02 王都バルデルセン1
「ほーら。見えてきたぞ」
「おっ」
フェルト達は荷馬車から『王都バルデルセン』を眺める。
――王都バルデルセン。
オルドケイア大陸の中心都市であり、王都の名の通り、王族が住まう都市。
聖都オルガシオンと共にオルドケイア大陸を守るために国力を発揮する国である。
この都は王城を中心に町が円形状に広がっており、商業区、学園区、住宅区などに分かれている。
種族間などの差別的概念も少なく、とても住み良い国となっており、治安もとても良い。
だが最近は聖都オルガシオンの様子がおかしくなってきたことが懸念されていたり、その聖女の影響の対策、人喰いなど、ちょっと問題も色々抱えつつある国。
「くう〜! 今日から俺も冒険者かぁ」
「ま、せいぜい頑張れよ」
そんな馬車に揺られながら雑談しているが、ディーノが改めて真剣な視線を向ける。
「んだよ?」
「なあ、やっぱ一緒に冒険者やらないか?」
「断るつったろ? そりゃお前と冒険者業も楽しそうだが……」
「だろ? だったら……」
「前にも言ったが、そんな仲間内だけで楽しんでやるもんじゃねえだろ? 命張る危険な仕事だろ?」
「うっ!」
「それとも先生との約束ってのは、そんな浮ついてできることなのかよ」
「うぐっ!」
色々と図星を突かれると、シュンと凹んだ。
「わ、わかってるけどさぁ。そこまで気負わなくても良くないか?」
「まあ、それもわかるけどさ。命張る仕事には違いはないわけだし、慣れないうちは緊張感を持てって話」
「……そうだな。俺、頑張るよ」
「おう。俺も頑張るよ」
フェルトが頑張れたのはディーノ同様、同じ歳の同性がいたことが起因していると思う。
こういう切磋琢磨するってのは、本当にいい。
ヴァース村でもディーノと一緒に魔物と戦ったりして鍛錬を続けた。
だからこそ、その誘いも本当は乗りたいところだが、フェルトにはやらなければならないことがある。
マルコ神父の教えと支えのためにも。
「おい、君達。先に学校の方に送るのでいいかい?」
「構いませんよ」
商人は冒険者ギルドに用があるからと、先にフェルトの目的地へ向かうこととなった――。
――城下町を守る門をくぐり、ついに王都バルデルセンへと到着した。
王都ということもあり、人は非常に多く、賑わいも見せている。
町並みは石造りの中世的な建物と外観で統一された、ケルト音楽でも流れてきそうな古風的な雰囲気が印象的。
そんな町並みを横目にフェルト達が今向かっているのは、学園区。
この王都には複数の学校があり、平民のみが通う学校、貴族のみが通う学校など、様々な人種や学ぶ目的を持って分かれている中、俺は歴史が一番古く、王族が設立したとされる学校――『王立バルデルセン魔法騎士総合学校』に通うこととなっている。
王立バルデルセン魔法騎士総合学校は、王宮魔術師や騎士など王族に仕えることを前提とした教育機関として設立された背景がある。
だが近年では、平民の学力等に問題があり、もっと学びの場を与えようという働きから、種族や出自など問わず受け入れる学校となっている。
課題は多くあるとはいうものの、良い働きではないかと評価される一方で、一部の貴族からは平民に同じ教育を施すつもりかと批判もされているらしい。
そういう文句を言う貴族に限って、自分が貴族であるというだけに固執した、割と大したことがない奴の戯言だろうなと、ウワサを聞いた時に呆れた。
「ありがと、おじさん」
「構わねえよ」
フェルトは荷馬車からスタッと降りる。
「じゃあな、ディーノ。達者でな」
「おう! つっても俺も王都にいるけどな」
「はは! だな」
フェルトはそんな軽い感じで別れ、ここまでの旅路を共にした馬車を見送った。
「さて……」
フェルトは学園区の門をくぐり、自分がこれから通う学校へと向かう。
一度はお受験で来てるため、道に迷うことはない。
真っ直ぐ向かっていると、
「おい、別にいいだろ? ちょっとお茶くらい」
「ちょっ!? 離してくれないかい?」
