41 聖女杯 事件解決編4
「う、嘘……。そんな馬鹿なっ!?」
フェルトは首を傾げる。
「何をそんなに驚く?」
「い、いや……だって、わ、私……め、命令したよ? 黙れって……」
さっきまでの態度がまた反転。
酷い動揺が帰ってきて、悪夢も蘇る。
「ああ。だから俺以外の全員がちゃーんと黙ってるじゃないか」
「だからぁ!! 貴方がどうして黙ってないかって聞いてるのよ!!」
するとフェルトは、アホらしと思いながらボリボリと頭をかいた。
「お前って本当に人の話を聞かないんだな。俺言わなかったか? ――俺に【絶対服従】は効かないって」
「――っ!!!!」
ラフィは確かに言っていたと、頭の中がグルグルと回る。
そ、そりゃあ、言ってたよ! 言ってたけど、それって所謂ハッタリってヤツじゃなかったの!?
アスベル、大丈夫だって言ってたじゃない!!
ラフィはアスベルに助けを求める。
「アスベル! この力は絶対じゃなかったの? ねえっ!? ……!」
だがそのアスベルもラフィの話など聞いている場合ではなかった。
フェルトが『黙れ』という命令が効いていないことに驚愕し、困惑を隠せないでいた。
「まーた人頼み? 他力本願にもほどがないか、お前」
「ひっ!?」
「こちらのものさしで測らないでくれだっけ? ああ、そうだな。お前なんか小さ過ぎて測ることもままならない。悪かったな。お前を測るにはものさしじゃ大き過ぎる。もっとミリ単位……いや、ミクロサイズくらい高性能の物じゃないと測れないか? 小さ過ぎて……」
「だ、黙りなさいよぉ……」
弱々しくなっていくラフィをフェルトは煽り続ける。
「よーく聞こえませーん! 黙らせたいなら、もっと頑張ってえー?」
チリーンと再び鈴の音が鳴る。
「『黙れっ!!!!』」
「黙りませーん」
「『黙れ黙れ黙れ黙れっ!!』」
「黙りません黙りません黙りませーん」
するとラフィはとあることを思い出す。
「『フェルト・リーウェン、黙れ!』」
「あん?」
「『フェルト・リーウェン、喋るな! フェルト・リーウェンは黙れ! フェルト・リーウェン、口を開くな! フェルト・リーウェン、声を出すな』」
「……はーん。なるほど」
ラフィはアスベルより【絶対服従】について説明を受けている。
さっきの命令は、聞こえている範囲で実行されるものであり、聞こえなかった場合は効かない場合もある。
だが、個人名を語ればその個人に【絶対服従】が効く。
勿論、聞こえなければそれまでなのだが、闘技場に向かって叫んでいるため、聞こえないはずもない。
しかも、名指しでの命令は強固に効くこともわかっているため、ラフィはフェルトの名前をつけて連呼する。
「『フェルト・リーウェン、私を道具と呼ぶな! フェルト・リーウェン、私を家畜と呼ぶな! フェルト・リーウェン……私をお姉ちゃんの代わりと呼ぶなぁああああっ!!』」
叫び終わったラフィは荒い息を漏らすが、その表情はやり切った満足感に満たされている。
「ふう……これだけ言えば――」
だが、それはすぐに絶望へと塗り替えられる。
「……下手な鉄砲数打ちゃあ、当たるってか?」
「!」
「まあ、名指しで効果が上がるのも理屈としてはわかるんだが……」
「そ、そんなぁ……!」
「道具。かーちーく。……残念だったな、ちゃーんと言えるぞ」
ラフィは泣き崩れ、暴れ始める。
「何でぇ? どうしてぇっ!! 何で何で何でっ!!」
フェルトはその様子を呆れたように見る。
所詮、ラフィは『傲慢の左足』の力にのみ縋り、過信しただけの奴。
『大罪の神器』の本質を知っているとはいえ、もう少し頭が回る相手なら、こうも思い通りにはならないだろう。
