口を裂こうと聞いている。
多分、ここからヤバイ話に移りそうだ。
「特に生き物はいい!!」
ほーら、来た。
「これだけの大量の歪な身体の臓物で成り立ち、意思を持って生きている……!! これを芸術と呼ばず、何って言えばいいんだあ!?」
「まあ奇跡と言えば奇跡、だよな?」
人間に限らず、確かに血と沢山の内臓によって成り立って生きられることは、神の芸術と言えばそうなるだろう。
「その中でお前は最も芸術性の高い神の作品なんだよぉ。アッハハハハ……」
確かにフェルトは女神から、イケメン補正をもらったが、イミエルから恩恵をもらっているなんてことは、誰にも喋ったことはないし、言ったところで信じてもらえる話でもない。
「……俺はどこにでもいる平凡な男だよ。そんなこというなら、魔眼持ちのクレアの方がよっぽど――」
クレアは魔眼を隠していない状況なので、こっちの方が希少性が高いんじゃないかと提言するが、
「魔眼持ちなんて関係ねえ!!」
どうやらシギィは一般的な価値観でモノを判断しないようだ。
フェルト達のようにクレアをひとりの人間として判断するわけでも、アーディルのように魔眼持ちというだけの価値判断でもない。
自分独自の判断基準があるようだ。
「……確かに魔眼持ちは希少だが、お前に比べればなんてことはない」
「俺が魔眼持ちより貴重だって?」
「ああ、そうだ。……アッハハハハ……」
まったく理由がわからないが、訊くまで答えてくれそうにもない。
だがヘイヴン達の時間稼ぎがシギィのおかげでできているのも事実。
アーディルを含め、豚マスク共はシギィを刺激しないように黙っている。
人体を芸術と笑うシギィのイカれた趣味からわかる通り、人格も相当イカれてるんだろう。
下手な発言は命に直結するんだろう。
だから、もう少し話に付き合ってやることにする。
「俺のどこが希少なんだ?」
「……フ、フフフ。……アッハハハハハハハハッ!!!!」
「あん?」
「お前、本当に知らないのかぁ? なあ?」
身に覚えがあるとすれば、イミエルの恩恵か『大罪の神器』くらいだが、このあたりの情報は誰にも言っていない。
正確にはマルコ神父にのみ、『大罪の神器』の話はしている。
だが、それはシギィが知るよしも無いことだ。
「人間、秘密のひとつやふたつはあるもんだが、てめぇに何か教えたつもりも、見破られる秘密もない!」
「ハッハハハハッ!! 親は何も言わなかったのかぁ? その義眼をはめた時、何も言わなかったはずないよなぁ!?」
「……親? 義眼? 何のことだ?」
確かにフェルトの左目は義眼だ。
クレアみたいにオッドアイではあるが、魔眼でない区別はさすがに素人でもわかるレベル。
それと『強欲の義眼』は、ほぼ人体の眼球そっくりのため、魔眼ではないことがわかる。
だがそれだけだ。
わからないと悩んだ表情をしていると、シギィは衝撃の一言を口にする。
「お前――最初から左目の眼球が無かったんだろ?」
「…………は?」
「「!?」」
それを初めて聞いたユーザとエメローラも驚いてフェルトの顔を見るが、フェルトはそれ以上に驚いた。
――はあ!? ちょっと待て。
生まれた時、初めから眼球が無かったことを知っているのは、村の人間くらいか最近、それを口にしたのはクレアにだけだ。
初対面で、しかも今出会って数分のシギィがフェルトのそれを知っていることはおかしい。
フェルトの情報など事前に調べるなんてことがあり得るはずもない。
すると上からクスクスと笑い声が聞こえる。
「へえ……。義眼とは思ってたけど、まさか初めから眼球が無かったなんて驚きだ。どうして気付いたんだ、シギィ?」
「ああっ? 見りゃわかるだろ。コイツの顔の形……ほんの少しだが左側が歪んでやがる」
「!?」
「初めから眼球が無かった場合、顔の形は多少変化があるもんさ。勿論、顔を歪な形にしないよう、片目に影響がでないよう、早急に対処したとしても、影響がまったく目に見えないなんてことはない……」
――嘘だろ……!
フェルトだって今言われなきゃ、気付かなかったことをシギィは一瞬で気付いて、そこまで推理して片目が初めから無かったことに気付いたようだ。
「相変わらずとんでもない洞察力だよ。イカれてるなぁ」
「ハッハハハハ……」
するとそんな驚くフェルトの袖を引っ張るクレアが耳打ちする。
「ボクの魔眼を見抜いたのもアイツだよ。まさか、そんな――」
ヒュン!
