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大罪の神器  作者: Teko
王都編 消えた貴族嬢達
30/177

07 王立バルデルセン魔法騎士総合学校3

 

「はあ……わかった。ではケルベルトはヴォルノーチェ妹とやり合ってもらうぞ」


「フッ……それはご辞退申し上げます」


「なに?」


「僕が可憐な蝶々であるヴォルノーチェ嬢に手を上げるなんて、考えただけで……」


 ヘイヴンはその場で悶えながらそう語っていると、貴族嬢からは羨望の眼差しで見られている。


 アレの何が良いのか理解できない。


「どこを見ている。フェルト・リーウェンだったか?」


 嫌でも目立つヘイヴンに目がいっていたのが気に食わないと、不快感を隠すことなく指摘してきたガルマ。


「ああ、悪かったよ。おい、そこの花畑」


「……? 僕のことかい?」


 名前が花畑でないことは事実なので、確認を取られるのは当然のこと。


「ちなみに訊くんだが、姫殿下の護衛騎士を断った理由は?」


「それかい? それは僕が全ての女の子達を守るために生まれたからさ!」


「……は?」


 てっきり自分の実力に見合わないからとか、そんな理由だと思っていた、いや、あながちそんな理由も飛んでくるかもーとは思っていたが、


「確かに姫殿下をお守りする栄誉ある立場は身に余る光栄。しかし! 僕には全世界の女の子達を守る義務がある!」


「あー……はいはい。もういいや、語らなくていいよ。もうよいてくれて構わないから……」


 聞いておいてアレだが見た目通り、キザでカッコつけで自分に酔うタイプなのだろう。


【識別】で見たが、悪い人間でないことは判断できた。

 あと、割と爵位も高い貴族の息子のようだ。


 貴族嬢達が黄色い歓声を上げていたのは、その美貌からなのか権力なのか、はたまた両方なのかは定かではないが、まあ花畑(ばか)なんだろう。


「可憐な蝶々達が安全に空を飛んでいられるようにするのが、僕ら男子の役目さ。僕はそれを担いたい。だから、ヴォルノーチェ嬢の美しい肌を傷つけるなんて、僕にはできない!」