フェルトは安心していいやら、手応えがなさ過ぎるやら、複雑な心境を持ちながらも、
「おい、お前のくだらない命令のせいで会場の全員が喋れなくなってる。喋っていいって命令しろ」
「いやぁ……。私は神なのぉ……。私は、私はぁ……」
ショックを受け過ぎて、悶絶し、フェルトの話が聞こえていないようだ。
するとフェルトは、はあっと大きなため息を吐くと、キッと厳しい眼光を向ける。
「おい!! 道具!!」
「ひっ!?」
「てめえの間抜けな言動のせいで、人間様が迷惑してんだろうがぁ!! 喋れるように命令し直せって言ってんだろうが、この道具風情がっ!!」
ラフィは目からボロボロと涙を流しながら怯え、
「しゃ、喋っていいですぅ。だ、だから怒鳴らな――」
「さっきみてぇな馬鹿でかい声で喚かねえかっ!! 道具!! 聞こえねえだろうがぁっ!!」
「わ、わかりましたぁ!! 『しゃ、喋っていいです!! 喋っていいですからっ!!』」
ラフィの声が闘技場内に大きく響き、会場にどよめきが戻る。
「おおっ!」
「も、戻った!?」
「声が出る……!」
そしてラフィの側にいたオルディバル達も喉に手を当てながら、声が出ることに安堵する。
「こ、声が戻ったぞ。ローラ、皆も大丈夫か?」
「え、ええ、お父様。何とか戻りました……」
するとフェルトは手招きする。
「司会者さーん」
「は、はい」
声の戻った司会は、スッとフェルトの元へ飛んで駆けつける。
「大丈夫だと思うが、一応会場中に確認取ってくれないか? もし、喋れない人がいたら困るからな。一生、喋れなくなる可能性もある」
「わ、わかりました! 今すぐ!」
司会はぴゅーっと闘技場の真ん中まで飛んでいくと、大きく呼びかける。
「皆さーん! まだ喋れないって人は手を上げてくださーい! もしかすると、ずっと喋れなくなる可能性があるので、どうか手を上げてくださーい」
会場は辺りの人達と確認を取るが、どうやらいないようで、
「いないみたいです」
「そっか。なら良かった」
イミエルの話によれば、『傲慢の左足』の【絶対服従】は、鈴の音が聞こえている範囲に命令が効くとのこと。
その範囲はおそらくこの闘技場くらいまでが限度と考えていいだろう。
それにラフィの声が届かないと意味も無いことも考えると、やはりこの闘技場内だけと考えていいだろう。
フェルトは――鈴の音、俺には聞こえてないんだけどなと、安堵する。
「良くやった、道具」
「あっ……」
「なるほど。アスベルが使いやすいと考えるわけだ。怒鳴れば言うことを聞くなんて、扱いやすくて助かるよ。道具」
「ああっ……!!」
フェルトは愛想良くニッコリと笑う。
「だがこれで証明できたな! お前が言うことを簡単に聞く道具、家畜であるということが」
「い、いやぁぁぁぁっ!!!!」
心が折れたのか、その場で崩れ落ち、放心状態となる。
それをフェルトは、フンと冷たい視線でラフィのいる観覧席を見た。
その様子をエメローラを人質にとっているダミエルは、震えながら尋ねる。
「フェ、フェルト・リーウェン……。君はラフィを満身創痍にするために……」
「ハッ! 別に作戦でも何でもねえよ。その分からず屋の我儘だけしか取り柄のないクソガキに現実ってのをわからせてやっただけだ」
だがラフィを封殺したことも事実。
脊髄反射的に命令を出されても困るのが本音。
「フェルト!! リーウェええええンッ!!!!」
今までの驚きを爆発させるように、怒り狂いながらアスベルは呼びかける。
「っせえな! あの馬鹿の次はお前か? マザコン団長」
「黙れっ!! き、貴様ぁ……! 今度のカラクリは何だ?」
「カラクリだぁ?」
