05 ネフィとの会談前の出来事 5
「フェルト・リーウェン。これで君が持つ『大罪の神器』の情報は全てか」
「はい、一応」
言い忘れはないはずだと、少し視線を逸らした。
そしてオルディバルは手で顔を覆い、ひとしきり落ち込み終わると、
「ここでの話は他言無用だ。皆、わかっているな?」
「「「「はい」」」」
「ええ、お父様」
そして今後のことが語られる。
「そしてこれからの対策だが、国の防衛に関してはほぼ無意味か」
「そうでもないのでは? 俺の能力はあくまで対人戦専用みたいなところがありますから、他の『大罪の神器』も同じ可能性はある」
「確かに。君やラフィの使っていた『大罪の神器』がそうだからな」
「とはいえ過信もできません。人喰いのような能力もあるのですから」
「うむ。わかっておるよ」
「では陛下、防衛はいつも通りに……」
「……そうだな。任せよう、フェルマ」
「はっ!」
残りの『大罪の神器』の能力がわからない以上、下手な防衛強化は自国的にも他国的にも思わしく無い。
自国としては費用が嵩み、他国からは下手な警戒をさせる可能性がある。
「ディアンよ」
「はっ!」
「お前達には引き続き、死の芸術家の情報を探してもらうが、その一方で『大罪の神器』にまつわる情報も探してくれ」
「はっ!」
「ただし、深追いはするな。今の話を聞き、実際に体験したからわかるだろうが……」
「わかっております、陛下。動くにしても必ずフェルト君に話を通します。そういう契約ですから」
「はは。その通りです」
マルコ神父の二の舞はごめんだと、フェルトは苦笑いした。
「さて陛下。では早速、契約のひとつを果たしてもらいましょうか?」
「そうだな。受け取るといい。そういう契約だ」
オルディバルはそう言って、『暴食の仮面』を受け取るよう、手仕草を取る。
触るわけにはいかないのでそうなる。
フェルトはあっさりと素手で受け取る。
「ふう。やっとひとつめか……」
『大罪の神器』の回収を任されて十五年と数ヶ月、ようやくひとつめの区切りがついたとフェルトは安堵する。
「それで……どう管理されるおつもりですか?」
「渡しておいて難だが、やはり我々が管理した方が良いのでは?」
そう言われるのも無理はない。
ひとりの学生が管理するでは心許ない。
マジックボックスがあったとて、同じ発言がされるだろう。
「それに関しては大丈夫だ。これからイミエルに渡しに行けばいい」
「「「「「……」」」」」
一同は一瞬、言葉の意味を考えるためか、ポカンと呆気に取られたかと思うと、
「「「「「――っ!! は、はあっ!?」」」」」
女神との接触ができることに驚いた。
「さ、先程、干渉は難しいと……」
「イミエルは覗ける範囲が狭いだけで、俺とは干渉できるようになってます。そう伝えられてるんでね」
するとオルディバルが真剣な表情で尋ねる。
「フェルト・リーウェン、女神様と接触でき、これから報告に向かうというのか?」
「はい。そうなりますね。イミエルとは教会のような祭壇がある場所で干渉できるという話で通ってます。これから教会であの女神と会ってきますよ。待望のひとつめですからね」
そう言ってフェルトは『暴食の仮面』を扇ぐようにひらつかせる。
するとオルディバルは頭を下げる。
「フェルト・リーウェン! 頼みがある! 女神様と会わせてはもらえないだろうか?」
「えっ!?」
その意見には賛同のエメローラも頼み込む。
「そうですね。女神様のお知恵を賜ることができれば、我が国も……ひいては世界のためにもなることでしょう」
「いやいやいやいや」
イミエルと接触歴のあるフェルトは呆れながら否定する。
「あの詐欺女神がそんな知恵を持ってるなら、こんな苦労はしませんよ」
「さ、詐欺女神ですか?」
「女神様に対し、とんでもない発言をするのだな……」
「はは」
異世界転生した際の問答を考えれば当然なのだが、エメローラ達がそれを知るよしはない。
「ま、まあそれだけ寛容ってことですよ。ですが、接触に関しては無理みたいですよ」
「なに?」
「できる限り、干渉は控えないといけないって神様達のルールにあるらしいですよ。そうでなければ、俺に『大罪の神器』に対応できるほどの神託でも与えればいい。違いますか?」
「な、なるほど……」
「あくまで人の手で回収しろとのこと。俺がイミエルと連絡を取れるのが、唯一できる干渉なんだそうです。それ以上はキャパオーバーらしいです」
「そ、そうか……」
