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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
111/177

50 聖女祭後日談 1

 

「……終わったな」


 フェルトはそう言いながら天井を見上げ、


「ああ、終わったな」


 隣には見舞いに来たディーノがそう答えた。


 フェルトはアリスに逃げられた後、もがき苦しむノーウィンを連れて王都まで戻ると、そこで保護を受け、自身も酷い怪我だったため、森に王宮騎士や魔術師達が倒れていることを早々に報告すると、医療院へと案内され、現在、ベッドの上である。


「人喰いの件、聞いた。死の芸術家(デス・アーティスト)のボス様が殺したんだって?」


「ああ……」


 不本意そうに俯くディーノだが、フェルトは仕方ねえだろと続ける。


「相手が相手だしな。それにアンジュさん達は殺す気がなかったんだろ?」


「まあな」


「人喰い、メリーがあの状態なら殺すという選択は間違ってないと思うぜ。その役割を取られたのは残念だがな」


「ああ」


 フェルトは『大罪の神器』のことを知っているため、殺すという選択一択だった。

 だからこそ、悔しくはあった。


 だがメリーのことを思えば、誰であれ解放させたのであれば、良しとも考える。


「メリーがこれ以上、苦しまなくて済むならいいさ」


「だな」


「それより俺はお前がメリーの親父さんに説教したとこが良かったと思うぞ! 良く言った!」


「手も出たけどな」


「いいって、いいって! 俺もそんな舐めたこと言ってんなら殴ってた」


 考える余裕が無くとも、自分が招いたことであることはわかっているはずだ。

 それに対し、死で簡単に逃げるという選択を作ってしまうのは頂けない。


「ところでそのボス、リグレットにやられたディアンさん達はどうなんだよ?」


「あー……」


 ディーノは気の毒そうに視線を逸らす。


「まあ、こっ酷くやられたからな。特にアンジュさんなんて珍しく落ち込んでてさ。あんなアンジュさん、初めて見たぜ」


「ノーウィンさんは?」


 フェルトはノーウィンを預けたっきりで、その後は知らない。


「めっちゃ機嫌悪そうにしてたよ。時々唸ってる」


「はは」


 自分が煙玉による被害さえ受けなければ、アリスの追跡は可能だったかもしれない、『傲慢の左足』を取り戻せたのかもしれないと考えると、やり切れず、つい自分自身が腹正しく思うのだろう。


