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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
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12 消えた貴族嬢2

 

 昨日からの曇り空が、まるでガルマの心境をそのまま体現している中、フェルトは疑問を投げかける。


「まあ、ガルマの証言が通らない理由はわかるけどよ。姫殿下を攫われて信用を失えばな。でもそれだけで証言を蹴っ飛ばすかねぇ?」


「まだ理由はあるよ」


「どんな?」


「居眠りだ」


「は?」


 とんでもなく馬鹿げた理由にフェルト達はポカンとした。


「そ、そんな馬鹿みたいな理由で……いや、あるか?」


 この世界は現代世界(むこう)より圧倒的に娯楽が少ない。

 勿論、こっちの世界にも飲み歩く人や娼館などもあるが、ネットやテレビみたいなものはない。

 つまりは夜寝るのが早いんだ。


 フェルトも現代世界(むこう)にいた頃は、深夜三時くらいまで起きて、ゲームやったり、ネットサーフィンもしていた。

 だが、こちらでは、夜になれば真っ暗であり、夜起きてやることなんて、勉強くらいしかない。


「だ、だが彼は姫殿下の護衛の任に誇りを持って取り組んでいたはず……」


「!」


「彼が居眠りをしていたなんて決めつけは――」


「なるほど。それだからだ」


「は?」


 グエルのガルマを気遣うそのセリフに、騎士達が証言を蹴っ飛ばす理由に気付いた。


「人間、どんなに誇り高い仕事をしていようが、集中力ってのは、どんなに長くても二時間くらいが限度なんだと。つまりはその集中力の気が切れて、うっかり寝てしまったんじゃないかと判断されたんじゃないか?」


