09 人喰い2
――フェルト達は何とか怪我を負ったおじさん達を担ぎながら、村までたどり着いた。
すると教会から異常な音が聞こえていたのか、村の人達のほとんどが外に出ていた。
「おい、大丈――!?」
フェルト達の元へ駆けつけた村長は、その両腕を失った二人を見て絶句する。
そして、そのおじさんの両親と思われるお爺ちゃん、お婆ちゃんが駆けつける。
「あ、あんた! こ、これは一体……」
「お、おおお……」
「す、すまない。親父、お袋」
「――すまない! 誰か治癒魔法と再生魔法を!」
「ええ」
駆けつけたのはフレゼリカママと数人の村人。
基本、魔法は何でもござれの人だが、防衛の意味も込めてこちらにいる。
「フェルト君、ディーノ君。この人達の腕はある?」
腕の状態によっては再生治療が可能なのが、異世界での治療。
治癒魔法は体力や疲労、状態異常を行い、再生魔法は傷の治療や切断などされた場合の再生も行える。
治癒魔法術師は大体どちらも使えるが、切断などの難しいものはやはり才能を選ぶ。
「いや、それが……」
「ない。あの化け物に抉り取られた」
その一言に一同が騒つく。
それを聞いたフレゼリカママは、とりあえず止血を行なうため、再生魔法を施し、村人が持ってきてくれた包帯を巻いた。
だがどちらにしても、ふたりの抉り取られたを見れば、腕が残っていたとしても切断部分がぐちゃぐちゃのため、再生魔法は厳しいだろう。
「フェルト! 一体何があった?」
「父さん! ……みんな、落ち着いて聞いてほしい。今、教会の広場で人喰いと元冒険者達とマルコ神父が交戦してる」
更に一同は騒つく。
「村長! 村のみんなは家の中に避難。あの化け物が来る可能性もあるから、できる限り息を殺して潜んだ方がいい」
「そ、そんなになの?」
フレゼリカとシエラもそっとフェルト達の前に現れて、心配そうに尋ねてくると、ディーノが危機迫る表情で語る。
「ああ、想像以上にヤバイ。鎖をぶんぶん振り回しながら、変な空気砲みたいな攻撃で……お、おじさん達を……」
「もういい! 子供がそんなことを思い出さなくていい」
フェルト達が担いできたおじさんが、ディーノに喋らせるのは酷だと止めた。
だがおじさん達の死を見せられれば、もう手遅れな気もする。
「だったら村の外に避難した方が……」
「それは絶対ダメ。今度は人喰いじゃなくて魔物に襲われる」
「フェルト君、そんなに心配しなくていいわ。私達だって……」
「おばさん。あの人喰いがここに来るまでに辺りの魔物達に影響を与えてないと思う? あんな得体の知れない存在が歩いていたら、魔物達が興奮状態になってても不思議じゃない。そんな中をこれだけの人数で歩いてみなよ、格好の的だ」
そんな指摘をされると一同は、ごくりと息を呑んだ。
外に出れば、興奮状態の魔物がいる可能性があり、待っていても、教会にいるみんなが全滅すれば人喰いが襲ってくる。
まさに行くも地獄行かぬも地獄といったところ。
「村長!」
「パパ……」
「……そうだな。みんな聞いてくれ。女子供、ご老人の方々は速やかに家の中へ。ただし、おひとりで避難されぬよう、二人以上で避難するように」
教会で戦っているおじさん達の両親や片親のことを言っているのだろう。
この村はそういう集落だ。
「残りの男性陣は一度、私の家へ来て下さい。……フェルト君、ディーノ君、もう一度訊く。教会で皆が戦っているのだね?」
「はい」
「おう」
「……ならば最悪の事態も想定しなければならない。そのための話し合いを行いたい」
村に残っている男性陣は不安そうにするも、教会方向から聞こえてくる戦闘音を聞くと、「わかったよ」と村長宅へ向かった。
すると村長はシエラの元へ行く。
「シエラ。お前はフレゼリカちゃんのところで待っていなさい。……よろしいですか?」
そう尋ねられたフレゼリカママはこくりと頷いた。
