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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
105/177

44 非情な暗躍 1

 

「ア、アンジュさん!?」


「フェルト君、ご無事ですか?」


 凄まじい雷の抜刀術に人喰いはその場で倒れるが、息を荒くして痛みに耐えている様子だった。


「――遅い!!」


「ひっ!?」


 ディアンの叫ぶ声が響き、説教が始まる。


「お前は今の今までどこに居たんだ!? こんな事態なのだから、早く合流しろと言っただろ!?」


「す、すみません〜! で、でもやっぱり迷子の子は放っておけなくてぇ〜!」


「だからそれは……周りで警備任務をしている王宮の者か、衛兵に頼めと言っただろ?」


「あ、あの後、十人くらい迷子が出て、とても任せられるものではなく……」


 言い合うふたりはどちらも何とも言い難い顔をしている。


 かたや国の危機だから早く来いと言う手間、子供達を蔑ろにしろとは言い難く、かたや国の危機だからと上司の任だから早くは行きたかったが、子供達を放っておけず、更にはそれだけの人数を押し付けるにも罪悪感があってのことだろう。


 ディアンは「ええいっ!」とその話を掘り下げるのをやめた。


「とにかく来たならやることはわかるな!?」


 先程の情けない顔から一変、アンジュはキリッとした表情で、殺気が込められた視線を向ける人喰いを見た。


「……はい!」


 アンジュは戦闘体勢を取る。


「フェルト君と代われ! お前が人喰いの相手をしろ」


「はい!」


「ちょっ!? ちょっと待ってくれ、ディアンさん! アンジュさんひとりにやらせるのは……」


 フェルトはアンジュができる騎士なのはわかっているが、さすがに人喰い相手は難しいと考える。

 フェルトのように『大罪の神器』だということを理解しているわけでも、その対策をしているわけでもなく、更には三年前、ディアン隊の連携でも仕留められなかった背景がある。


 フェルトの心配は募る。


「大丈夫!」


 アンジュは明るくハッキリとそう口にする。


「よくここまで頑張りました。後は私達の仕事です」


「……」


 フェルトとしては、あの魔糸によって持っていかれた『傲慢の左足』を追う機会をもらえるという反面、やはり人喰いも心配だ。


「それにその怪我ではジリ貧なだけです。お下がりを」


 だがアンジュの言うことも事実。

 フェルトの傷は決して浅くはない。

 ポーションで多少の回復はしたとはいえ、全快するわけではない。

 実際、お腹の痛みは絶えない。


 だがフェルトは自分にやるべきことをと切り替える意味でも、アンジュを信用する。


「わかりました。後は任せます」


 本当は自分でケリをつけたかった。

『大罪の神器』を回収する身として、人喰いにより恩師を失った者として、メリーの痛ましい事件を知る者として、そして、それらを利用した者達の思い通りにさせないため。


 だが最後に関しては『傲慢の左足』を追うことで、阻止できるかもしれない。


 フェルトはアンジュにそう言うと、すぐ様ディアン達のところまで駆けつける。


「さあ、人喰い……いえ、メリーさん。私達が助けて差し上げます!」


 人喰いはフェルトを追おうとしたが、目の前にいる強い魔力の持ち主を放ってもおけず、アンジュと対峙する。


「――がああああっ!!」


 そんな激突を心配そうに見ながらもフェルトは合流。


「ディアンさん、任せてきましたけど、本当に大丈夫ですか?」


「そんな怪我の人間が心配してるんじゃない。それにアイツなら大丈夫だ」


「いや、でも……」


 フェルトの心配を余所に、アンジュは人喰いを圧倒する激戦を繰り広げる。


 人喰いの目にも止まらぬ速度で闘技場内を駆け回り翻弄。


「ぐっ? があ……?」


 人喰いも追おうと必死だが、アンジュの方が上手(うわて)なようで、


「紫電抜刀――雷閃!」


 隙が生じれば、すぐにでも人喰いに太刀を入れる。


「があっ!?」


 だがさすがに人喰いも攻撃されるとわかってか、反応はする。

 しかし、確実な回避とはならず、傷は浅くとも確実に追い込まれていく。


「お、おおっ……」


「だろ? アンジュは連携こそ不得意ではあるが、個人技だけならば、フェルマ団長と肩を並べられる。速度だけならアイツの右に出る奴はいない。伊達に『雷鳴』という肩書きを陛下から賜ってないさ」


