02 ネフィとの会談前の出来事 2
「本番、ですか?」
オルディバルは大臣とエメローラに無言で視線で会話をする。
話す内容は打ち合わせ済みだが、いざ言うとなるとという面持ちだろうか。
先ずは大臣から話を持ちかける。
「これの正体は『大罪の呪具』と呼ばれる物であるとわかった。神話戦争の折にできたものだと推測される」
推測されるというあたり、確定情報ではないようだ。
だが『大罪の呪具』という名前が出てくるあたりは、フェルトの予感が的中している証拠でもあった。
「どこ情報です?」
「貴方もご存じのはずですよ?」
ニコリとエメローラが問う。
フェルトにも心当たりはひとつしかない。
「ファバルス王国か……」
「ええ」
ファバルス王国の姫であるタルターニャが既に帰っていたのは、そのことが起因していたようだ。
「ターニャには悪いと思いましたが、早くに帰国してもらい、先んじて調べていただきました。そして先日、こちらの学者の方々を派遣し、このような資料と共に情報提供していただきました」
机の上に広げられた資料。
その中には遺跡の写真がいくつかあり、そこには一部が欠けた壁画が映っている。
それをエメローラは指差した。
「一部欠けてはおりますが、専門家によるとこれが『大罪の呪具』を作ったとされる記録の壁画だそうです」
「……なるほど」
すると少しウンザリした表情でエメローラは続ける。
「何でも当時の錬金術の布陣がどうとか……聞いてもないことも説明されましたが……」
「はは……」
「こちらの壁画に描かれている通り、義足や義手が神聖視された表現がされています」
「ですね」
その欠けた壁画には中央に後光が差した状態で人が立っており、左足と右腕だけがその人の左足と右腕の隣に描かれている。
そして欠けた部分にも同じような表現がされているのではないかと説明。
「……なるほど。確かにこれなら奪われたあの左足を『大罪の呪具』と仮説を取るのは説明がつく。そしてその仮面はその壁画に欠けた頭の部分、正確には顔か? 描かれていると?」
「おそらく。向こう様の資料では当時の錬金術の記録は少ないですが、昔は供物などの儀式的な風習が根強かったことを考えると、自傷的に装備する義足などを錬金し、魔道具として作ろうとすることは容易に考えられるとのことです」
「なるほどね」
成り立ちを知ってるフェルトとしては、もう同意したい気分だった。
「それで? そんな話を俺にする理由はなんです?」
心当たりは大いにあるが、簡単に折れるわけにもいかないので尋ねる。
「単刀直入に申し上げますと、貴方のその義眼も同じ物ではありませんか?」
やはり。
「あー……俺が闘技場で言ったことを魔に受けてらっしゃらる?」
確かにフェルトは『強欲の義眼』を神眼と呼び、同じ物だからとラフィを追い詰めた。
更には【絶対服従】が食らわないところを見せている。
正直、こちら側の旗色が悪い。
「魔に受けるも何も、あの【絶対服従】を受けませんでしたからね」
「ほら、それは神眼だから……」
「確かにあの光景を見た我々からすれば、神眼と言われれば納得もするところでしょう。ですが『大罪の呪具』に人の身体の一部を模していることを考えると、その義眼にも疑いがかかります」
「……」
下手な返しは墓穴を掘るだけだと黙ると、エメローラは追撃をかける。
「それとクレアがこんなことを言っていました……」
「?」
「ラフィ・リムーベルを見ていた眼が、あの白ローブの男を見ていた眼と似ていると……」
「……それが?」
あくまでしらばっくれるが、エメローラの追撃は止まらない。
「以前、その白ローブの方を見かけたのは、錬金術で栄えていた国、そしてその国は『大罪の呪具』を作っていたとほぼ断定してもいいでしょう。そしてフェルトさんはその方を警戒していた……。無関係と考えるのは早計かと思います」
「……なるほど」
フェルトは、本当にクレアは余計なことを喋ってくれたなぁと、少し不貞腐れる。
「そして聞けば、その方はユースクリア王朝跡地を調べていた学者と聞きます。もし、貴方がその神眼とやらで彼を見透し、『大罪の呪具』の所有をラフィ・リムーベルのように見抜き、わたくし達にその脅威から避けるために、当時の状況にも関わらず、助力を断ったことにも説明がつきます」