「わかったっつってんだろ! とっとと失せろ!」


「そうだ! 妹が可愛いのは当たり前なんだから、とっとと失せろ!」


「……え?」


 何だかさっきまでの敵意が霞んでしまうような発言が横から飛んできた。


 そんな発言をしたガルマはハッと妹である彼女を見ると、少し赤面した様子で視線を合わせないでいる。


「お、お兄様ってば……」


「い、今のはつい……」


「フッ……ヴォルノーチェ殿。素晴らしい妹君だ」


「――貴様がさっさとどかずにいるからだろうが!」


 一体、何を観せられているんだろう。

 上級貴族の漫才を観せつけられている。

 どんな心境で見ればいいのだろうか。


 するとそのヘイヴン(ボケ担当)がフェルト達がこれからやり合うであろう場所から退いた。


「んんっ。 何やら余計な話が割って入ったが、これで邪魔は入らない。白黒つけようか?」


「そうだな。お前さんのシスコンぷりも確認できたところで、やり合うとしますか」


「貴様もいちいち茶化すな!」


 するとフェルト達ふたりに木剣が投げ渡される。


「それを使ってやるように。魔力等の配分は任せるが、相手を殺すなよ」


 魔力の浸透率によっては、木剣でも平気で人を殺せる。

 そういう意味では、異世界はかなり物騒だが、魔物達が跋扈(ばっこ)する世界なので、そこはやむを得ないだろう。


 それでいてこの男の実力だが――。


 ――【識別】


 ――ガルマ・ヴォルノーチェ。ヴォルノーチェ家の長男であり、双子のエルマ・ヴォルノーチェの兄。

 父、フェルマ・ヴォルノーチェより幼少より剣術指南の経験あり。風属性の魔法を得意とし、魔力量、平均以上。


【識別】を使い熟せるようになってからは、やはり便利だ。

 ハッキリ言って情報が多すぎるのも問題だ。

 ネットで正しい情報の判断ができないのと同じ現象が起きてしまう。


 だからこれくらいが無難なわけだが、【識別】の厄介なところは、魔力量などは目分量なところ。

 おそらく【鑑定】ならばある程度の数字も出るのだろう。


 だが実力が数字の上で成り立つだなんて、戦術が必要な現場ならともかく、少数の対人戦で机の上の空論を語るつもりは毛頭ない。


 やはり実力は木剣(もの)が語るというもの。


「それでは両者、互いの力を存分に発揮するよう、努めよ」


「はい!」

「おうよ!」


 フェルト達はギッと木剣を片手に構え、相手に集中するよう視線を向ける。


 辺りの視線のほとんどがガルマに向くが、ガルマ自身は一瞬だがエメローラに目線が動いた。


「姫殿下。どうかご覧下さい。貴女をお守りする力を!」


「おいおい。あんまりカッコイイこと言ってると、負けた時、死ぬほど恥ずかしくなるぞ」


「黙れ! 俺が貴様に負ける道理がない!」


 いい感じで盛り上がってきたところで、ギルヴァートの手が振り落ちる。


「――では、始めろ!」


 するとヒュッとガルマの姿が消えた。


 ――瞬動術か。


 フェルトはそう即座に判断すると、来るであろうその攻撃を迎え撃つ。

 キインっと木剣同士の打ち合いには聞こえるはずのない金属音が響く。

 魔力が込められた互いの木剣は鋼の強度と質まで上げられている。


 そしてガルマは斬りかかったあとなので、フェルトの背後に向かって悔しそうに睨む。


「まさか、この初撃を防ぐとは……!」


「はっ! そんなもんサービスみたいなもんだろ? 見切って下さいって言ってるようなもんだぜ。舐めんなよ」


「なるほど。ギルヴァート先生に高く評価されるだけはある。だが、これからだ!」


 するとガルマは再び姿を消した。


 馬鹿のひとつ覚えなのかと思ったが、


「!」


 背後からの殺気を感じた。

 即座に振り向き、その斬撃に対応すると、防がれたと判断したのか、姿を表すことなく、再び高速でフェルトの周りを移動し始めた。


「……なるほど」


 そして隙あらばと次々と斬撃を加えてくる。


 キィンキィンと激しく打ち合う音が響き続け、ギャラリーからはフェルトを中心に何かが動いている気配だけが映っていた。


 そんな中、ギャラリーの貴族達は歓声を上げる。


「凄まじいですな」

「ヴォルノーチェ家の実力に相応しい素早い剣撃」

「あの平民は呆然とし、木剣で防ぐだけで手一杯のようね。少しお可哀想ではなくて?」


 フェルトを侮蔑するような発言が飛んでいるが、そんなことは気にもならないが、ユーザ達はそうでもないようだ――。


 ***


「フェルトーっ! 頑張れ! やられてんじゃねえ!」


「しかし、ここまで一方的な展開になるとは……」


 するとエメローラはグエル達の隣に行き、話しかける。


「わたくしの騎士が申し訳ありませんね」


「えっ!? あ、いや、その……」


「まったくだぜ。ちょっとフェルトが褒められたくらいで――ふ、ふぐうっ!?」


「ば、馬鹿かお前は! 姫殿下の騎士を侮辱する言動など許されるか!」


 ユーザのおしゃべりな口を必死で塞ぐ姿に、思わずクスッと微笑む。


「いえ、構いませんよ。それもひとつの見解でしょう」


「お言葉ですが姫殿下。お兄様があの男より優れているとは思えません。見て下さい、あの一方的な展開を……」


 激しく動き回っては打ち込むガルマの姿を見てほしいとばかりに、目がランランしている。


 だがエメローラはギルヴァートの評価が誤ったものだとも思えない。


「どう見ます? ケルベルトさん」


 エメローラ姫殿下は戦闘に関しては素人同然。

 騎士候補にも上がったヘイヴンに尋ねる。


「そうですね。これはどう見ても……」


「そうでしょう! やはり――」


 ヘイヴンの答えを聞く前から、自信満々にムフッとドヤるエルマだが、


「フェルト・リーウェン君の方が優勢だね」


「「「「はあっ!?」」」」


「……どういうことです?」


 どこからどう見てもガルマが優勢にしか見えない光景に、一同が驚いた。


「な、何故です!? どう見てもお兄様が有利ではありませんか?」


「これだから素人目は……」


「ギ、ギルヴァート先生」


「確かにヴォルノーチェ兄が使っている技法は、瞬動術、クイック・ムーブ、縮地法など色んな呼ばれ方をする高速歩行術を起用している。これを習得するには、才能の有無もあるが、まあ並程度の努力では習得できん」


