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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
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45 非情な暗躍 2

 

「とろくさい喋り方しながら、物騒なもん持ってんじゃねえよ」


 明らかに『傲慢の左足』を奪った犯人ですよと宣伝しているくせに、素っ頓狂なことを語る目の前のメイドにイラっとする。


 そしてフェルトは目の前のメイドに【識別】をする。


「ええ〜!? そんなことありませんよぉ。これはたまたま拾った物なんですぅ。誰かが落としたのかなぁ〜って……」


 そんな落とし物してたまるか。


「下手な芝居はやめようぜ。死の芸術家(デス・アーティスト)創設者側近メイド兼暗殺専門のアリスさん?」


「……へえ」


 先程までのあざとい喋り方がフッと消えた。


「さすがというべきですか。神眼というのは侮れませんね。私の情報、徹底的に隠していたはずなんですが……」


「お生憎というべきなのか、それとも人喰いを当ててんだから当然というべきなのかね」


「あれあれぇ? 人喰い? 何のことですかぁ?」


 いちいちこちらの神経を逆撫でするような喋り方をし、冷静さをかくつもりのようだ。


「とぼけんな。『傲慢の左足(それ)』を奪ったことやラフィを突き落とした件、そしてパペット・マスターなんて召喚魔を使う糸使いのお前なら、人喰いを陽動することも可能だろう」


「と、申されますと?」


「お得意の魔糸を使って誘導したんだろ?」


 そう言いながら、辺りを見る素振りを見せた。

 フェルトの【識別】で映っている視界には、蜘蛛の糸でも張り巡らされているかのように、魔糸がピンと張ってある。


「人喰いほどの馬鹿力だ、パペット・マスターのような操作系の魔法は効かないだろうが、その鋭利な糸で人喰いを牽制し、闘技場まで誘導すること自体は可能だろう。闘技場までの道を逸れないように魔糸で攻撃すればいいだけだからな。その証拠に、俺達の前に現れた人喰いは半裸だった。それでも残っていた服の一部には、まるで何か斬られた後のようなものがあった。最初は森の移動等で木々にぶつかって破れたかと思ったが、それにしては綺麗に切れてた部分もあったからな」


「……まさかあの人喰いを見て、そこまで判断できるとはね」


「シギィがあんな狂った性格のおかげで、俺の情報が伝わったと考えやすかったところも後押ししてるがな」


 それを聞いたアリスは目をパチクリとさせると、まさかそこからとはとクスクス笑う。


「なるほど。確かに彼から、貴方には下手な手出しはするなと言われましたね。自分の芸術品だと」


「会うことがあったら伝えとけ。てめぇのもんになったつもりはねえとな。……やっぱ、飛空艇が爆破した件か?」


「ええ。シギィが定期的に依頼をこなしていたのに、あんなことになりましたからね。随分と過激なお姫様で」


「そこに関しては同意するよ」


 するとアリスは隠し事はできないと判断したのか、自白を始める。


「確かにシギィから貴方の左眼について聞きましたよ。手を出すなという釘を刺されながらも、どう危険なのかを聞き出すのに苦労しました」


「それでアンタ達はラフィの左足も同様の物だと判断し、人喰いで俺を消しかけ、その左足を奪った……」


 するとアリスは再びとぼけた顔をする。


「勘違いなさらないで下さいね。無能聖女の左足はおまけです」


「なに?」


「元々私達の狙いは貴方だけでした。人喰いを貴方に差し向けたのも、貴方の左眼の能力と貴方自身の実力を測るため。ただ、貴方のことを調べているうちに無能聖女の左足が、その左眼と類似しているのではと判断し、奪ったまでのこと。何せ、貴方がそう動いていましたからね」


「……」


 フェルトが狙いの上で客観的に見れば、確かにそう映るかもしれないと、考えが甘かったことをフェルトは悔やむ。


「そうしたらあの『黙れ』連呼ですよ。……正直、焦りました。本当に喋れなくなるとは……」


「チッ……! そのまま二度と喋るなよ」


「フフ、意地悪ですね。ですが、おかげで類似している物と判断する決定的な証拠となりました。あれだけの力と貴方がここに駆けつけた。うん! 見事に釣れて、こちらとしては嬉しい限りです」


