04 王都バルデルセン3
「いやぁ、王都に着きましたか」
「まあな」
フェルトはアルスの案内で、住宅区にある教会へ着いた。
さすがに王都の教会というだけあり、大きなところだったが、ヴァース村にあった教会とそう変わらなかったようにも感じた。
そこでせっかく来たからと祈りを捧げ、とりあえずイミエルと対談している。
「確かに『大罪の神器』の情報を集めるなら、こういう場所の方がいいですね」
「それで? お前から人喰いもとい『暴食の仮面』の気配とか察知できねえのか?」
「前にも言いましたが、割と私の視野は狭いんですよ。それに干渉もできないので、場所の特定も無理。唯一、貴方の周りから気配を察知できるくらいで、『強欲の義眼』が見た方が早いと思いますよ」
「お前、本当に女神か? 役に立たねえな」
「こうして相談役になってるんですから、贅沢言わない! 後、会う度に女神なのかと尋ねるのもやめて下さい!」
そう言われてみれば、いつも尋ねてる気がする。
「いや、お前が女神らしくないのが悪い」
「いや! 十分女神らしいことしましたぁ〜! 貴方を転生させる際に、そのような素晴らしい容姿になるよう、運命を操作しましたぁ〜!」
「あー……はいはい。そうでしたね」
「――感謝の欠片も感じない!?」
そんなぐだぐだの会話もそこまでに、イミエルは一息つく。
「まあそんな悪態が吐けるほど元気があることは良いことです。それにしても頼んだとはいえ『大罪の神器』を集めて下さるんですね?」
「勘違いすんなよ。お前のためや世界がどうって事で集めるんじゃない。先生とのケジメのためだ」
「……理由に関してとやかく言うつもりはありませんよ。どんな理由があるにしても、私は集めて下されば問題ありません」
「そう思うなら、お前からも情報が欲しいもんだ」
「それを言われてしまうと、耳が痛い」
「まあとにかく、また『大罪の神器』について相談したいことができたら来るよ」
フェルトはそう言うと笑顔で見送るイミエルに手を振って、狭間の空間を後にした――。
***
「お祈りは済みましたか?」
「あ、はい」
教会のシスターに尋ねられ、そう答えたフェルトは外で待つアルスのところへ戻った。
「熱心だね」
「まあ、この町で世話になるんだ、見守ってくれてる神様にご挨拶くらいしないとさ」
「は、はは……」
アルスはそんなことしたことないやと苦笑いするが、フェルトも本心ではそんなことはこれっぽっちも考えていない。
あくまでイミエルと通信するためのお祈りだからね。
「そ、それじゃあ買い出ししよっか?」
体裁が悪くなったアルスは、今日の本来の目的を遂行しようと提案。
「じゃあ商業区に戻りますか? それとも学園区の店見ますか?」
「せっかくだし、商業区にしよう。学園区の店は利用する頻度も多いから、後でも大丈夫だろ」
その提案に乗り、フェルト達は再び商業区へ――。
一言に商業区と言っても、場所によって様々な物が売っていたりする。
冒険者ギルドがある区域では、酒場や武器、防具、道具屋など魔物や迷宮探索などに必要な物資などの確保が可能な店が多い。
住宅区に近い区域であれば、オシャレな喫茶店や生活に必要な物資や食材を確保できる店が多い。
学園区の近い区域であれば、学園区内では売られていないような洋服店や魔道具屋などが多かったりする。
需要によって店の配置をこだわるのは、商人としての基本なんだろうなと、わかる光景だった。
そんな中、フェルト達は食材の買い出しをしている。
寮生活での食事は二パターン。
自分で作るか、学園区内の飲食店で済ますかの二択。
だがどちらも金は使うので、安上げたいのなら、前者になる。
家事全般は元々自分達でやるのだ、特段手間になることもない。
「おばちゃん。これと、これくれ」
「あいよ」
「なあ? どう違うんだ?」
アルスは、フェルトが手渡された豚肉を見て尋ねる。
「えーっと……」
正直、フェルトも見た目はほぼ一緒にしか見えないが、【識別】を使って栄養価が高いもの、状態が良いものを選別してるとは言えない。
「目利きは得意なんです」
キランっとキメ顔でゴリ押してみると、尊敬の眼差しを向けて納得してくれた。
「もう見ただけで、コレだっ! ってわかるんですよ」
「おおっ!」
嘘は言っていない、嘘は。
