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大罪の神器  作者: Teko
魔法都市編 幼馴染の行方
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03 ネフィとの会談前の出来事 3

 

「じゃあ『大罪の神器』の成り立ちから話すか……」


「そこから話すのですか?」


 そこの情報は学者のような専門家が聞きたがるだろうと、エメローラは首を傾げるが、


「全部話せ、なんでしょう?」


「え、ええ……」


「ならそこから話しますよ。まあ成り立ちに関しては信じる信じないは自由ですがね……」


 フェルトも正しく『大罪の神器』の成り立ちを知っているわけではない。

 あくまでイミエルから省いて聞かされた話。


 だがイミエルはその全容も知っているのだろう。


「それはどういう……?」


「ん? 神話戦争があった大昔の話だ。学者だってまだ正しく調べられてないことを語るんだ。証拠の無い話は信憑性がないでしょ?」


「ええ、まあ……」


「だが俺の情報筋ではそれは本当の話であり、『大罪の神器』の話だから話す。信じる信じないは自由! オッケー?」


「オ、オッケー……」


 イミエルに接触できないエメローラ達に信じろというのは難しい話。

 だけど話せと言われ、条件を交わした以上は語る。


 フェルトはちゃんと約束を果たそうと、神話戦争の際に起きた『大罪の神器』のことについて語る。


「先ず、『大罪の神器』が何なのかだが、これは――神話戦争に作られた、神を殺すために作られた物だそうだ。俗にいう……神殺しだな」


「か、神殺しの……魔道具!?」


「その証拠にその壁画の写真。人が神聖化されてるみたいじゃないか。それはその当時の人々が神に勝利した際の自分達の未来の姿を描いたんじゃないかな?」


 あくまで推測ではあるが、壁画を見た時、そうではないかと悟った。

 成功のビジョンを頭に浮かべていた方が良い結果に転ぶように、願掛けの意味合いがあったのではないかと想像できた。


 なるほどと感心を集める一同を横目にエメローラは尋ねる。


「……神話戦争にはいくつかの逸話がありますが、どれも証明が難しいとされています。何せ、サンドワームにほとんど噛み砕かれてしまっているそうですからね」


「そういえばそんなことも言ってましたね」


「ええ。ですが、その壁画に描かれているのは確かに『大罪の神器』と言えるでしょう。では神話戦争での神と人との戦争はそれはもう激しい激戦が繰り広げられたことでしょう……」