「……」
エメローラの尤も過ぎる言い分に言い訳が考えつく間も無い。
そしてエメローラは決定的な証言があると口にする。
「とはいえ、ここまではただの状況証拠に過ぎません。決定的な証拠とは言えないでしょう」
「そう言い切るってことは、決定的な証拠があると?」
「はい」
ニコッと笑顔を向けると、スッとノーウィンに手仕草をする。
「彼女が証人です」
「は?」
するとノーウィンは軽くため息を吐く。
「獣人の聴力を侮らないことね。貴方に先に行かせたけど、ちゃんと状況はわかっていたのよ」
「……まあ、確かに。ベストなタイミングでアリスの肩に噛みつきましたもんね」
それはフェルトが『強欲の義眼』による【識別】での把握範囲にいたからだと思ったが、
「彼女との会話もね」
「!」
「その会話を聞くかぎり、貴方は『大罪の呪具』のことを知っているということでした」
フェルトは、あっちゃ〜っと頭をかいた。
「……なるほど。奴を追いかけるのにこんな裏目が出るとはなぁ……」
「ということはお認めになるのですね? 『大罪の呪具』の情報を持っていると?」
そう尋ねられたフェルトは視線を逸らす。
正直、【記憶の強奪】で無理やり隠蔽することもできるが、結局、同じことか。
起きている事件を消せるはずもなく、更にはそれを調べなければならない王宮側である以上、結局辿り着く答えかと思うと、フェルトは諦めた。
「……ああ」
「「「「「!!」」」」」
一同はある程度の確信はあっても、やはりそう返事をされると動揺は隠せなかった。
「それで? それを知っているとして、俺は何をすればいいんです?」
「フェルト・リーウェン。君には『大罪の呪具』の情報を提供してほしい」
「……!」
大方、予想通りの回答だった。
『暴食の仮面』と『傲慢の左足』のふたつの『大罪の神器』の被害に遭った以上、国のトップとして情報は知らなければならないのだろう。
「君もわかっているだろうが、我が国はその『大罪の呪具』の被害に遭った。だからこそ、もし次があったとして、知らなかったでは済まされない。国民を守るためにも、知らなければならないことだ。どうか情報提供してほしい」
「……」
フェルトとしては複雑な心境ではある。
そもそも王都に来た目的のひとつとして、協力者の確保も入っている。
王宮が味方になってくれるのは有難い。
だが、フェルトにはマルコ神父のことが過る。
そんな渋った表情をするフェルトに、オルディバルは頼み込む。
「フェルト・リーウェン。どうか、教えてはくれないだろうか? この通りだ」
オルディバルはペコリと頭を下げ、辺りは動揺する。
「へ、陛下!? いくら何でも……」
「何を言っている。我らだけでは『大罪の呪具』の対応などできてすらいなかった。彼がいなければ今頃は、この国が傀儡の国となり、国民達がどれだけの被害に遭ったかしれん。これがどれほど重要なことか……」
するとエメローラも頭を下げた。
「わたくしからもどうか……お願いできませんか?」
「姫殿下!?」
「一国を背負う者として、国民達にこれ以上の被害などあってはならないのです。お兄様のことだって……」
「……」
オルディバルとエメローラの悲痛な心持ちは理解できる。
フェルトも本来なら、直ぐにでも応えてあげたい。
だが、
「……いくつかの条件を守ってくれるならいいですよ」
「「「「「!?」」」」」
「ほ、本当かね!?」
フェルトの言い分に大臣は激怒する。
「き、貴様っ! 何様のつもりだ! エドワード様があのようなことになってしまって、悲痛な想いをされている陛下と姫殿下がこれほどまでに頼まれているというのに、条件だと!? ふざけるのも大概に――」
「よせ、大臣」
「陛下! しかし!」
「よいのだ」
制止するオルディバルの言葉をやっと聞いたのか、大臣は納得いかない表情をしながらも黙った。
「彼には彼の事情があるのだろう。それにアレだけ強大な力だ、話を聞くこちらとしてはそれなりの約束事くらいあるものだ」
「……」
大臣の言い分もわからんではない。
一国の主が頭を下げたにも関わらずその発言は、確かに不敬に値するだろう。
だが、フェルトにもその情報を扱う責任がある。