 するとコンコンとノック音。


「はい。どーぞ」


「失礼します」


「!」


 訪ねてきたのはエメローラと側近のティアとヤクトだった。


「おっ、姫殿下」


「お元気そうで何よりです」


「おう。お元気、お元気」


 フェルトが軽く会話をする中、その隣にいたディーノはピーンと立ち上がる。


「コ、ココ、コレハ、ヒメデンカサマ。ゴキゲンウルワシュウ……」


 突然の姫殿下の訪問にガチ緊張している様子を見せた。


「……何だ、その反応? お前だってさっきまで事件に巻き込まれて姫殿下の側にいたろ?」


「バ、バカ! あの時は状況が状況だろうが! 今の状況ならこうなるのも無理ねえだろ!」


 するとエメローラはクスクスと笑い、


「別に構いませんよ。公の場でもありませんし、とりあえず負傷したフェルトさんの様子を見に来ただけですから」


「だとよ」


「で、でしたら、俺、邪魔っスね! これで失礼しま――」


 出て行こうとするディーノだったが、


「ああ、お待ち下さい。貴方様も居られるのでしたら、丁度良かったので、居てくださいな」


「は、はあ」


 ディーノにも話があるようで、呼び止められた。


「それで? 話って?」


 エメローラはコホンと咳き込む。


「改めてお礼を。此度の聖堂騎士の件、そして人喰いの件、どちらも解決に協力して頂き、ありがとうございます」


「別にいいって。やれることをやっただけだ」


「貴方ならそう言うと思ってました」


 そしてエメローラはくるっとディーノの方を向く。


「貴方様にもお礼を言わねばなりませんね」


「えっ!?」


「貴方の言葉が無くては、もっと甚大な被害が出たことでしょう。そしてギリュー・ハイナントの自殺を止めて下さったことにも感謝を」


「い、いえ!! お、俺もフェルトと同じで、やれることをやったっつーか……や、やりました」


 エメローラは微笑み、感謝を表す。


「怪我の具合は大丈夫そうですね」


「まあな。ディアンさん達の方はディーノから聞いたよ」


「そうですか。大分参っているようですが、相手が相手でしたからね。あまり深くは考えないでほしいものです」


 エメローラにここまで言われるということなら、かなり沈んだ空気なのだろう。


「でも悪かったな。例の左足を回収できなくて……」


「いえ。貴方達が無事なら構いません……と言いたいところですが、【絶対服従】の左足を殺人ギルドに盗られるというのはかなりの痛手です」


 フェルトとしても追いたかったが、ジャイアント・スパイダーが物理的に阻み、ノーウィンがダウンした状態となると、追跡は困難を極めた。


「とはいえ、貴方がその責任を負う必要はありません。むしろそれを発覚してくれたのは貴方ですから。もし、貴方が【絶対服従】の左足の存在に気付いて下さらなければ、今頃この国は傀儡の国と成り果て、結局、あの杜撰な計画を立てていたアスベル達からリグレット・ハーマインはあの左足を奪っていたことでしょう」


