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大罪の神器  作者: Teko
王都編 双子の聖女
101/177

40 聖女杯 事件解決編3

 

 闘技場の広場、入り口でずっと見守っていたネフィが、ラフィを見上げながら叫ぶ。


「もうこれ以上、罪を重ねないでラフィ。もう終わりなのよ」


 そんなことを許さないアスベルは怒号を上げる。


「黙れ、ネフィ! 売女にまで堕ちた聖女がほざくな!」


 そんな暴言を許せるはずもないライクが強気に出る。


「ざけんな!! てめえが全て仕組んだことだろうが!」


「ハッ! フェルト・リーウェンを味方につけなきゃ、強気に出れもしない役立たずがよく吠える」


「それはお前も同じだろ。【絶対服従】が無ければ何も成せない奴が……」


「何だとぉ……!!」


 ライク達の言い合いが繰り広げられる中、リムーベル姉妹も論争を繰り広げる。


「ラフィ。もうやめましょう。貴女だってお話は聞いていたでしょう? 全てアスベルさんが仕組んだこと、今からでも間に合うわ。今までやったことを反省し、またやり直しましょう? わたくしは貴女の味方よ、ラフィ」


 それを聞いたラフィの態度が一変する。


 フェルトに追い詰められ、アスベルに怒鳴られて怖がる少女とは一転、アスベル同様に怒りの表情をネフィに向ける。


「――ホント、アンタってムカつくわよねえっ!! この豚女がっ!!」


「「「「「!?」」」」」


 その豹変っぷりには向けられている本人もそうだが、周りも驚く。

 その表情は嫌悪と憎悪に溢れていた。

 とても血の繋がった姉妹に向ける目ではない。


「その上から見下すその物言いも態度もムカつくのよ!!」


「わ、わたくしは別にそんなことは……」


「無意識なのが余計に腹立つってわからないのかしら!?」


 わかっていればネフィも驚愕の表情を浮かべたりはしない。

 今までこんなラフィを見たことがないと言わんばかりに目を丸くする。


「アンタに私の気持ちなんてわかるはずない! そうよね? だって聖女として必要とされていて、聖都の連中から絶大な信頼を得ていたアンタなんかにわかるはずない! 私がどんな目で見られてたかわかる?」


「そ、それは……」


「お母様が生きておられた時が一番良かった。今思えば、みんなが私達を対等に扱っていたのはその時くらいだったからね」


 ラフィは自身の抱えた苦悩を吐き出す。


「でも! お母様が死んでから周りは変わった! 聖力の力の有無だけで、簡単に周りはお前を慕うようになった! 確かに聖力では私は劣るけど、私だって聖女なのよ!? なのに……」


「そ、それは貴女が神への祈りなどを怠ったり、そんな横柄な態度を取ったりしてるからで……」


「うるさい!! そんなの関係ない!! 私だってやってたわよ! でも、全然成果なんて出るはずもなく、アンタばっかり!」


 ラフィは地団駄を踏みながら、子供の癇癪のように騒ぎ散らす。


「そしてそんな私を周りは見るの。役立たずの代わりの聖女としてねえ!!」


「そ、そんなことはないわ。それは貴女の思い違い――」


「これだから能天気馬鹿は羨ましいわね!! アンタの手前で私の悪口なんて言うわけないでしょ!! 陰では散々言われてたし、私に向ける視線とアンタに向ける視線は全然違ったわ。アンタには尊奉(そんぽう)の眼差しを、私には蔑むような視線を向けられたわ」


 フェルトは呆れる。


 双子で聖女なんだから、結果が出ずともサボったりしてりゃあ、周りの態度の差も出るだろうに。


「そのくせに周りの連中は、上辺だけでこう私に言い続けるの。――聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女聖女、せぇええええいじょおおおおっ!!!!」


 ラフィからすれば聖女という言葉は呪いの言葉か何かだったんだろう。

 その肩書きに振り回されることばかりは同情の余地はあった。


「私を馬鹿にしているようにしか聞こえなかったわよ!! 聖女だなんて誰ひとり思ってなかったくせにっ!! しかもアンタは私の気持ちなんて知らずに、優しーい言葉をかけて慰めてるつもりだったんでしょうけど、私からすればそんな同情も小馬鹿にしているようにしか聞こえなかったわ!!」


