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大罪の神器  作者: Teko
幼少期編
16/177

08 人喰い1

 

 ――人喰い。


 ウワサの始まりは、魔物の奇妙な死から始まった。

 その魔物は、身体の半分を円形状の何かにぶつかって抉られたように上半身が無く、下半身のみで見つかった。


 最初は魔法による真空波や回転をかけて攻撃した地族性の岩による弾丸攻撃ではないかと考えられたので、そもそも気にすることではなかった。


 しかし、とある村人が命からがら近くの人里に現れた。

 その村人の左肩は同じような抉られた跡があり、左腕を失っていた。


 そして村人はこう語った――。


『ば、化け物だぁ!! し、白い仮面の化け物が、わ、私達を食いにくる!! た、助け、助けてくれぇ!!』


 そしてそれを調査すべく、冒険者と王都の騎士が動き、とある冒険者達がその化け物を見た時、身を震わせながら、恐々とした震えた声でこう言った――。


『ひ……人を食ってる……!? ば、化け物ぉおっ!!』


 冒険者達が見た光景は、年端も行かぬ白い仮面の少女が、村人の頭をバリボリと食う姿だった。


 以降、オルドケイア大陸全土で『人喰い』と、そのウワサは流れた。


 ――そして今、ヴァース村付近にそれらしき人影があったと、調査に来ていた冒険者達が目撃したという。


 教会の広場前には、村の腕っ節の立つ元冒険者のおじさん達が集まる中、


「フェルト!」


「ディーノ! お前どうして?」


「そんなの決まってんだろ? 俺もウワサの人喰いを倒しに――あだっ!?」


「馬鹿言ってんじゃねえ!! 家に居ろっつったろ!?」


 フェルトの姿を見かけて駆け出したディーノは、あっさりとボルドにげんこつを食らった。


「何でフェルトは良くて、俺はダメなんだよ!」


「いいえ。フェルト少年はたまたま居ただけですよ。すぐに帰らせますから」


「えっ?」


 村人が駆け込んで来た時に確かにたまたま居たが、フェルトは残る気満々だった。


 するとマルコ神父の笑ってない笑顔がこちらを向いた。


「少年? 残るつもりだったんですか?」


「いや、えっと……ははっ」


 突然ウワサとなった人喰い。

 正直嫌な予感が(よぎ)っている。

 だからそれを確認したいのだが、大人達の視線を見る限りは許されないようだ。


「ダメです。今すぐ村に戻り、家の中にいなさい」


「避難じゃなくて?」


「……聖女の巡礼が行われず、最近はこの辺りも魔物が増えてきました。下手に村の外に出て避難したところで、人喰いではなく、魔物と遭遇する確率が高い」


 ここ数年、あの銀髪の聖女は確かにこの地を訪れていない。

 その理由として、聖女が病死したためであった。


 だがこの聖女には双子の娘がおり、その二人にやらせる話もあったらしいが、年齢がフェルトと同じくらいということもあり、各地を回る巡礼儀式は体力的にも精神的にも酷だと判断され、聖女の巡礼が行われていない。


 ウワサでは他にも何かあったらしいが、そのあたりの話はマルコ神父はしてくれなかった。

 だが、何かあったことを証明するように、聖都は立ち入りを制限されている。


「それに幸い、冒険者の方々が見回りをして警戒してくれていますし、王都の腕利きの騎士様もこちらへ向かっているとのこと。どうか、事が落ち着くまでは大人しくしていてくれませんか?」