「そうやって美味しいところだけ貪り食うってか? さすがは天下のブラックギルド様だぜ。反吐が出る」


 するとアリスはそれだけではないとクスクスと小馬鹿にするように笑う。


「貴方の情報収集についてですが、いかんせん簡単でしたよ? あの馬鹿な娘達がペラペラと喋ってくれましたから……」


「馬鹿な娘達……?」


 フェルトはチェンナが新しく入ってきたメイドの中に、アリスという名前のメイドがいることを思い出す。


「お前……!! 偽名を使わずにメイドになってたのか!?」


「ええ。下手に隠すよりは大っぴらにした方が疑われにくいですから」


「チッ! 随分と堂々としてやがる! 舐めやがって……」


「でもちゃんと貴方のことは警戒してましたよ。だから一度だって貴方の前には現れなかったでしょ?」


「確かに……」


 シギィからやはり左眼が危険だということは聞かされていたということだろう。


「それに貴方が話題として受け取りそうな、人喰いとなった彼女の元メイドさんと一緒に来たのはいいカモフラージュになったでしょう?」


「!」


「お陰様で霞んだんじゃないですか? ドジっ子メイドさんのアリスについては……」


 そう言ってアリスはフリルのスカートをひらり。


「なるほどな。確かに俺のことを事前に調べてたアンタなら、わざと人喰いの元メイドを探し出し、俺にその情報を向け、自分のことを雲隠れさせることは可能だな。しかもドジっ子という敢えて目立つ性格にすれば、下手な目立ち方をするもんだから、疑われもしないってわけか」


「ええ。だからチェンナとかいうあの馬鹿な娘から新しいメイドの話をされても、私のことなんて眼中にも無かったでしょ?」


「ああ、ホントだよ」


「でも潜入できて本当に良かったですよ。あの寮の娘共はどいつもこいつも馬鹿ばかりで……」


 アリスは、ハンと馬鹿にした表情をする。


「貴方のことを簡単に喋ってくれましたよ」


「てめぇ……」


「ひとつ苦労したことといえば、ドジっ子メイドを演じることですね。自分で言うのもアレですが、私はあの方に完璧な仕事をしているつもりです。仕事を失敗するなど、言語道断です」


 ふとフェルトは思ったことを尋ねる。


「お前、あの女子寮に潜入と言ったな?」


「ええ」


「陛下からは警備が厳重にされたと聞いているが? お前さん達が贔屓にしてる笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテイメント)の襲撃があったからな。一体どうやって――」


「あっはは! アレらが警備の強化? 笑わせないで下さい。あの程度、警備とは言いませんよ。プロを舐めないでもらえます?」


 アリスはオルディバル達が指示した警備など物ともしないと、あっさりと笑い飛ばし、否定した。

 だが、確かにプロの殺し屋の潜入技術を舐めるものでもなかったのかもしれない。


「そいつは悪かったよ」


 フェルトは皮肉混じりにそう吐き捨てた。


「とはいえ、そんなに難しいことはしていませんが……」


「なに?」


「だって、ただ偽の戸籍を作っただけですからね」


「んだと?」


 それなら簡単にバレるだろうと思うフェルト。


「そんなもん、すぐにバレるだろ。身元確認とかされただろうし……」


「ええ。その身元が私のことを幼い頃に拾った養子だと言い張りましたからね」


「……そんなことで自白の魔法とかを掻い潜れるとは……」


 オルディバル達は新しくメイドを雇う際、ちゃんとその身元を調べた上で雇ったはず。

 しかも笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテイメント)の侵入者があった後ならば、尚更その辺りはシビアに調べるはず。

