06 王立バルデルセン魔法騎士総合学校2
――王立バルデルセン魔法騎士総合学校。
この王都バルデルセンの中で、一番歴史が古く、王族との関連性も強い学校。
元々は士官学校みたいなところだったらしく、王宮に仕える騎士や魔法使いを教育する学校だったそうだ。
だが前国王の意向により、国の人材の質を上げるため、教育にかなり力を注いだそうだ。
その影響で、貴族のみが通う学校、平民のみが通う学校など、学びやすい環境の場を提供することは勿論、技術や立場など人間関係を育む意味でも、この王立バルデルセン魔法騎士総合学校は、身分問わずの学校へとなったそうだ。
当時は貴族側からの強い反感もあったようだが、今はだいぶ落ち着いているとのこと。
その背景には聖女の影響があったりする。
聖女は平民出の人間であったことと、貴族の位を断ってきた背景にある。
聖女はこの国を守るために力を尽くすことを生業とする、若干自己犠牲の強い性格の女性が多いことも起因しており、自分が私腹を肥やすという考えはなく、貴族の位を拒み続けたそうだ。
さすがに国や貴族側からしても聖女には、それなりの知識と世の動きは把握してもらわねばならないと、教育したことが、平民への学業へと繋がっている。
だから王族であるローラと呼ばれていた、エメローラ・オルドケイア姫殿下が通うのも当然のことだったりする。
そのエメローラは入学式で勿論、代表挨拶を行い、生徒や先生方は思い思いの表情をしていた。
王族の手前、下手なことはできないと気を引き締める表情、利用してやろうと考える表情、ただただ麗しいと見つめる表情など、実にわかりやすい。
貴族達からすれば、王族とのパイプを繋げられる良い機会であり、先生方としても王族を教育するという栄誉を与えられることは誉れだろう。
かく言うフェルトは、特にあれ以上の関わりを持つことはないだろうと、少し他人事のように見つめていた。
というのもフェルトとしては、エメローラが通うことは、下手に貴族の揉め事が起こさないだろうと考えられるので実に有り難い。
貴族達は王族の手前、あまり悪評が広がるような行動や言動を慎しむだろう。
どんな世界でも上の人間に頭を下げるのは、異世界でも常識なのだろう。
とはいえシュバートのような隠れて、見下したり、貶したりして平民を虐めるような輩もいるだろうけどと、思ったりもした。
だが『大罪の神器』の情報を集めなければならないフェルトからすれば、エメローラ姫殿下という灯籠は有り難い。
少なくとも三年間は貴族による平民いびりは少ないと見ていいだろう。
アルスから聞くには、やはり多少なりとも溝はあるようだし、関わらないに越したことはない。
だからフェルトのこの学校生活は、それなりに友人関係を築きつつ、実戦能力を高めるため、学力を向上させるために粛々と学び、『大罪の神器』の情報を集めることを前提にしたい。
それなりに無理することなく、気長にやっていくためのこの学校生活は謂わば土台作りだと考えている。
だから地道に確実な地盤を固めようと考えていたのだが――。
「――これより、騎士科と魔法科による合同訓練を始める」
入学式の次の日、フェルト達は自分達の能力の把握を、先生、生徒達にも理解してもらうため、合同実戦訓練が早くも行われた。
この学校では騎士科と魔法科に分かれており、授業内容も多少変わってくるが、実戦訓練となるとたまに両方の科目が合わさって行われることがある。
前衛と後衛のポジションとかの連携を身体に叩き込むということなのだろう。
ディアン隊を見てもわかっていたが、やはり前衛と後衛のしっかりとした連携の働きがあってこそ、真価とは発揮されるもの。
どちらか一方がひとり歩きしてよいものではないのだろう。
だが人喰いのような異例の力の持ち主となると、話は変わってくるのだろう。
「生徒諸君はこの実戦訓練において確認してほしいのは、己の実力と周りの実力をしっかりと把握。自分に足りないものは何なのか、考える機会を持ってほしい」
その説明をしている先生に見覚えがあった。
おっ? 確か寮の場所を教えてくれた強面のおじさんだ。
「なあ、あの先生、ちょっと怖くないか?」
「まあ見た目がな」
どちらかと言えば軍人気質を感じるその人は、ギロリと視線を生徒達に向けている。
他にも魔法科の先生だろうか、後三人ほど先生が並んでいるが、圧倒的な存在感がある。
「先ず始めに言っておく。一部を除いた貴様らはあまりに貧弱であり、未熟だ。この学校に通う以上、少なくとも騎士として、魔法使いとして戦場に出る機会もあるだろう……」