だが少しでも可能性があるのならと、
「それでもフェルトさん。どうか同行させてはもらえませんか?」
「はあ?」
「フェルトさんと一緒に祭壇に赴けば、或いは……」
「……」
フェルトはどうしたって無理だとわかっているが、
「……わかりました。諦めをつけるためにもいいでしょう」
「……! ありがとうございます!」
こうしてフェルト達は教会へと向かった――。
***
夜更けに訪れたせいか、教会の神父は非常に驚いた様子でオルディバル達を迎えた。
「こ、これは陛下に姫殿下! このような夜更けにおいでになられるとは……! 連絡を頂ければ……」
「よいのだ。我々こそ、急な訪問で驚かせてすまなかった」
「い、いえ!! 滅相もございません!」
「緊急な事で驚かせて難だが、ここでの訪問は秘密にしてもらいたい。よいかな?」
「へ、陛下がそのように仰られるならば!!」
そういうと迎えた神父は、御用向きが終わりましたお声をおかけ下さいと奥に引っ込んでいった。
「では……フェルト・リーウェン」
「そんな畏まらなくたっていいですよ。後光が指すわけでもないんですから……」
実際はフェルトの意識がイミエルのところに向かうだけであるため、おそらくオルディバル達からは何も起こっていないように見えるのだろう。
フェルトは祭壇に『暴食の仮面』を置き、適当な場所の椅子に腰掛けると、祈りを捧げる。
オルディバル達も慌て、フェルトの近くに座り、祈りを捧げた――。
***
「――ようやくひとつめですか」
「ああ」
フェルトはふと目を開けると、真っ白な狭間の空間とイミエルが映る。
そのイミエルの手には『暴食の仮面』があり、それをフェルトに手渡した。
「はい。これで『暴食の仮面』の処置は完了です」
「それはいいが、やはり特性自体は変わらないんだろ?」
「はい。だから装備しないで下さいね」
「……言われるまでもない。てか、お前が管理するんじゃないのか?」
手渡されたので何でと尋ねると、
「何言ってるんですか。貴方が生きている限りは貴方が管理してください」
「回収しろとは聞いたが、持ってろとは聞いてないが?」
「今、言いました!」
「この詐欺女神!!」
相変わらずだと悪態をつくフェルトだが、これも相変わらずなのか、許しを乞うようにしかし悪びれずに、まあまあとイミエル。
「その代わりと言っては難ですが、ちゃんと管理できるアイテムを用意しておきました」
「あん?」
するとイミエルは自慢げにそれを取り出すと、高々と宣言する。
「デデーン! 『大罪の神器』専用マジックボックス!」
「……」
フェルトは呆れて言葉を失った。
「あ、あれ?」
「あれじゃねえよ。干渉は難しいんじゃなかったのか?」
「まあまあ。アイテムくらいで世界が歪んだりしませんよ」
「その歪みを生じさせてる『大罪の神器』がごろついてんだが?」
「まあまあ」
それはそれ、これはこれと中々楽観的な女神イミエル。
『暴食の仮面』の回収に浮かれているのではないかと思うほどであった。
「このマジックボックスには特別な仕掛けがしてあります。貴方以外に所持はできません。帰ったら懐に潜り込ませておくので確認の上、『暴食の仮面』を保管してください」
「特別な仕掛けねぇ……了解」
そう言ってフェルトは、その手の平サイズのマジックボックスも受け取った。
「しかし、色々ご苦労されたようで。『暴食の仮面』の回収、改めてお疲れ様です」
「おっ? 労う心はちゃーんとあるんだな?」
「当たり前ですよ。依頼したのは私ですから」
「ふーん……」
ここでフェルトは、先程オルディバル達との会話に出たイミエルについて尋ねることにした。
「なあ、イミエル。あんたは何で『大罪の神器』の回収を依頼したんだ?」
「は? 急にどうされました?」
「いや、詳しくは聞いてなかったと思って……」
イミエルからは『大罪の神器』についての説明はあったが、それ以上は特に聞いていなかった。
「言いませんでした? 革命家さんが使われたこともあり、この世界に大きな干渉を与えるため、回収してほしいと……」
「まあそれは聞いちゃあいるが、お前は信仰されてない女神だろ? 人間を助ける理由にはならないと思ってな。お前は以前、他の神共は無関心だって言ってたしな」
だからイミエルが何かしらの目的を持って『大罪の神器』の回収を依頼したのだと考えられる。
「なるほど。確かに私自身が信仰されることはありませんから、人間を助ける理由にはなりませんが、完全に無いわけじゃないですよ」