 多少強引なようにも思えるが、それなら説明もつく。


「そんな! 理不尽な……」


「だがそう判断されてしまった。団長殿から、ガルマ殿が明日の護衛に差し支えないように規則正しく就寝していることを聞いている」


「つまり徹夜で見張るのには無理があると判断されたわけだ」


「ああ、その通りさ」


 確かに急に生活バランスを崩されれば、まともな仕事をすることは難しいだろう。

 とはいえ、いくら失態を犯し、騎士達もエメローラ姫殿下を救出したいとはいえ、あまりに一方的に証言を取り下げられるのは、ユーザの言う通り、理不尽でもある。


「それでヴォルノーチェ殿の証言を通したいのなら、玄関からではなく、どこからどんな方法で攫ったのか、理屈の通る仮説でも立ててみなさいと言われたんだそうだ」


「なるほどな。確かに見てないって証言だけじゃ、玄関の痕跡は何か別の意図があったとは説明できないわな。それでそんな仮説も立てられるわけもなく、俯いてたわけだ」


「ああ……」


 正直、見てらんないなぁ。


 そう思うと、フェルトはしょうがないとため息を吐いた。


「なあ? お前の話、詳しく訊かせてくれよ」


「し、信じてくれるのか?」


「信じる信じないは話を訊いてからだ」


「……わかった」


 するとガルマはおもむろに立ち上がり、ついて来いとフェルト達をとある場所へ案内した。


 その場所は、この男子貴族寮の二階の一室。


「ここは……?」


「俺が姫殿下の見張りのために借りた部屋だ」


 内装が平民寮より豪華だということ以外は割と平凡な部屋、というより殺風景な部屋だ。

 どうやら空き部屋のようだ。


「先ず俺達は姫殿下のお願いの条件に、俺とエルマの監視があることを条件とし、エルマは姫殿下の側に。そして俺は、ここから監視することとしたのだ」


 そう言って窓からエメローラ姫殿下が居たであろう一階の部屋を見る。

 窓付近には長時間の監視のためか、椅子が側に設けられていた。


「なるほど。ここから見下ろすかたちで監視してたわけだ」


「ああ。そして頃合いを見計らい、お迎えに参上すれば、寮の中はもぬけのからだったというわけだ……」


 女子貴族寮とは隣接しており、この二階の一室からそこを見下ろすことは可能だ。


「なあ? 何でここなんだ? 一階の隣から監視すれば良かったんじゃねーの?」


「……カルケット君。その部屋には既に誰かの部屋になっていたら、その住人に迷惑だろ?」


「あ……」


 グエルの呆れた物言いでの指摘は当たっていたらしく、ガルマはこくりと頷き、仕方なくこの部屋を借りたと説明。


 そして見下ろしていて気付いた。


「あ……」


「どうしたんだい? フレンド」


「ほら。あそこ……」


 フェルトは窓から見える景色を指差す。

 そこには、慌ただしく動く騎士や魔術師達がいた。


「玄関だね」


「ああ、問題のな。あそこに痕跡があったんだってな?」


「そうだよ。僕が聞いた情報では魔力痕があったそうだ。おそらくはステルスかサイレントの魔法の痕跡ではないだろうかと聞いたよ」


 姿を消す魔法(ステルス)音を消す魔法(サイレント)か。

 人攫いするなら、むしろ必須の魔法の組み合わせだな。


「他に犯人のものらしき痕跡は?」


「三階の一部の窓に痕跡があったらしいが、こちらは微かにだ。だが何者かが侵入したのは確かなようだ」


「というと?」


「微かに靴跡があったそうだ。土の付着もあったらしい」


 確かに三階の窓に土の付着があるのは変だ。

 誰かしら侵入した者でもいないと、そんな痕跡は残らない。

 侵入したという分析は正しいだろう。


「他は無しか?」


「ああ。部屋内からは特にそんな痕跡はなかったそうだ」


「ってことは、争った形跡も無いのか?」


「いや、多少はあったようだよ。だが犯人グループに結びつくものはなかったそうだ」


「ふーん。それで? ガルマはここから監視してて、姫殿下の部屋からも異変はなく、ここから見える玄関からも誰も出入りしなかったと?」


「いや、出入りした人間ならいたぞ」


「いたのかよ!?」


「俺は犯人らしき人物や異変を見ていないと言っただけだ。……使用人であるメイドがふたりほど出掛けたのは見かけた。……二十二時過ぎだっただろうか……?」


「随分と遅いな。そんな時間に何しに行ったんだ?」


 メイド、しかも女性となるとその時間はあまり出歩くことはないだろう。

 それこそ人攫いに遭遇する可能性が高い。


 するとグエルがフンっと少し不機嫌そうに意見する。


「どうせ貴族嬢の我儘だろ」


「我儘?」


「ああ。夜食にアレが食べたいだの、飲みたいだの、そんな我儘に付き合わされたんじゃないか? そういう我儘に限って用意してなかったりするものじゃないか?」


 我儘を言われるのは予想できて、ある程度用意したは良かったものの、見事に的が外れるヤツ。


「そうかもな。実際、一時間ほどして帰って来たようだからな。その時間帯なら学園区の店はほとんど閉まっているし、商業区に行ったとしても、目当てのものが中々見つからなかったとすれば、それだけ時間がかかることもわかる……」


 ガルマはメイドが紙袋を持って帰ってきたことをあげて、そう語った。


「つまりその使用人が帰ってくるまでは何事もなかったってことになるな」


「犯行は少なくとも二十三時以降に行われた……」


「なあ、ガルマ。本当に何も異変はなかったのか?」


「ああ。カーテンが閉まっていたとはいえ、異変があれば気付くだろ」


「確かに……」


 これだけ隣接しているから、女子部屋にカーテンが閉められることは当然だが、カーテン越しでも奴隷商の襲撃に遭えば、多少なりとも異変は生じるものだろう。


「で、騎士達は玄関のそのステルスかサイレントの痕跡から犯人を追尾しており、ガルマはそれが的外れではないかと、自分の証言からそう言いたいわけだな?」


「ああ。俺は玄関でそんなものは目撃していない!」


 メイドの出入りを確認できたんだ、人攫いが玄関で出入りするようなことがあれば気付くだろう。


 ここでユーザが不思議そうに尋ねる。


「なあ? ステルスの魔法を使ってりゃあ、玄関の目撃なんてできないんじゃねえの?」


 ユーザは玄関での目撃がないと言ったガルマを弁明するその意見には、フェルト達全員が少し呆れる。


 この部屋からの景色を見ればわかるだろうと。


「なあ? 何でここから玄関はあそこだってわかるんだ?」


 フェルトは窓から指差し尋ねる。


「人の往来があるからだろ?」


「……他にもあるだろ?」


「他ぁ……?」


 ユーザは二階から玄関を見下ろすも、大きく首を捻って悩ませる。


「だってこっからは玄関を正面から見られないだろ? だから、えっと……」


「はあ。あそこの扉見える?」


「ん?」


 そう言ってフェルトが指差したのは、人の往来がある開き切った玄関の扉を指した。


「あっ!?」


「わかったか? つまりガルマが玄関の異常をあの扉が開けば感知できるんだよ。ステルスでいくら姿を消せても、扉は消せない。だから騎士達の見立て通り、玄関の痕跡が正しいのであれば、ガルマの証言は『玄関で不審な人物がいた』になるが、ガルマは『玄関で不審な人物は確認していない』って言ってる。それはあの玄関の扉が開いていなかったことを言ってる。つまり騎士達との見解とはズレてるよな?」


