13 消えた貴族嬢3
「……フレンド。ヴォルノーチェ殿に同情する気持ちはわからないではないさ。だが、騎士達の見解が間違っているとは思えないし、ヴォルノーチェ殿の証言を信じるでも、玄関以外からの攫った方法が仮説ても立てられないと難しいのでは?」
「じゃあ先ず、騎士達の見解が外れてる理由から話すか」
「騎士達の見解が間違っていると?」
「そうだな。正直、挟み討ちや薬を盛った件などは当たっている気はする。寮内での出来事に関してはそれでもいいと思う。……だがよく考えてほしい。道中はどうするつもりだ?」
「道中?」
「要は攫った後の話だ。仮に十五人もの生徒を攫うつもりで計画を立てていたのなら、その十五人を収容する乗り物はどうするつもりなんだ?」
「「「「!」」」」
「……だってどこかしらに転移魔法陣が設置されていたなんて報告も出ていないんだろ?」
そのあたりの情報を収集しているであろうヘイヴンを見ると、「あ、ああ」と少し動揺して返事をした。
「そして勿論、馬車等の目撃情報もないんだろ? だったらどうやって犯人は十五人もの女子生徒を連れ去り、今尚逃走できてるんだ?」
騎士団長が今、追いかけているのは本当に連れ去られた女子生徒なのかと問う。
「そ、それはステルス魔法で隠してじゃないか?」
「残念、ユーザ君。確かにステルス魔法を使えば姿は消せる。それは馬車等にも施すことも可能だ。だがな、ステルス魔法には欠点もある」
「欠点?」
「マルコ神父に見せてもらったことがあるが、ステルス魔法ってのは、カメレオンみたいに景色と同化するようなかたちで発動する。つまりはその空間に歪みみたいなものが生じて、遠巻きからなら景色が同化して認識しづらくなるが、近くで見ると、ステルスの魔法の痕跡がわかる」
「え、えっとぉ……?」
尋ねたユーザが頭を抱えていると、フェルトの言いたいことが読めたヘイヴンが答えた。
「つまりフレンドは、連れ去る予定の馬車をこの王都で隠し続けることは困難であり、その目撃がないことに疑問を持ったと?」
「そゆこと!」
「なるほど。確かにいくら夜中とはいえ、ここは王都だ、人は歩いているだろうし、騎士だって巡回している。ステルス魔法の特性上、下手に隠せば逆に目立つ」
「それに十五人も収容するつもりなら、かなり大きな荷馬車になるはずだ。行商人の馬車を偽るにしても目立ち過ぎるな」
「だろだろ?」
ひとり頭の上にクエスチョンマークを浮かべたユーザを置き去りに、他の面々はフェルトの疑問に納得していく。
「そうなれば、勿論王都の外へ逃げることも難しいし、仮に外に出れたとしても、その報告が騎士達に上げられているはず。……夜中に出て行く馬車は目立つぞぉー」
「そうだな。夜は魔物も活発化するし、かなり不審だな」
「でもそれらの報告もなかった。違うか? ヘヴン」
「そ、そうだね。僕が調べた情報にはそんな情報はない」
「じゃあ、今騎士団長様が追っかけてるのは、何なんだろうなってお話にならないか?」
「「「「……」」」」
フェルトの話に現実味を帯びてきたのを理解したようだ。
全員の目の色が変わった。
「では仮に玄関から地上で攫われたわけではないとすれば、どう攫ったと?」
「それは――」
「わかった!」
答えようとしたフェルトを妨げるように、ユーザが答えようとする。
たまに的確に答えを出すから、聞いてみよう。
「きっと穴を掘ったんだ!」
「おっ!?」
思わずコケた。
「あ、穴かい……?」
「そうだよ! 盲点だった。地上がダメなら地下を進めばいい。女子寮の目立たないところに穴でも掘って、そこから出入りすれば――」
「ストップ! ストーップ! それなら騎士達がとっくに気付くだろうが!」
「いや、目立たないところに……」
「目立つわ! 人が通れるくらいの穴だぞ! 目立つわ!」
「そ、そっか……」
ちょっと妨げられたが、今度こそとフェルトは答える。
「こほん。奴隷商が攫った方法は――上空からだ」
「「「!?」」」
「ま、待ってくれ、リーウェン君! 上空からって、それこそ無茶苦茶だ!」
予想通りの反応。
みんな驚愕の表情をしている。
「そうでもないぜ。昨日の夜の天気はどうだった?」
「そりゃあ……今日みたいな厚い真っ黒な雲に覆われて……」
