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大罪の神器  作者: Teko
幼少期編
18/177

10 人喰い2 *教会サイド*

 

 フェルト達を見送り、姿が見えなくなったのを確認すると、


「……ああは言ったが、実際はどうなんだ? マルコ神父さんよぉ」


 ボルドは不安げにそう尋ねてきた。


 その不安はとても理解できるものであった。

 あの幼い容姿からは放たれるはずもない、狂気に満ち満ちた重圧(プレッシャー)

 数々の元冒険者達を薙ぎ払う戦闘センス。


 そして何よりフェルトから『大罪の神器』であると伝えられている。


「そうですね……。どれだけ甘く見積もっても――死期が見えますね」


「だよな。現役でもこんな怪物とやったこたぁねえ」


 するとひとりの村人が恐怖に歪んだ顔をする。


「だ、だったらよ、逃げようぜ。それがわかってんならさ!」


 するとボルドは剣幕を変えて怒鳴る。


「――馬鹿野郎っ!! そんな真似できるか!」


「ボルド、意地を通してる場合じゃないだろ? ア、アレは確かにヤバい……」


 今も仮面の少女に攻撃されている村人達は必死に抵抗し続けるも、


「し、しま――がばあっ!?」

「た、助け――べえっ!?」


 次々と殺されていく。

 状況が明らかに切羽詰まっているのが、目にわかる光景。


 両手足につけてる鎖付き拘束具の先には、身体を抉った際に飛び散った血が、口元にも何故か血が滴っている。

 その足元には、もう既に息の無い元冒険者の村人達が、どこかしらの身体の一部を抉られた状態で倒れている。

 その物々しい雰囲気が場を凍りつかせていく。


「そんなこたぁ、わかってんだよ! だからこそ引けねえだろうが! 俺達がここで全滅したら、次はてめえらの家族がコイツとご対面だ。それでもいいのか!?」


「「「「「!?」」」」」


 ここにいる者達は少し離れた場所にあるいつもの村を見た。

 この目の前に対峙している化け物が、あそこの村に目が向かないなんて、都合の良い話などあるわけがない。


 家族を、受け入れてくれた大切なあの村を地獄に変えるわけにはいかなかった。


「ボルドさんの仰る通りです。今、立ち向かわず逃げ出しては、(のち)に後悔するのは貴方達ですよ」


「――グアアアアアアッ!!!!」


 仮面の少女は雄叫びを上げながら突っ込んでくる。


 迎え撃つボルドは、とても少女の細腕から放たれるはずのない重い拳を懸命に(かわ)す。

 打ち込まれ、紙一重で躱すもビリビリとした風圧だけでも威力を物語っており、


「ガアウッ!」


「しまっ――」


 蹴りを躱したかと思うと、繋がっている足の鎖付き拘束具が追撃してきた。


「――セイント・シールド!!」


 するとボルドの前に白く半透明な防御壁魔法が展開。

 だが仮面の少女の攻撃の威力は凄まじく、ガラスでも叩き割るように簡単に割れるが、そのおかげで軌道が逸れたのか、当たらずに済んだ。


「うおっと。助かったぜ、神父さんよぉ」


「お礼は結構! 専念して下さい!」


 すると怖気付いていた村人達も決死の覚悟を決めたようで、


「ボルドとマルコ神父の言う通りだ! こんな化け物を女子供の前に晒すわけにはいかねえ!」


「ああ。ここで止めるぞ!」


「「「おおっ!!」」」


 ボルドに続けと、村人達も果敢に仮面の少女と戦う中、マルコ神父は少し距離を取り、魔法を詠唱。


「皆さん! 何とか弱点を探ってみせます。暫し時間を……」


「わかった! 突破口を頼むぜ、神父!」


「いきます――【鑑定】!」


 マルコ神父は考える。

 フェルトの『強欲の義眼』の【識別】は、『大罪の神器』と思われるこの仮面の少女には効かない。

 だからこそ、『情報が得られない』から『大罪の神器』だと判断できたと考えられる。


 だが自分は【鑑定】を使い、つまりは『大罪の神器』でないのなら、多少なりとも情報を得られるのではないかと考えた。


【鑑定】は唱えてから、多少の時間を有し、対象の情報を可視化できる魔法。

