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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
33/177

10 消えた貴族嬢 囚われた女子生徒サイド1

 

「ん……」


 クレアは寝心地の悪さを感じたのか、目を覚ます。

 何やら地面が硬いような気がした。


 昨日は夜通しエメローラと語り合っていたクレア。

 もっとぐっすりかと思ったが、どうもそうでもないらしい。


「……あれ?」


 こんなに広かったっけと、意識が網羅(もうろう)としながらも、辺りをキョロキョロしていると、


「お目覚めになりましたか? クレア」


 こちらを気遣うような優しい口調のエメローラが声をかけてくれた。


「ああ、おはよう、ローラ」


「ええ。おはようございます」


「ところで……」


「はい……」


「ここはどこだろう?」


 エメローラの挨拶で意識がハッキリしたクレアは、ここが女子寮ではないことに気付く。


 少しばかり広いタコ部屋に数十人の女の子達がグループごとに身を寄せている。

 寮で見覚えのある貴族嬢達がエメローラの後ろで震えている。


「大丈夫ですよ」


 そう声をかけているが、どうも落ち着かないようで、不安な表情が和らぐことはない。


「ローラ。ひとつ言えるのは……」


「ええ。先ずここが女子寮ではないということと、()()がつけられており、女性がこれだけ集められているということを考慮した場合、もとめられる結論は……」


「奴隷商にでも捕まったかな?」


 付けられた手枷を見せてそうサラっと答えてみた。


「……意外と冷静ですね」


「まあ、慣れてますから……」


 自分達、貴族嬢はやはりこういう連中に狙われやすかったりする。

 クレアはとある事情もあり、幼少期を中心に特に頻繁だった。


「昨日のこと、覚えてます?」


「うーん、そうだねぇ。ローラとエルマさんとで談笑してて……エルマさんは?」


 そう尋ねるとエメローラは側で丸くなって寝ているエルマをクスッと微笑みながら撫でてみせた。


「まだ夢の中のようです」


「呑気だねぇ」


「あら? 貴女だってさっきまで可愛い寝顔を見せていましたよ」


「そっか。なら今度はボクがローラの可愛い寝顔でも堪能させてもらおうかな?」


 この緊迫した状況を少しでも朗らかになったところで、本題に入ろう。


「話を戻すけど、昨日は途中から急な眠気に襲われた気がするよ」


「ええ。わたくしもです。淹れていただいたお茶に薬でも入れられていたのでしょうか?」


「かもね。今回はお忍びで来てるから、毒見無しだったし。強いて言えばボクらだけど……」


 するとエメローラは少し不機嫌そうに頬を膨らませている。


「そんな意地の悪いこと、言わないで下さい」


「はは、ごめんよ」


 とはいえ、クレア達にお茶を運んでくれた使用人のメイドの姿もある。

 彼女達も囚われているところを見ると、彼女らの仕業ではないようだ。

 かなり怯えた様子もしている。


 そう意識して見ると、寮で見かけた全員がいるようだ。


「ローラ。もしかして……」


「ええ。わたくし達のみならず、どうやら女子寮にいた人間、全員を攫ったようです。……随分と大胆な仕事をなさるようです」


 エメローラの言う通り、確かに大胆な犯行だ。

 人がいるはずの女子寮を一気に攫ってしまえば、判明するのがかなり早くなるはず。

 しかもエメローラの護衛にガルマが男子寮の窓から監視もしていた状況。


 全員を攫うことを想定しているのであれば、そういう細やかな情報も欠かさないはず。

 こんなのすぐに騎士達に見つけてくれと言っていいと言っているようなもの。


「ところで……」


「はい?」


「先程から彼女は何をしているのかなぁ?」


 クレアが指差す方には、この部屋の出入り口。