「ほえー。あの消えてんのは、高速で移動してるからなんだ……」


「それをあれだけ使い熟せるのだから、さすがだ……」


「は? 馬鹿か? あんなもの基本の応用でしかない。あんな戦術が通用するのは、頭の悪い魔物か並の実力者くらいだ」


 ギルヴァートの言葉に、ヘイヴン以外は驚愕。

 ガルマが取っている戦術はあくまで、基本をちょっと応用したものと語ると、先生らしくその理由も語ってくれた。


「あの高速歩行術はあくまで基本だ。世で英雄クラスの活躍をしている騎士や冒険者はあんな技法、できて当然。しかもあんなに乱発して使うことなんて愚の骨頂。先ず、距離を詰める以外の使い方をされない」


「で、でも錯乱させる作戦としては――」


「有効かもしれないが、リスキー過ぎる。先ずあの高速歩行術にはいくつかの欠点がある。ひとつ、真っ直ぐにしか進めないこと。ふたつ、あれだけの高速移動を行なうため、身体への負担が大きい」


 指を二本立ててそう語るギルヴァートに、どういう欠点なのかを補足でヘイヴンが語る。


「ひとつめの欠点は、真っ直ぐにしか進んでこないとわかれば、攻撃の起動は読みやすい。つまり、あれだけ錯乱させていても、おおよその攻撃の筋が見えてしまうということ。ふたつめはそんな読みやすい攻撃を行なっているにも関わらず、自身の負担が見合っていないという点。この高速歩行術は歩行とは言うが、実際は極小の小ジャンプと考えてくれればいい。地面を蹴って、スレスレを真っ直ぐ飛んでいるイメージ。ね?」


 ヘイヴンはエルマにウインクをすると、


「は、はい」


 ちょっと戸惑った様子で返事をする。


「あんたもできるのか?」


「できますよ。ただ、お兄様のように連続ではできませんが……」


「身体が慣れればできるようになるさぁ。何だったら、僕がレクチャーしてあげても……」


 スッとエルマの手を当たり前に取るヘイヴン。

 さらっと自分もできると語った。


「ケルベルトさん。続きを」


「失礼しました、姫殿下。……つまりは身体の使い方が特殊な影響もあり、連続使用は身体への負担が大きい。体力と魔力共に消費が激しいのです」


「なるほど。つまりガルマが今行なっているのは、所謂(いわゆる)捨て身の特攻……?」


「正確には姫殿下、彼はあの戦術での勝利に自信がついており、得意とする戦術となっているのではないですか?」


「……そうかも、しれませんね」


 護衛騎士を選ぶ際に選定戦というものがあった。

 同年代の貴族の候補達の中から、確かにガルマがこの戦術で戦い抜いたことを確認している。


「で、ですが……雷鳴も似たような戦い方を……」


「確かに彼女もヴォルノーチェ兄のように風魔法を得意とし、高速移動で敵を翻弄、倒していく戦術だが、速度が違い過ぎる」


「!」


「あの猪突猛進馬鹿女は、その才能がずば抜けていた。学生の頃からそのあたりは怪物だったからな。だがヴォルノーチェ兄のアレはあくまで、瞬動術で行える基本速度と変わりがない。アレでは比べるまでもない」


 雷鳴が元生徒ということもあり、ギルヴァートは悪態を交えてそう語った。


「はいはーい、ギルヴァート先生。なら、どうしてフェルトが有利なんて話になるんですか? 攻撃を読みやすいとはいえ、あれだけの攻撃と速度に対応するのは、やっぱり難しいんじゃないです?」