「へ? 雷鳴?」


 フェルトは聞き覚えのある単語に首を傾げる。


 その名を聞いたのは、以前に起きた『モンスター・ディザスター』の多大な貢献を行なった騎士に贈られた栄誉の称号だったと聞いている。


「えっ!? 雷鳴!?」


 改めて戦っている様子を見ると、確かに雷鳴という名に相応しく、アンジュが走り去った後から紫電が追いかけている。


「……? 知らなかったのか? 割と有名だと思ったがな。お前の通っている学校の卒業生でもあったんだ、ウワサくらいに聞いてたのかと思ったが……」


「あっ! あー……」


 そういえば何度か聞く機会があったように思うが、何かとタイミングが悪く、聞きそびれていたような気がした。


「まあとにかくだ。人喰いはアンジュ(アレ)に任せて大丈夫だ。幸いというべきか、人喰いはアンジュの速度についていけてない。それに慣れるにしても時間がかかるはず。その間にアンジュが仕留めてしまうだろう」


「本当に仕留められますか?」


「なに?」


 そのフェルトの不安には覚えのあるディアン。


「……確かに。アンジュは優しすぎるところがある。実際、聖堂騎士共の件があるにも関わらず、迷子の子供のために奔走するくらいだからな」


「まあ、それが良いところでもありますけどね」


「まあな。だが、どちらにしても殺すという選択は最終手段だ」


「!」


「俺達はあくまでメリー嬢の保護を目的としている。最悪も考えてはいるが、前提条件を崩すつもりはない。そういう意味では彼女は適任だよ」


「……なるほど」


 ディアン達は『大罪の神器』について知らないが故に仕方ない。

 とはいえ、『大罪の神器』の特性を知る限り、どう転んでも結末が変わらないことを知るフェルトは、やはり責任を押し付けるかたちになるのは、申し訳ないと思う。


「それより貴方はその怪我を何とかなさい」


 聖堂騎士達を捕縛し、目処がついたのか、王宮騎士達も避難誘導に参加。

 ディアン隊達が集まる。


「悪いけど、ノーウィンさん。そういうわけにもいかない」


「何を言ってるの! 人喰いの相手は――」


「ノーウィンさん。俺と一緒にあの左足を追ってほしい」


「「「「!?」」」」

「はあっ!?」


 ノーウィンはその怪我で何を言い出すのと、顔を顰めながらツッコむ。


「貴方ねぇ……」


「俺はアレを持ち去った連中に心当たりがある」


「えっ?」


「それはどういうことだね? フェルト・リーウェン」


「へ、陛下!?」


 観覧席から避難してきてたのか、オルディバル達も参加。


 ディアン達が危険だからと止めながらも、オルディバルはフェルトの言うことを尋ねる。


「あの左足を盗る輩に心当たりがあるというのは、どういうことだ? それにアレは誰かに盗られた物なのか?」


 確かに神物であり、意思によってラフィを選んでいたという説明をした以上、独りでに動いたという捉え方もできるだろう。


「いえ、陛下。微かではありますが、魔力の気配を感じました。肉眼では捉えにくくありましたが、あの左足は魔糸によって持ち去られたようです」


「なに!?」


 ノーウィンは獣人故に辛うじて肉眼で捉えたと説明。

 オルディバルはそれを追おうというフェルトは、神眼の持ち主故と判断。


「なるほど。つまり君は、このままでは君の言う心当たりのある人物、いや連中と言ったのだ、その者達に持ち去られると?」


「はい。だから直ぐにでも……」


 だがオルディバルはあまり気乗りしないようで、


「いや、フェルト・リーウェン。後は我々の仕事だ。君は本当に良くやってくれた。聖女や聖堂騎士のこと、そして乱入してきた人喰いへの対処。もう十分だ。その心当たりの人物達だけ説明してくれれば――」