耳打ちするクレアにナイフが飛んで来る。
フェルトはクレアを庇うように身を寄せさせ、剣で弾いた。
「オレが目をつけた芸術作品に、下手なことすんじゃねえぞ!! 魔眼持ち風情が!!」
「……!」
「大丈夫だ。俺の側にいろ」
性格もそうだが、思考も洞察力も、更には殺人歴もかなり酷いことから、イカれた部分しかありはしない。
とりあえず言えることは、シギィはまともな人間じゃない。
「ハッハハハハッ!! これでわかっただろうぉ? 片目しか持たずに生まれてくるなんか、滅多にありはしない!! 人間は必ず、両目を持って生まれてくるもんだからなぁ!! お前は神が生み落とした奇跡という名の芸術なんだよぉ!!」
「そうかい、そうかい。だったらその芸術様の言うこと聞いてくれちゃったりしないかな?」
「ああ、聞いてやってもいいぜぇ。何がお望みだ?」
「ここにいるお前を含めた奴隷商共を牢獄にぶち込むってのはどうだ?」
「ハッハハハハッ!! オレ以外なら別に構わないぜぇ……」
「シギィッ!!」
「黙ってろ!」
ヒュンとアーディルに向かってもナイフを投げつけた。
本当に敵味方問わない奴のようだ。
「でもなぁ、オレの望みも叶えなきゃダメだぁ……」
「……一応聞いてやるよ。聞くだけな」
クレアの話通りなら、嫌な予感しかしない。
「お前をバラバラにしたい。なあ? いいだろぉ?」
「お前、馬鹿なんだな。お前が感銘を受けた芸術である俺をバラバラにするのか?」
「創作意欲が湧いたと言って欲しいねぇ!! 神が創り上げた芸術を、オレという芸術が新しい芸術へと生まれ変わらせる……。アッハハハハ……。湧くっ!! 湧くじゃねえかあ!! 創作意欲があ!! アッハハハハハハッ!!!!」
フェルトは嫌悪感を込めて、睨み思った。
頭ん中完全クレイジー男だ、コイツ。
「先ずはその義眼を抉って、元の芸術に戻して、もう片目も抉る! それからその芸術的な顔の皮膚を丁寧に切り剥がしていくんだぁ……。アッハハッ!! そしてなあ! そしてなあ! お前の悲痛に歪んだ顔と悲鳴をオレの脳みそに響き渡らせるのさあ!! アッハハハハハハッ!!!!」
シギィのそんな悪趣味な芸術とやらに付き合ってやる義理はない。
フェルトは背後にいるクレア達にポツリと呟く。
「下がってろ」
「ああ……っ!! 湧いてくるぅ!! 湧いてくるぞぉ!! オレの芸術があ!! アッハ! アッハ! アッハハハハハハッ!! 刻ませてくれるよなぁ? 刻ませくれるよなぁ? そうだよ、そうだよなあ!!」
我慢ができないのか、早口に尋ねてくる。
「いや、答えなんか待ってられない。刻ませろ。刻む。刻んで、抉って、突き刺してぇ……くふふ、アッハハハハ……。無理だあ!! 無理無理無理無理ッ!!!!」
血走った目でギョロっとフェルトに視線を向けた瞬間――、
「!?」
目の前から消えた。
「なっ!?」
気付いたら、フェルトの真正面の死角にいた。
体勢を低くして、下からナイフを顔面目掛けて切りつけてきた。
「――オレの芸術となれぇ!!!!」
「なって、たまるか!!」
フェルトは切りつけてくるナイフを躱すように、頭をバックさせるが、
「!」
目元あたりをスパッと掠めた。
「――フェルト君!?」
「――リーウェンさん!?」
ふたりの心配する声など気にしている余裕はなかった。
「ぐっ……!」
フェルトもやられるわけにもいかないので交戦する。
「アッハハハハッ!!」
フェルトは【識別】を使用しながらシギィの攻撃を凌いでいく。
シギィの攻撃は基本、両手に持った二丁の小型ナイフを使った超近接戦闘。
しかも動きもかなりトリッキーで、人喰いを彷彿とされる動物性の高い動きをしてみせる。
だが向こうと違うのは、シギィはかなり粘着性のある動き。
人喰いに関しては、フェルトは一瞬しか戦わなかったが、それでもかなり凶暴かつ自分が有利な距離をあの鎖で取りながら戦っていた。
しかし、シギィの場合は、かなり動きで翻弄してくる。
かなり低い体勢から攻めてきたかと思えば、大きく跳んで上空の死角から襲ってくるなど、とにかく死角の隙をどんどん突いてくる。
更にはフェルトの死角を狙う時以外は、とにかくフェルトの側まで切り込み続け、距離を離してくれない。
常に守りを強いられている感じだ。
よろついたところをフッと姿を消しては、
