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大罪の神器  作者: Teko
南大陸編 亜人種戦争
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02 エドワード王子殿下の治療 1

 

「フェルトさん。如何ですか?」


「うーん……」


 そうエメローラに尋ねられ、唸るフェルトが見る先には、エドワード王子殿下がいた。


 その様子は魂が抜かれているかのように、虚な瞳で力無く遠くを見ている様子で、聞いていた通りの植物状態であった。


 そして『強欲の義眼』の【識別】でエドワードを見たフェルトは立ち上がり、


「えっと……オブラートに包んで話すべきですか? それとも……」


 フェルトは気の毒そうに頭をかくと、同席していたオルディバルは、覚悟をしている表情で話す。


「ハッキリ言ってもらって構わん。我々もわかっていて聞いておるのだ……」


「……わかりました。ではハッキリと。……ダメですね。完全に植物状態です」


「……そうか」

「……」


 わかっていたこととはいえ、やはりハッキリと口にされると落ち込むふたり。

 特にフェルトが確実な情報を得られる『大罪の神器』を持つと知っているふたりなら、尚更だった。


「……アスベルの言う通り、本当にアスベルの言うことしか聞かない人形になってますね。頭の中にぽかんと『アスベルの指示に従え』って浮かんでるくらいですからね」


「そ、そうか……」


 フェルトはひとしきりエドワードを見終えると、窓に近付き、カーテンを開き、


「しかし、あれですね。せっかく聖都オルガシオンに来たというのに……」


 フェルトは窓の外の様子を見た。


「――中々、辛気臭い状態になってますね」


「……ああ。でもこれでもマシになった方だと聞く」


「でしょうね。でなければ、陛下がこちらに赴くことなんてできないでしょうからね」


 ――フェルト達は聖都オルガシオンへと来ていた。


 聖女事件から、やっと視察に来れるほどに落ち着いたと連絡があり、フェルトはオルディバルに呼び出され、同行している。


 フェルトの同行理由は、アスベルがかけた『傲慢の左足』による【絶対服従】の被害者を診ることに他ならない。

 現にフェルト以外に正しく被害者を診ることができる者がいないから仕方がない。


 聖都オルガシオンの住民達は、個人差はあれどやっと正気を取り戻す者達が増えてきた。


 だが、やはり洗脳されていた記憶がある者もいるようで、不安定な状態で王族の立ち入りなど、彼らからすれば負荷でしかならない。


 しかも聖都オルガシオンの住民は、本当の聖女であるネフィを貶めたという罪悪感も強い。


 だからか、聖都オルガシオンは白を基調とする美しい都であっても、住民達には覇気が無い。


 ましてやまだエドワードのような酷い状態の者までいる始末。


 立ち直るにもかなりの時間を要することは目に見えることだった。


「しかし、やはりフェルトさんの眼で見てもお兄様を戻す手段は見えませんか……」


「ええ。先程も言いましたが、ポッカリと『アスベルの命令に従え』って言葉が浮かんでます。人格が歪められるほどに【絶対服従】を受け続けたんでしょうね。その辺はアンタ達の方が知ってるんじゃないかい?」


 そうフェルトが尋ねたのは、エドワードの留学の側近騎士を勤めていたノートンという若い騎士をリーダーにした男達の姿があった。


 するとノートン達はその場でオルディバルとエメローラに向けて土下座し、謝罪しながらフェルトの質問に答えた。


「エドワード王子殿下はラフィの言葉に抗えず、それはもう……奴らの思い通りに……!! 我々もラフィに命令され、抗うことができず、見ていることしかできませんでした!! 謝罪しても仕切れません!! 陛下!! 姫殿下!! いかような罰でも受ける覚悟が御座います!!」


 エドワードの側近であるノートン達はエドワードほどでは無かったおかげか、正気に戻ってからはこの調子である。


 ガルマの時もそうだったが、責任が重いだけにどうしてもこのような態度になってしまうだろう。


「よい、ノートン。お主らも知っているであろう? 神の力の前では人間など無力だ。我々も同様にラフィより神物である【絶対服従】を受けていた。抗えずにいる苦しみは我も知るところ。そう自分を責めるな」