 このオルドケイア大陸では、聖女に頼りきっているわけではないらしく、対処は迅速だった。


 王都に住まう国王は冒険者や騎士達、各地の自警団などにも呼びかけ、聖女の巡礼で抑えていた、魔物の活性化や魔力による災害などを抑止するよう指示。


 聖女はそもそも短命であることから、ある程度は対処の方も、積み重ねられた歴史的経験があるらしい。


 とはいえ、聖女の巡礼がされていた時よりは危険なことにも違いない。

 フェルト達の村も山間ということもあり、結構強い魔物も徘徊している。


 マルコ神父の言う通り、家の中に避難することが正解だろう。


 ――ガサッ。


 教会の広場横の茂みから、慌てた様子で駆け出してきた若い冒険者が現れ、一番近くにいた元冒険者のおじさんの一人にしがみつく。

 その冒険者の息は荒く、この世の悪夢でも見たかのように恐々とした表情を浮かべている。


「おい! どうした!?」


 複数のおじさん達が、その異常とも捉えられる表情をした冒険者に尋ねると、その彼は(すが)るように助けを求める。


「ば、化け物だぁ!! あ、あんなのが出るなんて聞いてないっ!! み、みんなぁ……ひっ、ひいいっ!!」


「お、落ち着け。何があった? ゆっくりでいい。話してみろ」


 若い冒険者は完全に冷静さを失っており、助けてくれの一点張り。

 その冒険者自身も無傷ではないようで、血を流していた。


 何かに追われているのだとすればと、フェルトはその若い冒険者が出てきた茂みの方へと向き、【識別】を使った。


「!?」


 フェルトが【識別】で感知したのは、その茂みの奥からの空気の圧迫。


「――おいっ!! おっさん達っ!! その冒険者から離れろぉ!!」


 酷い悪寒を感じるほどの嫌な予感が背筋をなぞったフェルトは、鬼気迫る表情で叫んだ。

 その冒険者を放ってでもと、叫ばなければならないほどに。


 だが、


「「――っ!?」」


 間に合わなかった。


 真空波のようなものがその冒険者を直撃。

 近くにいたおじさん達も、腕を喰い千切られる。


「――がああぁあっ!!!!」

「――ぐうあぁあああっ!!」


 被害に遭ったおじさん達は両腕を失い、その若い冒険者は上半身を完全に失い、激しい血飛沫(ちしぶき)をぶち撒けながら、そのまま膝を崩して倒れた。


「な、何だよ!? 何が……?」


「下がって!!」


 その被害に遭ったおじさん達を下がらせ、その真空波が放たれた先に視線が集まる。

 その攻撃が通った跡がくっきりと映る先を皆、息を呑んで窺う。


 すると、


「ウウウウゥ……」


 唸り声と共に、


 ――ジャラジャラ……ジャラジャラ。


 鉄製の鎖を引きずるような音が聴こえてくる。

 音が近くなるにつれて、心臓の鼓動が高鳴る。


 そして――鎖の音が消え、ひたっと裸足の足音が聞こえた。


「ウウウウ……ァアアアアアアっ!!!!」


 フェルト達の目の前に現れたソレは、猛獣のように叫び狂う。

 その姿はウワサ通りだった。


 真っ白な仮面、血に汚れた水色のボロボロのドレス、両手足に鎖付きの拘束具の少女。

 ウワサ通りの姿に、人を一瞬で食い殺したような攻撃に恐れるのは当然のこと、その存在にも一同は戦慄する。


 フェルトは【識別】を使わずとも魔力感知ができる。

 だからか、この存在の違和感を感じざるを得なかった。


 魔力がフェルトよりも低い割に、この場の全てを呑み込むほどの重圧(プレッシャー)は、叫び声や真空波の攻撃、物々しい雰囲気だけではない。


 彼女が身につけているその白い仮面を見ていると、死すら連想できてしまうほどの恐怖に囚われた。

 その仮面は、本当に仮面であるのかが疑わしく、彼女が叫び声をあげる度に、その面の目と口の部分が動いているようだ。


 仮面がついているのではなく、張り付いているように見えた。


 フェルトはその異質な雰囲気を出す少女に、【識別】を使う。

 すると、


「!? こ、これは……」


 この少女から一切の情報を得ることができなかった。

 そしてイミエルの言葉が(よぎ)った。


『――神器持ちは他の『大罪の神器』の能力を受けません』


 ――くそっ!!


 フェルトは思わずその少女をギッと睨む。


 ――あの化け物……神器持ちかよ!