そうユーザに言われて、一同は天を見上げる。
「!? そ、そうか。ステルス魔法の歪みの作用が見えづらくなる。そう言いたいのかい? フレンド」
「ああ。窓から遠く覗く雲をいちいち人はジッと観察したりはしない。ふと横流しに見るもんじゃないか?」
「つまり意識して見ることがないから、宙に浮かんだ、おそらくは飛空艇か。それにステルスをかけていても認識されない」
「勿論、真上にあるため、ガルマ。お前も気付くことはない」
「!」
「お前は確か――この二階から下の殿下がいる部屋を見下ろすかたちで監視していたと言っていたな? とすれば意識が下にいっているお前が上を向くことはないし、飛空艇が上にあり落ちた影も、お前が覗くここは建物と建物の間、それによって生じた影と勘違いすることで気付くこともない」
「……!!」
環境を巧みに利用した上手い手だと話すと、フェルトは犯人グループの取った行動を語る。
「つまり犯人グループが取った行動はこうだ。先ず、飛空艇で攫う女子寮の上空に停留させ、三階窓から侵入し、女子生徒達を制圧。飛空艇から伸びた縄ばしごやら風魔法なんかで飛空艇に全員を回収したってところか」
「な、なるほど……」
「そしてガルマがそれに気付かなかった理由としては……、ヘヴン」
「な、なんだい?」
「三階窓には一部、痕跡が残ってたって言ってたな? それってさ、ガルマの視線の意識が向く、監視していた窓側の壁窓と玄関側の壁窓以外じゃなかったか?」
そう言われてヘイヴンは焦った様相で、口元に手を当て考える。
「た、確かに……! ヴォルノーチェ殿の意識の向かない窓にのみ痕跡があった……!」
「「「!?」」」
「とすれば、ガルマの証言は合ってることになる。ガルマは――『玄関での犯人を見かけておらず、攫われたことにも気付かなかった』というのは、筋が通るんじゃないか?」
犯人グループはおそらく上空から、下に意識の向いているガルマを目視したはずだ。
焦りはしただろうが、気付かれにくい場所から侵入すれば、気付かれないとは思った。
だがやはり焦燥感が拭い切れることはなく、完璧な計画を立てていた奴隷商側も焦り、その証拠に僅かに三階窓に痕跡を残してしまった、というあたりだろう。
「ではフレンド。今、騎士団長殿が追いかけているのはダミーというわけかい?」
「おそらくな。準備したのはおそらくガルマ、お前が目撃した使用人のメイドだ」
「なっ、なに!?」
「よく考えてみろよ。確かに貴族嬢の我儘という可能性も否定はできないが、それでもそんな夜中に買い出しに行かせるのはやはり不自然だ。だからその使用人が行なった行動は、玄関から出て行くことで、痕跡を垂れ流しにしたんだ」
「なるほど。ステルスの魔法を敢えて微弱なかたちで発動して歩けば、まるで微かに痕跡を残してしまった風に見せかけられ、それを目撃しているヴォルノーチェ殿は、普通に使用人の蝶々ちゃんが買い出しに行ったように見せかけられるということか……」
「ああ。だからその使用人達はおそらく、一部の生徒のお茶だろうな、薬を盛り、効果が出たことをその召喚魔を用意することで、侵入の合図としたんだ」
一部というのは、元々普通に眠っている生徒や断った生徒がいることを加味してだ。
潜入しているメイドは気が効くメイドを演じるために、おそらく気を回してお茶を用意したのだろう。
貴族嬢達も普段から世話してくれているメイドを疑うことはない。
「潜入していた使用人のふたりは、何気なく学園区の門を通り、痕跡を垂れ流しながら、外へと召喚魔を放ったんだ。召喚魔を放つくらいなら、王都の近くでもやれるだろうしな」
「王都の門兵には、貴族嬢の親御さんから秘密裏に荷物を受け取るためだとでも言えば、門兵は下手にその話はできないし、夜中であることにも説明がつくか……」
「ま、言い訳はそんなところだろうぜ」
「そしてしれっと寮内に戻った頃には、寮内は制圧。仲間達と合流し、三階から上空に浮かぶ飛空艇に戻ったというところか……!」
「ああ」
「で、でもリーウェン君。それは昨日がたまたま厚い雲のかかった夜だから良かったものの、雲の晴れた夜であれば、どうするつもりだったのだ」
フェルトは不思議なことを聞くなぁと、少し小馬鹿にする表情を浮かべる。