「……はっ!! お心遣い感謝致します!!」


「それに罰を与えるより、お主らにはやってもらうことの方が多い。責任を感じるならば、少しでも尽力せよ」


「はっ!!」


「まあ聖都を少しでも元に戻さにゃあね。巡回中の聖女ネフィ様の負担を少しでも減らさなきゃな」


「フェルト・リーウェンの言う通りだ。ノートン、お前達、頼んだぞ」


「「「「「はっ!!」」」」」


 話がまとまったところで、改めてエメローラはエドワードについてフェルトに尋ねる。


「しかし、お兄様はずっとこの状態なのでしょうか……」


「おそらくはな。以前にも記憶が無くなることについて語ったと思うが、エドワード王子殿下のものは厳重に行われたもんだ。自我が薄れるほどにアスベルに従うことこそが、この身体の役割だと認知されるほどだ。肉人形とはよく言ったもんだぜ」


 その発言にノートン達はムッとフェルトを睨むが、


「現実をちゃんと精査しないとな。守れなかったアンタ達が解決した俺を睨むのは筋違いだ」


「そ、それもそうだ。す、すまない……」


 立場が悪いとノートン達は落ち込んだ。


「悪い悪い。今のは意地悪だったよ。だが、それだけエドワード王子殿下の状態は悪い。ここまでに軽く通りすがりに住民達を【識別(見た)】が、明らかに王子殿下は他の住民より酷いよ」


「さ、さすが噂に聞く神眼の持ち主。その力、凄まじいものだな」


「はは。そりゃどうも」


 ノートンは初めて目の当たりにするフェルトの『大罪の神器』もとい神眼の力に驚愕する。


 そして酷い状態だと言われたエドワードをオルディバルはそっと頬に手を添える。


「……優しく真面目なエドワードのことだ。【絶対服従】をかけられ続けたのは、他の者達を守るためでもあったのだろうな。そう、思いたい……」


 そう悲痛な表情を浮かべるオルディバルに、フェルトは少し何か言いたそうな表情を浮かべる。


「……」


 すると、


「フェルトさん?」


「は、はい」


「何かあるのですか?」


 察したエメローラが尋ねる。


 するとフェルトは気不味そうに視線を逸らす。


「まあ、何でもないですよ。何でも」


「……お兄様を元に戻す方法があるのですね?」


「「「「「!?」」」」」


 オルディバルやノートン達がバッとフェルトの方へと向く。


「ほ、本当か!? 先程は難しいと……」


「いや! まあ……あまり現実的な方法じゃないので……期待されても困るというか……」


「少しでも元に戻す可能性があるのであれば良い!! 話せ!!」


 オルディバルの剣幕に押されたフェルトは、諦めたため息を吐き、エドワードを戻せる可能性がある方法を語る。


「まあ……ショック療法ですよ」


「なに?」


「エドワード王子殿下はあくまで命令を重ねがけされるかたちで自我を失いました。簡単に言ってしまえば、自我を命令で押し潰されたといえば、想像もしやすいでしょう」


「……なるほど」


「ならエドワード王子殿下の精神を取り戻せるように、その精神に語りかければいいんですよ」


「つまり、自分はアスベルの人形ではなく、エドワード・オルドケイアだと意識させれば、お兄様の精神が帰ってくると?」


「まあそういうことだ」


 だがその意見にはノートンが否定する。


「そんなことはとっくにやっている。我々がいくら殿下に呼びかけても、応えてくれることはなかった。治癒魔法術師も最善を尽くしてくれたが、それにも応えることはなかった。聞いた話によれば、【絶対服従】は神の力ではあると聞いたが、あくまで受けては我々の脳だと聞いた。元に戻せぬほどに殿下の頭に深刻なダメージを負ったのはフェルト・リーウェン、神の眼を持つ貴方ならわかっているはずだ」