「そ、そんな……」


「お母様の代わりに一緒に頑張りましょう? 貴女には貴女のやり方があるぅ? わたくしも一緒に神に祈りますだあ? たった二人の姉妹ではありませんかぁ? 糞食らえよ、そんなもん!! アンタの成功例を押し付けられたってできないもんはできないし、そんな上辺だけの言葉に救われると思ったぁ? ホント馬鹿ねっ!!」


「……」


 ネフィはショックを隠せないでいた。


 自分がかけ続けていた言葉が、ラフィを追い詰めていたことに、今やっと気付いたのだ。

 そしてそれは確かにラフィの言う通り、周りは常に自分の味方ばかりだった。

 聖女としての自覚が湧いたことで、ラフィにももしかしたら強制していたのかもしれないと、自分の軽率な行動と言葉にショックを受けた。


「でもそんな私にも運が回ってきた。アスベルが話を持ちかけてきた。周りの連中を、ネフィを見返してやらないかってね」


 するとラフィはギロッとアスベルを睨む。


「まさか死ぬ可能性があるなんて思わなかったけどね!」


「ハッ! さっきも言っただろ。結果オーライだったろ?」


「フン!」


 アスベルのへらっと答えた心境に腹が立つラフィだったが、確かにその通りだと笑みを浮かべ始める。


「でも私は選ばれた! この神の左足に! その証拠にどんな奴らだって私に服従した。私のことを見下していたクズ共も、ここにいる王族だって思いのまま!」


「……」


「そしてアンタもよ、豚女。あの裁判は悲惨だったでしょ? 貴女のいつもの能天気な明るい顔が一転、絶望感に染まる表情は最高だった。信じてた連中達が私の意のままに操られ、裏切られた気持ちはどんなだった? アッハハハハッ!! 気分が良くて笑いを堪えるのに必死だったわ!」


 ネフィを陥れたことを楽しげに語るラフィに、ネフィ以外は強い嫌悪感を覚える。


「そして死罪を言い渡され、アスベルの言う通りに奴隷にしたけど、そこも良かった! この馬鹿女を私のために利用するって計画、最高っ!! しかも私の力を使わずとも服従させられるんだから、堪らなかったわぁ〜。アレよね、飛空艇に乗って空を飛ぶのと、杖とかで飛ぶのとは違う高揚感が味わえるってヤツ?」


 気分が良くなってきたラフィは、ネフィに与えた醜悪な仕打ちをベラベラと語り出す。


「貴女を裸にした後に犬の芸を仕込んだ時とかは特に惨めだったわね」


「き、貴様っ!? そんなことをしたのか!?」


「当然でしょう? 今まで私を聖女と馬鹿にするように、周りからもネフィ(コイツ)からも羞恥に晒されたんだから、これくらいの恥はかいてもらわないとね」


「……同じ女とは思えませんね、下品な」


「あら? 王族にはそんな趣味はないのかしら?」


「あるわけないでしょう!」


「へえー。でもそこの豚女を当てがった貴族達は喜んで抱いてたらしいけどね。そんな汚らわしい男達に抱かれてるってだけで、優越感に浸れたけど……」


 ラフィはこの上なく優越感を得た笑みを浮かべる。


「そうそう、お姉ちゃーん。はじめての相手は覚えてるぅー?」


「……」


 わざとらしくお姉ちゃん呼びされたネフィは、思い出したくもないようで、悲痛な表情を浮かべる。


「――私ね、お姉ちゃんのはじめての相手だけは見たの」


「!」


「正直、あんな豚男達の裸体なんて吐き気がするけど、それを我慢してでも見る価値があったよ。お姉ちゃんがあの豚男達に犯される姿はね!!」


「!!」


 ネフィは当時のことを思い出したのか、その場で頭を抱えて崩れる。


「ネフィ様!」


「……っ!」


 その光景を妹であるラフィが見ていたかと思うと、言葉にできないほどに絶望しているのだろう。

 ラフィはその記憶を鮮明にするためか、そのはじめての相手について語る。


「確かぁ……下っ腹の出たブサイクな中年おじさんにぃ〜、おかっぱ頭のこれまたブサイクでヒョロガリな奴でしょお〜。最後の奴は酷かったね! デブでブサイクでハゲで、挙句に不清潔なのも丸わかり。水晶で見てもわかるくらい汚臭塗れそうなおっさんだったもんね!」