「そんなことどうでもいい!」


「!」


「アレは俺が追わなきゃいけないんだ。おそらく奴らの本当の狙いは俺だ」


「な、なに!? それはどういう……」


「だからと言って説明してる時間も無いんだ!」


 フェルトは余ったポーションを全て飲み干す。


「索敵ができるノーウィンさんだけ連れて追いかけたい」


 フェルトの必死な提案。

 オルディバルとしては、怪我を負い、負傷しているフェルトを行かせたくはないが、事情を知っているのもまたフェルトしかいないと、さきの一連の事件のことと同様な流れに見えた。


 するとノーウィンが跪く。


「陛下。許可を」


「!」

「ノーウィンさん!?」


「……彼がここまで言うってことは何かあるんでしょ? 貴方ならわかるんじゃない?」


「……」


 ディアンはくしゃくしゃと頭をかいて、ノーウィンの意見に賛同した。


「フェルト・リーウェンがここまで言うからには、とてつもない者達が動いているかもしれません。少なくとも、【絶対服従】の力を流出させることは、確かにあってはいけない事実。許可を」


 ノーウィンの言い分は尤もであると判断したオルディバル。


「わかった。許可しよう」


「ありがとうございます」


 周りからはよろしいのですかと尋ねる意見が多いが、オルディバルは条件をつける。


「ただし、ふたりではダメだ。せめてディアン隊を連れて行きなさい」


「陛下、お言葉ですが、それはダメです」


「なに?」


「ディアンさん達には引き続き、避難誘導をしてこの闘技場から人をもっと離れさせるべきです」


「いや、フェルト君。もう闘技場からの避難はそろそろ完了する。それに王宮騎士達にも余力ができた。我々だけでも……」


「なに寝言言ってんですか、ディアンさん。あの真空波の威力とそして飛距離、わかって言ってるんですか?」


「!!」


 そう言われ、オルディバルは闘技場に大穴を開けた場所を見ると、その先まで地面が抉れた跡があった。


「この闘技場から避難させるだけじゃあ、まだ完全じゃないんですよ。あの真空波の射程距離外まで避難させてやっと完了なんです。それに万が一アレが市街地まで戦闘場所を移せば、最悪、避難なんてどこにも成立なんてしないんですよ」


