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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
32/177

09 消えた貴族嬢1

 

「休校?」


 ――入学より約一ヶ月ほどが過ぎた、五の月の頭ほど。

 それなりに人間関係が固まりつつあり、学校生活にも馴染みが出てきた今日この頃。

 急な休校が決まった。


 フェルトを含め、その張り紙を寮生達が見ている中、階段をドタドタと駆け降りる音が響く。


「ち、遅刻だ! 遅刻!」


 着崩れた制服で駆け出していこうとしたのはユーザだった。


「待て待て。そこの女子高生」


 そう呼びかけたら、キキっとブレーキでもかかったかのように止まった。


「お、おう。てか、遅刻するぞ、お前ら!」


「しないしない。ほら……」


 フェルトがその張り紙を指差す中、グエルがスルーされていたことにツッコむ。


「おい。女子コーセイとは何だ? コーセイはわからないが、女子はわかるぞ。カルケット君は女子じゃない」


 そんなことはわかっている。

 ただ、青春モノの学生のベタな王道台詞を聞いたので思わず言ってしまった。


「ああ、そんなこと気にしなくていいから」


「……リーウェン君は時折、変なことを言うな」


「はは」


 前世の記憶がありますからね。


「それより何だよこれ?」


 ユーザは張り紙を覗き込むように見ている。


「見た通りだ。休校だとよ」


「休校ってことは……休みか!? ちくしょおー! だったらもう少し寝てるんだったぜ」


「「おい」」


「しかし、何で休校なんだ? それに書いてあることも、ちょっと物々しいな」


 張り紙にはこう書いてあった。


 ――今日(こんにち)より三日の間、学園区内の学校全てを休校とする。


 生徒達は外出を控え、外出する場合は、出かける場所を伝え、二人以上で外出すること――。


 かなり過保護な内容だ。

 明らかに何かあった内容だが、


「人喰いの時もこんなんありました?」


 アルスは人喰いのウワサが立ってた時に、この寮にいたはず。

 その当時のことを尋ねたが、アルスは軽く横に首を振った。


「いや。人喰いはあくまでウワサの範囲だったからね。注意喚起はあったけど、ここまであからさまではなかったよ」


「ふーん」


 するとアルスはその原因について心当たりがあるよう。


「原因はおそらく()()だ」


「「「アレ?」」」


 アルスがクイっと小首を動かし、視線を向けた先には、窓から見える貴族寮があった。

 そしてその窓から見える貴族寮のあたりには、何やら慌ただしく動き回る騎士、衛兵、王宮魔術師の姿があった。


「……ありゃあー、明らかに何かありました的な動きですね」


「実はこの張り紙を貰ったのは俺なんだ」


「アルスパイセンが?」


 アルスはこの張り紙を貰った時のことを語ってくれた。


 朝の日課として行なっているグリフォンの手入れと軽く運動をしようとした時、ギルヴァートに声をかけられたそうだ。


『これを寮生の見えるところに貼っておいてくれ』


『はあ……』


 その張り紙の内容を確認し、尋ねたが、


『余計な詮索はするな』


 と一蹴されたそうだ。


「ま、あの先生らしいね」


「でもよ、先生がそう言って、貴族寮付近には騎士達が動いてるってことは、何かしらの事件が起きたってことだよな!?」


「……リーウェン君。何故楽しそうなんだ?」


「い、いやぁ。ちょっと野次馬根性が発揮されてな」


 人間刺激を欲しがるっていう、どうしようもない性分があるためか、その景色を見て好奇心に駆られた。


「でも気にはなるよな」


「一応、俺は確認してきたが……」


「パイセン、行ったんです?」


「ああ。だが、とてもじゃないが事態を確認できるような空気じゃなかったぞ」


 あれだけ慌ただしく動いている様子を平民寮(こちら)からも確認できるほどだ、かなりピリついた空気なんだろう。


「それでも原因は気になる! ちょっと様子見に行こうぜ!」


「さんせーい!」


「お、おい! リーウェン君、カルケット君。先生の指示通り、大人しくしてるんだ」


「「ええー」」


 ノリ悪いなぁ。


「まあ様子を見に行くくらいなら、いいんじゃないか。そんなに遠くないし、あれだけ騎士や王宮魔術師がいれば安全だろうしね」