「なに?」
「別に貴方の世界の誰もが、信仰されている神だけに祈りを捧げてはいません。曖昧に――神様、お助けください、みたいな祈りをすることはありませんか?」
「まあ……」
お願いします、神様! ガチャで何々ちゃん当たってって感じのものならと思った。
「それでも十分信仰として成り立つんですよ」
「安っ!?」
「まあ、そう言わないでくださいよ。チリも積もれば何とやらですよ」
そう言われてみればそうかと思ったフェルトは、
「つまりは何だ? テキトーな信仰心でも無くなったら困るから、回収を依頼したと?」
「そうなります」
「……」
あまり納得のいかないフェルトは、むすっとした表情。
「何か言いたげですね」
「なら、正直に語ってほしいもんだ」
悟ってるなら語れと言うが、
「語れも何も、それ以上でもそれ以下でもありませんよ。そうですね……絞り込んで強いて言うなら、下界が無くなると退屈しのぎができなくなるくらいですかね」
所詮は神様かとフェルトはため息を吐いた。
他の神様は人間に無関心であり、この女神イミエルも多少は気にかけてはいるものの、あくまで多少のものなのかと思ったが、
「わかったよ。これ以上、聞いても真意が出てこなさそうだし、納得してやるよ」
「ええ。納得してください」
嫌に人間味のあるイミエルには、やはり秘密があるのではないかと、今は掘り下げるのをやめ、別件について知っているが確認を取る。
「それともうひとつ何だが……」
「今、貴方の側で祈りを捧げておられる方々の干渉の件ですか?」
「……まあ、わかってたか」
「あれだけあからさまなら」
王族がフェルトと共に祈りを捧げているならば、フェルトが話したことなど察しがつくのも当然であった。
「以前にも言いましたが、貴方以外の干渉は不可能です。王族であったとしても……」
「やっぱりか。了解だ」
帰ったら説明しようと、納得のひと息をついた。
「しかしお話されたんですね?」
「まあな。俺だけじゃあ、回収は難しいし、元々協力者は探すつもりだったしな。国が味方になってくれるなら、心強い」
「でしょうが、所詮は人間の集まり。『大罪の神器』相手でどこまで抗えますかね」
手厳しいひと言だが、その点については同意であった。
「まあできる範囲でやっていくさ。人間はそうやって困難を乗り越えてきたわけだからな」
「……そう、ですね」
「……?」
そう聞いたイミエルは少し悲しげに微笑んだ。
「それにしても惜しかったですね。『傲慢の左足』も上手くいけば回収できたのに……」
「それは言うな……」
痛いところを突かれたと、フェルトは落ち込む。
「まあ焦ってもしょうがないですから、ゆっくりと行きましょう! むしろ生きて回収ができたのはフェルトさんが初めてなのですから、期待してますよ!」
「……! そう言われてみればそうなのか……」
「はい!」
「……わかったよ。頑張ってみるさ」
「ええ!」
落ち込んでもしょうがないと、フェルトも切り替えるためか、ふと微笑んで返した。
「さて、じゃあ情報の整理だ。今、判明している情報は『強欲の義眼』と『暴食の仮面』が俺の手元にあるということと、『傲慢の左足』は死の芸術家が持っているということ。後は……」
ユースクリア王朝跡地であった白フードの男だが、ほとんどの情報が無い。
「後は?」
「いや、あの白フードに関してはいい」
「……そうですね」
探し出せるならいいが、そうでない以上は考えたところで意味の無いことだと、とりあえず省く。
「なあ、イミエル? 死の芸術家は『大罪の神器』の特性のひとつである選定を知った。その上で所有者を探す、もしくは所有者になるために装備すると考えられるか?」
その質問にイミエルは呆れて答える。
「十分に考えられますよ。人間、やろうと思えば何でもやります」
「……だよな」
「ましてや【絶対服従】の能力を持つ『傲慢の左足』です、探さない方がむしろ不自然です」
「だよなぁ〜」
オルディバル達の前では安心させるために、命懸けではやらないだろうと納得させたが、本心ではやはりマズイと考える。
『大罪の神器』の選定がわからない以上、簡単に所有者が見つかる可能性も十分にある。
「とはいえ『傲慢の左足』も所有者を選びます。一度はあのお馬鹿に付きましたが、貴方とのやり取りで所有者を真面目に選ぶかもしれません」
「……なるほど。でも結局は――神のみぞ知るってことね」
「そうなりますね。これも考えてどうにもならないので、素直にその死の芸術家さんとやらを探した方が賢明ですね」