「パパ……」
何かを悟ったように不安げな声を上げるシエラだが、村長は頭を撫でる。
「大丈夫だ。きっと教会で戦っている皆が倒してくれる。私達は万が一の場合だ。そんなに心配するな」
その万が一は十分あり得る話だ。
アレを目の当たりにし、『大罪の神器』と知っているフェルトは尚更、そう感じるものだった。
勿論、マルコ神父やボルド達がやられるとは思いたくない。
何とか無事に帰って来てほしいと切実に思うところだ。
だが、フェルト達がここへ向かう前に既に何人かは殺されてしまっている。
そしてマルコ神父達は大丈夫だと見送ってくれたが、あれが強がりだってこともフェルトにはわかっていた。
だからか、フェルトは駆け出す。
「フェルト君!?」
「フェルト!!」
「俺はまだやることがあるから!」
フェルトはそう言うと村の入り口の方まで走っていく。
「フェルト! 待てよ!」
「ディ、ディーノ君!? 君まで……!」
村長がフェルト達を追いかけようとした時、ケリングが止めに入っていた。
「あの二人は私が連れ戻します。村長はここに残って対策を……」
「……わかりました」
フェルトに追いつこうとするようにディーノが走ってくる。
「おい! ディーノ! 何でついてくる? みんなのところへ行け!」
「お前! 何かする気なんだろ? 俺も行く!」
わかんないのについてくんのかよと思ったが、意味のないことだと説明する。
「先生の話だと王都から優秀な騎士様が来るんだとよ」
「言ってたな」
「だからアレの事情がわかる人間が入り口に立ってた方がいいだろってこと。ひとりで十分だから戻れ!」
正直、『大罪の神器』相手に優秀とされる騎士でもどこまで対抗できるかわからないが、並の訓練を受けた程度の騎士ならともかく、優秀と呼ばれるほどの騎士ならば、元冒険者より腕は立つだろう。
それでも不安を拭いされることはないのだが、少しでも早く向かわせるよう、促すのは悪いことではないはず。
フェルトの説得にディーノは、
「だったら俺も行く!」
「馬鹿! 意味ねえって言ったろ!?」
「意味ならある。ひとりよりふたりの方が説得力ある」
「だから! それが意味ねえって言ってんだろ!!」
事情を説明する人間が増えたところでややこしいことになるだけだとわかってくれないようだ。
その証拠に少し思い詰めた顔をしている。
「だ、だってよ……親父は戦ってるし、お前はお前で、アレに立ち向かったし。それなのに俺、ビビっちまってたしさ……情けねえよ」
「ディーノ……」
同じ男として気持ちはわからないではない。
親父さんはともかく、同年代の奴が勇敢な行動に出て立ち向かっているのに、自分がすくんでいるでは情けない気持ちにもなるだろう。
前世の記憶を持つフェルトとしては、同年代の感覚はあまりないが、立場が逆ならそうしたかもしれない。
だがフェルトは勇敢ではなく、どちらかと言えば使命感に近い感情だった。
何せ『大罪の神器』の事情を本当の意味で知っているからこそ取った行動だからだ。
「だからせめて騎士によ、アイツのヤバさを俺も伝えたい。お前ばっかりに任せてられねえ」
「やれやれ男の子だねぇ、君達」
「と、父さん?」
ケリングがフェルト達に追いつくと、仕方なさそうに呆れている。
「フェルトの親父さん」
「確かに事情をわかっている君達が説明する方が説得力はあるかもしれないが、結界が張ってあるとはいえ、町の入り口は危険だし、何より君達が伝えようとしている化け物はもっと危ないんだろ? 万が一があったらどうする」
合流するなりお説教されたが、あまり怒っている様子ではない。
呆れられているが正しいかもしれない。
何かを諦めたかのような。
「大丈夫だよ、父さん。結界はそんな易々と破壊されないし、何も結界外で待とうとは思ってないから、安心して」
そう答えると安心するどころか、ため息を吐かれた。
