03 強欲の義眼2
「――そ、そのようなことが……」
「はい。改めてお詫び申し上げます」
ケリングに今回起きた騒動について語られ、マルコ神父とシスター達は再び頭を下げて謝罪した。
しかし、そこに騒動の発端となったダマス神父はいなかった。
「本来であれば、ダマス神父に謝罪させるところなのですが……。ダマス神父は?」
「はい……。自室に籠られているようで……」
ふて寝でもしてるんだろうか。
ガキかと、フェルトはフンっと鼻を鳴らす。
「本当に申し訳ありません」
「いえ。どうか謝らないで下さい。うちの息子もご迷惑をお掛けしたようですから……。それより息子は大丈夫なのでしょうか?」
神物を片目に入れたとなると、不安になるのも当然のこと。
神物どころか、元は呪具だったなんて話したら、絶対外せって言われそう。
「一応、本人は大丈夫とのことですし、意識確認も致しました」
ケリングが来る前に軽い診断をされた。
取り替えた義眼は勿論、本物の眼球にも問題がないか、調べられた。
眼球の色や視力、義眼をはめた際のフィット感や痛み、意識確認としては自分の名前や両親の名前、最近食べたものなど、軽い質問に答えた。
というかマルコ神父は万能過ぎる。
マルコ神父はたまにどこかにいる、そつなく何でも熟せる人。
「それで……息子の付けている義眼については……」
「申し訳ありません。我々ではあまりに情報が不足しておりまして、今言えることはこれは神物……『神眼』とでも言いましょうか……」
神物の眼だから神眼ね。
『強欲の義眼』って知ってるのは俺だけだし、仕方ないね。
「神より賜ったものではないかということと、どうやら視力があるようで、彼は我々と同じく、両目で見ることができるようになったようです」
原理はわかりませんがと頭を悩ませるマルコ神父だが、両親にとってはそこは関係がないようで、
「む、息子の視力が……」
「は、はい。きっと神が彼に与えて下さったお慈悲でしょう」
両親は涙ながらに喜んでくれているが、本当のことを知っているフェルトとしては再び罪悪感が募る。
「とはいえ、この神眼が彼にこれから何かしらの影響を与えないとも限りません。今しばらくは一人での行動は控えさせるよう、お願い致します」
「は、はい。わかりました」
「あと、定期的に彼の診断もわたくしが致しましょう。ダマス神父の振る舞いを考えれば、その上司にあたるわたくしの信頼性に欠けるとは思いますが、息子さんを悪いようには……」
ケリングは少し前のめりになる。
「マルコ神父が私達の息子と真摯に向き合ってくれていることは、重々承知しております。息子を守ってくれたようで、ありがとうございます」
「いえ。大人として当然のことです」
正にその通りだろう。
ダマス神父のように子供の物を奪うような、目先の欲望にくらむ行動をする方がどうかしてる。
「これからも息子のこと、よろしくお願い致します」
「いえ、こちらこそ。一緒に息子さんを守っていきましょう」
「はい」
当人を置いてけぼりに話がどんどん進んでいく。
子供が口出すことじゃないことはわかっているが、フェルトのためを想って言ってくれているのも理解しているせいか、下手な文句も言えない。
「あ、あの……」
「どうされました? 奥様」
オリーヴは何かの不安に付き纏われたような表情で、そっと手を上げた。
「息子のこれは、『魔眼』と間違われませんか?」
その発言にケリングも不安そうな表情になった。
魔眼というものを現代世界の話と重ね合わせると、おそらくは魔法の能力を持った眼のことだろうか。
実際、フェルトの本物の眼球と『強欲の義眼』は目の色が違う。
だがどうしてそんなに心配されるのかは、フェルトにはわからない。
するとマルコ神父は両親の心配を振り払うように、ニコリと微笑んで答える。
「その心配には及びません。この神眼はかなり人の眼球に近しい作りとなっているようで、魔眼の美しさとは程遠いです。これを魔眼と見る人はいないでしょう」
魔眼ってもっと綺麗な色をしてるんだと感心。
『強欲の義眼』は、そもそもは神殺しのために作られた道具。
神を油断させるという意味では、本物に近い作りの方が良かったのだろう。
「本物の魔眼をご覧になられたことがあるですか?」