 確認のため、自白の魔法などの嘘がつけないようにされたはずだ。


 だがアリスはそれをぬるいと語る。


「私達がその対策を行なっていないとでも? あの【絶対服従】を掻い潜る手段を考えられる貴方なら、その抜け道もわかるのでは?」


「自白しても問題無いように、事実にしたってか?」


「そうかもしれませんね」


「もしくは自白魔法などを緩和、無効化する特別な薬物や魔法の使用……」


「かも、しれませんね」


「……」


「まあ彼らも必死ですよ。殺されたくはないですから」


「……!」


 フェルトは死の芸術家(デス・アーティスト)がどんな組織なのか、アリスを【識別】した際にある程度、把握していた。


「なるほど。戸籍を作らせた相手は元依頼者か。殺人を依頼したという後ろめたさと殺人組織という脅しをされたことから、元依頼者はお前達の実質的な奴隷ってわけだ」


「ええ。だから偽の戸籍も本物になるというわけです。私から手渡された薬だって、簡単に飲みます」


「最悪だ……」


 ある程度、フェルトの質問を聞き終えると、今度は自分の番だとアリスが質問する。


「さて、そろそろ気になりませんか? 私が貴方を誘い出した理由……」


「あん? そんなもん、俺の左眼が欲しいんだろ?」


「まあ、確かにそれはそうなんですが……」


 アリスは持っている『傲慢の左足』を突き出す。


「私が欲しいのはこの神物の情報……いえ、正確には――『大罪の呪具』についてです」


「!?」


 フェルトは思わず驚愕すると、その表情が見たかったとばかりにアリスはほくそ笑む。


「驚きましたか? なるほど、やはり貴方はこれの正体を知っていますね」


「くっ……!」


「そう。貴方のことを調べているうちに不可解な点がいくつかありましてね。一番怪しかったのはやはり、砂漠であった白フードの男の反応……」


「!? お、お前っ! それをどこで……」


「勿論、貴方を慕う彼女からですよ。エメローラ姫殿下のご友人であらせられるクレア・アレクベート様からです」


「なっ!?」


 フェルトは黙っているようにと言ったはずなのにと絶句するも、


「私が熱心にお願いすると、ドジっ子の明るく裏表の無いメイドさんだと信じ込んでくれたのか、誰にも言わないでねと釘を刺されましてが、教えてくれましたよ」


「てめぇ……!」


「だから言ったじゃないですかぁ? 馬鹿な娘しかいなかったって!! アッハハハハッ!! アレならさぞアーディルさんも仕事が簡単だったことでしょうね! 唯一対抗できるのが『大罪の呪具』の使い手である、貴方のような規格外だけでしょうから」


 フェルトの友人達をクスクスと笑いながら貶すアリスに憤りしか覚えない。


「そんな彼女から砂漠の時にあった白フードの男性に、非常に警戒と嫌悪を持った視線を送っていたと聞き、その人物が何をしていたのかも聞きました。何でも、そこの歴史について調べていたとか……」


「……なるほどな。あそこはユースクリア大陸だ。『大罪の呪具』ってのはそこから知ったのか?」


「ええ。彼の国は錬金術大国であった歴史がありますからね。向こうの国で調べられた遺跡等の情報から、『大罪の呪具』についての情報がありました。それとあまり情報が少ないですが、歴史上の戦争の中で人知を超えた無尽蔵に力を振るう魔道具が存在することも調べがついていますから……」


 裏で情報を取得するのは容易いのだとサラッと答える。


「だがそれで、俺がどうして『大罪の呪具』を知ってると判断できる?」


「ご存じないなら教えましょうか? 貴方のその左眼、八十年ほど前に南の大陸で起きた戦争の革命家が付けられていた物と類似しているんですよ」


 フェルトはイミエルが『強欲の義眼』を手に入れた経緯が過った。


「その革命家は死に、その義眼は行方不明とされていましたが、貴方のその眼の力、馬鹿娘達から聞いたファバルス王国の件や今回の聖堂騎士の件、そして人喰いとの貴方の戦い方推察するに、少なくとも【鑑定】に似た能力があり、その見切りの能力や考え方などがその革命家に似たところがあるんですよ」


「……なるほどな。その能力を使えるなら、思考も似てしまうことから、お前達から見れば『大罪の呪具』と判断する材料としては十分ってわけだ」


「ええ」


 フェルトはこんなことになるなら、その革命家とやらを調べておけば良かったと悔やむ。


「そして俺はこの左眼を祝福の日に神託のように授かったことも考えると、俺は何かしらの情報を握ってると判断したわけだ……」


「ええ。私は神なんてものは信じませんが、その状況を考えれば、何かはあったと判断すべきでしょう。少なくとも『大罪の呪具』から何かしらのイメージは与えられたとは考えてます。アスベル・カルバドスの話や貴方達が隠蔽したダマスという神父の死を考えると、『大罪の呪具』には何かしらの意志が宿っていると考えても不思議ではありませんからね」


