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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
103/177

42 人喰い、乱入! 1

 

「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」


 人喰いは雄叫びを上げながらフェルト達を威嚇。

 その様子を上空から司会者が実況。


「お、おっと? これは乱入、ですか? まさかアスベルの用意した刺客――」


「馬鹿なこと言ってんじゃねえ!! アレは人喰いだ!! 避難しろぉ!!」


「ひ、人喰い!?」


 司会は思わず拡声用の魔石で人喰いと叫んでしまい、


「ひ、人喰いだって!?」


 会場はパニックになり、出入り口に人が押し寄せる。


「み、皆さん! 落ち着いて!」


 出入り口にいたディアン達がそう呼びかけるも、我先に避難しようと、聞く耳を持たない。

 だがそれでも避難誘導はさせなければならず、人喰いの力を知るディアン隊はその重要性を十分知っている。


「ノーウィンさん! アーガス! ユナ! 避難誘導しろ!」


「「ハッ!」」

「了解したけど、さん付けやめろ」


「それとアーガス、ユナ」


「はい」


「人喰いが来た。あの真空波が会場に向けられた時、対処を頼むぞ」


 事前に打ち合わせしていたことがあるようで、ふたりは被害者を出すまいと、真剣な表情で返答する。


「了解!」

「任せてください!」


 そして一方でフェルトは人喰いと対峙する。


「くそっ!」


 こんなタイミングで人喰いが、メリーが乱入してくるだなんて……。


 フェルトは【識別】を使い、人喰い辺りの情報を確認。


 すると、


「がああっ!!」


 鎖での薙ぎ払い攻撃が飛んでくる。


「――うおっと!?」


 近くにいたネフィ達にもその凶撃が飛ぶ。


「ネフィ様ぁ!!」


 咄嗟にライクがネフィに飛びつき、頭の上を鎖が通り過ぎ、何とか回避。


「だ、大丈夫ですか、ネフィ様」


「は、はい」


「おい! アンタ達も避難しろ!! アレは人の話なんて聞かない!! 行けっ!!」


「し、しかしリーウェン様は……」


「あぁ? 俺か?」


 フェルトは剣を抜く。


「俺はコイツを止める」


 そう言ってフェルトは人喰いに突っ込む。


「――はああああっ!!」

「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」


 迎え撃ちがてら人喰いは、両手の鎖を鞭のように払い攻撃で弾幕を作るが、


「舐めんじゃねえ!!」


 ――【識別】!


 フェルトは人喰いの鎖を放つ筋肉の動き、鎖の軌道によって発生する風力などを瞬時に把握し、攻撃の軌道を完全に読み切ると、


「そこ!」


 一気に人喰いの懐に飛び込むと一太刀斬り込む。


「があっ!?」


 だが反射的に拘束部分の鉄の腕輪で剣撃を防ぐと、人喰いは乱暴に殴りかかる。


「おっと!」


 フェルトは回避しつつ、一旦距離を取るが、興奮した様子で攻撃の間合いだと鎖攻撃が続く。


「がああああっ!!」


 だがフェルトも【識別】があり、人喰いとの戦い、そして『大罪の神器』を想定した【識別】が直接効かないことを想定した、辺りの情報収集を行い、回避や追撃に出る。


 そんな中、ディアンが叫ぶ。


「フェルト君!!」


「あん!? こんな時に何です? まさか、ここまで殺気剥き出しにされておいて、関わるななんて説教無しですよ!」


「当たり前だ! そんな説教が出てくるほど状況がわかっていないわけではない! だが、それでも言わなければならないんだ! あくまで足止めでいい。我々が避難を済ませ次第、対処する」