「だろうな」


 そこについては同意だった。


 アリスは『傲慢の左足』について、ついでと言っていたが、フェルトのことを調べていたならば、嫌でも直面する情報だ。

 どちらにせよ、奪われていた可能性は高い。


「だからこそ、もう少し引き際の判断を早くして欲しかったものです。ノーウィンから聞きましたが、結構ギリギリだったそうで……」


「ノーウィンさんも余計なことを……」


「貴方が優秀なことは知っていますし、実力者なのも知ってますが、あくまで一般市民であるということなんです。下手な無茶はしないでほしいものです」


「善処しまーす」


「それ、善処する気ありませんね」


 エメローラは呆れ果てながらも、今回の事件の事の顛末を語ってくれた。


「気になっていると思うのでご報告も。人喰いによる被害は、アスベル・カルバドス及びラフィ・リムーベル以外の被害者は出ておりません」


「ほう。戻ってから闘技場を見てはないが、結構ボロボロにされたって聞いたが?」


「ええ。ですが、あの真空波の射程内から事前に避難誘導できたのが幸いしたのでしょう。建物の被害はありましたが、人的被害がなかったのはそういうことでしょう」


「……ネフィはどうだ?」


「……」


 聞かずにはいられなかった。

 やはり陥れられたとはいえ、実妹の死の報告は堪えるのではないだろうか。

 守れなかった身として、聞いておきたかった。


「ラフィ・リムーベルの死をお伝えした後、ふらりと倒れられまして、今、お休み頂いてます」


「そっか」


 無理もないとこれ以上、この話を掘るのはやめることとした。


 どうせネフィが王都にいる間に話をする機会はあるはずだし、目の前にいるエメローラに頼めば、その機会もくれるだろう。

 非難されるのはその時だ。


「それで? 他の聖堂騎士達から聴取できたのか?」


「ああ、はい。それはまだ途中ではありますが、概ねフェルトさんのご説明通りでした」


「そっか」


 まだ事件が終わって、数時間しか経ってない。

 だが、全容はフェルトがほとんど語り、あそこまでの敗北フラグを立てておけば、賢いダミエルならば、大人しく自白するだろう。


「聖都の方ですが、そちらには後日、こちらの騎士隊が調査に向かいますが、おそらく良い報告はされないでしょうね」


「ダミエルさんらが聖都の事情を話したか?」


「ええ。奴隷商からも」


 聖都オルガシオンの状態は芳しくない。

 これはオルドケイアにとっても重大な問題。


 エメローラが顔を顰めてしまうのも納得だった。

 何より、実兄が肉人形にされていると言われてもいる。

 気が気ではないだろう。


「聖都の立て直しの目処は、その調査次第か」


「そうですが、難しいでしょうね。何せ、わたくし達も味わった【絶対服従】の力を複数回かけられているとのこと。下手な幻覚魔法を解くより難しいでしょう」


『大罪の神器』の力を知るフェルトからすると、もう解くこと自体難しいと判断できるが、それをここで口にしても混乱を招くだけなので、伏せておくことにする。


「ですが、フェルトさんのおかげでネフィ様の疑念が晴れ、あの事件の概要が広まっています」


 闘技場のど真ん中で推理を披露すればそうなるだろうと苦笑い。


「聖都オルガシオンはネフィ様を中心に立て直すことは可能とも取れます。その時は共に尽力していくつもりですが……」


「まあ、な」


 ネフィがちゃんと立ち直れるかにかかっている。

 とりあえず今はそのあたりは見守るしかないだろう。


「それでもうひとつの方はどうです?」


「ギリュー・ハイナントのこととリグレット・ハーマイン、そして貴方が遭遇したアリスという彼の部下のことですね」


「ああ」


「先ず、ギリュー・ハイナントですが、罪に問われるようなこと自体はしておりませんが……」


 ちらりとディーノを見る。


「彼の言う通り、彼から招いたこと故、何らかのかたちで贖罪(しょくざい)させるつもりです。何かあるのでしたらお伺いしますが、如何でしょう?」


「俺達から?」


 フェルトとディーノは確かに人喰いの被害に遭った。

 故の質問だろうが、


「いや、今更来られて、地面に額を擦りながら謝罪されても困るし、世間様のお役に立つような善行でもしながら生きてくれてりゃあ、俺はそれでいいよ。人喰いによって亡くなった人の分までな」


「だな」


 その答えにエメローラは優しく微笑む。


「畏まりました。ではその旨を伝えておきましょう」


「ん。それで話を戻すが、そのギリューさんが入手した仮面の入手経路は調べられてるんです?」


「いえ。それは以前より、把握できておりません」


「そっか。そういえばあの仮面は?」


 下手に触ると所有者の選定がされてしまうため尋ねると、


「あれは一度リグレット・ハーマインが手にしていましたが、逃げ出す際に手放したようで、こちらで保管しておりますよ」


「そ、そっか」


 フェルトはホッと胸を撫で下ろす。

 エメローラの落ち着いた口ぶりから、何もなかったことが判断できる。

『暴食の仮面』に下手に触れないように計らったのだろう。


「そのリグレット・ハーマイン、並びにアリスの追跡は叶わず、逃げられてしまいました」


「そうだろうな」


 アリスが逃げたのは確認しているため、そこについては特に疑問はなかった。


「そしてアリスという女に関しては、こちらも申し訳ないと言う他ありませんね。まさか、攫われた女子寮にまた不審者を入れてしまうなど……」


「その調査については?」


「これからですが、こちらもリグレット・ハーマイン同様、口止めされているでしょうから、情報を得ることは難しいでしょう。一応、女子寮での様子などもクレア達含めた寮生に尋ねるつもりですが……」


