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大罪の神器  作者: Teko
幼少期編
15/177

07 強欲の義眼6

 

「そのポーションで何するの?」


「貴方にはこれから毎日、このポーションを【識別】してもらいます」


「このポーションを?」


 フェルトもこっちに来てから七年以上経ち、ファンタジー世界にも慣れ、ポーションという回復薬にも多少の知識はある。


 このメロンシロップみたいな緑色のこのポーションは、通称グリーンポーション。

 一般的に薬草を調合して作られる一般的な回復ポーションで、飲めば体力、疲労の回復、かければ傷の治癒速度の向上効果を得る。


 見た目が縁日の屋台で見かけるメロンシロップそのものだったので、初めて飲んだ時は、それこそさっきの意識の話に通ずるが、薬特有の苦味に驚いて吹き出した。


 ちなみに状態異常の回復ポーションはブルーハワイシロップみたいな青色。

 能力向上効果のある、所謂(いわゆる)バフを付与する強化系ポーションはレモンシロップみたいな黄色。

 万能薬とされる、所謂エリクサーみたいな高度な万能ポーションはイチゴシロップみたいな赤色をしている。


 全部、かき氷シロップに見えるのは何故だろう。


「いいかい? フェルト少年。このポーションを【識別】することを意識するんだ」


「なるほど、意識ね。一回やってみる」


「そうだね。だけどまた気絶するほどの頭痛は避けるべきだから、一瞬だけにしようか」


 そう言うと、マルコ神父はフェルトの後ろに立った。

 誤って【識別】を発動した状態でマルコ神父を見ないようにするためだろう。


 その意図を汲み取ったフェルトは言われた通り、目の前のポーションに意識を向ける。


 ジッと目の前のポーションを見つめて、


 ――【識別】


 ――グリーンポーション。効能、体力、疲労回復、自然治癒能力向上、苦味あり。材料、ヒヤク草、真水、適量の適正魔力、調合魔法により製作……――。


「――うぐっ!?」


 更にポーションの細かな成分なども頭に入ってくる中、


 ――丸底フラスコ。ガラスビン。材料、珪砂(けいしゃ)、ソーダ灰、石灰。創造魔法により製作……――。


――何だよ、ソーダ灰って!? 知らねえし!