信じられないと表情に出ているアスベルは、フェルトを指差し尋ねる。
「そうだ!! あのライクとゴルドに教えたように、【絶対服従】を回避するカラクリがあるんだろう!? でなければ、お前だけが【絶対服従】が効かないなんてことがあるか!! さあ、言え! どんなカラクリだ?」
もうフェルトは呆れることしか出来なかった。
「ねえよ。そんなもん」
「嘘をつくな! またご自慢のポーカーフェイスで騙してるんだろうが! ここまで有利なんだ……話したところで問題無いはずだろうがっ!」
フェルトはポリポリと頭をかいた。
別に自慢なんてしてないんだけどなぁ。
そう呆れると、
「お前の悪い予感の方が当たっただけだろ?」
「は?」
「神物の持ち主に神物の能力が効かない。これが当たっただけであり、それを俺は確信的に知っていたというだけだ」
「なっ!?」
「タネも仕掛けもございませーん。以上」
フェルトがぺこりとショーを終わらせたマジシャンのように深くお辞儀をする最中、アスベルは絶望感に苛まれていた。
では最初から、勝ち目は無かったと……。
そんな絶望するアスベルに話を戻そうと促す。
「さて、聖女ネフィが邪魔したところだが、改めて……ラフィに命令させるかい? 『聖堂騎士以外の人間を絶対服従させる』って」
「なっ!?」
絶望したことにより、完全に冷静さを取り戻してしまったアスベルは、その命令の内容にハッとする。
「フェ、フェルト・リーウェン……まさか、その命令……」
「ん? ああ。アンタを煽ったのはわざとだよ。冷静さを欠いて、会場の全員をと命令してくれれば、俺が制圧するのはラフィひとりでよくなるからな」
「なっ!?」
「ま、今はそれも意味の無いこと。だからアンタがやりたかったように、聖堂騎士以外を絶対服従させればいいさ。さあ、どうぞ」
「くっ……」
【絶対服従】が効かないとわかった以上、アスベルはフェルトに制圧されるのは容易なことだと考える。
何せ、ブラックギルドのシギィと笑顔の娯楽提供者の豚マスク集団とやり合うほどの実力を知っている。
ラフィのご機嫌取りのための聖堂騎士など戦力にならない。
「……!」
しかもフェルトはラフィすらも煽って【絶対服従】を発動させ、自分が効かないことを証明した。
本人は作戦でも何でもないと言ったが、ここで自分が冷静さを取り戻すことが、どれだけこちらの戦意を堕とすか、考えれば考えるほどに、現実を思い知らされる。
焦燥感に苛まれながら長考するアスベルを見兼ね、フェルトが改めてと前置きをして、更に現実を思い知らせる。
「……命令させる気がないなら、また選択肢の確認でもするか?」
「!」
「じゃあ、改めて……ひとーつ! 降伏。ふたーつ! アンタが信じる【絶対服従】の力を使い〜、記憶を操作することだが、肝心の俺が効かないことが証明された。そしてアンタ達は俺より実力が無い」
何より『強欲の義眼』の力でどうとでもなる。
「つまり、制圧されてジ・エンド」
「くっ……」
「みーっつ! 王城にいる王宮騎士や魔術師達が不審に思い、制圧しにくること。……ディアンさん」
「何だ?」
「尋問官に一時間経ったら来るように言ったっていうアレ、嘘ですよね?」
「なっ!?」
ディアンはフェルトの悪戯心を理解したのか、はあっとため息をつくと、
「ああ、そうだよ」
「き、貴様ぁ!?」
「お前を焦らせるためのフェイクだよ。あの時はフェルト君がそう煽れという感じだったからな。だが逆に言えば、俺達ですら、いつ来るのか不明ということだ」
「!」
尋問官にアスベルに協力していた奴隷商を引き渡したのは、本当なのだから当然だろう。