 フェルトはあくまで達人クラスではないと評価してのユーザの質問。


 確かに、いくら読みやすいとはいえ、撹乱しての攻撃。

 並程度はもちろん、もう少し上の実力者でもゴリ押しでいけるのではないかと考えたのだ。


「確かに、アレだけ動かれれば受ける側にもボロが出ることも否定はしない。事実、俺もすべてを正しく受け切ったわけではないしな」


 試験の時にされたことを踏まえてそう語ると、エルマは一瞬ほっとするが、


「だが、フェルト・リーウェンはその見切りがあまりにも優れている」


「!」


「まあ、自分を的にしやすいように、真ん中を陣取っていることも起因しているが、奴はヴォルノーチェ兄の攻撃に対する受け流しが上手すぎる」


「ええ。すべて見破られた上で、確実に対処されてますね。しかもヴォルノーチェ殿の体力に極力負担をかけるような捌き方をしている」


「どういうこと?」


「それはね、クレア嬢。元々ヴォルノーチェ殿の瞬動術の連続使用は体力的に負担があり、剣まで振っている。真剣でなく木剣とはいえ、蓄積する負担は増すばかり。それに対し、フェルト・リーウェン君はあまり動くことなく、彼の剣撃を受け流すように戦っている。防御して受ければ、体力も削られるだろうが、受け流しならば、かかる負担はヴォルノーチェ殿の方が大きい。何せフェルト・リーウェン君は攻撃を逸らしているだけだからね。よく見てみなよ」


 そう指を刺された先のフェルトの動きは、まるで何かを木剣の上で滑らせるような動きをしていた。


「あっ……」


「ね?」


 全てがそうではないが、確実にダメージが減らない動きをしていると、一同は驚く。


「ほえー。ボク、言われて見ないと気付かなかったよ」


「だがあんな芸当ができる奴もそうそういない。あれは攻撃を確実に読み切っていなければ、あそこまで完璧な受け流しはできない」


「つまりは貴方が認めるほどの実力というわけですか……」


「ええ。殿下」


「で、ですがフェルト・リーウェンはあれだけ動くお兄様に攻撃を加えることも不可能なのでは?」


「いいや。さっき話しただろ? お前の兄は極限まで体力を削ぎ落とされている。ボロが出るのも時間の問題だ。実際、最初の頃は見えなかったガルマ(やつ)の姿も朧げだが、見えてきているだろう」


「!?」


 フェルトの周りには確かに先程までの見えない残影が飛んでいるのではなく、確実にガルマが飛んでいると見えた。


「……なるほど。限界は近いということですか」


「ええ。もうケリがつくでしょう」


 ***


 ガルマは焦っていた。


 ――くっ……! 何故だ! 何故、俺の攻撃が全て見透かされている!? 目が慣れてしまったか? それならば最初のうちの方が攻撃が通っているはず。だが、コイツは最初からまともに攻撃を受けていない! 完全に受け切られている! 何故だ!? 何故だ!?


 フェルトは残影の中から歯をくいしばるガルマを確認しながら、攻撃を受け続ける。


 フェルトは、そういえばディーノもこんな戦い方をすればいいんじゃね? みたいなことを言ってたのを思い出す――。


『なあ! この瞬動術で動き回って翻弄すれば、相手の攻撃は受けないし、こっちの攻撃はめちゃくちゃ通るし、完璧じゃね?』


『完璧じゃねえ!』


『あだぁ!?』


 フェルトはおもいくそチョップをかます。


『な、何でだよぉ?』


 どうやら欠点がわかってないようなので、身体でわからせることにしようと考えた。


『じゃあ、ディーノ。俺に向かって瞬動術を使って攻撃してきてみな』


『お、おう。わかった』


 ディーノはある一定の距離を取ると、ヒュッと姿を消し、フェルトはそのタイミングを見切り、少し横に逸れてその突っ込んでくるであろう車線上にグッと力を込めて腕を伸ばす。