「神は信じねえくせに、オカルトは信じるのかよ」


「呪われた魔道具なんて、探せばいくらでもありますからね。オカルトの方がよっぽど信じられます」


 ダマスの死を隠蔽したことまで調べ上げるあたり、さすがプロの殺し屋というべきだろう。


「さて、貴方の反応を見る限り、貴方は間違いなく『大罪の呪具』の情報を持っている。さあ、教えていただけませんか?」


「ハッ! お断りだよ」


 死の芸術家(デス・アーティスト)が何故『大罪の神器』を狙うかは不明だが、渡してはいけないことだけは明確にわかる。


 するとその返答にニッコリと笑顔を向けながら、アリスは小首を傾げる。


「おやぁ? 状況がわかっていないんですかぁ?」


「てめえの言いたいことはわかってるよ。敵の罠のど真ん中なのに、選択肢がなんてあるわけないだろって言いたいんだろ?」


 フェルトは【識別】で周りの魔糸がどんな風に張り巡らされているのかわかっている。

 確実に全方向囲んで張られている。


「その眼、節穴かと思いましたが、そうじゃなくて安心しました」


「俺は逆にお前が馬鹿で良かったと思ったよ」


「?」


「情報が欲しいなら、この周りの魔糸は放てないだろ? 見たところ、この中心にいる俺を細切れにできるんだろ?」


 それこそS F映画であるようなレーザー攻撃で、バラバラの肉塊にされるのが想像できる。


「『大罪の呪具』の情報を持つ俺は希少だ。簡単には殺せないだろ?」


「確かにそうですが、簡単には殺せないだけですよ」


 アリスは指を一本軽く動かす。


「!」


 ビッとフェルトの頬に何かが擦り、切れ目から血が流れる。


「貴方が吐くまで切り刻むだけですよ。殺さない程度にじっくりとね。肌を裂く痛みは結構効きますよ? 痛みが酷くなり、体力も消耗されながら、精神的にも追い詰められていきますよ?」


「悪趣味なメイドだ。モテねえぞ」


「別に他の男になんて興味ありませんよ。私がお慕い申し上げるのはあのお方だけ……」


「リグレット・ハーマインか?」


 するとアリスは目を見開いた。


「――あの方を呼び捨てにするな」


 ひゅおっと冷たい空気が入り込んできたような感覚に襲われる。


「へえ。人間らしいところもあるもんだ」


「私を何だと?」


「悪魔だ」


 するとフェルトは冷徹な視線を向けて尋ねる。


「お前に聞きたかったことがある」


「まだあるんですか? 何です?」


「お前は人喰いの件、どこまで知ってる?」


「どこまでとは?」


「とぼけるな」


 フェルトはギロッと睨む。


「あの仮面を付けた経緯を知っていて人喰いを、メリーを俺に当てがわせたのかって聞いてんだよ」


 するとアリスはクスッと笑い、


「勿論ですとも! 知らないとでも?」


「……」


 フェルトは無言で俯いている。


「健気なものですね。寂しいからと、お父さんに元気になってほしいからと、そんな理由で『大罪の呪具』のひとつを誤ってつけてしまった……」


 やはりアリスは『大罪の呪具』であることがわかっているようだった。


「まったく……間抜けなお話ですよねぇ? 思わず笑ってしまいますよ。仮面を被って脅かすなど古典的な……。あっ、でもこういう時は可愛らしいとでも言っておいた方がいいんですかね? アッハハハハ……」