「つまり、言った通り一時間後かもしれないし、もっと長くなるかもしれない。だけど、今すぐに来るかもしれない。制圧されたら、終わりだよな?」
「くっ……! くうっ!!」
「よーっつ! あの無能の首を切り落とし、俺を味方につけるという点だが、アンタ達みたいな三流と組む気は毛頭無い。よって、これはラフィが死ぬか死なないかくらいで、結果は他の三択と変わらなーい」
「く、くそがぁ……!」
フェルトは煽るようにアスベルの眼前に立つ。
「さてアスベル君。この四択、どれを選んでも結果は同じだとわかってくれたかな?」
「フェルト……リーウェン!!」
「国の存亡に関わる重大なことを仕出かしたアンタ達の結末は、冷たい牢獄の中で、これまでの行いを反省しながら、死罪を待つことだよ」
「「「「「!!」」」」」
「一度はアンタ達がネフィに十二歳にも関わらず、死罪という烙印を押したんだ……覚悟は出来てんだろうな?」
アスベル達は一気に青ざめる。
どの選択肢を選んでも、処刑台にしか繋がらないことを。
「あ、ああっ……!!」
「ひ、ひぃっ!!」
アスベルは膝から崩れ落ち、ラフィは頭を抱えて伏せて震える。
「特にアスベル君とラフィ君! アンタ達は重罪だろう。どうです? 陛下」
「……そうだな。裁判に通さずとも確定できる話だ。お前達は聖女ネフィを陥れた。これは重罪である」
「ひっ……」
「い、いやぁ……」
「てことだ。ダミエルさんを含めた聖堂騎士はもう少し軽くなる余地もあるだろうが、アンタ達は許されない。さあ、選んでくれ」
「あ、ああっ……」
アスベルは力無く、フェルトを見上げる。
「――俺達は慈悲深い。人生の終わり方を選ばせてやる」
「ひっ……」
アスベルも限界が来たのか、フェルトに怯え始める。
そして、フェルトは冷徹な視線を向け、こう吐き捨てる。
「これが俺とアンタの実力差だ。アンタの敗因は、神物を正しく使えなかったことだ。相手が悪かったな」
「あ、あぁ……」
決定的な差を見せつけられて、制圧されている聖堂騎士達も抵抗を止める。
ダミエルのエメローラを人質に取る手の力も緩む。
「か、勝てるわけがなかったんだ……。本物の神物の使い手に……」
アスベルも絶望の中、呟く。
「こ、こんな……ことが……」
だがフェルトは更に容赦しない。
「おーい、司会者さーん」
「は、はい!」
司会はひゅっと駆け寄る。
「なあ、これって試合途中だったよな?」
司会はキョトンとするも、
「は、はい! た、確かにそうですが……い、今更……」
これが決勝戦だったということを思い出すが、ここまでのことがあると、試合どころではないし、そもそも犯罪者に試合をさせるというのはどうかと、目がアスベルに泳ぐ司会者。
「試合、続行しようぜ!」
「そ、そうです――はいいっ!?」
とんでもない提案に会場も騒めき、アスベルも恐る恐る見上げる。
「アスベルさんよぉ、五つ目の選択肢をやるよ」
フェルトはスラっと剣を抜く。
「アンタがさっき言った通りさ。俺さえどうにかすればいいわけだからな。俺を殺すチャンスをやるよ」
「「「「「!?」」」」」
「ルールはこの聖女杯と同じで大丈夫だが、特別ルールとして、アンタ達は殺傷ありでいい」
「なっ!?」
そんな提案にオルディバルが叫ぶ。
「ま、待ってくれ! 達というのは……」
「勿論! 聖堂騎士全員でかかってきても構わないってことです」
「なっ!?」
「アンタもその方がいいだろ?」
アスベルはもう頭が回らずにいるが、これが本当のラストチャンスだと話を聞き入る。
「団長はアンタだ。やる気があるなら剣を抜きな。その際、取り押さえている王宮騎士達は全員、聖堂騎士を闘技場の舞台に連れて来てくれ。俺がひとりで相手する」
