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大罪の神器  作者: Teko
幼少期編
22/177

14 先生からの手紙

 

 ――激しい戦闘を終えたディアン達は村に戻り、嘘偽りなく全てを語った。


 教会広場にいた元冒険者の村人がほとんど殺されてしまったこと、人喰いを確実に仕留められなかったこと。


 村人達からの批判もあったが、村長の説得や死体となっているマルコ神父のことがあってか、割とあっさりと静まった。


 その大きな被害をもたらした仮面の少女については、尾行を行なっていたノーウィンが、途中で見失ってしまったという。

 その理由として、村長があらかじめ呼んでいた冒険者達の死体の血の匂いが混じったためだという。


 その冒険者達は教会広場に逃げ込んできた、あの若い冒険者の仲間だと断定。

 やはり仮面の少女にやられた痕跡があったことがわかった。


 そのため、仮面の少女の危険が回避されていないことから、しばらくディアン騎士隊は滞在することとなつた。


 それから数日後――。


「おーい。フェルト、居るかぁ?」


 最近の毎日の日課。

 シエル、ディーノ、フレゼリカの三人はよくフェルトを迎えに来るが、フェルトはどうも出る気にはなれなかった。


「……今日もダメか」


 そんなに広い家ではないので、フェルトは布団に丸かりながらでも、玄関先からそんな会話をする声が聞こえてくる。


「無理もないわよ。マルコ神父のこと……一番ショックだっただろうし……」


「うん……」


 みんなに心配かけているのは申し訳ないと思っているフェルトだが、やはりそんな簡単には立ち直れない。

 何せ、マルコ神父に『大罪の神器』のことを教えなければ、こんなことにはならなかったかもしれないからだ。


「へっ! 俺はもうへっちゃらだもんね」


「あのね。フェルトはアンタみたいに単純じゃないのよ」


「んだとぉ!! まるで俺が馬鹿みたいじゃないか」


「そう言ったのよ」


「なにぃ?」


 人の家の玄関先でもお構いなしの喧嘩。

 いつもならクスッと笑うところではあるのだろうが、どうもそんな気分にもならない。


「みんな、いつもごめんね。……やっぱりフェルト、出てこないみたいで……」


 扉の前から呼びかけていたオリーヴがみんなの元へ降りたようだ。


「い、いえ。フェルトはその……ちゃんとご飯は食べてますか?」


「……あまりね。少しは食べてくれるみたいだけど、ほとんど残ってるわ」


 食べないと保たないのはわかっているため、扉の前に置かれた食事を摂るようにはしているが、食も進まない。


「そ、そうですか……」


「ご、ごめんなさいね。そうだ! せっかくだから、上がっていく? お茶でも用意するわ」


「い、いえ。今日はもう帰ります。いつもお邪魔してすみません」


「ううん。そんなこと気にしないで。また明日も来てね」


「……はい」


 三人が外へ歩いて帰っていく音が聞こえる。

 そして、扉がノックされる。


「フェルト。お願いだから、出てきて。フェルトの気持ちもわかるけど……」


「……」


 こんな風に塞ぎ込んでいても、何にもならないことはわかっているのだが、それでも今は出る気にはなれなかった。


 今は誰とも会いたくはなかった――。




 ――そんなある日の夜。


 聞き慣れない足音が家に近付いてきた。

 コンコンと玄関の扉を叩く音。


「はい」


「こんばんは。夜分遅くに申し訳ない」


 訪ねてきたのは、ディアンだった。

 ケリングとオリーヴがペコペコしながら会話しているのだろうなと、わかるほどの会話が聞こえる中で、


「少し失礼します」


 何やらギシギシとこちらへ歩いてくる音が聞こえてきた。

 どうやらフェルトの部屋に来るつもりらしい。