「ええ。友人に魔眼持ちがおりまして、一度拝見したことがあります。まるで宝石のような輝きでしたよ」
ケリングの発言を聞くに、魔眼持ちは珍しいようだ。
ちょっと訊きたくなってきたフェルトは、
「マルコ神父。魔眼って何?」
子供らしく大きく手を上げて尋ねると、微笑んで答えた。
「そうですね。フェルト少年に教えておいた方が良いかもしれませんね。魔眼というのは魔力がいっぱい溜まった眼であり、特殊な能力も秘められているものなんだよ」
ちょっと子供扱いの説明。
「だけどかなり希少性が高く、遺伝子的ではなく、突発的に発生するものだから、悪い人が取りに来たりするんだ。……あっ、ご、ごめんね。ちょっと難しい言葉を使ってしまったね」
希少性とか遺伝子的とか突発的とか説明された。
「ううん、大丈夫。要するにはダマス神父みたいな人が奪いに来るかもしれないってことですよね?」
「あっ、えっと……」
一応、身内だからか、肯定意見を渋ったマルコ神父。
少し意地悪だった。
すると両親の方が先に謝った。
「も、申し訳ありません」
「い、いえいえ。ダマス神父の振る舞いを考えれば、当然の指摘です。いや、耳が痛い。ですがダマス神父もあれでいて元は聖都に居られた神父。きっと考えを改めてくれるはずです」
それって何かしたから、こんな山田舎に飛ばされたんじゃないかって、ダマス神父の呟きや態度を見るとそう思った。
そんな奴が改心するとは思えなかった。
「とにかく魔眼というのは、その美しさも相まってコレクションとして買い付ける人もいるんだ。だが魔眼を買うということは、その人の眼球を抉り取ることになる。その人の人生がどうなるか、わかるだろう?」
フェルトはこくりと頷いた。
片目を抉られた人間の末路なんて、悲惨なものになるだろう。
両親が心配しているのは、片目ずつで色が違うことで、魔眼ではないかと思われ、襲われる心配をしているのだろう。
両親の心配の種がわかったところで、もう一つ気になったことをフェルトは尋ねる。
「ねえ、聖都って何?」
一応、赤ん坊の頃の聖女の巡礼の際に、オリーヴから聖女が住んでいる都市だということは聞いているが、それ以上を知らない。
「聖都オルガシオン。神オルガシオン様を信仰し、聖女様が住まう大都市です」
神オルガシオン?
あの女神の名前が出てこなかった。
イミエルは他にも神がいると話していることから、その一柱だろうか。
「古き良き都なのですよ。とても大きな聖殿があり、神様の御加護の下、とても活気の良い都なのです」
「聖女様っていうのは、毎年秋くらいに来られるあの方だよね?」
聖女の巡礼は毎年秋あたりに、この村の教会に聖女が訪れる。
地脈の魔力の調整を行なった聖女をもてなすことで、その日はご馳走が振る舞われたりする。
その時に見た聖女は確かに神々しい雰囲気があり、靡く銀の髪は発光してんじゃないかと思ったくらいだ。
というより、イミエルより女神っぽかった。
「ええ。聖女ユフィ様だ。かのお方は神オルガシオン様より天啓として聖力を与えられ、この大陸全土の地脈の管理を行われる使命を賜る」
オルドケイア大陸全土となると、結構な重労働な祭事なんだと驚く。
「その聖女様のおかげで魔物達も大人しくなるから、父さん達も安心して仕事ができるのさ」
「へえ」
だから盛大におもてなしするわけね。
「ですが確か……聖女様は双子を産まれたとか?」
「あ、はい。確か……息子さんと同じ年頃かと」
聖女って子供産んでいいのと疑問に思った。
神に使える巫女は清らかな女性でなければ務まらないのではと、前世の記憶から疑問に抱いた。
そもそもあの聖女様は結構若かったと記憶している。
「ご息女をお産みになられたのは良かったのですが、最近、病気を患われたとか……」
事情はわからないが、それこそ神罰ってやつじゃないのかと思った。
なんとか治ると良いですねと語っているも、そろそろ話の主軸を戻そうと、
「それで、ダマス神父はその聖都にいたんだよね?」
「あ、ああ」
「どうしてここに来たの?」
フェルトの『強欲の義眼』を奪い、ダマス神父の命が脅かされる可能性がある以上、追い出された理由を尋ねなければならない。
「ダマス神父は人員補充というかたちで、こちらに来られたのだよ。まあ、わたくしは必要ないと申し上げたのですが、先方がどうしてもと仰られたので……」