「!!」


「それを対峙したことがある人間が予想し、避難させなきゃ、誰がするんです? アンタの仕事だろ、ディアンさん」


「そ、そうだな。すまない」


「そういうことです、陛下。こういう理由だから、左足を追うのに人員を割けない理由、説明いります?」


 オルディバルは、範囲が広くなる可能性があるため、その避難誘導に王宮騎士の人員を割かなければならないことを把握すると、


「……わかった。何か何まですまない」


「いえ。ではノーウィンさん、行きま――」


「待って、フェルト君」


「! 何です? まだ何か……」


 ノーウィンはおぶってやるとおんぶの体勢を取った。


「へ?」


「貴方は怪我人で一般人。本来なら、あの左足を追うのも私ひとりで行くべきだと思うけど、どうせ貴方のことだから聞かないと思うから、譲歩案としておんぶで向かうわよ」


「はあっ!?」


 フェルトは辺りをキョロキョロし、周りの人達の反応を確認。


「いや……それは恥ずかし……」


「貴方は、怪我人で! 一般人!」


「うっ……」


 ノーウィンはお前は特別扱いしてやってんだぞと強調。


「できないなら、私ひとりであの左足を追う」


 フェルトは葛藤する。


『大罪の神器』である『傲慢の左足』を絶対盗られるわけにはいかない。

 だけど、女性の背中におぶられながら向かうのは、男としてのプライドが許せない。


「子供の頃には何回か、あったでしょ?」


「子供の頃でしょうが!!」


 すると隣で呆れた様子で見守っていたエメローラがポツリ。


「……お時間が無いのでは?」


「ぐっ!?」


 フェルトは色んな葛藤の中、ひとつの答えを出した。


「わ、わかりました……」


 観念したフェルトは、そろっとノーウィンの背中におぶさった。


「……」


 納得いかず、少し顔を赤面させるフェルトを横目に、オルディバルは言う。


「あの左足を悪意ある者に奪われるわけにはいかない。必ず奪取せよ!」


「ハッ!」


 そしてノーウィンはフェルトを背中に乗せ、ひゅんと闘技場から走り去る。


 ***


 ノーウィンはフェルトに気を遣ってか、もしくは人混みを嫌ってか、屋根の上をタンタンと跳びながら『傲慢の左足』を追いかける。


『傲慢の左足』には先程までそれを装備していたラフィの匂いがついている。

 フェルトがノーウィンを指名した理由はそこにあり、おぶられるのは想定外だったりする。


「いやー、子供の頃だったら大はしゃぎですよ」


 ノーウィンは獣人故に、屋根の上を進む速さはまるで遊園地のアトラクションを思わせるもの。


「私から見れば、今でも十分子供よ」


「はは。さいですか」


 確かに十五歳は子供だろうが、前世の記憶もあることを考えれば、アラサーになるフェルトは苦笑い。


「それより教えてくれる?」


「何がです?」


「貴方が言う心当たりについてよ。これからそいつらと対峙するわけなんだから当然でしょ?」


「わかってますよ。先ず結論から話しますね。おそらくですが、死の芸術家(デス・アーティスト)が関連してると思います」


「!?」


 ノーウィンはキッと睨む。


「貴方……!!」


「そう怖い顔しないで下さいよ。どうせその名前を上げたら、確実に止められるのにとか思ったんでしょ?」


「当たり前でしょ!! 死の芸術家(デス・アーティスト)だなんて……」


 そうは言うノーウィンだが、それが本当なら『傲慢の左足』を奪われることは必ず避けたいと、足は止まらない。

 そしてそれはフェルトの思惑通りというのにも腹正しい。


「今、その名前を上げるなんてね」


「まあまあ」


 子供の頃から無茶をしているフェルトとディーノに手を焼いたことを思い出し、ノーウィンは、今に始まったことではないとため息を吐くと、


「でもどうして奴らが関与してると?」


 どこからそんな結論に至ったかを尋ねる。


「先ず俺がシギィと()り合ったことは知ってますよね?」


「ええ」


「その時、シギィは俺の左眼の義眼の違和感に気付いてるんです」


「神眼だと?」


「いや、明確に何かまでは把握されていませんが、違和感があると言われてます」


 だから実際にシギィに【記憶の強奪】を使おうと思っても、通用しなかった。


「そしてシギィは俺のことをいたく気に入っているみたいでしてね。それを他の死の芸術家(デス・アーティスト)メンバーに話しているとすれば?」


「なるほど。確かにシギィが護衛していた笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテイメント)の飛空艇が沈んだことから、ある程度の事情も聞いたでしょうね」


「ええ。そして奴らは裏社会に精通しており、俺の左眼のことについてや人喰いの仮面について知っていたとすれば、奴らの関与の想像は難しくないですよ」


「なるほどね。でも早計過ぎる気もするけど……」


「まあ確かにそれだけならね。でも、あのタイミングでの人喰いの乱入、ラフィの不審な落ち方、どうにも狙っているような気がした。しかもそれを並の実力者がやれるとは思えない」