この提案に勿論、オルディバルは反対意見を出す。
「フェルト・リーウェン! そんなことをする必要は無い! 君がそんな危険なことを……」
「お父様、やらせましょう」
「ロ、ローラ!?」
「ひ、姫殿下まで何を!?」
驚くオルディバルとフェルマを説得。
「わたくしは攫われた戦場でフェルトさんの実力を見ましたが、この程度の実力者の有象無象くらいなら、軽くあしらえると考えます」
ダミエルに人質に取られているとは思えないほどの挑発的なひと言だが、ダミエルにはそれを納得できてしまうほどの実力を今、目の前で目撃している。
そして攫われており、救出されたエメローラの説得力は十分なものだったのか、それを聞いたアスベルは一瞬でも剣を抜こうとした手を引っ込めた。
思えば、フェルトはふたつめの選択肢で制圧できることを豪語している。
勝てる方がおかしい。
「姫殿下お墨付きとは光栄なことだねぇ。さて……」
フェルトは、はんっと鼻で笑う。
「簡単に勝てるとは思わないことだ。俺の神眼の力がアンタ達の理解の及ぶ範囲だと思うなよ」
「!!」
「勿論、それを使いこなす俺自身の実力もな。自慢するわけじゃないが、アンタよりは確実に上だよ」
フェルトは人喰いに勝つため、人喰いの襲撃以来、マルコ神父の教えを守りながら、ディーノと共に研鑽を積んできた。
アスベルのような道楽者に負ける気など毛頭無い。
「さあ……徹底的に叩き潰してやるから、剣を抜きな」
「あっ……ああっ!?」
「てめぇらが、どれだけ志が低いか、骨の髄まで教えてやるよ。この――三流悪党」
アスベルに希望は無かった。
か、勝てるわけが無い。
ここまで徹底的にやれる頭脳を持ちながら、神眼まで持ち、剣の実力もフェルマを簡単に倒したシギィと同等の実力者だぞ!?
か、勝てるわけがぁ……。
するとアスベルの様子がおかしくなる。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
終わる……!?
お、俺の人生がぁ……!
「ひいひっ! ひいひっ!」
フェルトはあまりの緊張感に過呼吸状態に陥るが、フェルトは同情の言葉なんてかけない。
「あはっ、あはっ、はっ、はっ……」
「どうした? ネフィも同じような気持ちで、あの幼い頃に裁判所に立たされたはずだ。どうだ? 最高の気分だろ?」
「フェ、ヒェルト……ひっ! ひぎぃ、リー、ウェン……げほっ! げほっ!」
ネフィも裏切りや周りからの冷酷な視線に苦しんだはずだと、とことんまでアスベルとラフィを追い詰める。
そのラフィも観覧席から見えないほどに地面に伏せ、丸くなって震える。
「い、いやぁ……いやぁ……」
「はあ、はあ、はあ、はぁあ!!」
するとオルディバルが手を上げる。
「フェルト・リーウェン……」
「!」
「もう十分に戦意を損失している。もうよい」
「……まあ、陛下がそう仰られるなら……」
フェルトは剣を納め、一礼する。
「陛下。これが此度の件、そしてネフィ・リムーベルにかけられた冤罪の件の報告に御座います。何かご質問はありますか?」
「いや、今のところはない。詳しいことはこちらでも調査するが、後にまた事情聴取することだろう。その時はまた協力を頼めるか?」
「それは勿論。いつでもお呼びくださいませ」
「うむ。フェルト・リーウェン。此度の件、誠に感謝する」
「礼を言われるまでもありません。俺は自分にできることをしただけです」
すると会場から歓声が湧き、称賛の声が響く。
「うおおっ!! ありがとう! フェルト・リーウェン!」
「本物の聖女様を救ってくれてありがとう!」
「凄え男だぜ!」
フェルトは歓声に答えるように、何度も客席に頭を下げた。