 そこには、


「ここから出しなさい!!」


「お、おやめください! チェンナ様ぁ!」


「お黙りなさい! わたくしをこんな部屋に閉じ込めるだなんて、ふざけていますわぁ!!」


 ゲシゲシと扉を蹴り続けるチェンナとかいう、クレアと同じ辺境貴族嬢がいた。

 その顔には見覚えがあり、フェルトをイカサマ呼ばわりして、一声浴びせた女だった。


「……随分とご乱心だね」


「まあ、彼女はなんというか、気に食わないことがあれば素直に文句を言える人ですからね」


「……いや、それ。かなーり評価ズレてない?」


 彼女の場合、貴族だからこんな扱いはおかしいってだけの自分勝手な考えなだけだと思う。


「わざと言ってるんです。……一度はやめるよう、言ったのですが、また始めてしまいまして……。周りの迷惑は勿論ですが、下手に騒ぐと見張りに刺激を与えてしまいます」


「でしょうね」


 このエメローラの口ぶりだと、特に見張りが何か言ってくることはなかったようだ。


「ねえ、あの彼女、いつからあんな風にしてるの?」


 チェンナは扉を蹴破る勢いでガシガシと繰り返している。

 ガンガンと音も響き、その音からかなり厳重な扉みたいだけど、音は外にも響いているだろう。


「かれこれ二十分くらいでしょうか」


「よく体力持ってるね」


 半ばヤケクソみたいになってることから、気分がハイになっていて、体力の消耗を感じていないようだけど、それだけの時間を黙って見過ごしている見張りは危険な気がする。


「……なんれふかぁ〜」


「……お目覚めになりましたか?」


「はぁい」


 あれだけ騒がしくしているのにも関わらず、寝ぼけた様子でエルマは目覚める。


 クレアも人のことは言えない。


 するとニッコリと微笑むエメローラを見て、エルマはハッと意識を覚醒させた。


「し、失礼しました! で、殿下より遅く目覚めてしまい……」


「構いませんよ。おそらく、貴女の方が薬の効きが良かったのでしょう」


「はあ……」


 エルマはその言葉の意味がわからないと眉を顰めたが、辺りの様相が明らかに変わったことに気付くのに、時間はかからなかった。


「はあ!? こ、ここはどこですか!?」


「さあ? ひとつ言えるのは……」


 クレアは手枷のついた腕を見せた。


「ボク達は攫われたってことくらいかな?」


「え?」


 するとエルマも腕の違和感に気付いたようで、自分にもついていることを確認した。


「そ、そんな……」


 そして自分が守るべき姫殿下の腕をバッと素早く振り向いて確認すると、後悔の念が湧いてか、青ざめている。


「も、申し訳ありません!! わ、わた……私が付いて……い、いながら……」


 声を震わせながら跪くエルマに、エメローラは優しく声をかける。


「大丈夫ですよ。幸い、傷も身体の不調もありません。気にしないで下さい」


「し、しかし……!」


「ローラがいいって言ってるんだからいいさ。まあ、本人が大丈夫って言っても、向こうに帰ればさすがに責任は問われるだろうけど……」


「は、はい……」


 余計な一言だったかもしれない。

 実際、それだけ重要な任を与えられたという自覚を改めて欲しかった。

 この状況を少しでも乗り越えるには、少なくとも彼女の戦闘能力は不可欠。


 フェルトよりは実力が無くとも、クレア達よりはあるはずだ。


 すると扉を蹴り続けているチェンナ(彼女)とそれを止めているメイド以外の寮生達が集まってきた。


「で、殿下。わ、わたくし達は大丈夫ですよね?」


「……そうですね、大丈夫です。必ず助けは来てくれます」


 エメローラのその一声にワッと明るくなるが、現実問題、奴隷商に捕まった女が助かる確率は極めて低い。

 更に言えば、世間知らずのお嬢様方にこの困窮する状況を乗り切るほどの知略や精神力など論外。


 実際、チェンナが取っている行動がその証拠。

 立場が高い貴族だからどうとでもなると考えている。


