04 新たな客人
――色んなことを抱えたフェルトの日々は忙しい。
学生生活は勿論のこと、エドワード王子殿下の治療のこと、ヘールポート大陸での治療のことなど、学生とは思えないほどの多忙を極めていた。
その上、聖女事件での知名度もあり、フェルトの学園での立場も高くなったため、ここに来る前に想定していた学園生活とはかけ離れたものとなっていた。
「ふぃー……疲れた」
「お疲れ」
だから寮でのひとときはフェルトにとって、数少ない休息の場となっている。
アルスがテーブルに倒れるフェルトに水を差し出し、フェルトは飲み干す。
そしてその疲れた様子のフェルトにグエルとユーザも様子を見に来た。
「本当に最近多忙だな? 大丈夫なのか?」
「あまり根を詰めすぎるのはよくないぞ」
「そんなつもりねぇよ。こちとら少しでもゆとり欲しさに頑張ってんの!」
フェルトはアルスに水の催促にコップを突き出す。
「はいはい」
実際、このほとんどの問題はフェルトが持つ『大罪の神器』である『強欲の義眼』や『色欲の右腕』でなければ解決が難しい以上、フェルトが多忙になってしまうのは、避けようのないことだ。
一応、各問題点が上がっている箇所の方々はフェルトの負担を少なくしようと計画されているが、それでも限度はある。
「ま、わかってたことだから仕方ねえよ」
「しかし君も相変わらずだ。夏季休暇に故郷に帰ったかと思えば、他国の問題を解決したと聞いたよ」
「こりゃあいよいよ国を救うのが趣味って言われても否定できなさそうだよな」
「馬鹿言うんじゃねえよ、ユーザ! 勘弁してくれ」
すると、
「――それはこちらのセリフだ。フェルト・リーウェン」
「「「「は?」」」」
こんな放課後の寮での団欒中に、嫌味でも言いたそうな聞き覚えのある声が聞こえた。
「……またですか? ギルヴァート先生」
フェルトはため息を吐き呆れるが、ギルヴァートはもっと深いため息を吐いた。
「……俺は貴様の伝書鳩ではないんだがなぁ……」
「はは」
それを聞いたフェルトは渇いた笑いしか出てこなかった。
最近のギルヴァートはフェルトの客人案内人にされてしまっている傾向がある。
担任教師というだけなのに、大変なことである。
「それで? 今度はどなたが俺を呼びつけてるんです?」
「……お前はいい加減、国を救うことでも趣味にしてこい。そう思うほどの人物がご指名だ」
「は? 普通に嫌ですが」
「陛下もお待ちだ。さっさと来い!」
そう言うとギルヴァートは無理やりフェルトを連れていく。
「わかりましたから、ちょっと離して!!」
首根っこを掴まれ、連れて行かれるフェルトを眺めるアルス達は、
「また一悶着ありそうだね」
そう呆れて見送った。
***
――ギルヴァートに引っ張られ連れて来られたのは、学園長室。
「学園長。フェルト・リーウェンを連れてきました」
そう言ってノックしたギルヴァートに学園長のキュリアは、
「ご苦労様。君はもう休んで大丈夫だよ」
本当にギルヴァートは伝書鳩扱い状態。
でも部屋の面子を知るギルヴァートは、呆れたため息を吐きながらも、その理不尽を了承。
「……わかりました。失礼します」
あっさりと引き下がったかと思いきや、
「……フェルト・リーウェン」
「は、はい」
「失礼のないようにな」
「は、はーい」
いつもの釘を刺してその場を後にした。
そしてフェルトは「失礼しまーす」と学園長室に入ると、そこには慣れ親しんだオルディバルの姿があった。
「フェルト・リーウェン。待っていたよ。放課後にすまないね」
「いえ。構いませんが……」
室内には学園長室の主であるキュリア、オルディバル陛下、そして見慣れないふたりの男がそこにはいた。
フェルトは不思議そうにそのふたりをジッと見ながらも、オルディバルに手招かれるまま、椅子に向かう。
すると槍を携えた、目付きの悪い細身で粗暴の悪そうな男がギロっと睨みつけてくる。
「あぁ? コイツが例のガキか?」
その口の悪い言い方がいつも通りなのか、隣にいるまるで勇者のような佇まいをしている、顔立ちも整った白銀の鎧の男は爽やかに反応する。
「そのようだね。赤髪のオッドアイの少年……キミがフェルト・リーウェン君かな?」
「は、はい。まあ……」
曖昧な返事をすると、目付きの悪い方はムッとする。
「……お前、俺たちのこと知らねえのか?」
まるで自分達は有名人だと言いたげな発言。
「……申し訳ありませんが知りません。どこのどちら様ですか?」