「そんなもん、日程をズラすだろ」
「なっ!?」
「飛空艇なんか所持する奴隷商だぞ? 色んなところに構成員を配置し、いつでも攫える用意はしていたはずだ。少なくとも、この学園区にはあるウワサが立った頃から目を付けていたはずだ」
「……そうか! 人喰いだね、フレンド!」
「ああ。人喰いのウワサが立ってから、学園区の寮生が激減したとなれば、奴隷商からすれば商品の仕入れ時。またとないチャンスに構成員を忍ばせていたと考えられる。そして使用人で潜入させておけば、そこでの普段の生活をしているだけで、貴族嬢達の日常的な動きを調べられるってわけ。自分達の都合の良い時に攫えるようにな!」
貴族のお嬢さん達は、実家で親やお付きのマナー講師から厳しく指導を受けて、規則正しい淑女として教育されたはず。
つまり不規則な行動はほとんど取らないと考えれば、ある程度攫う計画の目処は立つ。
「そして奴隷商側からすればラッキーな出来事が起きた」
「ラッキー?」
「ああ。姫殿下と交友関係にあるクレアの入寮だ」
「「「「!!」」」」
「これだけ計画的な奴隷商なら、そこを利用できると踏むはず。姫殿下を攫えば、大量の身代金を要求できるはずだ」
「でも狙って姫殿下を攫えるか?」
「だからラッキーって言ったろ? 姫殿下は今でこそ学生だが、卒業すれば公務に明け暮れるのとになるはず。だとすれば思春期の学生らしいことを友人としたいと望むのは自然じゃないか?」
「確かに……。姫殿下も自分のお立場をわかってはいるだろうが、やはり窮屈な面持ちでいたこともあるだろうから、そんな我儘を言いたくもなるか……」
「そして奴隷商は姫殿下を攫われたことによる騎士達の動向をある程度、操作できると目論み、今回の計画に至ったとすれば……?」
「……玄関の痕跡は偽装だったと判断できる……!」
「その通り……」
エメローラ姫殿下が攫われたとなれば、今、外で慌ただしく捜査を行なっている通りの現状が起きる。
しかも一晩にして一斉に攫われたという現状を突きつけられた騎士達は、すぐにでも追えば間に合うと考えて行動すると予想される。
そこで微かに消し忘れたように見える痕跡を見つければ、焦燥感に駆られた騎士達は、裏付けを後回しにし、その微かな痕跡を辿り、追いかける。
そうなれば、ガルマの証言など聞いている暇なんてないって話になるだろう。
「姫殿下を攫われた騎士達に冷静な判断は難しい。しかも奴隷商は運がいいことに、外で監視していたヴォルノーチェ殿の証言と失態により、更に判断能力が削がれる……」
早くエメローラ姫殿下を救わなければという、焦燥感という火に油を注ぐような話だろう。
「だな。おそらく騎士達はガルマの証言の裏をまだ調べようとは考えてないだろう。それどころか、調べようともしないかもな」
「そ、そんな……」
「つまり要約すると奴隷商は――人喰いのウワサが立った王都バルデルセンの学園区に網を張り、上質な貴族嬢を行動を吟味しながら調べ、都合の良い頃合いを見計らい、結界の薄い上空から姫殿下もろとも蝶々ちゃん達を攫い、わざと痕跡を残し、自分達の逃走率を上げた。そして運のいいことにヴォルノーチェ殿という起爆剤が投入され、騎士達は更に奴隷商の逃亡に貢献する判断をとるかたちとなった……」
「……!」
「そして騎士団長殿達が召喚魔を捕まえた頃には、クレアを含めた貴族嬢達は、まんまと奴隷にさせられ、助け出す頃には首に奴隷の紋を刻まれて、金で助け出すしかなくなるってわけだ。その頃には姫殿下も身代金要求の人質にされてもいるだろうな」
「そ、そんな……!」
フェルトが見た情報とヘイヴンがくれた情報、そしてガルマの証言を上手く当てはめた仮説はこんなかたちで語られた。
「な、なら! すぐにでもこの話を騎士達にしよう! 今からでも間に――」
「ダメだ」
「な、なんでだい!? リーウェン君の推理が正しければ、一刻の猶予も……」
「さっき言ったろ? 騎士達は冷静な判断ができない状態にある。ガルマの証言すら突っぱねたんだぞ? 今の証拠も無い仮説を語り聞かせたところで、学生の戯言程度に思われて、突っぱねられるだけだ」
「なっ!?」
そう。
フェルトの仮説はあくまで仮説。