「……お前は私とオリーヴの子とは思えないほど優秀で聡い子に育ってくれたが、こういう危なっかしいところも私とオリーヴの子とは思えないほどやんちゃな子に育ったな」
前世の記憶がありますのでとは答えられなかった。
だからそれを隠すように苦笑いで答えた。
とはいえ、フェルトも前世とは少し性格も違ってきているように思う。
異世界に飛んで、環境が変わった影響もあるのだろう、ここまで行動的じゃなかったように思う。
周りは大自然だから、多少やんちゃに育つのは許してほしい。
「だがまあ、そういうことならお父さんも一緒に待とう」
「はあ!? 何言ってんの、父さん。父さんこそ母さんの側に――」
「そのセリフはそのままそっくり返すぞ、フェルト。お前こそ、オリーヴにどれだけ心配をかけてると思ってるんだ」
「うっ……」
オリーヴはフェルトに対して過保護な点が目立つ。
ダマス神父の件があってからは、特に動向をかなり気にするようになってしまった。
一応、ケリングとマルコ神父、村長の説得により、過剰にならぬよう抑えられているが、心配事が重なると三人でも抑えるのは厳しそうだ。
「お前は確かに自慢の息子だ。頭も良いし、気が利くし、剣の腕も立つ。だがな、お前はあまり大人に頼る傾向がない」
「そ、そんなことはないよ」
フェルト自身は十分頼ってると思っている。
マルコ神父にだけな気がするが。
「そうか? 神眼のこともあってか、マルコ神父ばかりに頼られていて、父さん達は中々寂しいぞ」
見抜かれてしまった。
ケリングも自分が頼んだことでもあり、少し言いにくそうにそう語った。
「お前はもう少し甘えてもいいはずだ。父さんにも母さんにも……」
確かにそこは敬遠しがちなところがあった。
なにぶん前世の記憶があることもあり、前の両親がチラつくことがあったからだ。
そうやって育ってきてしまったせいか、こっちの両親の甘え方というものがわからなくなっていた自分がいたことに気付く。
「まあ不甲斐ない父だという自覚はあるが、それでもお前の父なんだ、少しは当てにしてほしい」
「わかったよ、父さん。頼むよ」
「ああ」
今すぐに態度を改めることは難しいが、少しでも両親が安心して見守れるような息子に育とうと考えたわけだが、強くなればいいんじゃないかと思った。
安易だろうか? 安易だろうな。
だが、フェルトが思い付く方法としてはそれしかなく、『大罪の神器』を将来的に回収することを考えれば、心配されないほど強くならなければならないのだろう。
それでも親は心配するのだろう。
フェルトは家庭を持つ前に前世で亡くなっている。
父と母の気持ちはまだわからないだろう。
――少し揉めたが、村の入り口に到達。
一応、結界が破壊されていないかを確認。
この村には結晶石がいくつか囲っており、その結晶石が結界を作っている。
その結晶石には防壁結界の魔法術式が組み込まれており、複数個用意することで発動可能とのこと。
「そういえばフェルト達が遭遇した化け物は、この結界に干渉しなかったのかい?」
「え、えっとすみません、おじさん。俺わかんねえ。ただ突然現れたから、多分、結界は破壊されたんじゃねえか?」
ディーノの指摘通りだと思う。
あの真空波は何でも抉り取るような能力のようだし、結界魔法を抉っても不思議ではない。
「確認してないからわかんないけど、多分ディーノの言う通りだと思うよ、父さん。あれだけの怪力と真空波の攻撃なら村の結界なんて無いに等しいんじゃないかな?」
ましてや『大罪の神器』の一角だ、そう易々と止まってくれるものでもないだろう。
だからこそ、今教会で戦っているみんなのことが気にかかる。
特に自分の父が戦っているとわかっているディーノの焦りは止まらない。
結界の確認を済ませると入り口前で、そわそわとまるでトイレ待ちしているかのように、ウロウロしてる。
