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大罪の神器  作者: Teko
幼少期編
12/177

04 強欲の義眼3

 

「わざわざそんな……」


「いえいえ……」


 謙遜し合う大人の会話を目の前に、フェルトは玄関前に立つ。


「ただいま」


「あっ、おかえり、フェルト。今ね、ダマス神父からお菓子を頂いたの」


 そう言ったオリーヴの手には、確かに菓子箱のような物を持っていた。

 フェルトは少し不審に思った。


「マルコ神父とのお勉強は済んだのかな?」


「は、はい」


「そうかそうか。マルコ神父からもお勉強がよく出来る子だと聞いているよ。偉いなぁ」


 マルコ神父より太い指の手がわしわしとフェルトの頭を撫でる。

 ちょっと気持ち悪いと思ったが、今まで見たことがない笑顔に、本当に改心したのではと(よぎ)った。


「そうなんです?」


「ええ、奥様。フェルト君はそれはもう、とても優秀で――」


 まるでオリーヴのご機嫌を取るように、フェルトを褒めちぎる。

 やはり裏があるのではとも思う。


 すると再びフェルトに話しかけてくる。


「あの時はごめんよ。本当にどうかしていたよ。神眼のような強い力は、時に人の理性すら失わせるものだったんだよ」


 それは貴方の欲が深かっただけなのでは?


「しかし、それは言い訳だ。私の弱さが君を傷つけた。お詫びと言ってはなんだが、受け取って欲しい」


 一応認めてるのねと、ちょっと感心。

 そして、一度謝罪に来ているのだから、もう来なくても良いとも思ったが、オリーヴは少し嬉しそうに菓子箱の中身を語る。


「フェルト。これは何でも、聖都で作られた高級なお菓子だそうよ。ダマス神父のお知り合いの方から送られてきたみたいでね……」


「まあ私が食べるのもアレだと思ってね。かたちとしても謝罪しておこうという、自己満足だよ。美味しく食べてくれると嬉しいなぁ」


 以前来た謝罪の時は、特に土産みたいなものはなかった。

 律儀なことだと思うべきか、何か別の思惑があると思うべきか。


 しかし、ここでふとマルコ神父の言葉を思い出す。

 以前、別の勉強の日に言われたことだ――。


『人というのは、支え合って生きる生き物だ。許し、許されあって生きていくことで、信頼というものが得られます。ですがそれは、とても地道な積み重ねが必要なこと。ですから皆さんも今の時間、そしてその出逢いに感謝して生きていきましょう』