「――アアアアアアアアアアアアっ!!!!」


【識別】は『強欲の義眼』、つまりは『大罪の神器』の能力。

 情報が得られないということは、『大罪の神器』と確定できる。


 義眼、義足、義手などと聞いていたから、少し予想外だったが、確かに顔も身体の一部だと思った。

 あの白い仮面は、その少女に張り付いているかのようになっていることと、【識別】を受けないことから神器と確定できる。


「――うおおおおっ!! 先手必勝っ!」


 雄叫びを上げながら威圧する仮面の少女に、ボルドが斬りかかる。


「お、親父!?」


「行けっ! ディーノ、リーウェンの坊主!」


 そう叫ぶボルドに続くように、村の他のおじさん達も向かう。

 そして、マルコ神父は真剣な表情で語る。


「お父様の仰る通りです。お二人はお行きなさい」


「で、でも……」


 フェルトの横でディーノが困惑している中、フェルトはギッと仮面の少女を睨むと、ダッと駆け出した。


「――フェルト少年っ!」


 あれは『大罪の神器』だ、俺が止めねえと!


 フェルトは無我夢中で駆け出した。

 魔物が辺りに出始めたあたりから、真剣を持つことも許されているのが異世界らしい。


 その鋼の剣を抜き、仮面の少女と()り合う大人達に向かって斬りかかる。


「はあっ!!」


【識別】を使い熟せるようになってからというもの、大人顔負けの剣術を使えるフェルトは、おじさん達に当たらない程度に、仮面の少女に斬りかかり、距離を置かせることに成功する。


「おじさん達は下がって! コイツは俺が……」


「――アアっ!!」


 フェルトの斬撃を(かわ)すように退いた仮面の少女は、雄叫びを上げながら、鎖を鞭のように使い、薙ぎ払う。


「そんなものっ!」


 ――【識別】!