「ディーノ。心配する気持ちはわかるけど、もう少し落ち着こうぜ」
「わ、わかってるよ」
行動と言葉が噛み合っておらず、更にそわそわとうろつく。
すると教会辺りから大きな音が聞こえた。
「お、親父……」
するとケリングがニッコリと微笑んだ。
「ディーノ君、大丈夫だよ」
「へ?」
「君のお父さんはまだ無事さ」
「な、何でわかるんですか?」
すると父は教会の方を指差し、ディーノを諭し始める。
「まだ教会で激しい戦闘があるのは、こちらからでもわかるだろう? それはつまり一生懸命戦ってくれている証拠さ。それは無事ってことだろ?」
一理ある意見だが、だからと言って無事であるとは限らない。
だが、今必要な説得はとにかくディーノに不安を与えないことにある。
「父さんの言う通り。それにお前の親父さんは強いだろ? 俺の父さんと違って……」
「は、はは……」
ケリングは、ぐうの音も出ず苦笑い。
「だからさ、信じてやれよ。無事に生きて帰るって約束してくれたろ? な?」
不安で不安で堪らないが、焦って行動を起こしても良い結果には結びつかない。
フェルトは、正に前世の教訓を活かすところと、冷静を保っている。
ディーノが焦って駆け出し、村の外に不用意に様子を見に行かせないためにも必要な措置だ。
「男と男の約束、だろ?」
フェルトの言葉にディーノは、ハッとした。
あの時のボルドさんの背中を思い出したのだろうか、ディーノの目の色が変わった。
「わかった。信じて待つよ」
フェルト達はディーノを落ち着かせると、教会から時たまにデカい音が聞こえるのに、いちいち反応しながら、向かっているとされる騎士隊を待った――。
――どれだけの時間が経ったのだろう。
太陽の位置を考えると、実はそこまで時間は経っていないのだが、人は焦り、待っていると時間を長く感じるものだ。
特に今回の場合は人命がかかっている。
そういう時に限って、時間というものは悪戯に過ぎていったりするものである。
待っているフェルト達もどんどん余裕が無くなり、励まし合っていた口数も減っていく。
息を呑んで、ただただ過ぎていく時間が苦しいと考えるのは初めてのことだ。
こんな苦行はない。
頭に浮かぶのは、こうして待っているうちにどんどんみんなが死んでしまうのではないかと、嫌なことばかり頭に浮かんでくる。
正にそんな負の連鎖をひしひしと感じる最中、
「お、おい……あれ」
希望の一筋が見えたようにディーノは、こちらへ馬に乗って歩いてくる騎士の姿を指差した。
「王都の騎士じゃないか!? ……来てくれた! 来たんだよ!」
するとディーノは思わず駆け出しそうになるが、フェルトはディーノの手を引っ張った。
「お、おい! 来たんだぜ、早くしないと……」
「気持ちはわかるが、こっから大きく手を振って知らせるんだ」
魔物が辺りにいる可能性も十分にある。
それにここから諸手を挙げてやれば、騎士達は様子が変だと気付いてくれるだろう。
「おーい! こっちに来てくれ! はーやーく!!」
フェルトは両手いっぱいに広げて手を振り、大きな声をあげて騎士達を呼ぶと、それに続くようにケリングとディーノも叫ぶ。
「おーい! こっちだ!」
「騎士様ー! 早く来て下さーい!」
するとこっちの異常を気付いてくれたのか、馬を走らせ、こちらへ赴いてくれた。
来てくれた五名の人物は身体を冷やさないためのローブを羽織っており、そのうちのひとりが頭に被ったフードを取った。
「どうされました?」
そう声をかけた男性は二十代後半から三十代くらいの勇ましい雰囲気を放つ人だった。
「あの! 実は! えっと、その、あのだな……」
話す要点がまとまってないのか、ディーノは身振り手振りを混えながら、混乱していることだけを伝えた。
だから居ても意味ないって言ったのに。
「実は――」
――ドオン!
