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大罪の神器  作者: Teko
幼少期編
20/177

12 人喰い4

 

 仮面の少女と対峙するノーウィンは、辺りを軽く確認すると、耳につけていたイヤリング式の通信用魔石で状況報告。


「ディアン、聞こえる?」


『聞こえるぞ、ノーウィンさん。状況は?』


 その連絡中、仮面の少女は雄叫びをあげながら、ノーウィンに攻撃を開始する。

 激しい拳を打ち込んでくる仮面の少女の攻撃を躱しながら報告が続く。


「芳しくないわね。私達が駆けつけた時には、ほとんどの住民が死亡していたわ。生き残りと致命傷を食らってしまったのをアンジュに村まで送らせている」


『わかった。アンジュと合流次第、そちらへ増援に――』


 仮面の少女は近接だけでは攻め手としてぬるいと思ったのか、絶妙な距離を保ちつつ鎖の鞭での攻撃も加えてきた。


「ええ。お願い」


 ヒュンヒュンと獣人でも当たればタダでは済まない鉄の鞭が飛んでくる。


 そして――、


「――アアアアアアッ!!!!」


 先程の雄叫びとは毛色が違うと、嫌な予感に身の毛がよだったノーウィン。


 直線上に放たれた真空波を紙一重で躱した。


「……! コイツ……かなり、ヤバい、わ!」


 そう言うとこれ以上、気が逸らせないと通信を切った。


 この真空波は先程の神父がやられたものだと判断できた。

 実際目の当たりにし、間に合わなかったのだから。


 そして辺りの死体にもその痕跡が残っていることを見ると、当たりどころが悪ければ即死ということが理解できる。


「随分やってくれたわね」


 激しい攻防を繰り広げる中で、ノーウィンは状況を更に分析し、考察する。


 ノーウィンも人喰いのウワサは知っている。

 魔物を食らうだけでは飽き足らず、農村まで襲った報告もあった。

 更にはこちらに冒険者が派遣されていたことも報告にあったが、この村にいないことを考えると、仮面の少女(これ)に全滅させられたことも理解できた。


 そして獣人の察知能力を活かし、匂い、音、肌から感じる触覚から仮面の少女自身の得られる情報を分析。


 ノーウィンは犬型獣人の優れた五感能力から、ディアン隊の斥候を任されており、分析力には長けている。


 ちなみに最年長であり、もう五十を過ぎるが、見た目は成人女性くらいに若い見た目。

 童顔なせいか、下手したら幼いまである。


 だがさすがに獣人というだけあって、仮面の少女のパワーとはいい勝負をするのだが、それに関してノーウィンはおかしいと判断する。


 匂いから判断すると、仮面の少女は人間の十歳未満だと推定。

 魔力量などもその平均を超えない。


 だがこの獣人すら引けを取らない戦闘技術、獣人に負けることのないパワー、そして全てを抉り尽くす真空波。

 これが何のデメリットも無しに発動できるというのは、違和感しかなく、ノーウィンの野生の本能が叫ぶ。


 ――コイツとは戦ってはいけないと。


 そんな悪寒に苛まれながらも、辺りの死体を見れば悔しく、申し訳ない気持ちの方が後押しする。


「……もう少し、早くこちらへ来ていれば……」


 この辺りは最近、聖女の巡礼が行われていなかった影響もあって、魔物が蔓延(はびこ)っており、討伐をしながらノーウィン達はこの村にたどり着いたのだ。


 だがこんなことは騎士(プロ)として言い訳にはならない。

 だから一切引くことなど許されるはずもなければ、引く気もない。


「――アアアアアアッ!!」


「来なさい! 化け物娘!」


 すると仮面の少女はその場でブレイクダンスでも踊るかのように身体を回し始めた。


「!」


 すると鉄鎖の鞭が無差別に襲ってくる。

 おそらく獣人であるノーウィンの察知能力の高さの対策であろう。


 いくら理性が無いとはいえ、攻撃というものには規則性がある。

 この鞭攻撃だって横払いか縦払いくらいが相場で、腕の動きや風の動きなどで判断がされてしまう。

 ましてや獣人であれば、その辺りの分析力は高い。


 だから仮面の少女はあえてその場で激しいブレイクダンスの回転を行うことで読みにくい攻撃をかけてきたのだ。


 しかも利点はそれだけではない。

 無差別とはいえ、敵のいる場所くらい把握できるため、攻撃の規則性を無くすだけに留まれるという点、これだけの鎖の鞭の弾幕を張れるので、防御にも活かせるという点、ノーウィンは獣人ということもあり、魔法攻撃などの遠距離攻撃が無い点など、様々な理由からノーウィンを追い詰められる、攻防一体の攻撃と化している。