 さすがは神父だと思った。

 そして、その言葉通りだと、ダマス神父は信用してほしいがための積み重ねを行なっているのだろうと考えられる。

 フェルト達、子供達が教会で騒いでいても、大人しく見ていたところを見ると、本当に反省したのかなとも考えられる。


「あ、ありがとうございます……」


 とはいえ、そんな簡単には信用できないのが人間関係というもの。

 一度、あんなかたちで怒鳴られた側としては、信用することは難しい。


「じゃあ俺、シエラ達と約束あるから……」


「あっ、じゃあ折角だから、シエラちゃん達も呼んできたら? 一緒に頂きましょう」


 菓子箱を持って嬉しそうに提案するオリーヴに、ダマス神父は、少し困った表情をした。


「お、奥様。他のお家にも同じ物を差し上げてきたところです。同じ物を振る舞われても困るでしょう?」


「あら? そうなんですか?」


 フェルトはそれを不審と捉えた。


「母さん。ちょっと貸して」


「あっ! ちょっと……」


 フェルトは、オリーヴから菓子箱を奪い、中身を確認した。


「あ、あれ?」


 何か変な小細工でもされているのではと思ったが、中身は綺麗に包装されたクッキーが綺麗に並んでいた。


「あら! クッキーですか?」


「え、ええ。どうでしょうか? お気に召したでしょうか?」


「勿論! でも確かにクッキーなら、同じ物を出されても嬉しくないかしら?」


「そうですとも」


「ねえ。何で他のとこにも配ったの?」


 当然の疑問を投げかける。

 あの時、被害に遭ったのは、フェルトとオリーヴだけだ。

 周りは関係なかったはず。


「いや、私は他の皆さんも不快にさせてしまいましたからね。しかも神の前で。ですから謝罪の意味も込めて……」


 すると向こうから、シエラ達が歩いてくる。


「フェルト〜」


 フェルトは丁度いいと思い、足早にシエラ達の元へ行く。


「遅いぞ、フェルト。ほら、今日も特訓しようぜ!」


「なあ、みんなのところにダマス神父が来たか?」


 そう尋ねられた三人は、玄関前にいるダマス神父を見た。


「さあ?」


「私のところには来たみたいよ」


「私のところも……」


 ディーノ以外には来たってことなのか。

 てっきり、他のところにも配ったというのは、嘘だと思っていたが、徒労だったのだろうか。


「何か菓子貰わなかったか?」


「お菓子? そういえばママがえらく上機嫌だったわよ」


「私はパパから聞いて、ひとつ食べたよ。美味しかった、あのクッキー」


「ああ、何か見たことねえ、クッキーがあったな」


 ディーノ、お前のとこでも貰ってたんじゃないか。


 しかし、話を聞く感じ、本当にみんなのところに配ったようだ。

 高級かはともかく、それだけの菓子をわざわざ用意したのだ、少しは信用してもよいのだろうか。


「す、すみません。うちの息子が……」


 詮索をしているフェルトについてオリーヴは謝罪するが、ダマス神父は大人の対応。


「いえいえ。それだけ疑われるほどの酷い態度だったと反省しています。これから仲良くなっていこうと考えておりますので、どうかこれからもよろしくお願いします」


 百八十度ひっくり返ったように性格が変わったもんだから、何だか気持ち悪い。

 だが疑心暗鬼になり過ぎるのも良くないと思ったので、これ以上の詮索はやめることにした。


「じゃあ俺、みんなと遊んでくるよ」


「はーい。暗くなる前に帰ってくるのよ」


「「「「はーい」」」」


 フェルト達四人はいつもの遊び場へ行き、玄関にいたダマス神父は再びお辞儀をすると、教会の方へと歩いていった――。




 フェルト達は村の片隅にある、昔、冒険者が使っていたであろう練習場を溜まり場にしている。

 適度な大きさの広場には、フェルト達特製のかかしが立っている。


 そんなフェルト達が溜まってやっていることといえば、チャンバラごっこと魔法の練習。

 フェルトとディーノはマルコ神父やディーノ父に教えてもらった剣の振り方などの復習をしたりする。

 いくら前世の記憶があっても、剣なんて扱ったこともないのだから。