 おそらくは『強欲の義眼』が集めた情報のひとつだろうが、豆過ぎる。

 フェルトの前世知識もあってか、そのあたりにも順応している。


 ――フラスコ内の大気……――。


 一瞬で解除したが、それでもかなり膨大な情報が入ってきた。


 頭を痛そうに抱えているフェルトに、マルコ神父はキョトンとした表情で、さらっと尋ねた。


「ダメだったようですね」


「え、ええ……」


「まあ一度でできるとは思っていません。これを繰り返していきましょう」


「反復練習、みたいな?」


「そうですね。ですが、ただやっていてもダメです。先程も言った通り、意識が必要です。正確には視覚意識を持つことです」


「視覚意識?」


 マルコ神父は『強欲の義眼』を使い熟す方法の詳しい概要を語る。


「はい。視覚意識または知覚意識と呼ぶのですが、簡単に言うと、その見たものを主観的に理解することを差します」


 何だか科学の話になってきた。


 ここ一応、ファンタジー世界なんだが。


「つまりはわかった気になる、もしくは自分が納得する答えを意識するということです」


「ほう」


「例えるならこのポーション。客観的に見ると、これは一般的なポーションと判断できますが、それ以上の情報を求めようとは思いませんよね?」


「うん……」


「ですが主観的にこのポーションを見るということは、その『一般的なポーション』で満足しないと意識し、必要な情報を求めるということです」


「は、はあ……」


 ちょっと言っていることがややこしくなってきて、生返事を繰り返していると、


「ああっ! ご、ごめんね。難しかったね」


「い、いえ……」


 何となくはわかる。

 『強欲の義眼』の見たものから、客観的に見た情報(もの)を省き、自分の主観で欲しい情報(もの)を意識することではないだろうか。


「要するには見ているものの情報と欲しい情報を明確にすることを意識するんだ」


「やってるつもりだけどな……」


「本当に? このポーションの情報が欲しいくらいしか思ってなかったんじゃないか?」


「ん……? まあ、そうだけど……」


「そうじゃなくて、ポーションのどんな情報が欲しいのか、頭で明確化させるんだ。例えば効能だけ知りたいとか」


「なるほど」


 そう指示を仰ぎ、数時間後――、


「できるようになりましたか?」


「か、かろうじて……」


 正直、頭痛でそれどころではなかったが、ポーションを一点集中し、欲しい情報を明確にすれば、確かに絞り込めた。

 だがそれでも数時間はかかった。


「では明日からはこれを慣れさせていきましょう」


「りょ、了解です」


 ――その次の日から【識別】を使い熟す特訓が始まった。

 その特訓をしていくうちにわかったことがある。


【識別】は基本、客観的に辺りの情報を捉え、客観的にその情報を提供するものだった。

 つまりは誰がこの【識別】を使っても、わかる情報を無理やり頭の中に詰め込まれていたのだ。


 なので解決策として、その情報を得たいものに絞り、主観的に欲しい情報を取得しようとする意識をすることだった。


 更にざっくりと言い表すなら、加減を覚えろという話。


 言葉にするだけなら簡単なのだが、『強欲の義眼』の能力が強力なことが仇となり、辺りの情報にも気が散漫する傾向にあった。


 いくら頭の中で、ポーション、ポーションと唱えるように思っていても、雑念が入り、辺りの要らない情報まで割とあっさり入ってくる。


 マルコ神父曰く、人間の視覚領域が広いことや脳の処理能力がそれらを困難にしているものであり、思考速度の向上などの支援魔法で解決していたのは、そのあたりの制限を瞬時に行なうものと思われる。


 それを自力でやれということなのだから、かなり時間がかかる。


 そして数ヶ月後――。


 ――グリーンポーション。効能、体力、疲労回復、自然治癒能力向上。


「ふう……」


「なんとか安定してきたようですね」


「おう! これも先生のお陰だ。ありがと」


「いえいえ」


 フェルトは遂に情報の制限化に成功した。

 必要の無い情報を省き、必要な情報のみを取り出す。


【鑑定】では見て判断できるから簡単だが、【識別】はどうしても頭に入ってくるから、制限化は大変だったが、遂に理想系にたどり着いた。


 長かったとしみじみしていると、


「では次の段階に移りましょうか」


「……は?」


 マルコ神父はさらりと、フェルトの感動の余韻を踏み潰した。


「えっ? つ、次の段階……?」


「はい。えっ? まさか、それで使い熟せたつもりでいたんですか?」


 するとマルコ神父は複数のポーションを並べる。


「次は大量に別の物がある場合、求める物のみの情報を読み取って下さい」


 手始めにいつものグリーンポーションをと言うが、目の前でこんなに並べられると気が散漫して、


 ――【識別】


 グリーンポーションをはじめ、複数の種類のポーションの情報が頭に入ってくる挙句、回避できていた入れ物や空気の情報、置かれたテーブルの情報まで入ってきた。


「――ぎゃあああっ!! 痛い! 痛いぃ!?」


「……まあ、そうなりますよね。――ヒール」


 床に転がり回る俺に、回復魔法をかけるマルコ神父は苦笑いを浮かべていた。


「物を使うだけなら簡単ですが、熟すとなるともっとできなければなりません。この【識別】の場合は能力の応用が色々効きそうですから、色んなパターンを頑張っていきましょう」