 アルスは賛成派のようで、肯定意見をくれた。

 様子を先に見に行っただけはあるようだ。


「そうそう。それにちゃんと原因がわかった上でなら、この張り紙の意図もわかるってもんだろ?」


 この張り紙の書き方から察するに、ある程度の予想はつくが、気になるのも事実。

 何だか胸騒ぎもする。


 するとグエルは諦めたようなため息を吐いた。


「わかった。それで気が済むなら行こう。お目付役として僕も同行する」


「とか言って、お前も気になってたんだろ?」


「うっ!?」


 こうしてフェルト達は慌ただしい様子の貴族寮に向かう――。




 ――貴族寮に到着したフェルト達は少々唖然とする。


「ほえー……」


 確かにアルスの言う通り、かなり緊迫感のある空気が張り詰めていた。

 真剣というよりは、怖いに近い表情。


「ぼ、僕ら場違いじゃないか?」


「大丈夫。俺らのいるとこ、木の影だから」


 貴族寮の見えつつ、騎士達の仕事の邪魔にならぬよう、一本の木の下で様子を窺ってるため、問題はないだろう。

 ここから見るに、どうやら女子寮に何かあったようだ。


「それにしても……男子寮と女子寮が近いな」


 遠巻きから客観的に見てだが、数メートルくらいしか間がない。


「まあ色々あるんだろ? 僕達にはわからないお貴族様の事情が……」


 グエルは皮肉混じりにそう語ったが、確かにそれは知る余地もない話だ。


「おっ、アレは……?」


 フェルトがそう指差すと、ふたりもその方向を向いてくれた。

 そこには、複数の騎士が男子寮の生徒に事情を聞いている様子だった。

 しばらく見守っていると事情を聞き終えたのか、騎士達は女子寮へと戻っていく。


「……よし、行くか」


「行くってどこに?」


「決まってんだろ? 情報収集」


 フェルトは寮内に戻ろうとする貴族坊ちゃんをゴーサインで示した。


「いや、しかし……ってちょっと待ちたまえ!」


 グエルの制止も聞かず、フェルトはスタコラと貴族男子寮へ。

 勿論、騎士達にうろつかれているのをバレないようにこっそりと。


「おいッス」


 なのでフェルトは入り口の茂みからこんにちは。


「おわっ!? なんだい、君達は!?」


「どもッス」


「コラコラ、ふたりとも……」


 グエルだけは横からそろりと登場。

 声をかけられた貴族坊ちゃんは、いきなりの登場に面食らったようだが、フェルトを見るなりパッと表情が明るくなった。


「もしかして君、フェルト・リーウェン君かな?」


 フェルトの容姿は多少目立つし、そもそもオッドアイだ。

 ギルヴァートの授業のこともあり、時の人だったことを踏まえれば当然の反応だろうが、フェルトはこの貴族坊ちゃんに見覚えはない。


「そ、そうだけど……」


「いや、君みたいなのがいてくれると、貴族である僕らもしっかりしないとって思えてね」


 この反応は意外だ。

 大体は難癖をつけてくる奴ばっかりだったため、驚いている。


「どうしてそんなことを……?」


「あー……不思議かい? でも、僕らのようにちゃんと国のために尽くし、貴族として振舞おうとする人間もちゃんといるよ。そういう意味では君の喝は有り難かった」


「ガルマを打ちのめしたこと?」


「それによってガルマ君が叱咤してくれたことだよ」


 確かに激昂してたな。

 あんまり通用してたようには見えなかったが、


「僕のクラスにまでウワサが立ってね。ごめんね、下級貴族の連中らが馬鹿ばっかりで……」


 この坊ちゃんも中々言う。


「はは」


「それで僕に何か用かい?」


 そう尋ねられたのでフェルトは、キョロキョロと辺りに騎士や魔術師がいないかを確認し、耳打ちするように口元に手を添えて、小声で尋ねた。


女子寮(そこ)、何かあったの?」


「あ、ああ」


 すると坊ちゃんも同じ仕草で答えてくれる。


貴族嬢(みんな)が攫われたみたいなんだ……」


「「!?」」


 やっぱりな。

 そんなあたりだとは思ったが、本当に的中するとは。


「し、しかし! 学園区には検問があるし、何より結界だって……」


「そんなこと、言われなくたってわかってるって、グエル。でも現実問題、起きてるんだしな。どっかに不備があったのか。検問はステルス魔法とかで抜けられるだろうし、結界は貼ってあるってわかりゃあ対策もされるだろ」


