14 消えた貴族嬢4
「――それで説得されたわけだが……」
「さすがパイセン。やっさしー」
「これ! バレたら、反省文どころじゃないぞっ!!」
フェルト達は無事アルスを説得し、現在、逃げたと思われる空域を移動中。
奴隷商達は追跡を逃れるため、オルドケイア大陸の空域を離れると予想され、奴隷の違法取引が盛んそうな大陸を目指していると踏み、その空域を目指して飛んでいる。
「まあまあ、アルス。あんな話を聞かされたら、行くしかないじゃないか」
「そうそう! それに後輩君の推理が正しければ、あたし達はエメローラ姫殿下を救う英雄になれるんだよ!」
「英雄って……浮かれてるなぁ。悪いけど、僕もアルスと同意だ。こんなこと、バレたらタダじゃすまない」
「あら? とかいいながら、貴方も来てくれてるじゃない」
フェルト達全員を運ぶのには、さすがにアルスだけのグリフォンでは不可能だと、アルスの学友であり、同じ騎乗士を目指す先輩方の面々にも一緒に飛んでもらっている。
全員、グリフォンライダーだ。
「申し訳ありません、麗しの蝶々さん方。貴女方まで巻き込んでしまうことになろうとは……」
「「蝶々?」」
「あー……ミント先輩とキイリン先輩でしたっけ? そいつの言う歯の浮いたセリフは気にしなくていいですよ。病気みたいなものなんで」
「……フレンド。それは些か酷いな」
ヘイヴンの奴を男性の先輩と同伴にさせていてよかった。
女先輩方の背中に乗せてたら、何をしでかすかわからない。
「ていうか、貴方……」
「は、はい!!」
「ちょっと手汗酷いわよ。そんな心配しなくても落ちないから」
「わ、わかっております! し、しかし、その……い、今から奴隷商のアジトに乗り込むのだと考えると……」
ミントの後ろに乗るグエルの言い訳。
言ってることにも理解はできるが、半分は多分、女性の背中にしがみついている影響だろう。
グエルは見るからに女慣れしてなさそうだ。
一方のガルマも女性であるキイリンの後ろだが、そんな様子はない。
妹や姫殿下といったあそこらへんで慣れてるのもあるだろうが、ガルマの場合は、グエルのようにしどろもどろになるほどの心の余裕はないだろう。
「大丈夫か? ガルマ」
「あ、ああ。大丈夫だ」
そんなガルマに気を回しているフェルトの前では、アルスが少し呆れた息を吐く。
「リーウェン君こそ大丈夫なんだろうね? これで的外れだったら、俺達は行き損だ」
「それならそれでいいですよ。俺の推理が外れれば、地上を追いかけている騎士団長率いる王都の騎士達が当たりってわけですから」
「まあ、そうだな……」
【識別】で確認したフェルトからすれば、上空が当たりなのは確定してる話。
問題となるのは、本当にこちらの空域であっているかということ。
あくまで違法奴隷取引をされている可能性の高い大陸国を目指しているだけで、それがどこかは不明だ。
だが今、一番その問題が懸念されているのが、ユクシリア大陸である。
ヘイヴン曰く、ユクシリア大陸は過酷な砂漠の環境や神の天災による地脈の魔力変動に、常に人員が足りないことから、奴隷のような労働者を常に確保したい状態にあるようだ。
ユクシリア大陸はいくつかの王都があるが、特に港町を抱える王都では、そのあたりの違法的動きが活発らしい。
だが、だからと言って当たりというわけではないし、さすがの『強欲の義眼』もそこまでは見通せない。
ここだけは賭けだった。
「しかし、もう一時間も飛んでいるぞ。そろそろ見つかるくらいはあっても……」
「馬鹿なのか、ジェイク。攫われたのが、今日の夜中なら、もう少し飛ばなきゃ見えないだろ?」