 おそらく親から特別扱いをされ続けた結果だ。

 自分中心に世の中が動いているなどと考えている、非常に傲慢かつ危険な考え。


 今、エメローラの一声に明るくなった彼女達もチェンナほどではないとはいえ、少なからずその考えはあるはず。


 とはいえエメローラもこのことは理解できているはず。

 だけど国の王族(立場上)、国民である彼女達の不安を煽ることはできない。


 とはいえ状況も理解してほしいのだろう、少し困ったように眉を顰めている。


「そうです! 我が国の騎士達はとても優秀ですし、お兄様もすぐに異変を察知してくださいます! 助けを待ちましょう!」


 エルマこそ、エメローラの意思を汲んで欲しかったが仕方ない、悪役を買って出よう。


「確かにエルマさんの言う通り。我が国の騎士は優秀だ。騎士団長の娘さんが言われるなら間違いはないだろうね」


「クレアさん……! そうです! その通りです!」


「でもね、楽観視はして欲しくないな。特にエルマさん」


「へ?」


「騎士が助けてくれるという考えに縛られ、この状況の解決を考えないのは、少しばかり愚策ではないかな?」


「あっ……! ご、ごめんなさい」


 かなりわかりやすく落ち込んでしまった。

 フェルトを敵視してた時も大分わかりやすかった。

 感情の秘匿が難しい()なんだろう。


 騎士団長であるファルマを信じたい気持ちも、お兄さんであるガルマさんを信じたい気持ちもわかるが、そこは改めて欲しい。


「そんなに落ち込まないでほしい。状況をしっかり理解してほしいだけなんだ。実際、助かる確率は低いからね」


「「「「「!?」」」」」


 エメローラ以外の貴族嬢達も表情が変わった。

 だがこれでいい。

 希望が絶望に変わる瞬間が、本当に追い詰められた状況の時より余程マシだ。


「……詳しいお話を訊いても?」


 エメローラもそういう話がしたかったと、しっかり乗ってきた。


「わかったよ。先ず、ボクらはこういう状況の対処方法に慣れてはいない。緊迫した状況で、挙句これだ」


 ジャラっと手枷を見せる。

 それにクレアも幼い頃に捕まったことがあるとはいえ、助かった要因はやはり周りが優秀だっただけだった。

 クレア自身の解決能力は低い。

 だが状況の分析くらいなら、その経験から語れる。


「更に言えば、こちらの奴隷商もおそらく優秀だ。これだけの人達を攫ったにも関わらず、他の助けが来ていない」


「あっ……!」


 クレア達以外にも捕まっている者達がいる。

 この娘達も同じように攫われたのなら、同じように助けが来ることは考えたはず。


 でも、一目瞭然だが誰も助かった様子がない。


「ここがどこだかわからないけど、それだけ見つかりにくい場所にボクらは監禁されていることになる。如何に優秀な騎士達でも優秀な奴隷商達のアジトを見つけるのには難航すると考える方がいい」


「た、確かに……」


「それに彼らの優秀さは他にも証明できる」


 そう言ってクレアがチラリと見たのは、今は息が荒れているチェンナ。


「チェンナ、様?」


「ああ。普通捕まっている人間が抵抗すれば、多少なりとも強引に黙らせるものじゃないかな?」


「確かに……」


「でもそれがない」


「クレア。それが奴隷商達の危険度とどう結びつくのです?」


 さすがにエメローラもそこはわかっていないようだ。


「奴隷商なんて非合法組織の人間の性格なんて、偏見かもしれないが、荒い人間が多いもんじゃないか?」


「そうですね。社会から弾き出されたような方々だと想像できます」


「そんな人達があんな感じでわめき散らす奴隷候補に苛立ちを考えないことがおかしいと思わないかい?」


「!」


「そう、気付いた? ローラ。そうだよ。おかしいだろ? あの扉の前にはおそらく見張りが立っているはず。魔法がかかっている様子もないから、多少声は響くはず。だったら、見張りが苛立ってチェンナさんを見せしめにくらいしないかい?」