 それを聞いたフェルトは真っ青になった。


「い、色んなパターンってどのくらい……?」


「そんな顔しないで下さい。使えば使うほど慣れてくるものです」


「――言って! 何パターンか、言って!」


「さあ、頑張っていきましょーう」


「――先生ぇ!!」


 そして地獄の猛特訓が開始される――。


 フェルトは来る日もくる日もポーションを眺める日々が続いた。


 制限化ができるようになったが、それはあくまで基礎が出来たようなもの。

 もっと汎用的に使うのであれば、それ相応の柔軟性が求められる。


 先ず、最初の課題として出された複数がある状態で、狙ったものを【識別】することだが、人の視覚能力的にどうしても意識が向いてしまうもの。


 だからその意識が散らばらないようにするのは、かなりの集中力を求められる。


「――いったぁいっ!! 痛い痛い痛いぃ!!」


「でもだいぶ余裕は出てきましたね」


「――そりゃあね!! こんだけバンバン使えば、そうなるよ!!」


 マルコ神父はやはりスパルタだった。

 ディーノの勉強の時もそういう影がチラついてたが、改めて個人授業を受けているとこんな発言も平気で出てくる。


「しかし、一度調べたものでも情報が入ってくるんですね」


「そうみたいだね。客観的にこれを種類として【識別】してるわけじゃなくて、個体として【識別】してるみたい……」


「なるほど」


 正確には種類と個体、両方を【識別】しているわけだ。

 だから要らない情報まで詰め込まれて、頭を痛めるわけで。


「じゃあ、もうひと頑張りしますか」


「ええ。結局の話、この【識別】という能力は慣れるしかありません。最終的には無意識にこれらを意識して発動できるようにならなければいけません」


「は?」


 フェルトはピタッと身体を固めた。

 確かに戦闘中などで使用する場合、いちいち一点に視線を集めるのは致命的だ。


 だから革命家の奴も補助魔法でフォローしていたわけだから。


「そりゃそうですよ。フェルト少年はこれから、こんな魔道具を持つ相手と戦わなければならないのでしのう? そうでなくても、貴方が『強欲の義眼(それ)』を身につけている限り、必ず目の前に同じ『大罪の神器』を持つ者が現れます。明日にでも来るかもしれませんし、数年後に来るかもしれません。その時の備えはするべきでしょう」