「――くそおっ!!」
ギインっと死角から切りつけてくるナイフを何とか防ぎながら、隙を窺おうとするが、そんな余裕を見せてはくれない。
コイツ……! 死角の突き方がエグい。
マルコ神父の教えと【識別】がなかったら、とっくの昔にあの世行きだ。
「アッハハハハッ!! 凄え! 凄えなぁ! オレの動きについてこれるとはなぁ!!」
「そりゃどうも!」
正直、こちらから攻めるのはかなり怖い。
その剣を振った隙をかい潜って、こちらに切りつけられでもしたら、かなり不利になる可能性が高いからだ。
だからといって攻めなければ、状況が好転することもない。
「くそっ!」
***
――そんな戦況をクレアはハラハラした面持ちで見ている。
「ど、どうする? フェルトを助けるか?」
「でも、ボク達は手錠付きだよ。援護なんてできない……」
今のクレアには見守ることしかできない。
悔しい限りだ。
するとエメローラがキリッとした表情でクレア達を見て、こう提案する。
「わたくし達はあの通路へ向かいましょう」
「えっ? でも、姫殿下。フェルトを放っておくことなんかできね……じゃなかった。できません」
「それはわたくしもそう思いますが、状況をよく見て下さい」
周りは敵だらけ。
シギィはフェルトとの交戦に夢中になっており、そのフェルトもまた、こちらに構っている余裕もない。
「この状況でわたくし達が再び人質になど取られてしまえば、それこそ状況は最悪となります。ここにいることは極めて危険です。なので、少しでも状況を好転させるため取れるわたくし達の行動は、今、あの危険人物を抑えてくれているリーウェンさんの足を引っ張らないこと」
「「!」」
「わたくし達が先程向かおうとした通路へと逃げ込み、救出組と合流を図ることができれば、状況の好転は十分に見込めます」
状況を考えれば、確かにエメローラの言う通りだった。
クレア達では、手も足も出ないシギィというあの危険な男をフェルトは抑えている。
ここでクレア達が捕まればフェルトが危険に晒されてしまう。
ならせめて負担にならないよう、クレア達は自分達で乗り切るしかないと考えた。
「わかったよ、ローラ! フェルト君はあの男相手で手一杯だし、ボクらも助けられてばかりってわけにもいかないからね」
「ええ! カルケットさん、護衛をお願いできます?」
「あったりまえだ!」
少しでも希望をと思い、向かおうとした通路に視線を向けたクレア達に衝撃が走る。
「「「!?」」」
そこには、不機嫌そうに鞭をパシン、パシンと手で威嚇しながら佇むアーディルの姿があった。
「あ、あれぇ〜? 貴女、さっき上にいなかったっけ?」
「あ〜ん? アタシがこの高さから飛び降りれないとでも思ってんのかぁ〜?」
「あ、あは……」
「ははは……」
「「あっはははははは……」」
パシッと強く地面を叩く鞭の音。
「舐めてんじゃねえぞ!! メスガキ共があっ!!」
そう威嚇すると、今度はニタリと笑う。
「どうやら強えのは、あの赤髪のガキだけみてえだな。正直、驚いてる。シギィとあそこまでやり合える奴はそうそう居ねえ……」
「やはりあのシギィという男は相当強いのですね」
「まあな。性格や趣味はあの通りのクレイジー野郎でさぁ。挙句、実力までイカれてやがる。アイツがまともなところなんて見たことがねえ」
クレア達がこうして面と向かっているこの最中でも、ふたりの激戦が繰り広げられている。
「とはいえ、あの赤髪は終わりだ。シギィに目ぇ付けられちゃあ、身体がバラバラになるまで追いかけ続けられる。アイツはかなり粘着質だからな」
ここから覗く戦い方を見ても、シギィはフェルトの嫌な距離で戦っているように見える。
以前、ガルマと戦った時のような余裕は一切見受けられない。
「そして、てめぇらも終わりさ。頼みの綱のあの赤髪はシギィに捕まり、別動隊の連中もこの状況で飛び込んでこないってこたぁ、助けも見込めない。挙句、お姫様と魔眼のメスガキは魔封石の手錠をつけられたままで、そこの槍使いの生意気なガキはアタシより格下ときた」
全てアーディルの言う通りだ。
クレア達はかなりの逆境に立たされている。
このアーディルの実力は言う通り、ユーザより上だろう。
クレア達を引っ叩いた鞭の速度はかなりあった。
