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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
104/177

43 人喰い、乱入! 2

 

 再びフェルトと人喰いは戦闘を再開。


「おい、アンタ達! さっさとその馬鹿を連れて避難しろ!」


 ラフィの元に駆けつけようとするネフィを止めるライクとゴルドを叱咤する。


「わかっておりますが……」


「アンタ達の役割は何だ!? 聖女を守る聖堂騎士だろうが! それにやっと冤罪も晴れたんだ、ちゃんと守ってやれ!」


 ふたりは改めて自分達のやりたいことを確認すると、


「ネフィ様、お許し下さい」


「――うぐっ!?」


 どうしても行こうとライクとゴルドに阻まれていたネフィは腹を殴られ、意識が遠のき、


「ラ……フィ……」


 そのままぐったりとゴルドの元へと倒れ込んだ。


「すみません、ネフィ様。貴女を……貴女だけは失わせるわけにはいかないのです」


 そしてゴルドは気を失ったネフィを抱え、ライクと共に闘技場を後にする。


 それを見送り一安心のフェルトは、人喰いの猛攻を回避。


「おい、マザコン! てめえも守ってやるから、せめてあのラフィ(馬鹿)の側にいろ! 分散してるとやりにくい」


 やっとでさえ、数カ所ある出入り口に【暴食】を向けることを避けて戦っているのに、その戦闘を行なっている会場に人がいるのは、非常に立ち回りが難しいが、


「ハッ! やなこった! お前が死ぬ確率を上げるためなら、喜んで出入り口近くやあのラフィ(馬鹿)とは別の場所にいてやるよ!」


「もういい加減になさい!!」


「ハハッ! いーや! まだチャンスがあるうちは粘るさ。姫殿下様方も是非そこにおられますよう。フェルト・リーウェンの守る対象が多ければ多いほど、死亡率が上がるからなぁ!! アッハハハハッ!! それはアイツにも言えることだな」


 アスベルはまるで役立たずのゴミでも見るかのような侮蔑の視線をラフィに向ける。

 そのラフィは痛みに苦しみ、【絶対服従】は勿論、もう冷静な判断などできないくらいパニックになっている。


「結局、俺の役にまったく立たなかったどころか足を引っ張り続けた馬鹿だが、最後の最後くらい役に立ってくれよ。フェルト・リーウェンの守る対象に加えられる置物としてな」


 アスベルは利用していたとはいえ、観覧席から落下したラフィに駆け寄ることもなく、むしろ役立たずと吐き捨てた。


 だからかフェルトは安堵する。


「確かにその通りではあるが、お前は最悪見捨てるぞ」


「は?」


「そこまでのゲス野郎を生かしてやる気は無いってことだ。切り捨てることにここまで罪悪感の無い奴も初めてだ。助かるよ」


 そう冷ややかに返すフェルトに、やれるもんならやってみろとアスベルは悪辣な笑みを浮かべる。


「安心してくれ。自分の身は自分で守るさ。ここの全員、くたばる中に自分まで入れたく無いからな」


「そうかい!」


 そんな問答をしている上では、


「陛下、ここは危ないですので、どうか避難を……」


「それはわかっているが、フェルト・リーウェンをあのままにしておくわけにもいくまい」


「そうですね。少なくともあのアスベル・カルバドスとラフィ・リムーベルを回収しなければフェルトさんのお邪魔にしかなりません。フェルマ、あのふたりの回収、できますか?」