『強欲の義眼』の【識別】で見ただけでわかるので、嘘は言ってない。
「じゃあこの調子でどんどん食材を探しますか」
「ところで何を作ろうとしてるんだい?」
「えっとですね……」
多少は料理ができるフェルトではあるが、寮には数えるくらいしか人がいないため、変に凝った料理を作るのもアレなので、
「炒飯、かな?」
「チャー……ハン?」
男の簡単飯といえば炒飯でしょと思うが、こちらの世界の男性は自炊する人は少ないらしい。
とても簡単、上手いなので、是非ともアルスにも覚えて欲しいものだ。
この世界の食文化は幸いというべきだろう、向こうの世界と変わらない文化を持っていた。
ただ、この国はご飯よりもパンが主食なようで、実家にいた頃にわがままを言って白飯を食ったのが懐かしい。
両親はふたりして不思議そうに首を傾げていたが、前世が日本人のフェルトとしては、やはり白米に限る。
たとえこちらの世界の人間の身体、この国の体質の身体であっても、頭にある思い出深い味がそれらを蹴散らすかのように、白米の甘味が口いっぱいに広がっていくのは、中々感動した。
ちなみに当時八歳くらいの出来事。
死んでから八年も日本食、白米から離れていると、味の感じ方も正に格別だったことから、このくらいのオーバーリアクションは許して欲しい。
だからなのか、アルスも米を買った時は、何故って顔をされた。
これが驚愕の表情に変わるのが非常に楽しみである。
「――ま、こんなもんかな?」
「というより、食材の買い出しだけで終わっちゃたね」
「他に買うもんあります?」
「……勉強道具とか買い直さなくていいの?」
「……別に」
魔法使いなら魔道具や魔術書など、魔法をサポートする物資が必要になるだろうが、フェルトは一応騎士科として入学する。
あまり必要なものは少ないため、問題無し。
――ということで寮へ戻って来たのだが、
「ん?」
寮の前でふたりの男子を見つけた。
「勝手に入るわけにはいかないだろ!」
「だってさぁ、もう二時間くらい待ってるぜ?」
会話を聞くに、男子寮に用がある人物のようだ。
「えっと、すまない。もしかして入寮希望者かな?」
アルスが慌てた様子で尋ねると、ふたりは息が合ったように、くるりと声がする方へ向いた。
「「はい!」」
「ごめんね。ご飯の買い出しに行ってたものだから……」
「いえ。ご用事で席を外されているなら、仕方ありません」
随分と真面目な眼鏡だなぁと、そのくいっと直した眼鏡を見た。
「つか、他に人いなかった?」
俺達が買い出しに出たくらいには、まだ寮内で二、三人は寝てたはずだがと思っていると、
「いや、多分どこかに出掛けたんじゃないかな?」
このふたりが騒いでいるのに対応しないということは、そういうことだろう。
「お前達がこの寮に住んでる奴か?」
「馬鹿! 言葉遣いを考えろ! 先輩方だぞ!」
「いや、俺は違えよ」
「そ、そうなのか?」
フェルトは自己紹介と先輩を紹介する。
「俺は昨日からこの寮に住んでるフェルト・リーウェンな。で、こっちの冴えなそうな先輩がアルス先輩」
「よ、よろしくね」
「私の名前はグエル・キーエンス。王立バルデルセン魔法騎士総合学校に魔法科として通う者だ。出身はバーチェナ領にあるカナリバという町出身。得意な魔法は……」
「ああ、はいはい。そこまで自己紹介されればいいよ。覚えきれん」
「むっ? そ、そうか」
このグエル君は中々の堅物のようだ。
止めなければ、バンバン自分のことを話す気だっただろう。
「えっと、俺、自己紹介して大丈夫か?」
名乗るタイミングを尋ねてきたもうひとりの男子。
ほら見ろと思った。
フェルト達が眉を顰めながら、こくりと頷くと彼も自己紹介する。
「初めまして! 俺の名前はユーザ・カルケット。お、王立バルデルセン……魔法、なんだっけ?」
同じ自己紹介をしようとしたのだろうが、途中で途切れた。
「いや、名前だけでいいって。そいつが真面目過ぎなの」
「そうか! よろしくな!」
そう言ってユーザはフェルトの手を取り、ぶんぶんと握手。
するとグエルが物申す。
「いや、自分のことをよりわかってもらうためには、しっかりと情報を……」
「仲良くなるかどうかもわかんないのに、そんなにペラペラと自分のことを喋るのは良くねえよ」