 クレアのその意見にみんなが納得するが、エメローラだけは少し呆れた顔をされた。


「……だから敢えて泳がせたのですか?」


「はは。状況の理解のためだよ。買って出てるみたいだし、いっかなぁって」


「……そういうところは少し改めるべきかと」


「善処するよ。……とにかく一番ボクらを黙らせる手段の見せしめをしないこと、彼女自身に苛立ちを覚えない見張り。これはかなり教育された組織と考えた方がいい」


 その意見に危機感を強めてくれたのか、先程の楽観的な考えは消えたようだ。

 とはいえ、少し脅かし過ぎたかもしれない。


 でも、クレアは言わなければならなかった。

 最悪も想定しておくべきだと。


「しかもボクらはまとめて攫われている。おそらくそこにいる彼女達もそうだろう」


 グループごとの固まりが出来ていることを見れば、それは想定できる。


「それだけ大胆な犯行をしているにも関わらず、今までこの方法で攫ってきたのなら、ボクらが助かる確率はやはり低いと考えるべきだ」


「そ、そんな……」


「教育がしっかり施された組織員、大胆な犯行にも関わらず、これだけの女の子を攫える技量、更には戦闘能力も高いだろう。だからこそ、楽観的な考えは度外視してほしい」


 するとひとりの寮生、クレアより年上の先輩が意見に称賛する。


「確かに貴女の考えは正しいわ。わたくし達、必ず助かるものとばかり……。そ、そうですよね。必ず助かるわけじゃありませんものね」


「とはいえ、殿下やエルマさんが言ったことも本当です。ボクらを今まで守ってきてくれた騎士達が奴隷商なんかに遅れを取るとも考えられません。ただ、ボクはもっと色んな状況を想定し、ボクらでも、確率は低くとも脱出する方法を考えてほしいと思ったんです」