「足止め? ふざけたこと言ってんじゃないですよ」


「なに?」


 フェルトは自分が攻撃対象になっているのが、ヒシヒシと伝わってくる。


「ディアンさんには悪いが、どうやらコイツの狙いは俺みたいなんでね」


「それは今、君が対峙しているからだろう!」


「いや……」


 フェルトは自分が【識別】を使った時に、強い殺気を感じた。

 人喰いは『暴食の仮面』を所持しており、その能力の恩恵を強く受けていることから、同じ力の所有者が力を使うことを毛嫌いし、襲う習性ができたのではないかと分析。


 要するには同族嫌悪というヤツだろうか。


「とにかくそれを言いたいなら、説得力のある避難誘導をして欲しいもんですよ! こっちは抑えるんで……」


 ディアンは進まない人の波をチラリと見ると、確かに説得力がないと、少し悔しそうな表情を見せる。


「……わかった。すまないがしばらく頼む。だが無茶はするなよ」


「しませんよ。そもそも死ぬ気なんて無いんでね!」


 とはいえ、フェルトは無理のないギリギリのラインまで人喰いとの戦闘を行おうと考えている。


 するとそこにディアンとは違い、状況がわかっていない人物が客席から飛び出そうとしていた。


「――フェルトぉおおっ!!」


「――っ! ディーノか!?」


 フェルトが呼びかけられた方に視線だけ一瞬移すと、ディーノは会場で両隣にいた冒険者風の女の子ふたりに止められていた。


「やめろって、ディーノ!」


「そうですよ、ディーノさん! あれは人喰いですよ!」


「わかってるよ! だから俺も……」


 ディーノの気持ちもわかるフェルトだが、人喰いの猛攻を凌ぎながら説得する余裕は無いようで、


「ディーノぉ!!」


「! お、おおっ! フェルト! 俺も一緒に――」


「わかってるよな!? ディーノ!」


「!」


「お前は人喰いの脅威を嫌というほど知ってるはずだ! わかってるよな!?」


「勿論だ! だから……」


 ディーノは、ハッとなり、目の前に見える観客席の出入り口が見えた。

 そこには人の波に揉まれ、上手く避難できていない観客が群がっていた。


「わかるよな!? 今、お前がしなきゃいけないこと!」


「フェルト……」


 フェルトは人喰いと対峙しながら、必死に訴えかける。

 そしてディーノは言わんとしていることを理解したのか、ぐっと何かを堪えると、飛び出そうとしていた足を引っ込めた。


「わかってるよ、フェルト」


「ああ、頼んだぜ」


 するとディーノは駆け出し、それに驚いた女性冒険者達も後を追う。


「ディーノ!? どこに?」


「決まってる!」


 そのディーノの行き先は、ごった返している出入り口。

 するとその出入り口の上の席辺りから、この会場に聞こえるくらいの大きな声で呼びかける。


「――全員聞けぇええええっ!!」


「「「「「!?」」」」」


 一同はディーノの声の方を向いた。


「どうか! どうか、王宮騎士達の声を聞いて、落ち着いて迅速に避難してくれ!!」


「そんなことはわかっている! だから避難を……」


 避難をしているつもりの観客達は言われるまでもないと、出入り口でごった返す中で文句を言う。


「俺はッ!! 人喰いがどれほど恐ろしい奴なのか、知ってる! 俺の村の男衆達は人喰いに殺された! 顔見知りのおじさん達も優しかった恩師も……そして俺の親父は片腕を失った! アンタ達だって、噂に聞いているから避難を急ぐんだろ?」


 観客達はディーノの言葉に耳を傾け始める。

 その証拠にディーノの言っている人喰いの噂を恐れていると周りの人と意見交換する。


「だが、アンタ達は噂しか知らず、人喰いがどんなことをしてくるのか、わからないんじゃないのか!? そんな状況でそんな風に出入り口に固まってたら、それこそ死ぬぞ!」


 そしてディーノは人喰いの力を語り、今の状況が良くないことを語る。


「人喰いには真空波での攻撃がある。それは物理的な防御は勿論、魔法の防御も問答無用で貫通してくる。しかもその放たれた真空波の直線上のものを全て食い尽くす。今のアンタ達が固まってるところにそんなものが飛んできたら、説明なんかしなくたってわかるだろ!?」


 出入り口にごった返す観客達は青ざめ、フェルトが足止めしている人喰いを見た。


「フェルトはそれをわかってるから、アンタ達にその真空波を撃たれないように振る舞ってんだ。アイツの努力を無駄にするな!」


 その証拠にフェルトは、


「それはやらせねぇよ!!」


 人喰いは真空波もとい【暴食】を発動するためのその一瞬、顔が固まる。

 フェルトはその【暴食】が発動される時の癖を【識別】で見抜いていた。


 フェルトは体制を低くし、懐に飛び込むと、


「――上向けぇ!!」


 そのまま人喰いの顎目掛けて足蹴り。


「――がぶぅ!?」


 人喰いは口を閉じらされ、そのまま上を向き、【暴食】が放たれる。


 会場からは「おおっ……」と称賛の響めき。


 フェルトは【暴食】の発動時、顔が固まる瞬間、少し息が吸われる瞬間があり、その息が吸われることを常に発動している【識別】で瞬時に判断し、行動したのだ。


「チッ! 顎は急所だろうが。強化されてて気絶はしないにしても、ちょっとは怯めよ」


「――がああああっ!!」


 人喰いは上空の魔力や雲などをエネルギーに分解したのか、更に殺気立たせてフェルトに向かう。


「今の見ただろ? フェルトならアンタ達を守ってくれる。だがな、フェルトだって絶対じゃないし、限界は必ず来る。少しでもフェルトの負担を減らすためにも、アンタ達がまとめてあの真空波に呑み込まれないためにも、アンタ達を無事に逃したいと思って、人喰いがいる命懸けの戦場で避難誘導する王宮騎士達の誘導にしっかり従ってくれぇ!!」