「……!」


「ま! 色んな人から求められることがだーい好きなお姉ちゃんからすればぁ? 三人なんて少なかったかしらぁ?」


「……」


 聖女として求められることと、性奴隷として求められることは誰の耳から聞いても別件だろうが、ラフィは煽りながら楽しげに語り続ける。


「正直、十人とか二十人とかでもいいかなって思ったんだけど……ほら! 言うじゃない! 量より質って!」


「ま、待って……」


「どうしたのぉ? お姉ちゃん?」


 ラフィの言い方には過るものがあった。


「そ、その言い方だと……まるであの方々をラフィが選んだみたいな……」


「ううん。私は選んでないよ。そういう品性の無い、下品で汚い男をお姉ちゃんのはじめての相手にしてあげてって、アスベルに頼んだだけ」


「!?」


 それはもう、選んでいるのと同義の答えが返ってきた。


「ほら! 折角のはじめてなんだから、思い出に残るものにしてあげようっていう優しさだよ、お姉ちゃん! お陰様でとっても素敵な心の傷(おもいで)になったでしょう! お姉ちゃん!!」


「あっ……ああっ!!」


 はじめて汚された記憶にラフィが加担していることを知り、ネフィは絶望するが、その表情が見たかったもばかりにラフィは高揚する。


「――アッハハハハッ!! 素敵っ! 素敵だったよ、お姉ちゃん! 聖女と口癖のように語る連中らから、清廉潔白で、清らかな存在だと言われ、綺麗に扱われてた奴が、あんな汚い男共の欲望の吐口にされている光景は最高だったよ! 綺麗なものが容赦なく汚れる姿ってあんなに愉快なんだね? アッハハハハッ!!」


「き、貴様ぁ……」


 それを見送ることしかできなかったゴルドとライクは、唇から血が滲むほどに噛み、その醜悪なことを聞かされている観客達やオルディバル達でさえ、強い嫌悪を覚える。


「よくあんな汚物を咥えられるわよね? 私だったら吐くわ、絶対! お姉ちゃんの泣きながら犯される姿は男達の嗜虐心も煽って、気分も乗ったことでしょうね! 泣いてたけど、実は内心楽しんでた? アッハハハハッ!!」


 下卑た高笑いが響く闘技場。


 ネフィが頭を抱え崩れる横で、ライクが怒りに震える。


「アンタはねえ!! 一生私の奴隷として生きるの! でも良かったじゃない。皆のために尽くしたいとか寝言ほざいてたけど叶ってるわよ、その夢。毎晩毎晩、違う汚い男達に求められてねっ!! アッハハハハッ!!!!」


「てめぇ……いい加減に――」


「――黙れ、クズ」


 ライクが叫ぼうとした時に同時にフェルトがバッサリとセリフを攫う。


 そのクズというひと言がさらっと入ってきたのか、ラフィはフェルトを見る。


「……聞き間違いかしら? 私のことをクズって言ったの? ……ああっ! それともそこの尻の軽い豚女のことを言ったのかしら?」


「今の話を聞いて、お前以外にクズ認定する奴がいるんなら、そいつは頭の中身を診てもらった方がいい。どうかしてる」


「……もしかして、私がその女を汚したことを怒ってるの?」


「いや、俺は女が奴隷と聞けばそうなるだろうなとは思ってるから、怒りは無いが気分が悪いだけだ」


 この世界では奴隷制度が常識としてある以上、やむを得ない部分はあるだろうが、実の妹がここまでやって、楽しげに語ることの方が気分が悪い。


 するとラフィは辺りを見渡し、ほとんどの者達が嫌悪の視線を向けていることに気付く。


「まあ確かに普通の人間がこんなことをしたら許せないでしょうね。けど、私は違うの」


 ラフィはその行いが正しいのだと得意げに語り始める。


「私はねえ、選ばれたの! この神の左足に! それは私が神である証拠!」


 その言葉にフェルト以外の一同は、嫌悪感を抱きながらもその通りだと思う反面、フェルトは『大罪の神器』であることをわかってか、怒りと気分の悪さを通り越し、神だと自慢げに語るラフィに呆れた。