「それで? 条件というのは?」
するとフェルトは三本指を立てる。
「条件は三つ。これらを守れるなら、情報を提供しましょう」
「して、その条件とは?」
「ひとつは情報の提供と管理。『大罪の呪具』……いや、『大罪の神器』の情報は手に入り次第、俺に報告することと他者には話さないということ」
言い換えたことに一同は驚く。
「『大罪の神器』……だと?」
「はい。呪具というのはもう過去のお話。今は神格化を迎え、神器と化しているそうです」
「「「「「……!」」」」」
一同、言葉を失ったが、フェルトはお構いなく話を続ける。
「それで? ひとつめは守れそうですか?」
「あ、ああ。情報提供は勿論、『大罪の呪具』、いや神器だったか? アレほどの物の情報など勿論、他言してはならぬと心得ている」
「つまりフェルトさんは、今回みたいな抜け駆けはするなということですね?」
「そ!」
ちょっと強めの返事をし、ふたつめを提言する。
「ふたつめは『大罪の神器』の回収に協力すること。正直な話、俺は『大罪の神器』を集めるための準備として王都に来た。俺としては王宮側が味方になるのは有難いが、勝手な行動をして死なれたり、操られたりされても困るので、『大罪の神器』の応対を行う場合、必ず俺に相談すること」
「う、うむ。それも守ろう。情けない話、【絶対服従】の左足を前に我々は何もできなかったからな」
そして三つめを語ろうとするが、
「それで三つめですが、正直、先程のふたつは最悪、守らなくてもいいです」
「なに?」
「さっきのふたつは時と場合によっては話さなければならなかったり、即時対応しなければならない状況とかもあるでしょう。それを考えるとさっきのふたつは守らなくてもいいです」
「まあ、状況に応じてということになりますか」
『大罪の神器』の能力を受けないフェルトが必ずしも側にいるわけではない。
更にはフェルトも完全ではない。
状況によっては仕方のない場合が必ず出てくるだろう。
実際、この状況もフェルトとしては望ましくないが、見抜かれてしまった以上は仕方ない。
「ですが、三つめは必ず守ってもらいます」
「それで……三つめの条件というのは?」
オルディバル達はそう前振りをされたので身構える。
「三つめの条件は――『大罪の神器』を入手した際、速やかに俺へと渡すことです」
「「「「「!?」」」」」
「なっ!?」
一同はとんでもない発言に驚くが、フェルトはスンとした落ち着いた表情で語る。
「この三つの条件、特に最後の『大罪の神器』本体とその所有権を俺に渡すならば話しましょう」
こんなふざけた条件に大臣は再び激怒する。
「フェルト・リーウェン!! 貴様ぁ!! どこまでふざけるつもりだ!!」
「大臣!」
「いいえ、陛下! 言わせて下さい!」
大臣はフェルトを指差しながら怒鳴りつける。
「いいか? 貴様も知っているはずだ! あの魔道具の恐ろしさを。『大罪の神器』……によって、どれだけの被害を被ったと思っている! そんな国を揺るがしかねない力を一個人である貴様に管理など任せられるわけがないだろう!!」
大臣の正論が飛ぶが、フェルトは毅然とした態度を取ったまま、聞いている。
「大臣!」
「貴様よりよほど我々王宮側で管理する方が安全に決まっているだろう! 二度と誰の手にも触れさせてはならないのだ! 人喰いになってしまった彼女やその彼女に殺されてしまった被害者達を生むわけにはいかないのだぞ! 貴様、わかっているのか!!」
「大臣!」
「へ、陛下……」
ある程度、吐き終えたのか、疲れた様子で呼び止めたオルディバルの方に向く大臣。
「大臣の言うことは尤もだ。私も同意見だ」
「陛下……!」
「フェルト・リーウェン。ふたつめまでならば守れないことはない。これほどの話だ、国家機密レベルの情報の取り扱いや対処は的確に為せる人物である、君が適任なのも理解できる。だが、『大罪の神器』の管理はまた別の話だ。君のことを信用していないわけではないが、さすがに三つめの条件は飲めんよ」
するとフェルトはスッと立ち上がる。
「では話はここまでですね」
「なっ!? ま、待ってくれ! 確かに今までのことを考えれば、管理に不安を持つのもわからないではない。だが、私達にだって――」