学園区とはいえ、町のような外観が広がり、商業区にまで行かずとも、多少の買い物は出来るよう、店が建ち並んでいる。
学園区に通う生徒達の安全に配慮してとのことらしい。
商業区は冒険者ギルドもあるため、多少危険もあるからだそうだ。
だが、不良生徒なんてものがいないなんてことは、こっちの世界でもあるようだ。
そんなテンプレ的な展開なのかなぁ〜と、その裏路地を覗いてみると、ひとりの可愛い女の子が複数の男子生徒に言い寄られているという、お約束展開を目撃した。
思わずため息が出る。
その女の子は、クリーム色のショートの髪に青い瞳が特徴的で、身体付きも中々男性受けの良さそうな華奢な感じだった。
育ちが良さそうな雰囲気と、ピシッと制服を着ているところを見ると貴族のお嬢様といったところか。
「しつこいなぁ。ボクはキミ達に興味は無いと言ったよ」
一人称がボクだが、女の子っぽい喋り方。
あまり女子力が下がる印象は受けなかった。
「俺が誰だかわかってるだろ? シュバート家の三男だぞ。この俺の女になれって言ってるんだ、光栄だろ?」
――うわぁー……。
明らかな小物感に、何だか頭が痛くなってきた。
「だからなんだと言うんだい? ボクは確かに田舎貴族の娘だが、キミに将来をとやかく言われる筋合いわないよ」
「だから君と君の将来のことを考えて、俺のものになれって言ってるんだ――」
話を聞いていると、どうやらこのシュバートとかいうアホは、この国ではそれなりに権力のあるお貴族様のお家らしい。
それで田舎貴族である彼女を囲ってやると、強引に迫っているようだ。
貴族同士のいざこざってヤツなんだろうが、ホンットメンドくさい。
「コンコーン」
フェルトは裏路地で揉めている一同に聞こえるよう、わざと壁をノックしながらそう言った。
「なっ、なんだぁ、お前?」
そう尋ねてきたシュバートをフェルトは無視して、
「衛兵さーん! こっちで何か揉め事でーす」
そう言ってやると、シュバートと取り巻きらしき男二人がハッとなり、フェルトに向かって駆け出して来た。
すると、ドカッとぶつかりながらこちらを睨むと、
「ちっ! 覚えてろよ」
小物感たっぷりの捨て台詞を吐き残していき、三人は脱兎の如く、足早に去っていく。
フェルトが生優しい笑顔で手を振りながらそれを見送っていると、その絡まれていた女の子がやって来て、覗き込むように上目遣いに一言。
「キミ、性格悪いね」
その女の子はフェルトの態度と衛兵がいないことを確認しての第一声だった。
「初対面の男にそれはないだろ? 助けてやったのに……」
そう言って悪戯っ子みたいに話しかけてきた女の子を見ると、絡まれる理由がハッキリ理解できるほどの美少女だった。
だがその彼女はフェルトの顔を見るなり、少し気の毒そうな表情に変わった。
そんな表情になる理由に心当たりはある。
片目が義眼の影響もあって、オッドアイに見えることだろう。
「そ、それはゴメンね。わざとじゃないんだ。助けてくれてありがとう」
初対面なわけだからよそよそしくなるのは、むしろ普通だと思うわけだが、話しかけてきた時の口調との落差が気にかかる。
「……何か気に触ることでもしたか?」
「い、いや。そんなことはないよ。ほ、本当に感謝してるよ」
どうしても態度が急変したのが気になったので、そのヒントを得ようと【識別】を使用することにした。
正直、初対面の女の子にすることではないだろうが、どうも引っかかったので。
――【識別】
「!」
この女の子の詳細を見ることで、フェルトはどうして動揺し、よそよそしくなったのか理解した。
「……元からだよ」
「えっ?」
「元からねえんだよ。片目」
この女の子は、自分の境遇を照らし合わせて見ていたことに気付かれていることに、ハッとする。
「だからそんな顔すんな」
「……キミ、やっぱり性格悪いだろう」
フェルトがこの女の子の考えを読み透かしていたのが気に入らなかったのか、プクッと膨れて、むくれてみせた。
「はは。そういうことにしといていいぜ」
フェルトはその可愛い表情の方が似合うと笑った。