 そしてその予想通り、コンコンとノックがされた。


「フェルト君、居るかな?」


「……」


 フェルトは特に返事をしなかったが、眠っていないことを読んでいたのか、ディアンは扉越しだが会話を始めた。


「君のことは聞いたよ。やはりあの神父様の死は堪えているようだね。申し訳ない」


 こんな小さな村で、毎日外に出ていたはずのフェルトが出てこなければウワサくらいにはなったのだろう。

 そして、親しかったマルコ神父の死を知っているのなら、大方の事情も読めているのだろう。


 だがフェルトは、助けに来てくれたディアンからこんな言葉を聞きたかったわけではない。


 来てくれたことには感謝してる。

 なんだかんだと村にしばらく定住し、辺りの魔物を狩っているのも、オリーヴからの会話で聞いていた。


 それはすごく感謝している。

 だからそんなことを言わないで欲しかった。


「それからありがとう。君のおかげで救われた命もあった。我々が不甲斐ないばかりに救えなかった命もある中、君は早急に我々に情報を渡してくれただろう? 本当に感謝している」


 そんな話も聞きたくはなかった。

 フェルトは自身のしたことなんて、大したことではないと塞ぎ込む。


 あくまで騎士達に素早い情報伝達をしただけで、大した役には立っていない。

 実際、大切な人を救うことはできなかった。


「「……」」


 少し沈黙が続くと、両親も駆けつけたようだ。


「あの、騎士様……」


「ああ、大丈夫ですよ。もう帰りますから……」


「い、いえ」


「ですが、最後にこれだけ」


 するとカサカサと何かを懐から取り出す音が聞こえた。


「フェルト君。俺はね、今日、感謝と謝罪、そして……これを君に渡しに来た。……おそらくこれは、君の恩師からの手紙だ」


「!」


 それを聞いたフェルトはバッと布団から起き上がるが、本当かどうかわからないため、まだ話を聞くことにした。


「教会が崩壊してしまったことは知っているね? その時、片付けを手伝っていたのだが、奇跡だったんだろうね。神父様の部屋は人喰いの攻撃の被害にはあっていなかったようだ」


 後に聞く話だが、人喰いの真空波の攻撃によって呑み込まれたのは、シスター達が使っていた自室を含めた教会の一部のみだったようだ。


 だからたとえ教会が崩壊し、瓦礫の山となっていても、マルコ神父の無事な遺品が一部、残っていたそうだ。


「これもおそらくだが、神父様の本棚の奥に仕舞い込んであった本から出てきたもののようだ」


 崩壊していたため、配置などもシスターはうろ覚えだったそうで、おそらくだそうだ。


「君の名前が書いてあることから、君にだけ伝えたいことがあるように思えてね。だからか、中身は敢えて拝借していない」


 フェルト宛てへマルコ神父の手紙。

 それは『大罪の神器』を聞いて、マルコ神父が万が一のために書いた手紙、遺言書とでも思えるような話だった。


「一応、ユナに何かしらの仕掛けがないかを確認はしてもらったが――」


 するとフェルトはバンっと扉を勢いよく開けると、ディアンから手紙をぶん取り、すぐに扉を閉め、再び閉じこもった。


「あっ! コラ! フェルト! ……も、申し訳ありません」


「いえいえ、構いませんよ。元々彼に渡すつもりでしたから……」


 月明かりが照らす窓の近くへ行き、ランプ用の魔石を点灯させて宛先を確認すると、確かにフェルトの名前が書かれていた。


 フェルトはマルコ神父の筆跡もわかっている。

 これは確かにマルコ神父の書いたものだった。


「……もうこの辺りには人喰いはいないようだ。俺達は明日には、王都に戻るため出立する。これからしばらく王都でまた人喰いの情報を集めるつもりだ。……君達の、そしてここで亡くなってしまった者達のためにも、必ずアレは何とかしてみせる」