まあ女はともかく、男の方は武勲を立てなきゃいけないだろう。
特に貴族は。
それにしたって随分とハッキリ言うと、少し貴族男児達に同情心が湧く。
「だから貴様らが死地に赴ける最低限の知識と技能を我々がしっかり身につけさせてやる」
一応、ここって騎士学校だよなと疑問に浮かぶほどの軍人気質に思わず首を傾げていると、
「はん、偉そうに……」
「僕らがそんな泥臭いことするわけないだろ」
明らかなお坊っちゃん達が陰口を叩いていた。
この軍人みたいな先生はギルヴァートという先生。
これもアルスから聞いた話だが、かなり厳しい先生と聞いている。
貴族達にも臆することがないとか。
「おい、そこの貴族共。聞こえているぞ」
そう指摘された陰口を叩いていた貴族坊ちゃんが立ち上がる。
「なっ!? ク、クズだと!? 平民のくせに生意気な……」
「そうだぞ! 姫殿下の手前、教育熱心な先生を演じてるつもりなんだろうがなぁ……」
するとその生意気な坊ちゃん達に対し、物凄く冷たい視線を送り付けた。
「お前達のように教養もされてないガキがべらべらほざくな。お前らのご家庭の英才教育では、目上の人間には逆らえとでも習ったか?」
「め、目上の人間は俺達だろ!?」
「違うな。正確には貴様らの親だ」
「だったら俺達にだって逆らえないだろ?」
頭に血が上っているのか、エメローラがいるにも関わらず、ギルヴァートに食いかかる二人。
「は? そんなもんが怖くてここの教師ができるか。親にでも泣きつきたいなら好きにすればいい。そんな根性のないガキは、そもそもこの学校に来るな。お前達を採算甘えさせてくれるお貴族の学校にでも行くがいい……」
この学校は平民出や女性貴族はともかく、男性貴族が通う理由としては、王宮に務める騎士や武官になることが目的となることが多いらしい。
それ以外の貴族達はどちらかといえば、貴族としての教養を中心に施されるであろう貴族のみが通うことができる学校に赴くケースがほとんどらしい。
つまりはここにいる男性貴族は少なくとも戦場に立てるような人間でなければならないはずだが、
「そ、そんなことできるわけないだろ!?」
「そ、そうだそうだ!」
この小物感溢れるこの連中らから、そんな感覚は得られない。
あの怯えたような表情は、おそらく親にでもその根性を叩き直してこいとでも言われた感じに見える。
ギルヴァートにもかなりビビった様子から見ると、親に言いつける、貴族としての家名に頼るのみでは脅しにもならない。
「俺はお前達のために言っているのだ。そんな小物根性で敵の前に立ってみろ。すぐにくたばるだろうな。そんな雑魚を戦場に送り出すほど、俺は非情ではない」
だが考え方が完全に軍人なんだよな、この人。
「どうせエメローラ姫殿下が通われるから、パイプでも作っておけと通わされたのがほとんどだろう……。安心していい、貴様らなど期待もしていない」
ギルヴァートはため息を吐きながら、何やら持っている書類を見てそう語った。
おそらくだがギルヴァート自身は、小物貴族の受け入れなど反対だったのだろうが、それこそ貴族の家系が関係していて、学園長は通さざるを得なかったってところに見える。
「な、何だと!?」
ギャーギャー反論する貴族達を無視し、今回の授業の内容に入る。
「先程も言った通り、これから実戦訓練を行い、己の実力と周りの実力を把握してほしい。聞き分けの無い無能は置いていかれるものと知れ」
反論する貴族達をわざとらしく見てそう語った。
本当にこの先生は容赦がない。
「これより騎士科の実技試験の上位者から順に、この木剣を持って実戦してもらう。魔法科の者はとりあえず、その動きを見るだけでいい。後々後衛の役割というものを理解してもらう土台とせよ」
まあ下位の連中は見る価値も無いがと、侮蔑するように鼻で笑った。
おそらくは貴族坊ちゃん達のことだろう。
かく言うフェルトはまあ、中間くらいだろうなと考えている。
この学校の受験は筆記と実技が行われた。
筆記はこの年齢までに身につけておかなければならない一般常識やその学力があるかをテスト内容から、測るものと見られた。
そして実技の方は、先生との打ち合いが行われた。
そういえばとフェルトはギルヴァートの顔を見て思い出した。
この人が実技試験を担当していたことを。
だが実技試験といってもそんな変わったことはしなかったと思う。
ただの木剣同士の打ち合いというだけだった気がする。
「それでは一位から発表する」
まさかこんなところで実技試験の上位者を発表されるとは思わなかった。