 すると、


『――ごふうっ!!』


 フェルトの腕はディーノの腹にダイレクトアタック。

 あまりの腹痛にディーノはそのまま倒れ込む。


『どうだ? 俺の必殺、棒立ち勝手に渾身のラリアット攻撃(アタック)の威力は?』


 フェルトはちょっと横に逸れて身体が持っていかれないように腕に力を込めて伸ばしていただけ。

 俗に言う、左手は添えるだけ作戦。


『……』


 ディーノに返事はないが、めちゃくちゃお腹が痛いらしく、ふるふる震えている。


『瞬動術の弱点、わかったか?』


『……』


 ディーノは丸まりながらも、首を縦に振って答えた。

 かくいうフェルトもさすがに少し腕が痛いのだが、お互いに回復したところで、ディーノの考えが浅はかだったことを説明する。


『瞬動術は直線上にしか進めない欠点があるから、さっきみたいなカウンターを食らうことなんて、ざらにあるぞ』


『つ、つまり俺のしようとした戦術って……』


『そうだな。知能の低い魔物か格下くらいにしか通用しないだろう』


『そ、そっか……』


『それに瞬動術も万能じゃない。人喰いに殺されたおじさん達の中には瞬動術が使える人もいただろ? それでもほぼ全滅してる。お前の言う通りなら、おじさん達は生きてるはずだろ?』


『そ、そっか……』


 人喰いである彼女自身は瞬動術は使っていなかった。

 だが、あれだけの元冒険者やディラン達を相手にできたのは、他の要因にある。


 その要因で、高速歩行術という優位な戦いを行える技法を持っていたとしても、攻め手がしっかりしていなければ、お話にならない。


 おじさん達の死はそれも象徴としていた。


『じゃあこれ、習得しても意味なかったのか〜!』


『いや、瞬動術はあくまで高速歩行術の基本だ。これができなきゃ、そもそも次のステージに立てない』


『でも通用しないんだろ?』


『バーカ。要するには使いようだろ?』


『使いよう?』


『そ。この瞬動術の飛距離をコントロールしたり、使う用途を臨機応変できれば、十分組み込むことが可能だろ?』


『なるほどな』


『それに俺達は習得したばかりだぜ? これからこれから』




 ――そう言って、ディーノと特訓したっけかなと考えながら、ガルマの攻撃を捌いていく。


『強欲の義眼』を使っての見切り能力は、完全に癖づいてしまっている。

 慣れというのは本当に恐ろしいもので、ガルマの周りの風の流れ、筋力の動き方、目の動きなど、様々なところを瞬時に情報として得る癖がついてしまっている。


 神器持ちとやり合う日が少し不安になったりするが、そこは依存しないように頑張っていこうと考える。


「くそぉーっ!!」


 痺れを切らしたのか、消耗して姿が若干見えてしまっている状態の瞬動術、もはや瞬動術になっていない高速歩行でこちらへ無防備に突っ込んできた。


 ――ここかな?


