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大罪の神器  作者: Teko
幼少期編
10/177

02 強欲の義眼1

 

「フェルト〜」


 フェルトを呼ぶ、少しとろくさい声が聞こえる。

 その呼びかけに応えるように振り返ると、そこにはまだ伸ばしている途中の赤髪をひらひらさせる少女の姿がある。


「おはよ、シエラ」


「お、おはよ〜」


 シエラ・カルデア。

 フェルトの幼馴染のひとりで、ヴァース村の村長の一人娘。


 シエラはフェルトの家のご近所さんでもあり、今から教会に向かうのに合流した。

 いつものようにフェルトの隣を歩くようで、ニコリと微笑んで挨拶をくれた。


 ご近所なのに置いて行ったのは白状だと思うかもしれないが、シエラは結構なお寝坊さんで、これでも待った方だ。

 そして、フェルトがある程度まで歩いていると、こうやって駆け出して合流するのだ。


「今日はいよいよ七歳の祝福の日だね」


「だな」


 シエラ達にとっては七歳の祝福の日というのは、ある一定の節目ということもあり、特別感があるようだ。

 実際は毎年と変わらないそうだが、気分的な問題だろう。


 だがフェルトにとってはかなり特別な日となる。


 ……長かった。いよいよ受け取る日が来たんだ。


 嫌でも緊張感が走る。


「どうしたの?」


 フェルトの顔が強張(こわば)っていたのか、心配そうに覗き込まれる。

 だがフェルトは緊張感を隠すように、少し歩く速度を早める。


「……なんもねえよ」


「ま、待ってよ〜」


 この片目での生活にも慣れてきて、普通に過ごせてきたが、これからは『大罪の神器』を宿し、普通じゃない生活を送るかもしれない未来がある。


 正直、不安が募る。

 シエラの落ち着いた気分にさせてくれる、とろくさい声も耳に入らないほどに。


 『強欲の義眼』が使い熟せるのか、他の『大罪の神器』はどれだけ恐ろしい存在なのか、周りを巻き込まずにできるのだろうか。

 そんなことばかり、ぐるぐると回る。


「フェルト!」


 ガシッと手を掴まれた。


「なっ!? どうした?」


「どうしたはこっち。本当に大丈夫? おばさん、待つ?」


 心ここに在らずじゃないかと、シエラは不安そうに眉を曲げている。

 普段どん臭いが、たまに鋭い時があるから侮れない。


「いや、大丈夫だ。ありがとな、シエラ」


 不意に手を引っ張られたことで、ちょっと緊張していた糸が切れたようだった。

 フェルトは感謝しつつ、シエラの頭を撫でた。


「え、えへへ」


 考えたってしょうがないし、今すぐどうこうなるわけでもない。

 イミエルも実力を蓄えろという意味で、『強欲の義眼』を渡すとも言っていた。

 猶予はあるはずだ。


 フェルトはシエラに目を覚まさせてもらうと、教会まで向かった――。


 ヴァース村の教会はかなり立派な建物。

 何せ天使が描かれた巨大なステンドグラスが飾らせているくらいなのだから。


 そしてその教会前のちょっとした広場の前に、数人の村人とフェルトの残りの幼馴染を見かけた。


「おっ、フェルト」


「よっ、ディーノ、フレゼリカ」


 短髪でキメている生意気なガキっぽそうなのがディーノ・バウア。

 黒髪に丸眼鏡の三つ編みおさげのつり目ちゃんがフレゼリカ・ノーゼン。


 フェルト、シエラを含めたこの四人でよく遊んでいる。

 というより、子供はこの四人だけだ。

 必然的にこうなる。


 男女も見事に二対二ということで、女神の運命力が発揮されたんじゃないかと思ったくらいだ。