それは明らかに左遷だと思った。
絶対ダマス神父は、聖都で何かしらやらかしたに違いない。
警戒しておこう。
「向こうでの生活が抜けないのか、多少気性は荒いですが、この緑豊かな景観を眺め、神への祈りを捧げ、聖書を読み、神よりの言葉を感じられれば、聖都でお過ごしになられていた頃のダマス神父にお戻りになられるでしょう」
そしてマルコ神父は良い人過ぎないか。
あのダマス神父がマルコ神父のように、落ち着きのある男性になるとは思えんし、素であんな横暴な性格だったと思う。
「以前のダマス神父とお会いになられたことが?」
「いいえ」
「えっ?」
「ありませんが、聖都にてお務めを果たしていたお方。きっと大丈夫ですよ」
さすがの両親も不安になってきたようで、顔を引き攣らせるが、迷いのない笑顔を見せるマルコ神父にこれ以上の言葉を返すことはなかった。
この人、あれだけ怒鳴った人をここまで信用できるとは、どんだけ良い人なんだよ。
ここまでくるとかなり心配になる。
ちょっとは人を疑うことを知ろう。
「ダマス神父のことを怖がる理由は十分理解できます。ですが、わたくしがちゃんと言い聞かせておきますので、どうかご安心下さい」
フェルトの頭を撫でながらそう語った。
そう信じたいものだが、人間ってのは業が深い。
その証明が『強欲の義眼』だったりするわけだから、マルコ神父には悪いが警戒は続けることとした。
「こんなタイミングであれなのですが、例の件についてはどうでしょう?」
そう両親に尋ねるマルコ神父に首を傾げる。
「そうですねぇ……」
その両親はフェルトをちらりと見る。
どうやらフェルト関連の話で、『強欲の義眼』の話とは別件の何かがあるようだ。
「神眼の件もありますし、ダマス神父のことは心配なのですが……」
「大丈夫です。わたくしが見ておりますので……」
話が読めないとフェルトは更に首を傾げる。
「でしたらお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかりました。息子さんをお預かり致します」
「……?」
……預かる?
***
――数日後。
「では問題です。これはいくつでしょうか?」
フェルトは黒板に書かれている簡単な数式を、アホらしく見ている。
そこには――五+六=? と書かれている。
「えっと……えっとぉ……」
ディーノは指折り数えて計算している。
フェルトは、それ指足りないぞと思いながら、呆れたため息を吐いた。
フェルトは今絶賛、小学生の算数をやっている。
ここは教会の一室、フェルトを含めた村の子供四人がマルコ神父とシスター達がお手伝いで、勉強を教えてもらっているのだ。
毎週、月の日から金の日までの午前中のみであり、両親が預けると言ったのは、このことだった。
「こんな簡単な問題も解けないの?」
「う、うるせー!」
フレゼリカはわかるようだが、シエラも眉間にシワを寄せながら首を大きく傾げている。
「わ、私もわかんない……」
「シ、シエラは落ち着いて考えれば出来るわよ」
「えっと……えっとぉ……」
七歳の少年少女には少し難しい問題だっただろうか。
向こうでこの年齢なら、確かにこのレベルの算数になるだろう。
――結局、祝福の日のあの出来事以来、特に変わったことはなかった。
一応、ダマス神父からは謝罪があった。
わざわざ家に来て、マルコ神父と共に謝罪していた。
あの横暴な性格はどこへやら、意外と素直に謝罪していたが、逆に不気味だった。
勉強のために教会を訪れるが、アレ以来、すれ違ったダマス神父は無愛想な表情はしているものの、こちらに怒鳴るようなことはなかった。
本当にあの後、マルコ神父がキツく言い聞かせたのが、効いたのかと思うくらいだ。
だがあの人の良いマルコ神父がキツく言うっていうのは、あまり信用ならない。
いい意味で。
そして『強欲の義眼』についてだが、能力の使用は行なっていない。
イミエル曰く、一応死にはしないとの話だが、酷い頭痛はするというもの。
あの出来事があったばかりということもあり、あまり心配かけ過ぎるのも問題だと考え、ほとぼりが冷めた頃合いに使ってみようかと考えている。