 皆が懸命に戦うのをハラハラした面持ちで見守りながら、【鑑定】の結果を待つ。


 早く、早くと急かす心を抑えながら待っていると、少しずつ可視化されていく。


「よし……!?」


 だが得た情報はあまりに信じられないものであった。


「なっ……ば、馬鹿な……」


 マルコ神父の【鑑定】を戦いながら待つ村人達が、その驚愕した表情に困惑する。


「お、おい、マルコさん。何がわかったんだ?」


「弱点は見つかったのか? どうなんだ?」


「――マルコ神父!!」


 するとマルコ神父はだらんと脱力した様子で、自分が見たものを説明する。


「その仮面の少女は……まだ十歳も満たない人間の少女です……」


「「「「「なっ!?」」」」」


 誰もが驚愕するのも無理はなかった。

 言うなればフェルト達より年下で、これだけの戦闘力を持ち、これだけの大人を圧倒できる存在が、人間の十歳以下の少女だなどと信じられるわけがなかった。


 元冒険者でなくとも、このくらいの少女の潜在能力など、いくら天才と呼ばれる類の人物であったとしても、実戦経験が不足しているなど、年齢を考えればわかること。


 しかし彼女は全く違った。


「……内包している魔力もその年齢の平均を超えるものではありません」


「だ、だったらどうしてここまでのパワーと速さで攻撃できるんだっ!!」


「わかりません! わかりませんが……」


 だがマルコ神父にその心当たりはあった。

 この少女は今、人間の危機的状況に陥ると発現されると思われる火事場の馬鹿力状態、つまりは『脳のリミッター解除』がされているのではないかと悟った。


 人は生きるために常に余力が残るように、全力が出せないよう、脳が身体にリミッターを課している。

 だが時として人は生き残るために、そのリミッターを外すことができる。

 寝たきりのお婆ちゃんが危機的状況から脱出するために、タンスを持ち上げたりなどが聞かれる話。


 そしてマルコ神父はこの少女の状態を冷静に判断した後、絶望した。


 彼女の身体能力の飛躍的向上をそれだと仮定して、その状態を作り上げているのが、おそらくあの仮面。


 だがそれだけではこの強さは説明できない。

 あの仮面は他にも少女に影響を与えていると考えた。


 おそらくあの仮面はその装備者に負担を与えているのではないかと考えた。

 脳のリミッターを解除()()()()()なんて芸当はその人間の生命を脅かす行為になる。


 そこで思い立ったのは、口元に滴る血。

 おそらくあの真空波は彼女にとっての『食事』ではないかと判断したのだ。

 抉られたように見えたアレは、おそらく何かしらの現象を持って、彼女のエネルギーに変換されたのではないかと考えた。


 それならば多少の過度な脳の負担も軽減できるし、定期的にあの真空波を放ち、本能的に命の危機が迫るとエネルギー補給のため発動し、辺りを食い散らすのにも説明がつく。


 その判断材料はフェルトから以前より聞いていた『大罪の神器』から連想できる。

 七つの大罪の中に『暴食』という罪がある。

 彼女が所持しているのは『暴食の仮面』と考えれば、全ての辻褄が合うのだ。


 そしてそこまでの答えが出ると、あれだけ獣のような身体の動きをすること、理性が無いことも『暴食の仮面』ということを踏まえれば説明もつく。


 暴食行為を行なう過程として、むしゃくしゃしたら食べるのは勿論だが、基本、人は腹が減れば食事を摂る。

 そして腹が減っていれば、ついつい食べ過ぎてしまう。

 これが心情というものではないだろうか。


 彼女に与えられているのが、もし空腹、飢えであるならばこれらの行動原理にも説明がついてしまう。


 彼女は脳のリミッターを解除させられ、酷く身体のエネルギーを消耗、理性を失うほどの飢餓状態に陥っているのを回復するための真空波。

 そして、人は危機的状況になれば脳が活性化されるため、飛躍的に思考速度が早まるが、理性が無い獣のような考えで戦うことでしか満たすことができないという選択が無いという矛盾に陥る。