「そ、そうか……」


 勿論、そうされないようになってただろうが、攫った側が上手(うわて)だったと見るべき。


「それで? 誰が攫われたんだ? 騎士達がこれだけ動いているとなると、結構重鎮の娘さんが攫われたのか?」


「いや、全員らしい」


「はあっ!? ぜ、全員!?」


 ひとりやふたりならいざ知らず、全員とは随分大胆な犯行だ。


「確か人喰いのウワサが立ってから、入寮者はだいぶ少なかったはずですけど……」


「パイセンがんなこと言ってたな」


「正確には使用人含めて十数人じゃないかな?」


 貴族の坊ちゃんは隣の寮ということもあり、ある程度人数を把握していたようだ。


「だとしてもそんなに一斉に、しかも一晩で攫っちまえんのかよ?」


「できてるからいねーんだろ? ユーザ」


「それで貴方達は昨日何かなかったのか、聞かれたんですよね?」


「うん、そうだよ」


 貴族の男子寮がこんなに近いとはいえ、女子寮の防犯もそれなりに高かったはず。

 防音性も高いんだろうし、それが裏目に出たんだろう。


 すると貴族坊ちゃんが、ちょっと困ったように眉を顰めながら、再びこそっと話してくる。


「あのさ、ちょっと君達にお願いがあるんだけど……」


「? 何?」


 面識が無いはずの貴族坊ちゃんから頼みというのは珍しい。


「ちょっと困ってることがあってね。君達なら解決してくれると思う……というか、励ましてあげてほしいんだけど……」


「は? はぁ……」


 励ますとは何のこっちゃとフェルト達三人は首を大きく傾げた。

 フェルト達平民は、お貴族様とお知り合いなんてほとんどいない。

 しかも、この貴族坊ちゃんとは初対面。

 この貴族坊ちゃんがフェルト達の交友関係を知っているとは思えない。


 とはいえ、かなり困った様子だったので、とりあえず寮にお邪魔し、その励ましてあげてほしい人物のところまで、案内してもらうことに。


「もしかしてケルベルトさんですかね」


「あー……女の子が攫われたから、ショックを受けたってか? あり得なくはないが、アイツは居住区通いだろ? ここにはいねーだろ」


 そうこう予想を立てながらも案内されて接触した人物は、


「……き、君は……」


「お前、何でここにいるんだ?」


 フェルト達三人が目にした人物はガルマだった。


「……あ? ああ、君達か。はは……」


 だがフェルト達が知るガルマには程遠く、意気消沈した状態で、何故か部屋の角っちょで(うずくま)っている。


「お前、大丈夫か? 目が死んでるぞ」


「死んでいる、か。はは……そうだな。俺のような無能は死人同然。は、ははは……」


 何だか酷く自暴自棄になっており、エメローラの護衛騎士として奮起していた面影がまるで無い。


「すまないけど、彼を何とかしてくれないかい?」


「マジで?」


「今朝からずっとこうなんだ」


 周りの他の貴族坊ちゃんも、クラスメートが来てくれたと安堵しながら、そそくさと立ち去っていく。


「お、おい!」


 こんな傷心しきってるガルマを何とかしろというのは、関係の浅いフェルト達にとっては無茶苦茶なことだ。


「と、とにかく頼んだよ。できれば連れて帰ってくれると助かる」


 確かにガルマはこの王都出身のはずだから、寮生ではないだろうが、押し付けるなと思った。


「逃げちまったな」


「それでリーウェン君。どうする?」


「どうするったってなぁ……」


 ガルマとは仲が良いわけではない。

 むしろ敵対心を持たれていたから、励まして連れて帰れと言われても、事情もわからないじゃあどうしようもない。


「とにかく、この放心状態のコイツから事情を訊くところから始めねえとな」


「――それなら僕が説明してあげようか?」


「「「おわあっ!?」」」


 フェルト達がガルマに気を取られているところに背後から、ヘイヴンに話しかけられた。


 フェルト達は思い思いに驚いた反応をしていると、不思議そうな顔をされた。


「おや? そんなに驚かなくたっていいだろ?」


「驚くわ! 背後から気配なく近寄って話しかけんじゃねえ!」


「そ、そうだぞ!」


「それはすまなかった。今度から気をつけるよ、フレンド」


「フ、フレンド?」


「ああ。僕らはそう呼び合う仲でね」