「欲しい情報は出てこないだろうな」


「ええ」


 リグレットの口止めというのも、ギリューとの関係から考えると検討もつく。

 おそらく、リグレットを含めた 死の芸術家(デス・アーティスト)の情報を口にすれば殺されるのだろう。


「ですが、あれだけ情報の無かった死の芸術家(デス・アーティスト)から構成員のひとりがわかっただけでも成果です。直ぐに情報を拡散し、指名手配するつもりです」


「ま、それをしててもリグレットって奴もシギィのイカれ野郎も捕まってないから、アリスも簡単には捕まらないだろうがな」


「そうでしょうが、少しでも動きの抑止はできるでしょう」


 顔付きの指名手配されれば、確かに動きは遅くなるだろう。


「なあ、フェルト?」


「ん?」


「結局、あの聖堂騎士連中とあの殺人鬼野郎は繋がってたのか?」


「いーや。アリス曰く、利用しただけみたいだ。元は俺の左眼を狙ってのことらしい」


 するとエメローラは少し眉を顰める。


「へえ、貴方の左眼を……」


「あ、ああ。神眼だからだとよ」


「そうですか……」


 うーんと悩む素振りを見せるエメローラ。


「お前は何かとその左眼には何かあるんだな」


「お前だって見てたろ? 祝福の日にあんなかたちで手に入った義眼だぞ? あのハゲ神父をきっかけに広まってるみたいでな? 狙われたって仕方ないだろぉ」


「今は貴方自身がバラした影響で広まってますがね」


「そ、それを言うなよ、姫殿下」


 説得力を持たせるためには仕方なかったのだと、フェルトはポリポリと頭をかいた。


「まあ貴方の神眼の件は、この事件をきっかけに他国にも知れ渡ることでしょう。くれぐれも勝手な行動は謹んで頂きたいものです」


「……やっぱ、この国に影響はあるもんか?」


「どうでしょうね。神眼とはいえ、見透すだけの力と広まるでしょうし、今回の件で広まるのは、それを使い熟す貴方のことの方が目立つでしょう。国がそれを所持しているどうこうという話にはならないでしょう」


「そうだな……」


 これはあくまで『大罪の神器』と知らない場合の話であって、これが『大罪の神器』と知っていれば、他国の態度は一変するだろう。

 それこそ、戦争の引き金に成りかねない。


「ですが、あの仮面や奪われた左足はどう捉えられるかは難しいところです」


「そこの情報の秘匿は……」


「するつもりですが、限界はあるでしょう。少なくとも仮面の方は隠しきれません。オルドケイア大陸が仮面の化け物により荒らされているというのは、もう他国も知ることです」


「なるほどな」


『暴食の仮面』がもたらした被害は確かに甚大なものであった。

 それは他国から見ても脅威に映るものだっただろう。


 いつ人喰いが自国に来るのかという脅威はあっただろう。


 だがそれが無くなり、それになれる仮面を保持しているというのは、ひとつの兵器として捉えられる。

 例えるなら、滅ぼしたい国の人間にわざと『暴食の仮面』をつけ、暴れさせればいい。


「ですが得体の知れない仮面をどうこうするというのを他国が考えるかどうかであり、わたくし達も甚大な被害が出たからこそ、使用は行わないとわかってくれれば良いですが……」


 するとディーノが立ち上がる。


「使うわけねえよ! あんな仮面!」


 フェルトはわかってるよと呆れた視線を。

 エメローラはわかっていますよとニコニコ笑顔。


「し、失礼しました」


「いえいえ。貴方の仰る通りです。あの仮面を使おうなどという気は毛頭ありません。二度とあの家族のような悲劇を、そして貴方達のような被害者を生むようなことはあってはなりません」