「無論ではありますが、先ずは御身方の避難を……」


 そう揉めていると、人喰いとの戦闘を継続しながら苛立ち混じりでツッコむ。


「おい! そこぉ! いつまでそんなところにいるんだ! 的になりたいのか!!」


「しかし、フェルトさん。わたくし達は……」


御託(ごたく)なんて聞きたくねえ! その観覧席もいつ崩落してもおかしくないんだ!」


 人喰いの鉄鎖の鞭で、支える岩盤に亀裂が入っている。


「……!」


「俺が言うのもアレだが、これ以上の負担は勘弁してくれ」


「……わかった。我々も避難しよう」


「お父様……」


「彼の言う通りだ。少なくともここにいるべきではない」


 オルディバルはダミエルとレックスを改めて抑えたフェルマ達に案内するよう、促す。


「ハッ! ではこちらへ」


 それをフェルトは横目に安堵しながら見送ろうとした瞬間だった。


「があ……」


 人喰いが【暴食】の体制をとる。


「だからそれはやらせる――!?」


 人喰いはすぐに口を閉じ、向かってくるフェルトを迎え撃つ。

 しかし、フェルトは【暴食】を止めるために突っ込んだため、人喰いのそのアクションは予想していなかった。


 なっ!? フェイントだと!?

 コイツ……俺との戦闘に慣れが出てきたのか!?


 人喰いの距離を詰める速度は速く、一瞬でフェルトの懐に飛び込む。


「しまっ――」


【識別】で人喰いの筋肉の動きなどを予測できなかったという盲点を突かれての動きに、フェルトは対応できず、


「――がああああっ!!」


「――っか!?」


【リミッター解除】によって強化された渾身の拳が、フェルトの腹を貫くほどの威力で殴られ、そのまま壁まで吹き飛ばされる。


「――フェルト君!!」

「――フェルトさん!!」

「――フェルトッ!!」


 ドンッ!!


「――がはっ!!」


 壁に強く打ち付けたフェルトはそのまま力無く、その場でうつ伏せになり、


「ごはっ!!」


 内臓が損傷したのか、大量の吐血。


 その様子にアスベルは歓喜。


「いいぞ、人喰い!! さあ、トドメを……ん?」


 そんなアスベルの思惑を無視してか、人喰いはあたりを見る。

 そして何を思い立ったか、観客席から脱出を待つ人集りに向かって、強い視線を向ける。


「!」


 人喰いは先程の【暴食】のモーションを取った。


「に……っ!? あっ!?」


 フェルトは叫ぼうとするも、殴られた箇所から強い痛みを感じる。


 くそっ!! 骨も逝ったせいか、腹に刺さる……!