 クレアの意見に少しばかり落ち込みはしたようだが、希望もあると促すと、先程のような楽観的な考えではなく、自分達でも考えようという意欲に駆られた瞳をしてくれた。


 クレアはこのタイミングでエメローラに目配せをした。

 するとエメローラは感謝しますと、眉を顰めて微笑んだ。


「彼女の仰る通り。この極めて危険な状況を楽観視することは勿論、希望に縋るだけの考えはよくありません。こんな状況だからこそ、わたくし達にできることを考えましょう」


「「「「「は、はい!!」」」」」


 するとエルマはエメローラに跪く。


「このエルマ、まったく情けない限りです。クレアさんにそう言ってもらわなければ気付きもしませんでした。護衛騎士……失格ですね」


 するとエメローラは微笑みながらエルマを諭すように頭を撫でた。


「人にはそれぞれできることが違うのですよ。わたくしが貴女のように剣を振って戦えないように、貴女には貴女にしかできないことがあります」


「殿下……」


「この中で一番の戦力は貴女です。万が一の時は頼りにしています」


「……! は、は!」


 エメローラの才能はやはり人の指揮を上げられるところ。

 とても頼もしいばかりだ。


「そうだとも。所詮ボクは知恵くらいしか出せるものがない。魔法も使えないしね」


「……はは。それは私も同じことですよ。クレアさん、目を覚まさせてくれてありがとうございます」


「どういたしまして」


 すると先程の寮生が困った顔をして尋ねてくる。


「あの……」


「どうされました?」


「か、彼女はどうします?」


 そう言って指差した先は、扉の前で怒鳴り散らすチェンナだった。


「――おーあーけーなーさぁああああい!!!!」


「ほんっとうに危険ですから、おやめ下さい、お嬢様ぁ!!!!」


 あのメイドには悪いけど、


「……見張りがどれだけ優秀なのか測る良い機会です。放っておきましょう」


「クレア。貴女、少し鬼畜が過ぎるのでは?」


 すると彼女がピタリと声を止めた。


「……? どうしたんだろう?」


 するとチェンナはニヤリと笑った。


「やっと来ましたわね」


 そう聞こえたので、耳を澄ませてみると、複数の足音が聞こえてくる。


「ちょっと! チェンナ(彼女)は何を考えてるんだい?」


「どうせ、自分の身分を話せば解放されるだなんて、更に楽観的な考えなのでしょう」


 エメローラの言う通りだろう。

 あのよくわからない自信満々の顔は正にそう言っているようなもの。


「エルマ! すぐに彼女を扉の前からこちらへ!」


「は、はい!」


 だがそんな指示も間に合うはずもなく、扉はバンっと開いた。


「きゃん!」


「さっきから、ぎゃあぎゃあやかましいなぁ!! おい!」


 扉を開けて出てきたのは、身長百八十もあるだろうか、大柄な女性が出てきた。

 だが軍服のような服装が良く似合う、スラっとした体型の褐色系の女性。


「ひっ!?」


 そしておそらく部下だろう。

 何やら顔を隠すように豚のマスクを付けた男女問わない集団も後ろに控えている。


 あのマスクを付けることを許容しているあたり、やはり教育を施された優秀な構成員だという説は濃厚なようだ。


 そして扉が急に開いたことに驚き、尻込みをついたチェンナをその大柄な女性は見下ろして尋ねる。


「てめぇか? さっきからカラスみたいにぎゃあぎゃあやかましい奴は?」


「カ、カカカ、カラスとは、し、失敬な……! わ、わ、わたくしを誰だと思って……」


 完全に気押されている。

 そんな簡単にビビるなら、逆らわなければいいのに。


「ああ? てめぇが誰かってぇ? 知ってるよ。チェンナ・バーチェナって田舎貴族の娘だろ?」


「なあ!?」


「「!?」」


 事前に情報を知っている?


 これはマズイのではと、エメローラも同じ考えなようで、目が合った。


「ま、てめぇみたいなのなんて、ごまんと居るからな。騒ぎ立てるだけのお馬鹿貴族」


「な、なんですって!!」


 プライドを貶されてか、簡単に挑発に乗るチェンナだが、


 ――パァン!!


「ひいっ!?」


 片手に持っていた鞭を地面に叩きつけると、チェンナはこれまた簡単に黙った。


 いや、だから。

 こんな簡単にビビるんだったら、反抗するなって。


「は? 何ビビってんだ? アタシは鞭で地面を叩いただけだぞ?」


 これで黙るってわかってるんだろう。

 わざと聞いてる。


「ははっ! まあいいさ。お前みたいな小物、むしろアタシ達からすれば、可愛く尻を振る鴨同然。せいぜい鳴いてな。雑魚が」


 さすがに反抗の意思は消えたようで、ブルブルと先程まで止めていたメイドにしがみついている。


「……貴女がこの奴隷商のリーダーですか?」


 情報は武器だからか、エメローラが先ず尋ねた。

 確かに彼女らの情報は聞き出しておきたい。


 するとその大柄な女性は、楽しげに話をしてくれる。


「ああ、そうさ。お目覚めかい、お姫様? 初めまして。アタシの名はアーディル、大商業ギルド……笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテインメント)の幹部のひとりで、人身売買を中心に活動している者さぁ!」


 ――笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテインメント)

 商業ギルドは確か、世界を回す宝船という冒険者ギルドだったと記憶しているけど……?


 クレアはそんな風に考え、小首を傾げていると、


「……!」


 それを聞いたエメローラの血相が変わっていた。


「それは本当ですか?」


「ははっ! その顔は知ってる顔だねぇ? さすがは王族様! アタシ達の噂も通っているようで何より」


「……ローラ。どういう人達なんだい?」


 クレアも初めて聞く組織名に困惑した表情で尋ねると、先程の先輩寮生が知っているようで語り始める。


「お、お父様から聞いたことがあります。た、確か、色んな貴族の方と繋がりがある、非合法商業ギルドだと。……お父様がお嘆きになっていました」


 貴族仲間がそんな組織と繋がりがあることを嘆いていたと悲しげに話す傍ら、それを楽しそうに笑うアーディル。


「ははははっ!! お堅いねぇ、お前さんのお父様は。他の貴族(カモ)みたいに金を落としてくれりゃあいいのにねぇ」


「……ふざけないで頂きたい。わたくしの国の貴族達があなた方のような非合法組織と繋がりがあるなど――」


「いるよ? お前さんの国にも常連がな!」


「!?」


「そんなに驚くなよ。そこの生真面目なお貴族様の方が珍しいさ。金を持て余してる欲望まみれのお貴族様がどれだけいると思ってる? でなけりゃあ、アタシ達が甘い汁を吸い続けるなんてできるかよ!」