そう言ったフェルトはギルヴァートが失礼のないようにと言っていたことを思い出す。
身なり的にはどこぞの王族とか貴族というわけではなさそうだ。
それならオルディバルの手前、もう少し礼儀正しい振る舞いをするだろう。
少なくとも白銀の鎧の方はともかく、目付きの悪い方はとてもじゃないが、身なりや態度的にも有り得ない。
となればフェルトが過った答えは、
「……もしかして英雄の盃さんですか?」
「……おいおい。本当に知らねえみたいだな」
「はは。僕らもまだまだということさ」
どうやら正解だったようで、目付きの悪い方には呆れられ、白銀の鎧の方は謙虚な反応をし、すくっと立ち上がると、手を差し出す。
「初めまして。僕の名前はケインだ。キミの言う通り、英雄の盃のひとりだ。どうぞよろしく」
「ど、どうも……」
かなり礼儀正しく挨拶され、ちょっと慣れないフェルトだが、しっかりと握手を交わした。
するとケインについてオルディバルが補足する。
「彼は英雄の盃のリーダーも務めている」
「え!? そうなんですか!? ってことは英雄の盃で一番、強えのか?」
するとケインは軽く笑い、
「リーダーとは名ばかりですよ。みんながみんな、実力者揃いだからね。まとめ役が必要だっただけで、実力自体は拮抗している。それに僕自身もまだまだ若輩者だからね」
かなり謙虚な姿勢を見せたが、横にいる目付きの悪い方はケッと呆れる。
「……どの口がほざくんだか……」
「何か言ったかい?」
「別に」
「それで? アンタは? 同じく英雄の盃さんなんだろ?」
フェルトがそう尋ねると、不機嫌に返す。
「本当に知らねえんだな!? ハッ! こんな世間知らずなガキを推薦するなんざ、リィルの目も腐っちまったのか?」
どうやらリィルの勧めでここに訪れたようだが、本人は納得いかない様子。
「ほらライル。自己紹介しないと……」
「ケッ! ライルだ」
そう言ってフェルトにひらひらと手を振って軽く挨拶した。
ケインはその態度に物申したそうに眉を顰めるが、オルディバルもいるため、言及はせずに本題に入るため、今一度確認をとる。
「オルディバル国王陛下。彼がフェルト・リーウェンですね?」
「ああ。その通りだ」
「改めて初めまして、フェルト・リーウェン君。えっと……リーウェン君で大丈夫かな?」
フルネームは長いと呼び方に指摘を受けると、「フェルトでもリーウェンでもお好きにどうぞ」と返答し、わかったとケインは頷き、本題に入る。
「貴重な放課後の時間を取らせてしまってすまない。でも大事な話があって来たんだ」
「みたいですね。リィルさんからの推薦がどうとか……ヘールポート大陸に行って来たんですね?」
フェルトはちらりと情報源のライルを見た。
「ああ。そうだね。ちょっと確認したいことがあってね……。その時に聞いたよ、キッドのこと……」
するとライルは不機嫌そうに嫌味口を叩く。
「ケッ! 昔のことなんかとっとと割り切りゃいいものを……」
「ライル。そういうわけにはいかないさ。彼にはアレがあったからこそ、これまで頑張れてこれた背景がある」
「フン!」
「えっと……それが本題ですか?」
フェルトはキッドの過去については覚えがないと言うと、
「ああ! ごめんよ。今回の件では関係ないよ。ただ、これから話すものの被害にはあっていたようだから、つい……」
「!」
キッドが被害を受けたとなるのは、『大罪の神器』に他ならない。
フェルトの顔つきが変わる。
「リーウェン君。君は南大陸――オセパニア大陸についての情勢はどこまで知っているかな?」
「オセパニア……? えっと、亜人種の里が多くある大陸で、人間の国との戦争とかも結構酷かったというくらいか? そういうことから溝も深いとかなんとか……」
授業で習う範囲くらいの知識しかないと語ると、それくらいで十分だとケインは微笑む。
「そのオセパニアの戦乱は八十年ほど前の戦争で一度、停戦となったわけなんだが……動きがあってね」
「動き?」
「……人間殺しが動いた」
「エヴリン!!」
ケインはここへ来た理由は察しただろうと、こくりと頷く。
「ケッ! 八十年前にあんだけの被害を出しておきながら、仕掛ける余裕があるとはな。お互いに疲弊してるっつーのによ」
そのあたりの情勢を知らないフェルトが不思議そうな表情をしていると、キュリアが少し社会科の勉強をしようとフェルトに語る。
「フェルト君。そもそも何故、オセパニア大陸だけが人間と亜人種が戦争などということをしていると思う?」
