01 ネフィとの会談前の出来事 1
「――では次は夏季休暇が終わった秋に会おう。有意義な休みを過ごすように」
「「「「「はーい!!」」」」」
――聖女の事件から一ヶ月とちょっと過ぎ、七月を迎え、夏季休暇に入ることとなった。
前世である現代世界とほぼ変わらない学校生活に良かったと思うフェルトだったが、
「特にフェルト・リーウェン!」
ギルヴァートが何故か名指ししてきた。
「は、はい? 何ですか?」
「お前は厄介事に首を突っ込むのが大好きなようだからな。夏季休暇中くらい、ゆっくり休めよ」
ギルヴァートのまったく声が笑っていない笑顔を向けられ、フェルトもまた苦笑いで返す。
「いや、俺だって突っ込みたくはないんですよ? ただ、ほら! 事件が俺を呼んでいる……みたいな?」
まるで某眼鏡の少年のようだと苦笑いを浮かべながら答えると、ため息を吐かれ、
「ならその呼びかけに応えるな」
正論をぶつけられた。
「ほ、ほーい」
そしてギルヴァートが出て行くと、フェルト達も帰り支度を始める。
「ねえねえ、フェルト君達は故郷に帰るんだよね?」
「まあな」
男子寮組のフェルト、ユーザ、グエルはこの夏季休暇中、故郷の実家に帰る予定。
元々帰る予定はあったが、ここ三人は特にギルヴァートに念を押して帰れと言われている。
理由としてはやはり誘拐事件のことである。
無事な姿をちゃんと見せてこいとのこと。
一応、一度帰ってきた際には、見せている連中もいたが、ほとんどは攫われた貴族嬢達の親ばかり。
フェルト達はちゃんと見せていない。
「フェルトの故郷は俺達とは反対側だもんな。一緒に帰れないのは残念だ」
「というか、カルケット君と同じ方向とは思わなかったよ」
「むしろ近いしな! 驚いたぜ!」
ふたりは領地している貴族は違えど、ほぼ隣同士だそうだ。
世間は狭いものである。
「フレンドはどうやって帰るつもりだい?」
「俺か? 冒険者に友達がいるからな。そいつと一緒に帰るつもりだ」
フェルトは長期休みに入ったら、ディーノと帰る約束をしている。
何でも最近、馬車を買ったとのことで、行きの時のようにおじさん頼りではなくなった。
「確かディーノ・バウア君だったかな? 中々優秀な冒険者だと聞いているよ」
「さすが情報が早いな。頭ん中は天国のくせに……」
「相変わらずの悪態だね。僕だって活躍したんだけどな」
「はいはい」
聖女の事件の立役者のひとりだと言うが、フェルトはテキトーに返事。
「それでさ、フェルト君!」
「こ・と・わ・る」
「まだ何も言ってないじゃないか」
「散々言ってきただろうが、絶対ついてくるなよ」
「「えー」」
ヘイヴンとクレアはフェルトの故郷に興味があると、散々ついて行きたいと懇願している。
「ヘヴンはともかく、お前は領地に帰って親御さんに顔見せなくちゃいけないだろうが! この田舎貴族!」
「大丈夫だよ。お父様にはローラのサポートをするとか、テキトー言っておいたから……」
まさか姫殿下をダシに使うとは……。
「……この親不孝もんが」
「大丈夫だって。ちゃんと帰ってきた時、一回顔見せてるから」
「そういう問題じゃない気がするがなぁ……」
男親からすれば、娘が帰ってくるだけでも嬉しそうな気がするものであり、帰ってこないとわかると結構落ち込みそうだ。
人様の親になったこともないフェルトですら、想像に難くなかった。
「だからさ!」
「そう言ったんなら、今お忙しい姫殿下のサポートをしたらどうだ? お優しい親友様?」
クレアはいけずと拗ねた表情をするが、そう言ったのはクレアである。
「しかし、姫殿下はあの事件以来、学校に来ることが少なくなっちゃったね」
「まあ王位継承権が姫殿下に移ったからな。まだ顔を見せられてるだけでも凄いだろ」
エドワードが【絶対服従】によって洗脳されてしまい、ほぼ植物状態であることは、あの闘技場でのアスベルの発言以降、国民の周知にある事実。