「……そ、そうだな。すまない、エイク」
いくら飛空艇とグリフォンの飛ぶ速度が違うとはいえ、一朝一夕に追いつけるものではない。
とはいえ、ジェイクの言う通り、そろそろ見えてきてもいいと思う。
こっちの方面に逃げたという確証が欲しいフェルト。
何せ、飛んで逃げていくのだけは【識別】で確認している。
「ん〜〜? おっ?」
「どうした、リーウェン君?」
「いや、どうやら当たりみたいですよ、パイセン!」
フェルトが指差す前方を全員が目を細めて確認する。
「あ……! ああっ!」
前方の景色に違和感が生じていた。
青い空、白い雲、更に下には広大な蒼の海が広がっている。
こんな言葉、ビーチにでも行かない限り思いもしなかったはずなのだが、その美しい景色に空間が歪んだような部分がある。
「……まさか、本当に当たるとはね。見事だよ、フレンド」
「どうも」
あそこまで露骨に空間が歪んでいると、ステルスを使ってないのと同じだ。
明らかに飛空艇が飛んでいるとわかる。
「しかし、大きそうだね」
まだ距離はあるものの、遠巻きからでもかなりの大きさの飛空艇だと判断できる。
飛空艇ってより、戦艦に近いかもしれん。
こんなのが王都の上空を飛んでいたかと思うと、気付かなかった自分達は中々間抜けだと思った。
「あそこに姫殿下達が囚われてるのか……」
「まだ断定はできないが、あそこまで露骨に隠していると、その可能性は高いな」
みんながそんな早る気持ちを口にする中、
「フレンド」
「ん?」
「あれだけの大きさの飛空艇だ、おそらくは他のところから攫ってきた蝶々ちゃん達もいるかもしれない」
「だな」
「だとすると、転移石は少し足りない気がしてきたな」
「!」
フェルト達はあくまで攫われた女子寮の生徒と自分達の脱出用の転移石しか持ってきていない。
というよりは貴重な転移石をそんなに用意できなかった、更には用意するにも時間が無かった。
「つまり、救える人間が限定されるってことか」
「そうだね。最悪、あの飛空艇自体を抑えたいところだが……」
「そりゃ、無理があるだろ? この戦力差だぞ?」
向こうの飛空艇の大きさを考えてもフェルト達の数十倍の戦力がいるはずだ。
全員救い出すは、かなり鬼門になりそうだ。
「俺達が待機してようか?」
「いや、それはかなり危険でしょ、先輩。向こうはかなり計画的に貴族のお嬢さん方を攫ってる。やり手であることも間違いないので、停留は危険です」
元々アルス達にはフェルト達を送り、奴隷商の船を確認次第、増援を呼ぶ手筈になっている。
それを変えることは、かなりリスキーだ。
「じゃあどうするんだ?」
「ま、奴らだって小型艇のひとつやふたつくらいあるだろ。それらを拝借でもして撤退するさ」
アレだけの大きさの船、緊急用の小型艇くらいはあるはずだ。
「ん?」
すると飛空艇が隠れていると思われる場所から、何か飛んでくる。
「おい、アレ……」
あの軌道を考えると、大砲の弾ではないことくらいはわかる。
というか羽ばたいてることがわかる。
「――ギャアアアア!!」
何かが威嚇してきてる。
「おい! アレ、ワイバーンだぞ!!」
すると飛空艇から次々とワイバーンに乗った豚マスク集団が飛来してくる。
グリフォン騎乗士達が狼狽えている中、
「……フレンド。当たりも当たりのようだ。あの部隊には覚えがある」
「あの悪趣味な豚マスクか?」
「ああ。おそらく、ブラックギルドの一角とされる組織――笑顔の娯楽提供者の者だ」
「「「「!?」」」」
「スマイル……?」
随分とふざけた名前の連中だ。
「ブッ!? ブラックギルドって!!」