「……」

「だな」


「とはいえ、何も知らないでもこの国を治める者として示しもつきません。あの仮面についても調べているところです」


「つけるなよ」


「わかっておりますよ。そこはギリュー・ハイナントからも指摘されております。それに……」


「それに?」


 するとエメローラは真剣な眼差しをフェルトに向ける。


「少しご意見を伺いたい」


「ほう? 俺に?」


「ええ」


 フェルトはどうぞと手仕草を取る。


「結論を先に申し上げますと、あの仮面と奪われた左足、これらは類似するところがあるのではないかと考えています」


「……! ほう? その根拠は?」


 フェルトは『大罪の神器』であることを見抜かれるのではないかと少しギクリとする。


「根拠というほどのものはありませんが、先ず、あの仮面も左足も傷ひとつ付きませんでした」


「ほう」


「あの仮面はアンジュの攻撃などを受けても付かなかったのはフェルトさんも知るところでしょう」


 フェルトはこくりと頷く。


「そしてあの左足。あの仮面の真空波を受けたラフィ・リムーベルはほとんど呑み込まれてしまいましたが、義足であるあの左足には傷どころか真空波による抉られた跡すらありませんでした。貴方もアリスという彼女が持っていたのを確認した際、真空波で抉られた跡はありましたか?」


 ふと思い出してみるフェルト。


「……確かに血で汚れてはいたが、損壊していた箇所はなかったな」


「ええ。つまりは同じ素材で作られ、同じ耐性を持った物ではないかと判断できませんか?」


「まあ確かに……」


 同じ『大罪の神器』と知るフェルトにとっては当然の答え。

 だが、エメローラに変に意識されても困るので、ここはあえて乗っかっておく。

 実際、言っている筋は通っている。


「そしてアスベルと貴方が語った所有者を選ぶ件。これがもし、あの仮面にも該当するものがあるのだとすれば、繋がりがあると考えても良いと考えるのですが、如何でしょう?」


「なるほど。つまりはふたつとも神物であり……!」


 フェルトはハッと気がつく。

 エメローラはフェルトから情報を聞き出したいのではないかと。


「……俺の義眼(これ)も類似する物ではないかと?」


 エメローラはこくりと頷く。


 するとフェルトは開き直ったように、へらっと答える。


「そこのことの真偽はわからないが、ここまで共通することがあるなら、姫殿下の推察通りかもしれませんね」


「貴方の義眼はことが事だっただけに神物とわかりますが、左足と仮面については判断が難しいですからね」


「まあ、俺のはご丁寧に後光が差しながら降り立ったからなぁ」


 あんな演出はいらんと思ったあの頃が懐かしい。


「こちらについても調べがつき次第、お話をしましょう」


「一応聞くんだが、あの仮面の管理は?」


「わたくし達、王宮の者が丁重に管理します。あれはもう二度と人の手に渡っていい代物ではありませんから」


「そ、そう」


『大罪の神器』を集めることを目的としているフェルトとしては、ちょっと困る話だが、安全に管理するというのならそれに越したことはないし、最悪、【記憶の強奪】を使って強奪すればいい。


 さてととエメローラは、難しい話はここまでにしましょうと、先ずはさっきから話についていけていないディーノに話しかける。


「ディーノ・バウアさん」


「は、はい!」


「貴方の報酬についてですが、ギルドを通し、支払われる方向で大丈夫でしょうか?」


「!?」


 ディーノは突然の報酬の話に慌てふためく。


「えっ!? ほ、報酬ですか!? たまたま居合わせただけですし、避難誘導をしただけで……」


「何を言いますか。冒険者にはそういった仕事もあるのは知っていますよ」


「そ、それはそうですが……」


 実際、今回の聖女杯でも周りの警備の一部は冒険者も行なっていたらしい。


「それに今回は人喰いということ、そしてギリュー・ハイナントの自殺も止めてくださいました。このふたつの功績は、しっかりと支払われるべきです」


「は、はあ……」


「つまりはアレだろ? 人喰いはこの大陸の問題のひとつ。そしてギリューっておっさんは、ブラックギルドの情報を持つ数少ない情報源。口止めされているとはいえ、その功績はあるってこったろ?」