「はあー、この面倒臭い行事も今年で最後か……」


「馬鹿言ってんじゃないわよ! 神様にこの世に生まれさせてくれたことに感謝する日なのよ。強制参加が今年までだからって、そんなこと言っちゃダメよ!」


 ディーノの発言に、フレゼリカは不謹慎だと注意する。


「それに強制参加って言っても、赤ちゃんの頃とか覚えてなかったし、三歳くらいからのやつでもぼんやりと覚えてるくらいじゃないかな?」


「シエラの言う通り。あんたの場合、去年だって覚えてないんじゃない?」


「はあっ!? 俺、そんな馬鹿じゃねえし!」


 物心がつくのが確かに三歳くらいからだとすると、シエラの言ってることはわかるのだが、初めから自我を持ってたフェルトは、もう六年も同じ光景を見させられてる。

 神父が聖書に書かれていることを読み上げ、(おごそ)かに粛々と祈り捧げるところまでで半日、この行事終了となる。


 これは割と退屈であり、フェルトは途中で寝ていた。

 七年目の今年も、『大罪の神器』が渡される年とはいえ、また寝そうだ。


「なあなあ、フェルト。フレゼリカがあんなこと言ってんだぜ? お前だって退屈だよな?」


「ああ、そうだな。確かに退屈だよな」


「ちょっと! フェルトまで何言うのよ!」


「それに生まれてきたことに感謝するなら、神様じゃなくて両親だろ? 二人がいなきゃ、俺は生まれてこなかった、だろ?」


「う……」


 中身十七歳もとい、こちらの生を合わせると二十四年生きてるフェルトが、七歳児を論破するのに手間取ることはなかった。


 大人気(おとなげ)なかったか。


「でもまあ、その両親の運命の出逢いは神様のおかげかもしれないから、感謝を捧げるのもいいかもな」


 ディーノとフレゼリカ、どちらのフォローも入れるのが、大人の対応というものだろう。

 とはいえ、十代超えたことがないフェルトは、これが大人の対応かはわからない。


「ほ、ほらー」


「ほらじゃねえよ! フェルト、お前はどっちの味方だよ!」


「ははっ。どっちもだよ。な? シエラ」


「うん。みんな仲良くだよね?」


 四人は集まれば、こんな会話をしたり、追いかけっこしたりと、現代世界(むこう)の子供と変わりない感じだ。

 勿論、テレビゲームやインターネットとかは無い。


 だが、この大自然溢れる山間の村で、伸び伸びと遊べる環境は中々贅沢だと思った。

 聖女の巡礼の影響もあり、村付近には魔物があまり出ることがないし、多少やんちゃでも下手な怪我はしない。


「はあ、じゃあとりあえずとっとと――」


 ディーノは教会の中へさっさと入ろうと、急に駆け出すと、


「危ない!」


「――おわっ!?」

「――おおっ!?」


 ディーノは神父のひとりにぶつかった。


「わ、わり――」


「このクソガキが! どこに目ん玉付けてやがる!」


「ご、ごめんなさい……!」


 そうディーノを叱りつけたのは、最近こっちに来た新しい神父のダマスというおじさん。

 悪人(づら)な挙句、子供に対してこの横柄な態度。とてもじゃないが聖職者とは思えない。


「どうされました? ダマス神父」


 その怒鳴り声にかけつけたのは、


「こ、これはこれはマルコ神父殿……」


 フェルトが生まれる前からヴァース村の教会の管理をしているマルコ神父。

 見た目はかなり若く、艶めいた黒髪はまるで女性と見間違えるほど綺麗に保たれており、立居振る舞いもダマス神父とは違い、スッとした聖職者のお手本のような姿勢と言葉遣い。


 どういう教育を受ければ、男性にも関わらずこんな綺麗に見えるんだろうか。

 ダマス神父(比べる方)がポンコツだからか?