 先輩寮生のお父様が嘆いていたとなると、確かにそういう貴族もいると言う話にはなる。


 それに美術品や高級料理など贅の限りを尽くした貴族が次に手を上げるなら、確かに人間というのもまかり通ってしまう。

 権力を暴力のように振るうことを躊躇なくできるのは、非合法的に貶められた奴隷。

 しかも貴族のお嬢様となると、悪趣味な貴族共にはどれだけの嗜虐心(しぎゃくしん)を煽ることか。


 普段できないような娘に暴力を奴隷という正当性を持って振るえるというのは、快楽となるだろう。


 そしてアーディルは、そんな悪趣味な貴族に目をつけ、金をむしり取っているのだろう。

 互いの利害が一致しているから、彼女は今までバレることもなかったのだろうが、


「……だとしたらおかしいお話ですよね? そんな常連がいるにも関わらず、今までバレていないだなんて……。しかも貴女、今名乗りましたわよね? しかもご丁寧に組織の名前まで……」


 エメローラのその意見には同意するが、どうやらアーディルには大した話でもないよう。

 常連の貴族達とは思った通り、利害が一致している影響を語り、


「はっ! 当たり前だろぉ? アタシ達は商業ギルドだ。顔と名前を売らずしてどう商売をしろと? 非合法でも名が知れ渡らないと、客がつかん」


「……なるほど」


 エメローラのその悔しそうな表情はわかる。


 アーディルの言っていることは、正に正論だろう。

 商人が顔と名を売り、信用を獲得するのは、商売の基本だろう。


 だがそれを非合法組織の人間が口にするのには、さすがに悔しさと驚きを隠せなかった。


「だからお姫様。是非お国に帰ったら広めてくれよな。よく鳴き、よく喚く、幼気(いたいけ)な娘御をお求めなら、是非! 笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテインメント)のアーディル様の元へご一報下さいってなぁ!! アッハハハハッ!!!!」


「……返す気などないくせに……!」


「返すさ。お姫様、アンタだけはな」


「! ど、どういうことです!?」


「どういうこともクソもあるかよ。アンタを攫ったのは想定外だったんだ。さすがにアタシ達も国に喧嘩を売るつもりはない。大人しく無傷で返してやるさ。ま、それなりの金額をお父様に積んではもらうがな!」


 この言葉からある程度分析できることがある。


 彼女達は元々計画的にクレア達を攫う計画を立てていたこと。

 そして、エメローラを攫うことを想定に入っていないにも関わらず攫ったということは、かなり迅速に行われた誘拐だったこと。


「そんなことを要求すれば、足が付きますよ」


「安心しな。付いてないから、アタシの首に奴隷紋が刻まれちゃねえんだろ? 上手くやるさ、いつも通りな」


 どうやらそれを報告に来ただけのようで、チェンナを黙らせるために来たようではないらしい。


 アーディルは高笑いしながら、この場を去ろうとする。


 するとエルマが何やら意を決したように、キッとアーディルを睨んだ。


「ちょっ!? エル――」


 止める間もなく、エルマはダッと距離を詰める。


「やああああっ!!」


 彼女は思いっきりアーディルの顔面目掛けて蹴りを入れるが、


「ああ?」


 ガシッとあっさり掴まれた。


「し、しま――」


「ざけてんじゃねえよぉ!!」


 そのまま地面に叩きつけられてしまった。


「エルマ!!」

「エルマさん!!」


「ぐっ……!」


 エルマは汚名返上も兼ねて、このボスを仕留められれば何とかなると考えたのだろうが、無理があった。


「随分と舐めてんなぁ、メスガキ風情が。そんな魔力も籠ってねぇ、蹴りが食らうかよ」


「くっ……」


 押さえられてしまっていて、身動きが取れていない。

 助けに行きたくても、返り討ちに遭うのが関の山。


「だがまあ、そうだよな。実力も半端なくせに王族の護衛騎士に紛いなりにも任命されてんだもんな。何とかしなくちゃとか考えたのか、あぁんっ!! 馬鹿にすんのも大概にしとけやあ!!」


 やはり情報は筒抜けだった。


 するとアーディルはそのままエルマを持ち上げると、部下の豚マスクに投げ渡す。


「おい。コイツの上だけ剥け」


「「は!」」


 すると豚マスクの男達が彼女の衣服を乱暴に引き千切っていく。


「なっ!? や、やめてぇ!!」


「何をするのです!? おやめなさい!!」


 これは……!


「何をするかってぇ? 決まってんだろ。見せしめに鞭打ちすんだよ」


 アーディルはこれもいつも通りだと、不敵な笑みをこちらへ向けた。

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