そのため、自動的に王位継承権はエメローラに移るわけだが、忙しさは前の比ではないだろう。
「でも本当にローラ、忙しそうだったよ。ボクも中々会いに行けないからさ」
「ま、そうだろうよ」
フェルトは荷物を鞄にまとめると教室を後にする。
「でもさ、やっぱ忙しいのは聖都のこともあるのかなぁ?」
「当たり前だろ、カルケット君。聖女ネフィ様はまだ聖女の巡礼中で、聖都の民は治療中とのことであり、聖都の治安は聖堂騎士の悪行をリーウェン君が暴き出したことで、王宮側に管理が回っている。忙しくないわけないだろ」
「ま、傀儡の国になるよりはよっぽどマシさ」
そう答えるフェルトだが、もうひとつ忙しい理由に当てがあり、ちょっと呆れて笑う。
「そういえば、フレンド。一度、僕達とは違うタイミングで陛下から直接面会をしたそうじゃないか」
「……どこで知ったんだよ、このバカヘヴン」
「君は王宮でももう有名人さ。兵士とかが噂しているのを耳にする機会があってね」
「さいですか」
ヘイヴンもクレアも聖堂騎士の事件には一枚噛んでいるため、事情聴取を受ける機会があった。
フェルトも同じタイミングであったはずなのに、呼び出しを再び受けたことにヘイヴンは疑問を投げかけたのだ。
「なに? 聞き忘れたことでもあったのかな?」
「ん? まあな。俺は事件解決の功労者だからな。いくつかの細かい確認事項があっただけの話だ」
クレアの答えに乗っかることにしたフェルト。
だが本当のところは違うことでの呼び出しだった――。
***
それは事件解決からしばらくして、ネフィがフェルトの元に訪ねる数日前に遡る。
「失礼します」
フェルトはよそよそしくオルディバルがいる応接室へと入る。
というのも、急に男子寮までフェルマがひとりで迎えに来て、カーテンのついた馬車に乗せられ、まるで秘密裏に連れていきたかったと言わんばかりの扱いを受け、王宮まで来たからだった。
今までの事情聴取とは雰囲気が違った。
「おおっ。来たか、何度も呼び出しすまないね」
「いえ」
だがオルディバルの迎える態度はそこまで変わらなかったが、
「あの、陛下……?」
「何だ?」
「姫殿下や大臣、迎えに来たガルマの父ちゃんがいるのはわかるんだが……」
フェルトが横目に見た人物達は、
「何でディアンさん達までいるの?」
王族の応接室ということもあり、そこまで狭くはないが、さすがにこの人数には圧迫感を感じる。
「今日は俺達にも話があるそうだ」
「……裏でのメモを渡したこと、これ以上、話すことないですけどね」
「まあ、そう言うな。陛下がこの面子でお話がしたいそうだ」
「ふーん」
ディアンの説明にやや納得がいかないが、オルディバルに文句を言うわけにもいかず、フェルトは案内されるまま迎え側に座る。
「フェルト・リーウェン。君を呼んだのは他でもない、事後の詳細が明らかとなってきた。解決に多大な貢献をした君には知る権利がある」
そうは言うが、まだ病室で寝てた際に、簡単にエメローラから聞いている。
「勿論、要らぬことと言うなら無理を押してまで聞かせはしないが……どうだ?」
とはいえ折角話してくれると言うならば、
「……そうですね。解決に導いたとはいえ、それによる影響のほどは気になっていたところです。噂には色々流れてきますが、正確な情報を得られるというなら是非、お伺いしたいです」
良かれと思ってやったことが、とんでもないことになっていないか、当事者としては確認しておきたい。
「うむ。では大臣、説明を頼む」
「はっ」
堅苦しそうな大臣は相変わらず気難しそうな表情をしながら説明を始める。
「先ず、事件の大筋はフェルト・リーウェン、君の言った通りだった。聖堂騎士、奴隷商達からも証言が取れており、彼らの罪は露見した。感謝する」
「ども」
「聖都オルガシオンの状態だが……エドワード王子殿下を含めたほとんどの住民が【絶対服従】による洗脳を受けていることを確認している。自我の残った者達や奴隷商によって連れて来られた者達の証言により、やはりラフィ・リムーベルが洗脳していたことが確認できている」