「チッ!」


 仮面の少女の本能が的中したのか、ノーウィンは無差別に飛んでくる鎖の鞭に悪戦苦闘。

 鎖の鞭を回避することで攻めあぐねていると、その場で体力が消耗されていく。


 獣人であるノーウィンならば、これだけのパワーの鎖の鞭を受け止めることは可能かもしれないが、ほぼ確実に骨は逝くだろう。

 未知の力で攻めてくる相手にそんな自殺行為はできない。


 ノーウィンは何とか攻撃が止むまで回避し続けるしかないのだが、


「ガアッ!!」


 一瞬、ブレイクダンスを止め、口を開くと真空波が飛んでくる。


「なあっ!?」


 回避しているその動作の隙を狙うかのようなタイミング。


 ノーウィンは空中で身体を回転させて回避に成功するが、仮面の少女は既にブレイクダンスの体勢を取り、鞭が飛んでくる。


「この……! 確実に殺しにかかってきてる……!」


 仮面の少女は自分と同じくらいの近接戦闘ができるノーウィンには、その土俵で戦うことを完全に切り捨てたようだった。

 それは見ても明らかだったノーウィンは、リスクを承知で前へ出る。


 無数の鎖の鞭を紙一重で躱しながら、距離を詰めていく。

 するとある一定の距離までたどり着くと、地を思い切り蹴り、高速歩行術――瞬動術で懐に飛び込んだ。


「大人しく、しなさい!」


 仮面の少女の虚をつくよう殴りかかったが、想定していたのか、すぐに体勢を戻し、その拳を跳んで躱し、バックステップしながら鎖の鞭が薙ぎ払われる。


「ガアッ!」


「しまっ――ぐううっ!?」


 地面に殴りかかるように打ち出した拳を引っ込めるのが間に合わず、鉄鎖の鞭を受けてしまうが、何とか腕でガード。

 しかも仮面の少女も無理な態勢からの薙ぎ払いだったせいか、威力もそこまでだったが、


「……!」


 それでも妙な痛みを感じたノーウィンは、骨にヒビくらいは軽くやられたと感じた。


 仮面の少女はそのままヒュンヒュンと回転しながら地面に四つん這いになって着地すると、頭をギョロっと上げた。


「!」


 鉄鎖を受けて、若干の硬直をしてしまった隙をつかれる。

 もう既に仮面の少女の口は開いている。


 ノーウィンを過ったのは、あの真空波。


「ガアッ――」


「――うおおおおっ!!」


 すると茂みから奇襲をかけるようにふたりの男性が仮面の少女を襲う。

 感づいた仮面の少女は口を閉じ、ふたりの攻撃を躱すように跳んで距離をとった。


「ノーウィンさん! 大丈夫ですか?」


「ユナ。……ええ、大丈、夫っ」


 鉄鎖を受け止めた右腕に痛みが走ったノーウィンを見て、


「ユナ、治癒を」


「はい! ――ヒール」


 ディアンが無理をするなとノーウィンを庇うように前へ出る。


「遅れてすまないね、ノーウィンさん」


「さん付けやめろって言ってるでしょ? アンタが隊長」


「はは。倍も年齢――がはっ!?」


「歳のことも言うな」


 ディアンはノーウィンの蹴りツッコミを受ける。

 これはいつものやり取り。


「さあ、お二方。じゃれあいもそこまでにして下さいね」


 そう言ったアーガスはバッと服を脱ぎ、上半身裸で臨戦態勢を取る。

 その先には、口元からよだれをボタボタと(こぼ)す仮面の少女の姿がある。


「……アアアアアア……」


 まるで獲物が来て、高揚しているかのように喉を鳴らす。


「な、何だか獣みたいですね」


「みたいじゃないわよ。少し()り合ったけど、私、獣と戦ってる気分だったわ」


「――アアアアアアッ!!」


 敵が増えたという認識をしたようで、ディアン達目掛けて突っ込んでくる。

 人数が増えたことで、先程までの攻撃は隙が生じると本能的に判断しての行動。


「各位、散開!」


 そうディアンが命令すると、各自、取るべき行動を迅速にとる。

 ディアン、アーガス、ノーウィンは前衛として前に出て、ユナはバックステップを複数回とり、魔法の詠唱を開始した。


「ノーウィンさん、奴についての情報は?」


 三人がかりで仮面の少女と()り合う中、攻略法を探るためにも先行したノーウィンからの情報は当てにしたいディアン。


「嫌な情報が多いわよ」


「それはそれは。まあ……これだけの怪物ならばね!」