 フェルトは簡単にその思いっきり振ってきた木剣を躱すと、ガラ空きの腹目掛けて、木剣を振る。


「――があっ!」


 メキッという音と共に、魔力を若干込めた木剣でガルマが吹き飛ぶ。


「――ああああっ!!」


 ガルマは地面を数回転がり、そのまま地面に倒れた。


「お、お兄様ぁ!!」


 そのエルマの悲痛の叫びが木霊し、周りも予想外の展開にシンと静まり返る。


「ぐっ……ううっ……」


 誰もがエメローラのお付きとなった学生騎士が勝つものとばかり思っていた空気からの光景。


「うわぁー……思いっきりいいの、入れちゃったなぁ……」


 綺麗にガルマの腹を木剣で殴り、まるでホームランでも打ったかと思うくらいに気持ちいいのが入ってしまった。


「これが実力の差だな」


 何やらギルヴァートがエメローラと話している。


「見てみろ。攻めていたはずのヴォルノーチェ兄が疲労困憊な挙句、カウンターが決まってしまいダウン。対するフェルト・リーウェンは汗ひとつ流さず、余力を残した状態だ」


「一目瞭然ですわね」


 蓋を開ければこんなものだとギルヴァートは呆れてそう語った。

 そもそも勝負にならないのだと。


 すると、貴族達からヤジが飛ぶ。


「イカサマよ!」


「は?」


「そ、そうだ! ヴォルノーチェの彼がお前みたいな平民に負けるわけがない!」


「はあ〜〜」


 フェルトは思わず、大きなため息が出た。


 このクラスの貴族達は馬鹿と間抜けしかいないのだろうか。

 ギルヴァートの言う通り、姫殿下(エメローラ)とのパイプに期待している阿呆しかいないのだろうか。


 そう思わせるほどのヤジが飛んでくるが、正直、反論したところで面倒臭いし、こういう馬鹿は言っても聞かないだろう。


 それにはさすがにギルヴァートも隣のエメローラも呆れる始末。


 どう収束させようかと考えていた時、


「――貴様ら、黙らないかぁ!!」


「「「「「!?」」」」」


 ガルマが激昂する。


 ヨロっと何とか立ち上がりながら、そう叫んだのだ。


「お、おいおい。無理すんな――」


「敵が情けをかけてんじゃない!!」


 フェルトはガルマの身を案じたのだが、否定された。


 するとそのガルマはキッとヤジを飛ばしていた貴族(あほ)共を睨む。


「三流の下級貴族の分際で、戦いもしないで何がわかるのだ!」


「な、何故そんな怒るのです? わ、わたくし達は不正を暴こうと――」


「アイツは不正などしていないわ!! 俺の……俺の動きを完全に見切って捌いただけのこと……!」


 フェルトを庇うようにそう口にした。


 本来なら口が裂けても言いたくなかっただろう。

 自分がフェルトより劣っていると認めることになるから。


 だがこのままイカサマ呼ばわりも許せなかったのもあったのではないかと気付く。


 それはそれとしてイカサマに屈した貴族ということになる。

 それは姫殿下の護衛騎士として、恥ずべきことだろう。


「根拠のない馬鹿な発言は慎め! この馬鹿共が!」


 フェルトはガルマの評価を改めねばならない。


 エメローラの護衛騎士として、平民如きに負けられないということからだと思っていたからだ。


 正直、それも少しはあるかもしれないが、この男はしっかりと他人も評価できる人間なのだと気付く。


 だが周りの貴族達はそんなことにまったく気付くことなく、


「何だよ。お前のために言ってやったのに……」

「あの平民が不正したに決まってますの」


 など、自分の誤ちすら気付かないようだ。


 それを無駄だと悟ったガルマもこちらへ向き直し、木剣を構える。


「おいおい。まだやる気か?」


「当然だ。まだ……負けてない」


 そうは言っているが、息は荒く、身体もよろついている。

 お腹のダメージがまだ残っているのだろう。


「お前の実力は認める、お前は強い。だがな、それでも引けないんだよ。俺は姫殿下の護衛に選ばれた者として、無様な戦いをするわけにはいかない。たとえ泥臭く立ち向かおうとも、勝利のために、姫殿下のために剣が振るえなくて、何が騎士かぁ!!」