「なるほどね。ラフィをつき落とすことはともかく、人喰いを誘導し、事件のことを話し終えたタイミングで乱入させるのは確かに狙ってるわね」


「しかもシギィの件で俺の実力を調べるために人喰いをぶつけたなら説明もつく」


「なるほど。死の芸術家(デス・アーティスト)の連中らが貴方の神眼のことを知る分には、人喰いという彼女をぶつけるのは都合が良いわね」


 フェルトが憤りを感じたのはそこだった。

 メリーは望んでなったわけでもないのに、フェルトの『強欲の義眼』の能力を調べるためだけにあてがわれたのは、メリーの件を知るフェルトとしては気分が悪い。


 それはノーウィンも同じようで、


「それが本当ならムカつくわね」


 怒りを露わにした。


「それともうひとつ。人喰い、メリーは没落した貴族の娘なんですよね?」


「ええ。そうよ」


「確か、女子寮に新しく雇われたメイドのひとりに没落した貴族から来た人がいたって話です」


「……誰かしら? ギリュー・ハイナントをはじめとするその屋敷に勤めていた人物達にはあらかた事情聴取はしたけど……」


「ハルマって名前のメイドさんなんだが……」


「ああ、彼女ね。でも彼女が何か?」


 特に怪しい様子は無いのか、ノーウィンは不思議そうに尋ねる。


 フェルトは的外れだったかと、首を傾げる。


「いや、彼女が人喰いで暴れ出したとはいえ、ある程度の行動を把握していたらと思ったんだけど……」


「それこそ早計ね。彼女について軽くではあるけど調べたわ。でも、怪しいところなんて無かったわ」


「あれぇ〜?」


 フェルトが、うーんと背中で悩むが、


「まあいいわ。実際、人喰いをあの闘技場まで誘導するなんて、確かにブラックギルドと認定されている死の芸術家(デス・アーティスト)くらいでしょうからね。ただ、それも少し違和感があるけど……」


「えっ?」


「貴方も知ってると思うけど、シギィのような連中らの集団組織なのよ、アレは。それなのに神物を狙うというのには違和感しかないわ。それに死の芸術家(デス・アーティスト)のボスは思想家、自分の理念を捻じ曲げそうな神物に興味を持つとは考えにくいわね」


「……シギィはともかく、ボスのことまで知ってそうな口ぶりですね」


 するとノーウィンは関わる可能性があるならと語る。


死の芸術家(デス・アーティスト)で名前が割れているのは二名のみ。そのうちのひとりはシギィ。奴はよく笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテイメント)の護衛を受けていることやあの好戦的な性格であることから有名なの。わかるでしょ?」


「は、はい」


 後、あの狂った性格も有名な要因ではないかと苦笑い。


「そしてもうひとりは死の芸術家(デス・アーティスト)の創設者である――リグレット・ハーマインよ」


「リグレット・ハーマイン……」


「ええ。まだ二十代も半ばの青年なんだけど、かなりのやり手とウワサよ。死の芸術家(デス・アーティスト)の創設は勿論だけど、その手腕もかなりのものだと聞いてる。そしてさっき思想家と言ったわよね?」


「はい」


「彼は人の生と死に美学を重んじる人物でね。美しい人生には美しい死、つまりは美しい最後であるべきだとかいう思想家よ」


 何だか類は友を呼ぶという言葉がポンと浮かんだ。

 シギィも似たようなことを言っていた手前、シギィほどに驚くことはなかった。


「実際、かなりの人達が彼に殺されているわ。一番有名なのは、自分の母と妹を刺殺した事件かしら」


「じ、自分の家族を……!?」


 これにはさすがに驚愕するフェルト。


「ええ。動機は没落したことに起因しているとされているけど、詳しくは知らないわ」


「……没落って、この国はよく貴族が没落するんですね」


「言っておくけど、リグレット・ハーマインはこの大陸出身ではないわ」


「あっ、そうなんだ」


 するとノーウィンは余計なことを喋り過ぎたと話を戻す。


「とにかく、そのリグレット・ハーマインが神物に興味を持つのかはどうかと思うわ」


「確かにノーウィンさんの話を聞く限りは、そんなことは考えなさそうですが、奴らは笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテイメント)と繋がりがあるんですよね? そいつらから依頼されれば、可能性としてはありませんか?」