「いや?」


 フェルトがあっさりと違うと否定すると、写真を見ていた一同は驚いて振り向く。


「は? 『大罪の神器』を用いて戦争をしたのではないのですか?」


「どうも違うらしいね。俺の情報筋曰く、元々『大罪の神器』は『大罪の宝具』と呼ばれていたそうだ」


「宝具……?」


「ああ。神殺しの魔道具だから、戦争に勝利した際にでも祀りあげるつもりだったんだろうぜ。だが、現実はそうはならなかった……」


「どうなったのです?」


「その当時の『大罪の宝具』が暴走し、ユースクリア王朝をはじめとした錬金術を使う文明ごと、国が滅んだそうだ」


「「「「「!?」」」」」


「要するには自滅だ」


 世間でも中々確立しない神話戦争での話を淡々とするフェルトに、驚きを隠せない一同は言葉を失いながらも質問を投げかける。


「『大罪の神器』が暴走!? ま、まさか……この仮面のようにその人間の意思がねじ曲がったということか?」


「いえ。その『大罪の宝具』自体に問題があったんです」


「……ややこしいなぁ」


『大罪の宝具』と言ってみたり、『大罪の呪具』と言ってみたり、面倒くさいと思うだろうが、我慢してもらおう。


 今は成り立ちを語っているのだからと、その当時の呼び名で説明する。


「その当時、『大罪の宝具』と呼ばれていたそれは、作り方に問題があった」


「錬金術……ですよね?」


「ああ。古代人ってのは、自虐的な発想が強かったんじゃないかな? 現に『大罪の神器』も身体の一部という設定にしたわけだしね」


「は、はあ……」


「それで? 作り方に問題があったとは?」


「その材料に問題があった」


「材料?」


「ああ。聞いた話だと、黄金すらドロドロに溶ける超高熱の鍋の中に生きた人間を放り込んだそうだ」


「「「「「!?」」」」」


 一同の顔は真っ青になるが、一度は聞いているフェルトは淡々と語る。


「そしてその生きた人間も材料の黄金とかと一緒にドロドロになるまで溶かし、型に流し込んで、錬金したとかなんとか……」


「「「「「…………」」」」」


 想像するに耐えない内容に一同はドン引きした様相でフェルトを見る。


「そんな眼で見ないでもらえます? 俺も最初に聞いた時は正気を疑いましたよ。ちゃんとね」


「す、すまない。あまりの衝撃の内容に言葉を失った。そ、それで『大罪の宝具』が怨念にでも苛まれ、国が滅んだと……?」


「そういうことです、陛下。結果としてその時から『大罪の宝具』から『大罪の呪具』と名を変えました」


「だろうな……」


「そして『大罪の呪具』はその後の戦乱の中を暴れ回り、人の負の感情を食い尽くしてきた結果、現在、『大罪の神器』というかたちで神格化を果たしたってわけ」


「なるほど。大罪の名を冠するだけはあるのか、人の負の念を喰らい続けることで、神へと到達する道へ登ることができた……」


「皮肉なものだ。神殺しのために作られた魔道具が神器となるとはな」


 確かに皮肉な話だと失笑していると、大臣から質問が飛ぶ。


「しかし、これらの話には証拠が無い。一体誰からそんな話を……」


「最初に言ったろ? 信じる信じないは自由だ。だが俺はそう聞いた」


「だから誰からだと――」


「女神様って言ったら信じる?」


「「「「「!?」」」」」


 突拍子も無い発言に一同はまた言葉を失う。

 それはフェルトが『強欲の義眼』を祝福の日に神託のように授かったことを知っているが故だった。


「そもそも『大罪の神器』の回収を依頼してきたのもその女神様だ」


「なっ!?」


「俺はあの七歳の時の祝福の日……そう神託を受けた」


 ということにしておこう。


 本当は転生者であり、前世の記憶があるというのは、約束違いである。


「め、女神だと!? そんなこと……信じられるわけが……」


「俺は語れって約束を果たしているだけだ。信じる信じないは自由。何度言えばわかってもらえるんです? それともうひとつ、その女神の話は『大罪の神器』とはほとんど関係ない」