 ディアンが何を言っているのか、わからないほどにフェルトは目の前の手紙に感極まっていた。


 フェルトはマルコ神父に言いたいことも聞きたいことも色々あった。

 一緒に過ごす時間の中で、どこか兄のように慕っていた節があったと思う。


 前世でも兄弟はいなかったから、どんな感覚なのかわからないが、きっと兄がいたらこんな感じだろうという感覚があった。


「だから、その手紙が少しでも君のためになるものだと信じ、この地を去るとしよう。また会おう」


 扉の前から人の立ち去る音が聞こえ、足音が遠ざかり、シンとした自室の中、そっと手紙の中身を確認する。

 月明かりに照らしながら、ゆっくりと読んでいく――。




 ――拝啓、フェルト少年へ。


 貴方がこの手紙を読む頃には、おそらく私はこの世にいないのでしょうね。


 かなり本棚の奥の本の間に挟んでおきましたので、おそらく遺品整理でもされないかぎりは見つからないでしょう。


 なので万が一私が生きている場合は読まないで頂きたい。恥ずかしいので。


 では、私が何故こんな手紙を残したかと言えば、賢い貴方ならわかるはずですよね? 『大罪の神器』などという我が身に余る力との関わりが死に直結するものと悟ったからです。


 貴方ならばきっと私が『大罪の神器』によって命を失った時、おそらく誰よりも自分自身を責めることでしょう。


 正直、考えただけでも心苦しい思いです。貴方の人生において酷い重荷になってしまうこと、それを与えてしまうこと。


 私自身の後悔を残さないため、そして何より貴方のためにこの手紙を残します。


 縁起でもないでしょうがね。


 さて、貴方が私の死に耐えられず、嘆き、悲しみ、怒り、苦しみ、憎悪に身を焦がすやも知れません。


 自分の責任だと自責の念に潰されているかも知れません。


 耐えがたく、その苦しみから解放されたいと、死を望むかも知れません。


 どれも私の望むことではありませんと伝えても、貴方の心に響くかどうか不安ではあります。


 貴方は責任感が強く、物事をしっかりと見られ、人を想いやれる優しい人です。


『大罪の神器』の回収という神託を叶えようと、勉学に励み努力する貴方を、友と共に笑う貴方を、私は見ているからわかるのです。


 そんな優しい貴方に気休めのような言葉は、貴方の苦しみを拭うことはできないでしょう。


 なので少し強い言葉を使いましょう。


『――私の死を踏み台になさい。そして――私の死は誇れるものだったと、貴方が生きて証明なさい』


『大罪の神器』の回収という過酷な道の先には、きっと私も貴方にも想像も付かないような現実が待っていることでしょう。


 それだけ人の罪の感情の名を冠する神器は、伊達ではないでしょう。


 もし、私が近々亡くなったのならば、その苦行の一歩めは私が担いましょう。


 私は貴方の最初の絶望になりましょう。そして最初の希望になれるよう努めましょう。


 死とは人に必ず起きる現実です。私はそれが早かっただけです。


 ですから私の死を後悔しても構いません。私の死に絶望しても構いません。


 ですがそれを踏み台にし、乗り越えられる強い人になりなさい。


 そして私のみならず貴方が進む道、無念に散っていく命を思いやり、強い貴方になって下さい。


 決してその者達の死が無駄ではなかったのだと。自分に力を与えてくれた存在なのだと、貴方の胸に刻みなさい。


 そう考えられれば、少しは軽くなるでしょうか? どうですかね?


 最後に私は貴方を支えられる素晴らしい教育者でいられたでしょうか? 私自身、まだまだ若輩者でどうにもと思いますが、貴方の心に残る人物であれたなら幸いです。


 もし本当に辛くなったら、逃げ出しても構いませんよ。


 死ではなく、生きて楽な道に進むことも否定はしません。貴方の人生ですから。


 私が貴方に本当に望むことは――貴方自身が幸せでいられることです。


 どうか『大罪の神器』という重荷ばかりに囚われず、それは忘れないよう、願うばかりです。


 ではこれで最後です。


 どうか貴方が行かれる道の先に、幸あらんことを。


 マルコ・ヒューバースより――。




 ――手紙にはそう書いてあり、これはフェルトのみに宛てられた遺言書だった。


 涙が止まらなかった。

 死してなお、自分のためにこんな手紙を残すあの人のらしさを感じた。


 だが、最後と書かれていた割に、もう一枚手紙があることに気付く。


 そこには追伸と書かれていた。

 書き忘れたことでもあったようだ――。




 ――追伸。


 私は貴方達との時間がとても楽しかったですよ。貴方とは特に弟と接しているように感じました。


 私には実の弟はいませんでしたが、弟がいればこんな感じだったのでしょうか?