「ああ。だから現実的じゃないって言っただろ? だが、それでもエドワード王子殿下には希望がある」


「なに?」


「それは『アスベルの命令に従え』って命令がまだ有効なことだ」


「「「「「……!」」」」」


 何のことだとばかりに一同はフェルトの言いたいことがわからずに疑問の表情を浮かべるが、すぐにフェルトが答えを語る。


「要するには――アスベルにエドワード王子殿下のように振る舞えと王子殿下に命じるんだよ」


「「「「「!?」」」」」


「そうすれば、ひょんな拍子に自我を取り戻す可能性があるだろって話。ね? 現実的じゃないでしょ?」


 それを聞いたオルディバル達は少し考え込む。


「だが確かにそれならば、エドワードの精神に近付けることになるから、自我を取り戻す可能性はあるか」


「ですね。身体自体はお兄様のものですし、精神がちゃんとお兄様のものになれば、自然と元に戻るのでは……!」


 だがそんな希望もノートンが再び否定する。


「陛下、姫殿下。ご期待されているところ、誠に申し訳ないのですが、それも不可能です」


「なに?」


「それは治癒魔法術師もそう考え、実際に幻覚でアスベルになり実行しましたが、反応がありませんでした。おそらく本物でなければ聞かないのでしょう……」


「そうか。元々エドワードを傀儡にするつもりだったアスベルは、他の者達に利用されぬよう、自身のみの命令しか聞かぬよう徹底したのだな?」


「おそらくは。それも含めての重ねがけかと……」


「うむ……。しかもその当人は既に死んでいる。無理か……」


 だがそれをフェルトは否定。


「そんなことくらい、さすがにわかってますよ」


「な、なに? では何故このような話を……? お主だってアスベルが死んだところは見ただろう?」


「そりゃあ目の前でね。確かに俺には死者の蘇生なんて出来はしませんが……」


 フェルトはひらひらと『色欲の右腕(右腕)』を振る。


「――俺にはこれがある」


「「――!!」」

「「「「「……?」」」」」


『大罪の神器』について知らないノートン達は首を傾げるが、オルディバルとエメローラはフェルトの意見の真意に気付く。


 フェルトはヘールポート大陸から帰還後、親書の件も含めて、『大罪の神器』である『色欲の右腕』について、オルディバル達に話している。


「そ、そうか……! お主のその力が本当ならば、本物のアスベル・カルバドスを再現することも可能性か!?」


「で、ですが、それを一体誰に……」


 するとフェルトはハンと鼻で笑う。


「そんなもん、決まってんでしょうが。エドワード王子殿下をこんな風にした連中にやってもらいましょうよ」


 ***


 フェルトのその提案を受け、フェルト達は早速場所を移動。

 着いたのは、オルドケイア大陸にある監獄塔。


 突然の王族の訪問に看守達は驚くも、事情を話すと、


「――事情はわかりましたが、国王陛下とはいえ、身体検査などはさせて頂きます」


「うむ。当然であろうな。存分に調べよ」


 突然の訪問のため、偽物の可能性などのこともあるためと、入るためのチェックがされ、入場を許可された。


「大変失礼致しました! それでは案内をさせて頂きます」


「謝らずとも良い。むしろしっかりとしているようで、安堵したほどだ」


「はっ! ありがとう存じます!」


 そしてフェルト達は監獄塔の中へと入る。


 監獄塔とあるので、登るものとばかり思っていたが、その地下が罪人の収容施設になっていたようで、駆けつけた看守長の案内の下、聖女事件の共犯者達の下に向かう。


 看守長は要件を確認する。


「陛下。かの聖女事件の共犯者達との面会でよろしいのですか?」


「うむ。できればその者達に協力も願いたいのだが……」


「王子殿下の件でしたね? 心中お察し致します。ではその内容をお聞かせ願いませんか? 罪人を管理する身としては、把握しておかねばならないことでして……」


「うむ……」


 オルディバルは、まさか『大罪の神器』による【変質】の力で別人になり、エドワードの精神を取り戻すなどということは話づらいと、フェルトに視線を送る。


「まあ、面会時に話せばいいんじゃないですか? 大っぴらに話せる内容じゃないですからね」


「それはそうだが……」


「神物に関連がある話って言えば、看守長さんも納得するでしょ?」


「!」


 看守長も聖女事件の共謀者を管理している以上、一般的には神物として通っている話は聞き及んでいる。


 実際、エドワードが神物による被害にあっていることも一般的に知られていること。


 それの解決となれば、秘匿すべき内容であることはすぐにわかった。


「わかりました。そちらのご都合に合わせましょう」


「すまない」


 そしてお目当ての階層に着いたのか、牢屋が並ぶ場所へとたどり着いた。


 捕えられた罪人達は訪問者であるフェルト達を、牢屋の中から物珍しい表情で迎え入れる。


「ここにいる罪人らは、結構ヤバい奴らが多いんですか?」


 フェルトはその向けられた表情からそう看守長に質問した。


 単に面会者がいるというだけでも珍しいとも考えるが、それにしては向けられる視線が強いと感じる。


「まあ重罪人が多いことは事実です。現に陛下が会うかの聖女事件の共犯者も、国家転覆もあり得る事件でしたからね。その主犯が亡くなり、その責任を取った者も処刑されたとはいえ、そう簡単に許される罪ではありません」