学力の上位者ならば、エメローラが入学式にて代表挨拶したからわかるが、実技試験は発表されることはないと思っていた。
そんな中、ウワサが囁かれている。
「一位ってやっぱり……」
「ああ。ヴォルノーチェ家の双子騎士のどっちかだろ? 多分、一位と二位さ」
そう囁かれる中で、エメローラの両隣にいる男女の護衛は少し誇らしげな表情をしていた。
フェルトはアイツらがウワサされているヴォルノーチェ家の人間だと考えると、
「なあ、グエル。ヴォルノーチェ家って知ってるか?」
「……さすがにそれは知ってなきゃダメだろ」
そう尋ねると呆れられた。
「ヴォルノーチェ家は騎士の家系で、今の家督は騎士団長を務めていて、『雷鳴』と呼ばれる彼女と並ぶ、この国の最強騎士のひとりだよ」
「へえ。つまりはこの国の実力トップの息子と娘ってわけ?」
フェルトはエメローラにいるふたりをチラッと見ながら尋ねると、こくりと頷いて返事してくれた。
「なるほど……」
確かにエメローラの護衛に選ばれるほどの人材なら、実技試験のワンツーフィニッシュもあり得る。
そう感心していると、
「一位、フェルト・リーウェン」
「――ブッ!?」
「「「「「!?」」」」」
フェルトを含め、誰もが驚いた。
「おおっ! 凄えな、フェルト!」
「は?」
バンバンと背中を叩くユーザだが、かくいうフェルト自身は意味がわかっていない。
「ええっ? いやいやいや……」
何かの間違いだろうと否定するも、
「フェルト・リーウェン、返事」
「いや、あの……」
「返事」
さっさと返事をしろと言わんばかりの圧のこもった眼孔。
「……イ、イエッサー」
思わず軍人気質なギルヴァートに向けた返事をするが、
「返事」
この返事は通用しないのねと普通に「はい」と返事をし、前へ出た。
すると、見覚えのある男が立ち上がる。
「待て! そんな平民風情が俺達を差し置いて一位だと……! ふざけるなぁ!」
「何だ? 私の評価に不満があるのか?」
ギロリとその見覚えのある貴族坊ちゃんをギルヴァートは睨む。
「ひ、ひいぃ……」
いや、ビビるならツッコむなよと内心シュバートに呆れ果てる。
つか、同じクラスだったのね。
だがそのシュバートは怯えながらも食いかかる。
「ぼ、僕がヴォルノーチェ家の双子騎士より劣っていることは認めるよ」
一人称が僕に変わった。
ビビった結果かな?
そして何故上から目線?
「でも少なくともその平民よりは優れていることは確定だ! 僕は貴族だ! 先生も見ただろ? 僕の素晴らしい剣舞を!」
そう言い放つギルヴァートは、話にならないと表情が語っていながらも、一応評価する。
「……そうだな、剣舞は見事だったよ」
貴族の英才教育に確かに剣術を学ぶこともあるだろう。
確かに普通の平民であれば、剣術で劣ることはないから、シュバートの言っていることは正しいようにも聞こえる。
「でしたら……」
「ああ、見事だったよ。剣舞はな」
「!?」
「お前がしてたのは実戦的な剣術ではなく、あくまで見世物として振る舞う剣舞としてだ。そんなもの、ここでは評価されない。わかったか? ワースト二位のヘルギィ・シュバート?」
「――ブフッ!!」
思わず吹き出して笑うと、シュバートがギッと悔しそうに睨んできた。
「失礼」
笑うなという方が難しいことを理解してもらいたい。
突っかかっておきながら自身は下から二番目とか、どんな剣舞だったか、逆に興味深い。
だが他の貴族も同じ返しが飛んできそうで、反論が無い中、二位が発表される。
「二位、ヘイヴン・ケルベルト」
「! ……はい」
呼ばれたヘイヴンもパチクリと少し驚いてから、フェルト達も見かけたことのある透かした表情で立ち上がった。
ヘイヴン自体もこの評価には疑問があるようだ。
フェルトと同じように前に出ると、評価について尋ねた。
「僕の評価も間違っているのでは? ギルヴァート先生から一本取ることができなかったと記憶していますが……」
フェルトは取った気がすると、ハッとした。
もしかして、それが原因だったりするのかと首を傾げたが、それではヘイヴンが選ばれた理由にはならないはず。
「いや、間違ってなどいない。お前、わざと手を抜いただろ?」
「まさか。先生の実力はお伺いしておりますよ。一介の受験生如きがそのような――」
「侮るなよ。お前がわざと評価が下がるよう、振る舞っていたのは知ってる」
打ち合った自分ならば見極められると、更に眼孔を鋭くした。
確かに優れた剣士なら、その太刀筋や振る舞いなどから、相手の状態を見破るなんてことはできそうだ。