「そしてこの左足は私に神の力の証である【絶対服従】の力をくれた。わかる? どんな知的生物でも操ることができるこの力は正に神の力! それを宿す左足を手に入れた私は神と同義!」


 ラフィはニヤリと悪辣に笑う。


「だからね。神である私が戯れにそこの豚女を貶めたところで何ら問題は無いの。むしろ神である私をあそこまで辱めたんだから、まだ足りないくらいよ! もっと惨めに! もっと屈辱的に! もっと絶望的にやってやらないと気が済まないのよ!」


「……貴女という人は……!」


「なに? 文句でもあるの? 姫様ぁ? 貴女のその私に対する不敬なその態度も表情も、私のひと声でね、尊顔に変わり、私に跪かせることだってできるの。尊敬しております聖女様って、心から尊敬してますって、その嫌悪とは真逆の反応をさせることができるのよ! アッハハハハッ!!」


「くっ……」


「何せ私は神なのだから! 私の発する言葉の全てが絶対になるのだから! それは正に神の御業(みわざ)でしょう? 疑いようもないでしょう? 逆らえるものなら逆らってみなさいよ! この愚民共がっ!! アッハハハハッ!!」


 闘技場全員に聞こえるよう嘲笑うラフィ。

 そんな自分勝手なラフィに反論したい一同ではあるが、【絶対服従】があるということは事実なので、悔しさを滲ませるが、


「――確かにお前は選ばれたよ、その左足に」


「!」


 フェルトは余裕の笑みを浮かべながら、先ずは肯定意見。


「そうでしょう? 貴方なら認めてくれると思っていたわ、フェルト・リーウェン。だけど今回のお痛はいけないわね。私をここまで罪人扱いするなんて。だけど同じ神物の所持者同士、まあ許して――」


「お前は何を言ってるんだ、クズ」


「!」


 ラフィはキッと睨む。


「お前みたいなクズと俺を同列に並べるな。虫唾が走る」


 フェルトは本当に嫌なようで、冷徹な視線でそう吐いた。


「いいか? 改めて言うぞ。お前は確かに……その左足に選ばれた。実際、その左足の選定を受け、死んだ人間がいる以上、お前は選ばれた存在だ。それは間違いないだろう」


 アスベルの罠に嵌められて死んだ神父がその証拠。


「だがお前の場合――その左足に選ばれた理由が異なる」


「なんですって?」


「よく考えてもみろよ。お前みたいなクズで能無し、他力本願で解決能力も無し。挙句、さっきの話を聞いていれば、努力のひとつもしないでネフィの才能と努力を妬むだけのガキであり、イケメンしか揃えない大会や聖堂騎士の寄せ集めから、道楽を貪るだけしか能のない豚同然の家畜風情であるお前が、神だとその左足に認識されると?」


「なっ……! なんですってえっ!!」


 フェルトに散々罵倒されたラフィは勿論大激怒するが、フェルトは何食わぬ顔で話を続ける。


「その左足には意思がある。選定し、神父が殺されたのがその証拠。……なあ、ジョージ」


「……な、なんでしょう?」


 もうツッコむのも疲れたゴルドは、もうそれでいいやと思った。


「アンタ達もその神父とは面識はあったんじゃないか? どんな人物だった?」


「そ、それは……とてものんびりされた方だったが、良い方だったよ。心配になるくらいに……」


「そんな温厚な人物が何故選ばれなかったと思うよ?」


「え、えっと……」


「簡単なことさ。【絶対服従】の力を使ってくれなさそうだからだ」


「「「「「!!」」」」」


「その左足は自身の力を振るえる所有者を探すことだろう。だけどそんな温厚で恨みひとつ買わなさそうな人物が【絶対服従】なんていう人の意思を冒涜する力を使うわけがない。それをその左足は選定し、神父を殺したのだとすれば、お前はその【絶対服従】を使ってくれるから選ばれたということにならないか?」


