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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
38/177

15 奴隷商飛空艇潜入1

 

「よし、着いたな」


 敵陣に突っ込んだため、先ずは辺りの確認から――【識別】

 異常は特になかった。


「だ、だな。頭、くわんくわんするけどな」


 ワイバーンでそのまま突っ込めばそうなるだろう。


「いや、お前。突っ込む直前くらいで、ワイバーンに火くらい吐かせておけよ。そうすればワイバーンの勢いを殺すことなく、俺達への被害は軽減できるだろ?」


「――そういうのは、もっと早く言えよ!」


 フェルトはぶつかる直前に木製である飛空艇に穴を開け、そこの部分にワイバーンを突っ込ませた。

 おかげさまで、無茶して突っ込んだ割には、フェルトへの被害はほとんどない。


 そしてそのワイバーン達は、さすがに無茶して飛空艇に突っ込んだせいか、気を失って倒れている。


「とりあえず動けるか?」


「勿論!」


 フェルトは座り込んでいるユーザに手を差し伸べ、起き上がらせていると、「いたぞ」と複数人の声がこちらへ飛んできた。


「フェルト! どう陽動するつもりだ?」


「こうすんだよ!」


 フェルトは側で倒れているワイバーンをわざと強く蹴っ飛ばす。


「――ギャア!?」


 するとワイバーンは一気に覚醒。

 そして単純な思考のワイバーンは、覚醒した際に視界に映った豚マスク野郎共に目掛けて、大きく羽を広げた。


「――ギャアアアアッ!!!!」


「ひっ!? ちょっ!? 待て!」


 ワイバーンは一度天井に頭をぶつけると、それでは追いかけられないとわかってか、通路ギリギリまで頭を下げて、豚マスクを威嚇、そして目掛けて走っていく。


「ギャアアアアッ!!!!」


「いやあっ!?」「た、助けて……」と叫びながら、追手としてきた豚マスク達が退散していく。


「お、おお……」


「ワイバーンをお借りしたのは、何も空中を移動するためだけじゃねえ。いくら大きな飛空艇だろうが、ワイバーンなんて巨大な魔物に暴れられちゃあ、たまんねーだろ?」


「な、なるほどな……。でもよ、今、ワイバーンの向かった方向に姫殿下とかいねーよな?」


「それは大丈夫だろ。奴隷商にとって攫った娘っ子達は貴重な商品。そんな簡単に傷つくような場所には置いてねーだろ」


 おそらくは飛空艇の中心部あたりに拉致されていると見ていい。

 なのでワイバーンをこの辺りに暴れさせておくのは正解だ。

 笑顔の娯楽提供者(やつら)も下手に暴れられて飛空艇を壊されるわけにもいかないはずだから、下手な移動はさせずに対処するはずだ。


 それにエメローラ姫殿下がいないのは【識別】で確認済みだ。


「なるほどな。じゃあコイツも使うのか?」


「ああ!」


 フェルトはユーザが乗ってきたワイバーンも蹴り起こし、先程のワイバーンを追うように、走っていく。


 しかし、船内で駆け回るワイバーンを見たフェルトは、モンス◯ー・ハン◯ーを彷彿とさせると、その光景を眺めた。


 迫力が凄い。


「じゃ、俺達は反対側に向かうぞ」


「ん? 何でだ? 危険だからか?」


 疑問に思った理由はわかる。

 今のワイバーンは突っ込んだ衝撃や狭苦しい船内にいることで過度なストレスを感じ、暴れている。


 無差別に攻撃を行なうとはいえ、自分達や攫われた貴族嬢達が無事であれば、この飛空艇がどうなろうとも構わない。

 むしろ破壊されることこそ望むところ。

 だから陽動になっていつつ、笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテインメント)の戦力を削いでくれるワイバーンについて行くことにも説明はつく。


「それもあるが、俺達は陽動組だ。ワイバーンが派手に陽動してくれてるようだが、それだって限界はくる。それに俺達のグリフォンの数をおそらく把握されてる。つまりは人数が知られている可能性が高い……というより、バレていると考えて行動を起こすべき。だから、色んなところで爆発やら暴れてるやらハッキリしない情報を向こうに与えた方が、少数の俺達には有利に働くってわけだ」