しかも獲物のリーチ差もそうだが、柔軟性が高いのはやはり鞭の方。
しかもユーザは実戦経験も少ない。
フェルトのように、故郷で魔物を倒して特訓しており、命の賭け合いに慣れているのならまだしも、ユーザにそんな経験はないはず。
しかもクレア達は魔法を封じられ、両手がほぼ効かない状態。
フェルトからの助けも、他の助力も当てにできない状態はかなり危険だ。
「アタシが上座で踏ん反り返るだけの無能な頭と思わないことだ! さあ! アタシが直々に相手してやるよ!」
すると豚マスクの部下達は、シギィとフェルトの戦いのこともあるが、クレア達を逃がさないためか、包囲する。
「くっ……! どうする、ローラ?」
「……っ」
何とか方法を探さないと、フェルトもクレア達も全滅だ。
「ハッ!」
するとユーザが挑発めいた表情で軽く笑った。
「わざわざ降りてきてくれるなんて有り難いぜ。人の人生を食いもんにするクソ野郎をぶん殴ってやりたかったとこなんだ」
「減らず口の減らないガキだなっ!!」
思わずクレアとエメローラが止める。
「無茶です、カルケットさん。こう言ってはなんですが、彼女との実力差は歴然です」
「そうだよ。ボク達が何か手段を考えるから――」
「そんなことわかってる」
「「!」」
「俺は馬鹿だが、実力差がわからねえほど、馬鹿じゃねえ。でもだからって引けねえだろ! 姫殿下もクレアさんも助けに来たのに、おいそれと渡せるかよ!」
わかっていて尚、立ち向かってくれることに、クレア達はこれ以上口出しできなかった。
「ふたりは俺が全力で守る。だから何とかする方法とか、そういうのは任せる」
そう言って槍を構えた。
「……無駄な作戦会議は終わったか?」
「無駄なんかじゃねえよ。てめぇらをぶっ飛ばす作戦さ」
「へえ……そうかい!」
アーディルの右腕がひゅんと動くと、
「――があっ!?」
ばちぃんと激しい音と共にユーザが吹き飛んだ。
「カルケットさん!」
「カルケット君!」
「あ、ああ……」
「おやぁ? アタシの鞭が見えなかったのかい? それで守るぅ? ハッ! 英雄ごっこも大概にしな!」
すると今度は動作がわかるくらいの速度で鞭を連続で放ち始めた。
「がっ! ぐっ! ううっ!」
バチン! バチン! バチン!
エルマさんの時とは音のしなり方が違い、かなり痛そうに響いている。
「おらおらおら! どうした? 英雄気取りのクソ生意気なガキんちょがあ!」
「く、くそぉ!」
槍で何とか攻撃しようとするも、
「ハッ!」
一瞬で槍に鞭が巻きついたかと思うと、
「そぉらぁ!」
痛みに震えるユーザから槍を取り上げ、放り投げられた。
「し、しま――ぶぐっ!?」
「おいおいおい……。よそ見してんじゃねえぞ! クソ生意気なガキっ!!」
武器を無くし、無防備となったユーザにアーディルの鞭が炸裂する。
何とか手で防御するユーザだが、気休め程度にしかなっておらず、服が切り刻まれ、叩かれた箇所は赤く腫れたり、擦り傷が増えていく。
「ぐっ……! があっ!」
「楽には殺さねえからなぁ!! 痛めつけて痛めつけて……ぶっ殺してやる!!」
するとアーディルの鞭が熱を帯びるように赤くなっていく。
「――ヒート・ウィップ!!」
するとその赤い鞭がユーザの肌に当たる。
「――がああっ!?」
「「!?」」
するとその皮膚の部分が焼けたのだ。
「痛いだろ? 苦しいだろ? このヒート・ウィップは高熱の鞭。肌に当たれば火傷を負い、その痛みを引く間も――」
ヒュンとアーディルは鞭を振りかざす。
「与えない!!」
「――がああああああっ!!!!」
「カルケット君!!」
「カルケットさん!!」
クレア達の盾になるようにユーザは庇ってくれている。
武器も取られ、一方的に殴られている。
だからといって下手に介入したところで、殴られる対象が増えるだけで、クレア達三人とも体力と気力を削がれるわけにもいかない。
それを見兼ねたフェルトが叫ぶ。
「くそっ!! 待ってろ! 今助け――」
そう言ったフェルトだが、
「おいおいおい!! 余所見してんじゃねえ!!」
「邪魔すんな!! このイカれ頭!!」
やはりシギィが逃してくれないようで、フェルトの介入はやはり期待できなかった。
「何か……何か方法が……」
そんなクレア達は、鞭で殴られ続けるユーザを見守ることしかできなかった。