 ウインクで同意を求められても困る。


「で? 何でお前がここに……って訊くまでもないか」


「無論さ! 可憐な蝶々ちゃん達が攫われたと聞いてね。居ても立っても居られず、こうして参上した次第さ!」


「き、君のところにも外出制限の話は来てたんじゃないのですか?」


 すると尋ねたグエルに、ちっちっちと指を振る。


「蝶々ちゃん達のピンチにそんな些細なことなんか、関係ないのさ!」


「いや、でも……」


「無駄だ、グエル。この頭ん中天国野郎が、女のことになれば、聞く耳なんてもたねえよ」


「て、天国野郎……」


「それで? お前のことだ、もう大方の事情は聞いてきたんだろ? つか、人喰いの情報をくれるんじゃなかったのか!?」


 結局あの後、どこぞかのお嬢さんとお茶会があったのを忘れたと、はぐらかされてしまっている。


「おや? 僕は友達になってくれたら話すと言ったさ。僕らはあくまで知り合いの関係なんだろ?」


「ぐっ……」


 そう言ったのが自分なだけに、反論できない。


「だから話さなくても問題はないはずさ!」


「……本当に知ってんだろうな?」


「無論さ。僕は嘘なんてつかないよ」


 どうだか。

 蝶々と呼ぶ彼女達に口八丁じゃなかったのかよ。


「まあいいや。とにかくあの女子寮に起きてることは知ってんだな?」


「無論さ! 人数どころか名前まで知っているとも!」


 もうストーカーの領域じゃないかと思ったのは、フェルトだけではないだろう。


「名前まではいいや。どうせわかんねえし。とにかく何が起きてんのか、説明してくれよ」


 そう尋ねると、ガルマが蹲っているのを放置し、ヘイヴンに座るよう促されたので、フェルト達は高そうな柔らかいソワァの上に座った。


 そしてヘイヴンは隣の寮で何が起きたのか、詳しく話してくれた。


「昨夜深夜に何者かの手によって、十五名の女生徒並びに使用人が攫われたそうだ。騎士達の捜査によれば、おそらくはグループの犯行ではないかと」


「まあ十五人を一晩でとなると、そうなるだろうな。となると、気になるのは侵入経路だよな?」


「侵入経路についてだが、ほとんど不明だそうだが、犯人の痕跡はあったそうだよ」


「マジか」


「ああ。今、その気配を辿って騎士団長とその部下達が追跡に向かっているよ」


 気配ってことは、魔力痕か何かなのだろう。


「騎士団長ってアイツの父ちゃんか?」


 フェルトはそう言って親指でガルマを指すと、ヘイヴンは頷いてくれた。

 するとユーザとグエルは安堵の表情を浮かべた。


「なんだ。既に騎士団長が追いかけているなら、万事解決じゃないか」


「だな」


 ふたりは気軽に笑いあっているが、


「いや、事件の方は解決に向かってても、ガルマ(こっち)は何も解決してないだろ」


 フェルトは再びガルマを指すと、ははっとふたりは掠れた笑いを浮かべた。

 面倒臭いと思う気持ちはわかる。


「それで? ガルマの奴がこんなに落ち込んでんのは何でだよ? 知ってんだろ? ヘヴン」


 するとさっきまで簡単に喋っていたヘイヴンですら、言葉を濁すように表情も困惑したものに変わっていく。


「いや、まあ。少し考えればわかることさ」


 ガルマがここに来て落ち込んでいる理由。

 攫われた女の中に意中の奴、もしくは婚約者でも攫われた反応なのかもしれないが、真っ先に思いついたのは、


「もしかして姫様攫われた?」


 みんなある程度浮かんでたんだろう。

 ユーザのそのセリフに、ガルマの前()言っちゃダメだろとユーザ以外、複雑な表情を浮かべた。


「えっと……当たってんのか?」


 ユーザが訊いた手前、ヨイショでフェルトも乗っかった。

 これならヘイヴンも言いやすいはず。


「ああ。残念だけど当たりだ」


「…………マジか」


 するとヘイヴンはガルマにちらりと視線を向けた後、その経緯について説明した。


「何でも姫殿下は女子会なるものをしたかったそうで、クレア嬢とは交友の仲ですし、夜通し楽しみたかったそうで……」


「あー……なる」


 妙な胸騒ぎがしたのはそういうことか。


 つまりは王族として肩のこる立場だからこそ、友人が近くに住み始め、思春期が爆発し、普通の女の子としての時間が欲しかったところ、偶然かもしくは狙われたかわからないが、攫われたしまったらしい。