「それを指示していたのが、アスベルだということも……」
「確認できている」
「ふーん」
そのあたりはラフィの性格上、納得がいく。
あの女がまともな洗脳ができるとは考えにくい。
するとオルディバルが申し訳なさそうに尋ねてくる。
「フェルト・リーウェン……」
「はい?」
「そのことについて頼みたいことがある」
「はあ……?」
フェルトは小首を傾げた。
「聖都の住民のほとんどが洗脳を受けており、聖堂騎士の指示の下、今は暴れない状態になっているが、明らかに自我が無い」
「でしょうね」
「我が国の治療を得意とする魔術師でも聖都の者達の治療が難しく、【鑑定】で調べても解決の糸口すら見つからない」
「……」
『大罪の神器』である『傲慢の左足』の力は、普通の幻術魔法とは異なる。
脳に直接命令を下し、無理やり書き換えたと思われるものを戻すのはほぼ完治不可能だろう。
「そこで君の……神眼で視てほしいのだ」
間があった……?
「……つまりあの【絶対服従】の左足の神物と同種の物である神眼ならば、解決の糸口が見つかると?」
「そうだ。アテにしたい」
正直、無理だと思うフェルトだが、一縷の可能性に賭けるのも悪くはないだろうし、そもそも国の王様の頼みとなると断ることはできない。
「わかりました。できる限り解決できる糸口が見つかるよう、尽力致します」
「すまないな。今回の事件といい、その後始末まで……」
「俺はできることをしてるだけなので、お気になさらず」
そして大臣は続きを語る。
「そして此度の事件の責任だが、その首謀者であるアスベル・カルバドス、ラフィ・リムーベルは人喰いであるメリー・ハイナントによって殺されてしまった」
「その件に関してはすみません」
「いや、君が気にすることではない。むしろ、我々こそ君に頼り切りですまなかった」
こほんと大臣は咳き込む。
「だがこれでは広まってしまった事件の始末がつかないということになり……」
闘技場であれだけ堂々と聖堂騎士達の悪行をひけらかしたせいで、国民達はその話題で持ちきりであった。
国王オルディバルに対する風当たりはそこまで酷くはないが、それでも責任は問われ、何かしらのかたちを示す必要はあったのだろう。
「その際、ダミエル・ラージェンがその責を負うと志願した」
「責?」
「つまりは処刑ですね」
「!」
フェルトは一瞬動揺したが、もうこの世界で生きて十五年以上が経つ。
さすがに処刑を志願するダミエルの意図もそれを行なう理由にも検討がつく。
「……なるほど。あの人なりにケジメをつけるってわけだ」
「我々も同じ見解だ。そして彼の処刑はひとつの区切りとして国民達も納得するだろう」
人々を洗脳し、国を脅かそうとした責任としては、妥当な刑罰なのだろう。
本来ならアスベルかラフィ、もしくはその両名だろうが、そのふたりは既に亡くなってしまった。
ダミエルもそのあたりをわかった上で、更に自分が間違った道を歩んだことへの終止符を打つべく、処刑に志願したのだろう。
「処刑は近日行われる。その前に会ってみるかね?」
フェルトはダミエルが他の聖堂騎士の中ではまともな精神の持ち主であったことは知っている。
だからこそ『傲慢の左足』の力を利用したという選択肢に憤りも感じていたが、
「いや、ちゃんと責任を取るって奴に、わざわざ俺がしゃしゃり出ることもないでしょう。嫌味に捉えられても嫌なんでやめておきます」
「そうか」
奴隷商達も違法奴隷取引という、別の犯罪によって逮捕したとのことで、聖堂騎士の件についての話は終わった。
「そしてこれからの聖都は我々王宮側が管理することとなり、聖女ネフィ様と共に復興計画を進めている」
「……聖女ネフィは大丈夫なのですか?」
計画の話ができているということは、ある程度の心境の目処を立てたのだろうが、心配は募る。
何せ、フェルト自身、ラフィを守ることができなかったからだ。