 フェルトはその鎖の軌道を読み取り、躱しきると懐に飛び込んだ。


 フェルトも『大罪の神器』の対策を考えていないわけではなかった。

 神器持ちはこちらの能力の対象にはならず、【識別】のようにこちらに情報を寄越すことはない。


 だがあくまでその神器持ち自身を対象にする場合だけであり、その攻撃やそれによって発生する風圧などは読み切ることができる。


 つまりは鎖の鞭で発生した風圧による風の動きを瞬時に読み取り、回避したのだ。


「隙だらけだ!」


 見た目は年端もいかぬ少女だが、この血の滲んだ服に当たれば人間の身体など簡単に引き裂ける鎖の鞭を放てる仮面の化け物に罪悪感は湧かなかった。


 随分と異世界に慣れたんだと思わせる容赦ない斬撃が少女に向かうが、


「――なっ!?」


 ハシっと片手で簡単に受け止められた。

 フェルトは押し負けないよう力を込めるが、まったく歯が立たない。

 これも『大罪の神器』の仮面の力かと思っていると、ギロッと仮面の中から血走った目がこちらを向いた。


 この時もイミエルの言葉が(よぎ)る。


『――ただし、ひとつ注意。効かないのは、あくまで対象とする能力で、間接的に与える能力は効くのでお気をつけて』


 ――あれは攻撃のことを指していたのだと思ったが、よく考えれば、自身に与える能力は受けない以前の問題であると気付く。


 自分よりも小さい身体の少女に力負けするところを見れば、当然のことだろう。


 受け止められた剣ごとフェルトは薙ぎ払われる。

 そして、仮面の少女の口が少し開いた。


 フェルトは、そういえばとある事が疑問に過った。

 あの冒険者とおじさん達の腕をを抉った真空波はどこから放たれたのだろうと。


 だがガパッと仮面の口が大きく開くと、その答えが簡単に浮かんだ。


「――全員、奴の正面から離れろ!!」


 すると仮面の少女から直線上に真空波が放たれた。

 地面を抉り、逃げ損ねたおじさん達が抉られる。


「――ぐああっ!!」


 何とか躱したフェルトは、まるで何かが直線上に進んだかのように抉り取られていた地面をなぞるように確認した。

 そして、彼女の仮面の口元から血が浸っているのも確認した。


「ま、まさか――おわあっ!?」


 あの真空波の攻撃の正体がわかったところで、フェルトは首袖を掴まれて、マルコ神父のところまで投げ飛ばされた。


「ガキが無茶してんじゃねえ!! そんな元気があるなら、腕の無いおじさん(その連中ら)と早く村に戻れ!!」


 ボルドはそう叫ぶと、戦える村人達と仮面の少女へと向かった。


「で、でも……」


「ボルドさんの仰る通りです。ここはわたくし達に任せ、避難なさい。そして伝えるのです。このことを……」


 マルコ神父はフェルトの肩を叩いて、必死に向かおうとするのを止める。


「だが先生! あれは……」


 フェルトは『大罪の神器』だと言いかけたが、それを周りの人達に聞かれるのはマズイと過った。

 すると言い淀んだフェルトの意見を悟ったのか、視線を合わせて優しく微笑んだ。


「……わかりましたよ。だったら尚更です。貴方は避難なさい」


「で、でも!」


「貴方の剣撃が通用しなかったのでしょう? 大の大人でもアレです」


 複数の元冒険者の村人達でも、獣のような動きとパワーを発揮する仮面の少女相手に悪戦苦闘する。


「――アアッ!!」


「く、くそ――うぼおっ!?」


 鎖の鞭がひとりのおじさんの頭を吹き飛ばした。


「ひっ!?」


 怯えたディーノにも肩を叩くと、フェルト達を諭すようにマルコ神父はこう語った。


「いいかい? 君達は村にいる村長さんやフェルト少年のお父様達にこのことを伝えるんだ。そして、怪我を負ってしまったおじさん達を連れて行ってあげてほしい。これはとっても大切な役目だ。決してここでアレと戦うことだけが正しい行動ではない」


 確かにマルコ神父の言う通りではある。


 フェルトの剣撃は通用しなかった。

 子供の腕力では、『大罪の神器』により強化された少女の力には遠く及ばない。


 そして怪我を負ったおじさん達を連れて、村人達に危険を伝え、注意喚起を行なうことが必要なこともわかる。


 だが、


「俺は――」


「フェルト少年」


 フェルトの言おうとしていることがわかっているマルコ神父は、少し怖い表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔で微笑んだ。