 フレゼリカは魔法の練習。シエラはフェルト達の様子を朗らかな表情で眺めている。


「――火の(つぶて)よ! ――ファイア・ボール!」


 フレゼリカの火の玉がかかしに命中。


 この世界での魔法の発動は様々だが、基本は術式を覚え、その魔法のイメージを持つこと。

 ただ術式は一度覚えれば自然と頭に刻まれるそうだから、イメージが一番重要らしい。


 フレゼリカは詠唱して魔法を発動しているが、熟達した魔法使いなら無詠唱も可能だという。

 マルコ神父は無詠唱での発動も可能だと、魔法の授業の際に披露してくれた。


 ホント万能だよ、あの人。


「おおっ! 凄いよ、フレゼリカちゃん!」


「まだまだよ、シエラ。ここからが本番」


 俺達はいつも通り、バケツの水を持っていたのだが、待ってほしいと止められた。


「――飛べ、水よ! ――ウォーター・ショット!」


 フレゼリカの杖の先に小さな魔法陣が展開すると、そこから水鉄砲から発射されたように水が噴き出る。

 そして燃えたかかしが鎮火されていく。


「「おおっ!」」

「ほう……」


「ふふん。どんなもんよ」


 自慢げにドヤ顔を見せるフレゼリカに、シエラとディーノは目を輝かせながら称賛する。


「凄えよ! お前! 水魔法まで使えんのか?」


「フレゼリカちゃん、凄〜い!!」


「まあね。ママにお願いして、練習付き合ってもらったの。次は風かな?」


 フレゼリカの両親は両方とも元冒険者。

 しかも母は腕利きの魔法使いだったようで、娘にせがまれて教えているのだという。


 魔法の才能があるのは純粋に羨ましい。

 現代世界人であったフェルトとしては、憧れのひとつではある。

 だが実際はそこの才能はなかったからな。


「フレゼリカ。お前は全属性いけるタイプなのか?」


「わかんない。だから、ママはとりあえず初級魔法は全部教えてあげるって」


 魔法の才能にも色んなタイプがあるそうだ。


 全属性バランス良く使えるオールラウンドタイプ。

 このタイプは説明通り、全属性をバランスよく使え、他属性を混ぜたオリジナル魔法の開発も可能という規格外な魔法も使えるそうだ。

 ただ、それは魔法の才能だけでなく、想像力も必須となるという。

 しかもこのタイプは器用貧乏になる可能性が非常に高い。


 次は、ひとつの属性に特化したオンリーワンタイプ。

 このタイプは、その属性のみを強化することで派生タイプの魔法が発動可能になる。

 わかりやすいのだと、水を極めた場合は氷。風は雷。地は木などである。

 しかもこのタイプは誰でも目指せるというのがメリット。

 オールラウンドタイプでも、ひとつやふたつに絞ればいいだけの話だからだ。


 ただ、中にはオールラウンドタイプでも全ての属性を極めるなんて化け物もたまにいるらしい。

 それに勝てることはないだろうとのこと。


 次に治癒や付与魔法に特化するサポートタイプ。

 このタイプも言葉通り、治癒や付与などの縁の下の力持ちの役割を担えるタイプ。

 これはオールラウンドタイプの攻撃魔法の才能がない魔法使いがよくなるタイプ。

 火、水、風、地属性の治癒や付与の魔法を熟知し、パーティを支えたり、錬金術まがいなことをし、魔道具を生成したりする。

 ただ、光属性と闇属性を得意とするタイプには圧倒的に劣るとのこと。


 というより、このふたつの属性は他四つの属性とは異なり、格が違うとのこと。

 実際、フェルト達は聖女の魔法を見たことがあるからわかるが、あれだけの付与魔法を発動できるのも、光属性を得意とするからである。


 そしてちなみに錬金術などのクリエイトタイプ。

 だが、こちらはポーションなどを調合する調合魔法や建物などを作る創造魔法などがあるが、錬金術のような高度な錬成術は存在しない。

 その理由はフェルトの『強欲の義眼』が答えだろう。


 では物作り等はどう行われているかと聞いた時、【鑑定】などを使い、材質等を調べ、現代世界のような知識、魔法による技術、ドワーフなどの製造を得意とする種族の技術などで作られているようだ。