 そのダマス神父(ポンコツ)は、言い訳しづらそうに言い(よど)んでいると、ディーノが指差して報告。


「このハゲがちょっとぶつかったくらいで、いきなり怒鳴り散らしてきたんだ!」


「なっ!? なんだと、クソガキぃ」


 これだけ聞けばただの子供の喧嘩だ。

 そもそもダマス神父の態度や言葉遣い、対応が全く大人のそれではない。


「ダマス神父」


「は、はい」


「このくらいの子であれば、やんちゃ盛りというもの。(むし)ろ、それくらい元気であることを喜ぶべきです。いけないことをして叱ることは大人の役目ではありますが、頭ごなしに叱りつけることは良くありませんよ」


「は、はい……。失礼、致しました」


 どちらかと言えばダマス神父の方が明らかに年上なのだが、そんなこと言われなくても、いい大人ならわかるはずなのだ。


 ダマス神父は恥ずかしくないのかね。


 そんな横で、ふふんと威張っているディーノにもお咎めが入る。


「ディーノ少年、君もですよ」


「はあ!? 何で?」


「ダマス神父は祭事の準備でお忙しかったのです。急に走り出したのではありませんか?」


「うっ。……は、はい」


「貴方だって急にぶつかられては驚くでしょう? 気を張っていたダマス神父が怒っても仕方ありません。今日のように人が集まる時には、走り出してはいけませんよ。ぶつかった人も怪我をするかもしれませんが、貴方自身も怪我をします。嫌ではありませんか?」