 マルコ神父の言う通りだ。

 『大罪の神器』は死ぬまで外せない。

 この能力を知った人間が取る行動など手に取るようにわかる。


 それにこんな曰く付きの道具は引き合う習性もありそうだ。

 類は友を呼ぶってことわざもあるくらいだ、無い話ではない。


 フェルトがこんなに頭痛に苦しんでいても、やるようマルコ神父が指示するのは、フェルトのことを考えてのこと。


「毎日じゃなくてもよくないですか? ほら、先生も……」


 フェルトがそろっとお休みの日も必要じゃないかと、恐る恐る尋ねるが、


「……頑張りましょう」


 マルコ神父は笑顔でそう答えた。

 正直、顔は笑っているが、雰囲気が笑っているものではない。


「は、はい……」


 ――フェルトは【識別】の特訓と平行して、ディーノとやっている剣の稽古も欠かさない。


「なあ。最近、先生と、何、してん、だ!」


「あん。いや、まあ、特別、授業、かな?」


 ただいま絶賛素振り中。

 割とやることのない異世界では、こういうことは集中できるのと、続ける意欲もわくので、これも【識別】の特訓に活かされている。


 やることがないと言っても、ここはど田舎であることと村はほとんどが元冒険者の男衆とその家族ばかり。

 娯楽の流通などあるはずもない。


 そして魔法が使えれば、ある程度はやることもあるのだろうが、残念ながらフェルトにはそれが無い。


 だからこそ、この素振りは色々とフェルトとの都合が良い。


「普段の、授業も、受けてる、のに、何で、そんなに、勉強、するん、だ!」


「そりゃあ、将来の、ため、だろ?」


「将来? 何か、すん、の?」


「いや。具体的に、は、決めて、ない」


 そもそもやっていることについて嘘ついてるわけだから、将来の夢について語らっていた時と答えは変わらない。


 だが『大罪の神器』を回収し終えた先の未来も考えることも必要だろう。

 全部、回収できるかは定かではないが。


「バーカ、ディーノ。どんな将来につくにしても、勉強ってのは大切なもんだ」


「親父」


 今日はディーノの父、ボルドのところで稽古中。


 胸板の広いガタイのいい親父さん。

 フェルトの父とは、えらい違いだった。


「やっぱリーウェンさんとこの息子さんだな。俺のガキみたいに馬鹿じゃねえ」


「馬鹿で悪かったな!」


「父さんのこと、知ってるの?」


 正直、あまり関わりそうにない印象があるが、そんなことはないと、豪快に笑われた。


「何言ってんだかな、リーウェンの坊主。お前さんの親父には、お世話になりっぱなしなんだ」


「へー」


「このあたりの木々は材木になるのが多くてな。それに魔法樹もある。それらを見極めて管理するのがお前の親父さんで、俺らは木こりをやってんのさ」


「なるほど。父さんひょろいのに、どうやって仕事してんのかなって前々から思ってたけど、そんな感じなんだ」


「はっはははっ!! 言うな、坊主」


 そう言うとわしわしと頭を撫でられた。

 これだけ皮の厚く、ガタイの良い人や元冒険者なら力仕事は何でもござれだと思った。


「この村が魔物狩りのために作られた村だってのは知ってるな?」


「うん。だいぶ昔だって話だけど……」


「まあな。おじさんが生まれる前からだって話だからな。だけど聖女の巡礼のかいあってか、この大陸は魔物の災害はほとんどねえ。だから俺達みたいに(くすぶ)ってる元冒険者達にとって、こういう環境は有難い」