「……戦争する理由なんて利害の不一致なんてものじゃないのか? よく言うだろ? 戦争は政治の一部だって……」
「……そうだね。オセパニア大陸に上陸した人間が良くなかった。友好的に迎え入れたはずの人間が暗躍して亜人種達に被害を生み出した。ろくでもない被害をね」
――それこそ昔、まだオセパニア大陸に人間が存在していない時代。
他大陸より訪れた人間を当時の亜人種達は迎え入れいれたらしい。
亜人種の冒険者達より、人間は悪い種ではないと情報を受けてのことだったらしい。
だが、その訪れた人間は研究者だったらしく、表では温和そうに接して、裏では暗躍し、亜人種達を攫っては、生物研究としていたそうだ。
それが亜人種達へと発覚した頃には、オセパニア大陸にできた人間の国は大きく発展していたらしく、その時代の国のトップは開き直るように、亜人種達を実験動物扱いしていたそうだ。
そこから戦争が度々発生。
亜人種達を生物兵器として作る人間国と、魔法に特化した種族であるエルフ、身体能力が高い獣人種達などの互いに痛み分けが続く戦争を歴史として繰り返している。
「……それってさ、一方的に人間のお国さんが悪くね?」
「それはそうなんだけど、戦争を続けていくうちに、お互いに引くに引けなくなって、ズルズルと続いているそうだよ。我々もその国には手を焼いていてね。生物研究を主に行うものだから、裏で暗躍する組織との繋がりも強いことから、説得も難しかった……」
「ああ……今でいうとブラックギルドの連中みたいな奴らか」
オルディバルとキュリアは頷くが、ライルはハンと馬鹿にしたように嘲笑する。
「だが今となってはそういう連中らから利用価値がなくなって見放されてるらしいけどな。でなけりゃ、俺達に依頼なんかしない」
「えっ? 依頼?」
「ああ。先程、人間殺しが動いたと言っただろう? だからエルフ達を中心とした亜人種が戦争を再会することを探り当てたようでね。我々に参加してほしいと依頼があった」
「……でも確か、ギルドは戦争等の国がらみ関連は不干渉って話じゃなかったか?」
「だから彼の国からは――人間殺しエヴリンの殺害を依頼してきた」
「名目としてはな」
名目としてはとライルが嫌味口に話すところを見ると、それを理由についでに戦争にも参加させるつもりなのだろう。
「なるほど。つまりはケインさん達に依頼した理由は、八十年前の戦争での疲弊がまだ残っており、孤立している自国に、エヴリンを含めた亜人種軍に迎え撃つ手段がなく、エヴリンをダシに英雄の盃であるアンタらを呼びつけたってわけだ」
「その通りだと考えられる。僕らのギルドの人間に亜人種軍の状況を探らせているが、やはりエヴリンが支援を受けている……」
過った支援先はひとつしかない。
「――ブラックギルド、笑顔の娯楽提供者か」
「ああ。君は知っている話だろうが、エヴリンがブラックギルドに所属している。最初、リィルから聞いた時は驚いた……。まさか人間殺しとまで言われるほどの人間嫌いの彼女が、人間のリーダーの組織に所属するとは……」
「それは同感。……なるほど。俺のところに来た理由がなんとなーくわかりましたよ。そのエヴリンの傍らには、キッドさんに被害を及ぼしたナナシと俺達が呼んでる奴がいる。それの対処ができるのは俺だけだとリィルさんから聞いて、ここに来たんだな?」
「さすがだね。リィルに聞いたとおり、中々頭がキレるようだ」
「はは。そりゃどうも」
あの人は余計なことを言うなとフェルトは苦笑い。
だが、それにはライルは納得いかないようで、
「ハッ! お前なんかに頼らなくたって、そんな洗脳野郎くらいどうにかなるってもんだ」
「ライル。リィルから聞いたはずだ。その絶対服従は魔法の類ではないと」
「でもそれが何なのかは教えてくれなかったじゃねえか」
リィルが『大罪の神器』について語らなかったから、尚更納得がいかないようだ。
「それについてもリィルから聞いただろ? ――フェルト・リーウェンから聞けと」
「!」
そう言ってケインはフェルトを見た。
どうやらリィルからある程度の釘は刺されていたようだ。
「フェルト・リーウェン……」
「……わかってますよ、陛下」
オルディバルは知っているからともかく、キュリアの前では話せない。
「確かにリィルさんが隠してることについて最も『大罪の神器』に詳しいのは俺だ。だがそんな簡単に情報開示していいものでもない」
「はあ!? リィルには教えて、俺達には教えねえのかよ!!」