 だが気付いたのは、フェルトだけではなかった。


「――アーガス!! ユナぁ!!」


 ディアンがそう呼びかけるも、ふたりは既に対策を始めていたようで、


「もうしてますよ! ――魔法障壁(マジック・シールド)!!」


 するとその観客達を囲むように円形の結界が出来る。


「――ゼロ・グラビティ!!」


 そしてその結界ごと観客達を浮かせた。


「結界内の方々ぁ!! 頭を守って下さい!!」


 アーガスの指示に従い、結界内の観客達は頭を守り、


「ユナ殿!!」


「いけます!! 放て、激流!! ――スプラッシュ!!」


 その結界を打ち上げるように、下から水流をぶつけ、結界と共に閉じ込められた観客達を空へと投げ出す。


 そして――、


「――があっ!!」


【暴食】が放たれ、その射線上にある闘技場の観客席と壁は消失。

 だが上空に飛ばされた観客達は全員【暴食】の被害に遭うことはなかった。


「よし!」


「なる、ほどな……」


 アーガスが魔法障壁と重力魔法を使用し、観客達を敢えて閉じ込め、【暴食】の射線上からユナの水魔法の水圧で観客達を投げ飛ばし、回避に成功させたのだ。


【暴食】が魔法障壁などで防げないことをわかっての多人数の回避方法。

 フェルトはさすがだと腹を抑えながらほくそ笑む。


 だがその【暴食】の威力は観客達を混乱させるには十分なものだった。


「こ、これが人喰い!?」

「い、嫌ぁっ!!」

「こ、怖えよ!!」


 当然といえば当然だ。


 会場の一部がまるで何かが通り過ぎたかのように、跡形も無く消え去ったのだ。

 あの分厚い闘技場の石壁も観客席も瓦礫ひとつ、塵ひとつなくだ。


「落ち着け!! 落ち着いてくれ!! じゃなきゃ、本当に死ぬぞ!!」

「落ち着いて下さい!! 我々が今のように守りますから。どうか落ち着いて……」


 ディアンやディーノが落ち着くよう促す一方で、その瓦礫を食した人喰いはフェルトの方へ向く。


 どうやら腹が空き過ぎてエネルギー切れを起こしていたようだと推測できる。

 フェルトの攻撃により、空中に向かって【暴食】を放ち続けていた人喰い。

 いくら空気中のものを分解し、エネルギーに変換していたとはいえ、やはり腹に溜まるものの方がエネルギー効率が良いのだろう。


 だからと言って、人を食おうとするその神経はもう人のそれではないと思った。

 それだけメリーはもう人としての理性など無いのだと確信すら得られる。


「……だから俺も容赦無く殺せるってか。くそっ……」


「あ゛あ゛あ゛あ゛……」


 人喰いはやっと殺せると唸りながらフェルトに近付くも、油断していないのか、慎重にゆっくり近付く。


 そしてアスベルはそれを嬉しそうに見守り、エールを送る。


「まったく。腹ごしらえなんか、フェルト・リーウェンを殺してからでも良かっただろうに……。だが、今度こそ――」


 だがここで更にまたアスベルの思惑を裏切る出来事が起きる。


「い、いやぁああああっ!!!!」


「「!?」」


 先程まで痛みに苦しんで、まともな思考などできていなかったラフィが恐怖に歪んだ表情で叫ぶ。


「し、死にたくない!! 怖い!! いやぁああ!!」


 どうやら人喰いの【暴食】の威力を見て、自分がそんな渦中(かちゅう)におり、更には怪我でまったく動けないことから、恐怖が限界に達してしまったようだ。


 だからか、いきなり大きな声を上げたラフィに人喰いが振り向く。


「がああ……」


「ひっ!? いやっ! いやぁああ!!」


 もうラフィの心中はぐちゃぐちゃなのだろう。

 まるで抵抗できない虫のように、その場でもぞもぞと何とか距離を取ろうと必死に足掻く。


 それを避難しようとしていたエメローラ達は、


「落ち着きなさい! ラフィ・リムーベル!」


「フェルマ! 直ぐに彼女を救出せよ!」


「ハッ!」


 エメローラは観覧席から落ち着くよう呼びかけ、フェルマはオルディバルの指示の元、ラフィを救出しようと観覧席から飛び降りようとするが、


 ――チリーン。


 鈴の音が鳴った。


「『来ないでぇ!!』」


 フェルマはビタッと動きを止める。


「どうした!? 早く助けにいかないか。今ならまだ……」


「わかっておりますが、陛下。しかし彼女の元へ行こうと思うと、足がこれ以上……」


「そうか! 今、ラフィ・リムーベルは『来ないで』と命令したんです。我々が助けに行こうとするのもできなくなったのでは?」


「なに!?」


 そのラフィは『来ないで』という命令を連呼するが、その本当に命令している人喰いは、


「あ゛あ゛あ゛あ゛……!」


「何でよぉ……何で貴女まで効かないのよ!!」


 ズンズンと唸り、威嚇しながらラフィに向かっていく。


 人喰いであるメリーも『大罪の神器』の所有者である以上、フェルトと同様に【絶対服従】は効かない。


 だがそんなことをラフィが知るわけもなければ、知っていたとしても大パニック状態のラフィがそんなことを考える余裕もあるはずもなく、


「いやぁ!! 来ないで!! 死にたくない!! いやぁ!!」


 ひとりでぎゃあぎゃあと叫び続け、人喰いを煽り続け、その影響から、上から呼びかけるエメローラ達の声も聞こえない。


「ラフィ・リムーベル、落ち着きなさい!! 貴女の命令のせいで助けに行けません!! お願いですから、話を聞いて!!」


「ラフィ・リムーベル!!」


「いやぁ!! 来ないで、来ないでよ!!」


 その様子にフェルトの表情も歪む。


「くっ! あの馬鹿が!!」


 フェルトは何とか人喰いがこっちに注目するよう、叫ぼうとするが腹が痛くて叫べず、【識別】を使い、『大罪の神器』の所有者として誘導しても、ラフィ自身も【絶対服従】を乱発しているせいか、まったく人喰いはフェルトの方を向かない。