「あとは単純に王族(われわれ)が訪れることが珍しいだけなのでは?」


「ま、そうだな」


 そうこう話しているうちに、看守長はぴたりと足を止め、


「こちらで御座います」


 そう示した牢屋からは見覚えのある連中の姿があり、その者達もハッとなり、こちらを見た。


「……久しいな。元気だったかね?」


 オルディバルが皮肉混じりにそう語ると、


「ふん! そんな嫌味を言いに来たのか? アスベルの言う通り、この国の陛下様はお暇なんだな?」


 元聖堂騎士のひとりロマンドは、捕まっている立場であることをいいことに、オルディバルに悪態をついた。


 勿論、これにはノートンが噛み付く。


「貴様!! 陛下に向かってなんという口の聞き方を……」


「ハッ! 今更だろ」


 ロマンド達はアスベル、ラフィが主犯として敵対していた挙句、したことへの反省はあっても、オルディバルに対する反省は無いだろう。

 だからオルディバルに無礼を働くくらい、どうでもいいんだろう。

 実際、看守長の前でのこの態度なら、尚更そう感じた。


「自業自得のくせに、開き直りっぷりが中々どうして清々しいもんがあるな」


 その横からフェルトがそう言って、ひょこっと現れると、


「げっ!? フェルト・リーウェン!! な、何でお前がここに!?」


 他の元聖堂騎士達もフェルトの姿を見るや、「ひっ!?」と引いた。


「……お前らさぁ。そりゃあ、あんな事件を起こした手前、陛下に悪態吐くのはわかるけどさ、態度の違いが露骨過ぎないか?」


「う、うるさい!! お前のせいで、こうなってるんだ。俺達の中でお前だけとは絶対会いたくないってのは共通認識なんだよ!!」


 同意するように一同は頷く。


「そうッス、そうッス。もう二度と会いたくなかったッスよ」


「まあまあそう言いなさんなよ、無能レックス君」


「だ、誰が無能ッスか!?」


「えー? 監視ひとつできない人が何言ってんッスかぁ?」


「うううっ!!!!」


 レックスが悔しそうに唸るところをフェルトは軽くケラケラ笑うと、本題に入る。


「まあ俺だってできれば会いたくなかったが、事情があってね」


「事情だと?」


 するとそれは自分から話そうとオルディバルが前に出る。


「私の息子、エドワードに関してだ」


「「「「「!」」」」」


 するとロマンドが嫌味ったらしく話し出す。


「ああっ! あの人の良いお馬鹿王子のことか? 俺達がいなくなった後に聖都を制圧したのは知ってるぜ。そこの看守長にも説明されたからな」


 関係者ということで説明されたのだろう。


「王子殿下は元気だったか? そういえばそこのお付きの奴にも見覚えがあると思ったら……そのお馬鹿王子の無能側近様じゃねえか!? やっと正気に戻れたんだな? いやー、神物様様だぜ! なあ?」


 同意を求められた元聖堂騎士達は傑作だと嘲笑う。


 だがオルディバルにもノートンにも反論の余地は無い。

 悔しさを滲ませながらも、その嘲笑う声に耳を傾けざるを得なかった。


「貴様らいい加減にしろ!! 刑期を伸ばしてほしいのか!!」


「俺は別にいいぜ!! 看守長!! こんな愉快な客人を嘲笑えるなら、刑期なんていくらでも増やせばいいさ!! どうせ今でも出る頃には人生のやり直しも効かないだろうからな!!」