 その矛盾こそが彼女の獣のような動きとパワーの源となれば、彼女が今行なっている行動は、生きるための生存本能のみ。


 生存本能のままに獲物を喰らおうとする獣ほど恐ろしいものはなく、人間がそんな状態に陥るなど例がなく、起きた惨状は目の前に広がっている。


「とにかく、その少女は付けている仮面の影響を受けている可能性が高いです」


「だろうな。魔力感知してもアンタの言う通り、魔力はそんなだが、あの仮面からは嫌な雰囲気しか感じない。……それをひっぺがせばいいんだな?」


「あっ、いや……」


 仮面を外せば解決するかもと考えるボルド達だが、マルコ神父はその考えを改めさせることも考えなければならないと言い澱む。


 『大罪の神器』は一度装備してしまえば、死ぬまで外すことはできない。

 これもフェルトから聞いた情報。


 だが『大罪の神器』の情報はできる限り隠した方がいいだろう。

 余計な不安を煽るだけだし、何よりフェルトの今後を考えるとどうしても情報の漏洩は避けたい。


「馬鹿言うな、ボルド! こんな動きをする化け物の仮面を引っ剥がすなんて芸当できるかよ!」


「馬鹿野郎! そこしか勝機はねえだろうが!」


 マルコ神父は、この少女がどんな理由があって『暴食の仮面(こんなもの)』を身につけたかは知らないが、あまりに苦行であると同情心が湧く一方で、『大罪の神器』の恐ろしさを五感で痛感している。


 目の前が血と死肉で染まる景色、血の匂いと死を与えようと叫ぶ咆哮が恐怖を与え、全身を震えさせる重圧(プレッシャー)

 対峙すればするほどにその凄まじさを脳内に刻まれる感覚は、冒険者時代にも感じたことのなかった感覚であった。


 そしてそれは今、目の前で戦っているボルド含めた元冒険者の村人達も痛感していること。


「仮面を剥がすどころ――かっ!?」


「攻撃すら当たらないのに――ひ、ひびいっぎっ!?」


 次々と仮面の少女の被害が続出していく。


「て、てめえら!! く、くそぉ……」


 マルコ神父の考察だけでも厄介なのに、更に厄介なのは、何故か両手足に付いている鎖付きの拘束具。


 引きずり回したあとだろうか、繋いであったブロック塀などは既に無く、完全に両手足のリーチを伸ばすだけの凶器と化している鉄の鞭。

 彼女は近接戦闘を重きにしているようだが、距離を取ってもその狂気の鞭が襲ってくるし、何だったら躱したと思った蹴りが二段構えとなって襲ってくる始末。


 理性が無い彼女だが、戦闘面に関するセンスが研ぎ澄まされているのか、簡単に使い熟してくる。


 そして何より厄介なのは、


「いけない!!」


「くそがっ!!」


 彼女がガパッと口を開いた先には、三人のおじさん。


「――セイント・シールド!!」


 その三人の前にマルコ神父の防御壁が展開され、間に合ったと思われたが、


「「「あ、あああ――」」」


「なあっ!?」


 その防御壁など無いにも等しかったのか、関係なく三人は消え去り、上半身を中心に狙われたのか、三人の足だけが無情にも残った。


「あ、あの真空波……防御壁も貫通するのかよ」


 その光景には生き残っている村人達もマルコ神父も絶望する。

 そして――、


「バリバリ、ガリガリ……」


「な……なあ……!?」


 仮面の少女は地面に転がっている死んだおじさん達を貪り始めたのだ。

 その光景はもう、言葉を失うほどに狂気たらしめる光景であった。


 両手で必死に腕、足、頭を血走った目で食らう姿は正にモンスター。

 だがまるで飢えを凌ぐかのような必死な食いっぷりに、マルコ神父はリミッター解除説は濃厚だと判断できた。


 だが、


「こんなものを……少女にこんな所業を与えるものを……わたくしは許したくないっ!!」


 マルコ神父はこの少女が人間を食らう未来など望んだはずがないと、あんなに苦しんで叫び、戦うことを望んでいるはずがないと、『大罪の神器』の存在を強く否定する叫びと共に、マルコ神父は魔法を唱える。