「なるほどね。確かに私のような存在でなければ【絶対服従】を使いこなすなんて――」


 ラフィはフェルトの言っている意味など理解できるはずもなく、得意げに選ばれたという部分だけに酔いしれているが、


「使いこなしてなんてないだろ。使いこなせてるなら、そもそもアスベルに頼ったりしない」


「……!」


「じゃあどうしてお前が選ばれたのか……簡単だよ、お前は――「傲慢の左足(どうぐ)』に道具として選ばれただけだ」


「…………は?」


 突拍子も無い結論にラフィは目を丸くするが、すぐに笑い始める。


「ハッ! ハハハハ! 私が道具として選ばれた? 馬鹿言わないで!」


「いーや。お前はその左足に都合が良かっただけだ。傲慢で我儘でぐうたらで能無しのお前は、【絶対服従】というとても都合の良い力に縋ると、その左足自身が見抜き、自身の成長のための養分としてお前を宿主に選んだだけに過ぎない。言うなればお前は、馬車を引く馬同然……つまりは家畜だ」


「ふっ! ふざけないで!! 私が道具? 家畜? この左足にそんなことを考えることなんて――」


「おいおいおい、さすがは道具だなぁ? 人様の話聞いてたかぁ? その左足は触れただけのはずの神父を殺してるんだぞ? それは意思が宿っている証明だと数分前に説明したばかりなんだがなぁ?」


「う、うるさい!」


「正直、神だと自信満々に誇らしげに語った時は、感情の何もかもを置き去りにして呆れ果てさせてもらったよ。ここまで能天気馬鹿だと救いようも無い」


「な、なんですって……!!」


「俺みたいに、祝福の日という特別な日に、天上から光が差し、この義眼が降りてきて所有者となったというなら、神を名乗ったところで、まあ……そうかもと思うかもしれないが……」


 フェルトはそんなことがあっても、そこまで驕ることはないがと内心、失笑。


「お前はどうだ? たまたまアスベルが神の左足を見つけ、お前を消去法で死んでも構わないという、アスベルからしても道具扱いで選ばれたお前が神として選ばれた? 笑わせるな。日頃の行いや普段の態度だけみてもお前はそんな器じゃない。大甘で見積もっても、生意気なクソガキがせいぜいだろう」


「くっ……!」


「そしてそんなクソガキが【絶対服従】なんて玩具を手に入れたら、好き放題のやり放題。その左足の思い通り、どんどんその力に溺れてクズになっていくお前を、その左足はさぞ喜んだだろうさ。そこまで利用されていれば、お前が道具や家畜扱いっていうのは納得だろう?」


「納得できるわけないでしょ!!」


 ラフィは否定するが、周りはそんなラフィに侮蔑の視線を向け始める。


 そしてフェルトはおかしいなと頭をかく。


「お前が何でそんな否定的なのかわかんねえなぁ。お前は自分でも道具だって認めてるくせに……」


「はあっ!? 意味わかんないこと言わないで!! 私が自分のことを道具だなんて言うわけないでしょ!!」


「いーや。ついさっき認めてたぞ」


「認めてるわけないでしょ!!」


「いーや、認めてる」


「認めてない!!」


 フェルトは呆れたため息をひと息。


「じゃあ聞くぞ。じゃあ何でさっき――アスベルの質問に『はい』って答えたんだよ」


「はあ!? それに何の意味が……」


「意味ならあるだろうが。アスベルはお前になんて言った? 『誰のおかげで、そんなとこに居られると思っている。今までお前を上手く使ってやったのは誰だ』と言わなかったか?」


「!!」


「それに対し、お前はアスベルのお陰ですと震えながら答えなかったか?」


「だ、だから何だってのよ!」


「もう一度言うぞ。『上手く使ってやったのは誰だ』という質問にお前は、アスベルに使ってくれたお陰だとお前は証言してるんだ」


「!!」


「それはつまり、お前が自分でアスベルの道具だと認めた証拠だろ?」


 ラフィはフェルトの言葉に信憑性が増してきて動揺する。


「そ、それはっ! ほ、ほら……アスベルが怒鳴るから咄嗟に――」


「反射的になら尚更だ」


「ひっ!?」


「本能的にアスベルに逆らえませんと家畜本能丸出しじゃないか、お前。【絶対服従】を持っていてもそれをアスベルに献上してる時点で、お前は自分をアスベルの道具だと、家畜だと認めてる証拠だ。本能的ならそれは決定的だ」