 一同はその女神について気になるのか、ジッとフェルトを見るが、女神があくまで依頼しただけとなると深追いする話でも無いと話題を少しずらす。


「つまりフェルトさんは女神様から『大罪の神器』を回収してほしいと言われ、回収しようと考えた、で合ってますか?」


「……いや、俺が根本的に集めようと考えたのは別の要因だ」


「!?」


 女神よりも優先される理由があることに驚く一同だが、


マルコ神父(先生)の死だ」


「……」


 それを聞くと納得した。


「……なるほどな。『大罪の神器』のことを知るものとしての責任、か……」


「……俺は安易にそれをマルコ神父(先生)に喋った。その結果があれだ」


「だから我々にも情報を渋り、その責任を果たすためにできる限りひとりで回収しようと……」


 するとフェルトは、ハンと呆れて笑う。


「そんな御大層なもんじゃないですよ。もっと自己満に満ち溢れたもんです」


「と言うと?」


 聞くのかよとフェルトは少し嫌そうな顔するも、


マルコ神父(先生)の死が無駄じゃなかったって証明したいだけだ。犬死だったなんて、誰にも認めさせたく無い」


「……」


「なっ? 割と馬鹿馬鹿しい理由だろ?」


「いえ、そんなことはありませんよ。亡くなられた方の無念を晴らすのは悪いことではありませんよ」


 エメローラは優しく微笑みそう返した。


「……俺としては、生き残った奴の独りよがりな気もするが、マルコ神父(先生)に救われた身としては、あの人の死もおじさん達の死も無駄じゃなかったと思いたい」


「そのために全ての『大罪の神器』を回収する、か」


「ええ、まあ。ただ女神からは無理をしなくてもいいと言われましたがね」


「と言うと?」


「俺の人生は俺が決めればいいって言われましたからね。それにあくまで『大罪の神器』を作り出してしまったのは人間であり、その責任もまた人間にある。だから死滅しようが仕方がないってことなんじゃないですか? じゃなきゃ、俺に回収の依頼なんかせずとも、神様共が回収すればいい」


「な、なるほど……」


 フェルトは神が干渉できないことを知っているため、そうもいかないのも知ってはいるが、そこは語らずとも良いだろう。


 中々辛辣な物言いに引いた様子を見せるオルディバルを横目に、話題が逸れたと話の路線を戻そうとするが、


「さて、そうやって作られた『大罪の神器』の能力だが――」


「フェルトさん! ちょっと待ってもらえますか?」


「あん?」


「その女神様のお名前は何と言うのでしょう?」


「今回の話とは関係ないって言わなかったっけ?」


「わかっていますが……この大陸で崇拝されているオルガシオン様は男性の姿です。女神と言うからには女性の姿をされているのでしょう? どこの女神かと……?」


 確かにとフェルトは、ふと視線を空に逸らし、物思いに少しふけてから、


「名前はイミエルって言ってたな」


「イミエル……」


 そう答えたが、一同の反応は微妙であった。

 聞いたことがないと首を傾げる。


「そんな名の女神は聞いたことがないなぁ」


「やはり嘘ではないのか?」


「そうは言いますが大臣。フェルトさんが約束を違えるということはありませんよ」


 色んな意見が飛び交うので、


「イミエル曰く、自分は位の低い神様だそうで、信仰心が薄いから地上の監視役に収まってるそうだ。だから下界を覗ける範囲も限定的かつ、『大罪の神器』の感知も限られてるそうだ。神の一柱になったのもその神話戦争の時だって言ってたぞ」


「そ、そうですか……」


 作り話にしては淡々と答えたフェルトに、一同はとりあえず嘘ではなさそうだと納得した。


「しかしそんな女神様が『大罪の神器』の回収を依頼とは……。もっと位の高い、それこそオルガシオン様より下ったりしたのだろうか……?」


「いや。イミエルの話だと、他の神様は無関心らしいです。まあ神話戦争の件を考えれば当然じゃないです?」


「言われてみればそうか……」


 人間側がどういう意図で戦いを挑んだのか知らないが、刃を向けられた側としては、良い心境ではないだろう。

 実際、『大罪の神器』で自滅の道を辿ったにも関わらず、神罰を下すほどだ、この世界の神様は人間のことを虫ケラ程度に考えていると、イミエルも言っていた。


「ですが、女神イミエル様はわたくし達のことを考え、貴方に『大罪の神器』の回収を依頼した。何故でしょう?」


「それは人間の世界が滅ぶのが困るとかじゃないか?」


「それがおかしいのではないですか。信仰心が無く、あくまで監視するくらいしかできない女神様が人間を救おうというのは……。今、人々から信仰心を向けられている神が依頼するならともかく……」