「! ……それは僕と仲良くできないということか?」
「そういうわけじゃねえけど、お前は出会った人全てと仲良くなって、信用できるのか?」
「そ、それは……」
「人間、関わりたいと思う人間のことは知りたいと望むだろうが、別にそうじゃない奴のことなんざ、名前すらどうでもいいってなるだろ? 人間って割と薄情な生き物だぜ?」
特に女の子はそのあたりが顕著に出たりする。
興味の無い男子には塩対応だったり、完全無視だったり。
「それに人間関係なんて、これからじっくりと作っていくもんだろ? 一朝一夕で作れるもんかよ」
「そ、それもそうだな」
「そうか? 俺は大体仲良しだぞ?」
キョトンとそう言い切ったユーザの表情は純粋そのもの。
表裏がないのは良いことと捉えられるが、ディーノでももう少し大人びた表情ができるぞと思いながら、こうツッコんだ。
「お前みたいに馬鹿なら人間、苦労もしないんだろうな」
「ちょっ!? おい!」
「ははっ! やっぱり? アッハハハハッ!!」
人間、表と裏があるから、信頼関係とかは作りづらい。
ましてやフェルトには『強欲の義眼』がある。
それで見抜けはするが逆に言えば、信用ができないから見るってことになる。
それは歩み寄るには、フェルト自身が抵抗しているってことになる。
だからこういう純粋な奴は眩しくてしょうがないフェルト。
「いや、君! そこは笑うところではなく、怒るところだろ!? フェルト・リーウェン君だったか、君は君でもっとこう、オブラートに包んでだな……」
「ってことは、お前もコイツの第一印象は馬鹿だって思ったんだよな?」
「ぐっ!? い、いや、あの、そのだな……」
「あーあ。そういうので人間関係って崩れるってことだよなぁー」
「うぐっ!?」
まさかのユーザの的確なツッコミ。
意外と鋭い。
「おっ? 言われてるなぁー」
「俺、言っちゃったなぁー」
「うぐぐぐ……」
グエルの劣勢に見ていられないとアルスは仲裁に入る。
「まあまあ、とりあえず案内するから、そのへんに……」
――くきゅ〜〜……。
「「「「……」」」」
どこからかお間抜けな腹の虫が鳴った。
「悪りぃ、俺だ」
ユーザが完全に場の空気を支配すると、フェルト達はドッと笑いが込み上げた。
「はっはは。よし、じゃあこれからメシ作るとこだったんだ。米を炊くのに時間がかかるから、案内を先に受けて来い」
精米はしてある米は買ったものの、炊くのには時間がかかる。
炒飯作るにしても、ひと手間だ。
だからか簡単飯にもならず、買って直ぐに食えるパン派が圧倒的に多いわけだ。
米派がいないわけにも納得がいく。
「ご飯炊くのか? おおっ!」
「へえー、凄いね」
「凄かねえから、早く行ってこい」
とはいえフェルトは白米を求めて、ご飯炊きはできる人間。
保温保管用に蓋付きのご飯窯すら用意してやろうかと思ったくらいだ。
――というわけで、
「「「おおおおっ!」」」
「ほい。卵炒飯の完成な」
三人はその見た目に驚愕する様子で、目が輝いているようにも見えた。
先程まで白いお米だったものたちは卵でコーティング後、油の上で程よく炒められ、茶色の良い焼けめがつき、豚肉やネギ、炒り卵なども色彩豊かに散りばめられている。
しかも作り方は超簡単ときた。
「た、食べていいんだよな?」
「ああ。メシはみんなで食った方が美味いだろ?」
各自、取り皿によそったら、
「いっただきまーす!!」
先ずはユーザが食す。
アルスとグエルは初めて見る料理のせいか、ちょっと萎縮したのか、様子見。
炒飯食ったことないってことにフェルトは驚きだ。
そしてユーザがひと口頬張り、複数咀嚼し、直ぐに、
「――美味え!!」
そう絶賛したかと思うと、ガツガツと食べ進めていく。
「おかわり!」
「へいへい」
あまりに美味しそうに食べるのでふたりも、お互いに見合わせて息を呑み、ひと口。
「「……」」
ぱくっ。
「……う、美味い!」
「美味しいよ! リーウェン君」
「気に入ってくれたようで何より」
ふたりも気に入ってくれたようで、ユーザほどではないが、どんどん食べ進めていく。
「おかわり!」
「おい。俺の分も考えてんだろうな?」
とユーザに注意しつつも取り皿に取ってしまった。
そしてフェルトも食べる。
「美味っ」