 ディーノは声を絞り出すようにして更にこう続ける。


「俺はもう! おじさん達やマルコ神父……そして親父みたいな被害者を見たくねえ!! 頼む!!」


 ディーノがそう言って頭を下げると、観客達は落ち着きを取り戻す。

 そのひとりがディアンに話しかける。


「……すまなかった。俺達が密集したせいでこんな……」


「いや、皆さんのせいではありません」


「俺達はちゃんと避難できるんだよな?」


 ディアンは一瞬だけ、上にいるディーノを見ると、


「はい、必ず! 彼や貴方達のご期待に添えるよう、尽力します」


「わかった」


 すると観客達はディアン達の指示に従う体制となり、ディアンは呼びかける。


「ご協力感謝します! では手前の方から順に落ち着いて歩いて避難して下さい!」


 そう呼びかけながら、人の波を捌き始める。


 他の出入り口でも同様の動きが見られ、ディーノはホッと安堵する。


「ふう……。よしっ!」


 するとディーノはすぐ下にいるディアンに話しかける。


「ディアンさん!」


「ディーノ君。さっきは助かった。本来は俺がしなければならないことを……」


「そんなことはいいよ! 俺達も避難誘導手伝うよ。どうすればいい?」


「……助かるよ。では、観客席を確認してきてくれないか? さっきの騒動で躓いた観客もいるかもしれない。確認を終えたら、俺達の避難誘導を手伝いつつ、人喰いの動向を確認してくれ。真空波には対処方法がある」


「ホントですか!? 流石ですね。了解です!」


 そう言うとディーノは「行くぞ」と冒険者の女の子達を連れて、観客席へと向かった。


 それを見送ったディアンは、親心に似た感情を向ける。


 本当ならばフェルトと共に人喰いと戦いたかっただろうが、それを抑え、人命救助を優先した。

 本当に成長したんだな。


 冒険者としての仕事をするディーノに少し嬉しくなる。


 そしてそれはフェルトも同様なようで、


「ハッ! ちゃんとわかってくれてるようで良かったぜ。後は……」


「――がああああっ!!」


「俺が人喰いを何とかするだけだ」


 フェルトは向かってくる人喰いをジッと見る。


「お前も被害者だもんな、メリー。お前はただ……父さんに笑ってほしかっただけだもんな」


 フェルトは覚悟を秘めた眼差しを向ける。


「だからお前は俺が殺す。お前には因縁もあるが、俺は『大罪の神器』を回収すると決めた。マルコ神父やおじさん達には悪いが、俺の信念の元にメリーを救うために殺す!」


 フェルトは剣先を人喰いに向け、迎え撃つ。


「だからメリーとは呼ばない。人喰いッ!! お前のその『大罪の神器(本能)』に従う戦い、俺が受け止めてやる!! かかってこいやぁ!!」


「――あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」


 再びフェルトと人喰いの接戦が繰り広げられる中、放心状態のアスベルが狂ったように笑い始める。


「は、ははは……。はははははは……ハッハハハハッ!!」


「「「「「!?」」」」」


 アスベルはまるで救いが来たとでも言いたげな笑みを浮かべる。


「俺は……俺はッ!! まだ見捨てられていなかった!! 勝利の女神はまだ、フェルト・リーウェンに微笑んではいない」


「お前ッ! 何を!?」


 するとアスベルは嬉しそうに人喰いを応援する。


「殺せ!! フェルト・リーウェンを殺せ!! 人喰い!!」


「「「「「!?」」」」」


「お前の存在を目障りだと思っていた俺を殴ってやりたいよぉ!! 今のお前は俺達の勝利の女神さぁ……」


 そんな歪んだ笑みを浮かべながら人喰いに声援を送るアスベルに憤りを感じないはずもなく、


「アスベル・カルバドスッ!! 貴方という人は……」


「黙りな、エメローラ!! フェルト・リーウェンの言う通りさ。コイツが死ねば、俺達は助かる」


「まだそんなことを……!!」


「如何にフェルト・リーウェンとはいえ、この大陸を脅かす人喰いを相手にするのは、至難の業だろう。実際、俺達聖堂騎士全員を余裕と言っていた奴が、苦戦しているわけだからな!」