 エメローラにそう言われ、フェルトはパチクリ。


「……確かに」


 神の力は昔は知らないが、今では信仰心も関係しているものと考えていいだろう。

 だが、その恩恵を受けるはずのないイミエルが人間を救うために『大罪の神器』の回収を依頼するのは解釈違いだ。


「……」


 フェルトは別の意図があるのかと考えるが、思い付くものとしては、イミエルは暇潰しに下界を覗くことがあると言っていた。

 それが無くなることを嫌ったくらいしか思い浮かばなかった。


「ま、神様にも色々あるんだろうぜ。イミエルは位の低い女神様らしいから、もしかしたら人間の管理も任されてたのかもしれないぜ。何せ、輪廻の間ってところでこの世界で死んだ人間の魂を管理してるらしいからな」


「は、はぁ……」


 突拍子も無い発言にエメローラは生返事。


「とにかくイミエルの話は『大罪の神器』とはほぼ関係ない。続けても?」


「は、はい。どうぞ」


 フェルトはそのあたりの話をイミエルと軽くしておくかと考えながら、『大罪の神器』の情報の続きを語る。


「では改めて能力だが、先ずは手元にあるヤツから説明するか」


 そう言って『暴食の仮面』に視線を移す。


「先ずその仮面は『暴食の仮面』だ」


「暴食……。なるほど。彼女の様子や能力を考えればわかる話ですね」


 人を喰い、真空波で建物すら呑み込む能力は、エメローラ達にも想像することは難しくなかった。


「『大罪の神器』の能力はふたつ」


「ふたつ? ふたつしかないんですか?」


「そうは言いますがね、アンジュさん。そのふたつしかない能力にどれだけ振り回されました?」


「そ、そうでした……」


 アンジュがしゅんと反省した様子を見せ、その能力について語る。


「そしてこの『暴食の仮面』の能力のひとつめが【暴食】というもので、あの真空波がそうです。その空間内のモノを全て呑み込み分解、エネルギーに変換する能力」


「分解し、変換。なるほど。だから防ぐことが無理だったのですね」


 魔法を呑み込まれたことがあるユナは、そう言いながら納得した様子を見せた。


「ええ。どれだけ硬度な物質であろうとも、魔法の防壁であっても【暴食】という能力の前では無意味。対処方法はユんやアーガスさんがやったように、回避することくらいですね」


 観客達を逃したやり方が良かったと評価すると、


「ふたつめは【リミッター解除】」


「【リミッター解除】?」


「人間の脳で制御された身体の力を、全開放し続ける能力です」


 そう言われてもイマイチピンと来ない一同は、首を傾げる。


「人間の脳が……」


「身体の力を制御?」


 このあたりは科学の話なのかとフェルトは、文明の違いを思い知る。


「人間っていうのは全力を出せないよう、無意識に脳が制御してくれるんだそうだ」


「は、はあ」


 するとエメローラがふと思い出す。


「何かそんな話を学者の方にされたような気がします。当時はまだ幼く、そこまで興味もなかったですが、確かに生物の脳がどうとか……」


「まあその無意識に制御されているものを外す能力だ」


「それで結局、それが何なんです?」


「わかりませんか、アンジュさん。制御されてるってことは常に余力を残し、生命を維持できるようにしているということ。それのリミッターが解除されるということは、命を削り続けているのと同義ってことです」


「い、命を!?」


「だからメリーはあんな尋常じゃない力を放ち続けてたんでしょ? あんな細腕からは考えられない腕力や筋力が……」


 なるほどと一同は、深刻な表情で納得するが、アンジュが質問。


「は、はい!」


「何です?」


「今の言い方だとメリーさん自身にそれだけの筋力があったという話に聞こえますが……」


「ええ。そう言ってますが?」


「あ、ありえないですよ! あんな少女にそんな……」


「さっきも言ったでしょ? 人間は無意識に能力を制御してるって。人間が持てる全力を出した時、その場から動けなくなるんですよ」


「そ、そんなことはありませんよ! 私だって全力で戦いましたが、ちゃんと身体は動きます!」


「だから無意識のうちに余力を残すよう、制御されてるって言いましたが?」


「あっ……」


 それを聞いたエメローラは、記憶とフェルトの言い分を辿るように解釈していく。


「つまり……脳はその生物を生かせるように、余力を残すよう制御しており、わたくし達が全力と思っているものは全力ではない……」


「イエス」


「そしてその脳のリミッターを解除すると、その制御下を離れ、それこそ死に迫るように身体の限界を発揮できる」


「イエス。そもそもこの脳のリミッター解除は俺達にもできることらしい。それこそ、死の間際に迫ったり、大切な人を目の前で失いそうになったりと、本当に危機的な状況だと脳が認知すると、解決するためにその身体の制御を解除するそうだ」