 いくら主犯ではなく、ダミエル責任処刑されたとはいえ、国取りの加担なのだから、刑期は軽くない。

 だから看守長の脅しではもう効かないのだろう。


 色んな意味でラフィのご機嫌取りから成長したと言えるだろう。


「……なら俺からの説得ならどうだ?」


「あん?」


 フェルトがほくそ笑むと、ロマンドが反論。


「確かにこの中では一番お前が怖いが、お前の神物はその目ん玉だろ? それは見透すくらいしかできないんだろ? 俺達の秘密なんてたかだか知れてる。そんなもん暴露されたって――」


「まあまあ、積もる話もあるだろうし、人の目もある……」


 フェルトは辺りの牢屋にも目を向け、詳しい話はここでは避けたいと仕草する。


「場所、移そうか?」


 そして場所を移す準備をしている際にフェルトは、


「看守長」


「はい、何でしょう?」


「移す場所なんですけど……」


 フェルトは看守長に耳打ちで場所を指定。


「そんな部屋ある?」


「ま、まあありますよ。シャワー室がある部屋くらい……」


「オッケー。じゃあそこで」


「は、はあ……」


 フェルトの意図がわからない看守長は、目配せでオルディバルを見るも、そのオルディバルも困った表情で頷き、従うよう促した――。


 ***


「それで? こんなところで話だぁ?」


 ロマンド達も通常の面会室ではなく、シャワー室が完備されている、とても囚人を通す部屋ではないところで話し合いが始まった。


「さっきも軽く話したと思うが、王子殿下についてだ。王子殿下の治療に協力してほしい」


「は?」


 他の元聖堂騎士もエドワードの状態をしているせいか、疑問を持った様子。


「治療って……俺達はあの神物に詳しいわけじゃねえぞ。全部アスベルが指示してたしな」


「そんなこたぁ、わかってるよ。何だったら俺の方が詳しい」


「だろうな。神物使い様だしね」


「お前達はエドワードの状態がどんななのか、わかってんだろ?」


「まあ……」


「それをアスベルが管理していたということを直に見ているなら、それで条件はクリアされる」


「は、はあ……。またお前お得意の推理様か? 勘弁してくれ……」


 いいように使われると嫌そうにロマンドは返事をするが、


「やったことへの責任は取れってことだ。牢にぶち込まれ、囚人労働させられるだけが反省を取る行動だと思わないことだ。実際、噛みついているあたりは反省してないみたいだしな」