 すると、


「リーウェン様!」


 上空から司会が現れた。


「は、はあ!? アンタ……」


「お怪我は大丈夫ですか!? これ……」


 司会は腰のバッグから複数のポーションを取り出し、フェルトに渡す。


「非常用のポーションです。応急処置にしかなりませんが、お使い――」


「馬鹿野郎! 状況わかって――っつぅ!?」


「リーウェン様!」


「……アンタ、ここは人喰いのいる戦場だぞ。今はラフィのところに向いちゃいるが、万が一……」


「放ってなんておけません!」


「!」


「私達のために戦ってくれているリーウェン様を放ってなんておけません」


「アンタ……」


 フェルトはそんな素直な行為に感謝しようと、ポーションを受け取ろうとした時、


「余計な真似をするな、司会者」


「「!」」


 アスベルがそう言って剣を抜く。


「アスベル……」


「今、あの無能のところに行ってしまったが、ここまで追い詰められれば十分! 後は俺が殺してやる!」


 血走り、殺気がかった目で睨むが、司会者は逃げるどころからフェルトを庇い出す。


「やらせはしませんよ。この人は聖女様を……私達の未来を救ってくれた人。貴方のような人にやらせはしません」


「黙れぇええっ!! お前みたいな有象無象の奴なんかに阻まれてたまるかぁ!!」


 司会の言葉を挑発的に受け取ったアスベルは、堪らず襲いかかる。


 クソッ……! 司会者さんを殺させるわけにもいかない。

 アスベルに【記憶の強奪】を使うしかないか……。


 そうフェルトが思い、使おうとした瞬間だった。


「……!」


 アスベルはハッとした表情で一瞬固まる。


「?」


 フェルトが不思議そうにしていると、アスベルはラフィのいるところへ振り返る。


 そこには縋るような視線でアスベルを見るラフィの姿があった。

 そのアスベルは絶望した表情に変わる。


「や、やめろ……。やめろ! ラ――」


「『助けに()()()! アスベル!』」


 ***


 人喰いが迫る中、ラフィは暴れて興奮し、混乱する頭の中で自問自答を繰り返す。


 何故、私がこんな目に遭うの!?