我ながら中々の出来に、食も進むというもの。
だが向こうとそんなに変わらない光景になったのは、非常に有難い。
向こうでは狭い村ということもあり、両親だけでなく、ディーノ達ともよくテーブルを囲んでいた。
「どうだ? こうやって少しずつわかっていく方が楽しいだろ?」
フェルトは炒飯を食べ進めるグエルにそう語った。
「……そうだな。人間関係を急くのは得策ではない、か」
「そ。俺達知り合ったばかりだぜ? この炒飯もおんなじだろ? 食べてみなくちゃわからない。違うか?」
誰だって口にしたことのない料理などは、疑心を持ったり、見た目の先入観などが邪魔をするようなことがあるだろう。
人間も同じ。
その人の素性、性格なんて、見ただけではわからないものだ。
見た目が九割とはいうが、人間関係を形成するにあたって、やはり必要なのは中身だろう。
そんな中身を知っていくのは、時間をかけてゆっくりでもいいはずだ。
『強欲の義眼』を持つフェルトならば、尚更のこと。
こうやって他愛ないことでも、積み重ねて関係というものは築いていきたいものだ。
「そうだぜ! 美味い!」
「だろ?」
「君は本当にフェルト・リーウェンの意図がわかっていっているのか?」
「ん? 要するには仲良くなるためには、ありのままの自分でぶつかれってことだろ?」
あまりの純粋な眼差しに、
「まっぶし!」
「君、どう育ったらそんな子供みたいな性格でいられるんだ?」
疑り深い俺達は思わず嫌味混じりにツッコんだが、
「? 俺達まだ十五だぞ? 子供だろ?」
普通に論破されてしまった。
「「た、確かに……」」
そんな後輩のやりとりに思わず、アルスは笑った。
「はっはは! 言いくるめられてどうするんだい?」
「先輩。純粋と天然は最強なんですよ」
そう答えたフェルトにふたりは確かにと同意したが、肝心の本人は頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいた。
「?」
「なんか羨ましいよ。お前のその性格……」
「そうか? それよりさ、これの作り方教えてくれよ。今度俺も作る」
本当に最強か、コイツ。
そういうことを人に尋ねるのには、少なからず勇気がいるものだろう。
相手を不快にさせないかとか、相手の迷惑にならないかとか。
「いいぜ、教えてやるよ。今度作ろうな」
「おう!」
「というか、男なのに料理ができるのは凄いな」
「え?」
そう尋ねるグエルに振り向くフェルトとユーザ。
「そうか? 美味いもんが自分で作れたらいいだろ?」
ユーザの意見はフェルトの中にはなかった。
正確にはあるかもしれないが、方向性が違ったように思う。
フェルトの場合は前世の日本の味を再現できないかが前提にあったからな。
「それにさ、シェフのほとんどは男だろ? むしろ男が料理できなきゃ変じゃね?」
言われてみればとグエルのみならずアルスも難しそうな顔をして首を傾げ、ユーザは言われてみればと指を差す。
「確かに!」
「指差すな」
フェルトはユーザの突き出された腕を下げる。
「で、でも女性が料理をするもんじゃ……?」
「まあそれもわかるよ。母の味とかいうもんな。だけどよく考えれば、料理の開発とかしてんのは結局、男が多いだろ? それに王宮の調理場とか、どうせ女が立つ場じゃねえとか言われてんじゃねえの?」
そこら辺は矛盾してないかと指摘すると、ふたりも確かにと納得する。
「まあ男の料理は結局仕事ってことで、料理という名のビジネスなんだよ。女の料理こそが真の料理なんじゃね?」
そこは一長一短で、どちらも別方向にプライドを持った料理というジャンルなんだろう。
考え方も違うし、脳のでき方も違う性別なのだから、そもそも概念が違ってくるのだろう。
「そういう固定概念の違いも人間ってやつだろ? 上げていけば色々出てくるぞー」
「ど、どんどん僕の概念が破壊されていく……!」
「お前、面白いな」
「それも人間関係の醍醐味だろ? あと、この先輩は怖がりだったり」
「お、おい!」
『強欲の義眼』で見透せるフェルトとしては、こういう時間はかなり心地が良い。
ディーノ達との時間もこんな風に楽しんでいたなと、新地でも安息の場を確立できそうなことに、フェルトは安堵しながら話し込んでいった――。