「それで? キミはこの学園の生徒さんかな?」
「まあ今年からな」
「おや? ボクと同じだね。ちなみにどこかな?」
「王立んとこ」
「おおっ!? まさか学校も一緒とは! 運命を感じるね」
「運命ねぇ……」
女はそういう話が好きだねぇと軽く笑った。
「裏路地に責めやられたか弱い女の子を颯爽と知略を駆使して助けたイケメン男子。しかも同じ学校で同じ歳。恋に落ちてもおかしくないのではぁ?」
これが女の子の普通なんだろうか。
だが小悪魔チックなあざとい喋り方を察するに、おそらくこちらをおちょくっているのだろう。
「それを口にしなきゃ、こっちは勘違いしたかもな」
「おやおや、本当にそう思っているかもよ」
「あー……はいはい」
本気じゃないのが伝わってくるせいか、心地良い感じの会話のキャッチボールができている感覚だ。
すると女の子はやれやれと小首を傾げて、ふっとため息を吐くと、
「そういえばお互い自己紹介がまだだったね。ボクの名前はクレア・アレクベート。さっきの会話が聞こえていたかな? 田舎に領地を持つ貴族の娘さ」
聞こえていたし、【識別】でもその判断はできていた。
「俺はフェルト・リーウェン。ヴァース山脈付近の村出身のごくごく平凡な男の子。よろしく」
「ごくごく平凡だと自称してるようだけど、その割には要領がいいんだね?」
「はは」
さっきのシュバートを軽く対処したことを称賛してくれるようだ。
「それにしてもリーウェン君は随分遠くから来たんだね」
「まあな。アンタはどこ出身なんだよ」
するとクレアはむっとした表情に変わる。
「わざわざ名乗ったんだから、名前で呼んでほしいな」
「アレクベート――」
「家名はあんまり可愛くないから嫌いなんだ。クレアって呼んでくれる?」
苗字で呼ぼうとしたら、速攻で遮られた。
「じゃあクレアさんでいいか?」
「距離があるなぁ」
「……俺達、初対面だって理解できてるか?」
いきなり女を名前で呼び捨てにするのは、さすがに図々しいだろう。
それに田舎とはいえ、お貴族様のようだから、一応身分の差もあるだろう。
フェルトは何を求めてるんだか、理解できなかった。
「クレアでいいよ。キミはさん付けとか苦手そうなタイプに見える!」
「まあ、どちらかと言えばな。だがなぁ……」
「あー……ボクは貴族がどうとかこうとか、気にしないタチなんだ。ボクのことはクレア。いいね?」
フェルトが思っていたことを先読みでもしたかのように、否定意見を拒否された。
フェルトに対してフランクに話しかけているところや絡まれていた貴族の対応を見る感じ、確かにクレアは身分で人を測ってはいないようだ。
「わかったよ、クレア」
「ふふ。大変よろしい! リーウェン君」
「だったら俺の呼び方も改めるべきじゃないか?」
「へ?」
「苗字で君付けはどうかと思うが?」
フェルトがそう反撃してみると、
「そうかい? 確かに苗字呼びはアレかもしれないが、君付けは構わないんじゃないかなぁ?」
そう言われるとそうかもと、論破されてしまった。
「でもまあ、お前がそこまで歩み寄ってくれたのに、こっちが苗字呼びにしてくれはどうかとも思うから……名前で呼んでくれよ」
「フェルト君……?」
コテンと首を傾げて、名前の君付けで呼ばれた。
「おう。それでいいんじゃねえか?」
ここでふと我に帰った。
一体なにをやってるんだと。
名前の呼び方くらいでと。
「まあ、名前の呼び方なんて何でもいいか」
「――良くないさ!」
「おおっ!?」
「名前の呼び方ひとつで、信頼度や親密度を表すものさ。さっきの馬鹿共にはボクは名前すら呼ばれたくない」
「まあ、それはわかる」
気の無い男に気安く名前を呼ばれるのは、女心としては嫌だろう。
ましてやあんな横柄な態度を取る男は論外だろう。
だがそれを解釈すると、
「俺とは仲良くなりたいってことか?」
そう尋ねると、ニヤッと笑う。
「女の子に皆まで言わせるつもりかい?」
照れるわけでもなく、小悪魔の笑みで答えられたので、その答えの先にロマンではなく、悪戯だとわかる。