 私はただ……お姉ちゃんみたいに聖女として扱われたかっただけなのに。


 だがラフィの考える聖女扱いというのは、やはり自分都合な話なだけで、決してネフィのように、母であるユフィのような存在になりたいというものではなかった。


 だがラフィは助かりたい一心で、都合良くネフィの扱いをコロっとひっくり返す。


「ごめんなしゃい……。私が悪かったです……。だから、だから助けてぇ……お姉ちゃん……」


 すすり泣きながらも辺りを見渡し、先程までいたネフィの姿を探すも、そこにネフィはいなかった。


「た、助けてよぉ……。見捨てないで……」


 だが容赦無く迫るのは、やはり人喰いであって、ラフィは迫り来る死を感じざるを得なかった。


「いやぁ!! 来ないで!! 死にたくない!! いやぁ!!」


 ラフィは混乱しながらも、頭の中では走馬灯が流れていた。


 まだユフィが生きていた頃、ネフィに引っ張られ、楽しく過ごしていたあの日々を。


「いやぁ!! 来ないで、来ないでよ!!」


 そして自分が今までやって来た、ネフィを陥れてからの堕ちた日々を。


 ラフィはそんな走馬灯から抜け出すためか、必死に自分を助けてくれる人物を探す。

 観客席の人間達も信用ならず、勿論、エメローラ達に助けなんて求められない。


 その時――、


「……!」


 フェルトと司会者を襲おうとするアスベルの背中が見えた。


 ラフィは安堵したように【絶対服従】を使う。


 ――チリーン。


 残酷な鈴の音がアスベルに響く。


「や、やめろ……。やめろ! ラ――」


「『助けに()()()! アスベル!』」


『来ないで』という命令を本能的に解除するという、アスベルからすれば、とんでもない迷惑な命令をされる。


 アスベルはその命令に従うべく、あっさりとフェルトを殺すことをやめ、急ぎラフィの元へ向かう。


「――くそがぁああああっ!!!!」


 不本意だと吐き捨てながら。


 人喰いも横切り、アスベルはラフィの元へ駆けつけた。


「アスベル!」


 ラフィの救いの期待もあっさりと裏切られる。


「ふざけんじゃねえよ!! この無能聖女があっ!!」


「!!」


「何でてめぇみたいなゴミクズと心中しなくちゃいけねえんだ!! 死ぬならてめぇひとりで死ねっ!!」


「そ、そんなこと言わないでよ! 助けてよ!」


「いいか? この際だからハッキリ言ってやる。お前なんかその左足が無ければ、フェルト・リーウェンの言う、道具や家畜ですら無い。ただのゴミだ! 役立たずのな!」


「!」


「その左足がありながら、俺達の足を引っ張り続けたのがその証拠だろ? お前への評価は全員正しかったよ!」


 ラフィはやっと気付く。


 そもそもネフィと比べられる存在ではなかったことを。

 自分は本当にただの役立たずだったということを。


 そして――そんな中でも唯一手を差し伸べてくれていたのは、ネフィだけだったのだと。


「お姉……ちゃん……」


 涙ぐみながら、今更ながら後悔の念がラフィを包む。


 だが時既に遅く、ネフィはそこにはおらず、周りも誰も助けになど来てくれず、一蓮托生と思っていたアスベルにも暴言を吐かれる始末。


 自分の行いの全てが返ってきた瞬間だった。


 そして――その末路を人喰いが担う。


「や、やめろ!! やめてくれ!! ち、違うだろ!? 殺す相手を間違えるな! 人喰い!」


 人喰いは助けに入ったアスベルを警戒してなのか、それとも容易いと考えたのか、【暴食】を撃つモーションを取った。


 それを見た一同は各々呼びかける。


「ラフィ・リムーベル!! 早く命令を解きなさい! 早く!」


「ラフィ・リムーベル!!」


 フェルトも叫ぼうとするが、


「この馬鹿……っつ!?」


「リーウェン様!?」


「司会者さん。頼む、アイツらに向かって叫んでくれ」


「!」


「そしたらすぐに飛んで避難しろ」


 司会はフェルトのしようとしていることがわかったのか、


「嫌です」


「あん!?」


「身代わりになろうってことなんでしょう? だったら――」


「死ぬ気なんかねえよ。アンタのポーションのおかげで多少は動ける。それにあのふたりを助けるためじゃねえ。人喰いにこれ以上の罪を重ねさせないためだ」


「えっ?」


 事情のわからない司会は首を傾げる。


 だがフェルトはこれ以上、あの哀れな被害者(メリー)に人殺しなんてさせたくなかった。