 冒険者はほぼ魔物狩りか雑務、たまに犯罪者を捕まえたり、そういう組織の制圧などもあるらしいが、それは国の騎士達が行なうこと。

 何だったら、魔物の討伐も騎士達がやってしまう始末。


 他の大陸では冒険者と提携したりもあるらしいが、この大陸は聖女の力が大きい。


 だからあぶれる冒険者も珍しくないとのこと。


「だとすればディーノに冒険者はあまり勧めたくないんじゃ……」


「それとこれとは話は別だ。コイツがやりたいと望むならやらせりゃいい。後のことは後で考えりゃいい」


 だからディーノも行き当たりばったりな考えなわけだ。

 この親にしてこの子ありである。


「それに何も冒険者の仕事が無いわけじゃね。俺は所帯を持っちまったから、こうした仕事をしちゃいるが、若いうちはやんちゃしたっていいのさ」


「そうですね」


 実際、聖女の巡礼が行われない箇所、つまりは地脈の魔力溜まりが無い場所では魔物が横行している。


 そういうところでは騎士の要請や冒険者などの派遣もある。

 ちゃんとバランスは取られているってことだ。


「とはいえ、うちの馬鹿がやっていけるかは不安だがな」


「んだよぉ!」


「リーウェンの坊主が一緒なら、心強いがな」


「はは。考えときます」


 社交辞令として答えたが、『大罪の神器』の回収を考えれば、本当に将来的に冒険者になり、世界を回ることも視野に入れた方が良さそうだとも考えた。


 ――そして数ヶ月、数年の時をかけて、少しずつ【識別】が使い熟せていける。


 複数の中から対象のみの情報取得、対象の情報の選別、対象の情報の概要検索、対象の過去情報など、様々な【識別】の能力を習得していく。


 そして何より大変だったのはこれらを他の意識、つまりは戦闘を行いながらできるようにするため、無意識的に集中して【識別】を使用することだった。


 これらの【識別】の汎用性はどれも、かなり集中して見なければ発動できなかったし、セーブも難しい。

 それを意識しつつ、別のことを考え、行動しなければ、戦闘に反映させることはできない。


 いちいち【識別】を発動する度に、集中するために止まって行動しているわけにはいかない。


 特に戦闘に反映できれば、イミエルが以前言っていた通り、最強の見切り能力を身につけることが可能だろう。

 何せ【識別】で見た情報を元に、相手の身体の動きや空気の流れを読んで行動できるのだから。


 だがそれを身につけるには、とにかく特訓する他なく、五年の月日が流れた――。


 ――【識別】


「……」


 フェルトの目の前には複数のポーションが置かれており、フェルトはそこから読み取った情報をメモに書いた。


「ほい、先生。確認お願いします」


「拝見します」


 マルコ神父はフェルトの書いた答案をジッと見て確認を取ると、ニコリと笑った。


「正解です。見事です。もう完璧ですね」


「はは、まあね。つか、先生。意地悪過ぎないか? 何だよ、このポーション」


 マルコ神父からのお題は、並んでいるポーションの決められた細かな情報を識別せよというお題。


 例えばグリーンポーションなら、疲労回復の成分となる材料とその容器の強度のみ。

 イエローポーションなら、どれだけの濃度なのかとそのフタの産地のみなど、疎らで細かな情報を求めてきた。


 しかもマルコ神父が用意するポーションは、いつも違った物を準備してくれたようで、いちいち答えが違うのだ。


「まあまあ。正しく情報を読み取れば、それほど確かな行動に移せるというもの。情報は武器ですよ」


 マルコ神父の言わんとしてることも、ポーションの準備に手間をかけてくれているのもわかるのだが、もうちょっと難度を下げてくれても良かったと思う。


「まあ、先生のおかげで使い熟せるようになったし、やれば出来るもんだな」


 本来であれば思考加速などの補助魔法が必要なところ、フェルトは完全に視覚と脳の意識をコントロールして『強欲の義眼』を使い熟せるようになった。


 おかげで頭の回転も早くなった気がする。


「フェルト少年」


「ん? なに?」


「確かにその『強欲の義眼』はとても強力な能力です。だからこそ、その能力に呑まれてはいけないよ」


「わかってるよ。【識別】に頼り切らず、自己の意思もちゃんと持て、だろ?」


【識別】はどうしても、見たものの能力や状態を瞬時に見抜けるため、頼りきってしまう傾向が生まれてくる。

 だがいざという時、仮に使用できなくなったり、『大罪の神器』との戦いの時、それに頼りきっていれば、独自の判断ができなくなってしまう。


 力に呑まれず、自惚れず、邁進しろと口酸っぱく言われている。


「ああ。わかっているならいいさ」


「しかし、五年もかかるとは思ってなかったね」


「そうですか? わたくしは早かったと思いましたよ」


「そう?」


 もしそうだとすると、イミエルの読み通りだったのかもしれない。

 イミエルは前世の記憶を持つ異世界転生者に『強欲の義眼』を持たせることで、成長速度を促したのではないだろうか。


 食えねえ女神様だ。


「そうですとも。だがまあ、これくらいかなと思ったりもしてましたよ」


「と言うと?」


「フェルト少年はどこかディーノ少年達とは違う、大人びた感じがありました。達観していたというか、何というか……」


 中身が十七歳プラス十二歳なので達観もしていれば、多少悟ったりもできる。


「ま、まあそういう子供もいるって……」


 バレないとは思うが一応警戒していると、クスッと笑った。


「貴方は『強欲の義眼』が無くとも、よく周りを見てた子ですからね。気が効くのでしょう。良いことです」


「はは。どうも」


 マルコ神父にそれだけ指摘されるほど、付き合いも長くなった。

 フェルトはそういう意味でも、本当に感謝している。


 こんな得体の知れない力の相談に乗ってくれたこと。

 そのことに五年以上も付き合ってくれたこと。

 いつも背中を押してくれたこと。


 感謝しても感謝しきれない。


 だからこそ言葉にしよう。


「先生」


「ん? 何だい?」


「あのさ、ここまで――」


 バァンっと激しく扉が開き、伝えようと思った言葉は途絶えた。


「し、神父……マルコ神父はいるか?」


「お、おりますけど、どうされました?」


 駆け込んで来たのは、村人のひとりだ。

 見覚えがある。


 その村人は暑くもないのに、酷い汗をかいており、青ざめた表情でこう語った。


「ひ、人喰いだ!! 人喰いが……この近くにいるかもしれないって、冒険者達が……!!」


***


 この頃、王都ではあるウワサが流れており、フェルト達もそのウワサは耳にしていた――。


『ねえ? 聞いた? また魔物の食い散らかされた跡があったらしいわよぉ』


『最近、物騒よね。魔物も活発化してきているし……』


『しかもその食われた跡が、最近襲われて壊滅した農村と一致しているそうよ』


『『い、いやぁ……』』


『ある旅商人から聞いたんだけど、目撃したんですって』


『な、何を……?』


『真っ白な面をつけて、血に汚れた水色のボロボロのドレスを着て、両手足に鎖付きの拘束具を身につけた少女が、一心不乱に人間を食べている姿を!!』


『『――いやああああああっ!!!!』

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