「あー……パイセン言ってましたね。ヤバい犯罪ギルドだとか……」
「そんな呑気に構えている場合か! 犯罪ギルドでもブラックギルドって呼ばれてる組織は極めて少なく、呼ばれてる犯罪ギルドは各国で指名手配されてるほどの組織なんだ!」
「ほえー……」
そこまで詳しくは知らなかった。
だが、周りの動揺ぷりとヘイヴンの目つきの変わり方を見るに、かなりヤバいことは理解できた。
「あの豚マスクは笑顔の娯楽提供者の幹部、アーディルという蝶々さんの部下だ」
敵すらも蝶々呼びであり、ヘイヴンのこの発言から女幹部だということらしい。
「人身売買を中心に人攫いを行なって、利益を上げている人物だと聞いたことがある」
「相変わらず詳しいのな」
「……当然さ。嘆かわしいことだけど、ウチの国にも常客はいるようだからね」
「!」
なるほど。
貴族嬢の噂から、怪しい貴族をピックアップし、そいつから聞き出したって感じのようだ。
「でもそれが本当なら、姫殿下やエルマはあのステルスで隠れた船の中というわけか」
「焦るなよ、ガルマ。とりあえず今やるべきことは、あのステルスのかかった船を見えるようにすることと――」
「ギャアアアア!!」
ワイバーンがこちらへ火を噴いて威嚇攻撃。
「このワイバーン部隊をどうするかだ!」
「――各員散開!」
アルスの指示で全員が散り散りになってワイバーンを躱す。
「ちょっ! さすがにブラックギルドは聞いてないわよ!」
「だな! 俺達学生が何とかできるレベルを超えてる……!」
「とはいえ、今更引けないだろ! どうすればいい? フェルト・リーウェン!」
アルスと同意見だったはずのジェイクが、一番やる気のコメント。
「そうっスね。とりあえずプランは変わらずで。俺達をあの船まで送ったら、先輩方は即時撤退で大丈夫です!」
「大丈夫なのか!?」
「今は俺達の心配より先輩達の心配してくれません?」
ワイバーン部隊は散開してフェルト達を追いかけてくる。
「そうだな。今はワイバーンの部隊を何とかしよう! みんな! 彼らをあの船内に入れるにしても、逃げるにしても、これを振り切らなければ話にならない!」
「了解!」
「わかったわ」
「ああ!」
「ええ!」
頼もしいアルスの一言で、各自向けられたワイバーン部隊と交戦。
「パイセン、カッコイイー」
「君も! そんな呑気なこと言ってないで、しっかり捕まっていろ!」
「りょうか――おわあ!?」
ぐわんっと景色が回った。
どうやらワイバーンの攻撃を躱したらしい。
「くそっ」と舌打ちする豚マスクの声が聞こえる。
「頼むぞ! ――エア・ウォール!」
「クルオッ!」
そう唱えるとグリフォンは風のバリアみたいなものを貼り始め、フェルト達は守られる。
「おおっ!」
「キイリン! あとキーエンス君! ワイバーンに対処しながらあのステルスのかかった船を解呪できるか!?」
「やってみる!」
「ぼ、僕も何とかしてみせます……!」
するとグエルを乗せてるミントがエール。
「グリフォンを操ってるキイリンよりあんたの方が適任なんだから、頑張んなさい!」
「ええっ!?」
応援というよりはプレッシャーだった。
グエルが青ざめている。
それを横目に見えたミントは、下手に宥めるよりは、更に励ます方へとフった。
「――男の子でしょ!? 気合入れなさい!!」
「は、はい!!」
「あんたの乗る、あたしのグリフォンは絶対落とさせやしないから……、しっかり詠唱なさい!」
ミントの方が漢気があるように感じた。
見た目はツインテの可愛い系女子なのに。
「ミント先輩、頼もしいですね」
「まあ、俺の自慢の仲間だからな」