「ガアッ!!」


 アーガスは打ち込まれた拳を受け止め、仮面の少女と力比べを行なう。


 ガッシリとした筋肉を持つ、魔導拳士であるアーガス。

 肉体強化魔法を自身に施し、鍛え上げられた筋肉と魔法を使って巧みに戦うことを得意としているが、鍛えているだけあって、力比べにも自信がある。


 だが、


「ま、まさか……! 私とここまで力比べができる少女がいようとは! まったく、自信を喪失しそうです」


「ウウガァアアアアアアッ!!」


 お互い一歩も譲らず、それどころか地面の方がもたないのか、ふたりの踏みしめている地面がめり込んでいく。

 そこに真空波の攻撃を知るノーウィンがふたりを切り離すようにかかと落としで割って入る。


「安心して。獣人である私とも対等なの。いえ、下手したらそれ以上ね!」


 仮面の少女は後ろへ跳んで躱し、鎖の鞭を打ち込むが、アーガスとノーウィンは体勢を低くして回避。


「だけどその力の源は不明よ。魔力や筋力、体重などは人間の女児、十歳くらいと変わらないわ」


 この三人と張り合って戦えているのが、人間の女児で十歳にも満たないと聞かされるとディアン達は驚愕の表情。


「……冗談だろ?」


「筋力についてはちょっと冗談よ。飛躍的に向上してる」


 筋肉の動きがその年齢とは違うと目視から判断しての発言。


「それでこの筋力のつき方が不明だと?」


「ええ。ただ常に身体に負担がかかってるのか、身体が悲鳴を上げ続けてるわ」


「なに?」


 ノーウィンの優れた聴覚から、仮面の少女の骨がメシメシとヒビが入るようは音が聞こえていた。

 そこからノーウィンはあるひとつの答えにたどり着く。


「推測だけど……火事場の馬鹿力って知ってる?」


「あ、ああ。あのひ弱なおばあちゃんがタンスを持ち上げるとか何とか……」


「ええ。要するにはその状態が常時発動しているとすれば? しかもかなり極度の……」


「!」


「それなら色々と辻褄は合うの。彼女が理性を失っていることも、口元が汚れていたり、よだれが流れていたりすることも……」


 彼女は確かに何かに苦しんでいるように見えた。

 仮面の奥に見える血走った目は、とても十歳未満の少女がするような目ではなかった。


 あの目は、空腹に苦しんでおり、目の前に獲物を捕らえた時の視線に似ている。


「……つまりノーウィン殿は、彼女は極度の空腹に苦しんでおり、それで理性を失い、脳が活性化し、筋力のリミッターが外れ続けている。……そう仰りたいのですか?」


「ええ、そうです。そして――」


「ガアッ!!」


 ディアン達、前衛隊の者達に向けて、真空波が放たれた。

 三人とも回避すると、仮面の少女の口元を見た。

 転がっていた死体が消失し、彼女の口元には血が滴っている。


「エネルギーの補給方法があの当たれば即死の真空波ってわけ」


「まさか……! あの真空波がエネルギーの吸収だとでも言うのか?」


 するとユナが試してみましょうかと言うと、先程まで補助魔法での援護に徹していたユナが攻撃魔法に転じる。


「――形なき水よ。形を為して今、敵を討て! ――アクア・ハンマー!」


 ボコボコと大岩サイズの水球は複数出現し、大砲の弾のように勢いよく仮面の少女へ飛んでいく。

 当たればその水圧により、仮面の少女が吹き飛ぶくらいの威力が想定される。


「ガアッ!!」


 だがその空中に飛ぶ水球を物ともせず、大きく口を開くと、真空波を発動。


「なっ!?」


 全てを消失させられ、仮面の少女を見ると、


「ゴクリッ」


 まるで水を飲み干したかのように、喉が鳴った。


「……検証結果は、魔法攻撃すら呑み込む、か」


「なら、あの真空波は防ぐことも不可能ですな」


「更に言えば、身体の治癒も行われるみたいよ」


「なに!?」


 ここまで連携して攻めてついた傷も確かに再生しているのを確認した。


「はは。冗談みたいな力だ」


「でも冗談ではないのでしょうね。よく考えれば、彼女はかなり戦闘時間が長い。理性が無いようだから気力はともかく、体力はとっくに限界を迎えていてもおかしくないはず。ましてや脳が活性化し、筋力上昇して、これだけ全力で戦っているのだから、倒れない方がおかしいのよ」