「貴方はとても賢く、責任感も強い子だ。貴方の事情もよく理解していますよ。ですが、少し大人を舐めすぎている」


 スクッと立ち上がり、仮面の少女のところを向いた。


「確かにアレは脅威ではありますが、我々も元は命を賭けて仕事を行なってきた冒険者。これくらいの修羅場くらい、何とかしますよ」


「先生……」


 するとそれが聞こえていたのか、ボルドもニカッと笑い、その意見に賛同する。


「その通りだ、リーウェンの坊主。おじさん達は確かに現役より劣っちゃいるが、やれねぇこたぁねえ。ガキが大人の心配なんかするんじゃねえ」


 他の大人達も笑顔でこちらを一瞬向くと、再び戦闘に戻る。


 確かにおじさん達の動きは熟練された冒険者の動きそのもの。

 簡単にはやられない。


 そう。簡単には、である。


「それに貴方達が居ては、こちらも本気では戦えません。それに先程も言いましたが、熟練の騎士様もこちらへ向かっているとのこと」


 確かに弱点にもなりかねない子供と腕の無いおじさんでは、今戦える人達の邪魔にしかならない。


 フェルトは『強欲の義眼』なんてものを持っていても、こんなに無力なのかと歯を食いしばった。


「さあ、お行きなさい」


 マルコ神父は変わらない笑顔でそう言った。


 本当はこの人だってアレと戦うのが怖いだろう。

 フェルトの話を全て知っているマルコ神父は、『大罪の神器』と戦うことがどれだけリスクのあることなのかわかっているだろう。


 ――俺が背負わせてしまったのか。


「くっ……」


「行けっ!! ガキ共ぉ!!」


 ボルドも強く呼びかけ、手負いのおじさん達も、


「頼む。……俺達も、限界が近い。頼む……」


 両腕の抉られたおじさん達は、大量の出血をしたようで、意識も朦朧(もうろう)としかけていた。


「行こう、フェルト!」


 震えた手でフェルトを引っ張ったディーノ。

 フェルトは自分のできることを優先することを決めた。


 だから、こう言わざるを得なかった。


「先生! 絶対死ぬなよ!」


「!」


「約束だ! 破ったら許さない」


 せめて約束してほしいと涙を浮かべてそう言うと、マルコ神父はニコリと笑った。


「はい、必ず」


 この約束がせめてマルコ神父の無茶を踏み留めるものになると信じて、フェルト達は手負いのおじさんに肩を貸す。


「親父! てめぇも死ぬなよ!」


「わかってるよ! この馬鹿息子! さっさと行け!」


 ディーノももうひとりの手負いのおじさんに手を貸すと、フェルト達は足早にこの場を後にした――。


 ***


 フェルト達は教会から離れながら、人喰いについて語る。


「それにしたって何なんだよ、あの化け物は……」


 フェルトはその正体について、ハッキリわかっている。


 アレは『大罪の神器』

 そして、おそらくは暴食の名を冠する神器、『暴食の仮面』だろうと。


 ただあの少女と思わせる本体については不明な点がある。

 本物の人間の少女なのか、それとも魔人と呼ばれる魔物の一種なのか。


 特に聞かなかったが、『大罪の神器』は人間のみに装備できるとは聞いていない。

 もしかしてら、人間に近い姿をした魔物なのかもしれない。


「わからねえがハッキリしてるのは、アレが人喰いだってことだ。おそらく最近こっちに来てくれてた若い冒険者達もやられちまったんだろうな」


 おじさんの言う通り。

 おそらく、あの助けを求めにきた冒険者の仲間達もおそらく、仮面の少女(アレ)にやられたのだろう。


 複数の冒険者パーティー達が辺りの魔物を退治しつつ、人喰いに対する警戒をしてくれていたが、この村に駆け込んで来たのが、彼ひとりとなるとそうなるだろう。


「とにかくこのことをシエラのおじさんに伝えよう」


 村長は村人達の安全を優先するためか、教会にはおらず村に定住していた。

 ついでに腕に自信の無い、フェルトの父さんみたいな人、女子供は同じく村に残っている。


 マルコ神父の言った通り、早くこの危険を伝えなければ、今度はあの広場のおじさん達だけの被害に留まらない。


 最悪、村が壊滅する未来もあり得る。


 何せ、相手は歴史に名が残ることもないほどに強力な『大罪の神器』

 とてもじゃないが、元冒険者で歯が立つとは思えない。


 だからその危険を知り、アレの回収を任された自分が何とかしなければと考えたが、実力、身体の成長ともに発展途中のフェルトには叶わなかったこと。


 悔しい想いだけが滲むように広がっていく。


「そんなに思い詰めるな、フェルト君。俺は……驚いたよ。あんな化け物相手に果敢に挑みにかかれるなんて……」


「おじさん……」


「そうだぜ、フェルト。俺なんて情けねえ。ガクガク震えてたんだぜ……」


 確かにディーノは戦慄させられて、その場ですくんでいたのを思い出す。


「何言ってんだ。おじさん達だって、内心はブルブル怖がってたぞ。あの場で立ってただけでも御の字さ」


「それにディーノ君は頑張ってくれてるじゃないか。おじさん達に肩を貸してくれてよ……」


 フラフラと重い足取りのおじさん達を背おうのは、いくら魔力で筋力強化ができるフェルト達でも、少し厳しい。


「そんなこと気にすんな。それより腕……」


 ディーノは、今はもう無いおじさん達の腕を心配そうに眺める。


「子供がこんな痛々しい腕を見てるんじゃない。前を向いてくれ」


「少しでも早く村へ……」


 すると激しい戦闘音が教会の方向から聞こえてくる。

 物音から、かなり激しい戦闘が繰り広げられているようだ。


 フェルト達があの場を離れる前から、複数のおじさんが鎖攻撃、とんでもパワーによる内臓破壊、真空波による削岩機のような抉ったような殺し方で死んでしまったことを確認している。


 戦闘が長引けば長引くほど、生き残っている者達の生存率は低くなる。


「急ごう! 手遅れになる前に……」


 生まれ変わった世界で、良くしてくれた人達があんな化け物に殺される未来があって良いわけがない。


 特にマルコ神父には、死んでほしくない。


 自分のやれることを尽くすために、村まで向かうのだった。

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