「リィルさんは巻き込まれたからな。話すしかなかったから話した。アンタ達もナナシと接触するなら話すが、対処が俺が適切なのは事実だから、余計な情報開示をしなくて済むなら、それに越したことはない」
「なにぃ!?」
納得できず、食い気味に言い寄りそうになるライルをケインは制止する。
「よせ。リィルから聞いているはずだ。その情報の管理は彼がやっていると。彼はその責任からそう語っているんだ。無闇に聞き出すものではない」
「チッ……!」
「理解が早くて助かるよ」
やっとでさえ、ヘールポート大陸ではかなりの人達に教えてしまった。
できる限りの情報制限はしたい。
するとキュリアが深刻そうにフェルトに問う。
「だが今の話し方だとフェルト君……キミは向かうつもりなのかい? 戦争が行われようとしている地域に……」
「あー……」
学生が戦争地域に向かうなんて論外だ。
学園長であるキュリアが深刻に語るのは、生徒を預かる身としては当然である。
「やっぱりマズいですよね?」
「当たり前だ。確かにキミはこれまでの実績を考えても、並の大人より実戦能力も高いし、頭も働く。だがね。それはキミが危険を犯してもいいという理由にはならない」
「まあ……わかりますけど……」
そんな常識はわかっている。
だが、そんな常識さえも簡単に破壊できてしまう『大罪の神器』が戦争で使われてしまう。
そうなればどうなるかなんてのは、それこそオセパニア大陸で起きた八十年前の戦争ほどの被害が出る。
イミエルから聞いた話では、八十年前に彼の地で使われた『大罪の神器』はフェルトが所有する『強欲の義眼』だと語っている。
『強欲の義眼』は【識別】と【記憶の強奪】というところから、戦闘能力と戦況の判断能力の向上と対人の無力化ということだが、ナナシが所有する『傲慢の左足』は【絶対服従】と【傲慢の一撃】であるため、その被害は『強欲の義眼』の比ではないはず。
戦時での回避不能の【絶対服従】なんて、どれだけの被害が出るかは想像が付かないが、聖女事件の最悪を想像すれば、その被害は洒落にならない。
「……キュリア学園長」
「何ですか? 陛下」
「国民を守る義務がある私がこんなことを語るのは、良くないとわかってはいる。だが、彼には行ってもらうべきだ」
オルディバルがキュリアの説得を始めた。
「……陛下や彼が知る、その能力とやらが彼にしか解決できないからですか?」
「いや、正確には彼でなくとも解決はできるだろう。だが安全性を考えれば、間違いなく適任は彼だ。君だって知っているだろう? 聖女事件でのことを……」
「……」
聖女事件でのラフィの『傲慢の左足』については、神の左足ということで、国に広まっている。
そしてそれによる危険性も誰もがわかっていた。
「あの時に解決できたのは彼だ。同じ神物を所有する彼には【絶対服従】は効かなかった。私はそれを目の当たりにしている」
それについてはケイン達も調べていたのか、特に疑問をぶつけることもなく、オルディバルの話を聞き入る。
「そしてそれの危険性も重々承知している。アレが戦争に使用されれば、計り知れない被害を生むだろう。しかもそれを所有しているのが、人間殺しの名を冠するエヴリンの側近ときた。考えるだけでも恐ろしい……」
「だからこそ、彼には行かせるべきではありません。そんな――」
「ケイン殿」
「!」
「エヴリンの動向は探っていると話していましが……」
「……ええ。あくまでまだ準備段階のようです」
「そうでしょうな。そうでなければ、貴方達がこの場に訪れるはずもない」
「……そうか! まだ戦争してないから、俺のところに来たのか!」
ケイン達もまた、フェルトが学生であることを配慮した上で訪れたのだとわかった。
それでも戦争前の地に、学生に向えというのもどうかとは思うが、『大罪の神器』の危険性を考えれば、やむを得ないこともあるだろう。
それを管理するフェルトは納得した。
「キュリア学園長。フェルト・リーウェンには戦争になるのを食い止めることを目的に行ってもらう。おそらくケイン殿達もそのつもりで彼を連れていくつもりだったのだろうしね」
「はい。我々は名目とはいえ、エヴリンの殺害を依頼されました。それはつまり戦争を事前に止めることも可能な立場でもあります。なれば、その神物に対抗できるリーウェン君を連れていくのが、円滑に物事が進むと考えたからです。勿論、彼のことは全力で僕らが守りますし、ましてや戦争に参加なんかもさせません」
「……」