そしてしばらくするとオルディバルが手を上げ、歓声を止める。
「皆、先ずは私から謝罪させてもらいたい。此度の件に対応できず、それどころか本物の聖女であるネフィ・リムーベル氏に奴隷というあってはならない身分を与えてしまったこと、この者達の仕業であり、神物による力であるとはいえ、対策できなかったでは話にならなかった。本当に申し訳なかった」
国を守るものとして、必要な謝罪であった。
「此度の件はフェルト・リーウェンがいたからこそ解決できたこと、皆もわかっていることだろう。だが、これから我々もこの反省を活かし、聖女ネフィは勿論のこと、この大陸に生きる者達を守ることを約束させてほしい」
いくら『傲慢の左足』の影響で、どうにもできなかったとはいえ、確かに国民にそんな言い訳が立つわけではない。
オルディバルはもう一度、信頼してほしいと会場の民に呼びかけると、
「「「「「――うおおおおっ!!!!」」」」」
歓声と共に拍手喝采。
暖かく迎えてくれた。
いくら事情を知っているとはいえ、非難も覚悟していただけにオルディバルは、ホッと安堵する。
「皆、ありがとう! そして――改めて我らが英雄に拍手を!」
「「「「「――うおおおおっ!!!!」」」」」
そう呼びかけられたフェルトは、少し気恥ずかしそうに改めて一礼した。
「さて……」
オルディバルは再び喝采を止めると、今度はキリッとした厳しい表情をする。
「王宮騎士達よ! アスベル・カルバドス並びにラフィ・リムーベル!」
「……っ!」
「ひっ!?」
「そして協力者であるそこの二名を除く聖堂騎士一同を連行せよ!」
「「「「「ハッ!」」」」」
ダミエルも観念したのか、エメローラを解放する。
「姫殿下、ご無事で……」
「ありがとう、フェルマ。それより……」
「わかっております」
フェルマ達は戦意を失ったダミエル達、そしてそこで泣き崩れているラフィを捕らえようと動く。
「い、いやぁっ!! いやぁ!!」
「尚、ラフィ・リムーベルは言葉で人を操る神物の使い手だ。その口を必ず塞ぐなり、沈黙の魔法をかけるなりして、声を上げさせるな!」
「ハッ!」
いやぁっと泣き叫びながら抵抗するラフィをネフィは見上げる。
「……アンタにとっては複雑な心境か? 聖女ネフィ様」
「リーウェン様。……いえ。そんな、ことは……」
「……あの女もそこにいるマザコン団長もやり過ぎたんだ。当然の報いだ」
「……」
「だがあそこまで追い込んだ甲斐もあっただろ? ラフィの抱えた劣等感がどんなものだったか……」
ネフィはラフィが苦しい胸の内を語り、それに苦しんでいた様子を思い出す。
「望んだ知り方ではなかったかもしれないが……」
「リーウェン様、皆まで言わずとも大丈夫です。確かにわたくしも心苦しくはありました。ですが、これもわたくしがラフィのことを考えなかった苦しみ。……ラフィの苦しみはわたくしが背負います」
「アンタなぁ……。人が良過ぎるぜ。一応、汚された身だろ?」
するとネフィは苦笑い。
「それもわたくしが至らなかったという罰ですよ」
「やれやれ……」
フェルトはネフィの人の良さに呆れながらも、やっと終わったと安堵するが、
「――ぐああああああっ!!!!」
闘技場の空から叫び声が聞こえた。
一同は上空を見上げると、何やら人影が見えた。
「何だ?」
すると闘技場のフェルト達の目の前に着地するその人影は、叫び散らす。
「ぁああああああっ!!!!」
「なっ……!?」
その人影はほぼ半裸の状態で、辛うじて秘部が隠れている少女だった。
だが、その両手足には見覚えのある鎖付きの拘束具と真っ白な仮面がつけられていた。
「人、喰い……だと!?」