「あ、ああっ!?」


 今度はラフィが崩れ落ちる。


「だから俺は不思議だと言ったんだ。お前自身が道具だと認めてるくせに――」


「違う!!」


「……」


「違う違う違う違う違う違う!! 私は道具なんかじゃない!! 私はね、私はね……神になったのよ」


 説得力ゼロのラフィにはため息しか出ないフェルトは、その茶番に乗ることにした。


「じゃあ神だって証明してみせてくれ。ただし、時間制限があることを忘れるなよー」


「じ、時間制限?」


 すっかり忘れているラフィにアスベルが叫ぶ。


「おい!! こんな茶番に時間なんかかけるな!! さっさと命令すればいいんだ!! 言う通りにしろ!!」


「ほーら。主人からの命令だぞー、神様ー」


「き、貴様!?」


 アスベルの失言を逃さなかったフェルトの煽りが、ラフィの元々無い冷静さを喪失させていく。


「アスベルは黙ってなさい! えっとぉ……えっとぉ……」


「おい!! ラフィ!!」


「黙ってて!!」


 フェルトはポツリと、


「あー、面白っ」


 焦るふたりを楽しそうに笑い、


「お前が神に選ばれたのは聖女だからか?」


 再び誘導する。


「そ、そう! それよ、それ! 私、聖女だから……」


「なーるほど! でもさぁ、それなら聖力を砂粒くらいしか無さそうなアンタより、膨大な神からの寵愛を受けて聖力を授かっているネフィの方が適正があったんじゃないか?」


「そ、それはアレよ!! せ、誠実な人間じゃあ、この左足は選ばないから……」


「とすればやっぱりお前は道具として選ばれたってことだな?」


「えっ!? あっ! ち、違う!!」


「違わないだろ? 聖力の力の差でなく、あくまで性格で選ばれたということなら――」


「聖力!! 聖力の力の差よ!!」


 フェルトはしたり顔。


「ほー。なら神を自称するんだ、ネフィよりも聖力があるんだよな? 昨日見せた儀式みたいな神業が見られるんだよな? この場でも」


「へ? あ、ああ。も、勿論よ。ア、アスベルっ!」


「おっと! アスベルに頼るのは無しだ。神様なんだろ?」


「そ、それは……」


「何だったらここに……」


 フェルトはネフィを見る。


「アンタが見下してる奴隷聖女様がおられる。どっちが聖力を持っているのか、証明してもらおうじゃねえか」


「「……!?」」


 ラフィの表情はどんどん暗転していき、ネフィも力の差を理解しているのか、


「リ、リーウェン様……。あの――」


「同情はやめろよ。アンタの妹はやり過ぎた。徹底的に現実ってヤツを教えてやれよ。あの甘ちゃんをあのままにしたアンタの責任でもあるんだぞ」


「!」


「奴隷となり、聖都をめちゃくちゃにされ、アンタは十分苦しんだと思うが、やっぱりその元凶にはしっかり罰を与えないとな。それにアイツの劣等感がこの程度とは思えない。知りたいんだろ? ラフィの気持ちを……」