「……」


 するとロマンド達はそれに関して反論する。


「反省って言うけどなぁ? 俺達は巻き込まれた側ってだけで、主導は全部アスベルなの!」


「お前らはガキか? 関わって止めるどころか、その恩恵を受けようと受け入れた時点で首謀者と何ら罪は変わんねえよ」


「う、うるせぇ!! と、とにかくだ。王子の治療だったか? 俺達には出来ねえし、俺はやりたくない。どうせ刑期が軽くなるわけでもないんだろ?」


 すると看守長がそれに関して意見する。


「それは条件による。王子殿下はこの国で重要なお方だ。原因を止めず見逃したお前達でも、それに協力し、成果が出れば、多少なりとも考慮される場合がある」


 それを聞いたレックス達は少し表情が明るくなり、それを畳み掛けようと、オルディバルも語る。


「お前達のしたことは許されはしないが、心を入れ替え、報いることができるのであれば、私達の考えも変わるだろう」


 国王陛下まで太鼓判を押されればと、レックス達は受け入れようとするが、


「嫌だね!」


「「「「「!!」」」」」


 ロマンドが机を叩き、舞い上がるレックス達を制止しながら否定。


「お前達だけが来たなら、俺も協力しようと考えたが……」


 ロマンドはフェルトを指差す。


「フェルト・リーウェンが関わってる時点でお断りだ」


「!」


「お前達だってコイツのせいで、こうなったって知ってるだろ? ここにいるのがその証拠だ。何でそんな楽観的なんだよ」


 そう言われたレックス達は静かになる。


「それに神物がヤバいもんだって知ってるだろ? どんなかたちであれ、もうお前と関わるなんて真っ平ごめんだ!!」


 するとフェルトはにーっこりと微笑み、


「何か勘違いしてるな」


「は?」


「これは『お願い』じゃなくて『命令』なんだよ。拒否権は無い」


「なにっ!?」


「看守長さん、コイツら縛り上げてくれない?」


 それを聞いた看守長は、困った表情をするが、


「王子殿下のためだ。頼むよ」


 フェルトの笑顔の圧に負けた看守長は、外で待機している他の看守達を呼び、フェルトの指示通りにする。


「お、おい!! いいのか? こんなの人権問題だろ!?」


「てめえら犯罪者がほざくな。別に悪い取引を持ちかけるわけでもねえんだ。大人しく従ってろ」


「だから嫌だったんだ!! お前みたいなクソガキに関わるのは!!」


「はいはい」


 そしてフェルトの指示通りに縛り上げた看守長はフェルトに尋ねる。


「拷問でもするつもりか? さすがに止めるぞ」


「まさか! そんな横暴な真似しませんよ。ただ……説得はしますがね」


 フェルトは『色欲の右腕』をゴキゴキ鳴らしながら、威圧する。


「なあ、ロマンド。さっき言ったろ? 説得するって……」


「だ、だから! その神眼で脅されたって……」


「この神眼で脅すなんてひと言も言ってないし、さすがに罪人とはいえ、脅しなんてそんな……」


 フェルトは白々しく否定すると、説得方法を答える。


「なあお前ら。久しぶりに発散したくはないか?」


「は? は、発散?」


「溜まってるもんがあるんだろ? 折角だ、天国を見せてやるよ」


 するとオルディバルもさすがにわからないと尋ねる。


「フェルト・リーウェン。その右腕で説得するつもりか? それは変身させる能力しか聞いていないが……」


「――っ!? み、右腕!?」


「ええ。ですから、陛下にもお伝えしていない、もうひとつの力で説得するんですよ」


「ちょっ!? ちょっと待て!! 右腕って何のことだ!?」


「ああ……」


 フェルトはスッと右腕を見せる。


「俺、もうひとつ神物、手に入れちゃった」


「「「「「は、はぁああああ!?」」」」」


「この神の右腕で説得するつもりさ。陛下」


「な、何だ?」


「とりあえず小一時間ほど、この部屋から離れましょうか?」


「そ、それは構わないが……何故かは聞いてよいのか?」


「そりゃあ、コイツらのお楽しみの邪魔しちゃ悪いからさ」


 フェルトがどんな悪巧みをしているかわからないまま、オルディバル達は指示通り、部屋を後にしようとするが、


「ま、待て!! わかった! 協力する! だ、だからフェルト・リーウェンを止めろ!!」


 ロマンドは嫌な予感がするとオルディバルに抗議しようとするが、フェルトがにゅっと横から顔を出す。


「まあまあ、そう言うなよ。たっぷり楽しませてやるからさ」


「や、やめろぉ!! おい!! 止めろぉ!!」


 オルディバルは気の毒そうに部屋を出る。


「フェルト・リーウェン。我々は待機し、残るぞ。何をするか知らないが……」


「囚人の身の安全のためですか? 大丈夫ですよ。どうこうするつもりはありませんから。それにここに残ると巻き込まれますので、貴方達も俺達と一緒に部屋を出ましょう」


「は、はあ……」


 するとオルディバルが看守長を手招きながら、


「看守長殿。今は彼の言う通りに……」


 どうせ説得できんと諦めた様子で呼びかけ、察した看守長も部屋から出る。

 残ったのは縛られたロマンド達とフェルトのみ。


「さて……では良い『快楽』を……」


「ちょっ!? 待――」


 フェルトは『色欲の右腕』でロマンド達に触れると、フェルトはすぐさま部屋を出る。


「フェルト・リーウェン。もう出てきたのか?」


「ええ。プライベートは尊重しないと。看守長さん、ここの部屋を施錠してください。あとは音漏れもしないように」


「は、はい」


 看守長はフェルトの指示通りにし、部屋は完全な密室となった。


「あの……フェルトさん? 彼らに何をしたので?」


「エメローラ姫殿下様のお耳に入れるような内容ではございません」


 と、フェルトはわざとらしく敬語で、中で起きていることを秘匿すると、


「さ! 小一時間ほど放置してれば、奴らも積極的に協力してくれることでしょう! この間に王子殿下を元に戻すための作戦を詰めましょうか、陛下」


「ま、まあ……説得できるというなら、それに越したことはないが……」


 そんかある種の不安を抱えながら、中で何が起きているかわからないオルディバル達はこの場を去るが、意気揚々と歩き出すフェルトに、少々の恐怖を感じたのは言うまでもなかった。

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