 一同はノーウィンの意見に納得する。


 自分達より明らかに体力どころか身体作りすら発展途上の少女が、これだけ無茶な戦い方をすればガタが来ても不思議ではない。

 ならばどうやってそのエネルギーを補填しているかと考えれば、先程の結論に帰ってくる。


「つまりそれらを維持するためにこの呑み込む真空波を放つ必要がある」


「ええ。実際、放つだけで回復するんじゃないかしら? 空気中には魔力もあるだろうし……」


「しかも草木や魔物、ましてや人間を食えば回復量は増えるとでも?」


「だから私達を見て、よだれを流したのでしょう? 言いたくないけど、人間の味を覚えたのよ、彼女」


 ノーウィンのこの言葉に全員、背筋が凍った。


「もしくは栄養価があるとでも思われたんじゃない? 彼女的に」


「どちらにしても嫌な話、だ!」


 仮面の少女は再び襲ってきたので、各自も再び散開。


 そして更にノーウィンは悪いお知らせをする。


「もうひとつ悪いお知らせがある」


「これ以上、何があるんだ!? ノーウィンさん!」


「ここの教会からふたりほど、人の気配がする」


「「「!?」」」


 一同は教会を横見した。

 ノーウィンは音を拾うように耳をピクンピクンと動かす。


「……震えている様子を察するに、おそらく逃げ遅れた感じ。匂いからしても女性だから、シスターかしら?」


「割と冷静に言っておられるがこの状況、それはあまり欲しくなかった情報だ」


 ディアン達がウワサに聞いていた人喰いは、あくまで被害のみであり、どれほど厄介な存在なのかは不明とされていた。

 だからこそ、ディアン隊が総出でかかっても渡り合える実力があることは、ある程度は覚悟していたこととはいえ、想定を超えていた。


 そんな戦闘力のある仮面の少女を前に、人命救助もしなければいけないのは、あまり頂けない状況ではある。


「とはいえ、人命最優先だ。ノーウィンさん、彼女達の避難を任せられるか?」


「隊長命令とあれば。あと、さん付けやめろ」


「しかしディアン殿。この少女を相手にノーウィン殿抜きでいけますか?」


 アーガスの懸念も尤もであった。

 ノーウィンは獣人ということもあり、かなり周りのサポートができる人材。


 実際、ユナが魔法をしっかり使えるのも、ノーウィンが積極的に囮になったり、誘導したりした影響が大きい。

 ディアンやアーガスもそれを担えるとはいえ、ノーウィンほどの五感能力は持っていない。


 しかも相手は異質な能力を持つ、獣のような敵意と殺意を剥き出しにした仮面の少女。

 容易に人員を割くべきではないが、


「いけるじゃない。やるしかないだろ」


 ディアンは剣をしっかり構えて、仮面の少女に挑発するように向ける。


「わかりました。ならば今一度、力比べと参りますか!」


 アーガスは両拳をガツンとぶつけ、気合を入れる。


「サポートはお任せ下さい」


 ユナも自分の身の丈以上の杖をしっかり握った。


「いけ! ノーウィンさん!」


「わかった!」


 するとノーウィンは仮面の少女に突っ込む。


「ガアアッ!!」


 迎え撃つように仮面の少女も、突っ込んでくる。


 そして拳を打ち出すが、


「!?」


 ノーウィンはそれを回避すると、仮面の少女を通り過ぎていく。