「へえー。本当にそうなんですぅ〜?」
「――今、こんな状況でよく恋愛っぽいフリができるな!?」
「いやぁ〜、緊張をほぐしてるんですよ〜」
そう言いながらもアルスのグリフォン捌きも見事なものだ。
複数のワイバーンに迫られてはいるものの、風の防壁とグリフォンの空中での動きでワイバーン達を圧倒している。
これはアルス達が優秀なのは勿論だが、どうもワイバーンよりグリフォンの方が空中戦に部があるとのこと。
というより、ワイバーンよりグリフォンの方が元々のスペックが高い。
ワイバーンはあくまで下位のドラゴン種。
種類によっては強いのがいるものの、今襲ってきているのは、スタンダードなワイバーン。
性格は凶暴で、火力や力などはドラゴンらしく高いのだが、飛行能力はそこそこ。
対するグリフォンは、鳥獣の魔物の中でも上位種。
高い飛行能力に一部の風魔法を操ることができると中々のハイスペック。
性格は気位が高いらしいが、アルスのは幼体から世話していたため、そのあたりは関係ないと話していた。
他先輩方は貴族みたいで、そのあたりは関係ない。
体格も基本的にガッシリしているため、ワイバーンに劣ることはない。
そしてその性格のせいか、ワイバーン如きに負けられないという気位をグリフォンから感じる。
そのせいなのか、
「――わ、わああああーーっ!?」
「おお……容赦ねえ」
ワイバーンに乗った豚マスクがグリフォンの風魔法や鉤爪の餌食になっていく。
「あっちは犯罪ギルド、しかもブラックギルドなんだろ? だったら遠慮なんかしてる余裕はない」
アルス達も何だかんだ、そのあたりの覚悟もあるようだ。
頼もしい限りだと、相談したことを良かったと思った。
「そうですね。……何か更にわらわら出てきましたしね」
「!」
飛空艇があると思われる場所から、まだまだワイバーンが出てくる。
「くそっ! どんどん出てくるぞ!」
「ディスペルはまだ!?」
ぶつぶつと集中しているグエルに視線が向く。
あれだけの距離と大きさの物のステルスを解除するんだ、ある程度の魔力を貯める必要があるのだろう。
そして――、
「――かの空域に蔓延る魔を解除せよ! ――ディスペル・フィールド!!」
唱えたグエルを中心に虹色の光が広がっていく。
するとその範囲にステルスがかかっていると思われる飛空艇が引っかかった。
「よし!」
すると効果が発揮されたようで、飛空艇の全貌が明らかとなった。
「あれが……奴らの船」
赤と黒を基調にした外観の海賊船みたいな戦艦が目の前にあった。
「で、でけえ……」
「はは。これは想像以上のスケールだね」
「だな」
まさか空飛ぶ船を見る機会が訪れるとはね。
だが怯んでいるわけにもいかない。
「先輩! 俺、一旦降りますね」
「ああ! ……って、はあ!?」
フェルトは乗っていたグリフォンから飛び降りた。
「ちょっ!? リーウェン君!?」
「おりゃあ!!」
フェルトが落ちた先には、ワイバーンに乗った豚マスク。
「何!?」
「悪りぃが、その席譲りな!」
フェルトは豚マスクに不意打ちの一太刀を入れると、そのまま腹パン。
「ごほっ!?」
豚マスクは気を失った。
そして背中の異変に混乱するワイバーンが暴れ始める。
「ギャア! ギャア!」
「どおどおどお! ワイバーン、どお!!」
フェルトはアルスの背中からワイバーンを【識別】していた。
そこから、ワイバーンの性質、手綱の使い方、豚マスクのワイバーンの扱い方を頭に叩き込んでいた。
「今の俺なら……!」
ワイバーンの手綱をかなり強めに引っ張り、ワイバーンの主人であると自覚させる。
すると上手くいったのか、大人しくなった。