 お気に触るようでしたら、流して下さいね。


 ですがこれだけは。


 私はちゃんと幸せでしたよ。


 書き忘れたのはこれだけです。最後とか書いておいて申し訳ない。


 それでは、貴方が良い人生を送れるよう、願っております――。




「……せん、せぇ……」


 ぐずっと顔がボロボロになるほどに涙が止まらなかった。

 こんなに涙って出るものなんだと、実感するほどに。


 同じように、悩んでくれていたこと。

 同じように、兄弟のように思ってくれていたこと。

 同じように、自分と過ごして心地良い時間を過ごせていたこと。


 だがこの想いをもうマルコ神父に伝えることは叶わない。


 もうぐしゃぐしゃだ。

 嬉しさ、悲しさ、悔しさ……言葉にできないほどの気持ちが交差する。


 だが自分の進むべき未来は示してもらえた。

 諭してもらえた。


 だからここからは自分がマルコ神父に恥じない生き方を、自身が正しいと思う生き方を貫き通す。


 フェルトはこの手紙に込められた想いに応えられる人間になろうと決意した。


 ***


 フェルトは新しく建てられた簡易的な教会の隣にある慰霊碑の前にいる。

 この慰霊碑は人喰いに殺され、亡くなった村人達の名が刻まれている。

 死体がバラバラだったり、手や足だけといった個人の特定が難しいものも多く、このようなものが建てられた。


「先生、今日はちょっと話をしに来た。俺、王都の魔法騎士学校に行って、色々学んでくるよ」


 ――人喰いの事件から三年。


 十五になったフェルトだが、この三年間、村の周りの魔物達を相手に特訓したり、フレゼリカママに勉強を見てもらったり、マルコ神父がフェルトにしてくれてた『強欲の義眼』の特訓も欠かさずに行なってきた。

 そして、王都の魔法騎士総合学校にも合格した。


 そんな中で、フェルトが出したひとつの結論が――。


「それでさ、やっぱり『大罪の神器』、集めることにするよ。先生がさ、どうしてほしいかはわかんないけど、俺が出した答えなら、応援してくれるよな?」


 正直、『大罪の神器』による被害はまだまだ出るだろう。

 正直、どこまでそれを止められるかはわからない。


 だがそれでも、知っていて行動しないという選択肢はなかった。


 それに三年前に色々と思い知った。


 知っていても、何もできない無力さ。

 強い力を持っていても、必要な使い方をしなければ、意味の無さないこと。

 持っている情報の取り扱いによって、取り返しのつかない結末を迎えること。


 これを後悔だけで終わらせるわけにはいかない。

 これを反省し、『強欲の義眼』を持つことを驕らず、自身の力、技術、考えを磨く。

 そして自分のできることをするんだと考えた。


 マルコ神父が他人のために尽くしてきたように、フェルトも人のためにできること、そして『大罪の神器』を持つ者として、自分ができる範囲で救いの手を差し伸べたい。


 だからそのためには、ここでは学べないことや出会いが必要となる。


 勿論、この村での経験はフェルトの土台となっている。

 マルコ神父や父母をはじめ、色んな人との交流がフェルトの学びとなった。


 だが『大罪の神器』を回収するにあたり、もっと力を、もっと技術を、そしてもっと経験が必要だ。

 人生をもっと心と身体に刻む必要がある。


 そのための王都行きだ。


「だから先生。先生には見守っててほしい。たとえ『大罪の神器』との戦いで命を落とすことになったとしても、俺が決めたことだからって見守っててほしい。……まあ、そんな簡単にくたばらないよう、頑張るから、そんな心配しないでくれよな」


 フェルトは懐からマルコ神父の手紙を出す。


「ただこれは持っていくよ。本当は(うち)でしっかり保管しとこうとも考えたが、俺は先生の弟でいたいからさ。縋る場所として、新たな拠点の側に置いておくよ。はは……情けねえかな?」