 このアリスという女は、その健気な気持ちを嘲笑うどころか、それをわかりながら暴走するメリーを自分達の目的のための道具として使用した。


 こんなことが許せるはずがない。


「良かったよ。お前がとんでもないゲス野郎で」


「はい?」


 フェルトの怒りは爆発する。


「てめえをぶっ殺すのに躊躇う必要が無いってことがな!」


 するとアリスはまるで狙い通りだとばかりにクスクス笑う。


「ぶっ殺すですか? そのお身体で? 先程人喰い、いやメリーちゃんとの戦闘でもうボロボロでしょう? どうやって戦うおつもりです?」


「ハッ! こんなもん、ハンデだよハンデ」


 正直、フェルトの身体は限界に近い。

 いくら司会がくれたポーションで応急処置をしたとはいえ、完治している状況ではない。


 しかも相手はシギィと同じ組織の人間であり、そのボスの側近。

 シギィよりは劣るかもしれないが、怪我を負って相手できるレベルではないだろう。


 だがそれでも引けないことがある。


 フェルトが何とか痛みに耐え、剣をアリスに向ける。


「かかってきな。この悪趣味メイド」


「フフ。それでは『大罪の呪具』の使い手の実力、見せてもらいましょうか」


 フェルトはここでふと疑問が浮かんだ。


 そういえば何故、コイツは俺の前にあっさりと姿を見せたんだ?

 俺の情報を取得する時は、できる限り接触が無いように振る舞っていたはずのアリスが、今になって目の前に姿を晒しているのは何故だ?

 魔糸を使うコイツなら、この森に隠れながら話すことも、『強欲の義眼』の視界から逃れながら戦うことも難しくないはず。

 わざわざ姿を見せたのは何故だ?


「どうしました? ほら、見せて下さい。『大罪の呪具』の力を……」


 そのひと言で確信を得た。


「お前、よっぽどリグレット・ハーマインって奴が大事なんだな」


「あのお方を呼び捨てにするなと言いましたが?」


「自己犠牲をするほど、価値のある奴なのかよ!そのリグレット・ハーマインって奴は!」


『大罪の呪具』と話すあたり、勿論というべきか、アリスが『大罪の神器』ということ自体知るはずもなく、確かに『大罪の神器』の情報を得るなら、それを女神イミエルから教えてもらったフェルトに仕掛ける判断できるのは、敵ながらさすがだと思う。


 だが自己犠牲まではどうだろうと考える。


『大罪の呪具』の情報をある程度知っているということは、どんな能力があるのか、検討はついていなくても、あることくらいはわかるはず。


「お前が誘い出したのは、情報を知るためと言ったな? それは俺から聞き出すことだけでなく、自分で体感したことですら情報として献上するつもりなんだろ? この忠犬」


 フェルトはもしかしたら、このアリスという女もそのリグレットという人物に利用されたのではないかと過るが、それは杞憂に終わる。


「……私にとってあの方は全てであり、絶対なの。この身体も血も私の意思ですら、あの方のもの……。私はあの方の道具でも構わない」


「チッ! イカれてやがる……」


 どうやらシギィとは別方向で、頭が吹っ飛んでいるんだとわかった。


 アリスの視線の先にはフェルトなんて映っておらず、その心はすべてリグレットに向いているかのように虚無だった。


「さあ! あの方のためにその力の全てを私に振いなさい。そのためにわざわざここまで呼び出したんだから!」


「なるほど……」


 人喰いで消耗させたのは、この魔糸が囲む有意な環境に叩き込み、追い込まれたフェルトに【識別】以外の能力を使わせることが目的ならば、本来有利に働く【記憶の強奪】を使うわけにはいかない。

 ここまでイカれた感性をしている人物だ、仮に殺されたとしてもリグレットに伝わるような仕掛けを自身の身体に施していても不思議ではない。


「ハッ! だったら根比べといこうか!」


 フェルトは足を踏み込む。


 フェルト自身も、メリーがそんなかたちで利用されたこと、クレア達を馬鹿にされたこと、引けない理由ならこちらにもある。


「俺が怪我でぶっ倒れるか、それとも俺がてめえに情報を与えず、この刃でてめえを貫くか、勝負といこうじゃねえか!」


 するとアリスも張り巡らされている魔糸を操る準備をするのか、指を動かす構えを取る。


「話していただければ、楽に殺したものを……。いいですよ。そんなに苦しんで死にたいなら望み通りに!」


「ついでにその左足も返してもらう。いくぞっ!!」

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