フェルト自身は答えを見た上で言っているから、ある程度仮説の域は出ているんだが、証拠がないのも事実。
「騎士達の玄関の痕跡も仮説の域を出なくなったのも事実。お前達はどっちを信じる?」
フェルトがこんな仮説を語っているのは、話を聞かない騎士の説得するための話を用意したと告げるのではなく、目の前にいるヘイヴン達を説得し、共に救出する仲間を作ることにあった。
助けに行くにしても、飛空艇を所持する奴隷商相手に、ひとりで何とかできるとは思えない。
とはいえ、騎士達はアテにできない。
とすれば、ヘイヴン達を仲間に引き込む他なかった。
「俺はこれからガルマの証言と俺自身が立てた仮説の下、攫われた連中を救いに行くつもりだ。ヘヴン、お前はどうする?」
するとヘイヴンは、軽く鼻で笑った。
「当然、僕は行くさ! 騎士達の痕跡がダミーの可能性をフレンドが提示したんだ。それならばフレンドの仮説もひとつの可能性として見るべき。乗るよ」
「サンキュー」
「それに僕はキミを信用する根拠もあるからね」
そう言って左目でウインクして見せた。
『強欲の義眼』のことを言ってるんだろう。
「下手なこと言うなよ……」
「勿論さ!」
「それでお前ら――」
「行く!」
ユーザは予想通り、即答だった。
「俺は難しいことはわかんねえけど、フェルトの言ってることは合ってる気がする。何より、人様を攫って金儲けしようなんて連中を俺は許せねえ!」
「よし! グエルはどうする?」
「ぼ、僕かい?」
「ああ。正直、お前には来て欲しいところだ。この面々でまともな魔法を使えるのはお前しかいない。さっきの仮説が正しければ、奴隷商共は今尚、空を逃亡してやがる。他の説得できそうな魔法使いを探す時間はない」
フェルトとユーザは魔法はからっきしであり、ヘイヴンは使えるようだが、
「そうだね。残念だけど、僕も魔法は風魔法くらいで、あとは軽い治癒魔法が使える程度だ。純粋な魔法使いとは程遠い」
だということ。
となれば、敵の罠や位置情報を感知できる魔法が使える魔法使いは欲しい。
「だ、だが! 僕は攻撃魔法より補助魔法の方が得意なんだぞ!? 潜入の役になんて……」
「むしろそっちが必要だ。だから頼みたい。だが勿論、強制はしない。なんてったって相手は非合法の奴隷商だ、命の保証はない」
「……!」
フェルトは『大罪の神器』を回収することを決めてるから、命を賭ける場ってのに、身を投じる経験はしておくべきだし、何より放っておけない。
ヘイヴンに関しては言うまでもなく、女のためなら火の中、水の中だろう。
正直、ユーザも少しは躊躇って欲しかったが、根が真面目だからか、予想通りの即決。
今、グエルに言った命の保証という言葉を聞いても、動じることはない様子だ。
大したもんだとフェルトは、ユーザに感心する。
「た、確かに今、彼女達を救えるのは僕らだろう。だがしかし、危険性を考えるとやはり騎士達や王宮魔術師達に――」
ぶつぶつと考えを口ずさむグエルに、痺れを切らしたのか、
「だぁあーっ!!!! 助けに行くのか、行かないのか、どっちだあ!!」
ユーザが、ぐあーっと勢いよく答えを急かした。
「いっ! 行く! 行くよぉ!」
「おいおい、無理強いは――」
「いや、行く。た、確かに貴族の理不尽さには苛立つことはあるが、だからと言って違法的に奴隷にされるのを放っておくなんてことはできない」
グエルは少し怯えた様子ではあるが、その瞳には覚悟があることが伝わる。
漢らしい答えを出したってところだ。
「うしっ!」
フェルトはやつれた顔をしているガルマの方に振り向いた。
「お前はどうするよ?」
「お、俺は……」
「お前の証言に、筋の通った仮説を立ててやったぞ。お前は自分を信じてるからこそ、俺達に信じて欲しいと懇願したはずだ。どうだ?」
ガルマは少しばかり顔を伏せた。
おそらく考えをまとめているのだろう。
「……何故だ」
「あん?」
「俺は! お前に対し、嫉妬と嫌悪感しか持っていなかった! 姫殿下の前で辱められ、自分の弱さを知り、醜いまでに……そう思っていたのだぞ!」
「……」
「なのに何故だ! 何故……俺に手を差し伸べる……?」
ガルマにとってフェルトは確かにそんな存在なのだろう。
おそらく、自分なんて放っておいて、手柄を取ってくればいいとまで考えたんだろうな。