 カウンターされるか、同時に拳を撃ち込まれると勘違いしていたのか、仮面の少女は一瞬、動作が止まり、過ぎ去っていくノーウィンに振り返る。


 すると、


「――はああああっ!!」


 ノーウィンの後ろから走って来てたのか、ディアンが仮面の少女に斬りかかる。


「アアッ!!」


 だが反応速度が速い仮面の少女は、ディアンの剣を空振りさせると、そのまま距離をとる。


「逃すか!」


「魔法攻撃、いきます! ――ウォーター・スプラッシュ!」


 仮面の少女を追いかけるディアン。

 その仮面の少女の足元から、激しい水流の魔法が吹き出す。


 それはさすがに突然の攻撃だったこともあり、仮面の少女は空中で回転しながら、飛んでいく。


「グアッ……ガアッ!!」


 空中で体勢を固めると、ユナの方に顔が向いた仮面の少女。

 グバッと口を開く。


「――ユナ殿ぉ!」


 その攻撃は読んでいたとばかりに、アーガスはか細いユナの身体をガッシリ掴み、瞬動術でユナに向かって飛んできた真空波を回避。


 そうこうしているうちに、


「グッ……?」


 仮面の少女は地面にスタッと着地すると、教会の方の人影を見た。

 そこには、両肩にシスター服を着た女性がふたり、抱えられていた。


「あ、あの……っ」


「大人しくしてなさい。死にたくはないでしょ?」


 ノーウィンはそう言うと、戦場を飛び越えるように、高く跳躍していく。

 ふたりのシスターは思わず、


「「――きゃああああっ!?」」


 あまりの高さに思わず、耳の良いノーウィンの耳元で叫ぶ。


「ちょっとうるさい!」


 そんな文句を口にしながらも、ノーウィンは素早く村の方へ向かっていった。

 それが気に入らなかったのか、仮面の少女は追いかけようとするも、


「行かせるか!!」


 ディアン達が行手を阻む。

 そして邪魔されたことに苛立った仮面の少女は、威嚇の咆哮を叫ぶ後、戦闘が再開する。


 ノーウィンに何とか教会のシスター達の避難をさせることに成功し、決死の攻防が繰り広げられる。


「やはりノーウィン殿が抜けただけでも、大分しんどいですな!」


「戻ってくるまで消耗させろ! あと、できる限り接近戦を心がけろ! あの真空波を使わせるな!」


 あの真空波は距離等は関係ないだろうが、仮面の少女はどちらかといえば、拳の届かない距離から使うことが多い。

 それに接近戦で細かく、素早く攻撃を行えば、それの返しとして、仮面の少女も隙が生じる真空波は使いづらく、格闘戦を余儀なくされる。


 そうなれば回復も担う真空波を撃ちづらくし、しっかり消耗させる作戦にしたのだ。


 だからか、サポートに特化していたユナも攻撃主体となる。


「――凍れ、大地よ! ――フリーズ・フィールド!」


 仮面の少女の足元がバキバキと凍りついていくが、ベリッと破られ、空を跳んだ。


「――突き立てよ! ――フリーズ・ランス!」


 その凍った大地から尖った氷の槍が複数突き出て、仮面の少女を襲う。


「ガアッ!」


 だが仮面の少女は器用にその槍の上にスタッと乗り、強く蹴り上げて、ユナ目掛けて突進。


「させぬよ!」


 ザッとアーガスが拳を振りかぶって迎え撃つ。