「は、はい……」


 こういうのがデキる大人というやつだろう。

 すっかりディーノが大人しくなっている。

 ダマス神父もこれができれば、マルコ神父の手を煩わせることもなかっただろう。


「さあ、お互いにちゃんと謝り、反省しましょう。そうすれば二度とこのようなことは起こらないでしょう。さあ……」


 そう言うと、二人を向かい合わせに立たせ、謝罪させる。

 自業自得とはいえ、子供と同じ扱いをされての謝罪は、ダマス神父にとっては公開処刑モノだろう。


「ごめんなさい」


「……」


「ダマス神父」


「も、申し訳なかった!」


 そう言うと拗ねるようにこの場を後にしたダマス神父だが、


「クソッ、何故ワシがこんな……」


 ぶつぶつと文句を垂れ流しながら、教会の中へと向かった。


 ありゃあ、反省してないな。


 だがマルコ神父は満足げにディーノの頭を撫でる。


「これでダマス神父とも仲良くできますね」


 いや、それはどうだろう。


 マルコ神父はフェルトが赤ん坊の頃から知っている。

 片目しかないことを両親が相談しにいくほど、信用のある人物で、今の義眼を用意してくれたのもマルコ神父だ。

 それだけマルコ神父は頼りになる人であり、村人からの信頼も厚い。

 だがこの人、かなり人が良いせいか、抱え込み過ぎる傾向にあるようで、村長が少し抑えるよう、村人に注意するほどだった。


「皆さんも。人がたくさんいる時は走ってはいけませんよ。この広場が使えるようになれば、怪我をしない程度に走って遊んでも良いですからね」


「「「「はーい」」」」


 フェルトも子供なので、同じように返事をしておく。

 するとマルコ神父は、フェルトに目線を合わせるように腰を落とす。


「フェルト少年。その片目はどうですか? どこか不自由はありませんか?」


「は、はい。大丈夫です」


 会う度に心配されている。

 しつこいとは思うが、これもマルコ神父なりの優しさだと理解している。


「そうですか。何かあれば、言って下さいね」


 そう言ってマルコ神父はフェルト達の元を離れ、教会へと入っていく。


「やっぱりマルコ様はしっかりしておられるわね」


「だな。ダマス神父に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいだな」


「爪の垢?」


 言ってることがわからないと、シエラとディーノは首を傾げる。


「マルコ様を見習い、あやかるよう心がけるってことよ。まったくその通りだわ」


 フレゼリカはわかっているようで、ダマス神父の印象がフェルトと一緒だったのだと語る。


「同じ神父なのにな」


「へっ。あのハゲ。どうせ自分が偉ぶりたくて神父にでもなったんだろうぜ」


「そんな簡単なもんじゃないわよ。……多分」


 フレゼリカが自信がなく返答するのには納得がいく。

 ダマス神父がどうやって聖職者になったのか、皆目検討がつかない。


 だがもうひとつ疑問があった。

 それはマルコ神父が神父のままであること。


 聖職者の階級の上がり方を詳しくは知らないが、優秀であるマルコ神父が神父のままというのも気にかかった。


「ほら、貴方達」


 するとシスターのひとりが話しかけてきた。


「そろそろ中へ入りなさい。始まりますよ」


「「「「はーい」」」」


 何やら一悶着あったが、ついに七回目の祝福の日の祭事が始まる――。




 やっていることは毎年のことで、いつもと変わらない。

 聖書を祭事の際に読み上げるところを長々と読んでいく。

 フェルトを含む各時は、親御さんと一緒に座り、その言葉を聞くのだが、もう子守唄にしか聞こえない。


 フェルトは一番後ろの席で聞いているせいか、周りの様子が見渡せる。

 ディーノは元冒険者である父とうとうとしているのが確認でき、同じく眠そうにこくこくしているシエラは、村長にそっと起こされての繰り返し。

 フレゼリカは真面目な性格が顕著に現れており、姿勢を正して真っ直ぐに、聖書を読み上げているマルコ神父を見ている。


 シスターのふたりとダマス神父は脇に立っている。

 シスター達は目を閉じ、静かに聞き入るような振る舞いをとっているが、ダマス神父はあくびをする始末。


 いくら暗くて見えにくいからと、油断しすぎではないだろうか。

 眠くて面倒な気持ちは嫌というほどわかるが、仮にも聖職者であるダマス神父(あなた)はしっかりすべきだろう。


 そして数時間にわたる聖書の読み上げを終えると、マルコ神父がフェルト達が座る席側を向いた。


「では皆様、この世に生まれてきたことを神に感謝致しましょう。祈りを……」


 フェルト達は目を閉じ、祈りのポーズをとる。

 例年通りなら、ここで数分の祈りを捧げて終わりなのだが、


「な、なんだ?」


 何やらステンドグラスから光がどんどん増していくのを周りの皆が気付き始める。


 周りが騒つく中、


「み、皆様! どうか落ち着いて……」


 マルコ神父が落ち着くよう促すが、次の瞬間――、


「うわあっ!!」


 ビカッと辺りが一瞬光で埋め尽くされたかと思うと、何やら祭壇の十字架のてっぺんから何かが降りてくる。


「何だ? あれは……」


 それは球体の何かだった。

 フェルトは知っている。『強欲の義眼』だ。


 その眼球はまるで神物であるかのように、ゆっくりと降りていく中、


 ――こんな演出要らねーから、さっさと寄越せよ。


 フェルトがそう思っていると――、


「――まあそう言わないで」


 イミエルの声がしたかと思ったら、フェルトは狭間の空間にいた。


「イミエルか?」


「はい。大変長らくお待たせしました」


「いや、待っちゃあないけどな」


 正直、『大罪の神器』の回収なんて、しないに越したことはない。

 ぶっちゃけ物騒だ。


「……『強欲の義眼』の能力や『大罪の神器』の特性、改めて説明は必要ですか?」


「いや、大丈夫だ。あんな衝撃的能力、忘れようと思っても忘れねえよ」


「それでは貴方に託します。そして、他の『大罪の神器』の回収をお願いします。回収できたものから、近場の教会の祭壇に捧げて下さい。そうすれば私が回収し、調整を施します」