「悪いけど、俺はお前のことをそんなに気にしたことはない」
「……! 所詮、格下だと思っていたということか」
「は? ちげーよ。俺は俺。お前はお前だ。育ちも違えば、思うことだって違うだろ? つまり歩む人生だって違う。お前の目指しているところに俺は立ったかもしれないが、俺の目指したい先にはお前はそもそも関係なかっただけだ。だから気にすることもない」
「つまりフレンドは、あくまでヴォルノーチェ殿は一般的なクラスメートくらいにしか考えていなかったというわけかい?」
「まあな。こういう言い方をするとアレだが、人ってのは自分の人生に一生懸命で、割と周りを気にしないもんだろ? 俺はお前に対し、そもそも感情移入するほど何か持ってたわけじゃねえってことさ」
「……」
「だが今は違う」
「!」
「お前は理不尽にも騎士達から偏見で突っぱねられた見過ごせねークラスメートになった。そんな苦しんでるクラスメートを放っておくほど俺は薄情じゃねえぞ! お前とのいざこざだって、元を辿れば、忖度のできねえあのギルヴァートのせいだ! それに俺はお前がそんなことを思ってても気にしねえ」
「なに?」
「人を悪く思うのは、人として自然だろ?」
「!」
「自分がしてきた努力や研鑽を誰かに否定されるような事が起きれば、誰かのせいにしたくもなるし、怒りや嫉妬心を持ったりするさ。……俺だって、そんな汚い感情くらいちゃんと持ってる……」
マルコ神が死んだ時、自分を呪ったり、イミエルにも八つ当たりした。
憤りの無い感情に支配されたりもした。
人なんだから、そんなもの当たり前だ。
「だけどな、人ってのはそんな感情だけで、簡単に生きてるわけじゃねえ。色んな想いや感情があって生きてるはずだ。今、必要なのは俺を妬む感情か?」
「そ、それは……」
「今、必要なのは助けに行きたいという想いと、その勇気と覚悟だけだ! それ以外のもんはとりあえず置いてけ。後のことは後の自分達が何とかしてくれる」
「……!」
そう説得すると、ガルマは差し伸べたフェルトの手をがっしりと掴んだ。
覚悟が秘められた力強い手。
「……感謝する。フェルト・リーウェン……! 俺は俺自身を、そしてお前を信じる!」
「よしっ! だったらせいぜい汚名返上といこうぜ!」
「ああっ!」
するとヘイヴンが申し訳なさそうに、そっと手を上げる。
「盛り上がっているところ申し訳ないのだが、少しいいかい?」
「んだよ?」
「追いかけるのはいいが、どうするつもりだい?」
するとユーザがフンっと鼻を鳴らす。
「決まってんだろ? すぐに追いかけるのさ!」
「いや、僕が言いたいのはどうやって追いかけるかだよ?」
「だから、馬車とか使って……」
「フレンドの仮説が正しいとすれば、奴隷商は空の上なんだろ?」
「「……」」
ユーザとグエルがお互いの顔を見合わせている。
面白い構造だ。
「「――ああああああーーーーっ!!??」」
「そうだよ!! 攫った奴らは空なんだろ!?」
「ど、どどど、どうやって追いかけるつもりだい!? リーウェン君!!」
「いや、落ち着けって……」
「フレンドの言う通り、騎士達は僕達の話を聞かないだろう。そうなれば勿論、王都の騎乗士達は動かないだろう」
「ど、どどど、どうすれば……っ!!」
ヘイヴンはともかくとして、ユーザとグエルは何を焦ってるんだろうと疑問に思う。
「おい、この馬鹿野郎ども。お前らはいつも何見てんだ?」
「は? 何って何だよ」
「今朝だって見ただろ? カッコイイアレを……」
フェルトはいつも寮の近くの広場で見かけるアレについて、ふたりに問いかける。
「「アレ……?」」
「アレ」
「……目玉焼きとか?」
「それ、空の追跡に関係ねーだろ」
「「うーん……」」
時間も無いし、答えも出ないようなので、
「はあ。鷹みたいな顔をして四足歩行するアレは何だっけ?」
「「……。――ああああっ!!!! グリフォン!?」」
ようやく思い出したようだ。
確かに王宮の騎乗士には話が通らないかもしれないが、学生であるアルスなら、後輩のフェルト達の話を聞いてくれるはずだと考えた。
「わかったらとっとと寮に戻るぞ。俺達が今、一番やらなくちゃいけないことは、パイセンの説得からだ」