「はいはーい。俺はこんな美少女に好意を持ってもらえて嬉しいですよー」
フェルトもわざとらしくそう答えてやった。
すると、ムフンっとドヤ顔をする。
「光栄に思いたまえよ。これでもボクは容姿には自信があってね……」
「へぇー」
確かに顔立ちは整ってるし、守ってあげたくなるような細い身体をしている。
シエラやフレゼリカとはまた違う印象を受ける。
特に胸。
するとそこに視線がいったのがわかったのか、ふーんと意味深な笑みを向けられた。
「安心しなよ。私は着痩せするタイプさ」
「ほー」
フェルトはクレアの術中にハマらないように、軽く会話を続ける。
すると、思惑通りの可愛い反応が無いと考えたのか、絡まれていたことについて語り始める。
「まあ、ああいうのがたまに出てくるのさ。自分の家柄だけで偉そぶる阿保がね」
「だろうな。お貴族様は大変そうで……」
「他人事みたいに言うんだね」
「そりゃ、平民という御身分の俺には縁の無い話だからな」
するとフェルトの前でくるっと回り、愛想良い微笑みを見せる。
コロコロと表情の変わる女だ。
「キミみたいな騎士様が守ってくれたっていいんだぞ」
「はーいはい」
フェルトは馬鹿なこと言うなと、軽く頭を押し、この場を後にする。
「また助けてやってもいいが、わざとだったら助けねーからな」
クレアの口ぶりからすれば、気を引くためにわざとやりかねない。
そんな第一印象を含んだ言葉を投げかけると、フフっとクレアは微笑んだ。
「わかった。気をつけるよ」
「おう」
フェルトは同級生となるだろうクレアと別れ、校舎へ向かった――。
「おっ、着いた」
学校なんていつぶりだろうかと、中々考え深い感情が込み上げてきている。
こっちに転生してからというもの、マルコ神父やオスカー神父に勉学は教わったものの、学び舎自体は異世界ではここが初めて。
改めて考えるとディーノ達がいない分、新しい人間関係を設立しなければならない。
人見知りをする方ではないが、向こうの世界やあの山間の村とは違い、ここは都会であり、貴族もいる。
人間関係はかなり複雑な可能性が高い。
仲間を見つけるという目的があるフェルトとしては、別の緊張感があったりもする。
「つっても、考えててもどうしようもないな」
フェルトはとりあえずこの学園内にある寮で生活を行なうため、手続きができるであろう事務所を探す。
石造りの校舎を歩くこと数分、人の気配がする部屋を見つけた。
コンコンとノックをする。
「あの、すみません」
すると扉まで歩いてくる足音が聞こえ、
「誰だ?」
顔の右部分に大きな裂かれた傷が目立ち、その部分の片目を閉じた男性が対応。
「え、えっと、ここが事務所であってますか?」
フェルトはその男性の軍人みたいな雰囲気に思わず萎縮するが、そういえば見たことのある人だと頭の奥に引っかかる。
「お前は確か……フェルト・リーウェンだったな」
「は、はい。そうっスけど……」
何故か初対面のはずなのに、名前を覚えられていた。
その男性はおもむろに席へ戻ると、何やら書類を持ってきた。
「貴様は確か、入寮申請をしていたな」
「は、はい」
「早くこちらへ来たのはいい判断だ。これは寮までの地図と、既に住んでいるお前の先輩への案内状だ。渡せば寮生活について説明があるはずだ。そこへ行け」
フェルトは一応、余裕を持ってこの学園区に来ている。
実際、入学式まで一週間もある。
今までと環境が違うため、王都に慣れるためにも必要な処置だと判断したのだ。
「ど、どうもです」
そう言って、部屋を後にしようとした時、男性が捨て台詞。
「お前には期待している」
「は?」
その男性はそう言うと、元いた席に戻り、書類仕事に戻った。
あんないかつい事務員もいるんだなと、ぼんやりと何かが霞む中で、その場を後にした――。
「おっ、ここか……」
フェルトは学校から数分ほどの距離にある男性寮へ到着。
貰った地図によれば、学校ごとに寮が分かれており、更に貴族寮、男性寮、女性寮と細々と分けられている。