「……」


 ユーザは理解しようと頑張っているのか、口をポッカリ開けながら走る。

 ちょっと怖いからやめてほしい。


「わ、わかった!!」


 そして多分、半分くらいしかわかってない返答の仕方をされた。


「要するには――」


「いたぞ!」


 ユーザは槍を素早く構え、曲がり角から出てきた豚マスクに突っ込む。


「暴れてりゃあ、いいんだろうがあ!!」


「ぐあっ!?」


 豚マスクを一閃。

 そして通路を曲がってわらわら出てきたところに、


「ま、そういうこったぁ!!」


 フェルトは魔法玉に大量の魔力を注ぎ、曲がり角の天井に投げつけた。


「な、なに!?」


 爆発した魔法玉は木製の天井を破壊。

 複数の豚マスク目掛けて、天井が落ちてくる。


「「「「「――ぐああっ!?」」」」」


「よし! こっちだ!」


 フェルト達は曲がり角手前の横道へと進路を変える。


「こんな感じで船内をうろちょろしながら陽動してくぞ! あの豚マスク共には容赦すんなよ!」


「わかってる。いくぜえ!!」


 後はヘイヴンが言ってた通り、転移石が足りなくなった場合を考えての脱出ルートの確保。

 というよりはほぼ確定で転移石は無くなると考えた方が良さそうだ。


 この飛空艇は明らかに他国に逃亡しているところだった。

 つまりはオルドケイア大陸での仕事は終えたと考えるべき。

 それは、複数の箇所から彼女達(商品)を確保したと同義だろう。


 つまり全員の避難、救出を考えるなら、明らかに手持ちの転移石じゃ足りなくなる。

 やっとでさえ、準備する時間もなく追いかけてきたんだ、まともな数など確保できるわけもない。

 更には証拠を持っていったアルス達が、本国の騎乗士(ライダー)を連れてくるにしても、片道一時間ほどの場所だ、助けを考えるなら、最低三時間は見積もらなければいけない。