 随分と重い責任を背負ってんだなと、感心する。

 ガルマにも自分と同じ、貫きたい信念があるんだなと、思わず口元が緩んだ。


「オッケー、了解だ」


 ならば自分のすることはコイツの覚悟に応えてやるだけだと、木剣を構える。


「なら、今度は俺が攻めるぞ。せいぜい足掻いてみな!」


 そう言うとフェルトは瞬時にガルマの前に現れる。


「!?」


「俺が瞬動術を使えないとでも?」


 フェルトはガルマの手前まで瞬動術で移動し、木剣で殴りかかる。


「くっ……!」


 ガルマは咄嗟にガードし、受け止めた。

 まあ直線上に移動したわけだから、防がれるのは想定内。


 フェルトはそのまま木剣に力を込め、受け止めているガルマを踏み台、腕の力でガルマの頭上を飛び、くるっと回転。


「なっ!?」


 そのままガルマの右肩をかかと落とし。


「そぉら……」


「――ぐあっ!?」


 更にそれによりよろけたガルマの顔面がガラ空きだったので、かかと落としをした足でガルマを踏み、もう片方の足で蹴りを入れた。


「よっと!」


「――ぐうっ!?」


「「「「「!?」」」」」


 ギャラリーが唖然とする中、再びガルマは地面を滑る。


 そしてフェルトはその滑っているガルマに追いつくよう、素早く地面に着地すると、再び瞬動術。


「!?」


 滑って勢いが少しずつ落ちていくガルマだったが、すぐ横にいるフェルトに気づいた。


「瞬動術ってのはな、こう使うんだよ!」


 フェルトは自身の蹴りで吹き飛んで無防備なガルマに木剣の斬撃。

 気付いていたガルマは咄嗟にガードするも、


「――ぐああああっ!!!!」


 渾身の一撃により、更に吹き飛ばされ、広場の木に激突。


「……っ!?」


 そのままぐったりと倒れ込んだ。


「ふう。ま、ザッとこんなもんでしょ」


「お、お兄様ぁ〜!!」


 ガルマに駆け寄るエルマ。

 何度も呼びかけるエルマだが、完全に戦意を喪失している様子のガルマが返事をすることはなく、


「ここまでだな。勝者フェルト・リーウェン」


「「「「「――うおおおおっ!!!!」」」」」


 勝者コールの後、同じ平民のクラスメートから喝采を受けた。


「凄え! 勝ったぞ!」

「凄い! 凄いわ!」


 語彙力がないのか、凄いばっかり聞こえてくる。


「はは。これで良かったんですよ――」


 ヒュッとナイフがフェルト目掛けて飛んでくる。


「ねっ!?」


 フェルトは咄嗟に躱すと、後ろの木にスコンと刺さった。

 そして、その飛んできた先を見ると、何故か激おこのギルヴァートがいた。


「ちょっ!? 危ないでしょうが!」


「大丈夫だ。貴様なら躱せるだろう?」


「いや、そうだけどさ。何でナイフなんか――」


「俺はお前になんと言った? 互いの力を発揮せよと言ったはずだ。何故最初から本気を出さず、あんな防御に徹した!?」


「え? あ、いやぁ、ほら、敵の能力の把握は必要かと……」


「確かにそうだが、これは力量を測るためのもの。お前ならばあんな奴、五秒で片付けられただろう」


「買い被り過ぎ!」


「それにだ。実戦にしたところで、あれは愚策だ。ガルマのような脳筋な戦いをする連中ばかりではない。戦場で同じようなことをすれば、死ぬのは貴様だぞ!」


 要するにこの人、本番は練習のように。練習は本番のようにしろタイプね。


「す、すみませんでした」


「いいか? 今後あんな戦い方はするな。情けは人を傷つけるぞ」


「すみませんでした」


 確かに今回の戦いはガルマの実力を完全にねじ伏せる戦いになっていたのも事実。

 反省すべき点はあるってところを猛省した。


「そしてヴォルノーチェ兄」


「は、はい」


 ガルマとは呼ばないのね。


「お前のプライドもわかるが、上には上がいるということだ。それは常にお前よりも実戦経験のある目上の人間だけではない。……痛感したはずだ」


「はい……!」


 ギリっと歯軋りを立てながら睨まれた。


「お、おう」


「実際、見事なものだ。フェルト・リーウェンは()()()()()()()()にも関わらず、あれだけの見切り能力。死角からの攻撃の対処も完璧だった。評価に値するのは当然だろう」


「「!?」」


 フェルトはそのギルヴァートの発言に驚いた。


 フェルトが義眼であることはオッドアイでわかるけれど、この義眼が特殊な物だとわかってないから、片目しか見えてないって思われたようだ。


 するとガルマは先程の表情とは一転、信じられなさそうな顔でこちらを見た。


「き、貴様……片目だけで、あそこまで……?」


 正直、どう答えようか悩んだ。

 見えていると正直に答えてしまうと、この義眼が特別な物、つまりは村で呼ばれていた神眼だと思われてしまう。

 これは今後を考えると、余計な問題に発展しそうだ。


 なので、


「ああ。ほら」


 フェルトはコンコンと『強欲の義眼』を指でつついて、見えないということを強調することとした。


「「「「「――!!」」」」」


 クラスメートのみならず先生方も驚く中、エメローラが評価する。


「……片目が無い状態でそこまでの戦闘センスとなると、並々ならぬ努力と研鑽があったことでしょう。見事と評価せざるを得ませんね」


 エメローラはフェルトのことを多少調べていた傾向があったことから、おそらくこの義眼が神眼と呼ばれたことについては知っているはずだろうが、見えていることまでは、この発言から把握してないことがわかる。


「殿下。あの男をスカウトに考えておいた方が良いかと。雷鳴以来の逸材ですよ」


 ギルヴァートは急にフェルトのことを推薦し始める。


「そうですね。どうですか?」


「はは。まあ、ぜ、善処しまーす」


 周りがフェルトへの評価を改める中、フェルトは罪悪感に背中を押され、この授業の時間が過ぎていった。

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