 『大罪の神器』の中に閉じ込められてる怨霊の類の始末だろう。


「ん? てことは、俺が使えるようにもするのか?」


「はい。そのつもりです」


 『強欲の義眼』は俺のみに装備できるよう、イミエルが調整を行なっている。

 他の『大罪の神器』も可能だろう。


 だが個人的には二つ以上身につける気はないが、


「まあ他の連中に誤って装備されるよりはマシか」


 フェルトが身につけるようではなく、これ以上利用されない手段として有効だと思うことにした。


「ではお願いしますね」


「そりゃあ、こっちもな。何かあったら相談に来る」


「はい!」


 イミエルがパンっと手を叩く。


「なっ!?」


 フェルトの意識は再び教会に戻ってきた。

 そして――、


「……」


 ゆっくりと『強欲の義眼』はフェルトの前に進んでくる。


「フェルト……」


 フェルトの元に近付いてくる義眼に怯えているのか、一緒に来ていたオリーヴがしがみつく。


「大丈夫だよ、母さん」


 そう大丈夫だ。

 これはフェルトがイミエルより授かった役目なのだから。


 そして『強欲の義眼』はフェルトの手元に落ちた。

 それを恐る恐る覗くオリーヴは一言。


「が、眼球……!?」


 かなり精巧に作られた義眼なせいか、本物と見間違い、フェルトに強くしがみつく。


「い、痛い痛い、母さん。これ、義眼だから……」


「へ? 義眼? これが……?」


 本当に義眼なのか確かめようと、母が触れようとした時、


「母さん! ダ――」


「素晴らしいっ!!」


 フェルトの手元からパッと『強欲の義眼』が消えた。

 消えた原因の方へ向くと、そこにはダマス神父がいた。


「これは素晴らしい!! これほどまで精巧に作られた義眼は初めて見る……!!」


 これは奪った判定に入るんじゃないかと思ったが、ダマス神父は手袋をしている。

 直で触らなければ、『強欲の義眼』の判定には入らないようだ。


「ちょっ、ちょっとおじさん!」


 フェルトは浮かれているダマス神父に話しかけるが、まるで聞く耳を持たない。


「そうだ……これが、これがあれば……ワシは再び返り咲ける……」


「おじさん! 返せよ!」


 フェルトは取り返そうとダマス神父を掴むが、


「――うるさい! ガキはすっこんでろ!」


「があっ!?」


「フェルトっ!?」


 フェルトは突き飛ばされた。

 するとダマス神父はニタニタ笑いながら、『強欲の義眼』を見せびらかしながら、まるで自分の物のように語る。


「いいか? これはお前のようなガキにはもったいない代物なんだ。これはワシが丁重に預かって――」


 そのダマス神父の御高説を簡単に振り払うように、マルコ神父が取り上げる。

 マルコ神父は祭事から手袋をしていたので、こちらも干渉されてないようだ。


「なっ!? 貴様ぁ……」


 そこには今までに見たことがない、険しい表情をしたマルコ神父がいた。


「ダマス神父。これはどういうつもりか」


「い、いや、これは……」


 マルコ神父はフェルトから『強欲の義眼』を奪ったこと、俺を突き飛ばしたことを問うように、ギッと睨んでいる。


「フェルト少年に授けられた神物を奪っただけではなく、片目しか見えぬ子供を突き飛ばすとは何事ですか! 恥を知りなさい!」


 周りの大人達やディーノ達も同意見であるようで、ダマス神父に嫌悪の視線が集まる。


「し、しかしマルコ神父。それは明らかに神が与えたもう神物。それをこのようなガキ……いや、少年に渡すというのは如何なものかと……」


「貴方のその(まなこ)には映りませんでしたか? この神物は確かにフェルト少年の手元まで運ばれました。これは神様が片目にしか光を与えられることが許されなかったフェルト少年への慈悲です。これは彼にこそ持っていることが相応しい物なのです」