教会の方から大きな爆発音が響いた。
それを聞いたその男性騎士は、
「ノーウィンさん、アンジュ。先行してあの爆発音のところへ」
フェルト達の危機迫るジェスチャーが効いたのか、異常事態だと即座に判断し、ふたりに指示を出した。
「了解」
「わかりました! 隊長!」
ふたりの女性騎士は、素早く馬から飛び降りると、凄まじい速さでフェルト達の前から消えた。
「は、速っ」
「それで何がありました?」
「私は詳しくは知らないのですが、何でも人喰いが出たそうで……」
「人喰い……!」
すると残りの三人も馬から降り、事情を知るディーノが要点がまとまらないまま伝えようとする。
「そ、そうなんだよ。あの化け物、バッと出てきて、グアアって感じでさ、それで……」
要点どころか擬音ばかりで話にならないと、フェルトが語る。
「ここを巡回してくれてた冒険者が襲われたらしく、教会辺りで飛び出して来たと思ったら、人喰いがついて来てたんだ。ウワサ通りの奴。今、教会の神父と村の元冒険者達が足止めしてくれてる。村の住民は家の中に避難してるよ」
「そ、そうそう! そんな感じ!」
説明に乗っかったディーノとフェルトの頭をポンと優しく叩いた男性騎士はニコッと微笑んだ。
「そうか。わかった、ありがとう。君達も怖かったろう? すぐにご両親の元へ戻り、村の人達と同様に家で待っているんだ」
「で、でも……」
「アイツは危険で……」
男性騎士はフェルト達の頭から手を離すと、教会の方を真剣な表情で向いた。
「わかっているよ。後は我々に任せなさい。そちらの方……」
「は、はい!」
「子供達をお願いしても大丈夫ですか?」
「も、勿論です。息子とディーノ君は私が責任を持って避難させます」
すると何やらノイズが入った連絡が聞こえる。
どうやら耳元につけている魔石からのようだ。
『ディアン、聞こえる?』
「聞こえるぞ、ノーウィンさん。状況は?」
『芳しくないわね。私達が駆けつけた時には、ほとんどの住民が死亡していたわ。生き残りと致命傷を食らってしまったのをアンジュに村まで送らせている』
「わかった。アンジュと合流次第、そちらへ増援に――」
『ええ。お願い。コイツ……かなり、ヤバい、わ!』
それが聞こえていたのか、ディーノは絶望した表情を浮かべている。
「な、なあ? ほ、ほとんどが死んだ、のか?」
「少年! 君が気にすることではない! すみませんが……」
ケリングにディーノのことを任せようとすると、ディーノは男性騎士に迫るように尋ねる。
「親父は!? お、親父が……た、戦って……」
「!? しょ、少年! 落ち着きなさい!」
「だ、だって……」
取り乱しそうになるディーノにフェルトは叫ぶ。
「落ち着け、ディーノ!!」
「!」
「生き残りがいるとも言ってた。それにほとんどって聞こえただろ? 数人は無事ってことさ。その中に必ずお前の親父はいる。心配すんな」
「フェ、フェルト……」
正直、これでもかなり甘く見積もっての説得。
あの連絡状況では、ほぼ全滅に近い状況だったに違いない。
ディーノが取り乱しそうになっているから冷静でいられるが、内心、フェルト自身も取り乱しそうである。
マルコ神父が亡くなった可能性がどうしても頭を過ってしまうからだ。
フェルトはあの人に感謝の言葉を伝え損ねたところだった。
『大罪の神器』について相談に乗ってくれて、色んなことを教えてもらった。
それがどれだけ心の支えになってくれていたか、計り知れないものがフェルトの中にある。
失ってて欲しくない。
そんな想いばかりが募るばかりだ。
「とにかく村の方に戻るぞ。話はそれからだ」
そう言うとフェルト達は村の中心まで走った。
アンジュという女性騎士が避難させた村人が、ディーノの父ボルドとマルコ神父と信じて。
するとその中心にはアンジュと村長が話をしており、二人の人影があった。
そのひとりは――、
「お、親父っ!!」
ボルドだった。
だがそのボルドの表情は、酷く辛そうな様子だった。
「親父……!?」
無事だったことを喜ぼうと近付いたディーノは驚愕する。
「お、親父……それ……」
ボルドの右腕が無くなっていた。
「ドジっちまっただけだ。すまねえな」
謝るボルドだが、ディーノは嬉しそうに涙を流した。
「いや、いいよ。親父が無事なら、それで……」
お互いが生きていることに感謝するように、抱きしめ合った。
だがボルドの表情が明るくなることはなく、
「すまない、すまない!」
何故か謝り続けるだけだった。
そしてフェルト達は、その謝り続ける理由を目の当たりにする。
「――えっ?」
ボルドさんの横に、横たわった人影があった。
「う、嘘だろ……」
見覚えのある修道服が横たわっている。
その服には酷い血で汚れていた。
「そ、そんなぁ……」
その人は虚な目で、ひゅうひゅうと明らかに普通じゃない息のしかたをしていた。
「先生っ……!!」
フェルト達の目の前に、大量の血を流す恩師の姿があった。