まとめりゃいいのにと思ったが、歴史ある学園区だ、昔、何かあったのかと思えば、納得もする。
フェルトは早速、寮の中へ。
「サーセン。誰かいませんか?」
結構大きな建物の割に、人の気配があまりしない。
学校に生徒がいないことを考えると、現代世界では俗に言う春休みなのだろう。
とはいえ、寮に誰もいないのは不自然だと思っていると、どこかしらから鳥の鳴き声が聞こえてくる。
しかも雀みたいな小型の鳥の鳴き声ではなく、ギャアギャアといった大型の鳥の鳴き声。
この寮の裏側だろうかと、観に行くとそこには、
「なっ!?」
ファンタジー世界ではお馴染みのグリフォンの姿があった。
そしてそこにもうひとり、グリフォンの世話をしている人物がいた。
「すみませーん」
「ん? おおっ」
フェルトの呼びかけに答えてくれたようで、グリフォンの世話をしていた人物がこちらへ来てくれた。
「君は?」
「初めまして。俺、春からバルデルセン魔法騎士総合学校に通います、フェルト・リーウェンといいます」
「ってことは、入寮者かい?」
見た目からしてもフェルトとは歳が離れてなさそうなお兄さん。
フェルトの自己紹介だけで入寮者と判断するのには、十分な情報材料だろう。
「そうです」
「そっか、初めまして。俺は君の先輩にあたるアルス・ウィンターだ。よろしく」
「そっか! 先輩か、よろしくお願いします」
「じゃあ早速、寮の説明をしないとね」
そう言うと足早にグリフォンの元へ向かおうとするが、
「いや、別に急いでないんで。そのグリフォンの何かしてたんでしょ?」
この世界に来て、色んな魔物を見てきたフェルトだが、グリフォンは初めてだ。
正直、もっと近くで見てみたい。
「ああ、飛行訓練だよ。これからするつもりだったんだけど、先ずは君に説明が――」
「マジか!? 俺、是非グリフォンが飛んでるとこ見たいです!」
興奮気味に食いつくと、ははっと笑われた。
「そっか。グリフォンは初めて見るのか?」
「まあ、そうですね。田舎の魔物にグリフォンはいませんでしたから……」
「だろうね。グリフォンは標高の高い山に生息しているから、先ず、人間の生活区域に降りてくることはないだろうね」
ということはヴァース村を過ぎた、もう少し登ったところに生息している可能性は高いな。
するとアルスはフェルトのグリフォンに向けている童心みたいな瞳を見て、ある提案をする。
「……乗ってみるかい?」
「ええっ!? いいんですか?」
「構わないよ。後ろに乗ってもらうけど……」
「おおっ! 是非!」
そう言うと早速グリフォンに乗り込み、アルスの背中に掴まったが、補助具なども無しであった。
「何の装備も無しで大丈夫なんです?」
「ああ。風魔法で力場を作るし、いざ落ちても風魔法で助けるよ」
さすが魔法がある世界は、そのあたりの勝手が違う。
「じゃあ、掴まっててくれよ」
グリフォンはその太い四本の脚で助走をつける。
ドスドスと地を踏みしめる重みのある足音が、乗っているフェルトにも振動で伝わってくる。
そしてフェルトが跨がる背中に生えた羽を大きく広げ、ぶわっと飛び立つ。
「――うおおっ!?」
思わずアルスに抱きついてしまうと、ははっと爽やかに笑われたが、
「おっ? おお……!!」
「中々の絶景だろ?」
上から見下ろす城下町に王城。
しかも展望台からとかではない空の景色は、王都のパノラマを一望するには、正に贅沢な特等席。
ゲームやドローンなどからもこんな景色は画面越しに見られるだろうが、やはり実体験とは別格であった。
「ははっ!! すっげえ!! 異世界ファンタジー……キターーーーっ!!!!」
思わず両手を上げてそう叫んだ。
「喜んでもらえて嬉しいが、イセカ……何?」
「ただの感嘆符なんで、気にしないで下さい」
今まで異世界らしいことはあったが、命が対価みたいなところが多かった。
『大罪の神器』とか人喰いとか。
ただここまでわかりやすく、テンションの上がる異世界ファンタジーと新しい生活拠点を一望できる様は、胸が高鳴ってしまう。
「よっしゃ! 色々頑張りますか!」