「うし! 成功!」
「成功じゃない!? 何してんだ!」
危ないじゃないかとアルスが並走。
「丁度良かった、先輩!」
そう言うとフェルトは持っている豚マスクの構成員を投げた。
「ちょっ! ――おわっ!?」
ズシッとのしかかったようだが、グリフォンはこれぐらいと鼻息を鳴らす。
「受け取りましたか、先輩?」
「危ないだろ!?」
「先輩はそれ連れて、撤退! 意味、わかりますよね?」
「!」
フェルト達はガルマの証言を証明する必要がある。
その証明に豚マスクの構成員ほど証明になるものがあるだろうか。
「……つまり、これを騎士達に見せて増援を求めろってことか?」
「はい! これならガルマの証言を信じてもらえますからね!」
「わかった!」
するとヘイヴンがすくっと立ち上がり、
「なるほど。それなら、僕も……」
「ちょっ! 君まで……!」
ヘイヴンもまたワイバーンに突っ込み、制圧した。
しかもフェルトよりもあっさり。
気絶させた豚マスク野郎を、風魔法であっさりジェイク先輩に渡す。
「……お前、嫌味か?」
「なんのことだい、フレンド?」
「俺よりあっさりワイバーン乗りこなしやがって! それに風魔法が使えるのはやっぱりズルい!」
「こればかりは仕方ないさ! でも僕のこの才能は全て! 愛しの蝶々ちゃん達のために……!」
「はいはい」
更に、
「よし! なら俺も……」
「お、おい!」
「「えっ?」」
フェルトとヘイヴンがやったことをユーザもし始めた。
「おりゃあ!」
「ひっ!? ――があっ!?」
豚マスクの制圧は不意打ちということもあり、成功するのだが、
「お、おわあっ!?」
「ギャア! ギャア!」
案の定というべきか、暴れているワイバーンを制御できていない。
「あの馬鹿……!」
フェルトは【識別】、ヘイヴンはおそらく嗜みとか言ってワイバーンを始めとする魔物に乗れるだろう。
だがユーザがそんな教育を受けていたとは考えにくい。
というか、あの様子を見ればわかりやすいことだった。
「おい! ユーザ! とりあえず手綱を思いっきり引け!」
「お、おお。それっ!」
グイッと力強く引くと、ワイバーンが少しずつ大人しくなっていく。
「ふう……危なっ!」
「できねえなら、やるな!」
「悪い、悪い」
そう言ってユーザが制圧した豚マスク野郎も明け渡される。
「ちょっと! アンタ達、無茶しすぎよ!」
「そうよ。死ぬつもり!?」
女性先輩方からは厳しいお叱りを受けた。
「すみません。でも、これで撤退理由ができたでしょ? 先輩方はコイツらを連れて早く本国へ」
「わかった。すまないが、ミントとキイリンは――」
「わかってる。あたし達はこの子達を送ってから、すぐに追いかけるわ」
「三人は先に行って!」
女性陣を置いていくのは不安が残るだろうが、さっきのお叱りがあった以上、ガルマもグエルもフェルト達みたいな無茶はできない。
というよりガルマはともかく、グエルに関してはできない気がする。
「……わかった。無事に帰って来いよ」
「勿論!」
そしてアルスはフェルトにも、
「お前達もな。後輩がいきなり死んだじゃ、寝覚めが悪いからな」
「そりゃ勿論。俺達だって死ぬつもりは毛頭ないんでご心配なく。可愛い後輩の帰りを待ってて下さいな」
「何が可愛い後輩だ!」
アルスからすれば、犯罪ギルドに突っ込む危なげしかない後輩。
そのツッコミは正しかったりする。
「とにかく! ちゃんと帰って来い! いいな?」
「はい。先輩」
そしてフェルト達はワイバーンの一陣がこちらへ向かってくる中、三人の先輩を見送った。
「それで? どう近付くつもり?」