 このあたりの話は全部、診断中にマルコ神父から聞いたもの。

 これから魔法を使う神器持ちと戦う可能性も考慮して、たとえ自分が使えずとも知っておくべき知識だと思った。

 ディーノとシエラがこんなこと聞いたら、寝ていただろう。


「でも、私は光か闇魔法を極めてみたいわ。そうすれば、凄い魔法使いになれるのに……」


「でもおばさんから、難しいって言われたんじゃないのか?」


「まあね。光や闇の属性魔法は発動できるかもしれないけど、あくまで一般レベルくらいが普通らしくて……」


 どうやらフレゼリカママに、そっちの才能は無いと言い切られたようだ。

 腕利きの魔法使いということだから、魔力を感知して判断できたのだろうか。

『使える』のと『極められる』では魔法の威力や効果は違うだろう。


「だからこそ、聖女様は羨ましいわ。あとその双子様もね」


 そういえばそんな話をマルコ神父もしてたな。


「聖女の力って、やっぱ遺伝なんだ」


「らしいわね。私もママに聞いたけど、魔法の才能とかは多少、遺伝の関係もあるって」


 それならば子を成す理由にも納得がいくところ。

 だが聖女の力、聖力(せいりき)が人の手に余るから、病気がちにでもなるんだろうか。


「なあ?」


「なによ?」


「遺伝って何だ?」


「「……」」


 七歳児が使う言葉ではないわけだから、当たり前に飛んでくる質問だろう。

 だが、そのあたりを理解できているフェルトとフレゼリカは思わず黙ってしまった。


「あー……わかりやすく言うとだな。俺の顔はどちらかといえば母さん似だろ?」


「ああ」


「髪色は父さん似だろ?」


「ああ」


「遺伝ってのは二人の持ってる才能や容姿の情報分子ってとこで、つまりは、その二人の情報が合わさって出来たのが俺ってことだ」


 本当は性格云々とかもあるのだが、七歳児にわかりやすく説明となると、容姿で説明する方がわかりやすい。

 なるほどと納得する二人は、


「つまり合体だな!」


「合体!?」


 合ってるような、違うような。

 素直な足し算ではないのだが、俺はそういう()()を知っているため、合体も間違ってるとは言い難い。


「合体というよりは融合かしら? 混じって良いところだけが表に出る感じ?」


 その表現もどうなんだろう。

 合ってるかどうかもわからなくなってきたところに、再びディーノが尋ねる。


「なあ? 分子って何だ?」


 もう説明が面倒になってきたので、


「……もう先生にでも聞いてくれ」


 マルコ神父に投げることにした。


「それにしてもフェルトは博識よね」


「えっ?」


「私みたいにママに習ってるわけでもないのに、難しい言葉とか知ってるし、教会でだってマルコ神父の仰ってたことわかってたし……」


 例の楽しいことだけはダメってヤツね。


「まあほら、俺の両親にとって俺は、待望の子供だったらしいから、結構色々教えてくれるし、父さんは書斎も見せてくれるから、難しい言葉も覚えるんだよ」


 ということにしておいた。

 まさか、前世の記憶を持っていて、人より知識があるなんて語ったところで、理解されるはずもなければ、語るつもりもない。


 そう答えると、三人は割とすんなり受け入れてくれた。


「でもそっか。ちゃんと勉強した方がいいのかな? 知らないことばっかりだ……」


「そうだぞ、シエラ。ちゃんと勉強しないとな」


「――ディーノ! あんたが一番馬鹿でしょうが!」


 するとディーノは何故か偉そうに仁王立ちする。


「ふふん。別に俺は馬鹿でもいいもん! 俺、冒険者になるから、別に馬鹿でも大丈夫だし」


「んなわけないでしょ!」


 フレゼリカのツッコミは聞く耳を持たず、また子供みたいな悪口喧嘩を始めたが、


「いや、(むし)ろ冒険者だからこそ、勉強しなきゃダメだろ」


「えっ?」

「ほら」


「お前の父さんがどう言ったか知らないけど、知識が無いってことほど恐ろしいことはないぞ」


 それはフェルトの前世の記憶(人生経験)から学んだことだった。

 周りの情報や知識がどれだけ自分を守れるか、七歳児(このくらい)の頃は、まだそれの重要性を理解できはしない。


 やはり前世の記憶(これ)はチートだ。


「冒険者になれば魔物と命を賭けて戦うことになるだろ? その魔物はどんな環境に生息してるのか、どんな行動をしてくるのか、どんな被害をもたらすのか、どんな性質をしているのか、それらを理解してないと適切な対処が取れない」


 ディーノは、フェルトの言葉の大半がわからないと頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるのが、目に見えるようだ。


 だが、この言葉はハッキリと伝わるようだ。


「つまりは命が奪われることになる」


「……!」


ディーノ、フレゼリカ(お前たち)の両親が元冒険者ってのも、そこが関係してるだろ。子供が生まれ、命の危険が近い魔物の討伐だけではなく、安い仕事も多い冒険者業は、あらゆる面で子供を不幸にする」