「……!」


 ネフィはラフィの発言を思い返す。


 自分が良かれと思ってかけた言葉が、ラフィに強い劣等感を与えてしまったことを。

 下手な優しさは傷付けるのであれば、フェルトの言うことは尤もなのだろうと納得する。


「わかりました……」


「さて、じゃあこちらの奴隷聖女様から見せてもらおうかな? ネフィ、聖力を適当に排出するだけでいい」


「はい」


 そう言われ、ネフィは祈りを捧げる。


 すると――、


「「「「「おお……」」」」」


 ネフィの周りから神秘的な光が纏い、正に神の寵愛を受けたと証明するように聖力を放出する。


 それをラフィは見慣れた光景なのか、表情を引き攣らせている。


「奴隷に身を落としたはずのネフィですらこれだ。神だと自称するアンタなら、もっと凄いものを見せてくれるんだろうな?」


「そ、それは魔法よ! インチキよ!」


「奴隷紋の影響で魔法は使えないはずだが?」


「ぐっ!」


「でも力は放出されてる。つまりはこれは聖力だ」


 フェルトの説得力に会場は「おおっ……」と絶賛する。


「もういいよ、ネフィ」


「はい」


 聖力の放出を止めても、その場にはしばらく残光が浮遊している。


「さあ! 神だと証明するため、聖力を放出してみせてくれ。奴隷に身を落としたネフィでもやれたんだ、簡単だろ?」


 ラフィはブルブルと震えながらも、


「や、やれば……やればいいんでしょ?」


 ラフィもネフィと同様に祈りを捧げるが、


「ふっ! ……ふうっ!」


 一向に光が出ることは無い。


「なあ、アスベルさん。いつ出ると思う?」


「貴様ぁ……! 出来ないとわかっていてやらせてるだろ!」


「当然。俺はいくら時間かけたって問題無いからな。お宅らと違って」


「くっ!」


 すると焦燥感に駆られたアスベルが再び叫ぶ。


「出来ないことをやろうとして時間を潰してんじゃねえ!! 時間が経てば経つほど、俺達は不利になるんだぞ!! さっさと命令しろと言ってるだろ! この役立たず!!」


「……っ!! う、うるさい! うるさい! うるさい! 私は……役立たずじゃない。私は……道具でもない!」


「つまらない意地を張るんじゃ――」


「アスベル!!」


「!」


 そう叫んだのはダミエルだった。


「お前は余計なことを喋るな! フェルト・リーウェンに乗せられてるぞ!」


「なっ……!」


「今は……結末を見守るしかない」


 ダミエルはその結末も見えてはいるだろうが、アスベルが余計な失言をする度に、ラフィが意地になるという悪循環が生まれている。

 せめてそれを抑えることしかできなかった。


 それを理解したアスベルもまた、


「……くそがっ!」


 黙っているしかなかった。


 だが、フェルトは黙らない。


「おーい、自称かーみーさーまー! いつ見せてくれるのぉー?」


「だ、黙ってて! しゅ、集中してるから……」


「はいはーい」


 ラフィは懸命に力を振り絞る。


 出ろ! 出てよ! 私の中に宿る聖力! 証明しないと……証明しないと……、またお姉ちゃんの代わりだって言われる!


 すると、


「!」


 ぽわっと一瞬だけラフィが光り、ラフィは証明できたとばかりにはしゃぐ。


「ほ、ほら! 見たでしょ! 今、ほら……光って……」


 だが周りの視線はとても冷たいものだった。


「ああ。確かに見えたよ。一瞬だけな」


「!」


 するとフェルトはラフィにトドメを刺す。

 バッと大きく腕を広げ、会場の観衆に訴える。


「皆さん! これで証明できましたね。ラフィは無能聖女であり、昨日のアレも演出……」


「「!?」」


「そして真の聖女はここにいる――」


 ネフィに手を差し出す。


「ネフィ・リムーベルだと証明されました。神からの寵愛である聖力を扱えることこそ、聖女の証明。違いますか?」


 そのフェルトの呼びかけに応えるよう、会場からは盛大な拍手がネフィに向けられ、「聖女ネフィ様!!」と呼び称えられる。


 そしてフェルトは残酷にもラフィのこともわざと聖女呼びをして問いかける。


「皆さん、それはそれとして聖女ラフィはどうでしょう? 彼女は神と自称していますが、如何かな?」


 その問いに会場は一気に凍りつく。


「神だと? ふざけるな!!」

「私達を散々騙しておいて……」

「ネフィ様があまりにお可哀想だ!! 恥を知れ!!」


「い、いやぁ……」


 強い嫌悪感から来る敵意が全てラフィに向けられる。


「お前さんが言ってた、ネフィの代わりだと見られていたり、ウワサされていた件だが、当たってるじゃないか。道具」


「ち、違う!」


「違わない。これだけの人達が誰ひとりとしてお前を認めていない」


「そ、それは貴方がそういう風に誘導するから……」


「じゃあ、決定的なことを話してやろう。正直、ここまで言うかどうかと思ったが、実の姉をそこまで蔑めるんだ、問題無いだろう」


 こう前置きをすると、


「いいか? 人間ってのは、さっき脳の理屈を話した通り、脳が命令を出し、身体を動かす。つまりは人間ってのは考えて行動を起こせる理性的な生き物だ。オッケー?」


「そ、それがどうしたって言うのよ!」


「お前、考えて行動したことあるか?」


「!?」


 ほぼ面識の無いフェルトですら、ラフィの態度や発言から、あくまで行動パターンが脊髄的であると否定する。


「聖女の力は無く、聖女の役目はネフィ任せ。【絶対服従】の力もアスベル任せ。努力はせず、楽なことばかりを考え、行動を起こす。それは人間のする行動じゃない。餌を与えられる家畜のすることだ」