 そう言われると誤解だとわかっているフェルトは、騙している気分になる。


 本当はイミエルから渡されることを約束してただけなんだよね。


 するとマルコ神父はフェルトに『強欲の義眼』を返してくれた。


「良かったですね、フェルト少年。神物の義眼ということですから、きっと神からの祝福があることでしょう」


「あ、ありがとうございます」


「ですが身につけるのは、応相談しましょう。身につけるには人の手に余る可能性があるので……」


 『強欲の義眼』は確かに人の手に余る力だろうが、フェルトはこれを身につけて、他の大罪の神器に対応しなければならない。

 少なくとも持っているだけでも、『大罪の神器』と遭遇しそうだ。

 こういう物ってのは、引き合うって言うからな。


「マルコ神父! その神物は我々で管理すべきです! どうかお考え直しを……」


「くどいですよ、ダマス神父」


 ダマス神父は諦める様子など一切なく、何としてでも手に入れたいようで、マルコ神父をとりあえず言いくるめようと必死だ。


 明らかにダマス神父は私欲で欲していることが目に見えていた。

 あの状態で『強欲の義眼』を身につければ、ダマス神父は死ぬだろう。

 そういう仕様だって、イミエルからは聞いている。


「フェ、フェルトっ!!」


 いくらダマス神父がろくでなしでも、さすがに死んでしまうのは忍びないと思うフェルトは、


「き、貴様っ!!」


「フェルト少年!!」


 マルコ神父が用意してくれた義眼を引き抜く。


「ぐうっ」


 子供がいくら義眼とはいえ、目の前で眼球を引き抜く光景は大人でさえ肝を冷やすだろう。


 そしてフェルトは『強欲の義眼』を少し見つめた。

 できればもう少し覚悟ができてから身につけたかったが、『強欲の義眼(これ)』に直触れしてダマス神父がここで死ぬよりはマシな光景だろうと、『強欲の義眼』を装備した。


「これで諦めてくれる?」


「き、貴様……!」


 するとマルコ神父がフェルトに詰め寄る。


「フェルト少年! 大丈夫ですか? 異常はありませんか? どこか痛みませんか?」


 フェルトがした行動より、その身を案じてくれた。


「は、はい」


 怒られると思っていたフェルトは、面食らった。

 するとマルコ神父は心配するように手を優しく握ってくれた。


「それなら良いのです。本当に良かった」


 いくらフェルトに渡された物とはいえ、かなり心配してくれたようだ。

 すると今度はオリーヴが抱きついてきた。


「フェルト! あまり心配かけるようなこと、しないで!」


「ご、ごめんなさい、母さん」


「リーウェンさん、これは息子さんのせいではありません」


 すると再び険しい表情でダマス神父を見ると、


「彼が神物を我らが預かるべきだと、言い続けたのを見越してとった行動でしょう。謝るべきはわたくし達の方です。本当に申し訳ありません」


 マルコ神父は、フェルト達に深々と頭を下げて謝罪した。


「い、いえいえ。こちらこそ、息子が勝手な行動をしまして……」


「いえ。勝手はこちらの方です。ダマス神父にはキツく言っておきますので、どうかお許し下さい」


 さすがのダマス神父も周りの視線に、フェルトがとった行動、おそらくは上司でもあるマルコ神父がここまで言っていれば、黙るしかなく、


「くっ……!」


「ダマス神父!」


 その場を逃げるように、奥へ引っ込んだ。

 するとマルコ神父は再び、本当に申し訳ないと謝罪すると、


「皆様、此度の祭事はここまでとなります。お騒がせしまして、本当に申し訳ありませんでした」


 マルコ神父と共に、シスター達もペコリと頭を下げた。


「そして皆様、今回の件についての口外をどうかお控え下さいますよう、お願い致します」


 神からの天啓、神物が納められたと目視でもわかることをされた。

 公になれば、大騒動だろう。


 何よりフェルト達が酷い目に遭う可能性がある。

 そこを考慮してのことだろう。


 それを理解してか、祝福の日の祭事参加者はわかったと返事をしてくれた。


「リーウェンさん、旦那様は?」


「主人でしたら、そろそろ一度家に戻ってくると思いますが……」


 ケリングは現在、仕事で森の木々を確認中。


「わかりました。呼んできては頂けませんか? 息子さんについてお話しましょう。勿論、奥様も……」


「わ、わかりました。フェルト、マルコ神父様と一緒にいるのよ?」


「はーい」


 どうやらケリングに事情の説明と、今後のことについて三者面談ならぬ四者面談が行われるようだ。

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