 その説明に一同は少し引いた。


「き、君は中々博識だねぇ」


「お褒めに預かり光栄ですよ、陛下。それでそのリミッターを『暴食の仮面』は外し続けることができる。この意味、理解できますか?」


 エメローラは息を呑み、


「……なるほど。要するには身体の負担やエネルギーの消費などを度外視し、メリーさんは力を振るい続け、空腹感に苛まれ、それを解消しようと【暴食】で辺りを喰らい尽くす。そういうことで合ってますか?」


「……イエスだよ、姫殿下。さすがだね」


 そう答えると、エメローラはため息を吐きながら俯いた。


 そしてアンジュが首を傾げる。


「あ、あの……何故、空腹感に……?」


 その質問に呆れたエメローラだが、その意見を聞いて理解したディアンが馬鹿らしい質問をするなと軽く答えた。


「人間のエネルギー、栄養補給は食べることだろ?」


「あっ……」


「つまり彼女はこの仮面を付け続ける限り、酷いエネルギー消費、つまりは空腹感に襲われ続け、暴れ続けたということか」


「はい。そして過ぎた飢餓は理性すら破壊する。その結果、メリーは人喰いとなった……」


「「「「「……」」」」」


 オルディバル達はメリーがどうして『暴食の仮面』を身につけてしまったのかを知っている。

 あまりにもやり切れない思いだと、空気が重くなる。


「まあでも理性を失ったのは、唯一の救いとも捉えられます。自我があってそれならただの生き地獄だ」


「……それも、そうですね」


 過ぎてしまったことはどうしようもないと、空気を変えるように、次の説明に入る。


「次に紹介するのは奪われた『傲慢の左足』の説明をしよう」


「傲慢、ですか。なるほど……」


 これも『暴食の仮面』同様、理解に難しいことはなかった。


「これ自体は能力がほとんどわかってると思うから、軽く説明する。ひとつめは【絶対服従】だ。まあ体感したから言わなくてもわかるだろうがね」


「え、ええ。それはもう酷い目に遭いました……」


 一同はもう二度とあんな目に遭いたく無いと困った顔をする。


「先ずは鈴の音のようなものが鳴り、それを聞いた人間がその神器持ちの命令を聞くと絶対遵守する。ある程度なら細かい命令は聞くし、命令の内容によっては記憶の有無もある」


 説明すると長ったらしくなるからと、必要部分だけの説明だが、体感しているだけあって、あまり突っ込んではこなかった。


「だから聖都の人達は植物状態だったりするわけですからね」


「まあ、そうですね。でも俺が言ったのは別の意味合いですが……」


「どういう意味です?」


「ん? 命令の内容にその人自身の意思疎通があるかどうかによって記憶の有無が発生するってことですよ」


 再びほとんどの人達が首を傾げた。


「例えば、『止まれ』って命令は突発的な行動のものであるため、意思の有無は必要ありません。だから意思が残った状態で命令を受けます。みんなが『黙れ』ってラフィの命令を受け、意思があり、記憶が残ったのはそういうことです」


「なるほど」


「ですが、ある程度行動を制限する命令、つまりは『〇〇まで向い、〇〇をしろ』みたいな考える命令に関しては実行を素直に行えるよう、意思は剥奪され、命令を実行するまで意思は戻らない」