ギルヴァートも相当やり手だったことから、見る目はあるだろうと判断できる。
するとヘイヴンは観念したのか、参りましたと微笑んだ。
「それではこのふたりの実戦が君らの見本に――」
「ま、待って下さい!」
エメローラの両隣、ヴォルノーチェ家の双子のうち、女の子の方が待ったをかけた。
「何だ? ヴォルノーチェ妹」
「何故、姫様の側近騎士として任命されたわたくし達がどちらもいないのですか?」
「お前達が任命されたのは、王族との接点が濃く、将来を有望視されてのことが強いと聞いている……」
所謂コネね。
「つまりは実力で選ばれているわけではない。聞くところによれば、当初はそこのケルベルトが受ける話だったそうだが……?」
「!」
ヘイヴンはやれやれと言われてしまったなと、眉を顰めている。
「だが安心していい。貴様らは三位と四位だ」
「……」
その順位でも納得いかない様子だが、そもそもとギルヴァートは総合評価を口にする。
「だが今回は他の連中があまりにレベルが低い。あからさまに姫殿下のパイプを繋げねばと入学してきたクズ共ばかり。貴様らが馬鹿にしている平民出の人間の方が優秀なのが多い。……まったく、あの学園長は……」
さすがにエメローラも申し訳なくなってきて、困った笑顔をしている。
「だが明らかに頭が突き出た奴もいるようで安心もしている。雷鳴の再来が来ているとみた」
そう言いながらフェルトは、自分に視線が向けられたことに気付く。
「は? 俺?」
「そうだ、貴様だ。フェルト・リーウェン」
「いやいやいや。俺は確かにアンタ……じゃなかった。先生から一本取ったけどさ。それが評価になってるわけでもないんだろ?」
「勿論だ。総合的に評価して、貴様は確実にトップの実力。正直、今すぐにでも騎士団に入団しても問題ないレベルだと思っている」
「「「「「!?」」」」」
フェルトを含めた生徒も驚いたが、何よりギルヴァートを良く知るであろう教員達が最も驚いているようだった。
まるで、彼がここまで褒めることはないと言いたげな表情。
「だから入寮時のときに言ったんですか? 期待しているって……」
「そうだ。少なくともお前に足りないのは体力と身体作り、経験のみだ」
どれもこれから積み上げていかなければならないことだが、確かに誰かに教えを頂くようなことではない。
「へえ。凄いね、キミ。ギルヴァート先生からここまで評価されるのは、雷鳴以来だよ」
「そういうお前は二位だから、大差ないんじゃないか? あと雷鳴って何だよ?」
そう尋ねるとヘイヴンはポカンと目を丸めた。
「おやおや。雷鳴と呼ばれる彼女は――」
「それでも納得いきません!」
雷鳴についての話がヴォルノーチェ妹に再び遮られた。
「ケルベルト様ならわかります。確かに、我々より強いです」
この女垂らしがそこまで優秀なのにびっくりだ。
「ですがどこの馬の骨ともわからない彼が、お父様より教えをもらった私達が劣るなんてことはあり得ません!」
貴族としてのプライドを語ってはいるが、シュバートみたいに家柄にしがみついているようではないのは評価できる。
このふたりはエメローラの護衛に選ばれたこと、そして騎士団長の子供として、自分達を誇りに思っているのだろう。
とはいえ、馬の骨と呼ばれるのは心外だ。
確かに『強欲の義眼』の恩恵は大きいが、それを使い熟すことは大変だし、ディーノと共に辺りの魔物達相手に特訓してきた場数は伊達でもない。
「ならさ、どっちか相手する?」
「「!?」」
フェルトは挑発するようにクイクイっと手招きした。
「貴様ぁ……」
今まで黙っていた双子の兄の方が、ギッと睨みつけてくる。
「ゴタゴタ喋られてもしょうがないし、馬の骨と呼ばれるのもさすがに心外だ、白黒つけよう。かかってこいや」
「おい。そんなことは許可していない」
「いやいや、先生。そもそも先生が忖度なしの評価をした結果、彼らのプライドが傷付いたし、俺は俺で無難な学校生活潰されてんだ、互いが納得するかたちを取らなきゃ、収集つかないでしょ?」
「……」
ギルヴァートの忖度なしの評価の付け方は正しい。
それ自体も良いことだと思うが、今回の場合はどうしたってそんな問題に直面する。
「……先生。三位はどちらです?」
「お前だ。ガルマ・ヴォルノーチェ」
「さすがお兄様!」
するとガルマがフェルト達の前に来ると、剣を抜き、切っ先をフェルトの眼前に向けた。
「貴様の挑発、乗ってやろう。この俺、ガルマ・ヴォルノーチェがなぁ!!」