 親を亡くすという苦行を与えるかもしれない未来や経済面での負担は、家庭崩壊を招くかもしれない。


「だから冒険者を目指すつもりなら、先ずどういう仕事なのか、どんな危険があるのか、どんな将来を見越してるのか、考えることは多いぞ。剣を振るだけがしたいなら、衛兵や騎士にでもなった方が利口だと思うがな」


 衛兵や騎士も冒険者と違い、厳しい規律やルールがあるだろうが、物事を決めるのは大体、上の人間だろう。

 給金も安定的だ。


 それに比べると自己責任の強くのしかかってくる冒険者業は軽々しくやるものではない。

 誰でも気軽にできるが心情なのだろうが、深く考えれば、冒険者業の方が考えることは多いだろう。


「そ、そこまで考えなきゃダメか?」


 言い過ぎたせいか、ディーノがかなりひよっている。


「まあ、どっかのパーティーに入れてもらうってかたちなら、多少軽減されるだろうが、それでも自己管理をしっかりしなきゃいけないとは思うぞ」


「で、でも冒険者はもっと簡単なものだったってママも言ってたよ」


 ディーノに反論していたはずのフレゼリカまで、不安げに尋ねてきた。


「そう思えたのは、お前達の両親が冒険者として生きることが楽しかったってことだろ? 仲間達と共に苦難を乗り越えることや楽しく騒いだこと、喧嘩したことや悲しいことだってあったはずだ。でも、それをひっくるめても、その経験は楽しかったんだろうし、充実したものだったってことだ。そして、その『楽しかった』を見つけるための苦労は苦にならないってことさ。午前中に先生が言ってたことだろ?」


「ほ、ほえ〜……」


 最終的にはシエラまで、感心して呆ける始末。


「まあ俺の知ってる言葉にこんな言葉がある。――苦労は買ってでもしてやれってな」


「買ってでも?」


「そう。勉強とかみたいな面倒な苦労は、後で人生において必ず役に立つから、つらいだろうが買ってでもやった方が、身を結ぶって話」


 フェルトは一度死んだ。

 前世の教訓を活かし、生きることは勿論だが、それを教え伝えることも悪いことではないだろう。

 先輩風を吹かせたい気持ちもあるので、そこは目を瞑ってくれると助かる。


「ディーノが今俺とやってる素振りとか打ち合いやフレゼリカがやってる魔法の練習だって、苦行だと思う人だっているし、才能の無い人間からすればつらいことにもなる。なんでもやって、身につけていけばいいのさ」