 気付いた仮面の少女も拳を打ち付ける。


 ふたりの拳が衝突すると風圧が生じ、思わずユナは顔を守るように手でガードする。


「きゃっ!」


「ユナ殿ぉ! 少し離れておれ!」

「ガアアアアッ!!」


 一度、拳を弾き合うと互いに拳を連打する。


「おおおおおおっ!!!!」

「ガアアアアアアッ!!!!」


 ゴンゴンゴンと、とてもじゃないが拳が弾き合っている音ではない衝突音が響く。


「まったく……少女と()り合う光景ではありませんなぁ!!」


 キリがないと思ったのか、仮面の少女はバク転をしながらアーガスの拳を回避すると、鎖の鞭で攻撃。


 すると、


「それを待っておったぁ! ――むんっ!」


 その鎖の鞭をバシッと受け止めたアーガス。

 その横をディアンが気遣う一言を添えながら、仮面の少女に接近する。


「手は大丈夫か!?」


「かなり痛かったですが、なんのこれしき!」


 下手をすれば手の骨も逝くであろう威力だっただろうが、アーガスの手は分厚く、肉体強化魔法も施されている。

 その証明なのか、不意に掴まれたのが予想外だったのか仮面の少女は、アーガスに引っ張られる。


 そこをディアンが斬り裂く。


「――はああああっ!!」


「――ガアッ!?」


 ザシュッと一太刀浴びせることに成功する。

 十歳未満の少女の身体にはかなり致命的なダメージとなっただろう。


「よし! 畳み掛け――」


「ガアッ!!!!」


「――ぐあっ!?」


 仮面の少女は斬りつけていったディアンに裏拳をお見舞いする。

 彼女の身体に引き裂かれた切り傷が火種となったのか、その裏拳の威力も尋常ではない音がした。


「ディアン殿!」

「ディアン隊長!」


「――がっ!」


 ディアンは地面を転がりながら、なんとか勢いを殺すが、そのまま木にぶつかる。


「おのれ!」


 アーガスが鎖をもう一度引っ張ると、


「ガアッ!!!!」


「なっ!? しまっ――」


 逆に引っ張り返されてしまい、今度はアーガスがバランスを崩し、そのまま引き寄せられる。


「ガアアアアッ!!」


「――ぐぶっ!? ばはあっ!?」


 そのまま渾身の腹パン。

 アーガスの巨漢も物ともせずにディアン同様、吹き飛ばす。


 そして、最後の矛先はユナに向いた。


「アアアアアア……」


「くっ……」


「ガアッ!」


「ユナぁ!!」

「ユナ殿!!」


 仮面の少女がユナに突進した瞬間、バッと目の前から抜刀術の構えの騎士が現れる。


「へ?」


「紫電抜刀――雷閃(らいせん)!」


 その騎士はそう言うと雷撃が疾ったように、その場から消えると、仮面の少女の後ろに着地。

 キンっと刀を仕舞った音がした。


 すると、


「――ガギャアアアアッ!?」


 仮面の少女の腹部から激しい血飛沫が噴き出る。


 仮面の少女はその騎士の抜刀術を視界に捉えることができず、斬りつけられたことをその騎士が過ぎ去ってから、痛みとして感じたのだ。


「皆さん! ご無事ですか!?」


 そしてその抜刀術を使用したのは、シスター救助をお願いされたアンジュだった。

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