「普通に近付きますよ」
「はあ?」
「ヘヴン。作戦通りいこう」
「オッケーさ。陽動組と救出組に分かれるんだね?」
フェルト達の目的はあくまで攫われたエメローラ姫殿下を含めた女子貴族嬢とそのメイド達の救出。
下手に組織と正面対決するつもりはない。
「ああ。陽動は言い出しっぺの俺がやる」
「いや、フェルト・リーウェン。これは俺の失態でもある。俺も――」
「馬鹿言ってんじゃねえよ、ガルマ! お前さんにはやることがあるだろ?」
「そ、それは……」
「俺の身を心配するつもりなら、とっとと姫殿下や妹助けてこい。そうすりゃ、余計な陽動はしねえよ」
「わ、わかった。恩に着るぞ」
とはいえ、ひとりで陽動は難しいので、
「悪いが、ユーザ。俺と陽動に付き合ってくれ」
「それは構わないけど、何でだ?」
「……お前、隠密行動できるか?」
ユーザは、その質問にポカンと一瞬固まったが、
「無理!」
と即決。
「よし。じゃあ俺とユーザで陽動するぞ」
「いや、カルケット君も自分の才覚を的確に理解していることは良いことだが、それを即座に認めるのもどうなんだい?」
グエルの言いたいこともわかるが、それはそれである。
「というわけだ、他の面々は救出頼むぜ。グエル、ちょっと魔法玉をくれ」
「あ、ああ。それは構わないが、何に使うつもりだ?」
グエルはそう言いながらも、複数個の魔法玉をくれた。
「どうって? ……こうすんだよ!」
フェルトは受け取った魔法玉を強く握ってから、ワイバーンの部隊目掛けて投げつけた。
すると――、
「「「「「――わああああーーっ!?」」」」」
大爆発が発生。
「お、おい! 魔法玉はそんな使い方をするもんじゃないぞ!」
魔法玉は術式を閉じ込めた簡易的魔法媒体。
魔力を適量注ぐことで、付与した魔法が発動するようになっているが、大量の魔力を注ぐことで爆弾みたいな使い方もできる。
ちなみに魔石でも同じことができる。
「まあまあ。陽動するからには、これくらい派手じゃないとな」
爆風で豚マスク共の視界が遮られている。
「で? フェルト、どうすんだ?」
「んなの決まってんだろ? 敵のワイバーンに乗ってて、陽動とくりゃあ、派手に突っ込んでやろうぜ!」
「「「「「えっ?」」」」」
「おおっ!」
「じゃあそっちの指揮は任せるぞ、ヘヴン! こっちはせいぜいド派手に陽動してやるからよぉ!」
「フレンド、一応そちらでも蝶々ちゃん達を見つけたら保護を頼むよ。あと転移石以外の脱出方法も一応、探しておいてくれ」
「わあってるよ! いくぜっ! ユーザぁ!!」
「おっしゃあ!! いくぜぇっ!!」
フェルト達はパシィンっと強く手綱を叩いて、ワイバーンを飛ばす。
爆風による煙が発生しているところを敢えて突っ込む。
ぶわっと羽ばたいた風圧で前方が見え、豚マスク達を横切っていく。
「おらぁ! 豚マスク共! ついてこねえと、船がぶっ壊れちまうぞ!」
ギュンと過ぎ去っていくフェルト達のあとを豚マスク達は「追え!」と叫びながら、追いかけてくるが、
「遅え!!」
時既に遅し。
フェルト達はワイバーンごと船に突っ込んだ――。
***
その光景を見ていたヘイヴン達。
「随分と派手にやったものだ」
「……あんた達の友達、勇敢なのか無謀なのか……」
呆れ果てるミントだが、その横でガルマは真剣に突っ込んだ先を見て、思い馳せている。
――フェルト・リーウェン。お前がくれたこのチャンス。必ずものにしてみせる! 信じてくれた報いをさせてくれ!
「いこう! ケルベルト。フェルト・リーウェン達が陽動している隙に、必ず助け出す!」
「……ああっ!」