 とてもじゃないが、敵陣真っ只中でそれは期待できない。


 だからとにかく【識別】で敵の来る気配を察知するついでに、脱出方法も探さないといけない。

 最悪、ワイバーンを使役している豚マスクを脅して、空飛んで逃げるしかない。


「――にしても……」


 さすが敵陣というべきか、性別問わず豚マスクをつけた構成員が襲ってくる。


「やっぱ、数多いな!」


 だが戦闘能力自体はそこまで高くない。

 あと、数が多くても戦っている場所が基本的に通路ということもあり、どれだけ多くとも一度に襲って来るのはふたりが限度。


 フェルトは【識別】を使い、自慢の剣捌きで簡単に足らい、ユーザも槍のリーチを活かして、しっかり対処していく。


「やるな、ユーザ」


「おう! 負けてられねえしな」


 こうして背中合わせで戦っているのって、男心としては燃えるものがある。


「とはいえ、ひっきりなしに来られちゃあ、こっちが先にやられちまう」


 魔法玉をフェルトの目の前の敵陣目掛けて投げつけ、


「なに!?」


 爆発。


「「「「「――ぐあああぁー!!」」」」」


「こっちだ!」


 その爆風の中、フェルト達は駆け抜ける。


「なあ? 俺達、上手く陽動できてるかな?」


「まあやれてるとは思うぜ。ほら、聞こえるだろ?」


 フェルトはワイバーンが暴れているのと、それに困惑している豚マスク共の声が遠く聞こえるだろと尋ねる。


「おう、聞こえるな」


「ワイバーンと俺達で陽動してるんだ、向こうは早々捕まらん。一応、頭ん中は花畑でも、有能らしいからな」


 むしろそのおかげで本領が発揮されるんじゃないかと期待してたりする。

 そういう現金な方が頼りになったりするものだ。


 そうでなくともかなり頭が回る奴みたいだから、正直不安は少ない。


「とはいえ、こっちは敵さんを惹きつけてるわけだから、早めに向こうがケリつけてくれねえと、全滅する」


「頼むぜ! ヴォルノーチェさん、ケルベルトさん、グエル!」


 だからフェルト達が足を引っ張るわけにもいかない。


「ん?」


 フェルトは【識別】したある通路を見ると、何やら形跡を見つけた。


「ちょい待ち」


「――ぐえっ!?」


 思わず襟首を引っ張った。


「な、何だよ! 急に!」


「こっちの道にいくぞ。向こうの扉に姫殿下がいるみたいだ」


「マジかよ!?」


 しかし、攫われたのはエメローラだけじゃないはず。

 他の貴族嬢達の形跡がないのが気になるが、そのあたりの事情はエメローラが知っているだろう。


「ここか?」


「ああ」


 フェルト達は見張りをなぎ倒し、扉の前へ。

 一応、(トラップ)を警戒して【識別】を使用。


 ……どうやら問題ないようだ。


 コンコン。


「! 何が起きているのです? 答えなさい!」


 ――おっ! 姫殿下の声だ。


 喋り方から、見張りの連中だと思われているようだ。


「姫殿下? 俺だよ。フェルト・リーウェンだ」


「リーウェンさん? リーウェンさんなのですか!?」


「今開けるよ」


 そう言って開けると、手枷をつけられたエメローラがひとり、そこにいた。


「姫殿下!」


「リーウェンさん! それにカルケットさんも……」


「お、俺の名前まで覚えててくれたなんて……」


「……当然です」


 律儀で真面目なエメローラのことだ、人の名前を覚えるなんて容易いだろう。


「それよりどうしてこちらへ……?」


「どうしてって……捕まってるように見えます?」


 エメローラのように手枷されてませんよと、フェルトは手をひらつかせると、


「そうですね」


 その通りですねと、クスッと微笑まれた。


「ま、姫殿下達を助けに来たんですよ」


「では、他の騎士達も……」


「いや、悪いが騎士達は来てない。俺達の独断で来てる」


「!」


 そう聞いたエメローラは少し表情を落とした。

 だがショックというよりは、予想通りの返答という感じの落ち込み方。


「……やはりダミーに引っかかっていましたか」


「! ……やっぱりダミーだったか」


「知らずに来られたので?」


「い、いえ! フェルトがそうじゃないかって推理して、俺達はここにいるんです!」


 フェルト達は手短にここに来た経緯を話した――。


「――そうですか。苦労をかけました」


「いや、いいってことよ」


 エメローラは騎士達のはやる気持ちやガルマの証言が聞かれなかったことを嘆くように、しゅんと落ち込んだ。


「それより姫殿下がどうしてダミーのことを?」


「ここのボスがわざわざ話してくれましたよ。わたくし達を絶望に叩き伏せるために……」


 結構趣味の悪いボスのようだ。

 奴隷商に捕まったって時点で、女としてはかなり絶望的だろう。

 その上、追い討ちまでかけるのは、中々いい趣味とは言えない。


「そのダミーについても詳しく説明して下さいましたよ。チキンバードという鳥獣の魔物を使っているそうです」


「チキンバード?」


「はい。飛ぶことより走る方に特化した鳥獣の魔物で――」


 前世の記憶のあるフェルトは、ダチョウみたいな感じを想像した。


「とにかく臆病で逃げ足が早く、計画的に捕まえない限りは、基本的には捕まえることの困難な魔物だと話していました。確か……書物でも見たことがあります。周りの風の気配の察知及び危険察知能力も極めて高く、その臆病過ぎる性格か、繁殖力も悪く、かなり希少な魔物だったかと……」