「だな。念押ししておくよ」
そう結論付けるしかなかった。
「それで他の『大罪の神器』についてだが……嫉妬、憤怒、色欲、怠惰、だな?」
「はい」
「お前から情報は? ラフィの時みたいに」
ラフィは聖女ということもあり、教会の祭壇に近づく機会があった。
イミエルの探せる範囲内にいるのかを尋ねるが、
「さすがに無いですね」
ふるふると首を横に振った。
さすがに前科があったこともあり、今回はイミエルの言うことは信用できた。
「ですが逆に考えると、残りの『大罪の神器』は装備されてない可能性もありますよ!」
「……楽観的過ぎるだろ。単に教会に足を運ばないだけだろ?」
「まあそうかもしれませんが、前向きに考えることも必要ですよ。それに装備されていないなら、貴方が味方につけた王族の方々がお役に立てるチャンスですよ」
「……それもそうか」
装備されているならば、先日の事件のような騒動にはなるが、装備さえされていなければ害は無い。
下手に触れないようにとも言ってあり、見つけ次第渡すよう取り付けたフェルトとしては、これ以上ないチャンスとも捉えられる。
「陛下達に言っておくよ」
「はい。それにこれで因果も回ることでしょう」
「因果?」
「はい。先日の事件で『大罪の神器』が三つも衝突しました。これは偶然と考えるのは不自然です」
「……なるほど。だから因果ねぇ……」
類は友を呼ぶということわざがあるように、強い力同士である『大罪の神器』は互いに惹かれ合う性質でもあるのだろう。
そういう意味では本来、『暴食の仮面』を持つメリーが現れるのは、まったく想定外だったわけなのだから。
「はい。だから近々また『大罪の神器』と衝突する機会もあるでしょう。十分お気をつけて」
「ほいほい。言われるまでもねえよ」
そう言ってフェルトは、ひらひらと手を振った。
「フェルトさん!」
「あん?」
「また……来て下さいね」
時折寂しそうに、催促するのに引っかかるフェルトは、
「……おう」
『大罪の神器』を集める目的は本当は別にあるのではないかと、悟る結果となった――。
***
狭間の空間から意識が帰ってきたフェルトは、ふと両隣を見る。
「「……」」
国王陛下と姫殿下に挟まれる光景などあるだろうか。
「終わりましたよ」
「な、なに!?」
一同は驚き、立ち上がる。
「えっ!? まだ祈りを捧げてから数分、いえ十秒も経っていないのでは?」
「俺がイミエルと会話ができる空間は、この世界との時間軸に作用されない。つまりあっちで何十時間でも何年経っても、祈りを捧げていた時間に戻ってこれるってわけだ」
「な、なるほど……」
フェルトはイミエルが言っていたことを確認するため、祭壇に置かれたままの『暴食の仮面』を手に取り、
「どれ……」
懐に忍ばせたとされる『大罪の神器』専用マジックボックスを探す。
「あった」
「それは?」
オルディバルは手の平サイズのマジックボックスを指差す。
「イミエルが『大罪の神器』を管理するのに使えって渡された物です。聞いてた話と違うと思いながらも受け取ってきました」
「で、では!? それは神物か!?」
「まあそうなるんでしょうが、そんな仰々しい物ではないですがね……」
そしてフェルトは言われた通り、『暴食の仮面』を入れた。
「うむ」
ついでに物は試しだと、フェルトは腰の剣を入れてみた。
すると、
「おっと!」
一瞬、入ったが、すぐに吐き出されるように外へと放られる。
「……本当に『大罪の神器』しか入らないようになってやがる。こんな仕掛けのもんを用意できるなら、もっと『大罪の神器』に対応できるもんを作っとけっての」
イミエルに文句を垂れ流すが、一同は関心を寄せるようにフェルトの周りに集まる。
「マジックボックスには容量の規定はありますが、専用という物は中々稀有ですね」
「そうだな。一般的には食料とそれ以外と分けられるが、規定の武器のみのマジックボックスなど聞いたことがない」
するとフェルトはくるっと大臣に微笑む。
「これで俺が女神と繋がりがあるって信じてくれます?」
すると大臣はそのマジックボックスを持とうと奪う。
「このようなマジックボックスなど――うおっ!?」
「へ?」
フェルトの手から離れ、大臣の手に渡った途端、まるで地面に吸い寄せられるように、大臣の手を巻き込みながらマジックボックスは落ちていく。
「――ぎぃやぁああああっ!!!! 手、手がああああぁぁっ!?」