「――神よ! あなた様のご慈悲により、この哀れな身に堕とされてしまった少女に、救いの光をっ!!」


 仮面の少女を中心に光の魔法陣が展開。


「神父っ!!」


「――裁きよ! ――ジャッジメント!!」


 光の柱が仮面の少女目掛けて落ちていく。


「少女よ! これがわたくしにできるせめてもの慈悲! お受け取りなさい!」


 上級魔法ではあるが、光属性であること、ジャッジメントが攻撃に特化したものであることから、当たればタダでは済まない。

 しかも攻撃の速度も早いため、回避も難しい。


 だが仮面の少女は、バッと上向き、口を開いた。


「な、なにっ!?」


 その真空波がジャッジメントに向けて放たれると、簡単にその光が飲み込まれていった。


「お、おい……神父さんよぉ」


「わ、わたくしもこんなことになるとはぁ……」


 防御壁を貫通するなら、まだ理解はできた。

 だが攻撃魔法まで飲み込んでしまうのは、あまりに想定外であった。


 仮面の少女も、ごくりと何かを飲み込んだ。


 それを見た一同は同じことを思っただろう。

 あの光の柱を丸呑みしたんだと。


 まるで人喰い蛇が人間を丸呑みする姿を見ているかのような光景。


 するとボルドは思わず笑った。


「ははっ。ちくしょおが。どうすりゃあいいんだよ」


「……あの仮面を破壊するか、彼女を殺すしか……」


 そのマルコ神父の意見に生き残っている村人達は反論する。


「こんな化け物、勝てるわけないだろ!?」

「現役時代でもこんな奴無理だ!」

「何か手があるのか!?」


 そんな反論がくることは承知していたマルコ神父だったが、自分もどうにかできるとは考えられないほど絶望する光景。


 この哀れな少女を救いたい、フェルトにこんな化け物と戦う未来を残したくはない。

 そうは思うが、力の差があまりにもかけ離れ過ぎている。

 自分の無力さを呪うばかりである。


「……もういい」


 するとボルドからボソッとそう呟かれた。


「今、生き残ってるてめえら。もう尻尾巻いて逃げちまってもいいぜ」


「ボ、ボルド。だ、だがお前、今度は村がって……」


「わかってるよ。だから俺は最後まで戦う。俺には守らなきゃならねえディーノ(未来)があるからな。だがてめえらがそれに付き合う義理はねえ。家族と共に村から出な。こんな化け物と()り合うより、外の魔物と()り合う方がよっぽどマシだ」


 確かにボルドの言う通り、『大罪の神器』の所有者である彼女と戦うより、おそらく獰猛になってしまっている魔物と戦う方がいいかもしれない。


「コイツの足止めは俺ひとりでやる。だから行け」


「!? ば、馬鹿言うんじゃねえ! こんな化け物をひとりで――」


「馬鹿はお前達だ! 見ただろ? この化け物嬢ちゃんの異常性を。……最初逃げようって言った時、引き止めて悪かったな。だが、ひとつだけ頼みを聞いてくれ。俺の嫁とガキを守ってくれ。それだけ聞いてくれりゃあいい――行けえっ!!」


 すると残った数名の村人達は、悔しそうに息を呑みながら、


「わかった。すまない……!」


 そう言って逃げ出した。


「さて……かかってこいよ! 化け物!」


「かかって来なさい!」


「はあ!?」


 ボルドは思わずその横に並び立つ人物を見た。

 マルコ神父だった。


「し、神父!? あんた馬鹿か!? 逃げろっつったろ?」


「わたくしは逃げるなどと一言も言っていません」


「い、いや、あのなぁ……」


 一歩も引く気などは無く、キリッとした表情で言い切ったマルコ神父に、ボルドは思わず呆れ果てる。


 すると今度はマルコ神父が物申す。


「貴方こそ、冗談でも笑えませんよ」


「なに?」


「その言い方では、まるで死にに行くような物言いではありませんか」


 明らかな確信のついた発言だが、元よりそれを隠すつもりもないボルドは、微笑んだ。


「当たり前だろ。俺ひとりでこの化け物を倒せるとは思ってねえ。だからせめてアイツらの逃げる時間だけでも――」


「ふざけないで頂きたい」


 マルコ神父は怖い顔でボルドの胸ぐらを掴んだ。


「し、神父……」


「確かに貴方の仰る通り、この少女に勝てる術を我々は持っていない。しかし、だからといって命を投げ捨てることなど、わたくしの目の黒いうちは断じて許しません!」


「!」


「約束なされたはずです、息子さんと。生きて帰ると。ならばその約束を果たすことだけお考えなさい! ディーノ少年に親を亡くしたという苦行を、これから死ぬまでお与えになるつもりですかあっ!!」