「……っ!」


「人間ってのは、自分の望みや願いを叶えるために考えて行動を起こせる人物を知的生物と呼ぶ。お前にそれは該当しているか?」


「わ、私は……」


「ハッキリ言おう。お前は神どころか人間ですらない。家畜以下のただの愚図だ。それがたまたま【絶対服従】の力を宿す左足に道具として選ばれただけの道具。それ以上でもそれ以下でも……いや、以下はあるか」


「ふ、ふざけ――」


「ふざけてなんてない。どう分析してもお前は姿だけが人間の家畜、道具だよ」


 ラフィはよろっと体制を崩しながら、酷く動揺する。


「ち、違う……私は家畜なんかじゃない」


「いーや、家畜だ」


「違う! 私は道具でもない!」


「いーや、道具だ」


「違うっ!! 私は……私は……お姉ちゃんの代わりでもない!!」


「それは違うかもな」


「!」


「お前がこんな立派な聖女様の代わりになんかなれないよ。このクズ」


「……!!」


 あまりの罵詈雑言に同情の眼を向ける人もいれば、やはり嫌悪感を宿した視線を向けるものがいて、ラフィは更に動揺する。


「み、見るなっ!! 私を……私をそんな馬鹿にするような目で見るなぁ!! ひっ! ひぃ……」


 劣等感に押し潰されているのか、頭を抱え振るえるラフィに、ネフィはやっとわかった。


「……!」


「違う……違う……」


 ラフィは自分の弱さが恐ろしく、それを煽られることが酷く恐ろしかったのだと気付いた。

 そして、それを助長していたことにも気付くと、ネフィは心苦しくなってくる。


 だがフェルトは容赦しなかった。


「何も違わない。お前はクズで家畜で、ただの道具――」


 ――チリーン。


 鈴の音が響く。

 これはマズイと、命令の内容を予想できたアスベルが止めようとするが、


「ま、待てっ!! ラ――」


「『黙れぇっ!!』」


 会場中に響いた【絶対服従】の命令。

 すると騒ついた会場が一気に静まり返る。


「『黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ……黙れぇええええええええっ!!!!!!』」


 会場から人の声が消えた。

 響いているのは、ラフィの黙れという発言だけ。


 するとラフィは我に帰り、キョロキョロと辺りを見渡す。


「フ、フフフ……」


 周りが黙れという命令に従い、口をパクパクとさせる光景を見て自信を取り戻したのか、ラフィは高笑いを始める。


「――アッハハハハッ!! そうよ……私は何を動揺してるのかしら。アッハハ……」


【絶対服従】をかけられたエメローラ達は驚愕する。


(こ、これが【絶対服従】……神の左足の力!? 今まで記憶が飛んでいたのでわかりませんでしたが、ここまでのモノとは……!?)


 ディアン達にも届いていたようで、ディアンは喉を押さえながら何とか声が出ないか試すが出ない。


(これほどのモノとは……!? これならば聖都があれほどの地獄絵図になることにも説明がつく)


(こ、声が出ない!?)


 誰もが喋れない様子にラフィは楽しげに笑う。


「どう!! これが私の力!! あなた達が馬鹿にした私の力!! 私が黙れと命令すれば全員そうなるのよ!! 思い知った? アッハハハハッ!!」


 そしてラフィは散々暴言を吐き続けたフェルトを指差す。


「どう? フェルト・リーウェン? これが私の力。わかってくれた? これができる時点で私は神同然なの! 貴方達のものさしで私を測らないでくれる? 私にはそれだけの力があるの」


 ふふんと得意げに話すラフィだが、


「まあ貴方だけは特別に許してあげてもいいわよ。同じ神物に選ばれた同士だもの。許しを請うなら、まあ……許してあげないでも――」


「は? 許しを請う? お前に?」


 ラフィはハッと驚き、フェルトを素早く見た。


「別に許してもらわなくても結構だ。そもそも俺はお前に悪いことなんてひとつもしちゃいないから、謝ることもないからな、道具」


 スラスラと言葉を発するフェルトに、【絶対服従】を知るアスベルやラフィ、聖堂騎士は勿論のこと、闘技場にいる全ての人達が驚いた。

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