 フェルトにとってこの手紙は、救いであり戒めだ。

 自分に必要な言葉をくれた手紙であり、自分が愚かだった証明とも取れる手紙。


 すると向こうから神父が歩いてくる。


「おぉい。てめえ、今日出発するんだろぉ? 何悠長にやってんだぁ?」


 とても神父とは思えない軽々しい口ぶり。

 マルコ神父の後任として、聖都から来た新しい神父。


「わかってるって。今、話が終わったところだ」


「なんだ、マルコに挨拶かぁ? 律儀だねぇ」


「お前こそ、ちょっとは神父らしく振舞ったらどうだ? オスカー」


「へ! こんな田舎村でそんなことするだけ損、損。可愛いシスターちゃん達のお尻を追っかけてる方がよっぽど有意義だわ」


 軽薄でテキトーな性格の神父だが、不思議とマルコ神父と同じくらい優秀であるようで、勉強を見てもらったことがある。


「お前、俺達がいなくなって、シスターやシエラに手ぇ出すんじゃねえぞ」


「ほーい」


 このテキトーな返事、まったく信用ならない。

 よく神父になれたなぁと素直に思いながら、待たせている荷馬車のところへ向かった。


「……先生、行ってきます」




 ――そこに着くと、ディーノが手を振って出迎えてくれた。


「おーい。何やってんだよ、フェルト〜」


「悪りぃ。ちょっと先生に挨拶な」


「えっ!? お、俺もしてくる!」


「あっ!? ちょっ、ちょっとぉ……!」


 フレゼリカの止める言葉を無視して、ディーノは教会まで走っていった。


「まったく……そういうのは事前に済ませておくものでしょう?」


「悪りぃ、悪りぃ」


「まったくだよなぁ? フレゼリカちゃ――だだだだっ!?」


 オスカー神父がサッとフレゼリカの腰に手を回そうとすると、手の甲をつねられる。


「この不良神父さんはどうしてこう、簡単に手を出そうとするのかしらぁ」


「相変わらずガードが固いな、フレゼリカちゃん」


 見送る両親もいるというのに、いい度胸である。


「オスカー! お前も見送るつもりなら、もう少し真面目に見送ってやったらどうだ?」


 オスカー神父の態度に村長もほとほと呆れ果て、こんな対応になっている。

 村長がオスカー神父のことをあまり良く思ってないのは、別に理由がある。


「馬鹿言ってんじゃないよ、村長ぉ。コイツらの将来の門出、明るいものにするつもりなら、粛々とじゃなくて、いつも通ーりの態度でいることがコイツらのためになるもんです」