 仮面の少女がまだ貪り食う中、マルコ神父の説教が辺りを木霊(こだま)する。

 そしてその言葉が心に響いたのか、ほぼ諦めていたボルドの心に火がついた。


「そ、そうだな。悪かったよ、神父」


 マルコ神父はその胸ぐらを離した。


「俺達、約束しちまったもんな。無事に生きて帰るって」


「ええ。まったく難解ではありますが……」


 貪り終えたのか、二人の方に視線が向けられる。


「…………ハラ……ヘッタァ……」


「おいおい、マジかよ」


「……冗談ではないようですね」


 仮面の少女の口元からは血だけではなく、ヨダレも流れていた。


「――ァアアアアアアッ!!!!」


「神父、悪いな。最後まで付き合ってくれ!」


「そのお言葉、そっくりお返しします!」


「――うおおおおおおおおっ!!!!」

「――うああああああああっ!!!!」


 仮面の少女との激闘が再開された。


 前衛はボルド、後衛をマルコ神父が務め、転がり貪られた死体が転がる教会広場を所狭しと戦う。


 一撃でも当たれば即死という極限の戦闘の中、二人は何故か頭の中に、今までの情景が浮かんできた。


 ――これは……!


 正に走馬灯と呼べるものだった。

 マルコ神父は、昔の仲間のことやこの村に来たての頃、そして近年のフェルトのことなどが思い浮かんだ。


 マルコ神父は、もうすぐ側に死神が待機しているのだと悟ったその時だった。


「――ぐああっ!!」


「――ボルドさん!!」


 ハッと見た時、ボルドの右腕が吹っ飛んでいた。


 鎖の動きからすると、おそらく腕が弾き飛ばられたのだろう。

 そしてもう口が開いており、その方向にはボルドがいる。


「こ、ここまでか!? くそおおおおっ!!」


 死を覚悟したボルドだったが――ドンと背中を押された。


「なっ!?」


 思わずバランスが崩れ、その背中を押された方向に視線が向いた。

 そこには、


「し、神父……!!」


 ニコリ笑う神父の姿と、空を跳ぶふたりの人影を見た。


「生存者確――」


 ノーウィンとアンジュが確認した瞬間だった。


 マルコ神父がその真空波を受け、右半身が吹き飛ぶ光景が広がった。


「!?」


「――はああああっ!!」


 アンジュはスタッとボルドとマルコ神父の元に降り立ち、ノーウィンは仮面の少女に蹴りかかったが、躱された。


「だ、大丈夫ですかっ!? し、しっかりなされて……」


「――アンジュ!」


 あわあわして対応に遅れるアンジュに、ノーウィンが喝を入れる。


「は、はい!」


「アンジュはそのふたりを村まで連れて行きなさい! 私がコイツに対応する」


「し、しかし……」


 アンジュは見た瞬間に、この仮面の少女が異質であると理解し、ひとりでは難しいのではと表情を歪めるが、


「――命令! 行きなさい!」


「は、はい! かしこまりました」


 ノーウィンの気迫の命令に素直に従うことにしたアンジュ。


「失礼します」


 怪我を負っているボルドとマルコ神父を両肩に抱える。


「お、お嬢ちゃん……」


「ご安心を。私は騎士です。お二人を抱えて走るくらいわけありません。……ノーウィン先輩、すぐに戻ります」


「ええ。早く行きなさい」


 すると、ギュンとその場を走り去った。


 そしてノーウィンはこちらを威嚇して唸る仮面の少女をギッと睨むと、バッとフードを取った。

 ピンっと黒い獣の耳が敏感に音を捉えるよう、ぴくぴくと動き、詮索するように鼻がひくひくと動く。


「貴方が『人喰い』ね」


 辺りには食い荒らされたような人の死骸が転がる。

 その光景を見れば、一目瞭然だった。


 すると獣人特有の体術の構えを取った。


「無念に殺された者達の報いは、私が果たす!」

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