実際、問題を起こした当人は、大人しくしているので、ほとぼりが冷めるのも時間の問題だろう。
「――フェルト少年」
「は、はい!」
何度も呼びかけられていたようで、驚いて返事をする。
「この問題、解けますか?」
「はい。十一です」
「正解です」
この世界の教育事情は様々だが、基本、魔法が使えるという影響から、割と賢い人は多く、これくらいの算数ならこの年齢でも難なく解けるはずなのだが、
「すげえっ! よくわかったな」
「わかるよ。あとディーノの解き方じゃあ、指足んねえぞ。足の指までカウントするなら話は違うが……」
「ああっ! ホントだ。でも、靴脱がなきゃ……」
魔に受けないで欲しかった。
学力は結局、どちらの世界でも差はあるようだ。
だが魔法と剣の稽古以外はかなり退屈で困っているのも事実。
いくら前世の記憶を活かし、将来的に学力は必要だとわかっていても、小学一年生の問題はさすがにと思うわけだ。
もっと実に成るものを学びたいものだ。
「ああ〜〜っ!! くそっ! ねえ、先生。もっとさ、剣の稽古とかしてくれよぉ〜。こんなの覚えたって意味ねえよ! なあ? フェルトもそう思うだろ?」
マルコ神父は剣のみならず魔法まで教えてくれる。
本当に何者なんだと思う。
「まあ確かにな。でもそれは俺やフレゼリカみたいにちゃんと出来るようになってる奴が言うセリフだぞ」
「うっ」
「そうよ。バーカ」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!」
「貴方の方が二回言ってるって気付いてる? バーカ」
「はいー。今のでお前も二回目ぇー。俺と同じぃー」
子供の喧嘩か。
……あっ、コイツら七歳児だった
精神年齢が高いと、どうしても周りも同じくらいだと思ってしまう。
某メガネの探偵君もこんな感じだろうか。
そんな二人の喧嘩を止めるように、マルコ神父はパンパンと手を叩く。
「まあ確かに、わからないととても退屈な気持ちもわかりますし、お父様が元冒険者であるディーノ少年としては、剣術のお勉強の方が楽しいのでしょう」
「おう!」
「ですがね、人生とは楽しいことだけしていると、楽しくないのですよ」
「は?」
言ってることがわからないと、フェルト以外の三人は首を傾げる。
「先生が言いたいのは、同じことだけしてても楽しくないってことだよ」
「そうか? 楽しいことはずっとやってても楽しいぞ!」
「じゃあ仮に訊くがお前、素振りは楽しいよな?」
「おう。なんか強くなってる気がする!」
「じゃあそれを五時間、六時間、七時間と続けてみろ。飽きないか?」
ディーノはちょっと考える素振りを取り、想像してみる。
たどり着いた結論は、
「剣の稽古ってそれだけじゃないだろ? 打ち合いとかしたい」
飽きたという答えが返ってきた。
予想通りの返答に呆れて返す。
「ほら」
「は?」
「素振りは楽しいんじゃなかったのか? 楽しいことはずっとやってても楽しいんじゃないのか?」
「あっ……いや、えっと……」
「つまりな、どんなに楽しいことだと思っていたことも、それしかやらなかったらつまらなくなるし、苦労とかつまんないことがあるから、その楽しいことが楽しくなるってこと」
フレゼリカとシエラはなるほどと感心するが、ディーノは余計にわからないと頭を悩ませる。
「ふふ。フェルト少年は時折、大人びたことを言うのですね」
「そ、そう?」
精神年齢は十七歳プラス七歳ですからね。
「フェルト少年の言う通りです。何事もそれだけを続けることが難しく、しかもそれは楽しいことばかりではないのが人生というものです。いっぱい学び、遊び、休むことこそが楽しい人生を育むのです」
「だからこの勉強の時間だって、午前中だけだろ?」
マルコ神父はフェルトの意見に、くすっと笑い、その通りですねと言葉を続ける。
「午前中の間、勉強を頑張った分、午後から遊ぶ時間、剣の稽古をする時間は、ディーノ少年にとってとても有意義なものとなるでしょう。それは午前中にしたくないことをした結果、したいことがより楽しくなるということです」
勉強をしたくないことと公言するのは、教鞭を取る側の発言としてはどうなのかと思うが、教え説くという意味では必要な言葉だったのだろう。
「うーん。難しいけど、つまりはつまんないことをした後の方が、楽しいことはより楽しくなるってことか?」