そしてそのマジックボックスは地面に落ち、大臣の手を潰す勢いで、のしかかっている。
「お、おいおい!」
フェルトは、パッとマジックボックスを取り上げると、大臣の手には手の平サイズの四角模様がくっきりと残っている。
「大臣! 無事か!?」
「ご、ご心配を……おかけしました……陛下」
すぐさまユナが治療を施す。
「そんな重いもんじゃないはずだが……」
フェルトが軽々と持った様子と、大臣の潰された状況を考えると、結論はひとつだった。
「フェルトさん、もしかして貴方しか持てないのでは?」
「……多分な。確認してみるか」
フェルトは椅子の上にそのマジックボックスを置き、
「ディアンさん、持ち上げてもらえます?」
「任せろ」
他の人に頼んでみるが、
「な、何だこれ……! ま、まるで地面に吸い付いてるみたいに持ち……上がらない!」
次は力自慢のアーガス。
「貸してくだされ、ディアン殿。私が……。むっ! むん! むぐぐ……! も、持ち上がらん」
そして獣人であるノーウィン。
「どいて。んっ! んんっ! んっ!! っはあっ! 駄目……動かない」
「どうやら力じゃあ、どうしようもないみたいですね。誰でもいいので、魔法で動かせますか?」
筋力では動かずとも、魔法で動かせる可能性はある。
すると大臣の治療を終えたユナが手を軽く上げる。
「では私が……ふん!」
ぽうっとマジックボックスが光るも、
「……ユナ、真面目にやってる?」
「や、やってますよ、ノーウィンさん! で、でもびくともしなくて……」
「魔法にも耐性があるのか……」
「ほえー」
アンジュがそのマジックボックスを、間抜けそうな声を出しながらジッと見つめている横からフェルトは回収する。
「なるほど。フェルトさん以外の人物が触ろうとすると、極めて重くなる、というよりわたくし達が重く感じるというべきでしょうか? 椅子や地面にはめり込んだ跡はありませんから……」
大臣の手が潰された箇所にはめり込んだ跡はあったが、マジックボックスの四角の跡はなく、椅子に置いた箇所には凹みひとつない。
「まあ干渉できないが正しいんじゃないです? ま、俺としては新しい武器が手に入ったと考えてもいいけど」
「おいおい」
フェルトは投石にはもってこいだと、そのマジックボックスをポーンと投げながら納得する。
「それで? これで信じられました?」
「う、うむ。そのような神物を渡されたとなると、納得せざるを得まい。なあ? 大臣よ」
「へ、陛下の仰る通りで……」
とはいえイミエルには説明しろよと思うフェルトであった。
「陛下、『大罪の神器』の話はもちろんですが、女神イミエルと関われる件もどうか内密に」
「無論だ」
オルディバルは周りの人達にも視線で確認すると、全員わかったと頷いた。
「やっとでさえ、この義眼が神眼だのとか言われて、神の使徒だのなんだの言われてるんだ、これ以上はごめんだね」
「しかし、フェルトさん。女神イミエルとこのように交流し、神物まで受け取るとなると、そう見られても仕方ない気がしますよ。あまり驚いてないように見られるかもしれませんが、わたくし達は結構動揺してますよ」
「何であんまり驚かないんです?」
「……あまりの衝撃的な情報ばかりで驚き疲れたのです」
「はは。さいですか」
フェルトが知る『大罪の神器』の情報の全てに加え、女神イミエルとの関係を見せつけられたのだ、疲れたと口にされても仕方ない。
「まあでも俺自身はあんまりイミエルから干渉されてる気はしてないんでね。使徒とかそんなんじゃないですよ」
「本当、ですね?」
「……本当だったらどうするのさ?」
「本当であれば、ここにいる王族であるわたくしを含め、地に頭を擦り、跪くことでしょう」
「はあっ!?」
フェルトはいきなり土下座発言にびっくりした。
「何でそうなる!?」
「当たり前であろう。神の使徒とは神の代わりを果たす存在と同義だ。我々人間が跪くのは当然だろう」
国王であるオルディバルまでもがそう言うなら、そうなのだろうとフェルトは軽く青ざめた。
「いやいやいや! 本当にそんなんじゃないですから! 確かに多少は加護を受けちゃいるが、それはあくまで措置みたいなもので、イミエルから使徒だの何だのとは聞いちゃない!」
「そうですか。では、これまで通りで?」
「じゃないと俺が困る」
「フフ。そうですか」
でももっと困っている顔を見るのも良かったとエメローラは笑った。
これらが別件で呼び出された内容だったりする――。