「な、なるほど。で、でもなぁ……」


 それでも断ろうとするディーノに、


「断らない方がいいぞ、ディーノ。王族の沽券に関わるって結局、押し切られるだけだぞ」


「わかってますね、フェルトさん」


「おうとも。俺は経験済みなもんで」


 フェルトがそう言うならと、


「わ、わかりました。ギルドを通して報酬を受け取ります」


「ありがとうございます。それではギルドマスターとお話をしておきますね」


「は、はい」


 そして今度はフェルトの番のようで、エメローラはニッコリ笑う。


「フェルトさんに関しては、今回はどうしましょうか?」


「あー……あらかじめ言っとくが、貴族にはならねえよ」


「わかってます。貴方を貴族にするのは些か面倒になりそうなのも見えてきたので……」


 黙って行動するのがよほど嫌なのか、そう言われてしまった。


「ですから今度もバウアさん同様、お金での支払いでよろしいでしょうか」


「まあ前回は教会の立て直しを含めてたからなぁ……あっ!」


 フェルトがとあることを思い付くのだが、


「言っておきますが、聖都の復興のための助成金に当てろというのは無しです!」


「な、なんでわかった?」


 エメローラが先に釘を刺しにきた。


「貴方が今回した功績は大きく、しかも公になっている以上、ちゃんとした報酬を渡さなければ、国民達も納得がいきません! 本来であれば、正式な場をもってある程度の立場を与えるものですよ」


「は、はは。なるほど……」


 それはそれで『大罪の神器』を集める身としては困るお話。


「それに聖都は我々の問題。一個人である貴方が介入していい問題ではありません。とはいえ、貴方はそういうのは嫌がるのはわかっていますから、世間様には巨額の報酬を渡したということにします」


「巨額、ねえ……」


「文句がお有りなら、爵位でも何でも付けますが? それだけの功績を――」


「謹んでお受け致します!」


 フェルトはビシッと敬礼。


「よろしい」


 そうは言うが常識の範囲内だろうと鷹を括っていたフェルトだが、後に本当に巨額の金額が支払われていることを知るのは後の話。


 そして話が終わったのか、エメローラは部屋を後にするようだ。


「それではこれ以上、長居しても傷に触るでしょうから、わたくしはお暇させていただきます」


「へーい」


「フェルトさん、傷が治り次第、また事情聴取等行いますので、その際はご協力を」


「わかりましたよ、姫殿下様」


 するとディーノも帰ると言い出し、


「じゃあ俺も帰るとするよ」


「そっか。今度来る時はお前さんの彼女達を紹介してくれよ」


「た、達!?」


 フェルトの発言にエメローラびっくり。


「ち、違います、姫殿下!? フェルトも余計なこと言うんじゃねえ!! 成り行きでそうなったって何回言えばわかるんだ!!」


「はいはい」


 するとエメローラはポンと手を叩き思い出す。


「ああっ。そういえば貴方と共に行動しておられた女冒険者方がおりましたね。アレは貴方のパーティーの方でしたか」


「は、はい。そうなんです」


「それは良かった。実は彼女達にも報酬をと思っていたのですが、同じパーティーというなら手間が省けます」


「そ、それは良かった」


 そして一同はフェルトの部屋から出て行く。


「ではまた」

「じゃあな、フェルト」


「おう」


 フェルトはそう言いながら、手を上げて見送った。


「ふう」


 ひとり部屋で枕にぽすんと頭を乗せ、天井を見上げる。


 今回の事件、いくつか納得のいかない件はあった。

 特に『大罪の神器』関連の話。


 結局、『傲慢の左足』は奪われ、『暴食の仮面』は王宮預かりとなった。

『暴食の仮面』は良いとしても、『傲慢の左足』は奪われることは良くなかった。

 とはいえ、早々に悪用できるものでもない。


『大罪の神器』には選定がある。

 必ずしも負の感情の強い殺人集団の物になるとは考えにくいし、リグレットもあの現場にいたならば、アスベルの話は聞いていたはず。

 そう簡単には『傲慢の左足』の所有者を探そうとはしないだろう。


 そして人喰い、メリーの件だが、


「ふう」


 フェルトは起きてしまったことはもうどうしようもないと、少し不貞腐れたように布団を被り、とりあえず回復に専念することにした。

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