キュリアはそれでも眉間にシワを寄せて考えるが、聖女事件でのことなどが頭に過ぎると、
「……わかりました。エヴリンと接触することから、危険なことはするなというのは無理でしょうが、戦争への参加は絶対させないことを条件に首を縦に振りましょう」
「すまないな、学園長」
「いえ、陛下のおっしゃることもわかります。神物による被害は本当に想像も付かないのでしょうからね」
他国とはいえ、やはり人が大量に殺されるなんてことはあっていいはずがない。
その証拠に『大罪の神器』はあまりに強力過ぎて、歴史上に情報が載らないほどである。
それだけ多くの被害が出ることが確定していることから、必ず避けねばならないことである。
「そういうことだ、フェルト・リーウェン。彼らと共に行ってくれるか?」
「……勿論です、陛下。あの神物の管理は俺の役目。陛下ならお分かりでしょう?」
「ああ。次こそは必ず取り返してくれ」
何かと『傲慢の左足』には因縁がある。
オルディバルやオルドケイア大陸のみんなを安心させてあげるためにも回収は必須だ。
話がまとまりそうになったところに、
「待て待て待て! 勝手に話を進めるな!」
「「「「!」」」」
ライルが待ったをかける。
「オルディバル陛下。貴方はさっき言ったな? んんっ!! い、言いましたよねぇ?」
言いづらそうな敬語にオルディバルは、公式の場ではないのだからと無礼講でいいと許可。
「別にそのガキじゃなくても解決はできるって」
「ま、まあ言ったな」
確かにちゃんと能力の対策ができるのであれば、解決はできるだろう。
ディーノやヘイヴン達が『傲慢の左足』を所有していたナナシを対処できたのがその証拠である。
「俺は最初っから反対だったんだ。それを陛下から聞いて安心したぜ。俺達だけで十分解決できる」
「ライル。キミは甘く考え過ぎだ。エヴリンもそのナナシという神物を持つ人物についてもだ。我々の手に余る」
「甘くなんて考えてねえよ! 確かに俺達は英雄の盃なんて呼ばれちゃいるが、その名に酔い知れて油断したことはねえ! 至って真面目だ!」
その言い方だと、それ以外には割と油断があったようにもフェルトは聞こえたため苦笑い。
だがそれは自身の実力に絶対的な自信があるのだろう。
「そこの学園長の言う通り、ガキは大人しくしてればいいんだ! わざわざ危険を犯す必要はねえ!」
態度はアレだが、ちゃんと良識のある人物であることに、フェルトは目を丸くして聞いた。
「それはその通りだ。ライル、キミの気持ちは僕もわかるよ。けど、それでそのナナシという人物の神物がその能力を奮った時、その被害に子供達は出ないとでも?」
「……! そ、それは……」
「エヴリンは確実に戦争をするために動いている。亜人種達に鞭打ってでも準備しているのがその証拠さ。被害が出てからでは遅い。だから万全を期すためにリーウェン君に協力してもらおうということになったんじゃないか。彼についてはキミも調べたはずだ。その実績は十分だ。何だったら英雄の盃に勧誘したいほどの逸材だ」
「はは。そりゃどうも」
荷が重いなぁとフェルトは三度目の苦笑い。
するとケインはとある提案する。
「ならどうだろう? リーウェン君の実力を見てみるというのは……」
「!」
「ライル。キミは彼が危ないから連れて行きたくないという話だったね?」
「お、おう。足手まといが増えるのは勘弁だからな」
「なら彼が足手まといじゃないかどうかを見てみればいい。そうだなぁ……僕と模擬試合とかどうかな?」
「「「「!!」」」」
「それならライルも納得するだろう?」
「ま、まあ……」
ケインの意見と提案にたじたじのライルは、それで納得してやると返事。
「そういうことだ。巻き込んですまないが、キミの実力を見させてもらう」
「まあ構いませんよ。お互いに実力を知っておいた方が一緒に行動する際に役立ちますからね。それで? 今すぐにやりますか?」
「いや。今日はキミは学校だったのだろう? それに聞くところによれば、結構多忙な身なそうじゃないか。今日はゆっくり休んで……明日とかはどうかな?」
「それでいいのではないですか? 明日は学校は休みですし……」
「それは良かった。なら明日の正午くらいにどうかな? 場所はこの学園にあった闘技場みたいなところで……」
そういう施設ですよねと目配せするケインに、された側のキュリアはこくりと頷く。
「わかりました。じゃあ明日の正午、闘技場にて」
「うん。よろしく頼むよ」
そう言ってフェルトとケインは握手を交わした。