『暴食の仮面』により、暴走するしかなくなった彼女に、これ以上の殺人は酷であり、本当に哀れでしかなかったからだ。

 だからフェルトは殺してでも止めるべきだと紛争したが、この様だと悔しがる。


「頼む! 間に合わなく……がほっ! げほっ!」


「リーウェン様!」


 だがそんなフェルトの思惑を置き去りに、人喰いは先程のフェルトのフェイントと違い、確実に【暴食】の殺気をふたりに放つ。


「い、いやぁああっ!? し、死にたくない! 助けてよ、アスベルっ!!」


「ふ、ふざけんな。早く命令を解け! 俺だけでも逃げるから……」


 そして――、


「がああっ!!」


【暴食】は放たれた。


 目の前からは空気を引き裂くように、真空波が飛んでくるのがわかるふたり。


「あ、ああ……!! ああああっ!!!!」

「――いやぁああああああっ!!!!」


【暴食】はそのアスベルとラフィと、エメローラ達の観覧席の隣の外壁もろとも存在を抹消するように引き裂いた。


 人喰いは多少上を向いて放ったのか、そこにはアスベルだった下半身とラフィだった足だけがその場に残った。

 縋るようにアスベルにしがみついていたためか、ラフィは足しか残らず、そのふたつの死骸からは血飛沫が上がる。


「……アス、ベル……!?」


「ラフィ……リムーベル……」


 観覧席からその様子を覗くエメローラやダミエル達はその衝撃的な光景に呆然、その【暴食】の被害に遭った者の名を呼ぶことしかできず、下半身だけのアスベルはその血飛沫の勢いに任せ、地面に倒れた。


「い、いやぁああああーっ!!!!」


 アスベルとラフィの人の死とは思えない死に方を目撃した観客達も阿鼻叫喚。

 再びディアン隊一向やディーノが止める中、フェルトは深い後悔の念に苛まれていた。


「くそっ!!」


『大罪の神器』を回収すると決めたフェルトとしては、『暴食の仮面』で暴走するメリーを止めるのは自分の責任だと悔やまれる。


「……アンタ、非常用の全部置いてけ」


「えっ?」


「次は俺だ。巻き込まれたくなかったら、ポーション置いてとっとと逃げろ」


 アスベルとラフィを殺し終えた人喰いは、フェルトの宣言通り、フェルトに振り向き、威嚇の雄叫びを上げる。


「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」


 司会は人喰いの脅威を思い出してか、ごくりと息を呑み、硬直してしまうが、


「おい! 司会者! お前もあのふたりみたいに跡形も無く死にたくなかったら、俺の言う通りにしろ! ああ死にたいのか!?」


 フェルトは足しか残っていないふたりの死体を指すと、フェルトを見て、逃げてもいいのかと目が潤む。


「恨んだりしない。むしろ居られると邪魔だ」


 そう言うと、司会が震えながら持つポーションを無造作に取り、片手で蓋のコルクを抜き、ポーションを一気飲み。


「アンタのトラウマにならないよう、死なないでおいてやるから……だから行けっ!!」


「……っ!! わかり、ました!!」


 司会はフェルトの指示に従い、ひゅんと飛んでフェルトから離れた。


「どうかご無事で!」


 フェルトは飛んで去る司会を軽く見送ると、人喰いにキッと視線を向ける。


 切り替えろ、殺させてしまったものはどうしようもない。

 これ以上をやらせない、ここで終わらせることだけ考えろ。


 フェルトは、チラッとラフィが死んで転がる『傲慢の左足』を見る。


傲慢の左足(アレ)』の回収も早まっただけだと割り切ろう。

 あの力が牢にぶち込まれたとブラックギルドみたいな連中にバレて利用されることより、余程良いと考えるべきだ。


「がああっ!!」


「……ったく。お前が乱入してきてから、もうめちゃくちゃだぜ!」


 フェルトは痛みが走る身体を何とか鞭打ち、奮戦しようと果敢に攻める。


「お前もその呪縛から解放してやるから……。それが俺が回収すると決めた、俺の責務だから……」


 だが――、


 ひゅんと転がっている『傲慢の左足』が飛んでいく。


 横目に気配を感じたフェルトは思わず目を丸くし、事の信じられなさに驚愕する。


「は……?」


 人喰いから距離を置きながら、その飛んでいく『傲慢の左足』をフェルトのみならず、人喰い以外の会場にいた人達全ての視線を奪う。


 いやいやいやいや!! おかしい!!

 イミエルの奴は、『大罪の呪具』は全て神器化したと言っていた。

 そして中にいる怨霊が鎮まり、自分で動くなんてことはないって言ってたぞ!?