「陛下」
「!」
「条件が飲めるならお話をするという話です。できないなら交渉決裂です。では……」
「ま、待ってく――」
オルディバルが呼び止め、フェルトがその場を去ろうとした時、
「……」
フェルトの首元に刃と爪を突きつけられる。
「どういうつもりですか? ディアンさん、ノーウィンさん」
先程まで奥に引いていたふたりが、即座にフェルトの動きを封じる。
「俺だって本当はこんなことをしたくはない。だが、陛下の仰っていることは尤もだ。管理はこちらでやるべきだ」
「フェルト君。貴方のことは子供の頃から知っているつもりだったけど、少し見ない間に随分と大人を舐めるようになったのね。悪いけど、無理やりにでも吐いてもらう」
オルディバル達がディアン達の行動に驚く中、
「……フッ、フフフ……」
フェルトは不敵に笑い、ノーウィンはイラついた視線を向ける。
「ノーウィンさん、舐めてるのはアンタ達の方だ」
「なに?」
フェルトは冷ややかな視線で脅す。
「あんな面食い聖女モドキにしてやられてる王宮騎士風情が、俺の相手が務まると?」
「なっ!?」
「俺があの無能聖女モドキのように、能力を理解できないにも関わらず、頼り切っているとでも? 舐めてるのはアンタ達だろ」
「……」
「俺が本気でこの義眼の力を使えば、この部屋の制圧なんて赤子を捻るくらい簡単なことだ」
ディアン達に過るのは、ラフィが【絶対服従】を使い、黙らされたあの光景。
抵抗が一切できずにやられた瞬間だった。
「その仮面もあとで回収できる」
「なっ!?」
「どうします? ディアンさん、ノーウィンさん。……戦ります?」
左眼の義眼を主張するように、義眼で睨みつける。
するとノーウィンは挑発を受けようと、突きつけた爪で攻撃しようとした瞬間――、
「おやめなさい!!」
「「「!!」」」
ピシャッとエメローラが厳しい声を放つ。
「おふたりとも、引いてください」
「し、しかし姫殿下……」
「これは命令です。引きなさい」
「「……!」」
エメローラの圧にふたりは息を呑んで引いた。
するとエメローラはふたりの擁護から始める。
「フェルトさん。おふたりの行動に謝罪致します。しかし、わかっていただきたいのです。おふたりもこの国を想ってのこと」
「……わかってますよ」
その返事に大臣は意を唱える。
「わかっているならば――」
エメローラはスッと手を出し、大臣に喋るなと態度を示す。
「フェルトさんが今のような意地悪をなされたのは、我々を想ってのことですよね?」
「……」
「わ、我々を?」
「ええ。我々は『大罪の神器』による多大な被害とそしてその対応が難しいことを考え、情報提供に慎重になされているのでしょう。下手に話し、我々が勝手な行動を取れば、どれほどの死者が出るか、わかったものではありません」
「「「「「……」」」」」
それには一同、心当たりがあるせいか、エメローラの正論パンチを真っ向から受ける。
「だからフェルトさんは我々を遠ざけるために、わざと挑発的な態度と発言をなされたのでしょう?」
「……」
フェルトが『大罪の神器』の回収の仲間が欲しいのは本当だ。
フェルトはやれやれと頭をかきながら、明るい表情に戻す。
「お見通しだねぇ、姫殿下」
「貴方ほどではありませんよ」
「ハッ」
フェルトはドサッと座っていた席に座り直す。
「そうだよ。確かに『大罪の神器』の回収の味方が欲しいのは事実だ。俺だってひとりでできるとは考えてない。だが、やっぱり慎重になっちまうんだよ。マルコ神父のことがあるからな」
「先生……。確か、人喰いの被害に遭われ、亡くなられた神父様のことですか?」
「ああ。ディアンさん達、特にアンジュさんとノーウィンさんならわかるだろ? あの人は最後まで人喰いであるメリーと戦った」
「は、はい」
「それは少しでも俺への負担を減らすためのものだったと思うんだ……」
「それで人喰いに殺された……」
「ああ」
「……なるほど」
この口ぶりからエメローラは、フェルトが『大罪の神器』について、マルコ神父に話したことが推察できた。
「『大罪の神器』に関われば、凄惨な死が待ち受ける。しかも我々はその被害に遭い、貴方でなければ解決できなかったことを踏まえると、話すことは難しい、ですか」