 アスベルの言う通り、フェルトと人喰いの戦闘は激化していく一方で、互いに攻めあぐねており、どちらかが有利という状況ではない。


「まあ、お前としてもぉ? 念願の人喰いと殺し合いができるんだから本望だよなぁ!? フェルト・リーウェン様よぉ!!」


「チッ! 黙ってな! このマザコン!」


 ほざいていろとアスベルは悪辣な笑みを浮かべると、


「ラフィ!! 聖堂騎士以外の会場の連中を絶対服従させろ!!」


「「「「「!!」」」」」


 最悪の逆転の一手を指示した。


「アスベル・カルバドス……!! 貴様ぁ……!!」


「――アッハハハハッ!! 本当に人喰いは勝利の女神さあ!! さすがのフェルト・リーウェンも棒立ちになった観客を守りながら人喰いはやれまい」


「てめぇ!!」


「しかも【絶対服従】は知的意識を持った状態の人間にしか機能しない。つまり、理性の吹っ飛んだ人喰いは、この命令をしたところで止まらない」


「くっ……」


 そうでなくても『大罪の神器』である『暴食の仮面』は、『傲慢の左足』の能力は受けない。


「しかもここに人喰いが乱入してきたということだ、ここにいる全員が食い殺されたって問題ない。むしろ好都合だ」


「貴様ッ!! どこまで腐っておる!!」


「黙れよ、無能王! 文句ならここまで追い込んでくれたフェルト・リーウェンに言うんだな!! さあ、人喰い。ここにいる全員がお前の餌だ。さあ、俺達以外を食い殺せ!! 勿論、フェルト・リーウェンを最優先にな!!」


 そしてアスベルは再びラフィに呼びかける。


「さあ、ラフィ!! お前も、ここまで追い込んだ憎きフェルト・リーウェンを地獄に送るため、そして俺達の勝利のために命令しろ! ラフィ!」


「そんなことはさせません! フェルマ! すぐにラフィ・リムーベルを捕らえなさい!」


「ハッ!」


 観覧席にいるフェルマを含めた王宮騎士達がラフィに迫る。


「ひっ!?」


 すると、


「させないッス!」


 レックスがラフィを守るよう、目の前に立ちはだかる。

 ダミエルはアスベルのあまりにも非人道的なやり方に戸惑っている。


「何やってんッスか!? ダミエルさん! 俺達が逆転するチャンスッスよ!」


「レックス……!」


「貴方達まであの外道の作戦に乗るおつもりですか?」


「ああ、乗るッスよ。俺はそもそも甘い汁が吸えるから、乗りかかった船ッス。転覆されちゃあ困るんでね。そりゃあ、思うことがないと言ったら嘘ッスが、神眼の使い手相手なら、ここまでやらないと勝てないッス」


 ここまで思い知らせることが裏目に出たように、レックスも本気なようで、騎士団長であるフェルマを相手にしても気迫を放つ。


「ダミエルさんもあるッスよね? 何かを変えたいにしても、立ちはだかる人がフェルト(アレ)なんッス。人道なんて貫いてる場合じゃないッスよ!」


「し、しかし……」


「ダミエルさん!!」


 すると痺れを切らしているのは、下にいる男も同様で、


「ラフィ!! いつまでフェルト・リーウェンの言っていることを気にしている? さっさと命令しろ!!」


 そう呼びかけられたラフィは、ひょっこりと顔を出す。


「こ、今度こそ……大丈夫なのよね?」


「ああ。【絶対服従】が効かないフェルト・リーウェンは人喰いが相手している。そこに追い討ちとして、動けない生きた人形共を散りばめておけば、如何にフェルト・リーウェンでも必ず人喰いが殺してくれる。幸い、人喰いはフェルト・リーウェンに首ったけのようで、さっきからケダモノのような激しいキスをお求めのようだ」