「……確かに。それなら辻褄は合うわね」


 笑顔の(スマイル・)娯楽提供者(エンターテイメント)がシギィによく依頼をするならば、ビジネスパートナーとしての関係があると捉えることは難しくない。


「まあそれも当人に聞いてみればわかるわね」


「ですね。まだ匂いは途切れてませんか?」


 すると鼻をならしながら、馬鹿にするなと少し不機嫌そうに反応する。


「大丈夫よ。ラフィの匂いもそうだけど、その血の匂いの方が強いから、当分消えないわ」


「なるほど」


 そんな話をしているうちに、フェルト達は城下町を出る。


「……どうやら貴方の勘は当たってるようよ」


「えっ?」


 ノーウィンはスッと指を差す。

 その方向には鬱蒼とした森があった。


「匂いはあそこに続いているわ」


「なるほどね。もしあの左足を奪うだけなら、わざわざあんな森の中に逃げ込む必要はない。転移魔法か空の飛べる召喚魔でも使えばいいもんな」


「ええ。わざと森の中に逃げ込んだとすれば、貴方が狙いというのにも納得だわ」


 そしてそれが明らかに罠であるということも理解しているふたり。

 それでも『傲慢の左足』は取り戻さなくてはならないため、選択肢はひとつしかなかった。


「行きましょう!」


「そうね」


 フェルト達は森の中へと入っていく――。


 ***


 鬱蒼とした森の中はやけに静かで、本来居るはずの魔物の気配すらしなかった。


「嫌な雰囲気ね」


「ですね」


 ふたりは辺りを警戒しながら慎重に進む。

 敵が罠を張っていることが前提のため、フェルトはノーウィンから降りての警戒。


 そしてノーウィンは濃くなっていく血の匂いを追う。


「こっちよ」


 フェルトも【識別】を使いながら、辺りを警戒。


「周りに生き物の気配すらないのは不気味ですね」


「そうね」


 そう話しながら、血の匂いの濃くなっている方へ向かおうとした瞬間、


「「!」」


 ガサッという草木の音を微かに鳴らしながら、ふたりを襲う影が急に現れた。


「わ、わああっ!!」


 ひゅんと振り下ろされた剣をふたりはかわし、反撃に出ようとフェルトは剣を、ノーウィンは爪を立てた時、襲ってきた人物に驚く。


「あ、貴方は……」


「ノ、ノーウィン……さん」


 襲ってきたのは王宮騎士だった。


「王宮騎士?」


「みたいね。城内で見かけたことのある顔だわ」


 面識は無いが、すれ違い様くらいにはノーウィンは覚えているらしい。

 その王宮騎士もノーウィンのことを知っているようだが、様子がおかしい。


 ノーウィンを見て安心したのか、涙を流す。


「お、お願いします、ノーウィンさん。僕()を助けて下さい」


「達?」


 すると後ろから更に数名の王宮騎士と王宮魔術師が現れた。

 だが、全員まるで何かに吊られたようにヨタヨタと歩きながら近付く。


「これはどういうこと? 貴方達は一体――」


 ノーウィンが事情を聞かせろと言っている途中で、


「ひっ!?」


 周りの王宮騎士達に襲われ始める。


「あ、貴方達! 一体……」


「助けて! 助けて下さい!」


 王宮騎士達はノーウィンを襲いながらも、嘆きながらも矛盾したように剣を振り続ける。


 これは異常だと思ったフェルトは【識別】で辺りを調べてみることにする。


 すると、


「!」


 フェルトは指を差す。


「ノーウィンさん! あそこに何かいる!」


 フェルトが指を差したのは木の上。

 ノーウィンは指示された場所に小型ナイフを瞬時に懐から取り出すと投げつける。


 すると、


「キキッ」


 木の上の草陰からガサッと回転しながら地面に降り立つ。


「「!!」」


 そこにいたのは、小型サイズの木製の操り人形の姿の魔物だった。

 キシキシと悪辣に笑いながら、手に持っている操作板をカラカラと鳴らしながら動かすと、


「や、やめろぉ!!」


 王宮騎士達がぶんぶんと剣を振り回す。

 それをケタケタと面白そうに笑う魔物。


「何なの、アイツ!」


「アレはパペット・マスターって悪魔種の魔物ですね。その操作板でここにいる王宮騎士らを操ってるんだと思います」


 神眼を持っているからなのだろうと、ノーウィンは納得。