「ええ。ですから、午前中はこちらを頑張りましょうね。明日から二日は午前中の勉強もありませんし」
土の日と日の日だからね。
「よぉし! だったらつまんないこと、頑張るぞ!」
「つまんないことって、あんたねぇ」
「そうですね。では、あの問題を解いてもらいましょうか?」
そう言いながら黒板に書かれている違う問題を示した。
ディーノは再び指折り計算。
フェルトはマルコ神父を手招きする。
「どうされました?」
「いいの? 勉強は必要なことなのに、つまんない認定させて……」
このレベルの勉強は最早、必須事項。
成長すれば嫌でも理解できることとはいえ、子供の時に勉強をつまんないと認識させるのはマズイのではないかと思った。
「無理を言ってやらせるより、進んでやらせる方が良いということです。それにこれが必要なサイクルだとわかれば、勉強がつまらないものと思っていても、必要なものだと気付くはずです」
それが大人になるまで気付かない人がほとんどで、大体の大人は――あの時、勉強しておけばなぁっと呟くことがほとんどなんだが。
実際、十七歳プラス七歳のフェルトでさえそう思うから真面目に取り組んではいるが、小学生の問題の復習はさすがにちょっとと思った。
「彼が目指す冒険者というのは、上部だけのものでしょう。きっとお父様から伺った冒険譚に憧れてのもの。でしたらそれだけではないよと、わたくしが紐解いていかねばなりません。それが貴方達に教鞭を振るう、わたくしの務めなのでしょう」
「はは。悪い役を買って出るってとこですか?」
「ええ。彼のお父様を良しとするなら、わたくしは悪ですね」
そう語り終えると、マルコ神父はディーノの元へ。
「どうです? 答えはわかりましたか?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! えっと……えっとぉ!」
はは。
割とスパルタなのね。
教会でのお勉強は大体こんな感じで、進んでいくことが多い。
そして金の日のお勉強が終了後は、
「あー、腹減った」
「帰ろ、フェルト」
「ん? 今日は金の日だろ?」
「あっ、そっか。じゃあまた後でね」
「おう」
マルコ神父による診察がある――。
「ごめんね。本当は皆さんと帰りたかったでしょ?」
「ううん、大丈夫。仕方ないことだし……」
そう答えながらフェルトは、義眼と本物の眼球を見てもらっている。
マルコ神父はしっかり手袋をはめて診察している。
「何か気付いたことはありますか? 痛みとかありませんか?」
「ありません。いつも通りですよ」
これも最近の日課になってきている。
だがマルコ神父はやはり神眼持ちのフェルトのことが気がかりなようで、毎回ほっと安堵する表情を浮かべる。
「そうですか。それは良かった。それでは帰ってよろしいですよ」
「先生。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「ああ、すみませんね。いや、どうしても心配で……」
神眼が降りて来たことを目の当たりにし、それをはめていれば不安にもなるだろう。
だからこそ、これが『強欲の義眼』であることなんて、簡単には話せない。
「でも先生のおかげで安心して過ごせるのも事実です。診察、ありがとうございます」
なんだかんだフェルトも、この時間が必要な時間であると思っている。
マルコ神父はとても親切で優しく、頼りがいもあるから、安心できる。
村の人達が頼りがちになる理由も頷ける。
「いえ。何か困ったことや変わったことがありましたら、言って下さいね。どんな些細なことでもいいですよ」
「はい」
そう答えて、フェルトは教会を後にした。
その帰路の途中で、俺は『強欲の義眼』についての身の振り方を考える。
『大罪の神器』はイミエルが話した通り、とても危険な力だ。
とてもじゃないが、一人で解決できる問題ではない。
もし、協力を仰ぐのであれば、マルコ神父のような信頼できる人にお願いしたいところ。
いつか話す時が来るんだろうなと思いながら、家が見えた頃、
「ん?」
玄関が開いており、誰かが話し込んでいるのを確認した。
その人物の後ろ姿に見覚えがあった。
「ダマス神父……?」