「た、確かに。円滑に命令を通すなら、その人の意思は無い方が良いからな」


「なるほど。クレアがラフィの命令に素直に従い、貴方との遭遇の件をベラベラと喋り出したのは、そういうことですね」


 フェルトはその光景を浮かべると、中々シュールだと苦笑いした。


「えっと……ふたつめの能力ですが、これはラフィは使いませんでしたね」


『大罪の神器』と知らないラフィ達に使えるはずもない。


「【傲慢の一撃】と呼ばれるもので、能力は【絶対服従】を受けた生物、もしくは自分よりも能力の低い生物に左足が触れ、発動を望むと、その生物は瞬時に死滅するそうです」


「そ、それはまた恐ろしい能力だ……」


「そうですか? 発動条件が極めて難しく、使い所も無い能力だと思いますが」


 戦闘面に詳しいディアンが同意する。


「確かに。そもそも【絶対服従】を受けているなら、殺す必要はないし、自分よりも格下ならばわざわざ左足を当てるなんて能力は、さっきの『暴食の仮面』より明らかに弱いな」


「な、なるほど」


「あくまで見せしめや念を押すくらいの能力でしょうね。その分、相手の行動を制限できる【絶対服従】の方が強過ぎましたね。ま、こちらも聞こえなければ意味もありませんが……」


「う、うむ」


 そうは言うが、それで国が乗っ取られそうになった手前、あまり馬鹿にはできないとオルディバルは困った返事を返す。


「しかし、これが死の芸術家(デス・アーティスト)に奪われてしまったことがかなりの痛手だ。【絶対服従】の力を殺人鬼共の手に渡ってしまったのは、頭を抱える問題だ」


「陛下。下手をすれば我々の責任問題と、近隣国から問われる可能性も……」


「う、うむ……」


 聖堂騎士達の事件はある程度の情報を秘匿しながらも、近隣国には知れている事実。

 死の芸術家(デス・アーティスト)が何かしらを起こした際などから『傲慢の左足』の情報が出てしまえば、責任を追求される可能性は高い。


 だがエメローラは違和感を語る。


「お父様。そこまで心配なさらなくても良いかもしれませんよ」


「なに?」


「何せ、それを目の前で奪われたはずのフェルトさんがあまり焦っている様子がありません」


「!」


 オルディバル達は確かにとフェルトに視線を集めた。


「おそらく奪われても大丈夫な理由があるんですよね?」


 エメローラの問いに、フェルトは不敵な笑みで答える。


「ああ。ていうか、みんなも知ってることだぜ?」


「なに?」


「アスベルが話していた『傲慢の左足』のことを思い出してほしい」


「「「「「……」」」」」


 一同はアスベルの話していた内容を振り返る。


「そ、そうか!? 確か……直に触れた神父が亡くなったと……」


「そう。後で詳しく説明するが、『大罪の神器』は所有者を選ぶ。ラフィに言った道具として選ばれたってのはあながち嘘でもないってことさ」


「……な、なるほど」


「つまりフェルトさんは、あの会場にいたリグレットがそれを知っているため、下手に装備はしないと考えていると?」


「ああ。ただ、所有者探しはするだろうな。そういう教育は得意そうだしな」


 アリスの心酔の仕方を考えると、リグレットが人心掌握が上手いことは明白。

 あれよこれよと『傲慢の左足』の所有者を選定できるとも考えられるため、過信もできない。


「だから死の芸術家(デス・アーティスト)の捜索は続けるべきだろうな」


「それは無論だ」


 とはいえ、そんな簡単に尻尾は出さないだろうから、フェルト自身が囮になるのがベストと考えられる。


 そしてフェルトはその囮の要因になっている『強欲の義眼』の説明に入る。


「ではお待ちかね。陛下達の味方となる力のご紹介……」


 フェルトは自身の左目を指差す。


「俺の左目の義眼……『強欲の義眼』の説明をしましょう」


「強欲……」

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