「なるほど。今思えば、聖女祭の警備人数が少ないと思っていたけど、これが原因だったのね」


「えっ? 知ってるんです?」


「特別な任務を行なう部隊ではあるけど、私も王宮騎士なのよ。警備の人数くらい聞いてるわよ」


 それでも屋根上から街中を見ただけで、その違和感に気付くのはさすがだと思う。


 すると、ひと通り襲い終えると、ひとりの王宮騎士が喋り始める。


「『そ、そこの義眼のお前』」


「「!」」


 フェルトは妙にぎこちなく喋る王宮騎士を見る。

 するとその彼は無理やり喋らされているようで、抵抗しながらぎこちなく喋り続ける。


「『お前、ご主人様のところ、迎え。お前、通す』」


「ノーウィンさん。どうやらビンゴみたいですね。そしてこのパペット・マスターは召喚魔ですね」


「みたいね。最悪だわ」


 そう言って王宮騎士達は、この先にパペット・マスターの主人がいると、わざと道を開ける。


 そしてノーウィンとしては怪我を負ったフェルトに向かわせたくないと、不機嫌になる。


「『ただし、そこのケダモノ、来るな。ここで死ね』」


 ノーウィンの癇に障ったのか、眼光が鋭くなる。

 すると、無理やり喋らされていた王宮騎士が自分で喋れるようになったのか、弁明する。


「ち、違うんです!! こ、これは……」


「わかっているわ。無理やり喋らされたのよね?」


 そうニッコリと笑うノーウィンだが、めちゃくちゃ怖い。

 笑顔の背景には、ズモモモモとドス黒いオーラが見えるようだ。


「フェルト君」


「は、はい!」


「不本意だけど行きなさい。この先にいるそこのクソ悪魔のご主人様がいるはずだわ」


「わ、わかりましたけど、おひとりで大丈夫――」


 ノーウィンはギロリと睨む。


「ひっ!?」


「私のこと、知らないわけじゃないでしょ?」


「は、はい……」


 フェルトは知っている。

 ディアン隊の中で一番怒らせると怖いのは、ノーウィンであると。


「ほら、早く行きなさい。私も速攻でケリをつけて追いかけるわ」


「わ、わかりましたけど……」


 フェルトは気の毒そうに王宮騎士達を見ると、


「お手柔らかに」


 そう言って、サァーっとその場を後にした。


 それを見送ると、王宮騎士達はノーウィンを囲むが、その顔は恐怖に引き攣っている。


「さて、貴方達……」


「は、はい」


 ノーウィンは手をバキバキと鳴らす。


「多少手荒く助けても問題ないわよね?」


「は、はい……!!」


 王宮騎士達は腕の一本や二本折れるのを覚悟した。


 ***


「王宮騎士達、大丈夫かな?」


 予感が的中していることを知らないフェルトは、ノーウィンより王宮騎士達を心配しながらも、示された道を真っ直ぐに進む。


「しかし、どんな奴がメリーを消しかけたんだ……」


 その正体に近付いていると思うと、フェルトは再び怒りが込み上げてくる。


 すると、


「!」


【識別】で調べながら進んでいたフェルトは、辺りに魔糸の仕掛けがされていることに気付く。

 進めば進む先に、幾重もの魔糸が木々に仕掛けられており、いよいよ本格的に敵地に潜入している感覚があった。


「はは。まるで蜘蛛だな」


 明らかにシギィでないことに安堵するが、別の実力者だと思うと、ゾッとしない。

 魔糸を使い、召喚魔がパペット・マスターということから、本人もその手の使い手と判断できる。


 そんな分析をしながら近付いていくと、


「いたな」


 フェルトの視線の先には、開けた場所にポツンとひとりのメイドが立っており、その手には血のついた義足を持っている。


「よお。アンタか? 俺を誘ったのは?」


 到着早々、フェルトは話しかける。

 怪我を負っている手前、時間をかけるのは致命的であるからだ。


 そして呼びかけられたメイドはくるっと振り向き、


「あらぁ? こんな森の中に人なんてぇ〜、珍しいですね?」


 あざとく、わざとらしく、ニッコリとそう答えた。


 その白い手袋を『傲慢の左足』を装備していたラフィの血で汚しながら。

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