 ガルマの父である騎士団長が追いかけたのは、フェルト達が貴族寮に訪れる数時間前から追いかけていたそうだ。

 それにしては戻ってくるなり、報告なりがあってもおかしくないと思っていたが、そんな召喚魔(ダミー)を使われていれば、そんな連絡が入ってくるわけもない。


「……つまり今、闇雲に追いかけてる騎士達が追いつくことはないってわけだ」


「……はい」


 おそらくそのチキンバードも一度捕まえてしまって、仕事に使う用に飼育したのだろう。

 随分、厄介なことをしてくれる。


「でも大丈夫ですよ、姫殿下。フェルトのやつが起点を聞かせて、姫殿下達が攫われたって証拠を持っていかせたからよ」


「こちらへ送って下さった、学生騎乗士(ライダー)さんがですか?」


「おう。だからじきに増援がくるよ。な?」


 そんな期待の眼差しを向けられても困る。


「それまで俺達が無事だったらな。少なくとも、騎士達が来るのは、どんなに早くても三時間はかかる」


「さ、三時間……!?」


 こちらの飛空艇も進んでいるのだ、帰り、行きを含めれば甘く見積もってそのくらいだろう。


「だから――」


 バァンっと大きな音を立てて、扉が開いた。

 開けた相手は勿論、豚マスクの構成員。


「大人しくし――」


 部屋に入ってこようとしたので、


「がはっ!?」


「黙ってろ!」


 部屋の外から気配はあったので、扉が開いた瞬間に体勢を低くし、下から顎を蹴り上げると、エメローラの腕を引っ張り、


「――きゃあ!」


「悪いね、お姫様。ちょっと強引に行くぜ!」


 そのままお姫様抱っこ。

 まさか本当のお姫様を本当にお姫様抱っこする日が来るとは思わなかった。


 蹴り倒された構成員に怯んだ他構成員を振り切るように走り去る。


「ま、待て!!」


「待つか、バーカ! つか、盗られたもん取り返しに来たんだ、てめぇらこそ返すもん返しやがれってんだ!」


 とりあえずエメローラを連れて逃げるだけでも、十分陽動できそうだ。


「おい、姫殿下」


「な、なんでしょう?」


「他の連中は?」


「別室に集められております。わたくし達の他にも被害に遭われた方が捕まっており、四十名ほどいました」


「! ……くそっ!」


 フェルト達の当たらなくていい予想が当たった。

 やはり、オルドケイア大陸全土で仕事し終わってからの行動だったようだ。


「姫殿下! 脱出ルートとかあります?」


「用意しなかったので!?」


「いや、転移石をいくつか用意はしたが、何せ、姫殿下達が攫われたことに気付いてから、数時間は経ってたからな」


「な、なるほど。急いで用意しなければ、国境を越えられると思い、入念な準備ができなかったと……」


「ああ。こういう組織はある程度、どっかの国と繋がってる可能性も高い。国の領海がどうのとか言われたら、この飛空艇に潜入すら難しいからな」


 こういう時の準備不足は致命的だとは思うが、この場合はもう仕方がない。


 そしてフェルトの話を聞いて、船内を歩いてきたであろうエメローラは、揺れるフェルトの腕の中で考えるが、


「申し訳ありません。わたくしが通ったところには脱出に使えそうな物や場所等はありませんでした……」


「はは。さいですか……」


 これはどうにも厄介だ。

 ヘイヴン達(むこう)側で見つけてくれることを願うしかなかった。


 脱出方法に悩んでいると、


「居たぞ!」

「挟み討ちにしろ!」


 両通路から挟み討ちにあった。

 フェルトはエメローラを下ろす。


「ユーザ、そっちは任せる」


「ああ、そっちは任せた!」


「一応訊くが、姫殿下は援護とかできます?」


「無理です! この手枷が無ければ、魔法支援くらいはできますが……」


 そう言って手枷を見せられた。

 付けられている手枷は鎖付きの物ではなく、石造りの手枷。

 おそらくは魔封石の手枷だろう、鍵がないと外れないタイプだ。


「鍵に覚えは?」


「ありません。おそらくはボスが持っているか、或いは見張りが持っているかですが……」


 エメローラの部屋の前にいた見張りを【識別】で確認もしたが、そんなものを持っていなかった。

 ということは、おそらく他の連中が捕まってるところの見張りが持っている可能性が高い。

 ボスだったら最悪だ。


「だったら姫殿下はお姫様らしく、守られて下さいな! いくぜっ! 雑魚共! 蹴散らしてやる!」


「舐めるなよ、クソガキがっ!!」


 フェルトとユーザは向かい来る豚マスクの構成員共と衝突。


 フェルト達は信じる。

 これだけ派手に陽動してやってるんだから、他の連中をスムーズに助け出してくれていることだと。

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