 言ってることはまともだ。

 下手に心配され過ぎるのも問題だし、見送る側が緊張されれば、それはこちらのモチベーションの問題にも繋がるだろう。


「ねえ!? シエラちゃん?」


「そ、そうですね……」


 そう言ってオスカー神父はシエラの肩に手を回すと、


「気安くウチの娘に手を出すなと、どれだけ言えばわかるんだ!」


 村長がオスカー神父を嫌う最大の理由はこれである。

 中々自分の意見を口にできないシエルが返答に困っているのをいいことに、簡単にスキンシップを行おうとする。


 幸い、フェルト達の目が光っていたから問題ないが、いなくなったら村長、大変なんじゃないかと心配になる。


 そんな村長とオスカー神父が揉めている中、そのシエラがこちらへ来た。


「向こうに行っても頑張ってね」


 この村を出るのはフェルトだけではなく、ディーノとフレゼリカもこの地を離れる。


 ディーノはフェルトと共に王都へ行き、冒険者へ。

 フレゼリカは別大陸にある魔法都市の学園で優秀な魔法使いになるため留学。


 シエラはこの村に残ると決めたそうだ。


「おう」


「シエラ、いい? あのスケベ神父が身体を触ってきそうになったら、ちゃんと悲鳴を上げるのよ」


「う、うん。気をつけるよ」


 散々、父である村長に口酸っぱく言われた様子を見せる。


「何か俺達より、シエラの方が心配だよな?」


「ホンットに気をつけてよ、シエラ」


 するとボルドが、わははっと笑いながら現れる。


「大丈夫。俺達がちゃんと目を光らせておくから、そんなに心配すんじゃねえ」


「ボルドさん」


 するとそのボルドがキョロキョロと辺りを見る。


「あれ? ディーノの馬鹿はどこ行ったんだ?」


「先生に挨拶」


 この村の住民ならこれだけで、十分理解してもらえる。

 するとボルドは、まったくあの馬鹿はと、ぶつぶつと文句を口にする中、


「フェルト」


「母さん」


 ケリングとオリーヴが見送りの挨拶に来てくれた。


「向こうでもしっかりやるのよ。ちゃんと三食食べて、歯も磨いて、洗濯物も溜め過ぎてはダメよ。それから……」


 オリーヴの過保護モードが発動。

 それがわかってか、ケリングが途中から割って入る。


「まあまあ。フェルトはしっかりしてるし、そんなに言わなくても大丈夫さ」


「そ、そうかもだけど……」


 自分の手元から離れるわけだから、親心としては寂しいやら悲しいやらで、心配もするだろう。

 特にフェルトの場合は、神眼やダマス神父、人喰いのこともあって、特に心配していることだろう。


 そしてここから先は、もっと心配かけることにもなる。


「母さん。ちゃんと手紙も書くし、長期の休みになったら元気な顔も見せにくるからさ。それじゃあ、ダメか?」


「……そうね。わかったわ」


「それにこんな言葉もあるんだ。連絡がないのは元気な証拠ってね」


「どういうことだい?」


 どうやらふたりはこの言葉を知らないらしい。


「やりたいことに夢中になり過ぎて、連絡すら忘れてしまうってこと」


「ふふ、なるほどな。お前は割と集中していると、他に気が回らないことがあるからな」


「だから連絡があってもなくても、心配しないでよな」


「……言っておくが、それは連絡しない理由にはならないからな」


「はは。はーい」


 少しでもこの両親に心配かけないような息子で居られるよう、頑張らないといけない。

 前世では突然死んでしまって、できなかった親孝行。


 この両親にもたくさん世話になった。


 片目が無い状態で生まれてきたにも関わらず、たくさんの愛情をもらった。

 前世の記憶があるものだから、こそばゆい気持ちが強くあったが、感謝している。


 フェルトがこの両親にできることは、自身にしてくれたように、人に優しく、人を助けられるような人間であること。


 これはマルコ神父のことにも当てはまることだが、ここまで育ててくれた恩返しというならば、そんな生き方をして、立派な姿を見せてやるのが筋というものだろう。


「おーい。お待たせ」


 ディーノが息を切らしながら帰ってきた。


「お前なぁ! そういうのはちゃんと前々に……」


「まあまあ、おじさん。俺もついさっきだったんで、そんなに言わないで」


 フェルトの場合は出発時間に間に合うように、先生に挨拶するつもりだったから、ディーノへのお叱りもわかるわけだが。


「よし。じゃあ、みんな乗りな」


 フェルト達を運んでくれる商人が荷馬車に乗れと、指示されるとみんなは乗り込んだ。


「じゃあ行ってくるよ」


 みんなが行ってらっしゃいと見送る中、シエラが一歩前に出る。


「私、みんなが帰ってくるこの場所をパパと守って、待ってるから。いつでも帰ってきてね!」


「「おう!」」

「うん! お願いね!」


 シエラはシエラなりにフェルト達同様、先のことについて考えていたようだ。

 寂しいそうな顔をすることなく、笑顔で見送ってくれた。


 フェルトの後ろをトコトコとついて回っていた頃より、頼もしくなった気がする。


 すると、オスカーがスッとシエラの横へ。


「安心しろ。俺とシエラちゃんで――へえっ!?」


「「「「お前はとっとと仕事しろぉ!!」」」」


 フェルト達はオスカー神父に石を投げつけ、更には村長に思いっきり襟首を引っ張られているオスカー神父。


 とんだ賑やかな出発になったとフェルト達は笑った。

皆さま、ここまでのご愛読ありがとうございます。


幼少期編はここまでとなります。


次回編からは十五歳からの物語をじっくり書いていくこととなります。


どうかフェルト・リーウェンの物語をお楽しみ下さい。


感想、ブックマーク、レビュー、誤字脱字なども随時、受け付けておりますのでよろしくお願いします。


それでは。

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