「それでアイツはそれにいち早く気付いたが、その時には既に遅く、騎士達に報告。こっ酷く叱られた挙句、処罰待ちに姫殿下を守れなかった罪悪感に襲われて、自暴自棄になっていると……」


「……姫殿下だけならね」


 残念そうにそう語るヘイヴンの言葉の意味を読み解く。


「……おい。まさか……」


「ああ。彼の妹、エルマ嬢も攫われている」


「おいおいおい、マジかよ……」


「彼の話によれば、エルマ嬢を側近の護衛とし、彼がこの寮から監視するということで、姫殿下の我儘(わがまま)を聞いたそうだ」


「なぁる」


 女子会を許可するための譲歩策としてはありの範疇(はんちゅう)だろう。

 だが、その護衛ごと攫われたではお話にならない。


「それを励ませと言われてもなぁ……」


「だ、だよな」


 ふたりもだいぶ困ってるが、フェルトもそんな奴の声の掛け方なんてわからなかった。


「と、とにかく。娘さん助けるためにパパである騎士団長が助けに向かってんだろ? なら無事は約束されたようなもの。そんな心配すんなって」


 そう言ってみるも、ガルマは部屋の角に座り、壁を無言で見つめるばかり。


「た、確かに処罰について不安に思うことはあるかもしれない。けれど、も、もっと前向きに考えてみないかい? これをきっかけに改める場所を見極めたという機会にするだとか……」


「お、お前、何も食ってないんじゃないか? お、俺、なんか貰ってこうか?」


「ほら! ヘヴンも何とか説得しろよ!」


 フェルト達が必死に励ましたところで、ガルマの中で落とし所が見つかるとは思ない。

 同じ貴族であるヘイヴンなら、事情も飲み込めるというもの。


「まあ、してはいけない失敗だけれども、人間、上手くいかないこともあるさ。君の父君が何とかしてくれている。そんなしょぼくれていたってしょうがないだろ?」


 するとガルマの様子が変わっていく。


「……やはりお前も信じてはくれないんだな」


 何のことを言っているのか、その言葉の意図がわかるのか、ヘイヴンは困った笑みを浮かべながら答えた。


「仕方ないだろ? 君の証言と犯人の痕跡が矛盾している。だとすれば、形に現れた向こうを信じる方が無難さ」


「何で信じてくれないんだ! 俺はエメローラ姫殿下をお守りすることを誇りと責任を持ってやっている。……確かに今回の件がある以上、信用してもらえないこともわかるが、それでも! 姫殿下の想いに応えるのも務めではないのか!?」


「ちょいちょい、待て。話が見えん。何の話をしてるんだ?」


 フェルトがわかるのは、ヘイヴンの言い分はガルマにとって不快だったということ。

 誇りを持って仕事をしていたことを否定されている発言だったのだろうが、ヘイヴンの言う通り、失敗だってあるだろう。


 すると(わら)にもすがる想いなのか、フェルト達に切実に訴えてくる。


「フェルト・リーウェン。俺は見ていないんだ」


「何が?」


「騎士達がいう犯人の痕跡がある玄関。そこから俺は犯人らしき人物が出入りしていることを確認していない!」


「!?」


 その証言が本当なら、


「つまりはアレか? お前の証言が合っていれば、今、お前のパパが追っかけてんのはダミーってことか?」


「そうだ! 俺は再三言っている! 信じてくれ! このままだと、エルマも姫殿下も……無事では済まない」


 どうしてガルマの意見が通らないのかはおおよそ検討はつく。

 失敗した人間の証言が信じられないのもあるが、姫殿下を助けるのに、ひとつの証言を立証しないというのも変な話だ。


 フェルトはそう言って、苦しそうに蹲るガルマを見下ろしていた。

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