 あのクソ女神……!! 嘘でもついてたんじゃないだろうな。


 そう葛藤しながらも要因を探るため、【識別】を使用すると、衝撃の真実が飛び込んできた。


「……!?」


 ……魔糸(まと)、だと!?


 フェルトは魔糸と呼ばれる魔力の糸によって引っ張られていることを知った。


 魔糸とはそのままの意味で魔力で作られた糸のことを指す。


 だがそれはつまり、人為的に『傲慢の左足』を奪ったことを証明するかたちとなった。


 そしてフェルトはそれを見て、ふととある光景を思い出す。


「待てよ……」


 フェルトが思い返した光景はラフィが落ちたところ。

 あの時、確かに観覧席の下壁を攻撃され、多少の揺れが生じ、テラス側に追い詰められていたラフィがバランスを崩したのは見えた。


 だが、今思えば落ちるほどの衝撃ではなく、思えば落ち方も不自然な点があった。


 それは――まるで後ろから引っ張られるように落ちたという光景。


「――!!」


 そしてフェルトは今正に襲い掛かろうと迫る、人喰いもといメリーを見て、とあることを思い出す。


 メリーは没落した貴族の娘であり、チェンナ達の女子寮では新しい使用人としてハルマという人が雇われていた。

 そしてそのハルマという使用人は、元は急に没落した貴族の使用人だったと聞いている。


 一連の事件の説明後に狙ったように現れ、意図的に自分にぶつけられたと思われる人喰い、魔糸によって意図的に盗られた『傲慢の左足』に、没落した貴族の元使用人。


 フェルトはそのピースを組み合わせ、ひとつの結論が見えた。


 そしてその結論に憤りを覚え、向かい来る人喰いに斬りかかる。


「そういうことかよ!! クソッタレがあっ!!」


 人喰いはその鉄鎖でフェルトの剣撃を防ぐ。


 そしてフェルトは人喰いではなく、メリーとして呼びかける。


「メリー!! お前は利用されているだけだ! てめえのことを知ってか知らずかは知らねえが、利用されているのだけは間違いない! 頼む! 少しでいい。暴れるのをやめてくれ!」


「――がああああっ!!」


 当然というべきか、人喰いは聞く耳を持たず、フェルトとの戦闘を続ける。


「頼む、メリー! このままじゃ、お前は本当に可哀想な奴で終わるぞ! お前の人生、振り回されっぱなしでいいわけないだろ!?」


 フェルトは悲壮感が募る。


 メリーは、ただ父に笑顔で居てほしいと思っただけで、『暴食の仮面』を誤ってつけてしまい、周りを苦しめ、人を殺し、(あまつさ)え、フェルトを消しかけるためだけに闘技場に投げ出されたのなら、もう本当に救いようがない。


「くそおっ!!」


 フェルトは何とか『傲慢の左足』を追うか、人喰いを誰かが肩代わりしてくれないか見渡すも、ディアン隊一向とディーノ達は避難誘導、フェルマ達はオルディバル達の護衛兼避難。

 聖堂騎士なんかは当てにもならなかった。


「くそっ! このままじゃ、アイツらの思う壺だ」


 フェルトは何者の仕業なのか過ったからこそ、焦燥感に駆られている。


 その隙を人喰いは見逃さない。


「しまっ……!?」


 剣を鉄鎖で巻きつかれ、そのまま力任せに引っ張られた。


「ぐっ!!」


 抵抗も虚しくフェルトは、引き寄せられる。


「くそっ……」


「――がああっ!!」


 噛み殺してやるぞとばかりに人喰いは大きく口を開く。


 すると――、


「紫電抜刀――落雷!」


 ズドンとフェルトと人喰いの間の鎖が斬られる。


 そして、


「紫電抜刀――雷閃!」


 人喰いは見覚えに感触の覚えがある斬撃を受ける。


「があっ……!?」


 フェルトの目の前に駆けつけたのは、迷子の子供達に困惑し、涙目で助けを求めていた馴染みの人物(アンジュ)だった。


「大変、お待たせ致しましたぁ!!」

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