「ざけた洒落利かせてんじゃねえ!! こんな噛みつき(キス)されたんじゃあ、食いちぎられちまうよ!」


「俺は勝利の女神の恋路が是非っ! 成就してほしいと思ってるからな! アッハハハハッ!!」


 ラフィにもフェルトのピンチがわかっているようで、自分が命令ひとつ出すだけで、フェルトを殺せる確信が湧いたが、


「ね、ねえ、アスベル?」


「何だ?」


「わ、私……道具なんかじゃないわよね? フェルト・リーウェンを殺せれば、私は家畜でも道具でもないわよね?」


 アスベルは一瞬面倒臭そうな顔をするが、


「ああ、そうだ。お前は道具でも家畜でもない。ラフィはラフィだ。だから後は自信を持つだけだ」


 女を口説き落とすような爽やかな表情で、言葉だけはまともなことを言うが、この後にやろうとしていることも内心考えていることも外道である。


 そして自分が一番のラフィは、その言葉の真意も周りのことなども考えるはずもなく、アスベルの言葉を鵜呑みにする。


「そ、そうよね? つ、捕まりたくないもんね」


「そうだ。俺達の明るい未来のため今まで通り、他の連中には踏み台になってもらおうな」


 するとダミエルも覚悟を決めたのか、フェルマ達の前に立ち塞がる。


「ダミエル!!」


「……わかっているさ。自分が加担しようとしていることが、どれだけ酷いことなのか。だが、目的を達するためだ! 変わるための犠牲は必要だ!」


「ダミエルっ!!」


 とはいえ、テラス側に追い込まれているラフィ。

 逃げ道はなく、たったふたりだけではフェルマ達を何とかできるはずもない。


「ラフィ! やるなら急げ!」


「やるッスよ!」


 下からフェルトは、ダミエルを含めた聖堂騎士達に強い嫌悪を込める。


「……最初からそこまで感心なんてしちゃいないが、失望したよ、ホント……」


「何とでも言えばいいさ、フェルト・リーウェン。君は我らを追い詰め過ぎた。それだけだ」


「くっ……」


 そしてラフィは命令しようと息を吸う。


 鈴の音が聞こえたのか、ネフィが叫ぶ。


「ダメぇ!! ラフィ、それだけは本当にダメよ!! 取り返しがつかなくなる!!」


「うるさい! 私はね、もう負けない! フェルト・リーウェンにも……お姉ちゃんにも!!」


 だが、


「――がああっ!!」


『傲慢の左足』の能力を使ったせいか、それに反応し、鎖の鞭が観覧席の下壁を攻撃。


「「――きゃああっ!?」」


「ラフィ!!」

「姫殿下!!」


 観覧席の上にいる一同は、落ちないようしがみつき、ラフィも近くにある椅子にしがみつこうとし、手を伸ばす。


「……っ!」


 椅子を掴もうとした時だった――。


「へえっ!?」


 ラフィは後ろに引っ張られるように、観覧席から外へと背中から落ちていく。


「――ラフィ!?」


「――きゃああああっ!!!!」


 ラフィは誰に受け止められることもなく、地面に叩きつけられた。


「――あ゛あ゛あ゛あ゛っ!? (いだ)い!? 痛いよぉっ!!」


 だが即死は免れたようで、


「あの高さから落ちてなんで……?」


「ラフィには無能王共と同様に、防御の魔道具を身につけてある。あの程度なら即死は無いが――」


 そんな説明を聞いていてか、人喰いがフェルトの隙をみて、鎖の鞭で攻撃。


「があっ!!」


 だがその攻撃はフェルトに向かったものではなかった。


「へ?」


 その鎖は無防備なラフィの右腕に向けられ、


「――ぎぃやぁああああっ!!!!」


「――ラフィッ!!!! いやぁああああっ!?」


 怪力での鉄鎖の鞭はラフィの右腕は叩きつけられ、容易くラフィの細腕を引き千切る。


「わ、わたひの右腕ぇがぁ!? いだい! いだい!?」


「ラフィ!!」


 ネフィは駆けつけようとするが、ライクとゴルドに止められる。


「いけません! ネフィ様!」


「お気持ちはわかりますが、あまりに危険です!」


「離してください!! ラフィが……」


 そのラフィに人喰いが殺気立った様子でゆっくり近付いていくが、ラフィは叩きつけられた全身の痛みと引き千切られた右腕の痛みでそれどころではなく、大パニックを起こしている。


 だがそんな酷く心配するネフィとは正反対に、アスベルは舌打ちし、


「チッ! 本当に役立たずなクソガキだ」


 悪態をつく。


 そしてフェルトは人喰いのここまでの反応を見て、ある確信を得た。


 やはり人喰いは『大罪の神器』に反応して、敵意を剥き出しにし、殺しにかかっているのだと気付く。

 実際、フェルトにはわからなかったが、ネフィの反応を見る限り、【絶対服従】の発動の際に出る鈴の音に人喰いが反応したのだと思われる。


 だとすればフェルトの取る行動はひとつ。


 ――【識別】


「!」


 人喰いは【識別】を使用したフェルトを仮面の奥の瞳が強く睨む。


「悪いがそっちの雑魚は後回しにしてもらおうか? 続きをやろうぜ、人喰い!」


「――がああああっ!!」

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