「……以前よりはマシになっておりましたよ。少なくともフェルトさんに話した時のように、倒れるほどではありません」
「そ、それはそうだろうよ」
「聖女ネフィ様もやらねばならないことが多く、心傷に浸る余裕がないことも押して、今は気丈に振る舞っておりますよ」
「そうか」
「その証拠にちゃんと聖女の巡礼を行なってくれるようです」
「!」
休めばいいのにと素直に思ったが、
「……聖女の巡礼を行わなかったら、モンスター・ディザスターが発生するからか?」
「ええ。わたくしもあんなことがあったから、せめて少しお休みになられてからでも良いと提案もしたのですが、あんなことがあったからこそとのことです」
「……そうか」
ネフィは救われたことにより、強くなったんだなと思うフェルトだが、後にそれを本人から確認することとなる。
「貴方の故郷にも向かうよう言ったので、もうお父様に頼む必要はありませんよ」
「はは。お父様を困らせて悪うございました、姫殿下様」
以前、オルディバルに聖女の巡礼を正しく行なってほしいと心願したのをエメローラは聞いていたようだ。
するとその場は和やかな笑顔が溢れた。
「じゃあ聖都の復興は聖女の巡礼を終えた後か。聖女様も大変だねぇ」
「勿論、聖女ネフィ様の体調を見ながら行なうつもりだ。こう言っては難だが、聖都の民のほとんどが洗脳状態では、復興はかなりかかるだろう」
「気の長くなる話ですね」
「根気よくやっていくさ」
オルディバルも国を収める者としての気概を見せるようにそう言い切った。
期待しよう。
「次に人喰いの件だ。その全容については一応聞いていると、エメローラ姫殿下より聞き及んでいる」
「はい。その場に居合わせた俺の友達のディーノと姫殿下から聞いてます」
フェルトとしては残念な結末となったことを聞いている。
「うむ。人喰い、メリー・ハイナントはブラックギルド、死の芸術家の創設者、リグレット・ハーマインによって殺害され、人喰いの事件は解決となった」
「我々としてもあのような幼子があのような結末を辿ったことに遺憾とするところだ。力不足が嘆かわしい」
それにはディアン達も同意のようで、一同は落ち込む。
「実際、あの者達の行方は知れませんからな」
「ああ……」
フェルトは少し話題を逸らすように、
「その人喰いの原因を作ったギリューっておっさんの処遇はどうなりました?」
何かしらのかたちを取らせるとは聞いたが、まだ具体的な内容は聞いていない。
被害者であるフェルトとしては聞いておきたい。
「……罪に問うという点に関してはやはり難しくてな。君も事情は聞いておろう」
「ええ。原因はギリューっておっさんの骨董品収集や娘を構わなかったっていうのだろうが、結局は事故だったからな」
ディアン達はそれをバラしたアンジュをジトっと見る。
アンジュがそんな中で小さくなっている。
「ああ。だが君の友達であるディーノ・バウアという少年の言う通り、責任が無いというわけでもない。とはいえ彼も没落した身。先ずは責任を取れる環境を作るため、とりあえず王宮で働かせるということになった」
「……なるほど。自身の生活もおぼつかない状況で人喰いによって殺された人達の責任を負えじゃあ、また自殺を考え兼ねないってことですね?」
「その通りだ」
「そしてこの国の仕事を与えることで、人喰いがこの国にもたらした被害を間接的に教えたりってことですか……」
「そこまで深くは考えなかったが、まあ確かに……この国での仕事を任せれば嫌でも直面する機会もあるだろう」
その時に反省してくれればいいと、フェルトは割と落ち着いて考えられていた。
その心境はやはり、ディーノがちゃんとギリューに言うべきことを言ったことを知ったことにある。
「ま、ディーノや姫殿下の話を聞くあたり、ちゃんと責任は感じてくれているようだし、死んだ人達がいることをちゃんとわかってくれて反省するなら、俺はこれ以上何も言わないさ」