 色々偉そうなことを言っているが、前世では程々に生きてたからこそ、そのへんをしっかりとしていれば、もう少し将来の選択肢はあっただろうなと思うわけで。


「そっか……。じゃあ私も何かしないとなぁ」


 それを聞いたシエラが少し俯きがちに呟いた。


「シエラは将来、何かしたいこととかあるのか?」


 すると少し頬を紅潮させた。


「お嫁さん……とか?」


「「あー……」」


 ありきたりなご意見に思わずフェルトとフレゼリカは、納得してしまう。


「ま、まあいいんじゃねえか。お嫁さん」


 何故お前が紅潮するんだ、ディーノよ。

 確かにシエラは可愛いし、フレゼリカに比べると大人しい男受けの良さそうな性格をしてもいる。


 子供の恋は一時的なものだというが、こうも子供の人数が少ないと異性の選択肢も少ないわけで、ディーノの反応から、ある程度紅潮する理由は推察できる。


 相手がどうであれ、ありきたりとはいえ、シエラは気立も良い。


「まあディーノの言う通り、いいんじゃないか? おばさんの手伝いとかもしてるもんな?」


「う、うん」


 たまに作り過ぎたとお裾分けに来たりするのだが、その際にシエラが一緒に来ては、手伝ったと聞くことがある。


「ていうか、シエラもちゃんとしてるじゃないか」


「えっ?」


「お母さんの手伝いだって、十分何かをやってることだろ? 料理とか掃除とか。できない奴はできないし……」


「は、はは……」


 フェルトのチラ見に、苦笑いのディーノ。


 ディーノの部屋に行ったことがあるが、物が散乱していたり、シーツや毛布がくちゃくちゃだったりする。

 男だからわからなくもないが、フェルトはそういうのは落ち着かないタイプなので、気になってたりする。


「そ、そっか。そうだよね!」


「そうそう。別にディーノやフレゼリカがやってることが偉いってわけでもないからな。気にすることないって……」


 フェルトの説明だと、そういうことをしないといけないように聞こえるが、努力の仕方を間違えれば徒労に終わることが多いだろう。

 何事もできる範囲で、程々にが一番いい。


 ただそれでも必要なことは学ぶべきだということ。

 それが前世を生き、人生をやり直すことができた人間の教訓を活かした答えだろう。


「フェルトはどう?」


「どうって?」


「フェルトはそんなに賢いんだし、将来は何になりたいの?」


「……いや?」


 この世界に転生して、やらなければいけないことはあるが、将来については考えていない。

 正直、『大罪の神器』が危険過ぎて、将来はそのあたりの対処がしやすい職業にでもなるんじゃないかと思ってた。


 だがその答えに意外だったようで、三人は驚く。


「いやって。何も考えてないの?」


「まあな。何かやりたいこともなくて……」


 頼まれたことが重過ぎて、そっちの考える余裕は正直無い。

 今だって『強欲の義眼』をどう使えるようにするか、フェルトは悩んでいる。


「なら、俺と一緒に冒険者でもやろうぜ!」


「……お前、人の話聞いてたのか? 冒険者なんて不安定な職に就きたくねえよ」


 別に(よぎ)らなかったわけではない。

 ディーノと冒険者業をするのは楽しそうだし、冒険者同士のコミュニティは、『大罪の神器』の情報収集にはうってつけだろう。


 だが、ああ語った手前、安直に決めることではない。


「要するには頑張ればいいんだろ? 俺、頑張るし」


「はは。そうだな。考えとくよ」


「……だったらみんな、この村から出てっちゃうの?」


 シエラは寂しそうにそう呟いた。

 するとフレゼリカが、やれやれと微笑んで答える。


「そんなすぐには出て行かないし、ここが私達の故郷だもの。いつだって戻ってくるわよ」


 この村は確かにのどかだ。

 辺りは緑に囲まれ、空気は澄んでおり、周りの人達も優しい人ばかりで、居心地も良い。


 シエラはそんな村の村長の娘だ。

 これからも穏やかに過ごしていく未来を望んでいるのだろう。


「その言い方からすると、フレゼリカも将来はお母さんみたいに冒険者に?」


「ううん。私は魔法の研究者になって、色んな人達が豊かに暮らしていけるような技術を作ってみたいの」


「ほう?」


「だってほら。この村って他の人里から離れ過ぎてるでしょ?」


 フレゼリカの言う通り、物資の調達も大変で、数キロ離れたところへ徒歩で買いに出るか、定期的に来てくれる行商人からの調達がほとんど。


「転移魔法とか使えたら便利でしょ? 他にも色んな技術があると思うし、開発もできると思うの」


「不便性を知ってるからこそ、利便性に長ける技術を故郷のためにってことか?」


「まあ、そんなところ。いずれはこの村みたいな辺境の地の人達も大きな町と変わらない生活ができるようになればいいなって思ってる」


 随分とませてるなと思うが、両親が元冒険者ということもあり、色んなところの話などを聞いているうちに思い付いたのではないだろうか。


 フレゼリカは真面目で頑張り屋さんのようだから、時間がかかっても叶えそうな気がする。


「そっか。じゃあ頑張んないとな」


「うん! だからフェルトももっと将来のこと、考えないとね」


「は、はーい……」


 前世でもそんなことを考えもしなかった男子高校生。

 教訓を活かすなら、確かにこの年頃からでも将来を見据えて行動すべきだろうが、『大罪の神器』の件がどうしても引っかかるため、踏み出せないのだろうな。


 なんだかんだと、そんな言い訳がズルズルと続くような気がした。

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