 貴族女子寮の玄関扉は外開きになっているため、証言と痕跡の食い違いが生まれた。


「た、確かに……。でもよ、ステルスって扉をすり抜けられるんじゃ……」


 また大きなため息が出る。


「あのな? ステルス魔法は姿を消すだけで透明人間になれるわけじゃないぞ」


「そ、そうなのか!?」


「そうさ。壁抜けの魔法は別にあるさ」


「じゃあ、それと並行して使えば……」


「十五人もの女子生徒にも同じようにかけつつ、抱えて逃げられるのか? それほどの魔法使いがそんなに用意できるか? 魔法使いがそんな体力あると思うか?」


 怒涛のグエルの質問攻めにたじたじのユーザ。


「まあまあ。とにかく壁抜けの魔法はないだろ。それをされてたら、扉に痕跡が残る」


「ああ。手慣れた人攫いなら、隠密行動は得意とするところ。サイレントは使われてなかったと考えていい」


 そしてヘイヴンは騎士達から得た推察を語る。


「騎士達は、玄関と三階窓から侵入。挟み討ちにするかたちで蝶々ちゃん達を制圧。玄関から脱出をしたという見解だ」


「なるほどな。手練れの人攫いなら、いくら護身術を身につけた女子生徒でも容易く制圧できそうだな」


「ああ。それに一部の蝶々ちゃん達には、薬も盛られていたそうだ」


「睡眠薬か?」


「おそらく」


「てことは内通者の可能性が……?」


「そこは調査中とのことさ」


 ヘイヴンがこう言うってことは、内通者がいない可能性もあるのかもしれない。

 でも、薬を盛るならメイドが一番変装しやすい。


「ちなみに訊くんだが、学園区の検問で怪しい人物を通ったりは?」


「なかったそうだよ。先程の使用人や先生がひとり通られたくらいだそうだ」


「ふーん」


 正直、そのメイドが怪しい気がするが、そこを問題として取り上げる前に、やはり地上以外で攫う方法がわからないと、ガルマの証言を立証できない。


 騎士達の見解は合ってると思う。

 いくら女子生徒とはいえ、魔法騎士総合学校という名がつくところの生徒だ、ある程度の武力行使はできる。

 だからこそ、睡眠薬を飲ませたり、挟み討ちの作戦を取ったのには説明がつく。


 だがガルマがやはり嘘を証言しているとは思えない。

 だとすると、騎士の見解が間違っていることになる。

 だがそれを立証することも叶わない。


「俺は本当に居眠りなんてしていない! ちゃんと殿下の部屋を監視し、その横から見える玄関に犯人らしき痕跡はなかった! だから騎士達の見解は間違っている! このままだと本当に……手遅れになってしまう」


「そうは言ってもね、ヴォルノーチェ殿。君の証言を立証したいのなら、せめて理屈の通った仮説でも立ててくれないと、説得力がないというものさ」


「……」


 堂々巡りだ。

 このままだと埒があかない。


 ――やるしかないか。

 マルコ神父(先生)ならきっと見捨てないはずだ。

 コイツの証言が嘘だとは思えない。


 そう思ったフェルトは、少し左目を見開く。


 ガルマはちゃんと相手を認められる人間であり、自分の役割もわかっている人間だ。

 エメローラもエルマも見捨てられないから、こうして訴えている。

 ならそれに応えてやるのが筋というものだろう。


 問題となるのは、【識別】を使った際の頭痛だ。

 使いこなせるようになってからは、情報がセーブできていたため、頭痛はなかった。


 だが今回の場合、この女子寮の建物を【識別】する場合、詳しいことを知るためには、多少力を強める必要がある。


 女子寮を通常通りの【識別】で使った場合、おそらく何が起きたのかの経歴は見られるはずだ。

 人間を【識別】した際に、軽い詳細が見られるように。

 だが何か起きた概要を詳しく覗く場合は、必ず頭痛が伴うはず。


【識別】を多少強く撃つ程度だから、過度なものにはならないだろうが、子供の頃、散々味わったせいか、割とトラウマな部分があるフェルトだが、


「……背に腹は変えられねえよな」


 ――【識別】


 フェルトは目の前にある女子貴族寮を【識別】した。

 そして昨晩何が起きたのか、この寮内だけではなく、辺りの情報も獲得することにした。


「――つっ!」


 フェルトの脳内に色んな映像(ヴィジョン)が流れ込んでくる。


「……!」


 答えを見たフェルトはほくそ笑む。


 なるほど、そういうことね。

 強欲の義眼(カンニング)さまさまってところか。


「どうしたんだい? フレンド」


「大丈夫か? 頭痛いのか?」


 頭を押さえたせいか、頭痛の心配をされた。


「あ、ああ。ちょっとな」


「体調が優れないなら、寮に戻るかい?」


「まあ寮には戻るつもりだが、体調不良で戻る気はねえ」


「なに?」


「ガルマ。お前の指摘通りだぜ。……このままだと本当に姫殿下もお前の妹も攫われた他の連中も全員、首に紋を刻まれて、男の欲望の吐口にされるだろうぜ」


「「「「!?」」」」


 犯人グループの犯行の仕方がわかった。

 追いかける方法もある。

 だがフェルトひとりだと絶対無理であることもわかった。


 だからフェルトがこれからしなくてはならないことは、騎士達の行動が的外れだという仮説と、ガルマの証言を立証する仮説を語り、協力してくれそうなヘイヴン達を説得することにある。


「――さあ。種明かしといこうぜ」

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