「……良いのか? 恩師を殺されたと聞いているが……」
「ええ。それに言うことは大体ディーノが言ってくれたんでね」
それにマルコ神父の死に関しては自分にも非があると、少し影を落とした。
それを察したオルディバルは、
「そうか。君がそういうならこれ以上、掘り下げることもあるまい」
そう言って、ギリューの話を終える。
「死の芸術家達の行方は先程言った通り、わからない」
「アリスは女子寮に使用人として侵入していたということですが、女子寮の様子はどうなんです?」
フェルトはあそこの女子寮の生徒と学校では、クレアやチェンナしか接触しない。
あのふたりに特に変わった様子はなかった。
だが、何も思わなかったということもないだろうが、それをフェルトから聞き出すのもダメだろう。
問われたオルディバルは、申し訳なさそうに苦悶する。
「……それについては不甲斐ないばかりだ。まさか偽装だとはな」
「……ええ。それに貢献した貴族もギリュー・ハイナント同様、脅されているようですし……」
それはアリスが話したとおり、養子でもなんでも戸籍を作り、殺すと脅し、口封じをしていたようだ。
「クレアを含めた女子寮の生徒と同僚達に話を伺ったのですが、普段はとても頑張り屋さんで人当たりも良く、でもとてもドジをするお茶目な方だという、とても殺し屋とは思えなかったと話しておりました」
「むしろ今でも信じられないという同僚までいるそうだ」
「それだけ完璧な演技だったんでしょうね。俺の前では、ボスであるリグレット・ハーマインに固執する妄執女でしたよ」
オルディバル達も女子寮の一同とフェルトの話があまりにもかけ離れていると、頭を悩ませる。
だが事実として殺されかけ、今、女子寮にいない以上、死の芸術家のひとりであることに間違いはない。
「……そうだな。我が兵士や騎士達もそのアリスという娘に操られたそうだからな」
そう言ってオルディバルはノーウィンを見た。
「何か?」
「……ノーウィンさん、やり過ぎたんじゃないんです?」
「だから貴方の下にたどり着けたのでしょう? 手足の一、二本くらい……」
そう言ったノーウィンに一同は苦笑い。
「と、とにかくその騎士達も無事だ。それと身元の確認も強化するという話にはなっているが……」
自信が無さそうなオルディバル。
裏業界のプロ相手にどこまで通用するかわからないのだろう。
あまり厳しくし過ぎるのも問題になる。
「まあ奴らはプロですからね、暗躍の。最強の冒険者である英雄の盃という人達も追いきれないほどなんでしょ?」
「それはそうだが、国を守る者としてはその妥協もいけないのだがな……」
侵入を許してしまったことに責任を感じているようだった。
「まあお父様。とにかく会議で決めた警備で進めていきましょう。こればかりは考えても必ず防げる手が思い付くわけではありません」
「そうだな……」
完璧という言葉は存在していても、完璧というものは存在しない。
必ず穴というものはあるものだと、フェルトもこれ以上、掘り下げないこととした。
そして――、
「そして彼らが持ち去ったあの左足だが……アレの正体についてわかったことがある」
「!」
そう言うと大臣は応接室の奥から鍵付きの箱を持ってくる。
フェルトとオルディバル達の前のテーブルの上に置かれ、大臣はおもむろに鍵を開け、箱を開いた。
「あの左足は、この仮面と同等な物であるともわかった」
そう言って『暴食の仮面』を見せられる。
フェルトは嫌な予感が過る。
「……いいんですか? これ、確かに事件に関連した物ではありますが、これは性質上、国家機密レベルの物では? 一介の学生風情に話す内容じゃあ――」
「フェルト・リーウェン」
「!」
オルディバルはピシッと真剣に言い張り、フェルトも思わず固まった。
「君を呼んだのは他でもない。ここからが話の本番だ」
フェルトはここにいる面子を見て、どうして隠されるように呼び出されたのか、わかり始める。