「ああ。それだけヤバい物ってことさ」
話したがらないフェルトにエメローラが微笑む。
「確かに貴方の言う通り、生半可な者達では『大罪の神器』の対応が難しく、被害に遭われ、亡くなられる可能性は極めて高いでしょう。ですが……」
エメローラは机を叩き、フェルトを説得するため前のめりで語る。
「ですが一国家を統べる者として、お父様が先程言っていた通り、知らないでは済まされないのです。被害に遭ってからでは遅いんです。我々は知らなければならない。そして対応していかなければならない」
「……」
「貴方を含めた国民を守るためにも……」
フェルトもそれはわかっている。
国と民を守るためなんて、国を統べる王族にとって当然のこと。
得体の知れない『大罪の神器』などという物に振り回されるわけにはいかないことが。
それもちゃんと理解しているフェルトだが、
「それでもやっぱり条件が呑めないならダメです」
そこを譲るつもりはない。
「貴様、これだけ話しても――」
それに対し、改めて文句を言おうとする大臣だが、
「……わかった。条件を呑もう」
「へ、陛下!?」
オルディバルはフェルトの意図を汲んだのか、あっさりと了承した。
「陛下! あのような魔道具を一個人、ましてやまだ少年である彼に管理を任せるなど……」
「我々はその少年に国を救われたばかりだ」
「っ……」
そう言われてしまうと、ぐうの音も出ない様子。
「し、しかし……」
「大臣。我々の目的は何だ? 『大罪の神器』の回収かね? 違うだろう。我々の目的は国民を守るために、その脅威を知らなければならないということだ。それを知るフェルト・リーウェンから……」
「……お、仰る通りで……」
「大臣。君の言い分もわかる。本来であれば国で管理を行い、その実物をもって調べ、世に放たないようにするのが一番だろう。だが彼は『回収の味方が欲しい』と口にしている。それは捉え方によっては管理方法があるということだ。違うかね?」
そう尋ねられたフェルトは、こくりと頷く。
「ならば我々はこの国を守るためと彼に協力し、『大罪の神器』の脅威を取り除くことに注力を上げるべきだ。我々にとってフェルト・リーウェンの協力は不可欠。ならば条件を呑むのが今一番の最善だ」
「はい……」
「大臣。これが『大罪の神器』の被害に遭った我々の責務だ」
「はい」
オルディバルの説得により、大臣は落ち着きを取り戻した。
「皆も異論は無いな」
そう尋ねるオルディバルに、一同はこくりと頷いた。
「そういうことだ、フェルト・リーウェン。そちらの提示する条件を全て呑もう。情報と対応の共有、そして『大罪の神器』を君に渡すと約束しよう。……契約魔法を執行するかね?」
「いや、そこまでしなくても結構。口約束で十分です」
「良いのか? 条件を破る気は無いが、アレほどの力の情報と物だ、安易な口約束では……」
「前半ふたつはともかく、最後のは守ってくれるんでしょ? ならいいです。それに万が一破った場合、全てを忘れてもらうので問題ありません」
「全てを……」
「忘れる……!」
フェルトの意味深な言葉に多少の恐怖を覚える一同だが、そんなことはお構いなしに、話すと決めたらとことん開き直ろうと、フェルトは軽く口にし始める。
「話す前にここ、誰にも聞かれないようには――」
「なってます」
「ありがとうございます、ユナさん。さてどこから話そうか……」
フェルトがそんな軽口を叩いていると、
「全部よ」
「へ?」
圧の籠った冷ややかな声が飛んできた。
「こちらは条件を全部呑むと約束した。なら、貴方が知る『大罪の神器』の全ての情報を提供するのが筋でしょう?」
「は、はは。もしかしてさっきのこと、根に持ってます? ノーウィンさん……」
たじろぎながら尋ねると、
「いいえ。そんな大人気ないことはしないわよ」
そう主張しているが、誰がどう見ても怒っていると丸わかりだった。
「ノ、ノーウィン。落ち着きなさい。アレは我々の身を案じて敢えてということだ」
「……わかっております、陛下」
フェルトは苦笑い。
「でもノーウィンさんの言う通りですね。オッケー。情報はできる限り共有した方がいいもんね」
そう言ってフェルトは、『大罪の神器』の知る全容を語る。




